この世の果ての中学校19章 “ホラーの広場”

  カレル教授が実験室から失踪して1週間がたったとき、血糊の付いた教授のハットが発見されて、教室は大騒ぎになった。

 

 前の章の話はここから読んでくださいね。

 この世の果ての中学校18章 “カレル教授が実験室からさらわれた”

 

この世の果ての中学校19章”ホラーの広場”

 金曜日。まるで元気のないハル先生が宇宙の方程式の講義をなんとかやり終えたあとの昼休みのことだ。

「ペトロ、ちょっと相談があるの」

マリエが慌てた様子で、ペトロの席にやってきた。

 

「これ見てくれる?」

マリエが上着の裾から取り出したのは、見覚えのあるハットだった。

 

「それって、カレル先生の帽子じゃない?」

 ペトロは震える手でハットを受け取る。

 

 カレル教授は今週の月曜日から姿がみえない。

 校長先生をはじめ生徒たちのパパやママが三班の捜索隊を編成して、ドームの隅々や、黄泉の国まで出かけて探し廻ったが、その姿はかき消えていた。

 

 カレル先生は幽体で、とても高齢だから、特殊魔法瓶の中で休まないと疲れが取れずにどんどん衰弱していく。

 恋人のハル先生はすっかり元気をなくしていた。

 

 今日の授業も、ハル先生は宇宙の方程式の講義を途中でほったらかして、ぼーっと校庭を眺めているばかりだった。 

 そんなときカレル先生がいつも被っている大事のハットが見つかったのだ。

 

「カレル先生の帽子がどうかしたって?」

 ひそひそ話を聞きつけた裕大が、二人のそばに飛んできた。

 

「これ、カレル先生の帽子みたいなんだ。マリエがどこかで見つけたんだ」

 ペトロが裕大にそう言ったらマリエが首を横に振った。

「私が見つけたんじゃないの。この帽子が廊下を歩いて私の所にやってきたの。なんてこと・・・ちっちゃなゴルゴンが先生の帽子を被って歩いて来たのよ」

 

 「それに、これ見てくれる?」

マリエが声を潜め、ペトロの手の中にある帽子をひっくり返して、ひさしの裏側を指さした。

 そこにはグレーの生地の上に爪でひっかいたような文字が、赤くかすんで浮かび上がっていた。

 

《ホラーの広場》

裕大とペトロがゆっくり読み上げた。

 
「これ、カレル先生からのSOSだ。赤いのは・・・多分先生の血!」

 ペトロの声がかすれ、裕大の顔から血の気が引いた。

 

 帽子のリボンが茶色い土でべっとりと汚れている。

 ペトロが指で触れてみると土はたっぷり湿っていた。

 

 ・・・このあたりの地上には、湿った土はない・・・ 

 ペトロのシノプスがつながって、ブーンと回転を始める。

 

 ペトロの推理がセリフになってはき出されてきた。

「間違いないよ!先生は地下に潜んでるホラーにさらわれたんだ。湿った土は水脈のある地下のどこかのものだ。捕らえられて動けない先生がゴルゴンを見つけてこっそり頼んだ。自分の血でSOSを帽子に書いて、マリエに届けるようにだ」

 

 ペトロがしばらく考えこんでから、マリエに尋ねる。

「マリエ、ゴルゴンはどこから地上に出てきたと思う?」

 

「ほら、いつも出入りしてる校舎の廊下の破れ目だと思う。きっとホラーのいるところと地下道で繋がってるのよ」

 三人は同時に立ち上がった。

 

「僕がハル先生に報告してくる。そのあとカレル先生を捜しに行く・・・全員! 廊下の破れ目で集合!」

 声を張り上げると、裕大は猛烈な勢いで教室を飛び出していった。

 
 ペトロとマリエも裕大の後を追ってかけだした。

 廊下の破れ目で立ち止まって穴に近づくと、破れ目からかすかに湿気を含んだ風が吹き上げてきて、二人の頬をなでた。

 

「ゴルゴン、そこにいるの?」

 マリエが暗闇をのぞき込んで、小声で言った。

 返事がなくて、代わりに二つの小さな目が信号みたいにチカチカ光った。

「ゴルゴンが待ってくれてる。地下道をカレル先生の所まで案内するから、早くしろよって!」

 

マリエの声に合わせたように、廊下の向こうからバタバタと走る音が聞こえた。

裕大がナノコンを抱えたハル先生を片手で引っ張って、まるで宙を飛ぶようにやってきた。

 

どんと二人の前に着地したハル先生が、息を弾ませてマリエに叫ぶ。

「マリエ、そ、そのハット見せて!」

 マリエがあわてて差し出したハットを先生は受け取って、土で汚れたリボンを外して調べた。

「間違いないわよ、このリボン、カレルの自慢のネクタイで作ったの。これって、私がカレルと婚約したときプレゼントしたハットよ。世界で一つしかないの」

 ハル先生はプレゼント用のハットを買った時に、オリジナルのリボンを作ろうと思った。

 山ほどあるカレル先生のネクタイのコレクションから、思い出の一本を選んでリボンに仕立て直して、ハットに巻き付けた。

 

 できあがったのは、世界でたった一つしかないハットだった。

 

 ハル先生はカレル先生と婚約していた秘密を喋ったことに気が付かない。

 

 二人が婚約していたことは遠い、過ぎ去った日の二人だけの秘密だった。

 ハル先生はハットを裏返して、カレル教授の血で書かれた文字を見つめた。

 

 《ホラーの広場》

 ハル先生は昔、実験室で仲間を襲った悲惨な事故を思いだした。

・・・私や仲間はあのときカレルに助けを求めた。今はカレルが助けを求めている・・・

 ハル先生の手が震えて、手の中のハットが揺れた。

 

 ハル先生はいきなりしゃがみ込んで、ナノコンを抱えたまま廊下の破れ目からゴルゴンの待つ穴の中に入ろうとした。

 ナノコンは破れより横の幅が大きすぎて、穴の端につっかえてどうしても入れない。

 

 ハル先生はナノコンを置いていくわけにはいかなかった。

 先生は、抱えているナノコンから放射されるホログラムで姿と形を作っている。

 ナノコンはハル先生そのものだったからだ。

 

 そのことを知っているペトロが、慌てる先生を必死で止める。

「ハル先生、落ち着いて! 僕たちがカレル先生を助けに行ってきますから、先生はここで待っていて下さい」

 

 匠が校庭でお喋りしていた咲良とエーヴァを呼びに行って、三人そろって駆けつけてきた。
 カレル先生がホラーにさらわれたことを聞いて、咲良が目をむいて怒った。

「ホラーが学校の地下にまで手を伸ばしてきたのね。ママのファンタジーアでは大目に見てあげたのに、カレル先生に何するつもりよ。許せません。とっ掴まえて、三界から追放してやる」
 

 咲良が腕まくりして叫んだ。
「さー、みんな、行くわよ!」

「待ちなさい! 咲良、その前に計画に伴う危険を確かめてみます」

 ハル先生が冷静さを取りもどして、ナノコンで行動計画のリスク計算を開始した。

 ナノコンがカタカタいって演算が開始された。

 答えはすぐに出た。

 

 十進法で、6ー6=0

「全員でホラーと戦ってはだめです。誰も帰って来なかったら人類は全滅します。校長先生とヒーラーおばさまにお願いして、カレル先生を助けに行って貰います」

 

 ホラーを熟知している咲良が、口をとがらせてハル先生に反論した。

「それはだめです。校長先生もヒーラーおばさまもホラーの暗闇に入ってはなりません。黄泉の国との通い人には暗闇のホラーは見えません。ホラーは暗闇を怖がる生き人にしか姿がみえないのです。そのうえハル先生は体が軽すぎてとてもホラーと戦えません。私達が助けに行かないとだめなのです」

 

「それならペトロ、俺たち二人でカレル先生を助けにいこうぜ。これで決まりだ」
 生徒会長の裕大が決めた結論に、黙って聞いていた匠が怒った。

「俺を外すな!」

 

 ペトロが横から割り込んで匠に告げた。

「男全員の三人はだめだよ。二人までだ。先輩、理由は分かるよね。そのうえ敵はホラーときた。ホラー相手なら匠より僕が上だよ」

 

 匠が下を向いて諦めると、咲良が腕まくりをして叫んだ!

「ホラー退治に、私は絶対外せないわよ!」

「咲良、悪いわね。私でないと、ゴルゴンに案内させてカレル先生のところに行き着けないわよ」

 言い捨てるとマリエはさっさとゴルゴンの待つ穴に入っていった。

 

「こらマリエ、出てこい!」

 咲良が叫んだときはもう遅かった。

 

「そこまで!」と、ハル先生が言って人選が終わった。

 

 それから、ハル先生は裕大を呼んだ。

「裕大、いまから渡す武器でホラーをやっつけなさい! それから・・・みんなはもう私の正体を感づいていると思うから、驚かないでね」

 そういってハル先生は左手で、自分の右腕の手首から先を取り外すと、左手でトントンと手袋の形に変えて裕大に手渡した。

「これは私のナノコンと無線で繋がっている多機能ハンドです。懐中電灯兼通信機器兼武器。ボタンは三つ。手前から順に、黄色は懐中電灯、真ん中の青は連絡用スマホ、先端の赤を押すと強い放射光が発射されます」

 

 ハル先生は多機能ハンドを裕太に手渡しながら、そっと忠告をする。

「暗闇に住むホラーは強い光を嫌がります。私は研究所時代にゲノムのホラーに襲われたことがあります。人間に怨念を持っているホラーには特に気をつけて下さい。生身の人間に出会うと、興奮して視覚細胞が真っ赤に充血してくるからすぐ解ります。裕大、あなたがリーダーよ。常に私と連絡を取ること。決して無理はしないこと。危なくなったらすぐ引き返すこと。いいわね。それとペトロにお願い・・・できたら私のカレルを連れて帰って来て欲しいの」

「了解!」ペトロが即答した。

 裕大は、ハル先生の右手を受け取って、自分の右手の上に慎重に重ねて嵌めた。

 

「さー、行くわよ!」

 マリエが穴の中から促して、裕大とペトロが頭から飛びこんでいった。

 

 トンネルの薄闇の中、三人を先導してゴルゴンが走る。

 道が枝分かれしているところにやってくると、ゴルゴンは立ち止まって地面の匂いをかいだり、頭を持ち上げて、風の方向や湿気を感じたりしている。

 

 マリエがゴルゴンのお尻をときどき叩いて、早く決めなさいと急がせている。

 ペトロが真似をして前を行くマリエの可愛いお尻をときどき叩いた。

 

 マリエが振り向いてペトロのほっぺたをパチンと叩いた。

 最後尾を行く裕大が、吹き出しそうになるのをぐっとかみ殺しながら、懐中電灯でみんなの足下を照らしだしていく。

 

 三人と一頭の救助隊が囚われのカレル教授の救出に向け、着実に前進していく。

 

「裕大は咲良ちゃんと婚約してるの?」

 ペトロがいきなり裕大を振り向いて、マリエに聞こえないように小声で聞いた。

「当たり前だろ!」裕大が平然と答える。

「少し早すぎない?」

「ペトロも勉強不足だな。歴史をよく見ろ。動乱の時代は婚約や結婚は早めにしておくもんだぞ」

「どうして?」
「敵はいっぱいいるのに、結婚相手は少なくなるからだよ」

「ふうーん?」
 ・・・敵っていったい誰のことだ?・・・

 

 考え込んだペトロの前方に、灯りが見えてきた。

 地下水がごうごうと流れる音が聞こえる。

 

 ゴルゴンがぴくりと耳を立て、後ろ足で立ち上がる。

 行く手になにかが動く気配を感じて「チチッ」と口から警戒音を発した。

 

 三人は目的地が近づいたことを知った。

 暗いトンネルが終わり、薄明かりに包まれた広場が現れた。

 

 広場のそばには、轟音を上げて川が流れている。

 それは、ペトロにはとても不思議な光景だった。

 

 地上にはこんなに水の豊かな川はなかった。

 大地の方々で地下に潜り込んだ水脈が、時間をかけて一本に集まっているようだった。

 

 急な川の流れから飛沫が空中に飛び散って霧になり、広場の地面や切り立った奥の壁や、洞窟の天上にまで舞い上がっている。

 霧がまき散らす水滴のおかげで、地面や壁や天上にこげ茶色の苔が厚く密集していた。

 
・・・これ、食料として改良できそうだ。サンプル採集しとこうっと・・・

 ペトロは近くの苔を一むしりしてティッシュで包んで大事にポケットに収めた。

 

 苔の中には赤い光を発しているものがあって、壁や天上の数カ所に集まっていた。

 そのため、広場にはぼんやりとした明かりのスポットがいくつも作り出されている。

 

 広場の中央で無数の黒い影がゆっくりとうごめいている。

「あ、あれがホラーの広場!」裕大が声の震えを必死に抑えた。

 

「ホラーにアンデッドまでいるわ。みんなとても怒ってる!」

 マリエが囁いた。

 

「アンデッドって何者?」

 声を潜めてペトロが聞く。

「言葉通りよ。死んでも、死にきれない者たち。肉体を失っても、怨念を抱えてさまよう魂」

 マリエが胸の前で十字を切った。

 

 己の身の不幸を嘆いてすすり泣く声が、風に乗って聞こえてくる。

 三人は広場の側に小さな窪地を見つけて身を隠し、そこから広場の様子を窺うことにした。

 

 ゆーらり、ゆらりと、かすかな風に揺れながら、人間の形をした者達が数人、広場の中央に集まって立ち話をしている。

 恨みを晴らすまでは、死んでも死にきれない人間たち、アンデッドの集会だった。

 

 アンデッドの群れの周りでは、いろんな動物の姿をした異形の者たちが、地面に座り込んで、自らの形が崩れないように毛繕いをしたり、細いくちばしで姿を整えたりしている。

 大きな角を持った鹿に、大小二種類の熊、野生の猿に猪、人間に飼われていた牛に豚に鶏たち。

 

 異形の者たちはいつも形の手入れをしていないと、すぐに醜くゆがんでしまう。

 葉っぱや根っこに果実、エサになる川や池や海の魚、命を支える食料を失い絶滅した動物のホラーたちだった。

 

 広場の突き当たりは、苔むした岩が高い壁となってそびえ立っている。

 岩壁の表面には様々な動物たちの姿が描かれていた。

 

 壁に密生した苔を削り取って、浮かび上がるように描き出された動物たちは、いまにも壁から飛び出して、広場を走り回りそうだ。
 

 巨大な一枚の岩に、見事な壁画があった。

 

 数頭の大鹿の群れが軽やかに跳躍を繰り返している。

 後方からは上半身裸の逞しい人間たちが、槍を掲げて鹿を狙っている。

 

 捕食者と被捕食者の間に繰り広げられる、戦いの一瞬を切り取った見事な構図。

 「これが俺様の本当の姿だ。どうだ、美しいだろう。俺様の作品だ」

 槍を大きく構え、見事に盛り上がった胸を、近寄ったアンデッドの一人が誇らしげに撫で上げた。
  

 数頭の鹿のホラーが壁画の大鹿に近づくと、身体を形取っている壁のこけを上手にかじり取って、肉体の凹凸を際立たせていく。

 

 彫像が完成すると、ホラーたちはうなり声を上げて、それぞれの守り神に祈りを捧げる。
 

 ホラーの祈りに応えて、アンデッドたちが戦いに向かう咆吼を上げた。 

 

「なにかの・・・儀式が始まるわよ!」

 マリエがペトロの耳元で声を震わせた。

               
 洞窟に鬨の声が響き渡り、岩壁の壁画がじわりと動いた。

 壁画の人間たちが身体を反らせ構えると、一斉に壁の大鹿に向かって槍を投げた。

 

 大鹿は狩人を振り返ると、逞しい四肢で地面を蹴り、空に舞う。

 槍の攻撃を軽々と躱した大鹿は、小馬鹿にしたように一声「ヒョーン!」と鳴いて、槍の届かない洞窟の天井に逃げていった。

 

 アンデッドたちが悔しそうに天井の大鹿を見上げ、動物のホラー達は身体をくねらせて笑った。

 

 騒ぎは収まり、地下の広場でアンデッドの集会が始まった。

 

 広場の中央に横長の祭壇と朱塗りの椅子が数人の手で運ばれてきた。

 隅の闇から一人の老婆が現れた。

 

 老婆はまぶしそうに薄目を開いて祭壇に近寄っていく。

 その後を数人のアンデッドが大きな袋を肩に担いで従ってくる。

 

 老婆が朱塗りの椅子に座り込むと、アンデッド達は担いできた袋を老婆の前の地面に乱暴に放り出した。

 袋から、手足を縛られた男が転がり出てきた。

 

 男は土で汚れた白い実験着を身につけていた。

 「あっ! カレル先生だ!」

 

 窪地に隠れて広場の成り行きを見ていたペトロが、思わず大声を上げてしまった。

 叫び声に気が付いた老婆が窪地に顔を向けた。

 

 耳に手を当て、声の主を探っている。

 その顔から緑色をした二つの目玉が飛び出し、ペトロを凝視した。

 

「クオックおばば!」

ペトロの声がかすれた。

 (続く)

 

(続きはここからお読みくださいね)

この世の果ての中学校20章“クオックおばばにカレル教授の記憶が盗まれた!”

【記事は無断転載を禁じられています】

クイズ!地球の哺乳類を4つに分類「人類、野生の哺乳類、ペット、家畜」個体数の多い順番は?

いきなりクイズです。

地球上の哺乳類「生まれてからしばらくは母親からの授乳で成長する動物」をつぎの4つに分類してみました。

  1. 私たち「人類」
  2. 虎やライオン、猿など「野生の哺乳類」
  3. 犬と猫を合わせた「ペット」
  4. 牛、豚、羊などの「家畜」

個体数の多いのはどれでしょうか?

多い順番に並べ替えてください。

 

友人の自営業30代男性に質問したら答えは・・1位 野生の哺乳類 2位 家畜 3位 人類 4位 ペット でした。

あなたの答えはいかがでしょうか?

 

じつは、正しい答えは“不明”なのです。

人類、家畜、ペットについては信頼できるデータが存在しますが、自然の中で棲息する野生の哺乳類は固体数を確実に捕捉する調査が困難で、科学者や関係者は“unknown ”(不明)と言わざるをえないのです。

 

特に個体数が不明な哺乳動物はネズミ種とコウモリとリスです。

野原や地下や暗闇に隠れて棲息するネズミや、大自然の山奥や断崖絶壁の洞窟に巣くうコウモリや、樹上で動き回るリスの個体数は科学者によれば“unknown”になります。

 

しかし、私のような素人が研究発表されたいろいろな記事から大胆に推定することは自由です。

人類以上の大量棲息が推定される野生のネズミは個体数がunknown(根拠のある調査資料が発見できませんでした)につき、とりあえず引き出しにしまいました。

 

また、うさぎについては推定7億とされています。(後述)

大変大きな数字ですが、小型の哺乳類であることと、野生のうさぎと家畜やペットとしてのうさぎとの区分が不明であることから、今回の調査からは対象外としました。

 

・・ということで、一部の小型哺乳類の存在には目をつぶって、比較的大型の地球上の哺乳類の個体数を大胆推定してみました。

 

地球の哺乳類の数 1位は人類、2位は家畜、3位はペット、4位は野生の哺乳類

地球上の哺乳類の個体数

 

 

 

 

 

 

上の円グラフをご覧ください。

大胆推定の結果、 地球上の哺乳類の個体数は人類が72億で全体の半分以上を占めて1位です。

 

2位が家畜哺乳類の50億で全体の36%を占め、3位がペットの15億で10%でした。

人類と、人類の飼育している家畜と、人類の飼っているペットを合わせると地球上の哺乳類140億の中137億5000万となり、全体の98.2%を占めています。

 

98.2%の残りはわずか1.8%です。

野生の動物はいったいどこへ行ったのでしょうか?

 

ある資料からヒントを手に入れて、大胆に推定した結果は野生哺乳類にとって残酷なものでした。

地球上に棲息している野生の哺乳動物は、すべての種を合わせても、わずか2億5000万頭しか生存していないという寂しい結論になってしまったのです。

 

これが大胆推定の結果です。

1位 人類 72.7億
2位 家畜 50億
3位 ペット 15億
4位 野生動物 2億5000万

 

計算の根拠となった統計の出所をご説明します。

人類の総人口、家畜の個体数はFAOの統計(2014年統計。2017年修正)からデータを取りました。

FAOは国際連合食糧農業機関で、データの数字は信頼がおけます。また、家畜の個体数には、犬と猫は食料ではないので、含まれておりません。

ペットの個体数はworldatlas.comのデータ(後述)から犬と猫の総数を合算しました。

 

問題は野生の哺乳類の個体総数をどのようにして推定するかでした。

大胆推定の論拠となったのは一つの記事でした。

 

2018年8月1日付けのWEF(ワールドエコノミックフォーラム)が発表したグローバルアジェンダ(行動計画)の一節からヒントを手に入れて野生哺乳類の個体数を推定しましたので、その原文を紹介します。

記事は名門大学の生物学者と生態学者を対象にした非公式な調査によって明らかになったこととしています。

 

長文ですが、WEFのアジェンダを原文のまま引用します。

地球史に人類が登場した時点から今日まで、地球の総生物量は半減しています。これは、農地や放牧地を作るために人間が森林破壊を行ってきたことに大きく起因しています。

こうした数字は、これまでに人類がどれほど多くの生物体を絶滅に追いやったかという事実・・(略)・・を新たに気付かせるものでした。過去数世紀にわたり、野生哺乳類の総数は何倍にも減少。今日の家畜哺乳類の総数は野生哺乳類の20倍です。娘と一緒に遊んだジグソーパズルには、ゾウとサイの隣にキリンが描かれていましたが、地球の野生生物の総数からはひどくかけ離れたイメージです。もし、現在の生物量を踏まえてこのイメージを考え直さなければならないのなら、そこには牛が描かれ、その隣に牛、またその隣に牛、そして豚、という何ら面白みもない絵柄であるべきだということになります。

 

ということで野生の哺乳類の頭数は“家畜50億×1/20=2.5億としました。

(注:文面から、ここで言う野生哺乳類にはネズミや野生のうさぎ、コウモリなどの個体数を補足できない小型哺乳動物は含まれていないと推定されます)

 

できあがった大胆推定の結果が指し示すものはグラフを一目見れば明らかでした。

人類の子供たちの友達であるべき野生の哺乳類は、人類に追いやられていまやレッドゾーンの状態だということです。

 

もう少しイメージを明確にするために、哺乳類の種類別の個体数を調べてみました。

 

地球上の哺乳類で個体数の多い種類ベスト10を調べてみた!

 

はたしてライオンや虎、象など子供たちの大好きな動物はベスト10に姿を現してくれるでしょうか?

worldatlas.comが2019年の3月に修正・発表した哺乳類の個体数の記事がみつかりましたので、個体数の多い順番に10位まで並べてみました。

  1. 人類   76億
  2. 牛    15億
  3. 羊    11億
  4. 豚    10億
  5. 犬      9億
  6. 山羊   8.6億
  7. うさぎ  7.1億
  8. ねこ    6億
  9. 水牛   1.7 億
  10. 馬    0.6億

worldatlas.comより)

哺乳類種類別個体数順位

 

 

 

 

 

 

 

棒グラフにしてみると人類が飛び抜けて個体数が多くて、野生動物は10位には顔を見せてくれません。

人類のつぎには牛や豚の家畜と犬や猫のペットが並んでいます。

 

うさぎが7位で個体総数も7億と多いのですが、先述のように補足しにくい小型の哺乳類であることと、野生のうさぎか、家畜やペットのうさぎかの区分がつきにくいことから、今回の調査の対象外としました。

(FAO出典の50億の家畜の中、うさぎは家畜として扱われず、数に含まれておりません)

 

水牛が9位にいますが、水牛も野生なのか家畜なのか区分が不明です。

リスとコウモリとネズミ類(mice,rat)は生息数不明となっています。

 

ということで・・

地球の哺乳類マップは、人類と人類の飼っている家畜と愛するペットたちで満員になってしまいました。

寂しい結論ですが、これが人類がもたらした地球の現実なのです。

 

まとめ

 

いま地球に生きている比較的大型の哺乳類の数は、人類と家畜とペットで98%を占めています。

ライオンやサイなど野生の哺乳類はいったいどのくらい生き残っているのでしょう。

 

“生物の多様性”はすでに失われたのでしょうか?

人類が地球の自然に大規模な変化をもたらしてきたことを指し示して、現代の地質年代は「人新生」と呼ばれています。

 

地球を我が物顔で独占している人類の世紀「人新生」は、次の世紀に何を残すのでしょう。

多様性の失われた自然界は人類の生存を許してくれるのでしょうか?

 

勝手な人類のおかげで、哺乳類全体のわずか2%に減少した野生の動物のことがとても心配になります。

次号では、子供たちの大好きな哺乳動物をピックアップして最新の棲息状況と頭数を調べることにしました。

(続く)

 

続きはここからどうぞお読みください。

「ワケあって僕たち間もなく絶滅します」ライオン・トラ・象・キリン・ゴリラはいま地球に何頭いますか?

 

ワケあって僕たちまもなく絶滅します②」チンパンジー、チーター、カバ、ホッキョクグマ、パンダはいま地球に何頭いますか?

追記1:バイオマスで見た哺乳類の総量

 

 

 

 

 

 

出典:地球上のバイオマス分布

https://www.pnas.org/content/115/25/6506

 

このグラフは地球上の哺乳類を個体数ではなく、重量でみた分布図です。

イスラエルのワイツマン科学研究所が2018年5月に地球上の生命体のバイオマス(重量:炭素量)を推計して発表したデータを基に編集しました。

先述のワールドエコノミックフォーラム(WEF)への寄稿もこの研究グループによるものです。

哺乳類の1位は家畜で、バイオマスは0.1GtC(ギガトン炭素)です。2位は人類で0.06GtC。野生の哺乳類は0.007GtCとなっています。

家畜が人類のバイオマスより多い理由の一つは、家畜が人間を大きく越えた重量を持つ牛と豚で主に構成されていることによるものと推定されます。

理由の二つ目は、ペットの犬や猫が家畜化された哺乳類として家畜に含まれていることが考えられます。

 

また、野生の哺乳類のバイオマスにはネズミ類などの小型の動物も含まれていると推測されます。

野生の哺乳類のバイオマス構成率は4.4%と、先述の個体数の推定値1.8%より増えていますが、家畜の総量は野生の哺乳類の14倍もあります。

バイオマスの比較でみても、野生の哺乳類が危機的な状況であることに何ら変わりがありません。哺乳類のバイオマスは人類と家畜が支配しているのです。

レポートによれば家畜家禽(鶏)のバイオマスも野鳥の総量の約3倍と推定しています。野鳥の生態系がどうなっているのか気がかりです。

 

追記2:日本の哺乳類とネズミの個体数

 

世界におけるネズミの個体数のデータは不明ですが、我が国のデータがありました。

相当古いですが、平成13年4月に行われた我が国の第2回生物多様性国家戦略懇談会に提出された推定資料を紹介します。

 

データのタイトルは「日本全国における各種哺乳類の推定個体数」です。

推定個体数は1位がアカネズミ、僅差で2位がヒトどんと離れて3位に野ウサギという結果です。

日本では野生のネズミであるアカネズミが個体数推定においてヒトを少し上回っていました。

ただし、アカネズミの体重は0.04kgなのでヒトの体重を70kgとして換算しますと、推定現存量(体重換算)ではヒトの0.05%程度になります。

 

いろいろな種類の野生のネズミが世界中に棲息しています。

さらに人類の生活圏で暮らす推定不可の数の家ネズミがいます。

 

地球規模でみてネズミが一番個体数が多い可能性を否定できません。

地球の哺乳類の個体数マップはネズミとヒトでほとんど満杯というひどいことになっているのかもしれませんね。

 

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