「ワケあって僕たち間もなく絶滅します」ライオン・トラ・象・キリン・ゴリラはいま地球に何頭いますか?

いま、多くの野生動物が絶滅の危機に瀕しています。

世界自然保護基金WWFによれば野生動物の数は1970年以降、推計で6割近くが減少したという報告です。

 

その原因は生息域の浸食、狩猟と取引、環境汚染や地球温暖化による気候変動など人間の経済活動によるものとみられています。

人間のせいで、子供たちの大好きな野生動物の多くが、近い将来地球から姿を消してしまうかもしれません。

 

野生のライオンやトラや象やキリンやゴリラは、いまどのくらいの個体数が地球に生息しているのでしょう?

数億頭でしょうか、数千万頭でしょうか、それともわずか数十万頭でしょうか?

 

なんだか心配になってきて、いろいろなレポートから最新の状況を調べてみました。

 

ライオン 絶滅危惧種

 

ライオンの雄

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

世界のライオンの生息個体数は数万頭と推定されています。

野生動物の王者といわれるライオンは、IUCN (国際自然保護連合)の絶滅の恐れのある動物リスト(レッドリスト)において、絶滅危惧種に指定されています。

 

ライオンはアフリカとインドに棲息していますが、その頭数は調査が困難で、推定も異なります。

インドでは野生のライオンは二カ所の森林でしか目にすることがなく、その頭数はわずか320頭と言われています。

 

アフリカにおけるライオンの野生個体数は、2002~2004年の時点で16,500~47,000頭という推定数字があります。

1950年には10万~40万頭が棲息していたとされていますから、わずか50年で15%にまで激減したということになります。

 

野生のライオンが激減した主な理由は、ライオンの生息地が人間の手で浸食されてライオンの餌が少なくなっただけではなくて、腹を減らしたライオンが家畜を襲い、人間によって殺されるという悪循環があげられています。

また人間の生活圏に迷い込んだライオンが車や列車にひかれたり、銃で打たれたりする事故が増えていることも理由として指摘されています。

 

最新の情報ではインドライオンの最後の生息地である「ギル野生生物保護区」の個体数が600頭以上に回復したという朗報がありますが、一方西アフリカ11カ国のライオンはわずか250頭になったという衝撃的な調査報告もあります。

 

世界の動物園にはアフリカ産が1,000頭、亜種であるインドライオンが100頭いるとされています。

ライオンは動物園でしか見られないときが近づいているのかもしれません

 

トラ 絶滅危惧種

 

トラの親子

 

 

 

 

 

 

 

トラの生息数はわずか3890頭です。

世界自然保護基金(WWF)が2016年4月13日に発表した調査報告によりますと、主にインド、ロシア、ネパールでの保護活動が実を結んで2010年に3200頭だった世界の野生のトラの個体数が3890頭に増えたと伝えています。

 

3890頭という詳細な数字が報告されたのは、生物多様性保全の権威である国際自然保護連合(IUCN)の委嘱調査だったからです。

世界のトラの2/3が棲息するインドでは、1706頭から2226頭に増えたトラのおかげで保護区の観光事業が成功モデルにされたという朗報もあります。

 

しかしわずか3890頭では依然として絶滅危惧種であることになんら変わりはないのです。

 

象  準絶滅危惧種

 

ゾウの親子

 

 

 

 

 

 

 

陸棲では最大の動物である象の生息数はどのくらいでしょうか?

1995年調査による推定では世界全体で93~108万頭とされています。

 

現在の推定ではアフリカ象が45万頭、アジア象が5万頭。

合わせて50万頭と推定されています。

 

アフリカ象

1930年ごろ、アフリカ大陸にはおよそ500~1,000万頭のアフリカゾウが生息していました。

しかし2013年現在はその10%以下、およそ45万頭しか残っていません。

 

密猟が危機的なペースで増えていて、アフリカゾウの出生率よりも密猟率のほうが高くなってしまっていることが原因とされています。

現在、アフリカ大陸では年間を通して約1割のアフリカゾウが密猟の犠牲になっているのです。

 

ある報告では、アフリカにおける密漁で殺された象の割合について、監視地域でみつかった象の死体の50%以上が密漁によるものであったとされました。

“このままのペースで密猟が続けば、今後10~20年の間にアフリカゾウが絶滅してしまうのではないか”と危惧されています。(NPO「アフリカ象の涙」より)

 

アジヤ象

2000年の推定では3万5000頭から5万頭の生息数です。

20世紀初頭、アジヤ各地にはおそらく10万頭の象が棲息していましたが、それ以降半滅したと考えられています。

ナショナルジオグラフィック”絶滅”号は、アジヤ象も象牙や肉、皮を目当てにして、また農作物を荒らす報復としていまも人間に殺されていると報告しています。

 

ゾウの真の脅威は密漁であり、人間なのです。

 

キリン 絶滅危惧種(危急種)

 

2頭のキリン

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キリンの棲息数は推定で9万8000頭です。

最近まで、キリンがアフリカのサハラ砂漠より南の地域で絶滅に向かっていることが認識されていませんでした。

 

IUCNの2016年発表によりますと、生息地のアフリカではこの30年間でキリンが4割近く減少し、現在の生息数は9万8000頭とされました。

1700年代には100万頭以上いたキリンが、2016年に絶滅危惧種の中の「危急種(絶滅の危機が増大している種)」に仲間入りをしてしまいました。

 

2019年9月発行のNATIONAL GEOGRAPHIC 「絶滅」号によりますと、人間の構築物であるフェンスや道路による棲息域の分断、森林の伐採、内戦、密漁がキリンを脅かしていると言っています。

 

象やシロサイなどの減少に注目が集まる中で、「キリン保全団体」(GCF)はキリンの現状を”静かなる絶滅”と呼んでいます。

キリンは声を発することがまずありません。

 

人間の耳に聞こえる方法では仲間と意志の疎通を行わないのです。

象のように低周波音を出しているという考えもありますがまだ実証はされていません。

 

声を発しないキリンの現状はまさに「静かなる絶滅」といえるかもしれません。

 

ゴリラ 

 

ニシローランドゴリラ 近絶滅種

マウンテンゴリラに比べて少し小型のニシロ-ランドゴリラの生息数は15万頭から25万頭といわれています。

36万頭を越えるという別の調査報告もありますが、カメルーンや中央アフリカ、赤道ギニア、コンゴ、などの熱帯雨林に棲息するニシローランドゴリラは絶滅の危機に晒されているのです。

 

人間の行う森林伐採が彼らにとって二重の脅威となっています。

生息地が破壊されるだけでなく、労働者が肉を食べるために捕獲するというケースも報告されているのです。

 

ニシローランドゴリラは IUCNのレッドリストによる危機の評価は近絶滅種です。

マウンテンゴリラに比べれば個体数が多いのは事実ですが、正確な生息数を推定することは困難とされています。

 

マウンテンゴリラ  絶滅危惧種

 

マウンテンゴリラ
リーダーの威嚇
(ナショナルジオグラフィック)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マウンテンゴリラの推定個体数はWWFの最近の発表によれば880頭です。

2010年に推定されていた781頭より増加した朗報としていますが、880頭という寂しい数字は「絶望的」としか表現ができません。

 

マウンテンゴリラはローランドゴリラよりも体毛が長く、腕が短いが体格は少し大きめです。

480頭がコンゴ民主共和国のヴィルンガ国立公園に生息し、400頭がウガンダのブウィンディ国立公園に生息しています。

 

この二つの国立公園以外には世界のどこにも生息していないのです。

ヴィルンガ国立公園では密猟者や反政府武装勢力からゴリラを守るレンジャー隊が活躍しています。

 

またブウィンディ国立公園ではウガンダの野生生物局が国際ゴリラ保護プラグラムを組んで保護活動を進めています。

今回わずかでも個体数の増加が見られるのは保護活動のおかげとされていますが、国立公園の開発を進める計画や、密漁の危険から安全になったわけではありません。

 

人間の社会に例えれば、880という個体数は小さな集落の一つにしか過ぎないのですからね。

いつ消え去っても不思議ではない個体数なのです。

 

最後に

 

キタシロサイ最後のオス
スーダン

 

 

 

 

 

 

 

2018年3月20日、ケニアのオルベジェタ自然保護区でキタシロサイの最後のオス「スーダン」がなくなりました。

一つの種の生命が消えたとき、残されたのは二頭の孫娘とスーダンの精子だけです。

 

人工授精の計画があるので希望が消え去ったわけではありません。

しかし一つの種の継続のためには若い300の個体数が必要という学説があります。

 

キタシロサイという生命の輝きは、おそらく二度と帰ってこないのです。

地球がゾウやサイなど野生の生命の輝きを失うとき、その原因を作った人類はどうなるのでしょう?

 

ナショジオ”絶滅”号はスーダンの死をつぎのように伝えています。

サイは何百万年も続く複雑な生態系の一部であり、その存続は人類の存続と密接にかかわっている。野生動物がいなくなれば、私達は想像力を失い、感嘆する心を失い、輝かしい未来を手放すことになる。自分を自然の一部と見れば自然保護が自分自身を守ることだと理解できる。

スーダンがそれを教えてくれた。

 

(おわり)

 

関連記事をお読みください。

ワケあって僕たちまもなく絶滅します②」チンパンジー、チーター、カバ、ホッキョクグマ、パンダはいま地球に何頭いますか?

クイズ!地球の哺乳類を4つに分類「人類、野生の哺乳類、ペット、家畜」個体数の多い順番は?

 

【記事は無断転載を禁じられています】

 

この世の果ての中学校19章 “ホラーの広場”

  カレル教授が実験室から失踪して1週間がたったとき、血糊の付いた教授のハットが発見されて、教室は大騒ぎになった。

 

 前の章の話はここから読んでくださいね。

 この世の果ての中学校18章 “カレル教授が実験室からさらわれた”

 

この世の果ての中学校19章”ホラーの広場”

 金曜日。まるで元気のないハル先生が宇宙の方程式の講義をなんとかやり終えたあとの昼休みのことだ。

「ペトロ、ちょっと相談があるの」

マリエが慌てた様子で、ペトロの席にやってきた。

 

「これ見てくれる?」

マリエが上着の裾から取り出したのは、見覚えのあるハットだった。

 

「それって、カレル先生の帽子じゃない?」

 ペトロは震える手でハットを受け取る。

 

 カレル教授は今週の月曜日から姿がみえない。

 校長先生をはじめ生徒たちのパパやママが三班の捜索隊を編成して、ドームの隅々や、黄泉の国まで出かけて探し廻ったが、その姿はかき消えていた。

 

 カレル先生は幽体で、とても高齢だから、特殊魔法瓶の中で休まないと疲れが取れずにどんどん衰弱していく。

 恋人のハル先生はすっかり元気をなくしていた。

 

 今日の授業も、ハル先生は宇宙の方程式の講義を途中でほったらかして、ぼーっと校庭を眺めているばかりだった。 

 そんなときカレル先生がいつも被っている大事のハットが見つかったのだ。

 

「カレル先生の帽子がどうかしたって?」

 ひそひそ話を聞きつけた裕大が、二人のそばに飛んできた。

 

「これ、カレル先生の帽子みたいなんだ。マリエがどこかで見つけたんだ」

 ペトロが裕大にそう言ったらマリエが首を横に振った。

「私が見つけたんじゃないの。この帽子が廊下を歩いて私の所にやってきたの。なんてこと・・・ちっちゃなゴルゴンが先生の帽子を被って歩いて来たのよ」

 

 「それに、これ見てくれる?」

マリエが声を潜め、ペトロの手の中にある帽子をひっくり返して、ひさしの裏側を指さした。

 そこにはグレーの生地の上に爪でひっかいたような文字が、赤くかすんで浮かび上がっていた。

 

《ホラーの広場》

裕大とペトロがゆっくり読み上げた。

 
「これ、カレル先生からのSOSだ。赤いのは・・・多分先生の血!」

 ペトロの声がかすれ、裕大の顔から血の気が引いた。

 

 帽子のリボンが茶色い土でべっとりと汚れている。

 ペトロが指で触れてみると土はたっぷり湿っていた。

 

 ・・・このあたりの地上には、湿った土はない・・・ 

 ペトロのシノプスがつながって、ブーンと回転を始める。

 

 ペトロの推理がセリフになってはき出されてきた。

「間違いないよ!先生は地下に潜んでるホラーにさらわれたんだ。湿った土は水脈のある地下のどこかのものだ。捕らえられて動けない先生がゴルゴンを見つけてこっそり頼んだ。自分の血でSOSを帽子に書いて、マリエに届けるようにだ」

 

 ペトロがしばらく考えこんでから、マリエに尋ねる。

「マリエ、ゴルゴンはどこから地上に出てきたと思う?」

 

「ほら、いつも出入りしてる校舎の廊下の破れ目だと思う。きっとホラーのいるところと地下道で繋がってるのよ」

 三人は同時に立ち上がった。

 

「僕がハル先生に報告してくる。そのあとカレル先生を捜しに行く・・・全員! 廊下の破れ目で集合!」

 声を張り上げると、裕大は猛烈な勢いで教室を飛び出していった。

 
 ペトロとマリエも裕大の後を追ってかけだした。

 廊下の破れ目で立ち止まって穴に近づくと、破れ目からかすかに湿気を含んだ風が吹き上げてきて、二人の頬をなでた。

 

「ゴルゴン、そこにいるの?」

 マリエが暗闇をのぞき込んで、小声で言った。

 返事がなくて、代わりに二つの小さな目が信号みたいにチカチカ光った。

「ゴルゴンが待ってくれてる。地下道をカレル先生の所まで案内するから、早くしろよって!」

 

マリエの声に合わせたように、廊下の向こうからバタバタと走る音が聞こえた。

裕大がナノコンを抱えたハル先生を片手で引っ張って、まるで宙を飛ぶようにやってきた。

 

どんと二人の前に着地したハル先生が、息を弾ませてマリエに叫ぶ。

「マリエ、そ、そのハット見せて!」

 マリエがあわてて差し出したハットを先生は受け取って、土で汚れたリボンを外して調べた。

「間違いないわよ、このリボン、カレルの自慢のネクタイで作ったの。これって、私がカレルと婚約したときプレゼントしたハットよ。世界で一つしかないの」

 ハル先生はプレゼント用のハットを買った時に、オリジナルのリボンを作ろうと思った。

 山ほどあるカレル先生のネクタイのコレクションから、思い出の一本を選んでリボンに仕立て直して、ハットに巻き付けた。

 

 できあがったのは、世界でたった一つしかないハットだった。

 

 ハル先生はカレル先生と婚約していた秘密を喋ったことに気が付かない。

 

 二人が婚約していたことは遠い、過ぎ去った日の二人だけの秘密だった。

 ハル先生はハットを裏返して、カレル教授の血で書かれた文字を見つめた。

 

 《ホラーの広場》

 ハル先生は昔、実験室で仲間を襲った悲惨な事故を思いだした。

・・・私や仲間はあのときカレルに助けを求めた。今はカレルが助けを求めている・・・

 ハル先生の手が震えて、手の中のハットが揺れた。

 

 ハル先生はいきなりしゃがみ込んで、ナノコンを抱えたまま廊下の破れ目からゴルゴンの待つ穴の中に入ろうとした。

 ナノコンは破れより横の幅が大きすぎて、穴の端につっかえてどうしても入れない。

 

 ハル先生はナノコンを置いていくわけにはいかなかった。

 先生は、抱えているナノコンから放射されるホログラムで姿と形を作っている。

 ナノコンはハル先生そのものだったからだ。

 

 そのことを知っているペトロが、慌てる先生を必死で止める。

「ハル先生、落ち着いて! 僕たちがカレル先生を助けに行ってきますから、先生はここで待っていて下さい」

 

 匠が校庭でお喋りしていた咲良とエーヴァを呼びに行って、三人そろって駆けつけてきた。
 カレル先生がホラーにさらわれたことを聞いて、咲良が目をむいて怒った。

「ホラーが学校の地下にまで手を伸ばしてきたのね。ママのファンタジーアでは大目に見てあげたのに、カレル先生に何するつもりよ。許せません。とっ掴まえて、三界から追放してやる」
 

 咲良が腕まくりして叫んだ。
「さー、みんな、行くわよ!」

「待ちなさい! 咲良、その前に計画に伴う危険を確かめてみます」

 ハル先生が冷静さを取りもどして、ナノコンで行動計画のリスク計算を開始した。

 ナノコンがカタカタいって演算が開始された。

 答えはすぐに出た。

 

 十進法で、6ー6=0

「全員でホラーと戦ってはだめです。誰も帰って来なかったら人類は全滅します。校長先生とヒーラーおばさまにお願いして、カレル先生を助けに行って貰います」

 

 ホラーを熟知している咲良が、口をとがらせてハル先生に反論した。

「それはだめです。校長先生もヒーラーおばさまもホラーの暗闇に入ってはなりません。黄泉の国との通い人には暗闇のホラーは見えません。ホラーは暗闇を怖がる生き人にしか姿がみえないのです。そのうえハル先生は体が軽すぎてとてもホラーと戦えません。私達が助けに行かないとだめなのです」

 

「それならペトロ、俺たち二人でカレル先生を助けにいこうぜ。これで決まりだ」
 生徒会長の裕大が決めた結論に、黙って聞いていた匠が怒った。

「俺を外すな!」

 

 ペトロが横から割り込んで匠に告げた。

「男全員の三人はだめだよ。二人までだ。先輩、理由は分かるよね。そのうえ敵はホラーときた。ホラー相手なら匠より僕が上だよ」

 

 匠が下を向いて諦めると、咲良が腕まくりをして叫んだ!

「ホラー退治に、私は絶対外せないわよ!」

「咲良、悪いわね。私でないと、ゴルゴンに案内させてカレル先生のところに行き着けないわよ」

 言い捨てるとマリエはさっさとゴルゴンの待つ穴に入っていった。

 

「こらマリエ、出てこい!」

 咲良が叫んだときはもう遅かった。

 

「そこまで!」と、ハル先生が言って人選が終わった。

 

 それから、ハル先生は裕大を呼んだ。

「裕大、いまから渡す武器でホラーをやっつけなさい! それから・・・みんなはもう私の正体を感づいていると思うから、驚かないでね」

 そういってハル先生は左手で、自分の右腕の手首から先を取り外すと、左手でトントンと手袋の形に変えて裕大に手渡した。

「これは私のナノコンと無線で繋がっている多機能ハンドです。懐中電灯兼通信機器兼武器。ボタンは三つ。手前から順に、黄色は懐中電灯、真ん中の青は連絡用スマホ、先端の赤を押すと強い放射光が発射されます」

 

 ハル先生は多機能ハンドを裕太に手渡しながら、そっと忠告をする。

「暗闇に住むホラーは強い光を嫌がります。私は研究所時代にゲノムのホラーに襲われたことがあります。人間に怨念を持っているホラーには特に気をつけて下さい。生身の人間に出会うと、興奮して視覚細胞が真っ赤に充血してくるからすぐ解ります。裕大、あなたがリーダーよ。常に私と連絡を取ること。決して無理はしないこと。危なくなったらすぐ引き返すこと。いいわね。それとペトロにお願い・・・できたら私のカレルを連れて帰って来て欲しいの」

「了解!」ペトロが即答した。

 裕大は、ハル先生の右手を受け取って、自分の右手の上に慎重に重ねて嵌めた。

 

「さー、行くわよ!」

 マリエが穴の中から促して、裕大とペトロが頭から飛びこんでいった。

 

 トンネルの薄闇の中、三人を先導してゴルゴンが走る。

 道が枝分かれしているところにやってくると、ゴルゴンは立ち止まって地面の匂いをかいだり、頭を持ち上げて、風の方向や湿気を感じたりしている。

 

 マリエがゴルゴンのお尻をときどき叩いて、早く決めなさいと急がせている。

 ペトロが真似をして前を行くマリエの可愛いお尻をときどき叩いた。

 

 マリエが振り向いてペトロのほっぺたをパチンと叩いた。

 最後尾を行く裕大が、吹き出しそうになるのをぐっとかみ殺しながら、懐中電灯でみんなの足下を照らしだしていく。

 

 三人と一頭の救助隊が囚われのカレル教授の救出に向け、着実に前進していく。

 

「裕大は咲良ちゃんと婚約してるの?」

 ペトロがいきなり裕大を振り向いて、マリエに聞こえないように小声で聞いた。

「当たり前だろ!」裕大が平然と答える。

「少し早すぎない?」

「ペトロも勉強不足だな。歴史をよく見ろ。動乱の時代は婚約や結婚は早めにしておくもんだぞ」

「どうして?」
「敵はいっぱいいるのに、結婚相手は少なくなるからだよ」

「ふうーん?」
 ・・・敵っていったい誰のことだ?・・・

 

 考え込んだペトロの前方に、灯りが見えてきた。

 地下水がごうごうと流れる音が聞こえる。

 

 ゴルゴンがぴくりと耳を立て、後ろ足で立ち上がる。

 行く手になにかが動く気配を感じて「チチッ」と口から警戒音を発した。

 

 三人は目的地が近づいたことを知った。

 暗いトンネルが終わり、薄明かりに包まれた広場が現れた。

 

 広場のそばには、轟音を上げて川が流れている。

 それは、ペトロにはとても不思議な光景だった。

 

 地上にはこんなに水の豊かな川はなかった。

 大地の方々で地下に潜り込んだ水脈が、時間をかけて一本に集まっているようだった。

 

 急な川の流れから飛沫が空中に飛び散って霧になり、広場の地面や切り立った奥の壁や、洞窟の天上にまで舞い上がっている。

 霧がまき散らす水滴のおかげで、地面や壁や天上にこげ茶色の苔が厚く密集していた。

 
・・・これ、食料として改良できそうだ。サンプル採集しとこうっと・・・

 ペトロは近くの苔を一むしりしてティッシュで包んで大事にポケットに収めた。

 

 苔の中には赤い光を発しているものがあって、壁や天上の数カ所に集まっていた。

 そのため、広場にはぼんやりとした明かりのスポットがいくつも作り出されている。

 

 広場の中央で無数の黒い影がゆっくりとうごめいている。

「あ、あれがホラーの広場!」裕大が声の震えを必死に抑えた。

 

「ホラーにアンデッドまでいるわ。みんなとても怒ってる!」

 マリエが囁いた。

 

「アンデッドって何者?」

 声を潜めてペトロが聞く。

「言葉通りよ。死んでも、死にきれない者たち。肉体を失っても、怨念を抱えてさまよう魂」

 マリエが胸の前で十字を切った。

 

 己の身の不幸を嘆いてすすり泣く声が、風に乗って聞こえてくる。

 三人は広場の側に小さな窪地を見つけて身を隠し、そこから広場の様子を窺うことにした。

 

 ゆーらり、ゆらりと、かすかな風に揺れながら、人間の形をした者達が数人、広場の中央に集まって立ち話をしている。

 恨みを晴らすまでは、死んでも死にきれない人間たち、アンデッドの集会だった。

 

 アンデッドの群れの周りでは、いろんな動物の姿をした異形の者たちが、地面に座り込んで、自らの形が崩れないように毛繕いをしたり、細いくちばしで姿を整えたりしている。

 大きな角を持った鹿に、大小二種類の熊、野生の猿に猪、人間に飼われていた牛に豚に鶏たち。

 

 異形の者たちはいつも形の手入れをしていないと、すぐに醜くゆがんでしまう。

 葉っぱや根っこに果実、エサになる川や池や海の魚、命を支える食料を失い絶滅した動物のホラーたちだった。

 

 広場の突き当たりは、苔むした岩が高い壁となってそびえ立っている。

 岩壁の表面には様々な動物たちの姿が描かれていた。

 

 壁に密生した苔を削り取って、浮かび上がるように描き出された動物たちは、いまにも壁から飛び出して、広場を走り回りそうだ。
 

 巨大な一枚の岩に、見事な壁画があった。

 

 数頭の大鹿の群れが軽やかに跳躍を繰り返している。

 後方からは上半身裸の逞しい人間たちが、槍を掲げて鹿を狙っている。

 

 捕食者と被捕食者の間に繰り広げられる、戦いの一瞬を切り取った見事な構図。

 「これが俺様の本当の姿だ。どうだ、美しいだろう。俺様の作品だ」

 槍を大きく構え、見事に盛り上がった胸を、近寄ったアンデッドの一人が誇らしげに撫で上げた。
  

 数頭の鹿のホラーが壁画の大鹿に近づくと、身体を形取っている壁のこけを上手にかじり取って、肉体の凹凸を際立たせていく。

 

 彫像が完成すると、ホラーたちはうなり声を上げて、それぞれの守り神に祈りを捧げる。
 

 ホラーの祈りに応えて、アンデッドたちが戦いに向かう咆吼を上げた。 

 

「なにかの・・・儀式が始まるわよ!」

 マリエがペトロの耳元で声を震わせた。

               
 洞窟に鬨の声が響き渡り、岩壁の壁画がじわりと動いた。

 壁画の人間たちが身体を反らせ構えると、一斉に壁の大鹿に向かって槍を投げた。

 

 大鹿は狩人を振り返ると、逞しい四肢で地面を蹴り、空に舞う。

 槍の攻撃を軽々と躱した大鹿は、小馬鹿にしたように一声「ヒョーン!」と鳴いて、槍の届かない洞窟の天井に逃げていった。

 

 アンデッドたちが悔しそうに天井の大鹿を見上げ、動物のホラー達は身体をくねらせて笑った。

 

 騒ぎは収まり、地下の広場でアンデッドの集会が始まった。

 

 広場の中央に横長の祭壇と朱塗りの椅子が数人の手で運ばれてきた。

 隅の闇から一人の老婆が現れた。

 

 老婆はまぶしそうに薄目を開いて祭壇に近寄っていく。

 その後を数人のアンデッドが大きな袋を肩に担いで従ってくる。

 

 老婆が朱塗りの椅子に座り込むと、アンデッド達は担いできた袋を老婆の前の地面に乱暴に放り出した。

 袋から、手足を縛られた男が転がり出てきた。

 

 男は土で汚れた白い実験着を身につけていた。

 「あっ! カレル先生だ!」

 

 窪地に隠れて広場の成り行きを見ていたペトロが、思わず大声を上げてしまった。

 叫び声に気が付いた老婆が窪地に顔を向けた。

 

 耳に手を当て、声の主を探っている。

 その顔から緑色をした二つの目玉が飛び出し、ペトロを凝視した。

 

「クオックおばば!」

ペトロの声がかすれた。

 (続く)

 

(続きはここからお読みくださいね)

この世の果ての中学校20章“クオックおばばにカレル教授の記憶が盗まれた!”

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クイズ!地球の哺乳類を4つに分類「人類、野生の哺乳類、ペット、家畜」個体数の多い順番は?

いきなりクイズです。

地球上の哺乳類「生まれてからしばらくは母親からの授乳で成長する動物」をつぎの4つに分類してみました。

  1. 私たち「人類」
  2. 虎やライオン、猿など「野生の哺乳類」
  3. 犬と猫を合わせた「ペット」
  4. 牛、豚、羊などの「家畜」

個体数の多いのはどれでしょうか?

多い順番に並べ替えてください。

 

友人の自営業30代男性に質問したら答えは・・1位 野生の哺乳類 2位 家畜 3位 人類 4位 ペット でした。

あなたの答えはいかがでしょうか?

 

じつは、正しい答えは“不明”なのです。

人類、家畜、ペットについては信頼できるデータが存在しますが、自然の中で棲息する野生の哺乳類は固体数を確実に捕捉する調査が困難で、科学者や関係者は“unknown ”(不明)と言わざるをえないのです。

 

特に個体数が不明な哺乳動物はネズミ種とコウモリとリスです。

野原や地下や暗闇に隠れて棲息するネズミや、大自然の山奥や断崖絶壁の洞窟に巣くうコウモリや、樹上で動き回るリスの個体数は科学者によれば“unknown”になります。

 

しかし、私のような素人が研究発表されたいろいろな記事から大胆に推定することは自由です。

人類以上の大量棲息が推定される野生のネズミは個体数がunknown(根拠のある調査資料が発見できませんでした)につき、とりあえず引き出しにしまいました。

 

また、うさぎについては推定7億とされています。(後述)

大変大きな数字ですが、小型の哺乳類であることと、野生のうさぎと家畜やペットとしてのうさぎとの区分が不明であることから、今回の調査からは対象外としました。

 

・・ということで、一部の小型哺乳類の存在には目をつぶって、比較的大型の地球上の哺乳類の個体数を大胆推定してみました。

 

地球の哺乳類の数 1位は人類、2位は家畜、3位はペット、4位は野生の哺乳類

地球上の哺乳類の個体数

 

 

 

 

 

 

上の円グラフをご覧ください。

大胆推定の結果、 地球上の哺乳類の個体数は人類が72億で全体の半分以上を占めて1位です。

 

2位が家畜哺乳類の50億で全体の36%を占め、3位がペットの15億で10%でした。

人類と、人類の飼育している家畜と、人類の飼っているペットを合わせると地球上の哺乳類140億の中137億5000万となり、全体の98.2%を占めています。

 

98.2%の残りはわずか1.8%です。

野生の動物はいったいどこへ行ったのでしょうか?

 

ある資料からヒントを手に入れて、大胆に推定した結果は野生哺乳類にとって残酷なものでした。

地球上に棲息している野生の哺乳動物は、すべての種を合わせても、わずか2億5000万頭しか生存していないという寂しい結論になってしまったのです。

 

これが大胆推定の結果です。

1位 人類 72.7億
2位 家畜 50億
3位 ペット 15億
4位 野生動物 2億5000万

 

計算の根拠となった統計の出所をご説明します。

人類の総人口、家畜の個体数はFAOの統計(2014年統計。2017年修正)からデータを取りました。

FAOは国際連合食糧農業機関で、データの数字は信頼がおけます。また、家畜の個体数には、犬と猫は食料ではないので、含まれておりません。

ペットの個体数はworldatlas.comのデータ(後述)から犬と猫の総数を合算しました。

 

問題は野生の哺乳類の個体総数をどのようにして推定するかでした。

大胆推定の論拠となったのは一つの記事でした。

 

2018年8月1日付けのWEF(ワールドエコノミックフォーラム)が発表したグローバルアジェンダ(行動計画)の一節からヒントを手に入れて野生哺乳類の個体数を推定しましたので、その原文を紹介します。

記事は名門大学の生物学者と生態学者を対象にした非公式な調査によって明らかになったこととしています。

 

長文ですが、WEFのアジェンダを原文のまま引用します。

地球史に人類が登場した時点から今日まで、地球の総生物量は半減しています。これは、農地や放牧地を作るために人間が森林破壊を行ってきたことに大きく起因しています。

こうした数字は、これまでに人類がどれほど多くの生物体を絶滅に追いやったかという事実・・(略)・・を新たに気付かせるものでした。過去数世紀にわたり、野生哺乳類の総数は何倍にも減少。今日の家畜哺乳類の総数は野生哺乳類の20倍です。娘と一緒に遊んだジグソーパズルには、ゾウとサイの隣にキリンが描かれていましたが、地球の野生生物の総数からはひどくかけ離れたイメージです。もし、現在の生物量を踏まえてこのイメージを考え直さなければならないのなら、そこには牛が描かれ、その隣に牛、またその隣に牛、そして豚、という何ら面白みもない絵柄であるべきだということになります。

 

ということで野生の哺乳類の頭数は“家畜50億×1/20=2.5億としました。

(注:文面から、ここで言う野生哺乳類にはネズミや野生のうさぎ、コウモリなどの個体数を補足できない小型哺乳動物は含まれていないと推定されます)

 

できあがった大胆推定の結果が指し示すものはグラフを一目見れば明らかでした。

人類の子供たちの友達であるべき野生の哺乳類は、人類に追いやられていまやレッドゾーンの状態だということです。

 

もう少しイメージを明確にするために、哺乳類の種類別の個体数を調べてみました。

 

地球上の哺乳類で個体数の多い種類ベスト10を調べてみた!

 

はたしてライオンや虎、象など子供たちの大好きな動物はベスト10に姿を現してくれるでしょうか?

worldatlas.comが2019年の3月に修正・発表した哺乳類の個体数の記事がみつかりましたので、個体数の多い順番に10位まで並べてみました。

  1. 人類   76億
  2. 牛    15億
  3. 羊    11億
  4. 豚    10億
  5. 犬      9億
  6. 山羊   8.6億
  7. うさぎ  7.1億
  8. ねこ    6億
  9. 水牛   1.7 億
  10. 馬    0.6億

worldatlas.comより)

哺乳類種類別個体数順位

 

 

 

 

 

 

 

棒グラフにしてみると人類が飛び抜けて個体数が多くて、野生動物は10位には顔を見せてくれません。

人類のつぎには牛や豚の家畜と犬や猫のペットが並んでいます。

 

うさぎが7位で個体総数も7億と多いのですが、先述のように補足しにくい小型の哺乳類であることと、野生のうさぎか、家畜やペットのうさぎかの区分がつきにくいことから、今回の調査の対象外としました。

(FAO出典の50億の家畜の中、うさぎは家畜として扱われず、数に含まれておりません)

 

水牛が9位にいますが、水牛も野生なのか家畜なのか区分が不明です。

リスとコウモリとネズミ類(mice,rat)は生息数不明となっています。

 

ということで・・

地球の哺乳類マップは、人類と人類の飼っている家畜と愛するペットたちで満員になってしまいました。

寂しい結論ですが、これが人類がもたらした地球の現実なのです。

 

まとめ

 

いま地球に生きている比較的大型の哺乳類の数は、人類と家畜とペットで98%を占めています。

ライオンやサイなど野生の哺乳類はいったいどのくらい生き残っているのでしょう。

 

“生物の多様性”はすでに失われたのでしょうか?

人類が地球の自然に大規模な変化をもたらしてきたことを指し示して、現代の地質年代は「人新生」と呼ばれています。

 

地球を我が物顔で独占している人類の世紀「人新生」は、次の世紀に何を残すのでしょう。

多様性の失われた自然界は人類の生存を許してくれるのでしょうか?

 

勝手な人類のおかげで、哺乳類全体のわずか2%に減少した野生の動物のことがとても心配になります。

次号では、子供たちの大好きな哺乳動物をピックアップして最新の棲息状況と頭数を調べることにしました。

(続く)

 

続きはここからどうぞお読みください。

「ワケあって僕たち間もなく絶滅します」ライオン・トラ・象・キリン・ゴリラはいま地球に何頭いますか?

 

ワケあって僕たちまもなく絶滅します②」チンパンジー、チーター、カバ、ホッキョクグマ、パンダはいま地球に何頭いますか?

追記1:バイオマスで見た哺乳類の総量

 

 

 

 

 

 

出典:地球上のバイオマス分布

https://www.pnas.org/content/115/25/6506

 

このグラフは地球上の哺乳類を個体数ではなく、重量でみた分布図です。

イスラエルのワイツマン科学研究所が2018年5月に地球上の生命体のバイオマス(重量:炭素量)を推計して発表したデータを基に編集しました。

先述のワールドエコノミックフォーラム(WEF)への寄稿もこの研究グループによるものです。

哺乳類の1位は家畜で、バイオマスは0.1GtC(ギガトン炭素)です。2位は人類で0.06GtC。野生の哺乳類は0.007GtCとなっています。

家畜が人類のバイオマスより多い理由の一つは、家畜が人間を大きく越えた重量を持つ牛と豚で主に構成されていることによるものと推定されます。

理由の二つ目は、ペットの犬や猫が家畜化された哺乳類として家畜に含まれていることが考えられます。

 

また、野生の哺乳類のバイオマスにはネズミ類などの小型の動物も含まれていると推測されます。

野生の哺乳類のバイオマス構成率は4.4%と、先述の個体数の推定値1.8%より増えていますが、家畜の総量は野生の哺乳類の14倍もあります。

バイオマスの比較でみても、野生の哺乳類が危機的な状況であることに何ら変わりがありません。哺乳類のバイオマスは人類と家畜が支配しているのです。

レポートによれば家畜家禽(鶏)のバイオマスも野鳥の総量の約3倍と推定しています。野鳥の生態系がどうなっているのか気がかりです。

 

追記2:日本の哺乳類とネズミの個体数

 

世界におけるネズミの個体数のデータは不明ですが、我が国のデータがありました。

相当古いですが、平成13年4月に行われた我が国の第2回生物多様性国家戦略懇談会に提出された推定資料を紹介します。

 

データのタイトルは「日本全国における各種哺乳類の推定個体数」です。

推定個体数は1位がアカネズミ、僅差で2位がヒトどんと離れて3位に野ウサギという結果です。

日本では野生のネズミであるアカネズミが個体数推定においてヒトを少し上回っていました。

ただし、アカネズミの体重は0.04kgなのでヒトの体重を70kgとして換算しますと、推定現存量(体重換算)ではヒトの0.05%程度になります。

 

いろいろな種類の野生のネズミが世界中に棲息しています。

さらに人類の生活圏で暮らす推定不可の数の家ネズミがいます。

 

地球規模でみてネズミが一番個体数が多い可能性を否定できません。

地球の哺乳類の個体数マップはネズミとヒトでほとんど満杯というひどいことになっているのかもしれませんね。

 

【記事は無断転載を禁じられています】

未来からのブログ14号 「おれ紐になる!未来の情報持って明日の朝、過去に帰る」爺ちゃんが叫んだ!

僕の名前はタンジャンジャラ。

舌噛みそうだから、“ジャラ”って呼んでくれていいよ。

 

いま、旧市街からザ・カンパニーに向かって、クレージー爺ちゃん背中に乗っけて走ってるところだ。

爺ちゃん君たちのいる世界から、100年後のジャラの世界に時空を越えてやって来た。

 

そして、ついにジャラの世界の現実を見てしまったんだ。

ジャラはこんなひどい世界を爺ちゃんに見てほしくなかった。

 

だからクラウドマスターと相談して街を昔の姿に変えておいたんだ。

でもさ、爺ちゃんは虚構を見破った。

 

流石クレージー爺ちゃんだ!

虚構が破れて現れたのは廃墟となった世界さ・・つまり爺ちゃんや君たちの未来の世界だってこと。

 

熱波に溶けてぐにゃりとつぶれたビルや、だれもいない町並みが廃墟となって目の前にひろがってるのを見て、爺ちゃんとジャラは抱き合って泣いた。

でもさ、涙が涸れて・・気がついたら爺ちゃんは腹ぺこでお腹がグーグー鳴ってた。

 

この世界は爺ちゃんの身体と真逆の素粒子でできてるから、この世界の食料は食べられないんだ。

このままでは、爺ちゃんの身体長くは持たないと思う。

 

大変だよ、爺ちゃんがもとの世界に戻れる方法を早く探さなくっちゃ!

 

(前回のストーリーはここからどうぞ・・)

未来からのブログ13号 クレージー爺ちゃんが早朝の散歩してたら街が溶け始めたよ!

 

未来からのブログ14号

 

「うめー!」

爺ちゃんが箸で一口食べて、顔くしゃくしゃにしてうれしい悲鳴をあげた。

 

ジャラと爺ちゃんがザ・カンパニーのオフィスに着いて、最上階のミーテイングルームに駆け込んだら、ジリジリしながらハル先生が二人を待ってた。

部屋にはハル先生が作った朝食の良い香りが漂ってたんだ。

 

テーブルの白いクロスの上に、大きな丼茶碗とお箸がセットされていて、丼茶碗の中にはできたてのおじやが湯気を上げていた。

「あわてないでゆっくり召し上がれ!」

 

ハル先生が一晩掛けて用意したのは爺ちゃんの胃に優しい一品だった。

爺ちゃん、一口すすって言ったよ。

 

「間違いない! このおじやのスープ、おれの好物の淡路島3年もののトラフグだしだ。お前、よくやった!100年の熱波に耐えて淡路島で生き延びてたのか?」

 

爺ちゃん感激して思わずトラフグスープに話しかけてた。

おじやをほおばってる爺ちゃんの幸せ顔見たハル先生、フグの代わりににっこり笑って答えた。

 

「きのう一晩掛けてスープのフグだしを透明になるまで煮込みあげましたの。マスターが盗んだジャラじいちゃんの記憶倉庫から、おじやの米とスープのデータ取り出して、そのまま再合成しましたの。あら不思議! 素材のデータまで反物質の構造になってましたので、そのままでジャラ爺ちゃんが食べられるおじやに再合成できちゃったってわけ」

 

ククッと笑って、ハル先生が一言追加した。

「クラウドマスターの盗み癖が怪我の功名になりました。このおじやでマスターの罪を許してあげてくださいね」

 

「ハル先生!あんたきっと最高の嫁さんになる。クラウドマスターは幸せ者だ」

爺ちゃんも、お腹膨らんで幸せいっぱいの顔してた。

 

ジャラも一安心したよ!

でも、少し気になることがあって、ジャラは爺ちゃんの意見聞いてみた。

 

「爺ちゃん、どう思う? クラウドマスターがここんとこ、僕らのブレーンの中覗きまわってるんだ。そのうえ爺ちゃんの脳みそにまで手を出した。これどうみても量子スパコンのAIとして、倫理規定違反だ。タカさんやチョキとAI倫理委員会開いてマスターを処罰しようかなと思ってるんだ」

 

ジャラがマジでそう言ったら、爺ちゃんゲラゲラ笑い出した。

「ジャラ! お前マスターにとことん世話になっててなんてこと言うんだ。爺ちゃんはマスターのキャラが好きだよ。

人間で言えばだ、シンギュラリティー1号はいま成長期なんだ。学習欲が強いだけで、悪気がない。きっとハルちゃんと良い夫婦になれる。

シンギュラリティー2号や3号や4号や二人の子供いっぱいできたらさ、みんなでお祝いしてジャラたちと一つの大家族になるこったな」

 

横にいたハル先生、その答え聞いて感激して爺ちゃんに抱きついていったよ。

爺ちゃんもハル先生をしっかり抱きしめたんだ。

 

「ところでハルちゃんのパートナーの姿が見えないけど、いまどこにいるんだ?」

爺ちゃん部屋を見渡してハル先生に聞いた。

 

「あの人、クレージー爺ちゃんの過去への帰還ルートをどうしてもみつけてみせるって、昨日の夜、光速艇でどこかの宇宙に飛び出してったわ」

ハル先生がジャラに目配せしながらそう答えたんだ。

 

ジャラは目配せの意味に気がついて椅子から飛び上がった。ずいぶん前だけど、ブラックホールが過去の世界とつながってるって、マスターにでたらめ言ったのを思い出したんだ。

 

「ハル先生! もしかしてクラウドドマスター、僕の話信じてブラックホール探しに行ったなんてことないよね?」

「ジャラ!正解よ。地球に一番近いブラックホールから順番に調べてみるっていってたわ」

 

「ハル先生! やばい! それとてもやばいよ! クラウドマスター、ブラックホールに引きずり込まれてるかもしれないよ」

「止めてよ、ジャラ! あの人、そんなことぐらい計算済みだわよ」

 

ハル先生が思わず大声出したときだよ、ミーテイングルームのドアがバタンと乱暴に開いて、黒ずくめの三人の男が闖入してきたんだ。

 

でっかい防護ゴーグルと真っ黒い宇宙服に身を包んだ三人が、部屋に入ってくるなりハル先生とジャラの前に横一列に並んで合唱した。

 

「”MEN IN BLACK”ただいま生還!」

 

「ブラックホール!・・・めちゃおもろかった!」

グーグル外した右端の男はタカさんだったよ。

 

「ジャラ知ってる?ブラックホールってSEXYよ!」

グーグル外しながら左端のチョキが身をよじった。

 

「ハルちゃん!ただ今!」

そう言って真ん中の背の高い男がでっかいサングラスを外した。

 

男は宇宙皇帝クラウドマスターその人だったよ。

「あなた、無事だったのね!」

飛び上がったハル先生、クラウドマスターの胸の中に飛び込んでいったよ。

 

一騒ぎが始まって・・・終わって・・・ジャラがマスターに尋ねた。

「無事で良かったけどさ、いったいどこのブラックホール調べて来たっての? 一番近いブラックホールだって光速艇で片道何百年もかかるはずだよ。昨晩出発して、調査終えて、いま帰ってきただなんて・・・それウソだろ?」

「昨晩じゃねーだろ。今朝廃墟でイリュージョン見せてくれたのそこにいるクラウドマスターだろ? それともマスターに分身でもいるってのかな?」

爺ちゃんが不思議そうに言うので、ジャラがマスターの代わりに答えてあげたよ。

「爺ちゃん! 宇宙皇帝クラウドマスターは分身どころか、10体でも100体でも何体でも分身できるんだ」

マスターにやりと頷いてから、ジャラの疑問に答えた。

「ジャラ!驚くなよ!宇宙のブラックホールに行ったわけじゃないんだ。昨晩、爺ちゃんの歓迎会のあと、ハル先生とタカさんとチョキ入れて爺ちゃんのこれからのこと、どうするか相談したんだ。爺ちゃんが過去に帰りたいって言ってた話だ。・・で、思い出したのがジャラの話さ。ブラックホールが過去に通じてるって話。ジャラの言うとおり、宇宙の果てまで探しに行ってたら爺ちゃんの寿命が尽きてしまう。その時だ、凄いアイデアが出てきたんだ。だれかが思いついたんじゃない。みんなが同時に、同じアイデアが浮かんで来た。で・・最初に口開いたのはチョキだ!」」

 

マスターがチョキを指さして続きを促した。

「ま、あたりまえの話よ。爺ちゃんどこから現れたのかってこと。そこが出口ならおれのハサミで出口の扉チョキすればいい。あとは爺ちゃんがやって来た最初の入り口目指して突っ込んでいくだけさ。だよな・・・タカさん」

 

チョキがタカさんを指さした。

「チョキがいってるのは爺ちゃんが現れた夕陽の入り江の浜のことだ。入り江の浜が地球に一番近い時空のトンネルじゃないかって思いついたってわけだ。ハル先生・・・あのトンネルなんて名前だったっけ?」

 

ハル先生が興奮して、きんきん声で答えた。

「ワームホールよ、リンゴの虫食い穴! ワームホールから入って、芯に当たるところにたどり着いたら、そこがブラツクホールの底、特異点。ブラックホールを抜けて向こう側に脱出できたら、そこは爺ちゃんの故郷・タンジャンジャラの筈ってわけね」

 

言い終えると、ハル先生がマスター指さして震え声できいた。

「・・・で、 海の底に潜って何かめっけたの?」

「海の中には何もなかった。そりゃそうだろ。昨日の夜、入り江の海は真っ暗闇だった。で俺たち一度浜に戻って夜明けを待った。水平線が白み出したときもう一度海に乗り出して、爺ちゃんの現れた辺りに宇宙艇を沈ませた。今度は艇のセンサーにあるものを仕掛けておいた」

 

黙ってマスターの話を聞いていた爺ちゃんが叫んだ。

「サンドだ、タンジャンジャラの浜のサンドをセンサーに入れて、目的地の故郷に誘導させたんだ! どうだ正解だろ? マスター」

 

マスター頷いたよ。

「クレージー爺ちゃんの言うとおりだ。爺ちゃんに渡す予定だったサンドレターを宇宙艇の先端のセンサーに入れた。宇宙艇の上の海面が赤く染まりだしたとき、センサーが反応して震えだした。そして不思議なことが起こった。入り江の海がタンジャンジャラの白い浜辺に向かって膨張をはじめたんだと思う。海が細長い時空のトンネルになって宇宙艇を引っ張り出した。宇宙艇は圧縮されながら、ゆっくりと時空を流れた。ブラックホールの底、特異点に近づいたんだと思う。チョキとタカさんが大きな悲鳴上げてるのが聞こえたけど、あのときの感覚はマスターには分からない。タカさんとチョキに聞きたい。あの現象を身体にどう感じたのか教えてほしい」

 

そう言ってマスターがまずタカさんを指さした。

「おれの身体は縮んでいったんだと思うけど、痛みはなかった。大事なおれの記憶がどこかにぶっ飛んでしまった。この世からあの世へ飛んでるなーって感じ。チョキ、お前どんなだった?」

 

チョキが立ち上がって身をよじった。

「エクスタシーに近かった! 記憶そのものがどこかへぶっ飛んだのは覚えてる。だからそれからあとのことはチョキの記憶にはないよ。マスター、あのときタカさんとチョキどんなことになってたのか詳しく教えてよ」

 

マスターがしばらく考え込んでから答えた。

「あのとき・・タカさんが訳の分からない昔の記憶を倉庫から引っ張り出して、空中に放り出したのが見えた。チョキは“おれの人生のすべて”と叫んで青い色した煙を口から吹き上げてた。これ以上艇を進行したら人間の理性は耐えられないと判断したんだ。で・・宇宙艇を逆転させて時空の流れに任せた。そしたらいつの間にか入り江の浜に帰り着いてた」

 

ずーっと腕組みと足組みしてみんなの話黙って聞いてたクレージー爺ちゃん、いきなりハル先生に尋ねた。

「ハルちゃん! 失礼・・ハル先生! 宇宙物理学者としていまの話をわかりやすく解説していただけませんかな?」

 

頷いたハル先生、やおら立ち上がって、会議室の空中に両手を差し出した。

先生の指からプラズマが放射されて、空中にこんな絵が浮かび上がった。

 

 

 

 

 

 

 

会議室にハル先生の声が響いた。

・・この絵は爺ちゃんつまりプロフェッサーGが100年前のタンジャンジャラからこの世界にやって来たルートを示したもの。

 

左側の黄色い矢印を見てね。

プロフェッサーGはタンジャンジャラの浜からブラックホールに入って、真ん中の細い穴、ワームホールを抜けて、ホワイトホールにやって来た。

 

赤い矢印のあるホワイトホールの出口は入り江の浜のことよ。

つまりこの世。

 

“MEN IN BLACK”探検隊は昨日の夜、逆のルートをさかのぼった。

マスターとチョキとタカさんは入り江の浜からワームホールに入って、ブラックホールに近づいていった。

 

光速艇とタカさんとチョキはブラックホールの底・特異点に近づいて無限小に圧縮されていった・・筈。

一言で言えば、チョキとタカさんの身体は重力をなくした紐になって震えた

 

そして時空には記憶という二人の情報だけが漂ってた・・。

 

「分かる?」

ハル先生がみんなを見渡した。

 

「分からん」

みんなが答えた。

 

一人黙り込んでいた爺ちゃん・・プロフェッサーGがぼそっと言った。

「分かった!」

 

ジャラとチョキとタカさんが爺ちゃんを取り囲んで聞いた。

「何が分かったの?」

 

爺ちゃん天井見て叫んだ。

「おれ紐になる! そして明日の朝、日の出とともに入り江の浜からタンジャンジャラに帰る!」

 

ジャラは爺ちゃんの顔見つめた。

クレージー爺ちゃんの顔、怖いぐらい引き締まってみえた。

 

爺ちゃん静かにジャラに囁いた。

「ジャラ! お別れだ。未来の情報もらっておれ帰る。早く“未来からのブログ”はじめないと・・地球は温暖化どころじゃない“人類絶滅”へ一直線だ!」

 

 

“さっきの溶けた町並みが教えてくれたことだよ、ジャラ!”

爺ちゃんの一言で会議室は沈黙してしまった。

 

ハル先生が爺ちゃんにそっと近づいてきて、テーブルの上のおじやの残りをスプーンですくって爺ちゃんの口元に届けた。

「残しちゃだめ。ハイ、お口開けて、あーん!」

 

爺ちゃんとろけそうな顔して口開けた。

「あーん!」

 

「明日はお弁当に爺ちゃんの大好きなおにぎり作りますからね」

おじや食べさせてるハル先生の目が潤んでた。

 

“故郷の地球のみんなのために・・あした命かけるのね!”

ハル先生が爺ちゃんの耳元で囁いた言葉、ジャラに聞こえた。

 

ジャラは驚いて爺ちゃんに抱きついていったよ。

(続く)

 

続きはここからどうぞ。

未来からのブログ15号“クラウドマスターとハル先生にシンギュラリティー2号誕生!”

 

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地球温暖化が止まらない! 世界で熱波・山火事・洪水が頻発!異常気象が通常に?

 

2019年も異常気象による自然災害発生のニュースが世界から飛び込んできます。

私と同じマンションに住むご夫婦の話では、次女の娘さんがパリの国際機関に勤めていて、もうパリでは暑くて仕事ができないと、悲鳴の電話があったそうです。

 

熱波、山火事、洪水などの災害は1月には南米や南半球の各地で、6~7月にはヨーロッパや北半球の方々で発生して、地元に大きな被害をもたらしています。

ある科学情報誌は、このような異常気象をそのうち私達は異常とは感じず、新たな“普通”と感じるだろうと警告しています。

 

そういえば、自然災害のニュースはもはや例年のことで、異常を異常と感じなくなってしまいそうです。

この記事では、2019年の世界の異常気象や自然災害のニュースをピックアップして、地球温暖化との関連を専門家の意見をもとに紹介いたします。

 

2019年1月に熱波がオーストラリアとアルジェンチンを襲った。

 

最高気温46℃を記録したアデレード

 

 

 

 

 

 

 

 

南半球では、今年の1月から2月は記録を塗り替える暑い夏になりました。

 

オーストラリアの南に位置するアデレードでは、1月24日に46.6℃という観測史上最高の気温が記録されています。

オーストラリア史上もっとも暑い1月だったと、オーストラリア気象庁が発表しました。

 

この気温は日本では経験したことのないものです。

日本気象協会によれば、我が国の最高気温の記録は、2018年7月23日埼玉県熊谷市で観測された41.1℃です。

 

40度を超えると人は熱疲労を感じて、41℃を越えると身体に障害が出る危険性があります。

アデレードの記録はこの危険な気温を5℃以上も上回っていたのです。

 

CNNの国際報道によれば・・1月のオーストラリアは、すべての州で気温が上がり続け、長引く干ばつと猛烈な熱波で道路は溶けて、インフラはやられ、衛生当局は全土に警報を出して日中の外出をしないように注意をしていました。

 

野生の馬が大量死・CNN

 

 

 

 

 

 

ニューサウスウエールズ州のダーリング川の魚は大量死して川面に溢れ、北部では数十頭の野生の馬が涸れた水飲み場の近くで死骸となってみつかっています。

またタスマニアン・デビルなど珍しい野生生物で有名な南部のタスマニア州では、山火事が相次いで、森林の4万ヘクタール以上を焼失して、生態系への被害が拡大しています。

 

生活インフラでは、ビクトリア州や南部の州で暑さ対策としてのエアコンや扇風機による電力消費の負荷で、発電施設の能力が限界を超えて、停電が頻発しました。

熱波の中をエアコンなしで耐えていた数十万世帯の人達がいたのです。

 

そのような中、OECD「経済協力開発機構」が豪州の政府に対して、豪州の特有の生物多様性を守り、異常に高い化石燃料への依存を減らすように、政策の変更を求めたとCNNが報じていました。

調べてみましたら、オーストラリアは、石炭、石油、天然ガス、ウラン等の天然資源に大変恵まれていて、 安価な国産エネルギーが簡単に手に入るのです。

 

そのため、オーストラリアではエネルギー多消費型産業が発達して、エネルギーの大半を石炭を中心とした化石燃料発電に大きく依存しています。

温暖化による異常気象への影響を重く見たOECDは、政策の変更と、積極的な環境対策を豪州に求めたのです。

 

日本経済新聞、2019年8月21日の記事によれば「オーストラリアでも化石燃料への依存を減らし、温暖化ガス排出削減を加速する方向で動き出していたが、温暖化対策に消極的な陣営が総選挙で有利になるなど、揺り戻しが起きている」と報じられています。

 

豪州やカナダや米国でも地球温暖化や環境対策といった課題は、現実の産業構造との利害や政治が絡むと、なかなか一筋縄では進まないのです。

 

南米では熱波で牛とニワトリが大量死

 

南米でも2019年の1月は猛暑による被害の報告が続きました。

 

ブラジルのリオデジャネイロでは1月の平均気温が37度を超えています。

ブラジルの国立気象研究所は、気温の記録が始まった1922年以来もっとも暑い夏だと報告しています。

 

ウルグアイではニワトリが暑さのために大量死した報道が続きました。

アルゼンチンの首都ブェノスアイレスでは気温が過去最高の45℃に達して、搬送の途中で牛やニワトリが熱波で死んでいると報道されています。

 

南米の暑い夏はそのあと3月まで続いたのです

 

2019年6月7月は地球の北半球で異常気象

 

2019年 6月7月も世界は異常気象(東京新聞)

 

 

 

 

 

 

 

 

この異常気象マップは、世界気象機関WMOが2019年7月12日に分析・発表した世界の異常気象を東京新聞が翌日の夕刊で、地図上にまとめたものです。

WMOは1950年にジュネーブに設立された国連の専門機関です。

 

WMOによれば・・2019年6月以降、ロシア、シベリアなどの北極圏が記録的な高温となり、山火事が多発しました。

一方で米国やバングラデシュでは洪水となるなど世界各地で異常気象が相次いでいる、と発表しています。

 

また欧州やインドも厳しい熱波に襲われていて、この原因をWMOは“地球温暖化による高温や降水パターンの変化が山火事の増加や夏の長期化をもたらしている”と分析しています。

 

WMOによれば、地中海から北極圏までの広い地域が異例の高温と乾燥状態になっています。

シベリアでは6月の平均気温が1981年から2010年の平均より10℃も高くなりました。

 

米国アラスカ州では観測が始まってから2番目に暑い6月となり、夏も涼しいはずのアラスカで7月4日には32℃を記録しています。

ヨーロッパ全部が熱波に襲われて、6月は観測史上もっとも暑い6月となったことを気象衛星のデータが示していました。

 

フランスではご存じの通り、6月28日にフランスの観測史上最高の45.9℃と、想像を絶する暑さを経験しています。

スペインでは高温で山火事が発生して、懸命の消火活動にもかかわらず、数千ヘクタールの土地が焼け野原になってしまいました。

 

・・・

南半球のオーストラリアのアデレードでは1月に最高気温の46.6℃を経験し、北半球のフランスでは6月に最高気温の45.9℃を経験しています。

2019年は、世界の都市を熱波が襲い、経験したことのない最高気温に記録が塗り替えられたのです。

 

アマゾンの山火事が止まらない! 地球温暖化に拍車?

 

アマゾン熱帯雨林の火災
NHK/BS 2019/8/27

 

 

 

 

 

 

 

2019年のアマゾンでは、森林火災が方々で発生していて、9月に入っても沈静化する気配がありません。

8月27日のNHK/BSの朝の報道では、火災は記録的なペースで増え続けていて、ブラジルの国立宇宙研究所によれば1月から8月末までに8万3000件をこえ、去年の二倍になっています。

 

アマゾンの熱帯雨林の面積は世界最大で、南米の9つの国と地域の670万平方キロメーターに広がっています。

つぎのMAPは宇宙からアマゾンを撮影したNASAの航空写真をベースに、ナショナルジオグラフィック誌が描いたアマゾンの火災の状況です。

 

NASAの航空写真から描いたアマゾンの火災の地域(ナショナルジオグラフィック)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

地図を拡大して見てください。

赤い点が火災が発生している地区です。

ブラジルだけでなくて、ボリビア、ペルー、アルジェンチンでもアマゾンの森林火災が発生しているのです。

 

NHKによれば、アマゾンは地球の酸素の20%を生み出すことから”地球の肺”と呼ばれています。(注)

アマゾンの火災による熱帯雨林の焼失は、地球の温暖化を加速させるとして、世界中からブラジルの政策を非難する声や、早期の対応を求める声が上がっています。

 

アマゾンの火災は人災だといわれているのです。

新しいブラジルの大統領は経済のために「森林の焼き畑を推奨している」という非難が、国内や海外から起こっています。

 

「大統領が僕らの未来を燃やしている!」抗議する少年(NHK)

 

 

 

 

 

 

 

大統領は急遽空軍を出動させて消火活動に当たらせましたが沈静化する気配はありません。

アマゾンの乾期はこれから12月まで続きます。

 

地球温暖化への懸念はもちろん、アマゾンで暮らす原住民の人たちや、多様な野生動物のことも大変心配になります。

 

人類への警鐘! アイスランドで地球温暖化の影響で消えた初めての氷河の跡に記念碑が建てられた!

 

アイスランドの消えた氷河の記念碑の上で、地球温暖化に警鐘を鳴らす人たち(NHK/WEB)

 

 

 

 

 

 

 

2019年8月19日のNHK・BSの朝の国際報道番組がアイスランドの消えた氷河の記念式典のニュースを流していました。

 

アイスランド西部の「オクオヨット」の氷河はかつて16平方キロメートルの大きさがありました。

それが現在は1平方キロメートルになってしまいました。

 

気象当局は2014年に地球温暖化によってはじめて消滅した氷河だと宣言しました。

そして、2019年8月18日に記念の式典が開かれ、アイスランドの首相や国内外の研究者数百人が集まって、銅でできた記念碑を、氷河のあった場所の岩に埋め込んだのです。

 

記念碑のタイトルは「未来への手紙」です。

プレートには未来の人々に当てたメッセージが刻まれています。

 

今後200年ですべての氷河がおなじ運命をたどると予想される。

この記念碑は私たちが何をなすべきかを認識するためのもので、それがなされたかはあなたたちだけが知ることになる。.

 

地元のメデイアによりますと、科学者たちは、アイスランドでは毎年110億トンもの氷が溶けていて、このままだと2200年までにアイスランドにある400あまりの氷河がすべて消滅すると警鐘を鳴らしているのです。

 

氷河の消滅は地球の海面の上昇を招き、生活圏としての沿岸地域の消滅を意味します。

世界の異常気象は、地球から人類に送られた「地球温暖化対策・待ったなし」の“警鐘”なのかもしれません。

 

(おわり)

 

【注】ナショナルジオグラフィック誌による異論(オックスフォード大学環境変動研究所マルヒ氏の計算)を紹介します。

 

“アマゾンが地球の酸素の20%を作りだしているという話は正確ではない”

アマゾンは陸上で生産される酸素のうち約16%を作り出している。

 

海洋の植物プランクトンが生産する酸素を計算に入れると数値は9%になる。

さらに付け加えれば、木は酸素の生産者であるだけでなく消費者でもある。

 

日中に蓄えた糖をエネルギーに変換する細胞呼吸の過程で酸素を使用する。

夜間は、木は昼間に生産する酸素の半分強を呼吸で消費している。

 

・・・あれあれ! 残りは3%ちょっとになってしまいました。

じつは、植物の一生における炭酸ガスと酸素の差し引きは ゼロなのです。

このテーマ、いつかまた植物の真実を探って報告しますね。

 

 “地球は大丈夫?”シリーズ記事をご覧ください。

ミニ氷河期到来?地球は温暖化じゃないの?そのうえホットハウス・アースって何者よ!

あと100年で地上から昆虫が消える!生態系の危機で人類の生存にも影響?

 

【記事は無断転載は禁じられています】

 

この世の果ての中学校18章 “カレル教授が実験室からさらわれた”     

「ペトロ、その世界には近づかない方がいい」

 手品師の声が震えていた。

 

・・・ペトロは神の存在を信じてるかな?

 “我々を越えた宇宙の意志” とは、カレル先生独特の表現だよ。

 一言で言えば神様のことだ。

 君たち六人を残して地球に人類がいなくなったのは、神様の仕業だと教授は信じているようだ。

 神は、自然の調和を乱した人間を見限ったのかもしれないとね・・・

 

 手品師の説明を聞いたペトロは、牧師の娘、マリエが昔ペトロにささやいた言葉を思い出した。

「この世界では、いくらお祈りしても神様の声はもう聞こえないの。人間の守り神はいなくなったのよ」・・・と。

 

「手品師のおじさん、僕のことなら心配いらないよ。ちょっと気になって聞いてみただけだよ」

ペトロは手品師のおじさんに余計な心配を掛けないよう、努めて明るくこたえた。

 

(前編のストーリーはここから読んでくださいね)

この世の果ての中学校17章“虚構の手品師と秘密の技”

 

この世の果ての中学校18章 “カレル教授が実験室からさらわれた” 

 

「ペトロ、その世界には近づかない方がいい」

手品師はペトロを見つめてもう一度繰り返した。

 

 言い終わると、手品師はふと周りを見回す。

 しばらく視線を彷徨わせ、なにか怪しげな世界でも覗いてしまったように身震いをした。

 

「ペトロ、何者かが、よからぬことを企んでいるようだ。じつは先ほど教授の実験室を覗いてみたら、部屋の中がひどく荒されていた。あれはとても教授自身の仕業とは思えなくて、心配になってこの部屋に先生を探しにきたんだよ」

 

「カレル先生が行方不明だって? もしかしてお昼寝中かもしれないよ」

 ペトロは思わず部屋の隅の魔法瓶を覗きにいつた。

 

 魔法ビンの中はもちろん空っぽだった。

 

・・・手品師のおじさんの様子がどうもおかしい。

 仮面の下で、何か僕に隠している。

 

 多分、カレル先生の行方のことだ。

「おじさん!カレル先生は何者かに誘拐されて、姿を消したのじゃないか・・・おじさんは本当はそう思っているのじゃないですか? 僕に言えば心配すると思って・・・」

 

”手品師のおじさん!正直にいいなさい!”

 そう言ってペトロは手品師の仮面を、厳しく睨んでみた。

 

 能面の下から、ぷっと吹き出す音が聞こえた。

 それから、能面がぎゅっと引き締まった。

「白状しちゃうと、犯人は教授に恨みを持っている者の仕業じゃないかと思ってるんだ。教授が命がけで作った《とても貴重な物》が実験室から盗まれていたからなんだ」

 

・・・先生が命がけで作ったとても貴重な物だって? 一体何のこと?・・・

 

 ペトロが質問する前に、手品師が答えた。

「君たち6人全員の将来に関わる大事な物だ。そうだ、実験室で説明しよう。ペトロ、いまから私と一緒に、実験室まで付き合ってもらえないかな」

 「うん、いいよ!」とペトロが頷くと、手品師は小さなスマホを取り出してだれかに連絡を始めた。

 

 相手は校長先生のようだった。

「先ほどはどうも・・・いやまだ教授の姿が見つけられなくて、いまからもう一度ペトロと二人でラボの様子を確認して参ります。たまたま教授の部屋にペトロがやってきたもので・・・私の助手としてしばらくお借りしますよ」

 

 手品師はスマホをポケットに収めると、椅子から立ち上がって部屋の奥に行き、大きなキャビネットをギシギシと横にずらした。

 キャビネットの後ろに隙間が出来て、暗闇の向こうに通廊が見えた。

「いくぞ、ペトロ!」

 ペトロはあわてて手品師のあとを追いかけ、勝手知った通廊に潜り込んでいった。

 

 手品師はまるで暗闇が見えているみたいに早足で歩く。

 回廊を下って小さな踊り場に出ると図書館の方を指さしてペトロに言った。

 

「なぜかこのあたりは最近、旨そうなイタリアン・レストランの匂いがするな」

 ペトロはゴルゴンの必殺の技を思い出して、クスッと笑った。

 

 図書館に入ると、エントランスの視界から隠れた一角に、奥に通じる細い通路があった。

 通路は図書館の裏側に回り込んで、突き当たりになって終わっていた。

 

 突き当たりの壁に「入室禁止、危険エリア」と書かれたちいさな扉があった。

 「ここが教授の実験室だよ」

 

 そういって手品師は、扉に取り付けられたドア・ノブに右手を差し出す。

 ドア・ノブには鍵穴も取っ手も無くて、真中に赤いの付いた、ちいさな四角いプレートが張り出していた。

 

 手品師はプレートの表面ではなくて、左右の側面に親指と人差し指を貼り付けた。

 ピピーと小さな金属音がして、ロックが解錠されてドアが開いた。

 

「指紋照合だよペトロ。よく覚えておきなさい。ドア・ノブの表面の赤いで囲まれたところに指を貼り付けたりすると、くっついて指は離れなくなる。アウトだ! 防犯の仕掛けはシンプル・イズ・ベストだよ」

 

 二人は笑いながらドアをくぐり抜けて実験室に入った。 

「私の指紋はすでに侵入者に盗まれている可能性があるな」

 

 手品師はそういって、指にフッと息を吹きかけて指の紋様を変えた。  

 次に、ドア・ノブの裏側を開いて、認証のサインを新しい指紋に変えてしまった。

 

 手品師の技に見とれているペトロに、手品師は伝えた。

「この部屋に入ることが出来るのは教授と私の二人だけだ。そして今からはペトロ、生徒代表で君もOKとなる」

 

 ペトロは手品師の真似をして親指と人差し指にフッと息を吹きかけ、ドア・ノブの裏側を開いて認証登録を済ませた。

 一歩入ると、部屋は広くて壁も天上も真っ白。

 最先端技術を装備した大病院の手術室のようだ。

 

 空調が静かな音を立てて、部屋の温度を一定に保っていた。

 中央の実験台の上には、大きな昆虫の触手みたいなものとか、ぐるぐる回るミキサーみたいなものとか、ペトロには意味不明の装置がクレーンからぶら下がっている。

 

 回転椅子が中央の操作盤の前にあって、いつでもパネルの操作ができるように準備を整えて待っていた。

 ペトロは実験シートに座ってみた。

 

 装置は万全で、実験の準備はOKだった。

「あれっ!よく見たらこの実験室はどこも荒らされていませんよ!」

 

・・・さっきの話では部屋はむちゃくちゃに荒らされてたはずなのに・・・

 ペトロが怪訝そうに手品師の顔を振り返ったら、手品師は答えた。

 

「すでに部屋は自分で掃除を済ませたようだ。それより奥の小部屋をもう一度調べてみよう。小部屋に隠しておいた貴重なものが盗まれてなくなっていたのだよ」

 

・・・掃除済みって、いったい誰が掃除してくれたんだよ?・・・

 手品師が手招きをしたので、ペトロは黙って付いていった。

 

 突き当たりに小さなドアがあって、銀行の金庫室の入り口そっくりだった。

 手品師が大きな回転式のハンドルを右と左に数回廻した。

 

 カチリと音がして、重い扉が開く。

 扉の奥の小さなスペースに、持ち運びができる頑丈で大きなボックスが収められていた。

 

 ボックスの蓋は開いているが、なにかが盗まれたような目立った形跡はどこにもない。

 ボックスの中を覗いてみると、小さな魔法瓶のような容器が整然と並べられている。

 

 ペトロが手品師に疑問をぶつける前に、手品師が先手を取った。

「おー、ペトロ! 盗まれた物はすでに再生済みのようだ。一体誰が部屋を掃除した上に、盗まれたものまで再生してくれたのかな・・・ペトロの疑問には後で答えることにして、まずこちらからペトロにクイズだ。盗まれた魔法瓶の中身は何だったと思う?」

 

・・・盗まれてもいないのに、盗まれた物は何だとは何だろう。僕らにとつて、とっても大事な物とか言ってたな・・・

 

 ペトロは、お腹も減ってきたので、口からでまかせを言った。

 

「冷凍食品?」

「近い! 冷凍食品じゃなくて、凍結細胞だよ」

「人間のですか?」

「まさか。絶滅した動物の幹細胞だ。身体の中のどんな細胞にも成長できる細胞のことだよ。いろんな家畜の幹細胞が含まれている。それも最強、最良のものだ。それから少しだが植物の細胞も保存されている。ペトロ、このボックスはなにかに似てると思わないか?」

 

「ノアの箱舟!」ペトロが即答した。

「正解!ノアの箱舟のゲノム版だ。カレル教授とハル先生が、将来君たちが、食料となる成体を作り出せるように主な生物の幹細胞を凍結保存しておいてくれたのだよ。二人が命をかけて作り出したものだ」

 

 ペトロはハル先生とカレル教授がゲノムの実験の犠牲になって、命を失い、幽体になってしまったことを知っていた。

 二人の先生が僕たちの未来のために、命をかけて凍結保存してくれた物だと知って、ペトロの胸は締め付けられた。

 

・・・でもなんだかおかしい。動物たちの幹細胞は大事に保存されているのに、どうして僕たち人間の幹細胞は保存されていないのか? 順序が逆じゃないか。人類の保存が優先されるべきなのに・・・

 

「おかしいじゃないですか?」

 ペトロが厳しく問いただすと、手品師は落ち着き払って答える。

 

「おかしくもなんともない。人類の種はとても慎重に、あるべきところに保存されている。よく考えてご覧、それはどこかな?」

 ペトロはしばらく考え、答えを見つけて絶句した。

 

 そしてゆっくりと自分の胸のあたりを指さした。

「その通りだ。君たちだよ。君たち六人こそ、大事に保存されている人類の幹細胞だ」

 

 ペトロはなんだか嬉しいような、馬鹿にされているようなおかしな気持ちになった。

 手品師のおじさんが大きな手をペトロの肩の上に優しく置いた。

 

「ペトロの疑問は解けたかな?」

「一つは解けました。でも、おじさん、実験室はきれいだし、冷凍庫からもなにも盗まれていないじゃないですか? 僕には、この部屋はなにも荒らされていないように見えますよ?」

 

「さっき調べたときには、部屋は荒らされて、凍結細胞の入ったボックスは失われていたんだよ。でもペトロ、こんな貴重な物を無くすわけにはいかないじゃないか! 実は教授と二人で凍結細胞が絶対に無くならないような方法を考えだして、実行に移していたんだ。そのからくりを順を追って説明しよう」

 

   手品師は手品のからくりをペトロに明かした。

・カレル教授研究チームの実験室は、子供たちの未来に備えて、地球上の動物たちの最優良ゲノムを凍結幹細胞として永久保存し、隠した。

・それは例え見つけられ、盗まれても、決して無くなることはない。

・それは何故か? どこに隠したのか。またどんな仕掛けをしたのか。

 

ペトロにだけ答えを教えよう。

・一つ 実はラボは二つ存在する。

・しかしこの世の見かけは常に一つである。

・二つのラボにはそれぞれに「隠された物」がある。

・ 二つのラボに同時に進入することは絶対に出来ない。

・部屋は常にどちらか一つしかこの世に存在しないからだ。

 

 だから「隠された物」が二つとも同時に盗まれることはない。

 例えこの世のラボから「隠された物」が盗み出されたとしても、あの世のラボの「隠された物」が即座に自動増殖を開始し、盗まれたラボの空の冷凍庫に自らを分け与える。 

 そして荒らされたラボはいつも通り自らを自動清掃する。

 

 これら三重の防御によって隠された物が無くなることはない。

 

・・・ペトロにはさらに秘密の情報を教えよう。

 ラボの一つは常に実験に使われていない状態にある。

 もったいない空間なので、私の古書店を昔のレトロなたたずまいのまま部屋の一角に再現してある。

 

「古書が山ほどある。いつかペトロをご案内するよ!」 

 手品師はすべての秘密を弟子のペトロに明かした。

「理解出来たかな? どうだペトロ!」 

 返事はなかった。

 ペトロは深く考え込んでいるうちに、眠ってしまったからだった。

 

・・・目を覚ましたペトロと手品師の二人は「隠された大事な物」が元通りに復元されていることを確認すると、姿を消したカレル先生の捜索を始めた。

 図書館の中や隣の議事堂、地下の通廊の隅々まで調べたが、先生の姿はどこにもなかった。

 あきらめた二人はいったん教授の部屋に戻ることにした。

 

  部屋にも先生の姿はなかった。

 代わりに、校長先生とハル先生、ヒーラー・おばさまが心配して集まっていた。

 

 それからみんなで手分けして学校中を探した。

 校庭の隅の道具小屋や、使っていない教室や、屋根裏部屋や、トイレや、ペトロが知らなかった秘密の小部屋まで探し廻ったが、教授の姿はどこにもなかった。

 

 ペトロは、裕大や咲良やエーヴァや匠やマリエやみんなのパパやママにカレル先生の失踪を連絡して、なにか情報がないか尋ねた。

 手がかりはなにもなくて、夕闇が迫ってきた。

 

「今日はもう無理だ。捜索はあすの朝から再開しよう」

 暗くなった校庭を見つめて、心配顔の校長先生がぼそっと言った。

 

「ペトロ、もう遅いから家まで送ろうか?」

 家に帰ろうとして立ち上がったペトロに、手品師のおじさんが声をかけてくれた。

 

「こんなのへっちゃらだよ。一人で帰れるよ」

 ペトロは強気で答えたが、じつは少し不安だった。

 

 カレル先生が凍結ボックスと一緒にどこかへ消えてしまった。

・・・地球が暑くなってから、ペトロの前から大好きな人が次々とどこかへ消えていった。これ以上、大事な人がいなくなるのはもう嫌だ・・・

 

 ペトロの不安が、ペトロを見つめる手品師の表情にも映し出されていた。

 その表情には見覚えがあった。

 昔このドームにやってきた頃、ペトロはよくママを困らせた。 

 ママの用意した夕食を「こんなまずいの、食べたくない」と言ってママを困らせているのを見て、パパが浮かべた悲しそうな表情にそっくりだった。

 

 そんなある日、大好きなパパが突然いなくなったのだ。

「パパはどこへ行ったの?」とママに聞くと。

 

「『子供たちの未来を探しに旅にでる。必ず帰って来るから心配するな』と言って出かけたの」

 ママはそれだけしか答えてくれなかった。

 

 ペトロはあの日からパパが現れる日を待ち続けている。

 きっとママも同じだ。

 

 ペトロにはパパの悲しそうな表情と、目の前の手品師の顔が重なって見えた。

 ・・・もしかしたら手品師のおじさんは僕のパパ・・・

 

 でも待てよ! 

「ペトロはパパにそっくりよ」とママがよく言ってたぞ。

 なーんだ、おじさんの能面が僕の顔を写してるだけか。

 

「元気出せ、ペトロ! あしたは朝から裕大や匠やみんなでカレル先生を捜索だぞ!」

 自分にハッパをかけたペトロは、ママの待っている我が家に向かって、薄闇に包まれた坂道を一目散に駆け登っていった。

(続く)

 

続きはここからお読みくださいね。

この世の果ての中学校19章 “ホラーの広場”

 

【記事は無断転載を禁じています】

タラタラしてんじゃねーよ!渋野日向子強気のゴルフで全英制覇「東京五輪も金狙う」

“タラタラしてんじゃねーよ!”

激辛ステイック頬ばって、強気な20才の新人・渋野日向子が世界の強豪と戦って、ゴルフ・メジャー・全英女子オープンに初Vしちゃいました。

 

2019年8月18日(日曜日)英ミルトンキーンズのウオバーンGC、最終日の快挙です。

18番ホールで優勝をかけた勝負のバーデイーパットを思い切り強めに打った渋野選手は、カップインの瞬間、思わず笑っちゃってましたよ。

 

英国メデイアが彼女につけた愛称は“スマイル・シンデレラ”

世界が驚き、日本中が興奮した最終日の死闘を「GOLF NET WORK」チャンネルの生中継からざっくり再現してみました。

 

(以下の画像は「GOLF NET WORK」のライブ放送と一部はNHKのニュースから掲載しています)

 

“スマイルシンデレラ”渋野選手、3日目を終わって首位。2位と2打差で運命の最終日を迎えた!

 

三日目をトップで終えて、スマイルでファンと写真撮影に応じる渋野選手

 

 

 

 

 

 

 

“スマイル・シンデレラ”と呼ばれて・・

「スマイルはいいけど、シンデレラはどうかな・・」

 

笑って答える渋野選手は、三日間を終えて14アンダーで2位に2打差の首位にたった。

 

前日のコメントも強気!(NHKニュースより)

 

 

 

 

 

 

 

最終日を明日に控えて、「あした気持ちよく帰れるように頑張ります」と強気のコメントでメデイアを笑わせた。

 

10年間指導した佐藤純コーチ(NHKニュースより)

 

 

 

 

 

 

 

10年間渋野選手を指導した佐藤純コーチはNHKの取材につぎのように答えています。

 

「笑顔、笑顔で出しているのは(昔からで)やっぱりよかったなと、成長してくれたなと・・」

続いて・・「(明日は)楽しくまわってきてくれと、なにか勉強して帰ってきてくれたら十分です」と。

 

でも、全英オープンの賞金は日本の女子トーナメントの5倍を越える高額で、魅力的ですよ!

“日向子さん、ここまで来たらGET しなくっちゃ!”って深夜のテレビに叫びましたよ。

 

賞金総額は450万ドル 日本円で約4億9100万円

優勝賞金は67万5000ドル 日本円で約7370万円

・・でした。

 

運命の最終日がスタート! 3番ホールで4パットして2位に後退

 

最終日スタートのスコア

 

 

 

 

 

 

 

あの樋口久子選手が1977年に全米プロを獲得して以来、42年ぶりのメジャー制覇という快挙に向かって、渋野選手の最終日の競技がスタートしました。

 

スコアボードのトップは渋野の14アンダーです。

最終組でまわる渋野選手のパートナーは3日目に続いて、2打差・12アンダーの南アフリカのアシュリー・ブハイという30才の選手でした。

 

その二組前を米国のリゼット・サラスと世界ランク1位の韓国コ・ジンヨンという恐い二人がまわっていました。

 

渋野選手の出だし1H・パー4のドライバーは緊張感も見られずナイスショットでしたよ。

パーオンして余裕のパーで1番ホールを無事通過、出だしは順調でした。

 

2番のロングホールは第3打をピン近くに寄せ、バーディーチャンス。

渋野選手の打ったパットは、一度カップに入りかけてから、縁にけられて外れてしまいました。

 

“残念!”

渋野選手もがっかりしてましたよ!

 

これですこし雲行きが怪しくなりました。

つぎの3番ホールで4パットしちゃったのです。

 

渋野選手は「ゴルフで一番嫌いなものは?」と聞かれて「3パット」と答えています。

3パットどころか、4パットをしてしまった渋野選手はダブルボギーを叩いて、12アンダーに後退してしまいました。

 

3番H 4パットで呆然

 

 

 

 

 

 

 

このとき二組まえでまわっていた南アのサラス選手が1番から4番ホールまで、4ホールで3バーデイーをとって13アンダーとしていました。

サラス選手にスタート時点の4打差を逆転された渋野選手は、このとき、一気にトップの座から滑り落ちたのです。

 

逆転するサラス選手

 

 

 

 

 

 

 

・・4パットにがっくりきて、この時点で、明日の仕事に備えて、テレビを消して寝てしまった日本のゴルフファンもたくさんおられたことでしょうね。

 

このとき解説の岡本綾子が「彼女が優勝するためには、前半のラウンドでまず元の14アンダーにスコアを戻すことです」と言っていました。

“彼女ならできるでしょう”・・といわんばかりの軽い調子でしたよ。

 

よく見れば、まだ試合は始まったばかり、渋野選手は“1打差の2位”じゃないですか。

岡本綾子さんのコメントでテレビ中継を見続けた人は、どんどん試合が白熱してきて、最後の優勝の瞬間まで眠ることができなかったはずです。

 

「このコースは英国特有のリンクスじゃなくて、緑の多い日本のコースに似ている。だから日本の選手は戦いやすいのよ!」

岡本さんはそう言っていました。

 

じつは解説の岡本綾子さんは1984年にこのコースをまわって優勝しているのです。

全英女子オープンがメジャーに昇格したのは2001年からですが、ウオバーンGCを知り尽くしている岡本綾子さんの解説は“ずばり”当たり続けましたよ。

 

5番と7番でバーディー奪取! 渋野選手首位に復活するも、奪い返されて脱落 大混戦の後半へ向かう

 

渋野選手は4番のパー4でバーディーパットを惜しくも外したあと、5番のミドルホールでドライバーをナイスショットしました。

そしてフェアウエーからカップ5mに乗せたボールを、強気の1パットで放り込んでしまったのです。

 

これでまず13アンダーに戻しました。

このバーディーで渋野選手にシンデレラスマイルが戻ってきましたよ。

 

6番をパーで通過した渋野選手は、7番ロングホールの第二打をFWでナイスショット、グリーンに届かせて、2オンに成功。

 

7番ロングホールで第2打をグリーンに運ぶ渋野選手

 

 

 

 

 

 

 

2パットでボールをカップに沈めて楽々のバーディー。

スタートと同じ14アンダーに戻すと、渋野選手は岡本綾子さんのコメントどおり首位に返り咲いていました。

スコア・ボードのトップに返り咲いたShibuno

 

 

 

 

 

 

 

しかし、このあと8番のショートホールでグリーン奥までオーバーした渋野選手は、アプローチも大オーバー。

ボギーを叩き、13アンダーに後退しました。

 

一方、セレス選手は9番のパー4と10番のパー4で連続バーディーをとり15アンダー。

コー選手も10番をバーディーで14アンダー。

 

セレス15アンダー、コー14アンダー、渋野13アンダーの順番で後半へとなだれ込んで行きました。

 

勝負の12番ミドルホール! 渋野選手はワンオンを狙った!

 

10番のパー4でバーディーを取って14アンダーとした渋野ですが、先行するサラスと、コーがさらにスコアを伸ばすのを見て、12番のパー4で勝負に出ました。

12番はグリーン右側に池のあるホールで、距離は短いのですが、池につかまる危険性の高いホールです。

 

このホールは中継を見ていてしびれましたよ。

コーもサラスも安全に2オン狙いで通過していったホールです。

 

ワンオンを狙った渋野選手のボールは、グリーンの右端に落ちて、池の方向へどんどん転がっていくじゃありませんか。

グリーンを外れたら斜面で池に一直線、万事休すです。

 

「止まってくれ~!」

 

日本中のファンの叫びが届いたのでしょうか。

ボールはグリーンのエッジに止まったのです。

 

12番勝負のワンオン成功! グリーンエッジからファーストパットする渋野

 

 

 

 

 

 

 

画像を見てください。

画面の奥はすぐ池になっています。

 

危ないところでした。

このホールを2パットでバーディーとした渋野は、トータルで15アンダーとして、サラス、コーをしぶとく追い上げていくのです。

 

岡本綾子が話す渋野選手のゴルフの特徴

 

渋野選手のドライバーは240~250ヤード位は飛んでいます。

海外のトップにも引けを取らない飛距離です。

 

そのうえ方向性が抜群に正確です。

彼女のご両親は二人とも国体やインターハイ出場のアスリートですから、“強い筋力と集中力は両親のDNAのおかげでしょうか”と岡本さんも言っています。

 

小学校の先生の話では、彼女は男の子と腕相撲をして負けたことがなかったそうですよ。

渋野選手は岡本綾子さんと同じようにソフトボールの選手でもありました。

 

彼女はいまでも“ゴルフよりソフトボールの方が好き“と言っています。

岡本さんによれば、ソフトボールのピッチャーは、ボールを早く投げる技術力と、方向性とのバランスを磨くことができるので、ゴルフの上達にとてもいいのだそうです。

 

渋野選手も“ピッチャーは右投げで、バッターは左打ちにして、身体全体のバランスを作るようにしていた”そうですよ。

 

渋野選手の意識するゴルフスタイルは「スマイル」と「強気」です。

スマイルで緊張をほぐして、強気に攻める

 

・・試合はバックナイン、渋野選手が得意とするイン・コースに入り、スマイルシンデレラの強烈な追い上げが始まりました。

 

15番ホールでバーデイー、ついにサラスと並んだ

 

14番を終えた渋野の順位

 

 

 

 

 

 

 

上の画像のスコアをご覧ください。

渋野選手が後半の14番を終えた時の順位は、米・サラスが2ホールを残して17アンダーでトップ。

 

韓国のコーと日本の渋野が一打差の2位、さらに一打差で米・モーガン・プレッセルと南アのブハイが並んでいます。

2ストロークの僅差の中で、5人が入り乱れての死闘を繰り広げていたのです。

 

得意の15番ロングホール、渋野選手はバンカー越えの難しい第三打をピン3m、バーディーチャンスに寄せました。

15番ホール第2打バンカー越えのショット

 

 

 

 

 

 

 

そしてワンパットでバーディーを決めたのです。

ワンパットで決めた~

 

 

 

 

 

 

 

右手でガッポーズをとる渋野選手・・トータルスコアを17アンダーに伸ばして、ついにトップのサラスをとらえました。

 

“タラタラしてんじゃねーよ”食べて、テレビに向かっておどける渋野のキャラは世界を驚かせた!

 

タラタラしてんじゃねーよ、食べる渋野

 

 

 

 

 

 

 

上がり3ホール、緊張の優勝争いの最中、グリーンが空くのを待つ渋野は、激辛の駄菓子“タラタラしてんじゃねーよ”を食べてテレビに向かってスマイル。

このシーンは世界を駆け巡りましたよ。

 

“ゴルフメジャーに“可愛いニューヒロイン誕生”ってね・・。

渋野選手はお菓子が大好きで、食べると緊張感がどこかへ飛んでいくそうですよ。

 

ニューヒロイン誕生! 最終18番ホールでサラスはバーディーパットを外し、渋野は決めた!

 

ニューヒロイン誕生の舞台は満員の観客に取り囲まれた18番ホールのグリーンの上でした。

優勝は17アンダーでトップに並んだサラスと渋野に絞られました。

 

サラスは最終ホールを、渋野選手の二組前で迎えました。

サラス18番ホールパー4の第2打

 

 

 

 

 

 

 

スタンドで大観衆が迎える中、サラスのショットはピン側に吸い寄せられていきます。

第2打はピン近くに2オン

 

 

 

 

 

 

 

しかし、優勝を目前にしたサラスは、バーディー確実とみられたこのパットを外してしまいました。

ショートパット外して、佇むサラス

 

 

 

 

 

 

 

画面の左下に無情に外れたボールが見えます。

サラスは17アンダーで競技をおえて、渋野とのプレーオフに備えて、練習グリーンに向かったのです。

 

最終組の渋野は、前の組のグリーン上のゆっくりしたプレーのため、フェアウエーで長いあいだ待たされていました。

キャディとお喋りして気楽に時間を過ごした渋野は、グリーンが空くと一転目を細め、集中力を高めて、静かに最終ホールのピンを狙います。

18H 渋野第2打ピンを狙う

 

 

 

 

 

 

渋野選手は観客で埋め尽くされたギャラリースタンド下のグリーンに向かって、見事なショットを放ちました。

見事なショットでピン手前にナイスオン

 

 

 

 

 

 

ボールはグリーンに落ち、ピンの手前5~6mという“微妙な距離”に止まりました。

渋野選手の選択肢は二つです。

 

  1. 強目のパットでカップを狙う→入れば優勝、外して3パットすれば優勝を逃す。
  2. 安全に2パットでいく→プレーオフが待っている。

渋野選手の選択は迷うことなく“強気の1パット”でした。

 

打ったー。行けー!

 

 

 

 

 

 

 

思い切りよく打ったボールはカップに向かいます。

外れたら1m以上オーバーしそうな勢いです。

入ったー!

 

 

 

 

 

 

 

白球は見事カップに消えました。

渋野選手、全英女子オープン制覇の歴史的瞬間です。

 

パターでガッツポーズ

 

 

 

 

 

 

 

思わずパター持ち上げてガッツポーズ。

このガッツポーズはニュースタイルだそうですよ。

ウッ!

 

 

 

 

 

 

 

下を向いて“涙をこらえる渋野”かと思ったら、じつは笑いをこらえてたみたいです。

笑いがこみ上げる渋野

 

 

 

 

 

 

 

“涙は出なかった”とインタビューで言った渋野。

あっけらかんと笑ってましたよ。

スタンドの熱狂に応えて手を振る渋野

 

 

 

 

 

 

 

劇的なフィナーレにメインスタンドの観客は大騒ぎです。

歓声に応えて手を振る渋野に、戦ったブハイ選手(赤いシャツ)も拍手を贈りました。

 

表彰式で微笑む渋野

 

表彰式に向かう

 

 

 

 

 

 

 

拍手の中、ビクトリー・ロードを抜けて渋野選手は優勝セレモニー向かいます。

優勝トロフィーを授与され微笑む渋野

 

 

 

 

 

 

 

大会会長から優勝トロフィーを受け取って微笑む渋野選手でした。

“おめでとう渋野日向子選手!”

 

東京オリンピックに向けて・・

 

渋野選手はこのメジャータイトルを手に入れたことで、米・女子ツアーの出場権や、海外メジャーの出場権を手に入れました。

でも、“海外のメジャートーナメントには出場したいけれど、米国のツアーには参加しません”と明言しています。

 

しばらくは大好きな日本で、ツアー活動を続けて、できれば来年の東京オリンピックに出場権を得て、メダルに挑戦したいと話しています。

 

東京オリンピックの出場資格は日本女子プロゴルフ協会のHPによれば次の通りです。

  1. 来年6月30日時点の“オリンピックゴルフランキング”で上位15名までの選手で、各国最大4名まで。
  2. 16位以下については、1カ国2名(15位以内の有資格者も含む)を上限とする。

その他、出場人数は60名です。

 

全英終了後に新しくなった“世界ランキング”では・・畑岡奈紗選手が10位、渋野選手が46位から14位に急上昇しています。

現在時点のランキングだと、この二人がオリンピックの日本代表資格を持っていることになります。

 

二人に続く日本選手の世界ランキングは、現在、鈴木愛選手が29位、比賀真美子選手が44位となっています。

あと一年でどのような結果になるのか予断は許されませんが、現在、渋野選手が畑岡選手に続いて五輪出場の最短距離にいることは事実です。

 

東京オリンピック女子のゴルフ競技は来年の8月5日から8日の4日間、埼玉県の名門・霞ヶ関カンツリー俱楽部で予定されています。

来年のオリンピック・ゴルフも中継でスマイル・シンデレラが見られるかもしれませんよ

 

(おわり)

 

【記事は転載を禁じています】

 

未来からのブログ13号 クレージー爺ちゃんが早朝の散歩してたら街が溶け始めたよ!

僕の名前はタンジャンジャラ。

みんなはジャラって呼ぶよ。

 

“未来からのブログ”、13号まで読んでくれてほんとうにありがとう。

100年後の世界の情報、すこしは役にたった?

 

ジャラの投稿もそろそろおわりに近づいたみたいなんだ。

ジャラの爺ちゃんが100年後の僕らの世界にやって来てしまったからさ、ジャラの投稿記事を君に中継してくれる人間がいなくなってしまったんだ。

 

この記事君が読んでくれてることが事実だとしたら、量子もつれでジャラは君とまだつながってるってことさ。

爺ちゃんが君の世界に無事帰り着いたのかもしれないし・・それとも宇宙の果てに飛ばされてそこから僕ら二人のために必死に情報を中継してくれてるのかもしれないよ。

 

ジャラにはそこんところは分からない。

とりあえず、今朝もライブで未来の日常の情報、君に送るね。

 

(前回の記事まだの方はここから読んでくださいね)

未来からのブログ12号 クレージーじいちゃんは過去に戻れずに途方にくれたよ!

 

未来からのブログ13号 クレージー爺ちゃんが早朝の散歩してたら街が溶けはじめたよ!

 

「おはようジャラ! めちゃ腹減ったよ!」

しゃがれ声で目を覚ました僕の顔を、ベッドの上からクレージー爺ちゃんが覗き込んでいた。

 

「爺ちゃん、早すぎるよまだ朝の5時だ」

ジャラはそう言ったけど、爺ちゃんがお腹空いたワケ、思い出した。

 

昨日、100年前の過去からやって来た爺ちゃんのウエルカムパーティーで、好物の生牡蠣と肉の刺身一口ずつ食べた爺ちゃんは、それ以外なにも口にしてないんだ。

 

爺ちゃんの身体は僕らの世界の素粒子と真逆の素粒子でできあがってたんだよ。

この世界の食べ物を爺ちゃんの身体は受け付けなくて、吐きだしてしまったんだ。

 

100年の時空の旅をしてさ、100年の時差ぼけ食らってさ、ザ・レストランですっかり疲れ切った爺ちゃん、たまらず寝込んでしまったんだ。

で、そのあと、爺ちゃんのこれからとか、食事どうするかとかクラウドマスターとハル先生いれてみんなで話し合った。

 

結論はなーんにも出なかったよ。

食事についてだけだけど、素粒子変換した赤ワインは爺ちゃんも吸収できたんだから、固形物も素粒子変換できないか、宇宙センターで研究しておくってことで、昨日はお開きになった。

 

とりあえず、飲み水は素粒子変換ができて、夜の中に爺ちゃんのところに届いた。

飲み水がないと、爺ちゃんはワインしかなくてアルコール中毒になっちゃうよ。

 

目が覚めてしまったので、ジャラも起きることにした。

キッカのベッドのそばで、久しぶりに家に帰ってきたボブとクレアがちいさなベッドを二つ並べて、仲良く寝てた。

 

ジャラはとてもラッキーで、とても恵まれてると思う。

ジャラは身体を捨てる前に立派な子供を二人ももうけることができたんだからさ。

 

いままで内緒にしてたんだけど白状してしまうと、実は、クレアはジャラとキッカの子どもで、ボブはジャラとカーナの子供だ。

じつは僕たち五人家族なんだよ。

 

この熱波の中じゃ、普通、子供は生まれてこない。

子供ができない症状を「人類群崩壊症候群」というんだそうだ。

 

ジャラは気に入らないけど自然科学者のハル先生がつけた病名だから仕方がない。

昔、ミツバチが絶滅した「峰群崩壊症候群」にちなんでつけたんだそうだ。

 

いろんな原因が積もり積もって突然やって来る人口の崩壊現象だそうだ。

“でもジャラはキッカとカーナのおかげでこの症候群を乗り越えたのさ!”

 

キッカとカーナはジャラたちのような都会型チャラ族とはDNAの“できが違う”んだ。

アマゾンの森林が高温火災で焼け落ちたときも、熱波に対応して生き延びた原住民の末裔だものね。

 

早朝から目を覚ました爺ちゃんにそんな自慢話をしたら、爺ちゃん目の色変えて聞いてた。そりゃそうだ、過去からきた爺ちゃんがいちばん知りたかったテーマだ。

燃え上がった熱波から、生き延びる方法だよ。

 

「ジャラ、いまからこの街歩いてみたい。猛暑を生き抜いた人間の生活ってどんな具合か見てみたい」

腹ぺこで動けないはずの爺ちゃんがマジで言った。

 

でさ、ボブとクレアの面倒はキッカに任せて、ジャラと爺ちゃんは街を一周してから、宇宙センターのオフィスに向かうことにしたんだ。

早朝で温度の低いときなら、生身の爺ちゃんも街中を歩いて大丈夫だからね。

 

宇宙センターのオフィスというのは、ザ・カンパニーの最上階にある宇宙皇帝クラウドマスターとのミーティングルームのことさ。

オフィスに着いたら、反粒子のモーニング・セットなんかできあがってたりして・・・そしたら、爺ちゃん飛び上がって喜ぶんだけど・・・。

 

僕は冷房の効いたスーツマンを着て、爺ちゃんは白いブラウスと綿パンとスニーカーの軽装に、ジャラの愛用の日よけハットをかぶってさ・・

暑くなりはじめた古い街を二人で歩いた。

街に人影はなくて、古びた店はシャッターが下りたまま。オフィスビルには人が活動をはじめる気配がなかった。

 

「やけに静かだな!」

「ここ怠け者の多い街なんだよ。こんな早くから起きてんの爺ちゃんとジャラだけだよ」

 

無駄話をしながら、二人はオフィス街を抜けて低層の居住地区にはいった。

「ジャラ、この居住地区、どこにも人の住んでる気配がないな。朝メシの時間なのに、どこからも朝食の匂いが漂ってこないぞ」

 

爺ちゃんが不思議そうにまわりを見回して風の匂いをかいでた。

で、ジャラは爺ちゃんに内緒でスーツマンにメッセージを伝えたよ。

 

「ジャラの食いしんぼ爺ちゃんが、この街、朝メシの匂いがどこからもやってこないから、とても寂しいっていってるよ」

そしたらしばらくたって、すこし離れたマンションの二階の窓が開いて、男の顔が覗いた。

 

「やー、ジャラ、マックだ! 朝早くからどこへお出かけかな? そこのかっこいいスニーカーおじさんはだれかな?」

ジャラが二階の男に手を振って「やー、マック! 俺たち朝の散歩中さ。このスニーカーおじさん若く見えるけどさ、じつはジャラのおじいちゃんだ!」

 

「よおー、ジャラの爺ちゃんだって? おれマックだ。よろしくな。どうだ、散歩の途中に朝メシ一緒にどうだ?」

二階のマックが爺ちゃんに声かけて、よろこんだ爺ちゃんが下から答えた。

 

「うれしいけど遠慮しとくよ、マック。じつは遠くからきたもんで、水が合わなくて腹こわしてるんだ」

爺ちゃんがマックにウインクして、元気に歩き始めた。

 

そのうち立ち止まって呟いた。

「おかしいな、この街どこにもワンコもニャンコもいないぞ」

 

考え込んだ爺ちゃんを見つめて、ジャラが爺ちゃんに聞こえないように一人呟いた。

・・スーツマン、爺ちゃんのいまのセリフ聞こえた? 急いでクラウドマスターに伝えてよ・・

 

たちまち裏通りから三毛猫が走り出てきた。

ぶちのワンコが吠えながら猫の後を追いかけてきた。

 

二匹はあっという間に路地に消えた。

爺ちゃんは目を丸くして二匹の消えた暗い路地を見つめてた。

 

そしてぼそっと言った。

「どこか緑のあるところに行きたい」

 

それを聞いたジャラは、すこし離れたところにあるちいさな公園に爺ちゃんを連れて行ったんだ。

公園のまわりの生け垣には低木がびっしり植わっていて、真ん中の花壇には暑さに強い黄色い花が咲きこぼれていた。

 

黄色い花には白いチョウチョウが遊んで、生け垣からはチッチッと鳥のさえずる声が聞こえた。

爺ちゃんはベンチに座って、足元の地面から湿った黒い土をすこし手に取った。

 

両手で土をこすると、黒い土は色が赤く変わり、ぱさぱさと宙に舞って消えた。

爺ちゃんの顔つきが厳しくなった。

 

「ジャラ、気休めはいらない。真実を見せてくれ」

かすれた声がそういったんだ。

 

「分かってたんだね。どうやって見破ったの?」

そう言ってジャラも爺ちゃんと並んで、ベンチに座った。

 

「朝メシ誘った男の名前がよくある“マック”だろ。

猫は三毛猫で犬はブチときた。

夏の公園は黄色いひまわりに白いチョウチョウときた。

連想が教科書通りだ。

知能指数は計測不可能だが意外性はゼロなキャラ。

シンギュラリティー1号の仕業だと見破ったんだ」

 

クレージーじいちゃんが素っ気なくいったので、ジャラはあわててセンターに伝えたよ。

「 クラウドマスター! ジャラの爺ちゃんが言ってる。気休めはいらないから、幻影じゃなくって真実を見せてくれって!」

 

ひとときが経って、二人のまわりの世界が溶けはじめた。

足元の黒かった地面が赤く変色して、ひび割れが走った。

ひまわりの花壇は溶けて消えた。

眼の前には雑草が数本しがみついたような、枯れた空き地がひろがっていた。

 

「ワーオ!」

爺ちゃんがわめいた。

 

目の前にひろがるオフィス街のビルが、ゆっくりと崩壊していった。

薄い煙の中から現れたのは、人気のない灰色のゴーストタウンだった。

 

目をむいた爺ちゃんがベンチからよろよろと立ち上がった。

「これはひどい! 廃墟だ!」

 

ジャラも立ち上がって、爺ちゃんにしがみついた。

「爺ちゃんには見せたくなかったんだ。でもこれが僕らの現実だよ」

 

いまにも泣き出しそうなジャラを爺ちゃんがしっかり抱きしめた。

「泣くなジャラ! 元気出せ!」  

 

爺ちゃん、怖い顔してジャラにいった。

「ジャラ、正直に答えてくれ! 仲間はどこにいる」

 

ジャラはすぐには答えられずに爺ちゃんの顔を見つめた。

「この町のコロニーにいる人間は僕の家族と仲間だけだよ」

 

「ジャラの家族と仲間というのはだれとだれのことを言ってる?」

「ジャラの家族と、タカさんとチョキのペアーだよ」

 

「わずか7人じゃないか。他のコロニーはどこにある?」

「成人を含んだコロニーはここ以外、他にはないよ。“人類群崩壊症候群”のラスト・ステージで、世界から助けられてきた子供たちがドリームワールドで生活している。クレアとボブをいれてぜんぶで20人だよ。人類の希望の星のすべてだよ」

 

「ちょっと待て。そんなはずがない。爺ちゃんがボブに呼び出されてドリームワールドの教室とつながったとき、教室に子供たち少なくても200人はいたぞ」

「爺ちゃん、ボブたち以外の180人は幻影だよ。生徒は多い方が、刺激し合って、成長するってさ。ハル先生の授業のバーチャル友達さ。さっきのマンションの二階の男と同じだよ」

 

爺ちゃんが近づいて来てジャラのほっぺたを思い切りつねった。

「痛っ! 僕のほっぺた人工だけど神経通ってるんだよ」

 

「ジャラは本物だ、安心したよ」

クレージー爺ちゃんが、そう言ってジャラを引き寄せて力一杯抱きしめた。

それから、泣き出した。

 

爺ちゃんの身体が暖かかった。

ジャラも安心して、思い切り声を上げて泣いてしまった。

ママが亡くなって一人で泣いたとき以来のことだよ。

 

公園に降り注ぐ朝の日差しが厳しくなってきた。

“ジャラジャラ”

突然スーツマンがメッセージを届けてくれた。

 

「爺ちゃん、ハル先生からメッセージが届いた。爺ちゃんのブレックファーストができたそうだ。大したもんじゃないけど、暖かいうちに食べてほしいから至急ミーティングルームに来てくれっていってる」

 

でさ、爺ちゃんとジャラはザ・カンパニーへ全力で走ったってわけ。

もちろん爺ちゃんは僕の背中に乗っかってた。

 

「朝メシだ。ヤッホー!」

爺ちゃん、街中に聞こえるような大声上げたよ。

 

その声、街にはだれも聞く人いないんだけどさ。

 

(続く)

続きはここからどうぞ。

未来からのブログ14号 「おれ紐になる!未来の情報持って明日の朝、過去に帰る」爺ちゃんが叫んだ!

 

【記事は無断転載を禁じられています】

あと100年で地上から昆虫が消える! 生態系の危機で人類の生存にも影響? 

 

最近、郊外や田舎に出かけても、蝶々やトンボを見かけることが少なくなったと感じませんか?

人間の生活と密接な関係にある昆虫たちですが、現在、昆虫の全体の1/3が絶滅危惧種に指定され、個体数が急激に減少しているのです。

最新の研究で、100年後には昆虫のすべてが姿を消してしまう危険性があるという恐ろしい報告が科学誌“Biological Conservation”に発表されています。

とても気になって、報告書の詳しい内容と、昆虫の消えた理由とその影響について調べてみました。

 

昆虫はあと100年で全滅の危険性!人類の生存にも影響が出る?

 

少なくなった 赤トンボ

 

 

 

 

 

 

 

この恐ろしいコメントは2019年2月に科学誌“Biological Conservation”に発表された研究報告のヘッドコピーです。

論文の報告者の一人でシドニー大学の環境生物学者フランシスコ・サンチェス・バイヨ先生とその共著者はつぎのように言っています。

 

昆虫は近年急速に生存の場所を奪われています。

このままでは、10年間で全体の1/4の種がいなくなり、50年で種の半分が消え、100年後には昆虫の姿はすべて地球上から消えてしまうでしょう。

 

さらに報告は「昆虫たちの減少を止めなければ、地球全体の生態系が壊れて、人類の生存にまで壊滅的な結果をもたらすことになるでしょう」と警鐘を鳴らしています。

 

世界に昆虫は100万種以上います。

種類の数だけでいえば全生物種の半数以上を占めているのです。

その昆虫の総量がいま1年で2.5%ずつ減少しているという事実から、地球の歴史上6回目の大量絶滅がすでに始まっているのかもしれないといわれています。

 

昆虫減少の主な理由は・・・

  1. 農業や都市化が進んで、森林伐採などで生息地を奪われたこと
  2. 集約型農業に見られる農薬の大量使用による影響
  3. 森林地帯や特に熱帯地方の気候が変動していること
  4. 生物学的要因・・侵略種や病原菌による昆虫への影響

・・などです。

 

このように、気候変動や異常気象も含めて昆虫の減少には、人為的な原因が大きく働いていることが指摘されています。

そして、われわれが食物を手に入れる方法を変えない限り、昆虫は20年から30年で絶滅に向かって突き進んでいってしまうと警告しているのです。

 

昆虫がいないと食料が生産できない

 

ミツバチによる受粉

 

私達が食料を作るプロセスには虫や動物の協力が必要とされています。

国連食糧農業機関(FAO)によりますと、世界の国の食料の90%を占める100種類以上の食用植物のうち、実に70%以上がミツバチによって受粉しているのです。

 

世界中の花の咲く植物のほとんどが昆虫たちによって受粉し、繁殖しています。ミツバチや蝶、蛾、ハエ、スズメバチ、甲虫などの昆虫だけではなく、一部の鳥類、哺乳類までが植物の繁殖のプロセスには必要なのです。

 

食用植物についてもその2/3以上が昆虫の受粉を頼りにして繁殖をしています。

リンゴ、モモ、イチゴ、サクランボ、チョコレートなどの果物はもしもミツバチがいなくなれば、私達が人工で受粉させないと手に入らなくなるのです。

 

リンゴの栽培

 

 

 

 

 

 

 

 

コスタリカのコーヒー栽培の生態系研究で、近くの森に棲息している野生ミツバチのおかげで収穫量を20%増やすことができたという報告があります。ミツバチが姿を消せば、受粉の無料サービス(動物媒)を昆虫が勝手に行ってくれた時代は消え去るのです。自然のすべての花を人工で授粉させることは不可能でしょう。

 

昆虫がいない世界では生態系は狂い、人類は簡単には食料にありつけなくなるのです

 

人間に親しい昆虫が減少して害虫が増える?

 

クワガタムシがいなくなる

 

 

 

 

 

 

 

この論文は、世界の昆虫の減少について主にヨーロッパと北米大陸の調査報告を精査した結果、特に生息数が減少しているのはチョウとガの仲間だったと報告しています。

イングランドの耕作地では、チョウとガは2000年の始めの10年間で58%、つまり半分以上が消えたという報告まであります。

イギリス、デンマークではミツバチが打撃を受けて個体数を大幅に減らしていること。米国のオクラホマ州で1949年から2013年までに、ミツバチの一種のマルハナバチが半分に減少した事が報告。

 

このような、ヨーロッパと北アメリカでミツバチのコロニーが消えていく現象“蜂群崩壊症候群”は数年前から英国のテレビやNHKの番組で詳しく報道されています。

さらに、カブトムシやクワガタ、ホタルやカミキリムシなどの甲虫類やトンボ、カゲロウなど子供の大好きな虫たちが、早いペースでその数を減少していると論文は伝えています。

 

チョウや、ハチなどの大事な昆虫や、動物のふんを処理してメタンの発生を防いでくれているフンコロガシのような益虫まで失いかけているのです。

その一方で、適応力が高く繁殖力の強い、雑食のイエバエやゴキブリなどの害虫が、殺虫剤の抵抗力をつけ、人工の環境に適応して数を増やすだろうと伝えています。

 

ハチやチョウは花粉を媒介することで植物の生態系に大きく貢献しています。また、他の昆虫や鳥類や動物に補食されて、食物連鎖の重要な一部にもなっているのです。

昆虫が激減すれば、地球の生態系に大きな影響と変化が起きることは間違いないでしょう。

 

ヨーロッパや北米の各国では、ミツバチの減少や大量失踪には農薬の使用が関係しているとして、その使用を厳しく制限しています。ミツバチの減少の原因は、ハチ自身の栄養状態の悪化や、気候変動による説、農薬による致死説などが指摘されています。

 

ドイツではネオニコチノイド系の農薬が発売された2006年に、ミツバチの大量死や大量失踪の発生が報告されています。

2007年には、アメリカやネオニコチノイドを空中散布したカナダでミツバチの大量死や失踪が報告されました。

 

ドイツ、イタリアでは現在ネオニコチノイド系農薬の使用を厳格化しています。フランスでは2018年にフランス議会がネオニコチノイド系の農薬の禁止(2020年には全面禁止)を決めました。

 

この論文の調査範囲は主にヨーロッパと北米で、日本やアジアは含まれていません。日本の昆虫の棲息状況も同じ傾向にあるのでしょうか。

次の章では、日本でミツバチの様子はどうなっているのかを調べてみました。

 

日本でも農薬の使用でミツバチが減って、生態系も危険水域?

 

消えていくミツバチと養蜂家

 

 

 

 

 

 

 

2009年に長崎県の数カ所でミツバチの大量死が発生し薬害ではないかという報告がされています。また、蜂蜜関連の大手企業・山田養蜂場(本社岡山)にはミツバチを譲ってほしいという話が全国からいっぱい来ていて、対応ができないようです。(公式ホームページ)

日本のミツバチのコロニーも急速に減少しているのです。日本における農薬の規制はどうなっているのか心配です。調べてみましたら、驚いたことに日本ではヨーロッパ各国に比べて規制が大幅に緩やかになっていました。

 

2024年4月8日に更新されたグリーンピースジャパンの報告“有機農薬ニュース・クリップ”によれば EU各国、米国、カナダ、ブラジルさらに台湾、韓国と比べても大幅に規制が緩やかなことがみてとれます。

 

過去にさかのぼると、既に、2012年にネオニコチノイドがミツバチにとって致命的だという実験結果が発表されていました。

2012年の9月、金沢大学の自然システム学教授山田俊郎先生は、ミツバチが大量死する“蜂群崩壊症候群(CCD)”にはネオニコチノイドが深く関係していると発表しました。

・・・研究グループの実験の過程を詳しく説明しますと・・・

  1. カメムシから稲を守るネオニコチノイド農薬2種を水田に散布して、ミツバチへの影響を調べた
  2. 成長したハチ1万匹の巣箱10個を使用して、2010年7月から1年間、3回に分け野外実験を実施した
  3. その結果推定されるCCD発生のメカニズムは、外役蜂(外に出て働くハチ)は農薬が散布された場所で即死する
  4. その不足を補うために内役蜂(巣の中で働くハチ)が外に出てきてその数が減る
  5. 蜂群の構成(卵、幼虫、内役蜂、外役蜂)が乱れる
  6. 女王蜂の産卵能力が低下して、コロニーが崩壊する
  7. 農薬の濃度を低くして外役蜂が即死を免れたとしても、持ち帰った花の蜜や花粉に含まれる農薬が女王蜂や蜂の体内に蓄積して、慢性毒性による障害が出て、コロニーは崩壊する

 

山田教授は農薬使用を厳格にしないと、日本の生態系に深刻な影響が出ると警告しています。

また、石川県立大学と宮城大学の調査によれば、ネオニコチノイド系殺虫薬を使用した水田ではアキアカネの羽化が従来の30%ほどになったことが指摘されています。

 

そういえば夏の終わりにやってきて、空にいっぱい舞っていたアキアカネ(赤トンボ)もその数が寂しくなりました。

私達の身近な生態系も危険水域にあるのかもしれませんね。

 

最後に・・

 

人は豊かな生活を送るために農業を効率化し、生産性優先の改革を進めてきました。その結果、人類の大事な仲間であるはずの昆虫まで姿を消せば・・いずれわたしたちに手痛いしっぺ返しが飛んでくるかもしれません。

 

この流れを食い止めるためには世界規模で集中的な努力が必要とされています。今回の論文の報告者の一人でシドニー大学の環境生物学者フランシスコ・サンチェス・バイヨ先生とその共著者は、危険信号を発しながら私達につぎのような提言を発しています。

  1. 殺虫剤を使わない。
  2. 有機的な食品を選ぶ。
  3. 昆虫に優しい畑や、庭造りをする。

だれにでも、すぐにでもはじめられることがいくらでもありますよと言っています。

チョウやトンボがいっぱい舞う日本の原風景がいつか戻って来ますように!

(おわり)

 

(主な参照記事)

世界各地で昆虫が減少、害虫は増加傾向に=研究 

人類のせいで「動植物100万種が絶滅危機」=国連主催会合 – BBCニュース

食料を作るには虫や動物がいなくちゃ! UNP日本語情報サイト

ミツバチとネオニコの研究者が語る、ネオニコ禁止が必要な理由とは

有機農薬ニュース・クリップ

 

 “地球は大丈夫?”のシリーズ記事をご覧くださいね。

地球温暖化が止まらない! 世界で熱波・山火事・洪水が頻発!異常気象が通常に?

ミニ氷河期到来?地球は温暖化じゃないの?そのうえホットハウス・アースって何者よ!

この世の果ての中学校17章“虚構の手品師と秘密の技”

  
 深夜の生徒会議の翌日、ペトロはカレル先生に相談したいことがあって、先生の個室を覗いた。 

 部屋のドアをノックすると「どうぞ」という返事があった。

 ドアを開けて部屋に入ると、窓際のデスクに黒いコートを着た背の高い男の人が座っている。

 

 男はゆっくりと後ろを振り向いた。

「やー、ペトロ、こんなところでどうした?」

 

 真っ黒で表情のない顔がペトロを見つめていた。

 黒い仮面とくぐもった声、ペトロの憧れのスーパー・スター、虚構の手品師だった。

 

(前の章のストーリーはどうぞここからお読みくださ)

この世の果ての中学校16章“深夜の生徒会議”

 

この世の果ての中学校17章“虚構の手品師と秘密の技”

 

「あれ~っ! 手品師のおじさんじゃないですか。カレル先生にどうしてもお聞きしたいことがあってやってきたのですが・・・先生はお出かけのようですね」

 

「教授はご不在だよ、私もカレル教授を探してやってきたのだが姿が見えないんだ。そうだ、ペトロ、教授が現れるまで、私でよければ相談に乗りましょうか?」

 

  ペトロは 一度虚構の手品師に会ってどうしても秘密の技を聞き出したいと思っていた。

 もちろんタイムトラベルの秘術だ。

 

・・・これって絶好のチャンスだ・・・

 

 ペトロは椅子を探して、手品師の座っているデスクのそばに運んでいった。

 それから、椅子の背を手品師の方に向けて座り込んだ。

 

 椅子に逆さまに座って、腕を背もたれに乗せると、ペトロの頭は素早く回転を始める。

 気持ちもどんと落ち着いて来る。

 

 ペトロのすぐ目の前に手品師の仮面があった。

「私の顔は、無気味かな?」手品師がペトロに聞いた。

 

・・・きっと、仮面を外せない深ーい訳があるんだろーな・・・とペトロは思う。

「う~ん! 黒い仮面ぐらい、僕は平気ですよ」
 

そう答えて、手品師の気持ちを気遣ったペトロが何気なく話題を変える。

「手品師のおじさんなら・・・どんな嫌なことがあっても、コートの下のスオッチをちょっと操作したら、過去でも未来でも好きなところに行って気楽に遊べるのでしょう? 手品師のおじさんは怖い物なしですね」

 

 手品師の黒い顔がにやりと笑った。

「とんでもないよペトロ。私にも怖い物はいっぱいあるんだよ。一番怖い物、それは自分の過去だ。自分が経験した本物の過去には二度と行くこともできないし、やり直すこともできない。でもペトロ、良きにつけ悪しきにつけ、過去は二度とこないからこそ、この世で一つしかない貴重な思い出になるんだ」

 

「おじさん、それって話が矛盾してますよ。それじゃこの前、課外授業で連れて行って頂いた昔の東京。あれは一体何だったのですか? カレル先生は何度かカレル少年とハルちゃんに会っているみたいだし、あの東京は虚構で旅はマジックだったなんてふざけたこといわないで下さいよ」

 

 手品師がやさしく首を横に振った。

「虚構でもなくて、ふざけてもいないよ。あれは現実に存在する別の世界だよ。私たちの過去の世界ではなくて、今同時に存在する別の世界だ。いいかなペトロ、現在という時空に存在する世界は無数にあって、少しずつ時間軸がずれ込んでいるんだよ」

「うーん!」

 ペトロが腕を組んで、考え込むのを見ると手品師は付け加えた。

「あの2016年の東京はこの世界の過去ではなくて、時間軸のずれた別の世界の東京を覗いていたんだ。もし、あの世界が真実の過去だとしたらどうなると思う?カレル教授は2016年の東京で中学生だったのなら、2092年の現在はカレル先生の年齢は90を越えていることになる。ペトロはいくら何でもおかしいとは思わなかったのかな?」

 

「ウ~ン!う~ん」

ペトロがなんどもうなり始めたので、手品師はわかりやすい例え話に切り変えた。

・・・想像してごらん。ペトロの右手には過去の世界が、左手には未来の世界がいくつも存在している。世界は幾層にも切り立ったバウムクーヘンみたいなもので、時間がずれ込んだ無数の平行世界が、同時に未来へ進行しているんだと・・・

 

ペトロは頭の中でバウムクーヘンの世界を想像してみた。

無数の平行世界のイメージなんかは出てこなくて、焼きたてのバウムクーヘンのうまそうな香りだけが頭に漂ってきた。

 

「僕の右手と左手の先にはそのおいしそうなバウムクーヘンはいくつ位あるのですか?」 

 ペトロの質問に、手品師の仮面が笑った。

 

「世界は無数で無限に存在するよ」

 手品師の仮面が答えて、ペトロの頭は無数のバウムクーヘンで溢れかえってきた。

 

「バウムクーヘンが無数にあるというのは分かります。でも無限のバウムクーヘンって、どういうことですか」

 ペトロの質問に答えて、手品師は両手でバウムクーヘンの形を宙に描いた。

 

・・・ペトロ、君は今、独立した幾層もの平行世界の真ん中にいると想像してみよう。

 次に平行世界を、ガラスでできた透明な串で横から串刺しにしてみよう。

 ではペトロ、やって来たガラスの串の中に入ってみよう。

 ペトロは串のちょうど真ん中にいる。

 

 そこから左の方に行けば少し未来の世界が、右に行けば少し過去の世界がガラス越しに見えてくるはずだ。

 もしも左の未来を覗いて帰ってきたペトロが、その未来を参考にして、新しい行動を起こしたとする。

 

 その行為は新たな世界を創りだすことになる。

 世界が一つ増えるのだよ。

 

 それがペトロ、君の新しい未来だ。

 誰もが日々、未来を選択して、それぞれに自らの世界を自由に創造していく・・・未来は無数・無限に存在するのだよ」

 

 ペトロは手品師の言葉に感動して椅子から立ち上がった。

 横に広がる無数の世界、前途に広がる無限の未来だ。

 

 ペトロは嬉しくなって両手をいっぱいに拡げ、足を一歩左に踏み出した。

 そして自分の前方に新しい未来が見えてこないか、目をこらしてみた。

 

 でもそこにはカレル教授の空っぽの魔法瓶以外なにも見えなかった。

 

 がっかりしたペトロは・・・この機会に思い切りおべんちゃらを言って、手品師から時空を駆ける秘密の技を聞き出してやろうと思いついた。

 

「手品師のおじさん! あなたは偉大な天才です。僕にはバウムクーヘンも、未来の世界もちっとも見えてきません。新しい世界が見えるようになるには、きっと大変な修行が必要なんでしょうね」

 

「ペトロ、私は偉大でも、天才でもない、ただの古本屋の店主でしたよ。店には客もさっぱり来なくて、一日中、時間を持て余していたんだ」

手品師は懐かしい昔を思い出したのか、黒い仮面がうれしそうに揺れた。

 

・・・今思えば、そんな私にも一つだけ才能があったようだ。

 どんなに退屈でつまらない本でも、読み始めたら我慢して最後まで読み切るという根性だ。

 

 私は世界中から収集したすべての蔵書を最後まで読み切った。

 いつの間にか、作者の意図した様々な魂胆や、意図しない作者の心の奥底までがほのみえるようになった。

 

 ある日、世界最古の書といわれる、失われた種族の書を読み終えた時、描かれた2600年前の世界がまるで現実のように、目の前に現れたんだ。

 

 そのとき私は確信をした。

 すべての虚構を見破って、作者の心の世界を覗き込む技を私が身につけたことをだよ・・・

 

 そのときの興奮を思い出したのか、手品師の仮面の奥で二つの瞳がぎらりと光った。

 

・・・ペトロ、私はそのあと決して忘れられない体験をしたんだ。

 自宅に帰るために、夜遅く店から表の通りに一歩踏み出したとき、私は自分を取り巻く現実の世界というものの虚構に気が付いた。

 

 私は、世界はたった一つしか存在しないということの嘘を見破ったのだ。

 目の前の道路から続く町並みに重なるように、ほんの少しずつ時間がずれた世界が、浮かび上がってきた。

 

 まるで本をめくる一ページごとに世界が変わるように・・・パラレルな世界が、無数、無限にみえてきた。

 横に広がる無数は魅力的で、未来に待ち構える無限はとても美しく見えた。

 世界の真実がみえて、私は震えた。

 

 ペトロ、すべては古い蔵書を読むことから始まったんだよ・・・

 

 手品師は自分の能面を指さしながら、話を続けた。

 

・・・そこまでは良かったのだが、それこそ夢中になって、無数の表情を持った世界を片っ端から覗き廻っている中に、私は自分自身の表情を失ってしまった。

 

 ほらペトロ、私の顔にはなんの表情もないだろう? 

 誰かが私を見ると、その人の世界観が表れる顔、能面になり果てた。

 

 でも不思議なことに、他のパラレル世界に行くとこの顔は自分の物になって、私自身の気持ちがそのまま表情にあらわれるんだ。 

 

 人生、なにかを手に入れればかならず失う物があるようだ。

 おかげで恥ずかしくて家族にも会えない・・・手品師の仮面が暗く揺れて、口から大きな溜息が漏れた。

 

・・・手品師の家族ってだれだろう?・・・

 ペトロはなにか言葉をかけて手品師を慰めようと思ったが、いい言葉が見つからなかった。

 

 仕方が無いので手品師のおじさんの真似をして、大きなため息をついて、にっこり微笑んであげた。 

 手品師の仮面も微笑んだように見えた。

 

「そうだ、ペトロにいい物をお見せしよう」 

 手品師はそう言って、教授のデスクを、指でトントンと二回叩いた。

 次に掌を上に向けて、ゆっくりと開いた。

 

 そこには一冊の分厚い本が乗せられていた。

 「ペトロは古書に興味はあるかな?」

 

 ペトロが読むのは電子書籍ばかりで、紙の本は読んだことがなかった。

 返事に困ったペトロは「古書ってどんなジャンルのものでしょうか?」と、とぼけてみた。

 

「紙で出来ている過去の書物すべて。たいがいは、かたくなってごわごわしていたり、紙が黄色く変色していたり、読んでいった人たちの食べていたものの痕跡とか、いろいろなメモや印が残されているあの紙の束だよ」

 

「ときどき白い小さな虫が現れるあれですか?」

「アッ、それはシミだ。本の虫、可愛い奴です!」

 

 ペトロは、手品師が紙の本にとても愛着を持っていることを知って「僕は電子書籍以外は読みません」とはとても言えなくなってしまった。

 

「これは未来のパラレル・ワールドの一つから手に入れた古書だよ」

 手品師は、立派な装丁を施した本をペトロにそっと手渡した。 

 

 ペトロは古書を両手で慎重に受け取った。

 その本はびっくりするほど軽かった。

 

 真っ黒い厚手の表紙から、銀箔のタイトルの文字が鮮やかに浮かび上がってきた。

 《虚構の手品師と不毛の楽園》

 

 なんだか凄そうなタイトルなのに、作者の名前がどこにもない。

「その本は、その世界では結構有名な伝記物だったよ。裏表紙を見てごらん」

 

 手品師に言われて、ペトロは本を裏返してみた。

《無名の手品師に贈る。弟子ペトロ著 2125年秋 地球・テラ》

 

  漆黒の裏表紙に銀文字で、そう書かれていた。

 自分の名前に驚いたペトロは、危なく本を落としそうになった。

 

「その本は軽いから気をつけて!」

 手品師が叫んだ。

 

 ペトロは古書を持ち直して、もう一度裏表紙に目を通し、大きな声で読み上げた。

「弟子ペトロ著。2125年秋 地球・テラ・・・なんてこった。これから手品師のおじさんの伝記を僕が書くということですか?」

 

 そういったペトロのほっぺたが緩んで、崩れそうになっている。

「ペトロ! それは古書だよ。ここから相当離れた時間軸、2300年のパラレル・ワールドで偶然手に入れたんだ。その世界のペトロ君が2125年に書いた古書だ。掘り出し物だよ」

 

・・・僕が書いた掘り出し物の伝記!だって?・・・

 一体なにが書かれているのか、好奇心がむらむらとわき上がってきたペトロの手が、古書の真ん中辺りをいきなり開いてしまった。

 

 そのページに書かれた文字が飛び込んできた。

 「“あっ!、ペトロ、そこを開いてはだめです” と手品師があわてて叫び声を上げた」と書いてあった。

 

 ペトロが慌てて本を閉じようとしたそのとき・・・                

「あっ!、ペトロ、そこを開いてはだめです」と手品師があわてて叫び声を上げた。

 

 手品師の叫び声は間に合わなかった。

 さっと小さな風が一陣吹いて、ペトロの手の中から古書をどこかへさらっていった。

 

「あっ! ご、ご免なさい!」

 あわてたペトロが必死に謝ったが、手品師は両手を広げ、がっくりと肩を落とした。

 

「まだ書き始めてもいない別の世界の作者が、いきなり物語の真ん中を読み始めたもんだから、慌てた古書は本物の作者のいた元の世界に逃げ帰ってしまった」

 

・・・本を取り囲んでいた元の世界の結界が破れたからだろう。私たちの未来を研究する資料を失ってしまったよ・・・そういって手品師はちらりとペトロを見る。

 ペトロは何度も、何度も手品師に謝った。

 

「ペトロ、気にしなくていいよ。未来の本は電子書籍並みに軽い。ちょっとした時空の風でもすぐに飛んでいってしまうから始末に終えない。あの古書は本来あるべきところに戻ったのだから、私も潔く諦めますよ」

 

 虚構の手品師はそう言って、ペトロを慰めてくれた。

 お返しに、ペトロも手品師のおじさんを慰めようと思った。

 

「あの古書はきっと、虚構の手品師にまつわるエピソードをいくつも集めたものだったのでしょうね。僕もいつか手品師のおじさんの伝記に挑戦してみようかな。それにしても本はやはりずっしりとしていて、重みのある紙を一枚ずつ丁寧に指先でめくって読まないと、本当の知識が身につきませんね。電子本はやたらと軽すぎて・・・」

 

 お詫びの気持ちで、ペトロがついつい調子のいいお追従を並べてしまった。

「ペトロ、決まりだ! 私の古書店を継げるのは君しかいない」

 

 手品師が椅子から立ち上がり、両手を差し出した。

 気が付くとペトロも椅子から立ち上がって、手品師の差し出した手をしっかりと両手で握り返していた。

 

 ペトロは虚構の手品師の仕掛けた罠につかまってしまった。

 

「一度私の書庫をご覧に入れよう。書庫は地下の電子図書館の奥だ。カレル教授の秘密の実験室の隣、ここからわずか10分だ。約束しよう。いつか、虚構を見破る技をペトロに伝授しますよ」

 

 虚構の手品師は探していた弟子をようやく手に入れた。

 ペトロはしばらくは虚構の手品師から離してもらえそうにない。

 

・・・

 「ところでペトロ、カレル教授になにか大事な質問があるって言ってなかったかな? 良ければ教授の代わりに私が答えてみましょうか?」

 ペトロはどうしても教授に聞きたかった質問を、虚構の手品師にぶつけることにした。

 

「それでは、手品師のおじさんにいきなりの質問です。カレル先生とドクター・マーカーとの会話に出て来たキーワードです。『我々を超えた宇宙の意志』というのは何を意味しているのでしょう」

 

 ペトロの質問を聞いた虚構の手品師の黒い仮面が、ぎゅっとこわばるのがみえた。

 

「過去からの訪問者の映像記録を見たんだね」

 手品師の質問に、ペトロが頷いた。

 

「ペトロ、その世界には近づかない方がいい」

 手品師の声が震えていた。

 

(続く)

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この世の果ての中学校18章 “カレル教授が実験室からさらわれた”  

 

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