僕の名前はタンジャンジャラ。
みんなは「ジャラ」って呼ぶよ。
変な名前だって?
でも、僕は気に入ってるんだ。
じつは、この名前に僕のルーツが隠されてるんだ。
僕たち四人は今、海と山の両方が見える入り江に向かって、走ってる。
そこが僕のルーツとクロスする時空のホットポイントなのさ。
入り江についたら、きっとなにかが起こるよ。
そして君と僕がこのブログで《量子もつれ》始めた理由が明らかになるんだ。
《量子もつれ》はわかる?
僕も原理はよくわからないけど、「アインシュタインも信じられなかった“奇妙な遠隔作用」テレポーテーションのことだって、クラウドマスターが言ってたよ。
それじゃ、時間と空間を超えたテレポーテーション、遠隔ブログ始めるね。
前回の話まだ読んでない人は、ここクリックしてくださいね。
未来からのブログ2号「今日はザ・カンパニーでとなりのカーナと浮気したよ」後編
未来からのブログ3号 “時空の入り江でおじいちゃんと量子もつれしたよ”
「ジャラジャラ! ただ今目標に到着!」
スーツマンが気持ちよく昼寝していた僕をたたき起こした。
「カナカナ~ 入り江ですよ・・」
スーツレディーがやさしくカーナを揺り起こした。
「イエーイ!」
サンタ・タカシとシザーマンが僕とカーナの肩の上から飛び降りた。
僕たち四人は、仲良く並んで入り江の奥の絶景ポイントから、夕暮れの海と山を交互に眺めたよ。
陽が傾いて、海の上の太陽がおおきく膨らんでた。
夕陽に照らされて、山の斜面が赤く染まっていったよ。
しばらくすると、山につながる近くの木立が、騒ぎ出したんだ。
“ざわざわ”って熱い風が山から吹いてきて、カーナの頬を撫でた。
「そろそろ来るわよ!」カーナが悲鳴みたいな声をあげた。
海を見ていた僕は驚いてカーナを振り返った。
カーナはどんな小さな動きも見逃さないように、身じろぎもしないで山を見ていたよ。
熱い風にカーナの髪の毛が揺れてた。
背中は夕陽に照らされて、赤く燃えてた。
しばらくして、カーナの後ろ姿が細かく震えだしたんだ。
「来たわね、私を呼んでるのね」
そう言って、カーナが両手を山の方に突き出した。
誰かの手をつかみ取るみたいにだよ。
その時だよ、夕陽が海に落ちたのは。
ふくれあがった夕陽が水平線に消える一瞬、海と山が真っ赤に燃え上がったんだ。
カーナのスーツが飛び散って、ボデイーがあらわになった。
背中の白い肌が、夕陽を映して燃え上がるようだったよ。
カーナの必死に伸ばした手が、なにかをつかむのが見えた。
「ママ・・ママなの?」
カーナの泣き出しそうな声が、風に乗って僕のブレーンに直接響いたよ。
その時だよ、真っ赤な海が僕を呼んだ。
「ジャラ、俺だ! 手を出せ! ジャラ、俺の手をつかむんだ」
僕の頭の中で、あの声が聞こえたんだ。
朝と昼に聞こえたのと同じ、懐かしい声だ。
ジャラはスーツを脱ぎ捨てて裸になった。
そして波に向かって両手を突き出した。
昔、本当の手があったときの感触を思い出して、スーツマンの手を思い切り伸ばしていた。
そしたらさ、波が手の形になって僕の両手をつかんだんだ。
ジャラも波でできた手を、必死でつかんだよ。
差し出された手は熱く燃えていたよ。
「よくやったぞ、ジャラ。俺が誰だかわかるか?」
波がそう言った。
ジャラにはその声の主が誰だかすぐにわかった。
「おじいちゃんでしょ」
ジャラにはわかったのさ。
・・こんなおかしなことできるのは僕のおじいちゃんに決まってる・・
おかしなブログにクレージーSF書いてたおじいちゃんだ。
「ジャラ、大あたりだ。こちらおじいちゃんだ! お前に仕掛けておいた“量子もつれ”・・大成功だ! 聞こえるかジャラ?」
「聞こえたよ、おじいちゃんの声。今どこから騒いでるの?」
「驚くなよ、こちら100年前の世界だ!
場所は“タンジャンジャラ”だ。
海と山に囲まれたマレーシアの秘境だぞ。
お前のおばあちゃんと一緒にやって来た。
ここでお前のママを仕込んだんだよ。
昨日の夜、ベッドで、俺のDNAに隔世遺伝で量子もつれするように、ちょっとした細工しといたんだ。
よく聞いてくれ!
じつはお前に頼みがある。
未来の世界の情報が欲しい・・○○××・・」
声に少しずつノイズが混じりだした。
「おじいちゃん、聞こえにくいよ。もつれが外れるよ」
「ジャラ、、お前のDNAが量子もつれの受発信装置だ。俺のブログと未来のジャラがテレポーテーション・・○○××・・」
・・ざざー、プツン・・といっておじいちゃんの声が消えていった。
僕の手の中から、おじちゃんのなんだか“ざらざらした”手のぬくもりがどこかへ消えてしまったよ。
気がつくと、夕陽が水平線に消えて、日暮れが近づいていた。
「誰と話してたの?」
遠くからカーナの声が聞こえてきて、僕は我に返ったよ。
「僕のおじいちゃんだ。ジャラの生まれるずっと前の若いときのおじいちゃんだよ」
目の前にカーナの顔があって、その目が潤んでいたよ。
「ジャラはおじいちゃんと“もつれ”に成功したのね。カーナはもう少しのところで切れちゃった。あれ間違いなくママの声だったのに・・」
悔しそうなカーナの声を聞きながら、ジャラは考えたよ。
・・おじいちゃんの言いかけた“俺のブログ”とテレポーテーションって、どういう意味かって・・。
「さっきから、二人ともなにをぶつぶつ言ってんだよ。いきなり人前で服脱いでよ、いつの間にかまた服着てるじゃないか。一瞬の間に二人でなにかいいことしたな?」
サンタタカシが疑わしそうな顔して、ジャラとカーナの顔覗き込んだ。
「ジャラ、お前、“おじいちゃん”とか言って、海に手を突き出してたぞ。あれなんの真似だ? 過去とつながって、おじいちゃんと話してたなんておおぼら吹いたら、このはさみが許さねーぞ!」
はさみ男がシザーハンドを僕の顔の前でチャカチャカ揺らした。
ジャラは仕方なく疑い深い二人に証拠の品を見せたよ。
「ほら、これ見てよ」
僕は両手を上に向けて、掌をゆっくりと開いた。
両方の掌の上に、透き通るような真っ白い砂粒が残ってたんだ。
細かい砂粒が夕陽の残照を浴びてきらきら輝いてたよ。
「おじいちゃんの“手土産”。これタンジャンジャラの浜の砂粒だよ。僕の名前の由来の場所、マレーシアの秘境だ。多分ここと同じ海と山の交差点、ホットクロス・スポットさ」
「それ“量子もつれ”・・か」
はさみ男とサンタタカシが砂粒を一粒ずつ大事に指に挟んで調べた。
「本物だ!」
二人が唸るように吠えて、それから頷いた。
そりゃそうだよ、僕たちの前に広がる入り江の浜の砂粒ときたら、茶色や赤茶色それに黒っぽい灰色しかないもんね。
白い砂浜と白い砂粒なんて、いまはネット漫画の世界でしか見られない宝物だよ。
「で、これからどうしよう?」
ジャラはカーナとサンタタカシとはさみ男に今後のことを相談したんだ。
“うーん”サンタタカシが唸りながら答えた。
「腹減った。どっかでめしにしようか?」
「そうだキッカ姉さんも呼ぼうよ。ジャラとキッカ姉さんの夜食を強奪したお二人のおごりでね」
カーナが最後を仕切って、四人はスーツマンとスーツレディーに分乗して帰途についたんだ。
カーナは走りながらジャラにいろいろ質問してきたよ。
「さっきの話だけど、おじいちゃんのブログをジャラは読んだことがあるんだって?」
「そうだよ。タイトルは“未来からのブログ”さ。昔のネットのアーカイブから読んだことがあるんだ。でもさ、いまわかったよ。・・あのブログは僕が書いたんだ」
ジャラがそう言った。
「おじいちゃんのブログをジャラが書いたって、どういう意味なの・・なんの話?」
カーナが不思議そうに聞いたので、ジャラは正直に答えたよ。
「これから僕が書くブログの話だよ」と。
・・そうさ、いま君が読んでるこのブログのことさ・・
(続く)
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下條 俊隆
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