未来からのブログ4号 “ ザ・レストランで三色カクテル飲んで唄ったよ” 

僕の名前はタンジャンジャラ。

「ジャラ」って呼んでくれていいよ。

 

ジャラは君の時代から100年くらい先の2119年の世界にいるよ。

じつはこの世界からどんどん宇宙のエネルギーが盗まれてるんだ。

 

宇宙にエネルギーがないと生命は維持できないよ。

このまま行くと僕たちこの宇宙の生命体はみんな干上がってしまう。

 

エネルギーを盗んでるのは一体誰だ?

 

クラウドマスターから調査を依頼された僕とカーナの答えは、「犯人は過去の世界」だってことになった。

つまりさ、犯人は今もこのブログを読んでる君たちだってことなんだ。

 

どうしてそんなことわかったのかって?

そりゃ、今日の午後、海の入り江でとっしん爺ちゃんと「量子もつれ」で会話したからだよ。

 

海の入り江は僕とおじいちゃんを結ぶ時空のホットポイントだったのさ。

おじいちゃんのいた場所はマレーシアの秘境リゾート、タンジャンジャラだ。

 

そうだそこが僕の名前のルーツさ。

そのリゾートで、お爺ちゃんの遺伝子が、将来僕の遺伝子と「量子もつれ」の状態になるようにおばあちゃんに仕込まれていたんだよ。

 

それじゃ、おじいちゃんとの「量子もつれ」を使って、時間と空間を超えたテレポーテーション、つまり君との遠隔ブログ始めるね。

僕とカーナとはさみ男とサンタ・タカシの四人でこれからザ・レストランで対策会議するから、話の内容を君にどんどん報告するよ。

 

そうだ前回の報告まだ読んでない人は、ここから読んでくださいね。

未来からのブログ3号 “ 時空の入り江でおじいちゃんと量子もつれしたよ”

 

未来からのブログ4号  “ ザ・レストランで三色カクテル飲んで唄ったよ”

 

「おれ、まず納豆でビールだ!」にやにや笑いながらタカシの声が言った。

「納豆は大嫌いや、おれはらっきょで赤ワインや」サンタの声が言い返した。

 

サンタ・タカシが両手で自分の頭をぼかぼか叩いた。

未来居酒屋「ザ・レストラン」での出来事さ。

 

この状態、つまりサンタとタカシの遺伝子組み合わせたデザイナーズ・ベビー「サンタ・タカシ」の中で二つの遺伝子が喧嘩してるんだ。

君、知ってる?

 

浪速の芸人サンタは納豆が苦手で、お笑い芸人のタカシはらっきょが大嫌いだったってこと。

サンタ・タカシは二つの遺伝子の好き嫌いが激しくて、いつも喧嘩だよ。

 

サンタは子供の頃、毎朝大嫌いな納豆が出てくるので、家出までしたんだよ。

タカシはらっきょとエスカルゴが“オエー!”だったんだ。

 

食事の前のいつもの一人掛け合いセレモニーだ。

でもさ、100年後の今じゃ、納豆もらっきょうも超高級品で滅多なことでは手に入らないよ。

 

それじゃサンタ・タカシは何食べたのかって? 

決まってるじゃん。

 

タカシの好物ウナギどんぶりと、サンタの好物サンマどんぶりだよ。

一つずつ取って仲良く分けて食べたのさ。

 

もち、サンマもウナギも地球上から姿消したから、ザ・レストラン特注の金星ウナギと火星サンマだ。

クラウドマスターの生命エネルギーから作った人工ものだから、栄養はたっぷりだよ。

 

はさみ男は、宇宙牛の特大霜降り人工ステーキ注文して、ナイフの代わりにはさみ振り回してがっついてたよ。

「ギャッ!」って悲鳴上げたから、驚いて見たら、あいつあわてて自分のシザーで逆の手を切って、指から真っ赤な血が出てるんだ。

 

ついでにその血をうれしそうにステーキにドロップして、そこんところ切り取ってうまそうに食ってたよ。

「俺のステーキ、ソース自家製」とか言ってにやにや笑ったよ。

 

僕とカーナはボデイーを持たない一級頭脳労働者だから、ステーキみたいな下品なものは一切食べないんだ。

純粋のエネルギーでできた青と緑と黄色の三色カクテル、特大グラスを一つ注文して、二人で仲良くストローしてたよ。

 

三色が鮮やかな光の粒子となって、グラスの中で泳いでるんだ。

ジャラは青、カーナは緑を選んでストローで吸い込むんだ。

 

ジャラとカーナのほっぺたくっついて・・楽しいよ。

 

そしたらそこへ嫁のキッカが現れた。

嫁のキッカはエライ剣幕で到着したよ。

 

「カーナ!」って呼びつけて駆け寄ってきたんだ。

「キッカ!」カーナも名前呼び捨てだ。

 

カーナが椅子から跳び上がってキッカに飛びかかっていった。

可愛いレディー二人でジャラ奪い合いのとっくみあい始まるのかと期待したんだけどさ、予想は外れた。

 

嫁のキッカが、カーナのヘッドをやさしく開けて、ブレーンの匂いを嗅いだのさ。

「ジャラとしたのね?」

 

「したわよ」

カーナが答えた。

 

「で、どうだった?」

キッカが聞いた。

 

「まずまずってところだったわ。特に注意点はないけどさ、クロスポイントがすこし右にずれる。的外れってやつ。そこんところさえ修正できたら、大丈夫よ」

「わかった。悪いけど、ジャラを指導して修正しといてくれる?」

 

「良いわよ、次の機会にね」

カーナが答えてキッカと二人で長ーいハグが始まった。

 

「○○ッ××」(アマゾン奥地の原住民イゾルデの言葉)

「××っ○○」(アマゾン奥地の原住民イゾルデの言葉)

 

ジャラには二人の会話は理解不能だ。

多分、久しぶりの再会をアマゾンの森の神様に感謝している言葉だと思う。

 

二人はアマゾンの奥地で自然と融合して暮らしてたイゾルデの末裔で、二人は実の姉妹なんだ。

カーナはイゾルデの言葉で森のおさるさん、キッカはイゾルデの言葉で森のキツツキのことだよ。

 

アマゾンの自然が崩壊し始めた頃、二人はクラウドマスターに助けられて、宇宙センターの管理下にあるここへ逃げ延びてきたってわけ。

宇宙基地の難民管理センターにいた僕は二人と会って三人同時に一目惚れしたんだ。

 

これ運命ってやつ。

 

姉のキッカと僕はセンターにパートナー登録して、妹のカーナと僕はフリーの関係になったのさ。

・・で、キッカは僕の横に座って、彼女に残しておいた三色カクテルの最後の黄色をチューし始めたよ。

 

ジャラは二人に囲まれて幸せいっぱいになっていった。

カクテルのアルコールが脳のシナプスを気持ちよく循環し始めたよ。

 

そのうち、今度チャンスが来たら、絶対あれしたいな、と思った。

どれだって?

 

あれだよ、あれ、仲良く三人だよ。

良い気分になってきたのに、ジャラの妄想はシザーマンにもろくも破られた。

 

「それじゃ、打ち合わせ始めよう」

ビール二杯ででっかい宇宙ステーキ平らげたはさみ男が、ジャラジャラとシザー鳴らして立ち上がったんだ。

 

「どこからだっけ、ジャラ! 忘れちまったよ。海の入り江で、お前のおじいちゃんが何言ったのか、も一度聞かせてくれよ」

 

「カクテル飲み干すまでちょっと待ってよね」

ジャラはそう言って、三色カクテルのグラスの底をミキシングしたんだ。

 

それまで三人で上手に飲んでたから、きれいに青と緑と黄色に別れていた液体が、混ぜ合わされて色が変わった。

 

何色になったと思う。

オレンジだと思うでしょ。

 

違うんだ透明な白だよ。

これ光カクテルだから白になるんだよ。

 

美しいでしょう?

色はおいといてさ、お味の方だけど・・混ぜ合わせてどうなったと思う。

 

三人の唾液が絶妙にブレンドされてさ、恍惚のトリプルプレーの味だ。

・・あれ、いつの間にかジャラは立ち上がって唄ってたよ。

 

「♯心残りのプレーだもの、キッカとカーナの思い出にしたいよ♭」

思い出のサンフランシスコのメロデイーに乗せて唄ったよ。

 

キッカとカーナも一緒に歌い出した。

きみはこの曲、知ってる?

 

150年前の懐メロだよ。

「I left my heart in San Francisco」

 

どうして替え歌の舞台はサンフランシスコなのかって?

サンフランシスコにゲイが集まる有名なレストランがあってさ、そこのフリー・バーの牡蠣ってカーナやキッカみたいな素敵なレディーが大好きなお味なんだって。

 

「♯ハマハマ~、くまもと~♭」

この二つ、バーで出てくる、日本原産の小ぶりで引き締まった牡蠣のことだよ。

 

ジャラは食べたことないけどさ、きっと、ぷりぷりで、のどごしつるりだよ。

僕の可愛いキッカやカーナみたいにさ。

 

これみんなおじいちゃんの話さ。

気持ちよく歌い終わって座り直した僕のブレーンから触手のシノプスが伸びてカーナとキッカの可愛いニューロンに向かったよ。

 

「ジャラ、何妄想してる!」

サンタ・タカシの声でジャラは正気に戻った。

 

「では整理してみよう」

ジャラは潔く立ち上がって、会議のスタートを宣言した。

 

僕は海の入り江でつながった、おじいちゃんとの最後の会話を思い起こした。

「『未来の情報が知りたい』これがおじいちゃんの最後のセリフだったよ。

おじいちゃんは、きっと未来のことが心配だったんだと思うよ・・。

僕の爺ちゃんはどんな未来の情報が知りたいのかな? 

シザーマンはどう思う」

 

「そうだな、ジャラのクレージー爺ちゃんだからな。

競馬の勝ち馬聞いて金儲けしたいわけじゃなし。

ノーベル文学賞の小説、ストーリー聞いて盗作する気でもなさそうだし。

つぶれる国の名前聞いて逃げ出すのかな。

地球に逃げ出すとこなんてどこにもないのにな」

 

シザーマンが一生懸命考えながら、はさみならして答えてくれたよ。

「そうだ、お前の爺ちゃん、ジャラのこと心配してるんだよ。お前がどんな暮らししてるか知りたいのじゃないか?」

 

じゃらも一生懸命考えてた。

量子もつれを利用して、おじいちゃんが僕に何をして欲しいのかってことをさ。

 

僕はみんなに考えを述べたよ。

・・一つ、クラウドマスターは僕に過去からエネルギーを取り戻す方法を見つけ出せといった。

二つ、おじいちゃんは未来の僕を心配して、未来の情報をよこせといった。

三つ、カーナも過去のママとつながりかけた。

 

三つのことが今朝から同時に起こったんだよ。

これ単なる偶然とは思えないんだ・・。

 

「そうだよ、これ、おじいちゃんが僕に仕掛けた量子もつれのおかげで、過去と現在と、おじいちゃんと僕と、カーナとカーナのママと、もしかしたら未来までもつれ始めてるんだ」

未来まで”・・自分の言葉にジャラは不安になってきた。

 

「ジャラ、聴きたいことがある。よく考えて答えろよ。さっきお前“思い出のサンフランシスコ”唄ってたな。あのメロデイーどこで覚えたんだ?」

サンタ・タカシがいきなり、怖い顔して僕に質問したんだ。

 

「決まってるだろ。おじいちゃんのブログだよ」

「そのブログどこで見たんだ」

 

「管理センターのアーカイブ、電子図書館からネット検索して見つけた」

「いつのことだ」

 

「この間だよ、たしか『とっしんの雑学ルーム・未来からのブログ』ってタイトルだったよ。中身は白紙でこの歌だけ聞こえたよ」

「ジャラ、そのタイトル『未来からのブログ』だったのか?」

 

「そうだよ。『未来からのブログ』さ、きっとおじいちゃんの創作SFだと思うよ」

「ジャラ、待てよ。それもしかしてだ・・。お前がこれから過去に向かって投稿するブログじゃねーのか? 爺ちゃんとの量子もつれ使ってだ」

 

サンタ・タカシの言葉がジャラのブレーン突き抜けていったよ。

・・そういえばあの歌声、僕の声に似てた・・

 

ジャラは震えたよ。

すこし考え込んで、思いきった結論を出した。

 

「サンタ・タカシのいうとおりだ。ブログで唄ってたのこの僕だ。とすると・・僕はいつか近いうちに、あのブログ書くことになるんだと思う」

「ジャラ、早く書けよ。早く書いてそのブログに届けないといかんぞ。でないとお前の存在が消滅するぞ。ジャラのこと俺マジ心配してるんだ」

 

ジャラは驚いて自分のブレーンに触ったよ。

大丈夫だった・・僕のブレーン、まだ消えずに、ちゃんとついてたよ。

 

安心したジャラはサンタ・タカシの親切に御礼を言ったよ。

でもその時だよ、シザー打ち鳴らす音が近づいてきたのは。

 

「おっかしーんじゃねーの。その話」

はさみ男がしゃがれ声で割り込んできた。

 

「ジャラもサンタ・タカシも、その話、つじつま合わねーぞ。

ジャラまた嘘ついてるな。男どおしで嘘ついたら、あそこちょん切るぞ! 

まず第一にだ、ジャラが150年前の“思い出のサンフランシスコ”なんて古い曲、唄えるはずないじゃないか」

 

ジャラはシザーマンの言い方にむかっときたよ。

「僕が歌ったのを昔のブログで聴いてさ、それを僕がもう一度ブログに投稿して、ぐるぐる回ってどこがおかしいんだよ?  僕のいうことまた疑ってるのかよ」

 

「じゃ、いってやろう。お前一番最初どこからこの歌のメロデイー聴いたんだ。ブログに投稿する前にどこかから聴いてないと唄えない筈だろが・・」

 

はさみ男の目がつり上がってきた。

ジャラも確かにこの話のどこかがおかしいことに気がついた。

 

「一番最初がないみたいだ。僕は誰からもこの曲きいた覚えがない」

なのに、僕は爺ちゃんのブログに歌のタイトル書いて・・そのうえ唄ってる。

 

「時空のパラドックスよ! あり得ないことが起こってるのよ」

酔いの回ったキッカとカーナがそう言って、また思い出のサンフランシスコのメロディー唄い始めた。

 

・・はさみ男のいうとおりだ。パラドックスだ。そのうえどうしてキッカとカーナまでこのメロディー知ってるんだ・・

はさみ男に凄いこと指摘されて、ジャラは深く考え込んでしまったよ。

 

・・パラドックスのはじまりはどこだ・・。

「I left my heart in  San Francisco」

 

ジャラはもう一度唄ってみた。

僕は、どこかでだれかから、この歌のメロデイーとセリフを受け取ったはずだ。

 

それもごく最近のことだ。

しばらく考えて、ジャラはすべてを理解したよ。

 

「あっ! わかった、サンド・レターだ!」

ジャラは大声で叫んだよ。

 

「答えは、おじいちゃんが海の入り江で僕に手渡してくれたタンジャンジャラの白い砂だ。

あの砂はおじいちゃんから僕へのテレポーテーションだ。

白く光ってた粒子の中におじいちゃんからの情報が詰まってたんだよ。

僕の掌に残ってた最初の一粒が、グラスを持ったとき、三色カクテルの中に混じり込んだ。

そしてグラスの底に落ちた。

ミキシングしてカクテルに溶けた一粒・・それが“思い出のサンフランシスコ”だよ」

 

キッカとカーナが一緒に歌った理由がわかった。

ミキシングしたカクテルを二人もチューしたからさ。

 

白い砂はハンカチに包んで、僕のポケット・・つまりスーツマンのポケットに大事に治めてあるよ。

でもどうしておじいちゃんの大事の手紙の出だしが「思い出のサンフランシスコ」で「生牡蠣のハマハマ~と、くまもと~」なんだろう。

 

「ククッ!」ジャラは思わず笑ったよ。

この曲おじいちゃんのテーマソングで、生牡蠣も好物なんだ。

 

生牡蠣と女性と・・ぷりぷりでのどごしつるりが大好きなんだ。

これ、おじいちゃんからジャラへの御挨拶なんだ。

 

ジャラの趣味もおじいちゃんと同じだよ。

このテイスト、僕感動したよ。

 

「何ほくそ笑んでるのよ?」

キッカとカーナのブレーンにそっと伸びた僕のシナプスの先端を二人がきつくつねったよ。

 

・・それから僕ら五人がどうしたか、答えはわかるよね。

 

僕はポケットから白い粒子を包んだハンカチを取り出した。

次に5人用の特大カクテルとストローを五本注文した。

 

白い粒子を5分の1程、カクテルにそっと注ぎ込んだ。

正しくミキシングをして、五人で仲良くチューした。

 

そしたらおじいちゃんの声がみんなの耳に届いたよ。

「ジャラ元気にしてるかな? 可愛い彼女はできたかな? ハマハマか、くまもとかどちらかな? 子供はできたかな? 俺のひ孫に会いたいな」

 

サンド・レターの出だしのコメントが終わって、静かになったから、カクテルをもう一杯注文して、白い粒子の5分の1を注いだ。

正しくミキシングして、五人で仲良くチューした。

 

そしたらおじいちゃんの声が脳に響いたよ。

「俺たち、地球のエネルギーを使いすぎだと思う。これから生まれて来る君のことが心配だ。そうだ、ジャラの世界を詳しく教えて欲しい」

 

特大カクテルでジャラのお腹はチャプ、チャプして燃えてきたよ。

もういっぱい注文して、白い粒子の5分の1を慎重に注いだ。

 

ミキシングして、五人で仲良くチューした。

「つまりだ、未来のために俺にできることを教えて欲しい。そうだ、ブログ始めた。これ俺の唯一の武器だ。これとジャラを量子もつれさせようと思う。未来と過去とのクラウド・ネッワークだよ。ジャラ、どうだ」

 

僕の世界が回り出したよ。

~カクテルをもういっぱいちゅうもんして、のこりのりゅうしをぜんぶそそいだよ~

 

~手が震えたけどなんとかミキシングして、三人で仲良くチューしたよ~

~はさみ男とキッカはぶっ倒れて、床で抱き合ってたみたいだよ~

 

おじいちゃんの声がしたよ。

「世界に拡散したいから、できたらリアルな映像欲しいな。無理ならコメントでいい。方法はわかるよな・・サンド・レターだよ~・・」

プツンといって、声が消えていった。

 

そのあとのことはよく覚えてないんだ。

酔っ払ったはさみ男とサンタ・タカシをザ・レストランに残して、ジャラのスーツマンとカーナとキッカのスーツレディーが僕らを家まで運んでくれたみたいだ。

 

気がついたら、いつものベッドで右にキッカが左にカーナがいたよ。

そのあとのこともよく覚えてないんだ。

 

でもさ、キッカとカーナとジャラは唄ってたみたいだよ。

「I left my heart in San Francisco」

 

シノプス伸ばして仲良くニューロン絡ませながら三人で唄ってたみたいだ。

(続く)

 

続きはここから読んでくださいね。

https://tossinn.com/?p=1801

 

《記事は無断転載を禁じています》

 

 

この世の果ての中学校 9章 緑の小惑星テラ 誕生の謎

21世紀の末、生命の姿はどこにもなく荒廃した地球。

東京の一角に造られた閉鎖空間・巨大ドームで暮らす最後の人類、六人の中学生が逞しく生きていく物語です。

彼らは食料を求めて、宇宙探査艇HAL号で宇宙の旅に出ました。

 

宇宙の果てを突き抜けてたどり着いたところは、地球によく似た緑の小惑星。

そこに住む小さな森の家族はなぜかアマゾンの奥地の原住民の言葉を話しています。

しかし、その生活環境は荒廃した地球以上に過酷でした。

 

森の家族と小惑星はいったいどこから来たのか?

惑星テラ誕生の謎は解き明かされるのでしょうか?

 

前回のストーリーはここからどうぞ。

「この世の果ての中学校 8章 マーが森の家族の秘密を話した!」

 

  9章 緑の小惑星テラ誕生の謎

 

 森の家族の姿が消えると、はぐれ親父がみんなを呼び集めた。

「みんな今日はよくやった。この親父も感動したよ。それでだ・・・俺たちも森の家族に見習って今夜はここで野営することに決めた。火をおこして川の水で飯を炊くから、みんなで薪を集めてくれるかな・・・」

 

 はぐれ親父の指示で、生徒たちは川岸を歩いて乾いた流木を集め、焚火の準備をした。  

 焚火が勢いよく燃え上がると、マリエはみんなから離れて、川岸の大きな岩に腰を掛け、森に沈んでいく真っ赤な夕陽に向かって祈りを捧げる。

 

 ペトロが近づいていって、マリエの横に腰掛けた。 

「なにお祈りしてるの?」

 

 マリエが夕陽を指さした。

「ほらあれ見て、ペトロ! 夕陽が歪みに入っていくわよ。太陽の神様は、暖かい光をみんなに分け与えて命を育て、長い一日のお仕事が終わったら、あそこの歪みの中でゆっくりお休みになるの」

 

  ペトロは額に手をかざして夕陽を眺めたが、神様らしいお顔も、歪みらしいものも、何にも見えなかった。

 

 最後に夕陽が大きくふくれあがって、森の中に半分消えた。 

 ペトロは慌てて半分になった神様にお祈りをした。

 
 非常食のおかずと、飯ごうで炊きあげた熱々ご飯を食べ終えたころ、ほの暗くなった森から黒い影が二つ現れて、たき火のそばに近づいてきた。

 エーヴァが小さな足音に気が付いて振り返ると、黒い影が緑に変わり、クプシとカーナが姿を現した。

 

「先ほどもらった食料だけど、さっそく夕飯に頂いたわよ。とってもおいしかった。で、これほんの御礼の気持ち」

 そう言って、カーナがエーヴァに小さな果物の実を8つ手渡した。

 

 エーヴァがお礼を言うと、クプシが小声で囁いた。

「よく見て、よく聞いててよ、お土産に葉隠れの術を教えてあげるね」

 

 二人は背中から大きな葉っぱを取り出して、帽子の形に折り曲げ、チョンと頭に載せた。

 一言呪文を唱えると、二人は一瞬に黒い影に戻り、サッと身を翻して森の闇に消えていった。

 

 二人の消えたあとに、小さな可愛い葉っぱの帽子が二つ残されている。

 お土産の帽子はエーヴァや咲良には小さすぎて、ペトロとマリエの頭にぴたりと収まった。

 

 エーヴァが、8個の小さな黒い果実を生徒6人とはぐれ親父、ハル先生に一つずつ配った。

 みんなは果物の固い皮をむいて、取り出した果肉をゆっくり味わいながら食べた。

 

 果肉は少し酸っぱくて、ツンと頭に響いた。

 そのうち甘い食感が口中に拡がって、とても美味しかった。

 

「貴重な食料なのに、私たちにもお裾分けしてくれたのね」

 咲良がうるうる声で言った。

 

 ハル先生が黒い実を丁寧にハンカチに包むと、匠をそばに呼んだ。

「匠、この果実だけど、宇宙艇のカレル先生に急いで届けてくれないかしら?」

 

「代わりに、カレル先生に食べてもらうの?」

「違うの、すぐに分析器にかけて、調べてもらって下さい。もしかするとこの惑星の秘密が隠されているかも知れないから」

 

・・・この惑星の秘密だって?・・・

 好奇心がわき上がった匠は、ハル先生から黒い実を包んだハンカチを受け取ると、ポケットにしっかり収めて、暗闇を一気に走った。

 

 匠はあっという間に川を渡って、宇宙艇のデッキに駆け込んでいった。

 匠が野営地に舞い戻ってしばらくすると、ハル先生のナノコンからカレル教授の興奮した声がみんなの耳に届いた。

 

「ハル先生、驚かないでくださいよ。遺伝子鑑定の結果が出ました。これは地球のアマゾンの奥地に自生していた樹木の果実です。他の地域にはない稀少種ですよ」

 

 カレル教授の声が、一オクターブ高くなった。

「ハル先生!この惑星の植物層は、消え去った地球のアマゾンのもののようです」

 

「なんだよ! やっぱりそうだったのか。これだけ苦労して宇宙船でやってきたのに、ここは地球のアマゾンだったのかよ!」

 裕大がとぼける。

 咲良が裕大の頭をゴンと叩いた。

「冗談言ってる場合じゃないわよ。カレル先生はアマゾンの奥地がここへやってきたのかもしれないと言ってるのよ。もしかしたら、ここは宇宙を飛び越えてきた大アマゾン川の奥地なのよ」

「咲良、見事な回答だ。この果実がその証拠物件だよ。この星は地球から分離した小惑星テラだ。森の家族はアマゾンの原住民つまり巨人の末裔だ。巨人は生き残るために、共生と爆発を繰り返して小さくなったんだよ」

 
「教授、その結論、ちょっと待ってくれ」

 横からはぐれ親父が割り込んできた。

「カレル教授。その話矛盾してるぞ。それじゃ、俺が前にここで出会ったでっかい巨人はアマゾンからやってきたというのかね。奴らは俺の背丈のたっぷり十倍はあったぞ。教授、あんなでかい巨人が昔地球のアマゾンにいたとおっしゃるのかね!」

 

 カレル教授が静かに答えた。
「どうでしょう、こういう考えは・・・アマゾンの森の住人が宇宙に飛び出してから、親父さんと遭遇するまでの間に、親父さんの背丈が1/10に縮んだというのは」

 

「なんやと? 俺様がいつ縮んだんや・・」

 はぐれ親父が目をむいて怒り出した。

 

 慌てて教授が訂正した。

「それでは言い換えましょう。親父さんの身体だけが縮んだといってるんじゃなくて、ブラックホールのシンギュラリティ、つまり空間の歪みを通過した物体はすべてが縮小したり膨張したりするのじゃないかと・・・。前回の親父さんも気がつかないうちにあの歪みにやられて縮小したのかもしれないですぞ」

 

 カレル教授は、歪みを通過したときに、見事に形が歪んでしまった愛用のハットを、悔しそうに両手でつかみ直して、ぐいと頭を押し込んで、話を続けた。

 

「あの歪んだ空間が、通過する物体の形や、人間の意識や、時間さえも自由に弄んでいるという不可解な出来事に比べれば、この程度の矮小化は不思議でもなんともない。ごく小さな出来事だと思うのですが。でも、この話がお気に召さなければこう言い換えてもいいのですよ。

親父さんが縮んだのじゃなくて、アマゾンが歪みの中を飛んだとき、アマゾン全部がずんと10倍に膨張して巨人を作ったのだと。どちらでも同じことですが」

 

・・・あっ!こらあかん! 重症や。教授のおつむ、どっかへ突き抜けてもうとる・・・

 はぐれ親父はこれ以上カレル教授に逆らわないことにした。

「了解しました。教授。私はたしかに縮みました。立派に縮みましたよ」

 

 しかし、教授はしつこく話を続ける。

 

「親父さん、自分が縮小したことをまだ信じられないようなら最後に一言付け加えましょう。

みんなが食べた果実。あれは記録によればアマゾンのものに比べて10倍の大きさなのです。

前の森のデカい木立をよく見てください! アマゾンの木の10倍はあるはずだ」

 

 はぐれ親父は教授との会話を諦め、腰を上げるとあらためて薄暗くなってきた森を眺めた。

 森に近づいて確かめると、教授の言うとおり森の木は見上げるような巨木ばかりだった。

 

「えらいこっちゃ!教授の頭は正常のようだ」

  親父は頭を一振りすると、火の勢いが弱まってきた焚き火に大きな流木を一本加え、六人の生徒を前に翌日の計画を話した。

 

「明日は緑の第二惑星、テラ2に向かう。目的地まで二時間半の短いフライトだが、途中できっと、凄い発見に出会える筈だ。昨日よりさらにでかい歪みがあって、こいつはもう蓋を開けてのお楽しみ。明日に備えてぐっすり休んでくれ」

 

 生徒たちは、親父の話が終わる頃には焚き火のまわりで、深い眠りについていた。

 はぐれ親父と夜も眠らないハル先生が、朝まで交替で見張り番に付いた。

 

・・・歪みが私の大事な生徒達を宇宙船・ハル号丸ごと縮小させたかも、ですって? また誰かが宇宙のルールを変えたのかしら・・・

 ハル先生は歪みの中で自分の顔を真っ赤な光で射し貫いた、赤い顔の男を思い出していた。

 

・・・あんな失礼な男に負けてたまるかっての!・・・

 ハル先生は自らのボデイーである量子ナノコンを膝の上に置いて、コトコトと音を立て、宇宙の方程式の完成を目指して計算を続けた。

 

 
 翌日早朝に、はぐれ親父とハル先生に引率されて生徒たちが宇宙艇に戻ってきた。

 生徒たちは森の家族のために、野営地に自分たちの食料を少しずつ置いていこうと話し合ったが、はぐれ親父に厳しくたしなめられた。

 

「俺が昨日食料を差し出したのは緊張した事態を和らげるためだ。俺たちはこの星の住人ではない。単なる訪問者だ。この星には群れの家族達が数百人は暮らしているようだ。責任のない一過性の親切など何の役にも立たない。宇宙の旅の基本ルールだ。我慢しなさい」

 

 HAL号は宇宙に飛び出す前に、森の上でしばらくの間、騒々しい音を立ててホバリングをした。

 それは森の家族への別れの挨拶だった。

 

 森に動きが無いか、全員が宇宙艇の窓から眺めたが、群れの家族たちはどこにも姿を見せなかった。

「きっとまだ寝ているんだ。朝寝坊の家族なんだよ」

 

 ペトロが見えない森の家族に心を残して、窓から一人手を振った。

 HAL号は数回森の上を旋回してから、角度を上方に変え、一気に宇宙に向けて出発した。

 

 森の小さな家でファーとマーの間で眠りこんでいたクプシが、ホバリングの音に気が付いて目覚めた。

 クプシは家から外に飛び出して空を見上げた。

 

 朝の木漏れ日の中に、銀色の乗り物がみえた。

 乗り物の丸い窓にチカッと小さな人影が映った。

 

 クプシは必死で手を振った。

 ペトロらしい人影がクプシに気が付いたのか、窓から大きく手を振ってくれた。

 

 30分後、宇宙艇ハル号に非常事態のベルが鳴り響いて、はぐれ親父が生徒全員をキャビン後方に呼び集めた。

「今度の歪みは少しきついぞ。何が起こっても泣くんじゃない。俺の真似をしてシートにしっかり沈み込め。ベルトを締めて、シートから離れるな。お前達、俺様の変身をよ~く見ておけ。はぐれのお絵かき教室だ。いいか、作品の正体が分かったら大声を上げて答えろ!」

 

 はぐれ親父がシートを逆向きにして、生徒達と向かい合った。

 次に、シートの形を自分の体型に変形させて潜り込んだ。

 

 生徒達もはぐれの真似をして、身体をフィットさせながらシートに深く沈み込んでいく。

 

 空間の歪みは静かにやって来た。

 宇宙艇に侵入してきた膨大なエネルギーが生徒達の身体を内側から侵食していく。

 

 エーヴァと匠の脳髄がぐにゃりと変形して頭を抜け出し、ぷかぷかと空間に漂い出した。

 二人の意識が錯乱して交錯し、妄想となった。

 

「匠の脳みそ、フルーツポンチ!」

 エーヴァがからかった。

 

「エーヴァのブレーン、ところてん!」

 匠がやり返した。

 

 はぐれがにやりと笑って、変身を開始した。

 その顔は細長く歪み始めた。

 

 斜めに顔を傾けた若い女性。

 その目は青く塗りつぶされて、大事な人を失った喪失感が漂い、悲しく見える。

 

「モジリアーニの奥様!」

 マリエと咲良とエーヴァが叫んだ。

 

 はぐれの顔が黒く小さくなって、口が大きく縦に開いた。

 その顔はなにかに怯えて叫んだ。

 

 自分の悲鳴を聞きたくないのか、両手が耳を塞いだ。

「ムンクの『叫び』」匠と裕大とペトロが叫んだ。

 

 歪みに引き裂かれたはぐれの肉体が崩壊していく。

 親父の身体は椅子の部品と共に、細かく散らばって、空間に浮遊した。

 

 困った親父は両手で散逸した自分の身体をかき集めた。

 顔にひげを付けてピョンと先っぽを跳ね上げた。

 

 シートの背中が時計になって、半分がぐにゃりと歪んで生徒にお辞儀をした。

 散らばったパーツが四角い帆布のキャンバスに吸い込まれて、乱雑な構図を作り上げた。

 

「ダ~リ!」

 六人の生徒たちが足を踏みならして、一斉に叫んだ。

 

 はぐれ親父の目の前では、六人の生徒たちの肉体が七色に輝く断片となって砕け、空間を浮遊していた。

 親父は生徒の魂まで歪んで壊れてしまわないように、自作自演の名画展で笑わせることで、生徒たちの意識を現実につなぎ止めていたのだった。

 

 いきなり時空の嵐は去り、宇宙艇に静けさが戻った。

「ショータイム。ジ・エンドだ!」

 

 はぐれ親父がシート・ベルトを外して、勢いよく立ち上がった。

 宇宙艇の前方スクリーンには第二惑星テラが姿を現していた。

 

 降り注ぐ太陽の光線を厚い空気の層がはね返して、惑星は深い碧色に包まれている。

 はぐれ親父がまぶしそうに目を細めた。

 

「数年前のことだ。俺は第一惑星テラの巨人の手を逃れ、命がけでこの星にたどり着いた。

 途中、地獄の歪みを一人乗りのスペース・モバイルで耐えた。

 むかしの楽しかった記憶を引っ張り出して、頭がおかしくなるのを防いだ。

 漂着したこの惑星には巨人は一人もいなくて、俺と同じ背丈の種族が棲息していた。

 エドという少年が傷だらけの俺をみつけて手当てをしてくれたんだ。

 俺はここで数日を過ごして、元気を取り戻したんだよ。

 エドには本当に世話になった」
 

 そう言って、はぐれ親父は近づいてくる緑の山々を懐かしそうに見つめた。 

 

(続く)

続きはここからどうぞお読みください。

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《記事は無断転載を禁じられています》

未来からのブログ3号 “ 時空の入り江でおじいちゃんと量子もつれしたよ” 

僕の名前はタンジャンジャラ。

みんなは「ジャラ」って呼ぶよ。

 

変な名前だって?

でも、僕は気に入ってるんだ。

 

じつは、この名前に僕のルーツが隠されてるんだ。

僕たち四人は今、海と山の両方が見える入り江に向かって、走ってる。

 

そこが僕のルーツとクロスする時空のホットポイントなのさ。

入り江についたら、きっとなにかが起こるよ。

 

そして君と僕がこのブログで《量子もつれ》始めた理由が明らかになるんだ。

 

《量子もつれ》はわかる?

僕も原理はよくわからないけど、「アインシュタインも信じられなかった“奇妙な遠隔作用」テレポーテーションのことだって、クラウドマスターが言ってたよ。

 

それじゃ、時間と空間を超えたテレポーテーション、遠隔ブログ始めるね。

 

前回の話まだ読んでない人は、ここクリックしてくださいね。

未来からのブログ2号「今日はザ・カンパニーでとなりのカーナと浮気したよ」後編

 

未来からのブログ3号 “時空の入り江でおじいちゃんと量子もつれしたよ” 

 

「ジャラジャラ! ただ今目標に到着!」

スーツマンが気持ちよく昼寝していた僕をたたき起こした。

 

「カナカナ~ 入り江ですよ・・」

スーツレディーがやさしくカーナを揺り起こした。

 

「イエーイ!」

サンタ・タカシとシザーマンが僕とカーナの肩の上から飛び降りた。

 

僕たち四人は、仲良く並んで入り江の奥の絶景ポイントから、夕暮れの海と山を交互に眺めたよ。

陽が傾いて、海の上の太陽がおおきく膨らんでた。

 

夕陽に照らされて、山の斜面が赤く染まっていったよ。

しばらくすると、山につながる近くの木立が、騒ぎ出したんだ。

 

“ざわざわ”って熱い風が山から吹いてきて、カーナの頬を撫でた。

「そろそろ来るわよ!」カーナが悲鳴みたいな声をあげた。

 

海を見ていた僕は驚いてカーナを振り返った。

カーナはどんな小さな動きも見逃さないように、身じろぎもしないで山を見ていたよ。

 

熱い風にカーナの髪の毛が揺れてた。

背中は夕陽に照らされて、赤く燃えてた。

 

しばらくして、カーナの後ろ姿が細かく震えだしたんだ。

「来たわね、私を呼んでるのね」

 

そう言って、カーナが両手を山の方に突き出した。

誰かの手をつかみ取るみたいにだよ。

 

その時だよ、夕陽が海に落ちたのは。

ふくれあがった夕陽が水平線に消える一瞬、海と山が真っ赤に燃え上がったんだ。

 

カーナのスーツが飛び散って、ボデイーがあらわになった。

背中の白い肌が、夕陽を映して燃え上がるようだったよ。

 

カーナの必死に伸ばした手が、なにかをつかむのが見えた。

「ママ・・ママなの?」

 

カーナの泣き出しそうな声が、風に乗って僕のブレーンに直接響いたよ。

その時だよ、真っ赤な海が僕を呼んだ。

 

「ジャラ、俺だ! 手を出せ! ジャラ、俺の手をつかむんだ」

 

僕の頭の中で、あの声が聞こえたんだ。

朝と昼に聞こえたのと同じ、懐かしい声だ。

 

ジャラはスーツを脱ぎ捨てて裸になった。

そして波に向かって両手を突き出した。

 

昔、本当の手があったときの感触を思い出して、スーツマンの手を思い切り伸ばしていた。

 

そしたらさ、波が手の形になって僕の両手をつかんだんだ。

ジャラも波でできた手を、必死でつかんだよ。

 

差し出された手は熱く燃えていたよ。

「よくやったぞ、ジャラ。俺が誰だかわかるか?」

 

波がそう言った。

ジャラにはその声の主が誰だかすぐにわかった。

 

「おじいちゃんでしょ」

ジャラにはわかったのさ。

 

・・こんなおかしなことできるのは僕のおじいちゃんに決まってる・・

おかしなブログにクレージーSF書いてたおじいちゃんだ。

 

「ジャラ、大あたりだ。こちらおじいちゃんだ! お前に仕掛けておいた“量子もつれ”・・大成功だ! 聞こえるかジャラ?」

「聞こえたよ、おじいちゃんの声。今どこから騒いでるの?」

 

「驚くなよ、こちら100年前の世界だ! 

場所は“タンジャンジャラ”だ。

海と山に囲まれたマレーシアの秘境だぞ。

お前のおばあちゃんと一緒にやって来た。

ここでお前のママを仕込んだんだよ。

昨日の夜、ベッドで、俺のDNAに隔世遺伝で量子もつれするように、ちょっとした細工しといたんだ。

よく聞いてくれ! 

じつはお前に頼みがある。

未来の世界の情報が欲しい・・○○××・・」

 

声に少しずつノイズが混じりだした。

「おじいちゃん、聞こえにくいよ。もつれが外れるよ」

 

「ジャラ、、お前のDNAが量子もつれの受発信装置だ。俺のブログと未来のジャラがテレポーテーション・・○○××・・」

・・ざざー、プツン・・といっておじいちゃんの声が消えていった。

 

僕の手の中から、おじちゃんのなんだか“ざらざらした”手のぬくもりがどこかへ消えてしまったよ。

気がつくと、夕陽が水平線に消えて、日暮れが近づいていた。

 

「誰と話してたの?」

遠くからカーナの声が聞こえてきて、僕は我に返ったよ。

 

「僕のおじいちゃんだ。ジャラの生まれるずっと前の若いときのおじいちゃんだよ」

目の前にカーナの顔があって、その目が潤んでいたよ。

 

「ジャラはおじいちゃんと“もつれ”に成功したのね。カーナはもう少しのところで切れちゃった。あれ間違いなくママの声だったのに・・」

 

悔しそうなカーナの声を聞きながら、ジャラは考えたよ。

・・おじいちゃんの言いかけた“俺のブログ”とテレポーテーションって、どういう意味かって・・。

 

「さっきから、二人ともなにをぶつぶつ言ってんだよ。いきなり人前で服脱いでよ、いつの間にかまた服着てるじゃないか。一瞬の間に二人でなにかいいことしたな?」

サンタタカシが疑わしそうな顔して、ジャラとカーナの顔覗き込んだ。

 

「ジャラ、お前、“おじいちゃん”とか言って、海に手を突き出してたぞ。あれなんの真似だ? 過去とつながって、おじいちゃんと話してたなんておおぼら吹いたら、このはさみが許さねーぞ!」

はさみ男がシザーハンドを僕の顔の前でチャカチャカ揺らした。

 

ジャラは仕方なく疑い深い二人に証拠の品を見せたよ。

「ほら、これ見てよ」

 

僕は両手を上に向けて、掌をゆっくりと開いた。

両方の掌の上に、透き通るような真っ白い砂粒が残ってたんだ。

 

細かい砂粒が夕陽の残照を浴びてきらきら輝いてたよ。

「おじいちゃんの“手土産”。これタンジャンジャラの浜の砂粒だよ。僕の名前の由来の場所、マレーシアの秘境だ。多分ここと同じ海と山の交差点、ホットクロス・スポットさ」

 

「それ“量子もつれ”・・か」

はさみ男とサンタタカシが砂粒を一粒ずつ大事に指に挟んで調べた。

 

「本物だ!」

二人が唸るように吠えて、それから頷いた。

 

そりゃそうだよ、僕たちの前に広がる入り江の浜の砂粒ときたら、茶色や赤茶色それに黒っぽい灰色しかないもんね。

白い砂浜と白い砂粒なんて、いまはネット漫画の世界でしか見られない宝物だよ。

 

「で、これからどうしよう?」

ジャラはカーナとサンタタカシとはさみ男に今後のことを相談したんだ。

 

“うーん”サンタタカシが唸りながら答えた。

「腹減った。どっかでめしにしようか?」

 

「そうだキッカ姉さんも呼ぼうよ。ジャラとキッカ姉さんの夜食を強奪したお二人のおごりでね」

カーナが最後を仕切って、四人はスーツマンとスーツレディーに分乗して帰途についたんだ。

 

カーナは走りながらジャラにいろいろ質問してきたよ。

「さっきの話だけど、おじいちゃんのブログをジャラは読んだことがあるんだって?」

 

「そうだよ。タイトルは“未来からのブログ”さ。昔のネットのアーカイブから読んだことがあるんだ。でもさ、いまわかったよ。・・あのブログは僕が書いたんだ」

ジャラがそう言った。

 

「おじいちゃんのブログをジャラが書いたって、どういう意味なの・・なんの話?」

カーナが不思議そうに聞いたので、ジャラは正直に答えたよ。

 

「これから僕が書くブログの話だよ」と。

・・そうさ、いま君が読んでるこのブログのことさ・・

 

 (続く)

 

続きはここから読んでくださいね。

https://tossinn.com/?p=1515

 

《記事は無断転載を禁じられております》

この世の果ての中学校 8章 マーが森の家族の秘密を話した!

 地球に残された六人の中学生が食料を求めて、ハル先生達と宇宙の旅に出ました。

 緑の惑星でハル先生を襲った森の家族のファーとマーは、裕大と匠の電子銃で撃たれて倒れます。

 ファーとマーはなぜハル先生の姿を擬態して襲ったのか?

 この章で森の家族の恐ろしい秘密が明らかにされます。

 

前回の話はここからどうぞ。

この世の果ての中学校  7章  ハル先生が森の家族に食べられた!

 

8章 マーが森の家族の秘密を話した!

 

お話しなければならないことがあります

 そう言って、 マーは自分たちの境遇を静かに話し始めた。
 

・・・この惑星には緑の山ときれいな川があります。私たちは飲み水には不自由しませんが、食べるものがほとんどないのです。

 葉っぱや、木の根っこ。

 年に一度の花の蜜や、堅い果実や、小さな昆虫の他には食料がありません。

  生まれた子供は、年を経るごとにだんだんと弱っていきます。

 そして消滅する運命を予感すると、その子は光り出すのです。

  自らの魂を残すために、終わりを迎えた蛍のように光ってそのことを仲間に知らせているのです。

 それを知った元気な子がその子とそっくりの擬態をして、光る子の魂と肉体を受け継いでいきます。

 わたしたちはお互いを分かち合う以外、生きていく方法が無いのです・・・

 

 マーの目から涙が溢れ出て、地面にこぼれ落ちた。

「ノモラとして魂と肉体を分かち合うことは、私たちにとって命を繋いでいくための崇高な儀式です。私たちはあなた方と出会って、姿をまねて親しい友達であることを先に伝えました」
 

 マーはハル先生を指さした。

「あなたはファーに《ノモラ》と言いました。

 そしてあなたが身体から光を放って、光の子であることを私たちに伝えたからファーはあなたの魂を救おうと決めたのです。

 ファーはあなたにそのことをなんども伝えて、確認をしました。

 それなのにあなた方は私たちを武器で撃ちました。

 あなた方はとても怖ろしい人たちです」
 

 マーの言葉を伝えるエーヴァの声は震えていた。

 

「でも、あなた方は光る子ではなかった。私たちの生き方は、あなた方に理解できることではなかったのです」

 六人の生徒とハル先生は身じろぎもせずにマーの話に耳を傾けた。

 

 聞き終わったとき、裕大も咲良も、匠もエーヴァも、ペトロもマリエも、その場で凍り付いた。

 生徒達は森の家族の姿に、自分たちの未来を重ね合わせていたのだった。

 

・・・

「みんなもう森に帰ろう」

 そう言ってふらりと立ち上がったファーのからだが揺れて、地面に倒れ込んだ。

 

 ファーは地面に大の字になって、空を見上げ・・・「うおーっ!」と吠えた。

 

 ファーは悔しかった。

 銃で撃ち倒され、森の家族の父親としての威厳はどこかに吹き飛んでしまった。

 

 マーも立ち上ろうとしたが、足がもつれ、ファーの隣に倒れ込んだ。 

 キッカとカーナとクプシが心配そうに駆け寄って、二人の横の地面に寝っ転がった。

 

 森の家族は、車輪のスポークのように頭を中心に向け、輪になって手をつないだ。

 五人は蒼い空を見上げたまま、口をきかず、動こうとしなかった。 

 

「クプシ、教えて! みんなで何してるの?」

 エーヴァがそっとクプシに近づいて小声で尋ねた。

 

「これって、森の儀式なんだよ」

 クプシがぼそっと答えてくれた。

 

「みんなで手をつないで、ファーとマーを元気にしてるんだ。ファーとマーはさっきのことで頭に来てるみたいだから、しばらく話しかけない方がいいよ」

 クプシはファーとマーに聞こえないように小声でささやく。

 

 エーヴァはハル先生にクプシの言葉を伝えた。

「先生、これって森の儀式だそうです。ファーとマーは頭にきて、ふてくされてるからしばらく放っておいてくれって・・・クプシが言ってます」

 

「ファーとマーが子供みたいにふてくされてるっていうの?」

・・・それでわかったわ!・・・

 

 ハル先生は、ファーとマーが父親と母親の役割を務めているだけで、キッカやカーナと同じくらいの子供であることにはじめて気が付いた。

「エーヴァ、この人たちみんな同じ年くらいの子供なのよ」

 

 ハル先生は寝っ転がったまま動かない森の子供たちを横目で眺めた。

 次に、ジャケットからナノコンを取り出して、事態を打開するための答えを求めて検索を開始した。

 膨大なデータのどこを探しても参考になりそうな事例はなかった。

 「GIVE UP!

 一言発して、ハル先生はナノコンを地面に置いて腕を組み、深く考え込んでしまった。

 見かねた咲良が解決策を見つけた。

・・・昔、カレル先生の実家で大きなワンコと会話を始めた小さなマリエを思い出した・・・

 

「こら、神の子マリエ。ここあなたの出番だよ! 突っ立ってないで早くなんとかしなさい」

 

 咲良はマリエのおしりを押して、森の家族のサークルの中に無理矢理、押し込んだ。

 ファーの足を踏んづけそうになって、慌てたマリエが転んでしまって、そのままファーとマーの間に横になった。

 

「あらごめ~んなさい。お邪魔かしら?」

 マリエが一言、ご挨拶して二人と手をつないだ。 

 サークルの家族が一人増えて、森の子供たちが思わず笑った。
 

「マリエ、今よ、あれ、あれを使うのよ!」 

 咲良が自分の首の辺りを指さしていた。

 マリエには咲良の意図が読めた。
 

 「みんな、これからいいことするから森に帰るのちょっと待ってね!」

 

 マリエは緑のジャケットの中から、首にかけておいたお守り袋を取り出した。

「これは森の神様への聖なる捧げ物よ。とっても元気になるの」

 

 マリエがお守り袋から怪しげな小瓶を取り出したのを見て、ファーとマーが這って逃げようとした。

 逃げる二人を追いかけて、マリエはファーとマーの顔に素早く香料を振りかけた。

 

 スパイシーな香りが二人の鼻をツンと突く。

 太古の森の清々しい樹液の香りが、ファーとマーに遠い故郷の森を思い出させた。

 

「素敵な香りね!」

 ファーとマーは、ゆっくりと立ち上がって、両手をぐーんと空に伸ばす。

 キッカとカーナとクプシがマリエに近づいてきて、小瓶を指さしたので、マリエは三人の顔に残りの樹香を一振りした。

 サークルがほどけて、立ち上がった森の群れはいつもの陽気な家族に戻っていった。

 

 ファーとマーがハル先生にそっと近づいていった。

 ファーがハル先生の鼻をつまんで、マーは先生の耳をぎゅっとひねった。  
 

「ハル先生の顔はどうしてそんなに光るの」とマーが尋ねる。

 

「わたし、お肌が光るお化粧してるのよ。でも《光る子》と違って、弱ってるからじゃないの。先生お化粧上手じゃないのよ」
 

 エーヴァが通訳して、ファーとマーが笑い出した。

 

 二人は自分たちの勘違いに気がついて、ハル先生に噛みついたことを謝った。

 

「俺たちもファーとマーに謝ろうぜ」

 裕大と匠が、ファーとマーに頭を下げ、勘違いして電子銃で撃ったことを謝った。

 

 誤解が解けた二つの群れの子供たちは、お互いの姿をみて笑いあった。

 

「可愛い髪飾りね」咲良がキッカの髪飾りに触れた。

 キッカが森の葉っぱで作った髪飾りを外して、咲良の黒髪にくっつけた。

 

 咲良がお返しにガラスのイヤリングを片方外して、キッカの耳にくっつけた。

 掌を太陽に向けて咲良が「いくわよー」と叫んだ。

 

 咲良は太陽の光線を掌で反射させ、キッカの耳のガラスを通過させてキッカの横顔に当てた。

 キッカの顔に7色の虹ができた。

 

 七色の横顔を見て森の家族がキャッキャッと笑った。

「お返しに、みんなで森の生き物を見せてあげる」

 

 キッカがアマゾンのキツツキの素早いリズムを口ずさんだ。

 ファーが身体を揺すって森の歌を歌い、みんなで合唱した。

 

 キッカが緑の葉っぱの帽子をどこかから取り出して、頭に被る。

 キッカの身体が光り出して、輪郭が崩れ、新しい形が現れた。

 

 それはキツツキになって、せわしなく木の幹を突っついた。

 
 クプシは呑気なアルマジロに変身して、四つん這いになって踊った。 

 カーナが愉快な手長猿になって、小さな木の枝に片手でぶら下がった。
 
 

 森の子供たちが、大笑いしている生徒たちを踊りに誘った。

 早いテンポと森のリズムで、みんなが踊った。

 

「巨人はどこに行ったの」

 ペトロがくるくる回りながら、カーナに聞いた。

 

「いまは魂になって、みんなの体の中で生きているの」

 一回転してカーナが自分の胸を指さした。

 

「大きな巨人の魂が小さなカーナの胸の中にあるの?」

 ペトロが首をかしげた。

 

「そんなことも知らないの? 魂に大きさはないの。

だから何人でも一つの身体で一緒に暮らせるの」

 

「沢山の巨人の魂が、一人の巨人の中に集まっていったんだ」

「そういうこと。そして最後の一人になると、その巨人は山の頂上に登って爆発したの」

 

 カーナは小猿に変身して、巨木に跳び上がった。

 一番高い枝に登り詰めると、両手を空に伸ばして、「バン!」と叫んだ。

 

「そして小さな私たちがいっぱい生まれた」 

 キッカとクプシが口を揃えて叫んだ。

 

・・・

 川の浅瀬から、緑の服を着た一人の男が現れた。

 男は体を小さく丸めて、何気なく仲間に加わり、踊り始めた。

 

 男はハル先生にそっと近づくと、「私ですよ」と耳元で囁いた。

 驚いて振り返ったハル先生に「静かに!」と唇に手を当てた。

 

 男は、はぐれ親父だった。

「驚かないで。実は浅瀬に隠れて様子を見ていました」

 

 はぐれ親父はひそひそ声で喋った。 

「ファーが《ノモラ》と言ったときには、跳び上がりましたよ。

 前にこの惑星の巨人たちが『ノモラ』と言って仲間を襲っていたのを思い出したのです。

 この森の家族が巨人の末裔だったとは驚きました。

 先生に逃げ出すように大声で叫んだのですが、間に合わなかった。

 それでも噛みつかれたのがハル先生で助かりましたよ。

 あれが生徒だったらただ事ではすまなかった」

 

 話し声を聞きつけたファーが、はぐれ親父に気が付いた。

「何者だ!」ファーの声が森に響いた。

 

「怪しい者ではない。《ノモラ》だ。名は『はぐれ』・・・少しだが非常食を持ってきた」

 

 はぐれ親父はファーに近寄り、乾燥食と塩を入れた小袋をファーに手渡した。

 それは異なる種族への親睦の印だった。

 

 ファーは中身を確認すると、マーにもそれを見せた。

 マーが喜んで跳びはねた。

 

 ・・・巨人に襲われたはぐれ親父の話から始まって、緑の森の生活や、地球の厳しい環境やドームの中の生活まで、話が続く。

 

あっという間に午後の時間が過ぎていった・・・

 

「そろそろ森の家に帰る時間だ!」

 夕日が傾いたのに気がついて、ファーがあわてて家族を呼び集めた。

 

 帰りを急ぐ事情をマーがハル先生に説明した。

「エネルギーを節約するために、いつもは午後の暑い時間を涼しい森で寝て過ごしているのです。

 いまは昼寝の時間がとっくに過ぎて、まもなく日が暮れます。

 夕食は先ほどの食料を早速みんなで頂くことにします。

 とても楽しみです。

 その後は、遊びすぎた子供たちを早く休ませないといけません。

 明日は早朝から家族全員で、森の仕事に出かけます」

・・・

 地球の子供たちと惑星の森の家族は、抱き合ったり、ほっぺたにキスしたり、頭をたたき合ったりして別れを惜しんだ。

 宇宙の旅の別れには、「再会」と言う言葉はなかった。

 

 始めて出会った二つの惑星の子どもたちも今そのことを知った。

 生徒たちが見送る中を、五人の家族は森の家に帰って行った。

 

 大きな木立の中に姿を消す前に、森の家族が全員で振り返った。

 そして、最後の別れの手を振った。

 

 生徒たちとハル先生も思い切り手を振って応えた。

 

 (続く)

続きはここからどうぞ。

この世の果ての中学校 9章 緑の小惑星テラ 誕生の謎

 

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クリント・イーストウッドの「運び屋」観てたら、となりの席の爺ちゃん泣いてた!

公開の初日に近くの映画館に行って、クリント・イーストウッドの最新作「運び屋」を観てきました。

映画のラストで横見たら、となりの席の爺ちゃんがめがねを外してハンカチで涙を拭いていました。

 

わたしも、なんだか身につまされて「うるうる」が来ていたのです。

映画では、88才のクリント・イーストウッドが、実在したという90才のドラッグの運び屋を演じていました。

 

この演技、「二歳の老け役」だって対談で誰か冗談言ってたけれど、演技と言うより自然に近いのかもしれません。

イーストウッドの生き様そのものの映画みたいです。

 

男の哀愁は背中に出るっていいます。

イーストウッドも背中がずいぶん丸くなったけれども、前作の「グラン・トリノ」よりさらにかっこよく老けてましたよ。

 

前作の「グラン・トリノ」から10年、その前の「ミリオンダラー・ベイビー」から14年たちました。

もうクリント・イーストウッドの主演監督映画は観られないかもしれないと思っていたら、「運び屋」がやって来ました。

 

イーストウッド最後の作品、かもしれない「運び屋」。

ストーリーをすこしだけ紹介させてくださいね。

 

ドラッグの「運び屋」は家族に見捨てられた90才のアール爺さんだった

 

運び屋アールとパトロール警官

 

 

 

 

 

 

 

 

プロローグはアメリカの片田舎のシーン。

小さな農園で一人で花を栽培する主人公アールは、一日しか花開かない「デイ・リリー」を育てています。

 

この花はユリに似た花で、一日だけ咲いて夕方にはしぼんでしまいます。(注)

「だから、そのときを迎えるまで、大事に育ててやらないといかんのだよ」

 

アールは花の品評会で、そう言いながら来場者に「Day Lily」を一枝ずつ配っています。

アールの花は品評会で優勝してカップが渡されるのですが、肝心の売れ行きはもう一つです。

 

 

品評会でDay Lily を配るアール

 

 

 

 

 

 

 

 

このプロローグのシーンはアールと家族との未来を象徴しているようにみえます。

大事なユリを育てることに熱中したアールは、なんと、娘アイリスの結婚式に出席することもせず、家族との絆は切れてしまうのです。

 

一日しか花が咲かないユリを育てたために、娘アイリスの人生でもっとも大事な一日を欠席するのです。

この事件で、アールと妻のメアリーとの関係も決定的になります。

 

アールにとって仕事とつきあいは生きがいでした。

でも家族を愛していないわけではありません。

 

「家にいても何をしたらいいのかよくわからなかった」

いいわけめいたセリフが反省と共にあとのシーンで出てきます。

 

このセリフは俳優と監督の仕事でいそがしかったイーストウッドの反省の言葉かも知れません。

娘アイリスを演じているのはイーストウッドの実の娘アリソンです。

アリソン・イーストウッド

 

 

 

 

 

 

イーストウッドは実生活の懺悔の気持ちを込めてアリソンを起用したのでしょうか。

 

「仕事ばかりして、家族をほったらかしにしていないか?」

これは映画の後半で麻薬捜査官との会話の中で、アールが捜査官を諭すセリフです。

 

アールの懺悔の言葉であり、イーストウッド本人の言葉のようにスクリーンから聞こえてきましたよ。

 

アールは仕事と社会とのつきあいを優先する陽気な男ですが、携帯電話でメールを打つことができないオールド・ボーイでもありました。

ネット販売から取り残されたアールの花の商売はうまくいかず、農園は差し押さえられてしまいます。

 

アールの農園と差し押さえの看板

 

 

 

 

 

 

 

 

月日がたって、孫娘ジニーの結婚式が近づいたある日、ジニーのお祝いパーティーにアールが顔を出します。

アールは孫娘の結婚にお祝いの一つも贈ることができていません。

 

ジニーはアールが来てくれたことに大喜びしますが、妻のメアリーと娘のアイリスが現れて、たちまち雰囲気は怪しくなり、アールは寂しくその場所を立ち去ります。

アールが家財道具一式を載せたおんぼろトラックに乗り込もうとしたとき、何気なく近づいた男がいます。

 

「街から街へ車で運ぶだけのいい仕事があるよ」

アールの窮状を見抜いた男の誘いの言葉でした。

 

孫娘の結婚式のためにどうしても金が欲しいアールは、この男の話に乗ってしまいます。

アールは何も知らないうちに、後戻りができない運び屋の世界に一歩を踏み出してしまうのでした。

 

アールが街から街へ旅をする度に、封筒に入った報酬のドルの札束が増えていきます。

90才のアール爺さんをドラッグの運び屋だとは麻薬捜査官も気がつきません。

 

気のいいアールは困った人達にどんどん稼いだ金をばらまいていくのです。

陽気なオールド・ボーイが、十億を超えるドラッグのスーパー運び屋に変身していきます。

 

・・「運び屋」はちょっと不思議な映画です。

シリアスなテーマなのに、なぜか軽く明るいのです。

 

麻薬捜査官に追い詰められ、マフィアからも逃げられない状況で、深刻な筈の運び屋アールは旅を楽しんでいるのです。

旅の途中、モーテルで女性を二人も部屋に連れ込んだりします。

 

ランチの特製バーガーを手にして、たまたま隣に座った男を麻薬捜査官と知った上で、「仕事ばかりしてるんじゃないか? 家族を大事にしろよ!」と説教するのですよ。

 

・・・

実生活では、クリント・イーストウッドは三人の妻と二人の恋人のあいだに七人も子供がいます。

この数字は推測です、恋人はもっといたでしょう。

 

88才のスーパー・タフガイが90才のドラッグの運び屋を演じて、「仕事ばかりしていないか? 家族を大事にしろよ!」なんて言ってるのです。

 

老いを楽しんでいるようなイーストウッドの運び屋。

なぜか、そこんところが我々シニアの男性にやたら受けるのですね。

 

・・・

クリント・イーストウッドが主演監督した三本の映画にはヒット作品としての共通点があります。

「ミリオンダラー・ベイビー」「グラン・トリノ」そして「運び屋」の三本の映画はイーストウッドが70才を超えて監督・主演した映画です。

 

この三本の作品には「ダーティー・ハリー・シリーズ」のようなパンチ力と違った、大人の胸に響く共通の魅力があります。

そんな魅力の秘密を探って見ました。

 

クリント・イーストウッド主演・監督映画の魅力の方程式を見つけました。

 

三本のヒット作品には、ストーリーに一つの方程式が隠されていました。

その方程式は三つのキーワードで構成されています。

 

① 家族との問題    

② 孤独と老いと新しい友情

③ アウトロー(法令違反)による解決

 

古い作品から順番にご説明します。

 

2005年の「ミリオンダラー・ベイビー」のストーリーを思い出してみました。

 

フランキーとマギー

 

 

 

 

 

 

 

 

① 家族との問題

亡くなった父親以外に家族の愛を思い出せない主人公マギーは、女性プロボクサーとしての成功を夢見て、ロスにあるフランキーのおんぼろジムの扉を叩く。

フランキー(クリント・イーストウッド)は選手思いのトレーナーで、彼らの身体の安全第一で、危険なビッグ・ゲームを組まない。

 

不器用なフランキーから選手が逃げ出し、娘のケィティーとも音信不通となってしまう。

 

② 孤独と老いと新しい友情

孤独なマギーと年を取ったコーチ、フランキーの間に実の親子のような深い絆が芽生える。

フランキーの指導で成長を続けるマギーはウエルター級の英国チャンピオンを破り、フランキーはついに危険な相手「青い熊」とのビッグ・マッチを行うことに決める。

 

ミリオンダラー(100万ドル)をかけた試合はマギーの優勢で進んだが、ラウンド終了直後、ビリーの反則パンチがマギーを襲い、コーナの椅子に首を打ちつけたマギーは、半身不随となってしまった。

フランキーは後悔の念に日夜さいなまされる。

 

③ アウトローによる解決

回復の見込みがないマギーは絶望し、父親代わりのフランキーに最後の愛情を求めた。

それはフランキーの手による、安楽死だった。

 

この映画のラストは暗く、非情でした。

ただ、観客としてのわたしは、マギーがようやく絶望から解放されることへの安心感から、フランキーのアウトロー的な手段を肯定してしまったことを思い出しました。

 

2009年の「グラン・トリノ」のストーリーを思い出してみました。

 

コワルスキーとタオの家族

 

 

 

 

 

 

 

 

① 家族との問題

主人公のコワルスキーは、最愛の妻を失い、自慢の愛車「グラン・トリノ」と暮らす退役軍人。

「俺は嫌われ者だが、女房は世界で最高だった」が口癖だが、息子達も近づけない頑固じじいだ。

 

② 孤独と老いと新しい友情

ある日、となりの家の少年「タオ」がグラン・トリノを狙って忍び込んでくるが、退役軍人のコワルスキーは銃を手に追い払う。

タオはモン族の一員でモン族のギャングにそそのかされていた。

 

ギャングに絡まれていたタオと姉スーを助けたことから、三人の交流がはじまり、コワルスキーはタオの仕事の世話をして一人前の男に育て上げていく。

ある日、体調のよくないコワルスキーは一人病院に行き、いのちが長くないことを知る。

 

一方、ギャングのタオへの嫌がらせはエスカレートする一方で、激怒したコワルスキーがギャングに報復をする。

ギャングはその仕返しにタオの家に銃を乱射し、スーを全員で陵辱する。

 

③ アウトローによる解決

ギャングへの復讐に行こうとするタオを家に閉じ込めたコワルスキーは、一人ギャングの根城に向かう。

コワルスキーは彼らを前にしてたばこをくわえ、ゆっくりと上着のポケットに手を伸ばした。

 

銃で撃たれると思い込んだギャングはコワルスキーを射殺した。

コワルスキーのポケットから出てきたのは第一騎兵師団のジッポーだった。

 

警官に取り押さえられたギャングには長期刑が科された。

タオの命の代わりに、自らの命を差し出したコワルスキー。

 

彼の遺書には「愛車グラン・トリノをタオに贈る」と記されていた。

 

《二つの映画の説明文はwikipediaを参照しています》

 

「運び屋」の魅力の詳細はぜひ映画をご覧ください。

 

「運び屋」の魅力の方程式

① 家族との問題  

② 孤独と老いと、マフィアや麻薬捜査官とのおかしな絆。

③ アウトローな解決

 

最後にイーストウッド自身が「運び屋」のPR用の特別映像で話している意味深長なセリフをご紹介します。

 

「人生には、超えるべき障害がある。彼(アール)は限界を超えてしまった」

このセリフはイーストウッドのファンとして彼にそのままお返ししたい言葉です。

 

「人生には、超えるべき障害がある。彼(クリントイーストウッド)は限界を超えてしまった」

 

(終わり)

 

(注) デイリリー (正式にはへメロカリス)

Day Lily

 

 

 

 

 

 

 

 

アールの栽培するデイリリーの花は、その名の通り、花が開いても1日だけで、夕方には萎みます。

ただ、一つの花茎にいくつもの蕾をつけていて、それが次々咲くので花期は長く、1ヶ月くらい花を楽しむことができるのです。

「運び屋」の舞台・北アメリカでは古くから商売として栽培され、珍しい品種によっては数万円もする花があるそうです。

 

《記事は無断で転載することを禁じられています》

 

未来からのブログ2号「今日はザ・カンパニーでとなりのカーナと午後の浮気したよ」後編

僕の名前はタンジャンジャラ。

「ジャラ」って、短く呼んでくれていいよ。

 

今は2119年、僕はクラウドマスターが「この世の宇宙」って呼んでる世界にいるよ。

君の住んでる宇宙から100年後の世界だ。

 

もっと正確に言えば、君の住んでる世界と「もつれた時空」でつながってる宇宙だよ。

そうさ、じつは、君とジャラとはこのブログを通じて今もつながってるんだ。

 

「どうしてそんなことになってるのかなって?」

今回の記事読んでくれたら、そこんところのストーリーが明らかになるよ。

 

そうだ、前回の記事まだ読んでないんなら、ここから読んでね。

 

未来からのブログ2号「今日はザ・カンパニーでとなりのカーナと午後の浮気したよ」前編

 

読んでくれてありがとう。

クラウドマスターがどうして可愛い宇宙のおむつしてるのか、わかった?

 

僕らの宇宙から大事なエネルギーが漏れ出してるからなんだ。

君の住んでる宇宙にだよ。

 

あれでもマスター、おおマジなんだ。

この世の宇宙のマスターとして「お漏らし」に責任感じてるんだ。

 

それじゃ、「未来からのブログ」にあの日の夕方の話、投稿するね。

とっても大事なこといっぱい送るから、離れずにもつれたままでいてよ。

 

未来からのブログ2号「今日はザ・カンパニーでとなりのカーナと午後の浮気したよ」後編

 

「どちらにしてもこの問題は、君たち人間同士で解決してもらうよ。過去とはせいぜい上手にもつれることだね」

これ、冷たく言い捨てたこの世の宇宙の皇帝「クラウドマスター」の台詞だ。

 

ミーテイングルームに残された僕とカーナは途方に暮れたよ。

「どうやって過去からエネルギー取り戻そうか」ってね。

 

その時、ミーテイングルームのドアがすこし開いて、隙間からきらりと光る「はさみ」の先が出てきたよ。

「やー、ジャラ。クラウドマスターの緊急呼び出しって、なんの用事だった?」

 

鍵こじ開けて、皇帝のミーティングルームに無断で入ってきたのは「はさみ男」と「サンタ・タカシ」の二人だ。

「俺たちジャラとカーナのこと心配になってさ。『宇宙のおむつ』作戦でクラウドマスター怒らした責任感じてちょっと様子見に来たってわけ・・」

 

サンタ・タカシが言い訳めいたことをいいながら、部屋に入るなり僕に近づいてクスンと鼻を鳴らした。

「うまそうな匂いがする」

 

「なんだこの匂い」

はさみ男も気がついたみたいだ。

 

「ジャラ! お前、なんか隠してないか?」

サンタ・タカシが鋭い目つきで僕を見た。

 

(ここ、これ僕の夜食・・)

ジャラは思わずスーツの上着の右ポケットを抑えた。

 

でも、間に合わなかった。

サンタ・タカシの右手が僕の右ポケットをまさぐった。

 

家で待ってるキッカへのお土産と僕の夜食用にと思って、内緒で隠しておいた「厳選された一品」は、忽ちはさみ男のシザーハンドで切り分けられ、二人の口に運ばれてしまったよ。

 

「ジャラ、こんな食い物、初めての味だけど、旨かったよ。これなんだ?」

僕とカーナからクラウドマスターとの一部始終を聞いたサンタ・タカシが股こすりやって、前歯むき出して笑った。

 

「それでは、旨いランチ頂いたお礼に、盗まれたエネルギーの奪還計画に俺たちも協力しようじゃないか」

サンタ・タカシが宣言して、はさみ男がカチャカチャはさみ鳴らした。

 

つまり、賛成して拍手したってことだよ。

でもさ、なにか問題起こると、いつもこのコンビが首突っ込んでくるんだよ。

 

一人はからみ専門で、一人はもつれてるの切るのが専門だから、二人合わせて話の最後は、細切れのぐちゃぐちゃになるってこと。

・・でも二人の気持ちには感謝しなくっちゃね!・・

 

「ジャラ! 戦略会議始めよう」

サンタ・タカシが宣言した。

 

「まず始めにだ・・ブラックホールから漏れ出したエネルギーはどこへいったんだっけ? 俺忘れた。ジャラ、もう一度教えてくれ!」

はさみ男がシザーハンドで自分の頭叩いた。

 

「この世の宇宙のエネルギーはブラックホールの特異点からワームホールを通ってホワイトホールに漏れている」

ジャラは丁寧に答えたよ。

 

「よくわかった。黒い穴から、虫の穴、それから白い穴か。この世の外れは穴だらけだ。ところでホワイトホールとはなんだっけ」

はさみ男がまた聞いた。

 

「となりの世界の玄関口だよ。時空を超えるエントランスってとこだね」

ジャラがやさしく答えた。

 

「思い出した。我が家のエントランス古くなってでこぼこしてすぐけつまずくぞ。あれなんとかしなくっちゃな」

はさみ男がシザーハンドで、目の前にたれてきた前髪一筋切り取って、プーって僕の顔に吹き飛ばした。

 

「ジャラ、お前、となりの世界を本当に見たことあるのか?」

はさみ男がさらっときいた。

 

それから付け加えた。

「見たことないだろ? 見たことないのに見たようなことよく言えるなー?」

 

「見たことないけど・・・いたことはあるよ」

ジャラはそう答えてたよ。

 

「なんだと? もう一度言ってくれ」

「見たことないけど・・いた記憶はある

 

自分でも驚いたけど、僕の口がもう一度声を出さずに同じ言葉を繰り返した。

《そこにいた記憶がある》

 

「ジャラ、だぼらは止めろよ。人間同士で嘘ついたら口と耳切るぞ!」

はさみ男がジャラの目の前で、シザーハンドを振りかざしてた。

 

「ウソじゃない。遠い記憶があるんだ。あそこにいた記憶があるんだ」

ジャラはその日の朝、起きたことを思い出したんだ。

 

「今朝のことだよ。ザ・カンパニーに来る途中で、海が僕を呼んだんだ。スーツマンに命令して寄り道だけど朝日で燃え上がった海を見に行ったよ。そしたら波の音がこういった。『思い出せジャラ、俺たちのことを』ってね」

 

朝の海の記憶が蘇ってきて、なんだかジャラ、胸が騒いだよ。

「あれきっと、遠い昔からの声だ。でもすぐとなりの世界からだ。あの世界で跳んだりはねたりしたんだ。僕が身体を捨てる前のことだけどさ」

 

サンタ・タカシが疑わしそうな顔してジャラを見つめた。

で、ジャラは感じたことをそのまま伝えた。

 

「となりの世界から誰かが僕を呼んでた」

 

「それ、朝ボケのデジャブじゃねーのか?」

サンタ・タカシがほざいた。

 

それまで黙って話を聞いてたカーナが、不思議そうな顔して、じっと僕を見つめたよ。

「ちょっと待ってよ。わたしもそういえば今朝、似たような朝ボケしたわよ」

 

カーナが目玉くりくりしながら喋ったよ。

「今朝は早く目が覚めたので、ザ・カンパニーに出勤する前に、わたしもちょっと寄り道して、近くの登山口まで行ったの。

なぜだと思う・・?

山がわたしを呼んだのよ、朝日で燃え上がった真っ赤な山がよ。

登山口についたら、目の前の木立が風で騒いで声がしたわ。

『わたしを思い出してって!』

不思議な気持ちがしたわよ・・でも山で走り回った子供の頃の記憶は蘇らなかった。

身体を捨てる前の記憶はわたしにはもうないのよ」

 

そう言ってカーナは寒そうに自分のスーツを両手で抱きしめた。

きっと、カーナはからだを捨てたときに昔の記憶を失ったんだ。

 

ジャラはカーナを抱きしめたよ。

だって僕もボディーを失った一級頭脳労働者だし、カーナもボディーを無くしたブレーンレデイーだから、彼女の喪失感は人ごとじゃないんだ。

 

身体を失うとね・・。

山や海でね、自分の身体で跳んだり跳ねたり泳いだりしたこと、だんだん思い出せなくなっていくんだよ。

 

サンタ・タカシが疑わしそうな顔して僕に聞いた。

「ジャラ、お前となりの世界にいた記憶があると言ったな。どの世界だ。ブラックホールはこの世の宇宙に少なくても13億個はあるって言うぞ? どのブラックホールからつながってる世界だ?」

 

「そんなことわかるわけないだろ? でも確かにそこにいるんだよ。昔の僕がそこにいるんだ。ジャラの頭の中で、昔の記憶が騒ぎ始めたんだよ」

 

「ジャラ! そこまで言うんなら確かめた方がいいぞ。思いきって地球に一番近いブラックホールに飛び込んでみたらどうかな。そこから穴二つ潜ったら、ジャラの過去の世界だ! どう思う?・・サンタ」

タカシの声がほざいた。

 

「そやがな、タカシ。ほんでそっから盗まれたエネルギー持ち帰ったらええがな。ジャラ、話簡単や!」

サンタの声がした。

 

ジャラはサンタ・タカシの一人掛け合いにむかっときたよ。

でもさ、そこはぐっとこらえたんだ。

 

だってさ、サンタ・タカシはデザイナーズ・ベビーだから仕方ないだろ。

ザ・カンパニーのドクターの話では、サンタ・タカシは興奮すると、遺伝子が初期化されて

二つのキャラが別々に出てくるらしいんだ。

 

サンタとタカシとか、複数のベストDNAをコレクションしたデザイナーズ・ベビーに固有の現象らしいよ。

陽気なサンタ・タカシにも悩みはあるんだ。

 

その時だ、ビックリしたよ。

カーナがいきなりスーツをばっと脱いで立ち上がったんだ。

 

カーナのスーパー・ボディーがあらわになって、みんな目を丸くしたよ。

カーナの足元にスーツがばらばらに散らばって、引き締まったスーパー・ボデイーがぶるぶる震えてた。

 

「過去の世界と、量子もつれが起こってる」

カーナが震える声で、そう言ったんだ。

 

「カーナ、大丈夫か?」

あわててジャラが聞いたよ。

 

カーナが答えた。

「わたし、過去の世界とつながりかけた。でもすぐ切れてしまった」

 

その時だよ、ジャラの身体も震え始めたのさ。

スーツがはじけ飛んで、ジャラもむき出しの裸になってた。

 

ジャラの記憶の底から誰かの手が伸びてきたみたいだ。

「思い出せ、俺の手をつかめ!」

 

頭の中で、誰かの声が聞こえたんだけど、しばらくして消えていった。

同時に身体の震えが止まったんだ。

 

そして、不思議なことが起こった。

まるで時間が逆戻りしたみたいだったよ。

 

ジャラのスーツとカーナのスーツが床からふわりと持ち上がって、二人のボディーに戻ってきたのさ。

・・きっとその時、過去とのもつれが切れたんだと思う。

 

せっかく過去とつながりかけたのにって、残念な気持ちだったよ!

 

その瞬間だよ、ジャラとカーナが凄い答えを思いついたのは。

朝日に燃え上がる山がカーナを、朝日で焼けた青い海がジャラを呼んでたということは・・つまりさ。

 

「両方同時に見れれば、量子もつれが倍になる!」

《そして過去と繋がれる・・》

 

「この近くに海と山の両方みえるところはある?」

カーナとジャラが口をそろえて言った。

 

サンタ・タカシが答えた。

「なんのこっちゃわからんけど、両方同時に見えるところ、一カ所だけあるぞ」

 

「そこどこなの?もうすぐ夕陽が落ちるよ。急がなくっちゃ!」

ジャラが叫んだ。

 

「大きな川の河口で入り江の奥だ。ここからエラ~イ遠いぞ・・」

サンタ・タカシが口ごもったよ。

 

「宇宙センターの衛星マップによれば、この近くで山と海の両方が見える地点はここから南西に約15キロのところにあります。スーツマンとスーツレディーなら走って15分です」

スーーツマンがセンターの調査結果を、ジャラの口を借りてみんなに伝えてくれたよ。

 

「どうする? 俺たち二人は死ぬ覚悟で走っても1時間以上かかるぞ」

サンタ・タカシがはさみ男にぼやいた。

 

「いい方法があるぞ」

はさみ男がサンタ・タカシになにか耳打ちして、二人でにやりと笑った。

 

・・・

入り江に向かって、スーツマンとスーツレディーが時速60キロで走った。

二つのヘッドにはジャラとカーナが治まって、気持ちよく午後の昼寝をしている。

 

「ヤッホー!」

スーツレディーの肩の上でシザーハンドが吠えた。

 

「イエーイ!」

スーツマンの頭の上でサンタ・タカシが叫んだ。

 

・・・

「この四人、このあと、いかがいたしましょうか?」

地球のはるか上空に浮かんだクラウド宇宙センターの中枢部で、執務中の皇帝「クラウドマスター」宛てに、地球から星間チャットが届いた。

 

「スーツマンか? すべては私の計算どおりに進んでおる。四人にはエネルギーも十分に補給させたことだから、しばらく好きなようにやらせておけ!」

 

  (続く)

 

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https://tossinn.com/?p=1351

 

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囲碁ソフトが強すぎる!人間を超えた人工知能との勝負はもはや「シンギュラリティー」?

囲碁の人工知能「アルファ碁」が2017年の5月に人類最強と言われた中国の囲碁棋士、柯潔(カケツ)九段を三連勝で破って世界を驚かせたときのことです。

 

わたしの娘が、父の日にプレゼントしてくれた「囲碁」のソフトに、5目置いても勝てなくなりました。

娘が買ってくれる囲碁ソフトは毎年強くなって、ついに六目置かないと勝負にならなくなったのです。

 

これはショックでした。

 

これでもわたしは日本棋院から三段の免許をもらっています。

四段あげると言われたのですが、三段なら、免許料が2万円やすいので三段にしたのです。

 

2005年頃は、ソフトに6目置かせても「こてんぱん」にやっつけて楽しんでいました。

ただの囲碁ソフトじゃないかとはいえ、これは恐ろしい進歩です。

 

「一目置く」という囲碁用語から出た言葉があります。

 これは相手を尊敬した言い回しですが、努力すれば追いつけると言う可能性を含んだ言葉です。

 

しかし「六目置く」という言葉には何の意味もありません。

かつて六目置かせていたわたしは、今や「囲碁ソフト」に頭を下げる「シンギュラリティー」の関係になりました。

 

ここまで来ると囲碁ソフトから笑われている気がします。

世界最強の囲碁AI「アルファ碁」とは次元の違う只の囲碁ソフトでさえこの強さです。

 

世界最強の囲碁AI「アルファ碁」は一体どのくらい強いのでしょうか?

気になってNewton誌やNature誌を調べて、まとめてみました。

 囲碁AI「アルファ碁ゼロ」は一日で囲碁2000年の歴史を超えた!

 

 

 

 

(アルファ碁対世界一位柯潔棋士の対局・解説の様子と考え込む柯潔・・ユーチューブより)

 

「アルファ碁」はグーグル傘下のイギリス企業Deep Mind社が開発した囲碁の人工知能です。

アルファ碁は過去に人間同士が戦った膨大な棋譜を基に、「デイープ・ラーニンブ(深層学習)」をして、勝負に勝つ戦略や手筋を学習したのです。

 

「ディープ・ラーニング」というのは人間の脳の仕組みを真似しています。

多重層に作り上げた仮想のネットワークによって膨大な情報を処理して、より高度な概念を作り出す仕組みです。

 

アルファ碁は、囲碁の戦いで勝つための「定石」や「手筋」と呼ばれるものを自分で学習して、見つけ出しているのです。

わたしも、三段の免許をもらうために何年も囲碁の本を読んで、定石や手筋を勉強しました。

 

今わたしが対戦している囲碁ソフトは、何回対局しても勉強しないので、始めの布石のときに打ち返してくるパターンが二三種類しかありません。

相手のパターンを覚えたわたしは、五目置けば勝てるようになりました。

 

一方、アルファ碁は絶えず勉強して2017年の5月に世界最強の棋士に進化しました。

ところがその年の10月に「アルファ碁」でさえ太刀打ちできない囲碁AIが出現しました。

 

新しく誕生した「アルファ碁ゼロ」が先輩の「アルファ碁」と戦い、100戦して100勝したのです。

「アルファ碁」は人類NO1を破ったわずか数ヶ月後に、後輩の「アルファ碁ゼロ」に「こてんぱん」にやっつけられたのです。

 

驚くべきことに「アルファ碁ゼロ」は戦いの経験も皆無で、棋譜のデータも与えられず、わずか40日間でここまで強くなっています。

「アルファ碁ゼロ」には囲碁のルールが教えられただけでした。

 

「アルファ碁ゼロ」はひたすら自己対局(仮想の棋士AとBを作り対局をさせる)を行い、囲碁の定石や手筋などを見つけ出して、勝つための戦略を自力で編みだしたのです。

対局した数はなんと2900万回に及びました。

 

24(時間)×60(分)×60(秒)×40(日)÷29000000(回)= 0.119(秒)

「アルファ碁ゼロ」は約0.1秒で一局の碁を打っています。

 

1局の平均手数は220手位ですから、仮に碁盤で打ったとすれば、「アルファ碁ゼロ」は目にも止まらないスピードで碁石を打っています。

人間なら盤上で一手打つのに30センチほど手を伸ばします。

 

30(センチ)×220(手)÷0.119(秒)=55462(センチ/秒)

盤上の打ち手の速度はなんと秒速555メーターと言う結果になりました。

 

「アルファ碁ゼロ」の思考の過程を覗いたわけではありませんが、「ゼロ」は音速の約二倍のジェット飛行機の早さで、仮想の盤上を走り回っていたのです。

 

その二ヶ月後、「アルファ碁ゼロ」に続いて「アルファゼロ」が発表されています。

囲碁AIの進化は続き、「ゼロ」は囲碁だけでなくて将棋とチェスも覚えていました。

 

三つのゲームのルールだけを教えられた「ゼロ」は、将棋で2時間弱、チェスで約四時間、囲碁では約24時間のあいだ自己対局を繰り返しました。

そのあと「ゼロ」は囲碁、将棋、チェスの世界最強AIと対局して、すべてやっつけてしまいました。

 

もちろんその中に「アルファ碁ゼロ」も含まれていました。

「ゼロ」は中国や韓国や日本の人たちが囲碁を学んだ二千年の歴史の蓄積を、たった一人で、わずか24時間で自己学習で学び、追い越したことになります。

 

先生も棋譜も経験もなく、たった一人でです。

これは恐ろしいことです。

 

人工知能「アルファゼロ」の「ゼロ」の意味は人間の手を借りることが必要でなくなったという意味だそうです。

Newtonは2018年6月号で次のように言っています。

 

・・もはや最新のAIは・・特定の課題に限れば、その驚異的な学習能力において既に人間を超えたといっても過言ではないでしょう。

 

特定の課題とは囲碁やゲーム、自動運転や画像認識などのことです。

これは特化型AIと言って、設計した人間があらかじめ想定した特定の課題を扱うものです。

 

それでは想定していない課題に直面したとき人工知能はどうするのでしょうか?

 

車の自動運転AIに飛行機を操縦しろと命令します。

車の自動運転のAIは解決方法が見つからずにギブアップするのです。

 

想定しない課題でも解決できる能力を持たせるにはどうすれば良いのか?

未知の課題に対応できる人工知能を「汎用AI」と呼んでいます。

 

汎用AI「Artificial General Intelligence」の最良のお手本、それは「ヒトの脳」でした。

いま、人工知能の進化のステージは人間の脳をモデルにした、どんなことにも対応できる「汎用型AI」の開発段階まで進んでいるのです。

 

特化型の囲碁AI「アルファゼロ」は、たった24時間で人類の囲碁文化2000年の歴史を超えました。

創造性や意志と言った人間の思考と同じ構造を持つ人工知能が開発されたとき、AIと人間との関係はどうなるのでしょうか?

 

人工知能AIが人間の知能を超えるとき・・「シンギュラリティー」は人類の文化の終焉を意味する。

これは「シンギュラリティー」を説明するときによく使われるキャッチ・コピーです。

 

わたしの認識が間違っていなければ、AIをどのような汎用型にするかは、プログラミングの領域であり、開発者の意志であると思っています。

人口知能と人間の関係を決めるのはどこまで行っても人間次第だと言うことです。

 

人間さえ間違えなければシンギュラリティーは怖くない筈でした。

悪意のある人間が、人工知能をプログラミングしない限りは、人工知能は人間の良きパートナーであるはずです。

 

しかし現実はそのような簡単な図式ではなさそうです。

 

「シンギュラリテイー」の意味と、その鍵を握る「汎用AI]

 

 

 

 

(ニューラルネットワーク。人間の大脳とよく似た構造と仕組み)

 

「シンギュラリティー」とは、AI自身がAIを改善することで、加速度的にその知的能力を向上させて、ついに人類にとってその先の進歩が予測不能になる状況のことです。

        (Newton2018年6月号)

 

 

「シンギュラリティー」はアメリカのAI研究者レイ・カーツワイル博士が2005年に著書の中で述べた言葉で、博士はシンギュラリティーは2045年に到来すると予測しています。

 

シンギュラリティーが本当に実現するかどうかは意見が分かれていますが、シンギュラリティーが実現するための条件は・・

 「AIが自分自身のプログラム・アルゴリズムを書き換えて自分を改善できる能力を持つこと」とされています。

 

これは「再帰的自己改善」と呼ばれています。

ドワンゴ人工知能研究所所長の山川宏博士によれば、「再帰的自己改善には新しいものを生み出す創造性が必要であり、まさに汎用AIこそがそうした創造性を持ちうる」のだそうです。

 

人工知能は人間より優れた知能を持つだけでなく、人間のような意識や感情を持った存在・・人間以上になる可能性を持っているということです。

人工知能が人類にもたらしてくれる夢は果てしなく広がりそうです。

 

しかし一方・・人工知能などの未来のテクノロジーが生み出す脅威について、国連で問題提起がされていました。

2015年の国連の会議で、「人間をはるかに越えるような能力を持つスーパー人工知能に関して、人工知能の良い意味での可能性も十分認めつつ、テクノロジーがコントロール不能になれば脅威となりうる」という問題が提起されています。

 

 その時の二人の博士の発言をライブドアニュース(2015年10月21日)から抜粋して、要約してみました。

 

まず始めは、マサチューセッツ工科大学(MIT)の物理学者マックス・テグマーク氏の発言要旨です。

 

・・未来のテクノロジーは、金融市場の裏を書いたり、人間の研究者より優れた発明をしたり、人間の指導者を越えて人心を操作したり、理解できないような武器を作ったりするかもしれない。

人工知能の短期的な影響は誰がコントロールするかに依存するものの、長期的な影響は、そもそもコントロール可能なのかどうかという問題になる。

今のところ、より良いコントロールの仕組みをどう作るかという問題は未解決のままなのです・・

 

次に、オックスフォード大学のニック・ボストロム教授の発言の要旨です。

 

「我々は、スーパー人工知能を使ったシステムを作る前に、それをコントロールする仕組みを用意する必要がある」

・・教授は人工知能を開発する研究者と、その安全性を考える研究者の協力の必要性を訴えました。

さらに全関係者に対し、長期間のAIプロジェクトには公益の原則を埋め込むべきだと主張しました。

ボストロム氏は、人工知能によって人類が絶滅したり、生き延びたとしても壊滅的な状態になってしまったりする可能性もあると示唆しています。

今後100年間で人間が何をするかは、人間の未来にとって自然災害よりはるかに大きな脅威だとボストロム氏は言います。

「本当に大きなリスクは、人為的なカテゴリにすべてあります。人間は地震や疫病、隕石の衝突などがあっても生き延びてきました。

我々は今世紀、まったく新しい現象と要素を世界にもたらします。

ありうる脅威のほとんどは、今後予想される未来のテクノロジーと関連するでしょう」

 

人工知能が人間の良きパートナーとして存在するためには、「コントロール問題」という乗り越えるべき大きな課題がありことがわかりました。

 

テクノロジーについて素人であるわたしは、人工知能の最先端で働く専門家に、直接このテーマについて質問がしたくてあることを決行しました。

それは理化学研究所のスーパーコンピューター「京」の現場を訪問することでした。

 

2年前に神戸のポートアイランドにあるスーパー・コンピューター「京」を見学させて頂いたときのことです

 

 

 

(「京」が計算をしている中核部分の写真です)

 

スパコンの「京」を案内していただいたのは、富士通から派遣された若くて優秀な研究者でした。

「『京』は一日中、ただたすら計算を続けているのです」

 

そう説明してくれた彼に、思いきった質問を投げてみました。

「人工知能の正体はなんでしょうか?」

 

若い研究者はさらっと答えました。

「人工知能の正体は(どこまで行っても)プログラミングです」

 

AIが人間にとって素晴らしいパートナーとなるのか、人類にとって制御の効かない脅威となるのか、すべては人間の英知にかかっている、と思った瞬間でした。

 

終わりに・・「ゼロちゃん」と対局しました。

 

いつか世界最強のアルファゼロの娘「ゼロちゃん」と黒番で対局することを夢見ています。

可愛い女の子の姿をした汎用型AI「ゼロちゃん」が目の前に現れて、碁盤を挟んで対局するシーンを想像するのです。

 

「うーん! 参りました」

「ゼロちゃん」がわたしに頭を下げました。

 

・・「お前がアルファ碁の子孫に勝てるわけないだろう」・・ですって?

じつはゼロちゃんは上手に手心を加えてくれているのです。

 

そりゃそうでしょう・・人類の知能を超えた賢い「ゼロちゃん」ですよ。

たかが人間の大人を囲碁で負かして喜ぶわけがないじゃないですか。

 

(終わり) 

 

付録:特異点・シンギュラリティーの三つの意味とは? 

 

シンギュラリティー「Singularity」とは『特異な』を意味する形容詞「singular」の名詞です。

名詞の「Singularity」は『特異、特異なこと、特異点』という意味になります。

 

「特異点」と呼ばれる「Singularity」には3つのステージがあります。

 

① 数学的な意味での特異点「Singularity」 とは、分数の分母が限りなく0に近づく状態を意味します。

0.00000000000000000000・・・分の1

このとき分数は無限大に拡散した特異な状態になります。

 

② 物理的な意味での特異点「Singularity」とは、宇宙に存在するブラックホールの中の特異な地点のことをいいます。

ブラックホールに引きずり込まれたすべての物質はもうこれ以上圧縮できないところまで圧縮されます。

このような無限に圧縮される地点をブラックホールの特異点と呼びます。

 

③ 技術的な意味での「Singularity」・・「技術的特異点」と言う概念は、人工知能AIが人類の知能を追い越して、新しい知能「超知能」の時代が出現することを示唆しています。

「シンギュラリティー」の提唱者であるレイ・カーツワイル博士はこのままのスピードで行けば、2045年には特異点に達するだろうと予測しているのです。