この世の果ての中学校20章“クオックおばばにカレル教授の記憶が盗まれた!”

 老婆が朱塗りの椅子に座り込み、軽く頷くと、四人のアンデッド達は担いできた大きな袋を老婆の目の前に乱暴に放り投げた。

 ドスンと地面に落ちた袋から、手足を縛られたやせた男が転がり出してきた。

 男は土と血で赤黒く汚れた実験着を身につけている。

 

「あっ! カレル先生だ!」

 窪地から頭を突き出して、広場で揺れ動く人影を見ていたペトロが、大声を上げてしまった。

 

 叫び声に気が付いた老婆が耳に手を当て、ゆっくりと首を90度廻してこちらに目を向ける。

 その顔から緑色をした二つの目玉が飛び出し、ペトロを凝視した。

・・・あっ、あれはクオックおばば!・・・

 老婆は人の記憶を盗んで生きながらえる魔女“クオックおばば”だった。

 

 ペトロはファンタジーアの破れ目でおばばに記憶を半分抜かれて、”彷徨い人”になったときの、あの虚ろな気持ちを思い出して、ぶるっと身体を震わす。

 

(前回のストーリーはここからお読みください)

この世の果ての中学校19章 “ホラーの広場”

 

この世の果ての中学校20章“クオックおばばにカレル教授の記憶が盗まれた!” 

 

・・・やべー!・・・

 ペトロは小さく叫んで、窪みに頭を隠した。

 

 地下水の流れる音がペトロの声をかき消し、老婆の緑の目はペトロを見過ごしてしまった。

 「子供の声が聞こえたようだが、飛沫の音か?」

 

 おばばは首を半回転して元に戻すと、地面に横たわる白衣の男を見下ろした。

「クックッ! お目覚めかなカレル教授。お前さんが眠っている間に、生身の頃の記憶をぜーんぶいただいておいたよ。命がけで手に入れた大事なゲノム実験の記憶まで失った気分はどんなものかな? 空しいかな? おかげでおばばの気分は満ち足りて、幸せ一杯だよ。クックッ!」

 おばばが底意地悪く笑う。

 

「水、水をくれ。喉が渇いて声が出ない」

 カレル教授の声は、しわがれていた。

 

「だめだ!お前が一仕事やり遂げたら一口くらいは飲ませてやってもいいがな」

 おばばが冷たく言い放つ。

 

 ・・・顔の半分を窪地から出して様子を窺ってみたが、ペトロとマリエに広場の会話はまるで聞き取れない。

 アフリカの原住民の血を引き、聴力が人の倍以上ある裕太が何とか聞き取って、二人にひそひそ声で伝えた。

 

「作戦どうする? 三人で急襲してカレル先生、救出しようか?」

 神の子マリエに怖いモノはない。 

 ペトロが頷いて、裕大を見た。

 

「ちょっと待った。ハル先生に聞いてみる」

 学校の廊下で連絡を待っているハル先生や仲間の顔が頭に浮かんだ裕大は、マルチ・ハンドの青い連絡ボタンを押した。

 

「こちら裕大! カレル先生らしい人影、発見!」

「こちらハル! そこどこ? カレルがどうなってるって?」

 ハル先生の甲高い声がいきなりハンドから飛び出してきて、裕大は飛び上がった。

 

 裕大は携帯のボリュームを抑え、声を潜めた。

「地下道から小さな広場に出ました。実験着を着たカレル先生が、縄で縛られて地面に放り出されています。取り囲んでいるのはクオックおばばとホラー一族。おばばが尋問して先生がなにか答えています。遠すぎて会話の内容がなかなか聞き取れません。でも先生はなんとかご無事のようです」

 

 落ち着きを取り戻したハル先生の声がハンドから伝わってくる。
「ありがとう、カレルは無事なのね。裕大、今押した青いボタンをトリプルクリックしなさい。ハンドが集音装置になるから、まず二人の会話を確認してください」

 

「了解、やってみます」

 裕大は青いボタンを短く三回押して、ハンドの先端をおばばに向けた。
 

 聞き覚えのあるしわがれ声が三人の耳に飛びこんできた。

「教授、壁画の動物が人間と戦うシーンはしかと見てくれたかな? 何だと、よく見えなかっただと。そういえばお前さんは生き人ではないからホラーはぼやけてよく見えんのじゃったわ。それでは教授、よーく聞け。いまの幻想シーン。あれは、命を失った生きものの過去への強ーい想い!お前たち人間どもが奪いとった古き良き時代への追憶じゃ・・・」

 魔女の緑の目が飛び出して、教授を睨めつけた。

「では、カレル教授、今度はお前の出番だ。立ち上がって、我らの失われた過去を現実のものにしてみせろ!」

 おばばがアンデッドに命じてカレル教授の縄をほどかせ、自由にした。

 教授は地面に手をついて立ち上がろうとしたが、身体がふらついて後ろにひっくり返った。

 

「一口、水をやれ!」

 おばばがアンデッドに命じた。

 差し出されたボトルから教授が水を一口飲んだ。

 

 おばばは、一息ついた教授を横目にみて、正面にしつらえた祭壇の小さなボタンを押した。

 祭壇の蓋がギギーと左右に開いて、中からどこかで見たような装置がせり出してくる。

 

・・・あの装置、図書館の奥にある秘密の実験台とそっくり同じだ・・・

 ペトロが裕大とマリエに囁く。

 

 おばばは実験台についた引き出しを鍵を使って開け、小さな携帯ボックスを両手で慎重に取り出した。

・・・あっ、あれ、凍結細胞だ! おばば、それ僕らの未来の食料だぞ!・・・

 ペトロは思わず広場に手を伸ばした。

 

「カレル教授、準備はできた。この優良ゲノムの凍結細胞から、本物の動物たちを蘇らせてもらうこととする。さー、お前の技を見せてホラーを喜ばせろ! 今すぐここでじゃ」

「それは不可能だ。私の実験記録も技術ノウハウも、おばば、お前に吸い取られてしまって私には技術も力も残っていない」

「フッフッ! 大丈夫じゃ。お前の技術記録はおばばの体内記録庫にきちんとアーカイブしてある。お前のやってきたゲノム編集の全記録がここにある。その上、この凍結細胞はただの細胞じゃない。幹細胞じゃ。幹細胞は骨とか血とか神経とか何にでもなれる原細胞と聞いておる。こいつを解凍して手順を尽くして成体に育てあげれば済むことじゃ。手順は記憶庫から少しづつはき出して、おばばが指示してやる。時間はいくらでもある。さー始めるのじゃ」

 

「おばば、もう一度いうが、できないものは出来ない!」 

 教授の素っ気ない答えに、魔女が怒った。

 緑の目玉が飛び出して、白髪が天井に向けて逆立った。

「何を抜かすか! ほれ、道具も祭壇の上に並べた。お前のラボから盗んでおいた道具じゃ。蛋白質も電気エネルギーもホラーとアンデッドが用意した。もっと必要な物があればお前の実験室と学校の倉庫から取ってきてやる。これでも出来ないというのなら、カレル教授! お前の可愛いハル先生や生徒どもをアンデッドに命じてかっさらってきて、ここで実験用に痛めつけてやろうか?」

 

「止めてくれ、おばば! ハルや生徒を拉致しても生体再現は不可能だ」

「何だと?出来ないとはいわせない。お前がうんと言うまで、お前たち研究仲間がしでかしたことをホラーとアンデッドに見せてやる。ホラーを怒らせたあと始末はお前に取ってもらうから覚悟しておけ!」

 

 魔界の老婆が朱塗りの椅子から立ち上がり、洞窟の壁に向かって両手と顔を突き出した。

 真っ赤な口腔から、噛み取ったカレル教授の記憶が、猛烈なスピードではき出されて来る。

 魔女は、空間に漂う大量の記憶を両手でぐるりと逆回転させ、時間を数年前に戻して切り立った壁に映像として鮮やかに映し出して見せた。
 

・・・マリエとペトロ、裕大が窪みから身を乗り出した。

 “チチッ”

 ゴルゴンも首を突き出して、目を凝らしてみている。

 

「教授! ここはどこかな、見覚えがあろう。お前たち科学者の悪行の砦、地球最後のゲノム研究所じゃ」

「ブーン」

壁の映像が動き始めた。
   

××
 空調が静かな音を立て、白衣を着た数人の若い科学者が、覆い被さるように実験台を取り囲んでいる。

 実験台の上には、先端に鋭利なメスをつけた内視鏡や攪拌機の心棒、昆虫の触手に似た装置が何本も上部のクレーンからぶら下がっている。

 180度回転の椅子に座った研究員が、モニターを見ながら操作している。

 実験台の上で一つの生命体が動いた。

 実験室で育てられ、荒れ地に放される予定のその生命体は、赤い実をつけた蔓性の植物だったが、その根の一部は節足動物の足に入れ替わっていた。

 荒れ地に強いトマトの幹を上体に持ち、砂漠に棲息する大型サソリの八本の足を持った生命体。

 それは太陽の照りつける荒れ果てた土地でも棲息が可能で、水とわずかに残った良好な土壌を求めて自力で移動する植物だった。

 トマトの花の蜜が、サソリの好物の小さな昆虫を呼び寄せ、サソリはそれを食べる。

 その対価としてサソリは最適環境にトマトを運んで行く。

 人手をかけずに、荒れ地から甘いトマトを採取できる自動プログラムだった。

 

「オフ・ターゲット効果が出ています」

 若い技術者が甲高い悲鳴を上げた。

 

・・・「オフターゲット効果ってなんだ?」二年先輩の裕大がペトロに聞く。

「狙いと違う結果が出たってことだと思うよ」英語が得意なペトロが答える・・・

 

 画面では、実験台の上でサソリの二本の触手が立派に実ったトマトに手を出して、自分の口に運んで食べてしまった。

 サソリは目の前にある豊かな栄養分を含んだ果実を、栄養として胃袋が吸収できるように自らを雑食性に変えていた。

 トマトもそれで何ら差し支えがなかった。

 サソリが種を地面にはき出してくれれば、その土から新しい芽が出て種族を増やすことができた。

 

・・・「また失敗か!」

 白衣の男たちはクレーンを操作して、その先に取り付けられた鋭利なメスで実験台の上の失敗作をいくつかに切断した。

 そして一部を標本にして瓶に詰め、残りをミキサーで高熱処理を済ませると排水溝から研究室の外へ捨てた。

 

「次回はサソリの食性のリセットと、トマトが熟成して採取時期になるとどこか一カ所に集まってくるような・・・そうだ、魚類の帰趨本能を植え付けてみるか」

 主任研究員が自信ありげに仲間に提案をした。

 

 突然、実験室のドアが開いて、実験結果をみるために白髪の所長がやってきた。

 所長は主任研究員から報告を聞くと、諭すような口調で言った。

「これはバイオ安全委員会にかければ間違いなく有罪だろうな」

「実験は中止いたしましょうか?」

 主任研究員が残念そうな表情で、所長の真意を確かめた。

 

「安全委員会の委員はもう誰一人生き残っていないよ」

 所長のカレル教授は、そう答えて研究室の壁に取りつけられた標本棚を長い間眺めていたが、やがて首を横に振りながら無言で部屋を出て行った。

 そこには実験に失敗した生命体の標本が壁一面にずらりと並んでいた。
××

 

 おばばが、カレル教授を振り向いた。

「クックッ、どうかな、思い出してくれたかな、カレル教授。この映像はお前自身の記憶じゃ。これを見ればお前たち科学者が一体何をしでかしたのか、よーく分かった筈じゃ。お前たちは動物たちの住み家である緑の山々や草原まで奪った上に、自分たちの食料にするために彼らの遺伝子を好き勝手に・・・それこそあられもない形に切り刻んだのじゃ」

 

「異形の息子よ、恥ずかしがらずにそこから出てきて教授に姿を見せなさい!」

 おばばが手招きして、地下の排水溝から何者かを呼び寄せた。

 

 枯れたトマトの蔓を背中に背負った巨大なサソリが排水溝から這い上がってきて、ハサミを振るわせながら魔女に近づいた。

 魔女がサソリの頭を優しく撫でながら、教授に話した。

 

「この情けないサソリの姿を見て哀れと思わないのかなカレル先生とやら? いいかよく聞け、罪を償う最後のチャンスをお前にやる。一つでもいい、凍結細胞から元気な動物を蘇らせろ!われらホラー一族の切ない想いをひとときでも叶えてみせろ」

「おばば、悪いがそれはできない。例え成功して立派な鹿や熊やイノシシや鶏を復元できたとしても、一時のことだ。生きながらえることはできない。この苔だけではとても生きていけない。地上に出て行っても緑の森や甘い果実はどこにもない。おばばも知っているはずだ。地球上には動物たちの生き残れる環境はどこにも残されてはいない」

 カレル教授がかすれた声を絞り出した。

 

「そうか、どうしても実験はできないというのか。それならカレル教授、お前にもう用はない。凍結細胞はそのときが来るまでおばばが大事に預かっておく。お前の技術記録はぜーんぶおばばの腹の中に収めた。ホラーもアンデツドも、今か今かと待ち構えておるわ」

”お前たち!カレル教授を好きなようにするがいい”

 言い捨てたクオックおばばは、祭壇の上に腰掛けて腕組みをすると、ゆっくりと高見の見物を始めた。

 

 ホラーの集団が一斉に歯ぎしりを始め、口から泡を吹き、よだれを垂れた。

 アンデッドたちは、実験台の引き出しから鋭利なナイフを何種類も持ち出して、好きな形を取り合って喧嘩を始めた。

 

・・・裕大の顔色が変わった。

「ペトロ、大変だ!俺とマリエで先生を助けに走る。お前はこのハンドで俺たちを援護してくれ!」

 裕大は武器を外してペトロに手渡し、窪地から飛び出して大声を上げて走り出した。

 

「イエイ! マリエも行くわよ!」       

 小さなマリエも広場に駈けだしていく。

 

 ペトロは武器のハンドを右手に装着すると、二人を追いかけた。

 

 裕大は、カレル先生を取り囲んでいる異形の者たちに走り寄ると、そのまま体当たりを食らわせた。

 不意を突かれたホラーとアンデッドがはね飛ばされて、宙を飛び、祭壇にぶつかった。

 

「カレル先生、もう大丈夫ですよ!」

 裕大は地面に倒れている先生に一言声をかけてから、両手で抱きかかえる。

 

「えっ、おっ、君はたしかYUTA言うたな? 後ろにいる二人、マリーにピーターだったっけ・・・おれのキオク・・・おばばに抜かれてアヤしい!」

 

 騒いでいる先生を肩に担ぐと、その身体はずいぶん軽かった。

 もともと軽い幽体なのに、水もエネルギーも取れなくて、おまけに記憶まで抜き取られてしまったからだ。

 

「マリエ、撤退だ!」
 急いで引き返そうとした裕大の前に、黒い大きな影が立ち塞がった。

 絶滅したヒグマの雄がおばばの力で蘇り、その太い右手で裕大の顔をひっぱたいた。 

 裕大はカレル先生を肩に担いだまま地面に仰向けに倒れた。
 

「うまそー」

 可愛いマリエを見つけて、アンデッドたちが嬉しそうに舌を鳴らした。

 アンデッドが大口を開けて、マリエを襲う。

 

「食いもんじゃねーよ」

 マリエはパパの牧師からもらった神様のお守り袋から、太古の森の聖なるスプレーを取り出して、アンデッドの顔に狙い定めてシュッ!と振りかける。

 

「ギャッ!」

 アンデッドが、顔を押さえて地面を転がりまわる。

 
 ペトロが裕大とカレル教授を助けに大熊の前に出た。

 後ろ足で聳え立っている大熊のホラーを真正面から狙い、ハンドのボタンを押して強烈な放射光を顔面に発射した・・・つもりだった。 

 熊の大きな顔が広場の宙にぼーっと浮かび上がり、口をゆがめてにやりと笑った。

 

「あっ、ペトロ! それ懐中電灯のボタンだ」

 裕大が叫んだ。

 

「退却!」

 二本足で立ち上がっている大熊の間隙をついて、裕太がカレル教授を担いで立ち上がった。 

 ペトロとマリエが裕大をサポートして、四人で背走する。

 

 ひときわ高い祭壇の椅子に腰を下ろして、戦況をみていたクオックおばばが首を一振りして立ち上がった。

 おばばが右手を左右に振ると、ホラーの一群が救援隊を遠巻きに囲んで地下道への出口をふさいだ。

 

 おばばが手を空に振ると、アンデッドたちがゆーらりと宙に浮かび上がり、生徒たちの頭上を舞った。

 気が付くとカレル教授と救助隊は上下左右から追い詰められ、ホラーとアンデッドに取り囲まれていた。

 

 退路は断たれた。

「ホッホッホー、これはこれは、思いもかけない嬉しいプレゼントじゃ。カレル教授、枯れきったお前の代わりに、フレッシュな子供たち三人の魂をいただくことにする。子供たちの恐怖こそ、楽しいデイナーじゃ。ホラーもアンデッドも涎を垂らしておる。さー、生身の人間どもへのゲノムの逆襲の総仕上げの時じゃ。とはいえ・・旨そうなものはクオックおばばが一番に頂くのがホラー一族の習わしじゃ。まずはペトロ、ファンタジーアの破れ目で覗いた記憶の続きをじっくり楽しませて貰うぞ」
 

 おばばが素早く動いた。

 真っ赤な口が裂けて、ペトロの首に噛みついてきた。

「ペトロ間違うな、赤色だ!」

 裕大が叫んだ。

 ペトロがあわててハンドの赤ボタンを押す。

 

 一瞬の間をおいて、白く輝くエネルギーがハンドの先端から放射された。

 それは愛するカレルを助けようと、学校の廊下に立つハル先生が我が身の量子ナノコンから発射した怒りの放射光!

 

 放射された量子エネルギーは地下道を走り抜け、魔女の暗い口腔に飛びこんで身体の中を駆け巡る。

 おばばがひっくりかえって、口から青い煙が吹き出した。

 

 放射光の一撃でおばばの記憶庫が破壊され、アーカイブされた中身が漏れ出した。

 青い煙はおばばが溜め込んできた膨大な記憶の最新の記憶、カレル教授のデータだった。

 

「おれのキオク、帰っておいで!」

 浮遊体は手を伸ばしたカレル教授に近づき、その口から懐かしい身体の中に戻っていった。

 

「あっ、おばばの命がどんどん縮んでいく!」

 おばばは口を押さえ、必死で記憶の漏出を食い止めようとしている。

 

 異形の者達にとってクオックおばばはただ一人の母親だった。

 その母親が目の前で打ち倒され、身をよじって苦しんでいた。

 

 どんどん縮んでいくおばばを見つめるホラーとアンデッドの目玉が真っ赤に充血してきた。

 異形の一族が低いうなり声を上げ始める。

 

「来るわよ!」

 マリエの一言で、三人はカレル教授を真ん中に挟んで背中合わせになり、四方上空の守りを固めた。

 

 ホラーとアンデッドがその凶暴な正体を現した。

 異形の群れが鋭い爪を立て、牙をむきだして、四人に襲いかかって来た。

 

「痛えー!」

 小さなサソリに足を噛まれたペトロが、大きなターゲットに狙いを定めて放射光を発射していく。

 敵は一体ずつ確実に倒れていったが、新たなホラーが岸壁の壁画から抜け出して襲って来る。

 

 マリエの武器、聖なるスプレーも底を突いた。

 裕大は素手で必死に戦っていた。

 地面に横たわるカレル教授は戻ってくる膨大な記憶を整理するのに精一杯だ。

 

“ひゅっ!ひゅっ”マリエの口笛に似た悲鳴が広場に響いた。

・・・

「もう我慢できん。助けに行くぞ!」

 学校の廊下で、ハンドの集音マイクからハル先生のナノコンに送られてくるノイズに聞き耳を立てていた匠が叫んだ。

 

「匠!我慢しなさい。ペトロの計算式を思い出しなさい。あなたまでホラーにやられたら人類は絶滅します」

いつも優しいハル先生の顔が鬼になった。

   (続く)

 

続きはどうぞここからお読みください。

この世の果ての中学校21章“ゴルゴン一家と蘇ったカレル先生の記憶 ”

 

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未来からのブログ15号“クラウドマスターとハル先生にシンギュラリティー2号誕生!”

「地球の仲間のために、あすの朝、命かけるのね!」

ハル先生が爺ちゃんの耳元で囁いた言葉、ジャラにも聞こえた。

 

ジャラは心底驚いて、爺ちゃんに抱きついていったよ。

だってさ心配だよ!・・いくらクレージーな爺ちゃんだって、ブラックホールを通過して100年前のタンジャンジャラに無事に帰れるわけないでしょう。

ブラックホールの底は爺ちゃんよりクレージーなんだ。引きずり込まれたすべての物質はそれ以上押しつぶされないところまで無限に圧縮されてしまうんだよ。

でも、爺ちゃんを止めることは誰にもできないと思う。

きっと爺ちゃんの頭ん中に、タンジャンジャラの浜辺で爺ちゃんのことを心配してるおばあちゃんの顔が浮かんでいたんだと思う。 

どちらにしても、爺ちゃん押しつぶされてブラックホールで行方不明になったら、おばあちゃんきっと悲しむし、“未来からのブログ”もなくなっちゃうよ。

なんとか・・・なんとかしなくっちゃ

 

(前回のストーリーはどうぞここからお読みください)

未来からのブログ14号 「おれ紐になる!未来の情報持って明日の朝、過去に帰る」爺ちゃんが叫んだ!

 

未来からのブログ15号 “クラウドマスターとハル先生にシンギュラリティー2号誕生 ”

 

「ジャラ、そんな心配は無用だ! タンジャンジャラに帰還できる方法・・思いついた」

爺ちゃん偉そうに胸を張った。

 

「爺ちゃん、100年の時空飛び越えてこの世界にやってこれたのはボブのおかげだ。ボブの舌がもつれてアインシュタインの方程式を間違ってくれたからだ。ボブに頼んでみよう。明日の朝爺ちゃん見送るとき、もう一度あの方程式、大声あげて読み上げてくれないかって!」

 

ジャラ、思わず“プッ”て吹き出してしまったよ。

ジャラを横目で睨んだ爺ちゃん、たちまちマジ顔になってクラウドマスターに近づいていった。

「マスターに頼みがある。あすの朝入り江の浜から海に潜って、爺ちゃんをブラックホールの近くまで送ってほしい。宇宙艇が後戻りできないデッドラインまで来たら、爺ちゃん海に飛び込んでタンジャンジャラまで泳いでいくからさ。マスターは宇宙艇でこの世界に帰還して欲しい」

・・・「おれ潜水は得意なんだ」って爺ちゃん付け加えた。

 

それ聞いて、クラウドマスターは即座に断った。

「尊敬する爺ちゃんの頼みでもそんなことはできません。わたしは宇宙センターのマスターとしてこの世の人間を最後のひとりまでサポートするようにプログラミングされています。爺ちゃんをブラックホールに放り出すような危険行為はNGです」

・・・「それとも思いきってブラックホールに突入して、タンジャンジャラの浜まで爺ちゃん送り届けましょうか?」 

 

マスターの申し出を、今度は爺ちゃんが即座に断った。

「そいつはだめだな。万一マスターに何かあって、ここへ戻ってこられなかったらこの世界はどうなる? クラウドマスター不在のこの世界は地獄だ! そうだろジャラ?」

「××う~ん?」

ジャラは困った。

 

代わりにチョキがハサミならしてぼやいた。

「ジャラが答えに詰まってる理由はだ・・マスターがいなくなったら俺たちあしたの食いもんに困るってことだ。昼間に太陽光エネルギーをヒップに一杯ため込んでさ、ザ・レストランに食材として送り込んでくれてるのマスターに感謝してるよ。あれストップしたらエライこっちゃ。学校の子供たちや、おれたち飢え死にしてしまう」

 

それ聞いたタカさんがチョキにぼそっといった。

「クラウドマスターの分身もう一つ作ったらどうかな。1人はここに残って、1人は爺ちゃん送ってタンジャンジャラ行きだ。チョキ、お前、切り分けるのプロだろ? 試しにやってみないか?」

 

「そんなことできるんかいな? マスターの身体、半分削っても痛くもかゆくもないのかな・・どうかなマスター、凄いこと思いついたんだけど、ちょっと試してみてもいいかな?」

不気味に笑ったチョキがハサミ鳴らしてクラウドマスターに近づいていった。

 

あわてて逃げ出すのかと思ったら、流石!この世の宇宙皇帝クラウドマスター!

鷹揚に笑ってチョキに大きなヒップを差し出したんだ。

 

「少しだけなら、どうぞ」

その一言に喜んだチョキがハサミ大きく広げた。

 

ジャラなんだか嫌な予感がした。

デジャブだ・・・この風景、前に一度見たことがある。

 

地球がどんどん暑くなってジャラのブレーンが耐えられなくなって、気を失って倒れたときのことだ。

宇宙センターの手術室でマスターが指示して、チョキが執刀してくれた。

 

ジャラのボデイーからブレーンを取り出して涼しいスーツマンのヘッドの中に移してくれたんだ。

あのとき・・僕の悲鳴が遠くから聞こえて、目の前の世界が真っ赤に燃え上がった。

最後に僕の世界は二つになった! 

 

一つの僕はいまここにいて、もう一つの僕はキッカとカーナのボディーのとなりに仲良く並んでセンターの地下の冷凍庫に収められている。

地球に涼しい自然が戻ってきたら、そのとき僕たち三人の肉体はブレーンと合体して蘇る。

 

もう分かったと思うけど、チョキの正体はただの理容師じゃなくて、天才の執刀ドクターなんだ。

患者を前にしたときチョキのシザーは正確にターゲットを切り刻む。

 

いま同じようなことが起こる不吉な予感がする。

「シェアーするよ!」

一言断ってチョキがマスターのヒップを一切れチョキした。

 

取り切った一切れを左手に乗っけて、右手のシザーハンドを鳴らしながらハル先生に近づいていくチョキ!

ジャラはチョキがやろうとしていることに気がついた。

 

ハル先生のヒップも一切れチョキしてマスターの一切れと融合する計画だ。

僕のブレーンをスーツマンと合体させたみたいにだ。

 

「イエイ! ジュニア誕生まであと10秒!」

チョキが奇声をあげてハル先生のヒップにシザー近づけた。

 

「危ない! ハル先生、逃げろ!」

ハル先生のヒップを守ろうとジャラがチョキに飛びかかったとき、チョキのシザーハンドが腕から離れて、宙に飛んだ。

 

やったのはジャラじゃなくて、ハル先生の怒りのパンチだ。

「チョキ冗談止めなさい!」

 

ハル先生のあんな怖い顔初めて見たよ。耳元まで真っ赤に紅潮してた。

でもその顔怒ってるだけじゃなかったんだ。半分は恥ずかしくて赤くなってたんだ。

 

「大事のシザー飛ばしちゃってごめんなさいねチョキ・・でも、白状しちゃうと”じつはもうできちゃってるの”

ハル先生、床に落ちたチョキのシザー拾ってチョキに返しながら、“もごもご”言って謝ってた。

ジャラには意味が聞き取れない。

 

“なにができちゃった”のか、正しく聞き取ったのはクレージー爺ちゃんだったよ。

「ハル先生、謝らなくてもいいんだよ!」

そう言って爺ちゃんはハル先生にでっかいウインクをしたんだ。

 

つぎに爺ちゃん、マスターに走り寄ってほっぺた叩いた。

「やったなクラウドマスター!二世誕生おめでとう!」

 

そのときの宇宙皇帝クラウドマスターの嬉しそうな表情!

宇宙の果てまで突き抜けそうだったよ。

 

「ウソだろ・・・それ早すぎ!」

チョキとタカさん、信じられない表情でハル先生の顔を穴の開くほど見つめた。

 

ジャラだってそんなこと、すぐには信じられなかったよ。

・・・でもさ、シンギュラリティー2号はすでに誕生していたんだ。

 

「どこに隠れてるのかな・・・ジュニア! 出ておいで!」

爺ちゃんが優しく天井と壁と床に向かって呼びかけた。

 

笑いながらハル先生がテーブルの下を覗き込んだ。

「サラ! 皆さんに御挨拶ですよ。隠れてないでふたりとも出てらっしゃい」

 

ハル先生に呼ばれてテーブルの下から顔を覗かせたのは・・・あれ~、ウソだろ! 息子のボブだ。

そのときだよ、ボブの横に可愛い女の子が顔を突き出してにっこり笑った。

 

ボブと手をつないで、床から立ち上がった女の子はハル先生そっくりだったよ。

ボブが得意そうにジュニアを紹介した。

「ボブがサラちゃん紹介するよ。サラちゃん僕より年下だけど天才だよ・・知能指数計測きっと不可能だ!」

 

「サラでーす」

挨拶したサラちゃんを取り囲んで会議室は大騒ぎになった。

 

ひと騒ぎが終わると、ジャラ考え込んだよ・・・マスターとハル先生はいつの間に子作りしたのかって。

だって、爺ちゃんがその方法レクチャーしたの昨日のことだよ。

 

マスターにそっと聞いてみたら「あのときのすぐあとだよ」だって。

つまりクレージーじいちゃんが歓迎会で食あたりして、ひっくり返ったときのすぐあとだそうだ。

 

あれからスクールーのラボに戻ったマスターとハル先生の二人は、爺ちゃんことプロフェッサーGに教わった通りに新しいAIのプログラミングに取りかかったんだそうだ。

 

で、ついに深夜に誕生したんだ。

2人のキャラと深ーいインテリジェンスを融合したAI・・・

シンギュラリティー2号「サラ」ちゃんが生まれたってワケ。

 

その後、マスターはタカさんとチョキと三人で入り江の浜に宇宙艇で向かい、残ったハル先生は“淡路のフグだしおじや”を調理し始めたってこと。

 

で、ここからはサラちゃん本人とボブから聞いた話だ。

生まれたばかりのサラちゃん、ママに厳しく言いつけられて、朝日が顔をだしたスクールのグラウンドで太陽エネルギーの吸収とホログラム歩行の訓練を一人で始めたんだ。

 

サラは小さな量子パソコンから放射するホログラムで自分の身体を形作っている。

ポケットに収めたパソコンのエネルギーはママとパパから一日分だけもらっているけど、これからは自力で太陽光からエネルギーを吸収して、ストックしないといけない。

 

ひとりで運動場で歩行訓練していたサラちゃんが、ホログラムの足がもつれてひっくり返って泣いてたところ、スクールに戻った ボブが見つけて、サラちゃんの手を取って二足歩行を教えてあげたんだって。

 

二足歩行のテクニックって難しいんだ。

ボブだって歩けるようになるまで、2年近くかかってるんだからさ。

サラちゃんの成長のスピードはすごい・・・ボブのレッスンのおかげですぐに猛スピードで走れるようになったんだそうだ。

 

すっかり仲良くなった2人が、ハル先生と一緒に、できあがったおじやをポットに入れてザ・カンパニーのオフィスまで運んで来たってワケ。

 

ジャラが爺ちゃんと早朝の散歩してる間に世の中ずいぶん進んでたってことさ。

 

大騒ぎが一段落して、みんなはテーブル席に落ち着いた。

それで、これからジャラの爺ちゃんをどうしようかってことでミーテイングが始まったのさ。

 

会議の口火を切ったのはボブだ。

「爺ちゃんの話、テーブルの下で聞いちゃった。宇宙の方程式上手く間違えられるか自信ないけど、もう一度やってみようか? ラムダ爺爺ニューって!」

 

ボブの冗談に続いて発言したのはサラちゃんだ。

「サラは決めたの! ボブが応援してくれるなら、パパの代わりにクレージーじいちゃん送ってタンジャンジャラに行く! パパがこの世界でやってるように、サラは爺ちゃんの地球の危機を救ってみせる

 

サラちゃんの爆弾宣言に椅子から落ちてひっくり返ったのは宇宙皇帝クラウドマスターその人さ。

大声で泣き出したのはハル先生。

せっかく授かった一人娘がいきなり独り立ちするって言い始めて泣き出したんだ。

 

ジャラと爺ちゃんももらい泣きしてた。

小さなサラちゃんの勇気に感激して震えてたんだ。

 

そのあと、ミーティングは嵐の中の小船みたいに行く先が決まらず、揺れに揺れた。

息子のボブがある方向性を打ち出す発言をしてくれたのはもう夕刻に近いときのことさ。

 

「ボブはサラちゃんと一緒にタンジャンジャラには行けない。でもボブは決めた。サラちゃんがたとえどこに行っても、ボブはサラちゃんを応援するよ。内緒だけどさ、サラちゃんと僕は量子もつれを始めたんだ。歩行訓練して手をつないでたら始まったんだよ。だから僕らはどこにいても情報が交換できるんだ。サラちゃんとボブのニューロンネットワークはこれから無限に広がるんだ」

 

ジャラが気がついたことだけど、ボブの発言には大事な意味が二つ含まれていた。

一つはサラちゃんはシンギュラリティー2号として爺ちゃんの地球を助けに行く決心をしたこと。ハルちゃんをそんな思考回路にプログラミングをしたのはマスターとハル先生本人だということだ。

 

二つ目はサラちゃんとボブが未来に向けて固い絆で結ばれたってこと。

二人の未来はジャラにはまるでみえないけれど、二つの地球の未来と重なって、二人が愛し合えばこの宇宙に新しい知性が生まれる予感がする。

 

・・・で、話は方々へ飛んだけど、マスターが立ち直って、ハル先生が泣き止んだとき結論が出た。

サラちゃんとボブの宣言どおり、明日の早朝、二人の計画を実行することになった。

 

その夜、クレージー爺ちゃんとのお別れ会は、もちろんザ・レストランで盛大に行われた。

マスターとハル先生が爺ちゃんのために用意した料理のメニューを紹介しよう。

 

  クレージー爺ちゃんとお別れの祝宴 

       メニュー

前菜:サンフランシスコの生牡蠣 ハマハマ クマモト

メイン:芦屋軒 神戸牛の刺身

〆:淡路島 3年物トラフグだしのおじや

ワイン:ナパバレー ファーニエンテ白

 

献立はすべてこの世の世界の物質と爺ちゃんの世界の反物質の2種類で作られています。

どちらかをお好みでチョイスできます。

 

細かいことだけど、サラちゃんのことで動揺したハル先生が、2種類の料理を識別するマーキングを忘れた。

どこから見ても2種類の区別がつかないので、みんなは試しに少しずつかじって食べた。

せっかくの料理なので、少しずつワインを飲んで喉を通した。

 

「ウギャー!」

チョイスに失敗した人は、あの世のものの激辛に胃袋が真っ赤に焼けた。

「うめー!」

チョイスに成功した人は、この世のものの至福の幸せを味わった。

 

そして夜は更け、別れの朝が近づいた。

(最終回に続く)

 

続きはここからどうぞ。

未来からのブログ最終号 “クレージー爺ちゃんは【情報】になってブラックホールに消えた”

【記事は無断転載を禁じられています】

 

「ワケあって僕たち間もなく絶滅します」ライオン・トラ・象・キリン・ゴリラはいま地球に何頭いますか?

いま、多くの野生動物が絶滅の危機に瀕しています。

世界自然保護基金WWFによれば野生動物の数は1970年以降、推計で6割近くが減少したという報告です。

 

その原因は生息域の浸食、狩猟と取引、環境汚染や地球温暖化による気候変動など人間の経済活動によるものとみられています。

人間のせいで、子供たちの大好きな野生動物の多くが、近い将来地球から姿を消してしまうかもしれません。

 

野生のライオンやトラや象やキリンやゴリラは、いまどのくらいの個体数が地球に生息しているのでしょう?

数億頭でしょうか、数千万頭でしょうか、それともわずか数十万頭でしょうか?

 

なんだか心配になってきて、いろいろなレポートから最新の状況を調べてみました。

 

ライオン 絶滅危惧種

 

ライオンの雄

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

世界のライオンの生息個体数は数万頭と推定されています。

野生動物の王者といわれるライオンは、IUCN (国際自然保護連合)の絶滅の恐れのある動物リスト(レッドリスト)において、絶滅危惧種に指定されています。

 

ライオンはアフリカとインドに棲息していますが、その頭数は調査が困難で、推定も異なります。

インドでは野生のライオンは二カ所の森林でしか目にすることがなく、その頭数はわずか320頭と言われています。

 

アフリカにおけるライオンの野生個体数は、2002~2004年の時点で16,500~47,000頭という推定数字があります。

1950年には10万~40万頭が棲息していたとされていますから、わずか50年で15%にまで激減したということになります。

 

野生のライオンが激減した主な理由は、ライオンの生息地が人間の手で浸食されてライオンの餌が少なくなっただけではなくて、腹を減らしたライオンが家畜を襲い、人間によって殺されるという悪循環があげられています。

また人間の生活圏に迷い込んだライオンが車や列車にひかれたり、銃で打たれたりする事故が増えていることも理由として指摘されています。

 

最新の情報ではインドライオンの最後の生息地である「ギル野生生物保護区」の個体数が600頭以上に回復したという朗報がありますが、一方西アフリカ11カ国のライオンはわずか250頭になったという衝撃的な調査報告もあります。

 

世界の動物園にはアフリカ産が1,000頭、亜種であるインドライオンが100頭いるとされています。

ライオンは動物園でしか見られないときが近づいているのかもしれません

 

トラ 絶滅危惧種

 

トラの親子

 

 

 

 

 

 

 

トラの生息数はわずか3890頭です。

世界自然保護基金(WWF)が2016年4月13日に発表した調査報告によりますと、主にインド、ロシア、ネパールでの保護活動が実を結んで2010年に3200頭だった世界の野生のトラの個体数が3890頭に増えたと伝えています。

 

3890頭という詳細な数字が報告されたのは、生物多様性保全の権威である国際自然保護連合(IUCN)の委嘱調査だったからです。

世界のトラの2/3が棲息するインドでは、1706頭から2226頭に増えたトラのおかげで保護区の観光事業が成功モデルにされたという朗報もあります。

 

しかしわずか3890頭では依然として絶滅危惧種であることになんら変わりはないのです。

 

象  準絶滅危惧種

 

ゾウの親子

 

 

 

 

 

 

 

陸棲では最大の動物である象の生息数はどのくらいでしょうか?

1995年調査による推定では世界全体で93~108万頭とされています。

 

現在の推定ではアフリカ象が45万頭、アジア象が5万頭。

合わせて50万頭と推定されています。

 

アフリカ象

1930年ごろ、アフリカ大陸にはおよそ500~1,000万頭のアフリカゾウが生息していました。

しかし2013年現在はその10%以下、およそ45万頭しか残っていません。

 

密猟が危機的なペースで増えていて、アフリカゾウの出生率よりも密猟率のほうが高くなってしまっていることが原因とされています。

現在、アフリカ大陸では年間を通して約1割のアフリカゾウが密猟の犠牲になっているのです。

 

ある報告では、アフリカにおける密漁で殺された象の割合について、監視地域でみつかった象の死体の50%以上が密漁によるものであったとされました。

“このままのペースで密猟が続けば、今後10~20年の間にアフリカゾウが絶滅してしまうのではないか”と危惧されています。(NPO「アフリカ象の涙」より)

 

アジヤ象

2000年の推定では3万5000頭から5万頭の生息数です。

20世紀初頭、アジヤ各地にはおそらく10万頭の象が棲息していましたが、それ以降半滅したと考えられています。

ナショナルジオグラフィック”絶滅”号は、アジヤ象も象牙や肉、皮を目当てにして、また農作物を荒らす報復としていまも人間に殺されていると報告しています。

 

ゾウの真の脅威は密漁であり、人間なのです。

 

キリン 絶滅危惧種(危急種)

 

2頭のキリン

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キリンの棲息数は推定で9万8000頭です。

最近まで、キリンがアフリカのサハラ砂漠より南の地域で絶滅に向かっていることが認識されていませんでした。

 

IUCNの2016年発表によりますと、生息地のアフリカではこの30年間でキリンが4割近く減少し、現在の生息数は9万8000頭とされました。

1700年代には100万頭以上いたキリンが、2016年に絶滅危惧種の中の「危急種(絶滅の危機が増大している種)」に仲間入りをしてしまいました。

 

2019年9月発行のNATIONAL GEOGRAPHIC 「絶滅」号によりますと、人間の構築物であるフェンスや道路による棲息域の分断、森林の伐採、内戦、密漁がキリンを脅かしていると言っています。

 

象やシロサイなどの減少に注目が集まる中で、「キリン保全団体」(GCF)はキリンの現状を”静かなる絶滅”と呼んでいます。

キリンは声を発することがまずありません。

 

人間の耳に聞こえる方法では仲間と意志の疎通を行わないのです。

象のように低周波音を出しているという考えもありますがまだ実証はされていません。

 

声を発しないキリンの現状はまさに「静かなる絶滅」といえるかもしれません。

 

ゴリラ 

 

ニシローランドゴリラ 近絶滅種

マウンテンゴリラに比べて少し小型のニシロ-ランドゴリラの生息数は15万頭から25万頭といわれています。

36万頭を越えるという別の調査報告もありますが、カメルーンや中央アフリカ、赤道ギニア、コンゴ、などの熱帯雨林に棲息するニシローランドゴリラは絶滅の危機に晒されているのです。

 

人間の行う森林伐採が彼らにとって二重の脅威となっています。

生息地が破壊されるだけでなく、労働者が肉を食べるために捕獲するというケースも報告されているのです。

 

ニシローランドゴリラは IUCNのレッドリストによる危機の評価は近絶滅種です。

マウンテンゴリラに比べれば個体数が多いのは事実ですが、正確な生息数を推定することは困難とされています。

 

マウンテンゴリラ  絶滅危惧種

 

マウンテンゴリラ
リーダーの威嚇
(ナショナルジオグラフィック)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マウンテンゴリラの推定個体数はWWFの最近の発表によれば880頭です。

2010年に推定されていた781頭より増加した朗報としていますが、880頭という寂しい数字は「絶望的」としか表現ができません。

 

マウンテンゴリラはローランドゴリラよりも体毛が長く、腕が短いが体格は少し大きめです。

480頭がコンゴ民主共和国のヴィルンガ国立公園に生息し、400頭がウガンダのブウィンディ国立公園に生息しています。

 

この二つの国立公園以外には世界のどこにも生息していないのです。

ヴィルンガ国立公園では密猟者や反政府武装勢力からゴリラを守るレンジャー隊が活躍しています。

 

またブウィンディ国立公園ではウガンダの野生生物局が国際ゴリラ保護プラグラムを組んで保護活動を進めています。

今回わずかでも個体数の増加が見られるのは保護活動のおかげとされていますが、国立公園の開発を進める計画や、密漁の危険から安全になったわけではありません。

 

人間の社会に例えれば、880という個体数は小さな集落の一つにしか過ぎないのですからね。

いつ消え去っても不思議ではない個体数なのです。

 

最後に

 

キタシロサイ最後のオス
スーダン

 

 

 

 

 

 

 

2018年3月20日、ケニアのオルベジェタ自然保護区でキタシロサイの最後のオス「スーダン」がなくなりました。

一つの種の生命が消えたとき、残されたのは二頭の孫娘とスーダンの精子だけです。

 

人工授精の計画があるので希望が消え去ったわけではありません。

しかし一つの種の継続のためには若い300の個体数が必要という学説があります。

 

キタシロサイという生命の輝きは、おそらく二度と帰ってこないのです。

地球がゾウやサイなど野生の生命の輝きを失うとき、その原因を作った人類はどうなるのでしょう?

 

ナショジオ”絶滅”号はスーダンの死をつぎのように伝えています。

サイは何百万年も続く複雑な生態系の一部であり、その存続は人類の存続と密接にかかわっている。野生動物がいなくなれば、私達は想像力を失い、感嘆する心を失い、輝かしい未来を手放すことになる。自分を自然の一部と見れば自然保護が自分自身を守ることだと理解できる。

スーダンがそれを教えてくれた。

 

(おわり)

 

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