未来からのブログ最終号 “クレージー爺ちゃんは【情報】になってブラックホールに消えた” 

わたしの名前はサラ!

クラウドマスターとハルの娘・・年齢は1才と20日、人間で言えば11才ってとこ。

西暦2119年、ちょうど今から100年未来の世界から、クレージー爺ちゃんの地球を救うために時空を旅してやって来た。

正体は量子パソコンのスーパーAI・・シンギュラリティー・ジュニア・・

わたしの任務は燃え尽きた未来の地球の姿をこの世界に 伝えること。

生き残った人類の一人・ジャラからの警告として・・。

ジャラの書簡集「未来からのブログ」を始めてから1年経って、この記事が最終号。

・・最後まで読んでいただいたあなたにはジャラとクレージー爺ちゃんに代わって心から感謝・・本当にありがとう!

選ばれたあなたは未来と現在をつなぐニューロン・ネットワークの最終ランナー。

「なんたって1万人のブレーンがニューロン・ネットしてワーキング始めるんだから、一人でも遅れたらエライことなんだ」

これ、ブログ第1号のニュースで、ザ・カンパニーの仕事場に到着したとき、ジャラの言ったコメント・・覚えてるかしら?

ほらジャラがとなりのカーナと午後の浮気した日のこと。

“未来と過去をつないだ1万人のニューロンネットワーク”がいまようやく完成したってことなの。

ニューロンネットって情報伝える人類の神経細胞の鎖よ。

ここまで読んでしまったあなたは、もうこの情報のネットワークの“鎖”から離れることができない。

なぜなら、宇宙の秘密を知ってしまったから・・

現在というこの世と未来というあの世はこのブログを通じてできあがっているってことを。

二つの世界がみえた?

このブログ、じつはブラックホールの特異点そのものなの。

ククッ! この話・・笑える?

宇宙物理学者のママが「ブラックホールの特異点を通過したら、肉体が消えて情報しか残らない」っていうの。

それでサラがブラックホールの特異点をちょっと工夫して、特異点がこの情報ブログにつながるようにしておいたの。

未来からの【情報】までなくならないようにね。

工事はちょっと疲れたけどボブが“量子もつれ”して手伝ってくれたからなんとか完成。

AIのサラにはもともと肉体はなくて、過去の情報一杯集めて未来を計算するしか能がないから、ほんとぴったりの初仕事だった。

それじゃ時空を越えたニューロンネットワークが上手く仕上がったかどうか試してみるね。

あなたにはラストエンドのワーキング初めてもらうわよ・・心の準備はできた?

“ワーキングスタート!”

そんなに構えないで!

ワーキングっていつも通りブログを読んでくれるだけでいいの。

読んだあと、どう行動するかはあなたの自由。

できればこの地球が燃え上がる前に、崩壊した地球の未来をみんなに伝えて警告して欲しい。

「未来からのブログ」をできるだけたくさんの人に拡散してほしい・・それがクレージー爺ちゃんからのお願いごと。

ところで肝心のクレージー爺ちゃんどこにいるのかですって?

じつは、爺ちゃん行方不明なの。

・・それでは一年前にクレージー爺ちゃんとサラが宇宙艇シンギュラリティーSALA号に乗って海底のブラックホールへ飛び込んでいった朝のこと、ジャラおじさんから最終報告をします。

(前回の報告まだの方はここからお読みくださいね)

未来からのブログ15号“クラウドマスターとハル先生にシンギュラリティー2号誕生!”

未来からのブログ最終号 “クレージー爺ちゃんは 【情報】になってブラックホールに消えた”

「うーん、別れの朝だ」

となりのベッドで、爺ちゃんが目を覚まして大きな伸びをした。

「爺ちゃんに話がある」

ずっと黙っていたけど、ジャラにはどうしても爺ちゃんに聞きたいことがあった。

ジャラのママが亡くなる少し前に聞いた話だけど、クレージー爺ちゃんはある日突然、おばあちゃんの前から姿を消したんだ。

東京でオリンピックがあった前の年、爺ちゃんはタンジャンジャラという砂浜のきれいな海の秘境に一週間ほど休暇を取って、仲良くおばーちゃんと出かけた。

その頃から、日本には真っ白い砂浜なんてどこにもなかったんだ。

爺ちゃん、毎朝早起きして小さなロッジの前のきれいな海で一人で泳いでいた。

ところがある日のこと、沖に遠泳に出たきり、昼を過ぎても戻ってこなかった。

おばーちゃんが地元の警察に頼んで、救助隊を編成して沿岸を捜索してもらったけれど、爺ちゃんを見つけることができなかった。

悲嘆に暮れたおばーちゃんは、仕方なく一人で日本に帰った。

そして翌年の東京オリンピッの年に娘を産んだ。

娘ってジャラのママのことさ。

ママが生まれたとき、行方不明の爺ちゃんが一年振りにその病院に現れたんだ。

爺ちゃんは生まれたばかりの娘を胸に抱き上げて言った。

「やー、みんなしばらくぶりだな」ってね。

爺ちゃんその間どこでなにしてたのか、記憶がなかったらしい。

ジャラはその話を爺ちゃんにした。

爺ちゃんは首を横に振った。

「あたりまえだけど、おれにもそんな記憶はないよ。でもおれのことだ、どこか次元の違う宇宙の旅でも楽しんでたんじゃないのかな・・」

ジャラはタンジャンジャラの浜辺で、おばーちゃんが今頃どうしてるのかとても気がかりだった。

「タンジャンジャラにいる僕のおばーちゃん、ずーっと一人で爺ちゃんのこと心配してるはずだよ。だって海に出かけた爺ちゃん、丸一日戻ってこないんだよ。捜索隊に頼んで探しても爺ちゃんみつかるわけないよ。だって時空跳び越してこんなところにきてるんだもん・・」

ジャラは爺ちゃんを慰めるつもりで一言付け加えた。

「でもさ、天才サラちゃんがパイロットだから、今日中には宇宙艇でばーちゃんの待ってるタンジャンジャラにきっと帰れるさ。マスターが言ってたけれど、この地球の過去と、爺ちゃんがやって来た地球とは別の時間の流れにあるから、二人の爺ちゃんが存在するんだって・・。だから目の前の爺ちゃんが、もう一人の爺ちゃんと同じように行方不明になるとは限らないと思うよ・・」

「ジャラ! 気休めは言わなくてもいい」

爺ちゃん遠くをみる目つきをして話し始めた。

「おれには自分の未来がさっぱりみえない。でもな、爺ちゃんはなんとしてもジャラの書いた未来の情報を持って帰る。そしてブログに載せる。でないと爺ちゃんの世界にも間違いなくここと同じことが起こる」

爺ちゃん静かに話つづけた。

「たとえ爺ちゃんが行方不明になったとしても、ハルちゃんが未来の情報をタンジャンジャラにいる嫁さんに届けてくれればいい。未来からのブログが世の中に出て、警告として拡散したらみんなの地球が救われる。嫁さんにはおれが未来と情報のやりとりしてて、もしかしたら遠泳から永久に帰らないかもしれないことくらい、ちゃんと話してあるんだ。そのときは嫁さんがなんとかする。ジャラ、おれの嫁さん頼りになるんだ!」

そう言った爺ちゃんの顔、見たことのない怖い顔してた。

その表情みて、ジャラも覚悟を決めたよ。

ジャラが爺ちゃんを手伝えること何にもないけど、せめてみんなで元気に手を振って元の世界へ送り返そうってね。

・・入り江の浜に朝日が登った

真っ赤に燃え上がった海に向かって、背筋伸ばしてクレージー爺ちゃんが立つ。

爺ちゃんの顔も朝日を浴びて真っ赤だ。

取り囲むのは7名。

孫の僕・ジャラ。

僕のパートナーのキッカとカーナ。

ひ孫のクレアとボブ。

それにタカさんとチョキのペアー。

ブブー!

スクールの子供たちがハル先生が運転するスクールバスで見送りにやって来た。

燃え上がった地球で、家族を失っても逞しく生き残った子供たち18 名が、大騒ぎしながらバスから降りて、爺ちゃんを取り囲んだ。

大人と子供合わせて25名・・地球の人類全員が爺ちゃんの前に集合した。

「はい、これ約束したハル特製のおにぎり弁当。ブラックホールでお腹減ったら食べてくださいね」

ハル先生が水筒に入れたお茶とおにぎりをクレージー爺ちゃんにそっと渡した。

「ウッ、助かります!」

爺ちゃん声を詰まらせて、両手で受け取った。

ブーン!

ぴかぴかの宇宙艇が空に現れて、入り江の浜に着陸した。

サラちゃんとクラウドマスターが宇宙艇の運転席から降りてきた。

「準備完了!」

サラちゃんが元気に吠えた。

ハル先生、娘のサラちゃんに走り寄って、ぎゅっと抱きしめた。

「サラ、クレージー爺ちゃんをしっかり守るのですよ。それから向こうに着いたら毎朝のエネルギー補給忘れないようにね。なんどもいうけど、朝の太陽は燃えてるから、やけどしないようにゆっくり食べるのよ」

「ありがとうママ」

サラちゃん一言いって、ママに抱きついた。

そして絶対ママには聞こえないように心の中で呟いた。

これきり会えないかもしれない・・(さようならママ)

その声ボブには聞こえた。

(サラちゃん!ボブにさよなら言わないでよ。別の世界にいっても量子もつれ始まってるからいつでもこうして話できるんだよ)

(ボブ聞こえてるわ。量子もつれのチャンネルずっと オープンにしとく・・。ほら見てサラの宇宙艇)

朝日がサラの宇宙艇を真っ赤に染め上げていた。

宇宙艇の側面で、パパのクラウドマスターが知恵を絞ったネーミングのプレートが輝いていた。

【シンギュラリティーSALA号】と。    

朝日が入り江の浜に激しく燃え上がった。

「そろそろ行かなくっちゃ!」

クレージー爺ちゃんがぼそっと言った。

クレアが爺ちゃんに抱きついて放そうとしない。

ジャラの横で、ボブの身体が震え始めた。

ジャラの身体も震えだした。

時空を越えた別れが近づいて、遺伝子に仕組まれた量子もつれが始まった。

爺ちゃんと、ジャラと、ボブの三世代をつないだ遺伝子が、量子もつれで震え始めたってこと。

「爺ちゃん元気で!」ジャラが泣き出しそうな声で言った。

「ジャラ! きっとまたどこかの宇宙で会えるさ」

爺ちゃんがおにぎり弁当の袋を片手で握りしめながら、もう一方の手でジャラの肩を抱いてくれた。

「そのおにぎり早よ食べた方がええで! 一口もろたけど・・あったかいうちが旨いで!」

タカさんが震え声を出した。

「記念にもらいますよ」

チョキが爺ちゃんの髪の毛を一筋、震えるシザーで記念に切り取った。

「痛っ!」

爺ちゃんが悲鳴を上げて、みんなが笑った。

・・「出発!」

サラちゃんが宇宙艇の中に消えて、爺ちゃんがあとに続いた。

最後にもう一度後ろを振り向いて手を振りながら爺ちゃんは宇宙艇に消えていった。

ブーン!

一声うなって宇宙艇は入り江の浜から海の中に姿を消した。

入り江の浜でボブが大声上げた。

Λgμν「らむだじーみゅーにゅー」といわずに「らむだ爺爺にゅー」と。

子供たちが全員でお経を上げた。

Λggν「らむだじーじーにゅー」と。

・・そのあと、クレージー爺ちゃんとサラちゃんがどうなったのかジャラには分からない。

SALA号がブラックホールを通り抜けて、二人が無事にタンジャンジャラのおばーちゃんのところにたどり着いたのかどうか、ジャラには分からない。

ボブの話では・・海の底のブラックホールに突っ込んだところまではサラちゃんと量子もつれで会話ができた。クレージー爺ちゃんの声も聞こえた。

「このおにぎりめちゃ旨い」って。

そのあと悲鳴なのか、楽しんでるのかどちらか分からない爺ちゃんの叫び声がいつまでも続いてたって。

「ボブお願い、手伝ってくれない」

そんなとき・・ボブは冷静なサラちゃんから、ブラックホールの工事を頼まれたらしい。

“過去と未来をつなぐニューロンネットワークの工事だ”

ボブがなにをしたのかって?

ククッ! ボブはあの念仏唱えただけだって。

Λggν「らむだじーじーにゅー」と。

ボブの念仏で宇宙の方程式が乱れて、小さなビッグバンが起こったんだ。

凄いでしょ!

でもサラちゃんは「こんなの大した工事じゃない、広大な時空世界から見たら、宇宙にさざ波起こした程度よ」って言ってたそうだ。

・・そこでサラちゃんからボブへの連絡が途絶えた。

ジャラの推測だけど、クレージーじいちゃんの身体はこの世の果てに飛ばされたんじゃないかと思う。

ハルちゃんの方は、タンジャンジャラに無事到着して、おばーちゃんと仲良く暮らしてるんじゃないかな。

二人で“未来からのブログ”作りながらさ。

クレージーじいちゃんの肉体は行方不明だけど、爺ちゃんの持っていた【情報】はハルちゃんが無事おばーちゃんに届けたってこと。

ボブの量子もつれのパワーがもう少し強化できたら、ハルちゃんや爺ちゃんと連絡がついてそこのところが明らかになる。

爺ちゃんもそのうちきっとどこかに現れると思う。

「やー、みんな元気か!」っていつもの調子でさ。

そうだジャラから明るい報告がある。

今朝、入り江の浜をキッカとカーナと3人で散歩してたら、波間にきらきら光る小さなモノを見つけた。

何だと思う?

魚だ。

多分イワシとかいう魚だと思う。

マスターに報告したら驚いてた。

自然の生態系が復元してきたんだ。

“未来からのブログ”読んでくれてる人のおかげかもしれないよ。

「地球はもう限界!」だよって警告・・その効果がこの世界にも及んできたのかもしれない。

イワシが現れたのはジャラのおかげだ、といったらマスターに笑われた。

「未来は選択できるが、過去は変えられない」ってね。

人間の数が激減したから自然環境が復活したのじゃないだろうかって・・厳しく返された。

でも魚が帰ってきたのはきっと「未来からのブログ」読んでくれた君の選択のおかげだとジャラは思う・・宇宙は無数、無限に存在して、未来と過去も揺らいで交錯しているのさ。

このコメント、ボブに頼んでサラちゃん経由で最後のブログとして届けます。

もちろんニューロンネットワークのエンドの君にです・・

・・心からの感謝を込めて・・。

(おわり)  

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下條 俊隆

下條 俊隆

ペンネーム:筒井俊隆  作品:「消去」(SFマガジン)「相撲喪失」(宝石)他  大阪府出身・兵庫県芦屋市在住  大阪大学工学部入学・法学部卒業  職歴:(株)電通 上席常務執行役員・コンテンツ事業本部長  大阪国際会議場参与 学校法人顧問  プロフィール:学生時代に、筒井俊隆姓でSF小説を書いて小遣いを稼いでいました。 そのあと広告代理店・電通に勤めました。芦屋で阪神大震災に遭い、復興イベント「第一回神戸ルミナリエ」をみんなで立ち上げました。一人のおばあちゃんの「生きててよかった」の一声で、みんなと一緒に抱き合いました。 仕事はワールドサッカーからオリンピック、万博などのコンテンツビジネス。「千と千尋」など映画投資からITベンチャー投資。さいごに人事。まるでカオスな40年間でした。   人生の〆で、終活ブログをスタートしました。雑学とクレージーSF。チェックインしてみてくださいね。

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