未来からのブログ15号“クラウドマスターとハル先生にシンギュラリティー2号誕生!”

「地球の仲間のために、あすの朝、命かけるのね!」

ハル先生が爺ちゃんの耳元で囁いた言葉、ジャラにも聞こえた。

ジャラは心底驚いて、爺ちゃんに抱きついていったよ。

だってさ心配だよ!・・いくらクレージーな爺ちゃんだって、ブラックホールを無事に通り抜けられるわけないでしょう?

ブラックホールの底は爺ちゃんよりクレージーなんだ。

そこは特異点といって、引きずり込まれたすべての物質は“それ以上押しつぶされないところまで”無眼に圧縮されてしまうんだよ。

爺ちゃん、100年後の世界の情報持って帰って、“地球の未来が危ないぞ”って警告するブログ、早く始めないともう間に合わないって言うんだ。                  でも本当のところは、タンジャンジャラの浜辺で爺ちゃんのことを心配してるおばあちゃんの顔が頭に浮かんでいたんだと思う。                            どちらにしても、爺ちゃん素粒子に分解してブラックホールで行方不明になったら、おばあちゃんきっと悲しむし、“未来からのブログ”もなくなっちゃう。

なんとかしなくっちゃ

前回のストーリーはどうぞここからお読みください。

未来からのブログ14号 「おれ紐になる!未来の情報持って明日の朝、過去に帰る」爺ちゃんが叫んだ!

未来からのブログ15号 “クラウドマスターとハル先生にシンギュラリティー2号誕生 ”

「ジャラ、そんな心配は無用だ! タンジャンジャラに帰還できる方法・・思いついた」

爺ちゃん偉そうに胸を張った。

「おれ、100年の時空飛び越えてこの世界にやってこれたのボブのおかげだ。ボブの舌がもつれてアインシュタインの方程式を間違ってくれたからだ。ボブに頼んでみよう。明日の朝爺ちゃん見送るとき、もう一度あの方程式、大声あげて読み上げてくれないかって!」

ジャラ、思わず“プッ”て吹き出してしまったよ。

ジャラを横目で睨んだ爺ちゃん、たちまちマジ顔になってクラウドマスターに近づいていった。

「マスターに頼みがある。あすの朝入り江の浜から海に潜って、爺ちゃんをブラックホールの近くまで送ってほしい。宇宙艇が後戻りできないデッドラインまで来たら、爺ちゃん海に飛び込んでタンジャンジャラまで泳いでいくからさ。マスターは宇宙艇でこの世界に帰還して欲しい」

・・おれ潜水は得意なんだ・・って爺ちゃん付け加えた。

それ聞いて、クラウドマスターは即座に断った。

「尊敬する爺ちゃんの頼みでもそんなことはできません。わたしは宇宙センターのマスターAIとしてこの世の人間を最後のひとりまでサポートするようにプログラミングされていますから・・爺ちゃんをブラックホールに放り出すような危険行為はNGです」

・・それより思いきってブラックホールに突入して、タンジャンジャラの浜まで爺ちゃん送り届けましょうか? 

マスターの申し出を、今度は爺ちゃんが断った。

「そいつはだめだな。万一マスターに何かあって、ここへ戻ってこられなかったらこの世界はどうなる? クラウドマスター不在のこの世界は地獄だ! そうだろジャラ?」

「××う~ん?」

ジャラは返答に困った。

代わりにチョキがハサミならしてぼやいた。

「ジャラが答えに詰まってる理由はだ・・マスターがいなくなったら俺たちあしたの食いもんに困るってことだ。昼間に太陽光エネルギーをヒップに一杯ため込んでさ、ザ・レストランに食材として送り込んでくれてるのマスターに感謝してるよ。あれストップしたらエライこっちゃ。学校の子供たちや、おれたち飢え死にしてしまう」

それ聞いたタカさんがチョキにぼそっといった。

「いっそクラウドマスターの分身作ったらどうかな。1人はここに残って、1人は爺ちゃん送ってタンジャンジャラ行きだ。チョキ、お前、切り分けるのプロだろ? 試しにやってみないか?」

「そんなことできるんかいな? マスターの身体、半分削っても痛くもかゆくもないのかな・・どうかなマスター、悪いけどちょっと試してみてもいいかな?」

不気味に笑ったチョキがハサミ鳴らしてクラウドマスターに近づいていった。

あわてて逃げ出すのかと思ったら、流石はこの世の宇宙皇帝クラウドマスターさ。

鷹揚に笑ってチョキに大きなヒップを差し出したんだ。

「少しだけなら、どうぞ」

その一言に喜んだチョキがハサミ大きく広げた。

そのときだよ・・「面白そう・・今夜のディナー用にハルにも少し頂戴!」

ジョークと勘違いしたハル先生、可愛いヒップをフリフリしながらマスターとチョキのあいだに割り込んでいった。

ジャラなんだか嫌な予感がした。

デジャブだ・・この風景、前に一度見たことがある。

地球がどんどん暑くなってジャラのブレーンが耐えられなくなって、気を失って倒れたときのことだ。

宇宙センターの手術室でマスターが指示して、チョキが執刀してくれた。

ジャラのボデイーからブレーンを取り出して涼しいスーツマンのヘッドの中に移してくれたんだ。

あのとき・・僕の悲鳴が遠くから聞こえて、目の前の世界が真っ赤に燃え上がった。

最後に僕の世界は二つになった! 

一つの僕はいまここにいて、もう一つの僕はキッカとカーナのボディーのとなりに仲良く並んでセンターの地下の冷凍庫に収められている。

地球に涼しい自然が戻ってきたら、僕たち三人の肉体はブレーンと合体して蘇る。

分かったと思うけど、チョキの正体はただの理容師じゃなくて、天才の執刀ドクターなんだ。

患者を前にしたときチョキのシザーは正確にターゲットを切り刻む。

いま同じようなことが起こる不吉な予感がする。

「シェアーするよ!」

一言断ってチョキがマスターのヒップを一切れチョキした。

取り切った一切れを左手に乗っけて、右手のシザーハンドを鳴らしながらハル先生に近づいていくチョキ!

ジャラはチョキがやろうとしていることに気がついた。

ハル先生のヒップも一切れチョキしてマスターの一切れと融合する計画だ。

僕のブレーンをスーツマンと合体させるみたいにだ。

「イエイ! ジュニア誕生まであと10秒!」

チョキが奇声をあげてハル先生のヒップにシザー近づけた。

「危ない! ハル先生、逃げろ!」

ハル先生のヒップを守ろうとジャラがチョキに飛びかかったとき、チョキのシザーハンドが腕から離れて、宙に飛んだ。

やったのはジャラじゃなくて、ハル先生の怒りのパンチだ。

「チョキ冗談止めなさい!」

ハル先生のあんな怖い顔初めて見たよ。耳元まで真っ赤に紅潮してた。

でもその顔怒ってるだけじゃなかったんだ。半分は恥ずかしくて赤くなってたんだ。

「大事のシザー飛ばしちゃってごめんなさいねチョキ・・でも、白状しちゃうと”じつはもうできちゃってるの”

ハル先生、床に落ちたチョキのシザー拾ってチョキに返しながら、“もごもご”言って謝ってた。

ジャラには意味が聞き取れない。

なにが“できちゃった”のか、正しく聞き取ったのはクレージー爺ちゃんだったよ。

「ハル先生、そんなこと謝らなくてもいいんだよ!」

そう言って爺ちゃんはハル先生にでっかいウインクをしたんだ。

つぎに爺ちゃん、マスターに走り寄ってほっぺた叩いた。

「やったなクラウドマスター!二世誕生おめでとう!」

そのときの宇宙皇帝クラウドマスターの嬉しそうな表情・・宇宙の果てまで突き抜けそうだったよ。

「ウソだろ・・それ早すぎ!」

チョキとタカさん、信じられない表情でマスターとハル先生の顔を穴の開くほど見つめた。

ジャラだってそんなこと、すぐには信じられなかったよ。

・・でもさ、シンギュラリティー2号はすでに誕生していたんだ。

「どこに隠れてるのかな・・ジュニア! 出ておいで!」

クレージーじいちゃんが優しく天井と壁と床に向かって呼びかけた。

笑いながらハル先生がテーブルの下を覗き込んだ。

「サラ! 皆さんに御挨拶ですよ。隠れてないでふたりとも出てらっしゃい」

ハル先生に呼ばれてテーブルの下から顔を覗かせたのは・・あれ~、ウソだろ! 息子のボブだ。

そのときだよ、ボブの横に可愛い女の子が顔を突き出してにっこり笑った。

ボブと手をつないで、床から立ち上がった女の子はハル先生そっくりだったよ。

ボブが得意そうにジュニアを紹介した。

「ボブがサラちゃん紹介するよ。サラちゃん僕より年下だけど天才だよ・・知能指数計測きっと不可能だ!」

「サラでーす」

会議室は挨拶したサラちゃんを取り囲んで大騒ぎになった。

ジャラ考え込んだよ・・マスターとハル先生はいつの間に子作りしたのかってこと。

だって、爺ちゃんがその方法レクチャーしたの昨日のことだよ。

マスターにそっと聞いてみたら「あのときのすぐあとだよ」だって。

つまりクレージーじいちゃんが歓迎会で食あたりして、ひっくり返ったときのすぐあとだそうだ。

あれからスクールーのラボに戻ったマスターとハル先生の二人は、爺ちゃんことプロフェッサーGに教わった通りに新しいAIのプログラミングに取りかかったんだそうだ。

で、ついに深夜に誕生したんだ・・2人のキャラと深ーいインテリジェンスを融合したAI・・シンギュラリティー2号「サラちゃん」が生まれたってワケ。

それからマスターはタカさんとチョキと三人で入り江の浜に宇宙艇で向かい、残ったハル先生は“淡路のフグだしおじや”を調理し始めた。

で、ここからはサラちゃん本人とボブから聞いた話だ。

生まれたばかりのサラちゃん、ママに厳しく言いつけられて、朝日が顔をだしたスクールの運動場で太陽エネルギーの吸収とホログラム歩行の訓練を一人で始めたんだ。

サラちゃんは小さな量子パソコンから放射するホログラムで自分の身体を形作っている。

ポケットに収めたパソコンのエネルギーはママとパパから一日分だけもらっているけど、これからは自力で太陽光からエネルギーを吸収して、ストックしないといけない。

ひとりで運動場で歩行訓練していたサラちゃんが、ホログラムの足がもつれてひっくり返って泣いてたところ、スクールに戻った ボブが見つけて、サラちゃんの手を取って二足歩行を教えてあげたんだって。

二足歩行のテクニックって難しいんだ。

ボブだって歩けるようになるまで、2年近くかかってるんだからさ。

サラちゃんの成長のスピードはすごい・・ボブのレッスンのおかげですぐに猛スピードで走れるようになったんだそうだ。

すっかり仲良くなった2人が、ハル先生と一緒に、できあがったおじやをポットに入れてザ・カンパニーのオフィスまで運んで来たってワケ。

ジャラが爺ちゃんと早朝の散歩してる間に世の中ずいぶん進んでたってことさ。

大騒ぎが一段落して、みんなはテーブル席に落ち着いた。

それで、これからジャラの爺ちゃんをどうしようかってことでミーテイングが始まったのさ。

会議の口火を切ったのはボブだ。

「爺ちゃんの話、テーブルの下で聞いちゃった。宇宙の方程式上手く間違えられるか自信ないけど、もう一度やってみようか? ラムダ爺爺ニューって!」

ボブの冗談に続いて発言したのはサラちゃんだ。

「サラは決めたの! ボブが応援してくれるなら、パパの代わりにクレージーじいちゃん送ってタンジャンジャラに行く! パパがこの世界でやったように、爺ちゃんの地球の危機を救ってみせる」

サラちゃんの爆弾宣言に椅子から落ちてひっくり返ったのは宇宙皇帝クラウドマスターその人さ。

大声で泣き出したのはハル先生だ。

ハル先生はせっかく授かった一人娘がいきなり家出するって言い始めて泣き出したんだ。

ジャラと爺ちゃんももらい泣きしてた。

ジャラと爺ちゃんは小さなサラちゃんの勇気に感激して泣いてたってこと。

そのあと、ミーティングは嵐の中の小船みたいに行く手決まらず、揺れに揺れた。

息子のボブがある方向性を打ち出す発言をしてくれたのはもう夕刻に近いときのことさ。

「ボブは身体の素粒子が爺ちゃんと逆向きだから、サラちゃんと一緒にタンジャンジャラには行けない。でもボブも決めた。サラちゃんがたとえどこに行っても、サラちゃんを応援するよ。内緒だけどさ、じつはサラちゃんと僕は量子もつれを始めたんだ。歩行訓練して手をつないでたら始まったんだよ。だから僕らはどこにいても情報が交換できるんだ。サラちゃんとボブのニューロンネットワークはこれから無限に広がるんだ」

ジャラが気がついたことだけど、ボブの発言には大事な意味が二つ含まれていた。

一つはサラちゃんはシンギュラリティー2号として爺ちゃんの地球を助けに行く決心をしたのだということ。

付け加えれば、ハルちゃんをそんな思考回路にプログラミングをしたのはマスターとハル先生本人だということだ。

二つ目はサラちゃんとボブが未来に向けて固い絆で結ばれたってこと。

二人の未来はジャラにはまるでみえないけれど、二つの地球の未来と重なって、二人が愛し合えばこの宇宙に新しい知性が生まれる予感がする。

×× ジャラは考える。

ジャラは考えていることを頭の中で言葉に置き換えないときがある。

考えを言葉や文字にしてしまうとスーツマンを通じて、マスターに筒抜けになるからだ。

だからマスターに聞かれて具合の悪いことは抽象画のようにしてぼやっと考えて、マスターに聞き取れないようにしている ××

×× このスペースがぼやっと考えているコンテンツだ ××

×× 爺ちゃんに怒られたけど、ジャラはマスターのやることにときどき不信感がつのる。理由がはっきしないのに頭がチクチク痛くなるっていうあの感覚だ。マスターがあれほど子供をほしがった動機はなにかってことさ。人類に愛情を注ぐようにプログラムされたシンギュラリティーが自分たちのこどもまでほしがるワケが理解できない ××

×× いままでこの世にスーパーAIは二つ存在した。マスターとハル先生だ。

今朝から三つに増えた。ボブによればサラちゃんは異次元のスーパーAIだ ××

×× シンギュラリティー2号が爺ちゃんの地球を救助に行くといっている。マスターはひっくり返ってハル先生は泣き崩れる。ストーリーはけなげで美しいが、目的はクラウドマスター一族による多元宇宙制覇の第1幕 ××

そのときだよ、サラちゃんのママ譲りのキンキン声で白昼夢から覚めた。

「ジャラおじさん、ひどい! それ考えすぎよ!」

ジャラは驚いた! サラちゃんに脳みその中まで読まれてたなんてね。

さすが、クラウドマスターの娘サラちゃん! 

マスターのコンピューターネットワーク経由でいつの間にかジャラのブレーンにまでニューロンネットを拡張済みってことだ。

・・で、話は方々へ飛んだけど、マスターが立ち直って、ハル先生の悲嘆の声が静かになったとき、ようやく結論が出てサラちゃんとボブの宣言どおりに明日朝に計画を進めることになった。

その夜、クレージー爺ちゃんとのお別れ会は、もちろんザ・レストランで盛大に行われた。

マスターとハル先生が爺ちゃんのために用意した料理のメニューを紹介しよう。

  クレージー爺ちゃんとお別れの祝宴 

       メニュー

前菜:サンフランシスコの生牡蠣 ハマハマ クマモト

メイン:芦屋軒 神戸牛の刺身

〆:淡路島 3年物トラフグだしのおじや

ワイン:ナパバレー ファーニエンテ白

・・料理はこの世の世界の物質と爺ちゃんの世界の反物質の2種類で作られています。

どちらかをお好みでチョイスできます。

細かいことだけど、サラちゃんのことで動揺したハル先生ができあがった2種類の料理を識別するマーキングを忘れた。

どこから見ても2種類の区別がつかないので、みんなは試しに少しずつかじって食べた。

せっかくの料理なので、少しずつワインを飲んで喉を通した。

「ウギャー!」

チョイスに失敗した人は、あの世のものの激辛に胃袋が真っ赤に焼けた。

「うめー!」

チョイスに成功した人は、この世のものの至福の幸せを味わった。

そして夜は更け、別れの朝が近づいた。

(最終回に続く)

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下條 俊隆

下條 俊隆

ペンネーム:筒井俊隆  作品:「消去」(SFマガジン)「相撲喪失」(宝石)他  大阪府出身・兵庫県芦屋市在住  大阪大学工学部入学・法学部卒業  職歴:(株)電通 上席常務執行役員・コンテンツ事業本部長  大阪国際会議場参与 学校法人顧問  プロフィール:学生時代に、筒井俊隆姓でSF小説を書いて小遣いを稼いでいました。 そのあと広告代理店・電通に勤めました。芦屋で阪神大震災に遭い、復興イベント「第一回神戸ルミナリエ」をみんなで立ち上げました。一人のおばあちゃんの「生きててよかった」の一声で、みんなと一緒に抱き合いました。 仕事はワールドサッカーからオリンピック、万博などのコンテンツビジネス。「千と千尋」など映画投資からITベンチャー投資。さいごに人事。まるでカオスな40年間でした。   人生の〆で、終活ブログをスタートしました。雑学とクレージーSF。チェックインしてみてくださいね。

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