この世の果ての中学校17章“虚構の手品師と秘密の技”

  
 深夜の生徒会議の翌日、ペトロはカレル先生に相談したいことがあって、先生の個室を覗いた。 

 部屋のドアをノックすると「どうぞ」という返事があった。

 ドアを開けて部屋に入ると、窓際のデスクに黒いコートを着た背の高い男の人が座っている。

 

 男はゆっくりと後ろを振り向いた。

「やー、ペトロ、こんなところでどうした?」

 

 真っ黒で表情のない顔がペトロを見つめていた。

 黒い仮面とくぐもった声、ペトロの憧れのスーパー・スター、虚構の手品師だった。

 

(前の章のストーリーはどうぞここからお読みくださ)

この世の果ての中学校16章“深夜の生徒会議”

 

この世の果ての中学校17章“虚構の手品師と秘密の技”

 

「あれ~っ! 手品師のおじさんじゃないですか。カレル先生にどうしてもお聞きしたいことがあってやってきたのですが・・・先生はお出かけのようですね」

 

「教授はご不在だよ、私もカレル教授を探してやってきたのだが姿が見えないんだ。そうだ、ペトロ、教授が現れるまで、私でよければ相談に乗りましょうか?」

 

  ペトロは 一度虚構の手品師に会ってどうしても秘密の技を聞き出したいと思っていた。

 もちろんタイムトラベルの秘術だ。

 

・・・これって絶好のチャンスだ・・・

 

 ペトロは椅子を探して、手品師の座っているデスクのそばに運んでいった。

 それから、椅子の背を手品師の方に向けて座り込んだ。

 

 椅子に逆さまに座って、腕を背もたれに乗せると、ペトロの頭は素早く回転を始める。

 気持ちもどんと落ち着いて来る。

 

 ペトロのすぐ目の前に手品師の仮面があった。

「私の顔は、無気味かな?」手品師がペトロに聞いた。

 

・・・きっと、仮面を外せない深ーい訳があるんだろーな・・・とペトロは思う。

「う~ん! 黒い仮面ぐらい、僕は平気ですよ」
 

そう答えて、手品師の気持ちを気遣ったペトロが何気なく話題を変える。

「手品師のおじさんなら・・・どんな嫌なことがあっても、コートの下のスオッチをちょっと操作したら、過去でも未来でも好きなところに行って気楽に遊べるのでしょう? 手品師のおじさんは怖い物なしですね」

 

 手品師の黒い顔がにやりと笑った。

「とんでもないよペトロ。私にも怖い物はいっぱいあるんだよ。一番怖い物、それは自分の過去だ。自分が経験した本物の過去には二度と行くこともできないし、やり直すこともできない。でもペトロ、良きにつけ悪しきにつけ、過去は二度とこないからこそ、この世で一つしかない貴重な思い出になるんだ」

 

「おじさん、それって話が矛盾してますよ。それじゃこの前、課外授業で連れて行って頂いた昔の東京。あれは一体何だったのですか? カレル先生は何度かカレル少年とハルちゃんに会っているみたいだし、あの東京は虚構で旅はマジックだったなんてふざけたこといわないで下さいよ」

 

 手品師がやさしく首を横に振った。

「虚構でもなくて、ふざけてもいないよ。あれは現実に存在する別の世界だよ。私たちの過去の世界ではなくて、今同時に存在する別の世界だ。いいかなペトロ、現在という時空に存在する世界は無数にあって、少しずつ時間軸がずれ込んでいるんだよ」

「うーん!」

 ペトロが腕を組んで、考え込むのを見ると手品師は付け加えた。

「あの2016年の東京はこの世界の過去ではなくて、時間軸のずれた別の世界の東京を覗いていたんだ。もし、あの世界が真実の過去だとしたらどうなると思う?カレル教授は2016年の東京で中学生だったのなら、2092年の現在はカレル先生の年齢は90を越えていることになる。ペトロはいくら何でもおかしいとは思わなかったのかな?」

 

「ウ~ン!う~ん」

ペトロがなんどもうなり始めたので、手品師はわかりやすい例え話に切り変えた。

・・・想像してごらん。ペトロの右手には過去の世界が、左手には未来の世界がいくつも存在している。世界は幾層にも切り立ったバウムクーヘンみたいなもので、時間がずれ込んだ無数の平行世界が、同時に未来へ進行しているんだと・・・

 

ペトロは頭の中でバウムクーヘンの世界を想像してみた。

無数の平行世界のイメージなんかは出てこなくて、焼きたてのバウムクーヘンのうまそうな香りだけが頭に漂ってきた。

 

「僕の右手と左手の先にはそのおいしそうなバウムクーヘンはいくつ位あるのですか?」 

 ペトロの質問に、手品師の仮面が笑った。

 

「世界は無数で無限に存在するよ」

 手品師の仮面が答えて、ペトロの頭は無数のバウムクーヘンで溢れかえってきた。

 

「バウムクーヘンが無数にあるというのは分かります。でも無限のバウムクーヘンって、どういうことですか」

 ペトロの質問に答えて、手品師は両手でバウムクーヘンの形を宙に描いた。

 

・・・ペトロ、君は今、独立した幾層もの平行世界の真ん中にいると想像してみよう。

 次に平行世界を、ガラスでできた透明な串で横から串刺しにしてみよう。

 ではペトロ、やって来たガラスの串の中に入ってみよう。

 ペトロは串のちょうど真ん中にいる。

 

 そこから左の方に行けば少し未来の世界が、右に行けば少し過去の世界がガラス越しに見えてくるはずだ。

 もしも左の未来を覗いて帰ってきたペトロが、その未来を参考にして、新しい行動を起こしたとする。

 

 その行為は新たな世界を創りだすことになる。

 世界が一つ増えるのだよ。

 

 それがペトロ、君の新しい未来だ。

 誰もが日々、未来を選択して、それぞれに自らの世界を自由に創造していく・・・未来は無数・無限に存在するのだよ」

 

 ペトロは手品師の言葉に感動して椅子から立ち上がった。

 横に広がる無数の世界、前途に広がる無限の未来だ。

 

 ペトロは嬉しくなって両手をいっぱいに拡げ、足を一歩左に踏み出した。

 そして自分の前方に新しい未来が見えてこないか、目をこらしてみた。

 

 でもそこにはカレル教授の空っぽの魔法瓶以外なにも見えなかった。

 

 がっかりしたペトロは・・・この機会に思い切りおべんちゃらを言って、手品師から時空を駆ける秘密の技を聞き出してやろうと思いついた。

 

「手品師のおじさん! あなたは偉大な天才です。僕にはバウムクーヘンも、未来の世界もちっとも見えてきません。新しい世界が見えるようになるには、きっと大変な修行が必要なんでしょうね」

 

「ペトロ、私は偉大でも、天才でもない、ただの古本屋の店主でしたよ。店には客もさっぱり来なくて、一日中、時間を持て余していたんだ」

手品師は懐かしい昔を思い出したのか、黒い仮面がうれしそうに揺れた。

 

・・・今思えば、そんな私にも一つだけ才能があったようだ。

 どんなに退屈でつまらない本でも、読み始めたら我慢して最後まで読み切るという根性だ。

 

 私は世界中から収集したすべての蔵書を最後まで読み切った。

 いつの間にか、作者の意図した様々な魂胆や、意図しない作者の心の奥底までがほのみえるようになった。

 

 ある日、世界最古の書といわれる、失われた種族の書を読み終えた時、描かれた2600年前の世界がまるで現実のように、目の前に現れたんだ。

 

 そのとき私は確信をした。

 すべての虚構を見破って、作者の心の世界を覗き込む技を私が身につけたことをだよ・・・

 

 そのときの興奮を思い出したのか、手品師の仮面の奥で二つの瞳がぎらりと光った。

 

・・・ペトロ、私はそのあと決して忘れられない体験をしたんだ。

 自宅に帰るために、夜遅く店から表の通りに一歩踏み出したとき、私は自分を取り巻く現実の世界というものの虚構に気が付いた。

 

 私は、世界はたった一つしか存在しないということの嘘を見破ったのだ。

 目の前の道路から続く町並みに重なるように、ほんの少しずつ時間がずれた世界が、浮かび上がってきた。

 

 まるで本をめくる一ページごとに世界が変わるように・・・パラレルな世界が、無数、無限にみえてきた。

 横に広がる無数は魅力的で、未来に待ち構える無限はとても美しく見えた。

 世界の真実がみえて、私は震えた。

 

 ペトロ、すべては古い蔵書を読むことから始まったんだよ・・・

 

 手品師は自分の能面を指さしながら、話を続けた。

 

・・・そこまでは良かったのだが、それこそ夢中になって、無数の表情を持った世界を片っ端から覗き廻っている中に、私は自分自身の表情を失ってしまった。

 

 ほらペトロ、私の顔にはなんの表情もないだろう? 

 誰かが私を見ると、その人の世界観が表れる顔、能面になり果てた。

 

 でも不思議なことに、他のパラレル世界に行くとこの顔は自分の物になって、私自身の気持ちがそのまま表情にあらわれるんだ。 

 

 人生、なにかを手に入れればかならず失う物があるようだ。

 おかげで恥ずかしくて家族にも会えない・・・手品師の仮面が暗く揺れて、口から大きな溜息が漏れた。

 

・・・手品師の家族ってだれだろう?・・・

 ペトロはなにか言葉をかけて手品師を慰めようと思ったが、いい言葉が見つからなかった。

 

 仕方が無いので手品師のおじさんの真似をして、大きなため息をついて、にっこり微笑んであげた。 

 手品師の仮面も微笑んだように見えた。

 

「そうだ、ペトロにいい物をお見せしよう」 

 手品師はそう言って、教授のデスクを、指でトントンと二回叩いた。

 次に掌を上に向けて、ゆっくりと開いた。

 

 そこには一冊の分厚い本が乗せられていた。

 「ペトロは古書に興味はあるかな?」

 

 ペトロが読むのは電子書籍ばかりで、紙の本は読んだことがなかった。

 返事に困ったペトロは「古書ってどんなジャンルのものでしょうか?」と、とぼけてみた。

 

「紙で出来ている過去の書物すべて。たいがいは、かたくなってごわごわしていたり、紙が黄色く変色していたり、読んでいった人たちの食べていたものの痕跡とか、いろいろなメモや印が残されているあの紙の束だよ」

 

「ときどき白い小さな虫が現れるあれですか?」

「アッ、それはシミだ。本の虫、可愛い奴です!」

 

 ペトロは、手品師が紙の本にとても愛着を持っていることを知って「僕は電子書籍以外は読みません」とはとても言えなくなってしまった。

 

「これは未来のパラレル・ワールドの一つから手に入れた古書だよ」

 手品師は、立派な装丁を施した本をペトロにそっと手渡した。 

 

 ペトロは古書を両手で慎重に受け取った。

 その本はびっくりするほど軽かった。

 

 真っ黒い厚手の表紙から、銀箔のタイトルの文字が鮮やかに浮かび上がってきた。

 《虚構の手品師と不毛の楽園》

 

 なんだか凄そうなタイトルなのに、作者の名前がどこにもない。

「その本は、その世界では結構有名な伝記物だったよ。裏表紙を見てごらん」

 

 手品師に言われて、ペトロは本を裏返してみた。

《無名の手品師に贈る。弟子ペトロ著 2125年秋 地球・テラ》

 

  漆黒の裏表紙に銀文字で、そう書かれていた。

 自分の名前に驚いたペトロは、危なく本を落としそうになった。

 

「その本は軽いから気をつけて!」

 手品師が叫んだ。

 

 ペトロは古書を持ち直して、もう一度裏表紙に目を通し、大きな声で読み上げた。

「弟子ペトロ著。2125年秋 地球・テラ・・・なんてこった。これから手品師のおじさんの伝記を僕が書くということですか?」

 

 そういったペトロのほっぺたが緩んで、崩れそうになっている。

「ペトロ! それは古書だよ。ここから相当離れた時間軸、2300年のパラレル・ワールドで偶然手に入れたんだ。その世界のペトロ君が2125年に書いた古書だ。掘り出し物だよ」

 

・・・僕が書いた掘り出し物の伝記!だって?・・・

 一体なにが書かれているのか、好奇心がむらむらとわき上がってきたペトロの手が、古書の真ん中辺りをいきなり開いてしまった。

 

 そのページに書かれた文字が飛び込んできた。

 「“あっ!、ペトロ、そこを開いてはだめです” と手品師があわてて叫び声を上げた」と書いてあった。

 

 ペトロが慌てて本を閉じようとしたそのとき・・・                

「あっ!、ペトロ、そこを開いてはだめです」と手品師があわてて叫び声を上げた。

 

 手品師の叫び声は間に合わなかった。

 さっと小さな風が一陣吹いて、ペトロの手の中から古書をどこかへさらっていった。

 

「あっ! ご、ご免なさい!」

 あわてたペトロが必死に謝ったが、手品師は両手を広げ、がっくりと肩を落とした。

 

「まだ書き始めてもいない別の世界の作者が、いきなり物語の真ん中を読み始めたもんだから、慌てた古書は本物の作者のいた元の世界に逃げ帰ってしまった」

 

・・・本を取り囲んでいた元の世界の結界が破れたからだろう。私たちの未来を研究する資料を失ってしまったよ・・・そういって手品師はちらりとペトロを見る。

 ペトロは何度も、何度も手品師に謝った。

 

「ペトロ、気にしなくていいよ。未来の本は電子書籍並みに軽い。ちょっとした時空の風でもすぐに飛んでいってしまうから始末に終えない。あの古書は本来あるべきところに戻ったのだから、私も潔く諦めますよ」

 

 虚構の手品師はそう言って、ペトロを慰めてくれた。

 お返しに、ペトロも手品師のおじさんを慰めようと思った。

 

「あの古書はきっと、虚構の手品師にまつわるエピソードをいくつも集めたものだったのでしょうね。僕もいつか手品師のおじさんの伝記に挑戦してみようかな。それにしても本はやはりずっしりとしていて、重みのある紙を一枚ずつ丁寧に指先でめくって読まないと、本当の知識が身につきませんね。電子本はやたらと軽すぎて・・・」

 

 お詫びの気持ちで、ペトロがついつい調子のいいお追従を並べてしまった。

「ペトロ、決まりだ! 私の古書店を継げるのは君しかいない」

 

 手品師が椅子から立ち上がり、両手を差し出した。

 気が付くとペトロも椅子から立ち上がって、手品師の差し出した手をしっかりと両手で握り返していた。

 

 ペトロは虚構の手品師の仕掛けた罠につかまってしまった。

 

「一度私の書庫をご覧に入れよう。書庫は地下の電子図書館の奥だ。カレル教授の秘密の実験室の隣、ここからわずか10分だ。約束しよう。いつか、虚構を見破る技をペトロに伝授しますよ」

 

 虚構の手品師は探していた弟子をようやく手に入れた。

 ペトロはしばらくは虚構の手品師から離してもらえそうにない。

 

・・・

 「ところでペトロ、カレル教授になにか大事な質問があるって言ってなかったかな? 良ければ教授の代わりに私が答えてみましょうか?」

 ペトロはどうしても教授に聞きたかった質問を、虚構の手品師にぶつけることにした。

 

「それでは、手品師のおじさんにいきなりの質問です。カレル先生とドクター・マーカーとの会話に出て来たキーワードです。『我々を超えた宇宙の意志』というのは何を意味しているのでしょう」

 

 ペトロの質問を聞いた虚構の手品師の黒い仮面が、ぎゅっとこわばるのがみえた。

 

「過去からの訪問者の映像記録を見たんだね」

 手品師の質問に、ペトロが頷いた。

 

「ペトロ、その世界には近づかない方がいい」

 手品師の声が震えていた。

 

(続く)

 続きはここからお読みください。

この世の果ての中学校18章 “カレル教授が実験室からさらわれた”  

 

【記事は無断転載を禁じられています】

ミニ氷河期到来? 地球は温暖化じゃないの? そのうえホットハウス・アースって何者よ!

 

「パパ大変、地球はミニ氷河期に突入するって本当? 地球は温暖化じゃないの?」

日曜日の朝、長男の匠がスマホを手に持って、リビングで新聞を読んでいるパパのところに駆け寄ってきました。

 

スマホをみると「2030年に地球はミニ氷河期に突入」といった記事が並んでいます。

地球温暖化の対策が叫ばれているときに、ミニ氷河期到来とは、いったいどういうことでしょう。

 

気になったパパは、匠と仲良く椅子を並べてパソコンに向かい、ミニ氷河期の調査を開始しました。

 

ミニ氷河期とはなに? いつ到来する? 

 

ミニ氷河期で河が凍結

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

“地球は2030年頃からミニ氷河期に突入する”

これは、2015年7月9日に開かれた英国王立天文学会における英国の研究者の発表を受けて、世界のメデイアが叫んだトップ記事の見出しでした。

 

英国ノーザンブリアン大学のジャルコバ教授(女性)は「太陽の内部にある二つの磁気波の周期的な変化から、太陽活動の動きを予測する新しいモデルを確立した、精度は97%」と発表しました。

このモデルによれば、太陽の活動は2030年ころから著しく低下し、その影響で地球はミニ氷河期に入るというのです。

 

ミニ氷河期とは

 

ミニ氷河期とは小氷期(しょうひょうき・Little Ice Age)と呼ばれ、氷河期ではないけれども、周期的に現れる寒冷期間のことを言います。

 

ミニ氷河期は過去にも記録されています。

太陽の黒点が激減し、地球が寒冷化して、ミニ氷河期が起こった1645年から1715年の様子がつぎのように伝えられています。

 

・・英国のテムズ川が凍結、米国のニューヨーク市では湾が凍って、向かいの島まで歩いてわたれた。

ヨーロッパや北米大陸では冬は激寒、夏は冷夏が続き農作物は収穫が落ち、漁業は大きな被害が出た。

 

・・日本では江戸時代の初期にあたり湿潤な天気が続いて、農業に影響を与え、飢饉と農民の一揆が起きたという記録があります。

 

仮にジャルコヴァ教授の予想が正しければ、私達は間もなく、370年間にわたって人類が経験することのなかったような凍てつく気温と自然災害を体験することになります。

 

(参照: wired  2015.07.14)

 あと5〜10年で地球は極寒に? 最新の太陽研究が予測 

 

「パパ、この予測が当たるんなら、もう地球温暖化の心配はいらないね! その代わり、めちゃ寒くなったときの準備が必要みたいだね!」

匠が安心したような、困ったような表情で言ったので、パパはあわてました。

 

「匠、ちょっと待った。この学説、相当前に発表されたものだ。ほら、最近の日経電子版に、そのあとの話や、反対の学説が紹介されてるよ」

パパがみつけたのは2019年6月26日付けの、日経電子版の記事でした。

 

記事はつぎのことを伝えていました。

ミニ氷河期の到来は断言はできない!

 

これは論文を発表したジャルコヴァ教授自身のコメントです。

実は教授はメディアの反応(取り上げ方)をみて、とても驚いたのです。

 

教授は、世界中のメディアが「ミニ氷河期が来る!」といった恐ろしげなトーンで報道したことに戸惑って、後日「気候変動には言及していません」とコメントを発しています。

 

学者として研究内容を数値で示すことはできても、15年後に地球規模で寒冷化現象が起こるかどうかまでは断言はできないということでした。

同時に、日経の記事はジャルコヴァ教授の論文とは反対の説があることも伝えていました。

 

「IFLサイエンス」という科学誌が「ミニ氷河期は15年後にはたぶん来ない」というタイトルの記事を、ジャルコヴァ教授の論文が発表された直後に掲載したのです。

この記事は、「寒冷化を心配するよりも、二酸化炭素の増加がもたらす温暖化の方が深刻である」という論旨でした。

 日経電子版:地球は2030年からミニ氷河期に入るのか?

 

「ミニ氷河期が来るなんてセンセーショナルな学説を日本の研究機関はどのように受け止めていたのかな?」

パパはそう言って、調査を続けました。

 

調べていくと、“地球環境研究センター”という国立環境研究所の中核組織が、2018年6月号のセンター・ニュースの中で「ミニ氷河期は到来するのか?」というテーマを取り上げていました。

 

ミニ氷河期がたとえ来たとしても、温暖化を打ち消す話にはならない

 

地球環境研究センターの副センター長の江守正多氏の結論は明快でした。

“ミニ氷河期がたとえ来たとしても、1°Cくらい気温が下がる程度なので温暖化を打ち消す話にはならない”・・と。

 

前にもいいましたが、地球の北半球は300年前にもミニ氷河期と呼ばれた、寒い時期がありました。

下のグラフは過去1000年の気温変動を示したものですが、青い横線の時代がミニ氷河期(小氷期)です。

 

小氷期と呼ばれたこの時代は、太陽活動が非常に弱い「マウンダー極小期」と呼ばれていました。

このころ、太陽の活動を示す黒点が現れない時代が70年くらい続いたといわれています。

 

その頃どれくらい寒かったかというと、産業革命前の平均気温より0.5°C、どんなに大きく見積もっても1°Cくらいの低下だったそうです。

現在太陽活動は実際に弱まっていて、マウンダー極小期のような長期的な弱まりがこれからくるかもしれないと考えている太陽の研究者は多いようです。

それが地球の温度を下げる効果をもつということは十分考えられますが、その大きさが1°C未満ならば、温暖化をすべて打ち消すような話ではありません

(地球環境研究センターの副センター長 江守正多)

本当に二酸化炭素濃度の増加が地球温暖化の原因なのか

 

江守先生はミニ氷河期の到来を否定し、人間が引き起こしている温暖化現象の深刻さにもっと目を向けるべきだと言っています。

このグラフをよく見ますと、20世紀末から21世紀に向かって、急激な温度上昇のカーブがみられます。

20世紀末の地球温度の急上昇を見てください

 

 

 

 

 

 

このような急激な温度上昇は自然現象だけでは説明が付かないと江守先生は言っています。

この温度上昇は、人間の生活や経済活動の影響によるものだと断言しているのです。

 

「匠、残念だけど、太陽の活動が弱まったとしても、地球に人間がいる限り、温暖化は止まらないということだよ」

パパはそう言って、パソコンの手を止め、両手を天井に思い切り伸ばして調査活動を一休みしました。

 

「パパ!休んでる場合じゃないよ。ほら凄いのが出てきたよ!」

自分のスマホで調査を続けていた匠が大声を上げたのです。

 

パパは匠が差し出したスマホの画面を見て驚きました。

“ホットハウス・アース!の危険性、気温が2度上昇すると地球は温室化する”

 

「パパ、この記事、気温がたった2度上がっただけで、地球のスイッチが切り替わって、どんどんホットな温室になっていくっていってるよ。人の住めないところが一杯できるって! “ホットハウス・アース”っていったい何者?」

 

「ん・・なぬ?」

パパは椅子に座り直して、直ちにパソコンの調査を再開しました。

 

「ホットハウス・アース」 の危険性 CO2削減でも気温が2度上昇すると地球は温室化?

 

ホットハウス・アース のイメージ 温室となった地球

 

 

 

 

 

 

 

 

「地球温暖化で“ホットハウス・アース”の危険性がある」

2018年8月6日、米国科学アカデミー発行の学術誌(PNS)に寄せられた科学論文が海外のメデイアで衝撃的な内容として紹介されていました。

 

論文の著者はオーストラリアのWill Steffen教授を筆頭とする国際的なメンバーで、世界の持続可能性研究をリードしている専門家たちです。

 

NEWS JAPANの報道によれば発表の内容は・・「人類が頑張って、世界の平均気温の上昇を2℃程度に抑えたとしても、地球はうだるような温室“ホットハウス・アース”になる危険性がある」といっています。

 

上昇温度が2℃を越えれば、温暖化現象は不可逆な道に向かってスイッチを切ってしまうのだと。

これまで人類の味方であった地球のシステムはその時点で、人間の手に負えない敵に変わり、地球は長い灼熱地獄に向かう危険性があるというのです。

 

地球の気温を2℃前後に抑えるというのは2015年のパリ協定で合意された目標です。

米国政府のパリ協定からの離脱宣言だけでも大騒ぎなのに、パリ協定の目標を達成できたとしても温暖化は止められないとなると、これはもう“破滅的な予言”と言わざるをえません。

 

ホットハウス・アースとはいったい何者でしょうか?

ホットハウス・アースとは何者か?

 

研究論文によると、ホットハウス・アース期に入った地球では過去120万年で最も高い気温を記録することになります。

地球の気温が産業革命以前と比べて4~5度高くまで上昇し・・地上のあらゆる氷が溶け出し、海面は現在より10~60メートル上昇するだろうと言っています。

 

「なんだと! せっかく新築したのに、匠、わが家はすぐ山の上に引っ越しだ!」

パパが悲鳴を上げています。

 

ホットハウス・アースとは、地球の多くの地域で人が住めなくなる状態を招く、人類の手に負えない悪循環のことなのです。

その理由は、「何百万トンもの温暖化ガスを含有している永久凍土や、アマゾンの熱帯雨林といった自然界のいい味方だったものが、吸収する以上の炭素を吐き出して、ますます温室化を進めるといった悪い循環を始める危険性がある」のだと説明しています。

 

温暖化対策として、現在のCO2削減計画では不十分で・・気温上昇が2度を超えた段階で地球のシステムは友人から敵に変わる。人類の運命は、均衡を乱した地球のシステムに完全に委ねられる」

 

研究チームは、2度温度が上がるだけで、地球の気候は人間のコントロールが効かないホットなお手上げ状態に突入するかもしれないと言っているのです。

 

「匠! これマジ、エライこっちゃ!」

「ほんまや! パパ、なんとかせんかい!」

 

記事の中身が手に負えなくなってきたパパと匠は、ふざけた会話で気持ちを立て直して、シリアスな調査を続けました。

でもなかなか良いニュースがみつかりません。

パパ、何か良いニュースはない?

 

匠がそういったとき、パパがNEWS JAPANの記事の最後にホットハウス・アースの問題に対する答えとヒントをみつけました。

 

「ホットハウス・アースへのシナリオは回避できるが、その為には地球との関係を根本的に見直さなければならないだろう」

研究の共著者でコペンハーゲン大学に所属するキャサリン・リチャードソン教授はこのように答えています。

 

「今世紀半ばまでに化石燃料を使うのを止めるだけでなく、木を植えたり、森林を守ったり、どうやって宇宙から降り注ぐ太陽光を地球に届くまでにさえぎるかとか、大気中から直接炭素を取り除く機械をどうやって開発するかといった根本的なことに技術と労力を割いていかなければならない」

 

carbon device
CO2を大気から取り除く機械が必要になると研究者は指摘する
Image copyright Carbon Engineering


・・我々はこれからは、地球の世話役にならなくてはいけないのだ・・と。

 

ホットハウス・アースについて他の科学者はどう言っているのか?

 

このショッキングな論文に他の科学者はどのように反応したのかが気になって、パパは調査を続けました。

NEWS JAPANの別の記事によりますと、驚いたことに、一部の科学者はこの論文の結論はまともなものだと支持していたのです。

 

英イースト・アングリア大学のフィル・ウイリアムソン博士は「人類が気候に与えた影響で地球の自発的冷却システムを人類は越えてしまったということだ」と、論文を肯定的に解説しています。

 

先述の国立環境研究所、地球環境研究センターの江守正多先生がこの論文を解説している記事をパパがみつけました。

はじめに論文の著者は国際的なメンバーで、世界の持続可能性研究をリードしている専門家たちだ、と紹介した上で先生はつぎのように言っています。

 

  1. この論文で、「2℃」の気温上昇で臨界点(スイッチの入る点)を超えるという定量的な分析は示されていない。
  2. パリ協定の目標を達成しても“臨界点を超える”ことは、極めて不確かだが、可能性として排除することはできない。
  3. これらの現象の多くはゆっくりと進行するため、たとえ起こるとしても数百年以上の時間をかけて起こるだろう。

 

・・と述べてつぎのように締めくくっています。

未来の地球は不確かさで満ちている。

地球システムの様々なフィードバックも、太陽活動の変動も、そして我々人類の社会がどのように変化していくかも不確かな中で、人類は持続可能な未来を切り開いていかねばならない。

そのためには、今回の論文が提示するような問題を、科学者だけでなく社会全体で考えていくことが求められているのだ。

 

(江守先生の記事、詳しくは下記をご覧ください)

地球温暖化はもう手遅れか?(はたまたミニ氷河期到来か) 

 

「匠、先生方の話をまとめるとだ・・ホットハウス・アースは起こらないとは言い切れない。しかしホットハウス・アースを確実に防ぐ方法をまだ僕らは持たない。みんなでがんばってみつけなくっちゃということかな・・?」

パパがなんだか歯切れの悪いまとめをしたときです・・。

 

「パパ、凄く明るい記事が出てきたよ」

匠がみつけたのは、大気中のCO2を低コストで直接・吸収する画期的な新技術をカナダの企業が開発したという2018年6月の記事でした。

空気中から取り出したCO2から液体燃料を作る

 

 

 

 

 

 

カナダのカーボン・エンジニアリング社は、低コストで大気から二酸化炭素を回収し、それを水素と合成して“炭素フリー”という夢の液体燃料を作ることに成功したと発表していました。

夢の“再生可能エネルギー1oo%社会”実現への一歩となるかもしれません。

 

「ほらパパ、知恵をひねって行動したら解決策はあるということだね」

匠が明るく言って、顔をしかめています。

 

「匠、いい話なのに、なんでしかめっ面してるんだ?」

「みんなでがんばろうとパパが言ったから、さっきからおなら我慢してるんだよ。メタンガスでこれ以上地球の温度をあげないようにね」

 

「それ身体に悪いから、パパがOKするよ」

ちいさなおならの音が聞こえて、匠とパパは顔を見合わせて大笑いしました。

 

(おわり)

 

“地球は大丈夫?”シリーズ記事をご覧ください。

地球温暖化が止まらない! 世界で熱波・山火事・洪水が頻発!異常気象が通常に?

あと100年で地上から昆虫が消える!生態系の危機で人類の生存にも影響?

 

【記事は無断転載を禁じています】

 

未来からのブログ12号 クレージーじいちゃんは過去に戻れずに途方にくれたよ!

 

ぼくの名前はタンジャンジャラ。

“ジャラ”って呼んでくれていいよ。

 

ぼくのじいちゃんが、タンジャンジャラの浜から100年の時を越えてぼくらの世界に姿を現したんだ。

ボブが、量子もつれの呼び出し暗号を間違って言ったもんだから、じいちゃんは時空の嵐に吹き飛ばされて僕らの世界にやって来た。

 

「じいちゃんぼくボブだよ。暗号間違ってごめんなさい!」

ボブが恥ずかしそうに近づいていって、じいちゃんに謝った。

 

「謝らなくったっていいんだよボブ。ボブのおかげで、こうしてみんなに会えたんだからな」

そう言ってクレージーじいちゃんはボブを慰めたんだ。

 

でもさ、じつのところ、じいちゃんはがっくりきてたんだよ。

だってじいちゃんはもう元の世界に戻れないかもしれないんだ。

 

じいちゃんが過去に戻れないと、このブログ読んでくれてる君の地球は、“絶望の未来”への道から正しい軌道修正ができないかもしれないよ!

 

(前回の話まだの方は、ここから読んでくださいね)

未来からのブログ11号  クレージーじいちゃんが時空を越えてやって来た!

 

未来からのブログ12号 クレージーじいちゃんは過去に戻れずに途方にくれたよ!

 

「ジャラ、相談がある。まだボブには言うなよ。じつはじいちゃんはもう元の世界に戻れないかもしれないんだ」

プロフェッサーGつまりジャラのじいちゃんがいきなりぼそっといったんだ。

 

ご存じ、ザ・レストランでのことだ。

ジャラは驚いてワインでむせてしまったよ。

 

で、まず経過を報告するよ。

じいちゃんが入り江の浜に打ち上げられたあと、みんなでザ・レストランに移って、じいちゃんの歓迎会をすることになったんだ。

 

テーブルにはじいちゃんの好物の生牡蠣と神戸牛の刺身、それにワインが紅白でセッティングされてた。

料理運んでくれたマスターをよく見たら、ヒップがすこし凹んでたみたいだ。

 

宇宙皇帝・クラウドマスターって、いいとこあるでしょ。

タカさんとチョキが歓迎会のオープニング宣言してさ、ボブとクレアでじいちゃんのウエルカム・ソング歌ったんだ。

 

もち、あの歌だよ。

「ウエルカム ジージー・ニュー!」のリフレインさ。

 

御礼の挨拶したクレージーじいちゃん・・日焼けした肌の上に絹の白いブラウスざっくり着てさ、白い綿パンに、足元白いスニーカーでばっちり決めてたよ。

海水と時空の嵐でぐちゃぐちゃになったじいちゃんの衣服は、ハル先生がいったん預かって、あっという間にクリーニングされて戻ってきたんだ。

 

ハル先生は宇宙センターの主席AIで、じつはジャラ達人間へのサービス業の総括なんだぜ。

学校経営者でしょ、ザ・レストランのオナー兼シェフでしょ、結婚相談所と市役所の窓口でしょ、雑貨屋さんでしょ、それからクリーニング店の店長もやっちゃうんだよ。

 

ジャラたち市民の毎日の生活は、ハル先生が宇宙センターのマルチネットワークですべて面倒みてくれてるってわけ。

 

なんだって? 

それじゃクリーニングする間、じいちゃんはどんな格好してたんだって?

 

そんなのパンツ一丁に決まってるじゃん。

そうだ、そういえばじいちゃんのパンツ、どこかで見た可愛い花柄模様だったよ。

 

クラウドマスターの宇宙おむつの花柄模様とそっくりだったんだ。

まるでベビーカーの中の双子の兄弟みたいにさ。

 

ぬれた服脱いだときさ、じいちゃんが派手な花柄パンツはいてるの見て、ハル先生、悲鳴上げて喜んでたよ。

ジャラのじいちゃん・・決めるときは決めるでしょ!

 

マスターはその時じいちゃんのパンツから目をそらしてしらん振りしてた。

マスターきっとどこかでじいちゃんのパンツの花柄見て盗んだんだと思うよ。

 

“ククッ!”

間違いないよ、ハル先生にもてるためにさ。

 

この件、ワイン飲みながら、プロフェッサーG・・つまりクレージーじいちゃんとジャラで秘かに分析してみたらこんな結論が出たよ。

 

じいちゃんのキャラを無断で盗用したクラウドマスターがじいちゃんのパンツの花柄模様まで真似した理由。 

  1. じいちゃんがモテモテなのを知って、パンツが花柄であれば女性にもてると思った。
  2. 量子もつれ利用してじいちゃんのパンツの花柄を盗んだ。
  3. 恥ずかしいので、そのことを内緒にしていた。
  4. 秘密を持つことで、マスターは思春期に入ったといえる。
  5. ハル先生と結婚したいので、人間みたいに身体を持ちたいと思っている。
  6. 近い将来にきっと子供をほしがるだろう。
  7. その先のことはだれにも分からない。

 

二人でマスターの悪口言ってたら、当の本人がジャラとじいちゃんに近づいてきて、言ったんだ。

「プロフェッサーG、今の話全部聞こえてますよ」とね。

 

それ聞いて、じいちゃんが椅子から飛び上がったよ。

「わっ! この生牡蠣めっちゃうめー。マスター、どこから手に入れた?」

 

なーんて言ってうまくごまかしてたけどさ。

どうしてばれたのか、じいちゃん首ひねってた。

 

で、ジャラはじいちゃんにスーツマンのこと説明したんだよ。

世界が熱くなって、生きていくために僕は肉体を捨てたこと。

 

僕の正体はブレーンだけで、ボデイーはスーツマンだってこと。

そのうえ、僕の話してることはスーツマンの通信ネットワークで、宇宙センターのAIであるクラウドマスターに筒抜けだってことをさ。

 

「ジャラ! な、なんてこった!」

じいちゃん、ジャラのボデイーをなで回して、調べてさ、それからさ、ジャラの頭抱えて泣き出したんだ。

 

で、ジャラはじいちゃんをこれ以上驚かせないように、少しずつ僕らの世界のことを話し始めたってわけ。

突然ママを亡くして一人ぼっちになった僕が、行くところがなくて宇宙センターに迷い込んだときのことからだよ。

 

「ジャラ待ってくれ、ジャラのママが亡くなったときのこと詳しく話してくれ」

じいちゃん、ジャラの話遮って、そう言った。

 

僕のママはじいちゃんの娘だからね・・聞きたいのあたりまえだ。

 

「ごめん、ママのこと話すよ。ママはいつもじいちゃんのこと自慢してたよ。

・・じいちゃんはクレージーなチャラ男だったけど、ママにはとても優しかったって。

地球がどんどん暑くなっていくので、なんとかしなくっちゃっていつも言ってたって。

それでブログ作って、エネルギー無駄遣いしないようにしようって、未来を警告する小説書いてたってこと言ってたよ。

でも結局なんの役にも立たなかったって・・

きっとその小説ちっとも面白くなくて読む人いなかったんだよ」

 

「ジャラ、その小説、なんてタイトルだったか覚えてないか?」

「たしか、“この世の果ての中学校”とかだったよ」

 

ジャラの話を聞いて、じいちゃん肩を落として寂しそうに下を向いたよ。

で、ジャラはじいちゃんを慰めた。

 

「ママが暑さにやられて亡くなったとき、最後に僕に言った台詞があるんだ。

・・ジャラ、ママがいなくなっても、頑張って生きていくんですよ。

ジャラはいつか地球を救うのよ!  

お前が生まれたとき、ジャラのじいちゃんがそう言ってたよ。

いつかどこかでジャラと出会うのが楽しみだって。

ジャラに会えたら未来の情報が手に入るってね。

そしたら面白いブログを書いて、世の中動かして、未来を変えられるかもしれないって・・

その言葉のおかげだよ、ジャラが頑張っていままで生きてこられたの・・じいちゃんのおかげだよ」

 

「Wow! この肉刺し、わさび利き過ぎだぞ・・」

じいちゃん肉刺し一切れ食べて、涙ぼろぼろこぼしてたよ。

 

それからジャラをじーっと見つめて言った。

「で、こうしてジャラに会えた。過去に戻ったら面白いブログつくらなくっちゃな。タイトルはもうできてるんだ。

・・“未来からのブログ”だ・・」

 

「じいちゃんがクレージーSFのスタイルで僕らのことを書くんだね!」

ジャラがそう言ったらじいちゃんはジャラを睨みつけた。

 

「“未来からのブログ”だぞ。ジャラが書くんだよ。ママから言われたはずだ。“いつか役にたつから日記だけは毎日欠かさず書きなさい。文字数は3000文字から5000文字ですよ”とね。どうだママの言いつけ守ってるか?」

ジャラはぐっと答えに詰まった。

 

いつもママがジャラに日記つけろってうるさく言ってたの、あれ、爺ちゃんのブログのためだったの?

そんなのじいちゃんの勝手だよ。

 

“ジャラは生きていくのに精一杯だったんだよ。日記なんて書けるはずないじゃない”

勝手なじいちゃんにそう答えようとしたときだよ。

 

ジャラの口からスーツマンがいきなりしゃがれ声で喋ったんだ。

「ここ数日のジャラの記録なら取ってありますよ。プロフェッサーGとジャラの間で量子もつれが発現した日から、現在までの記録です」

 

その声聞いた爺ちゃん、ジャラの口元見て、椅子からひっくり返ったよ。

「お・・お前だれだ?」

 

でさ、いまのはジャラではなくて、スーツマンが喋ったんだってことと、スーツマンはクラウドマスターの分身だから、どこかでマスター本人が喋ってるんだってこと爺ちゃんに説明したんだ。

 

そしたら、クラウドマスター本人が近づいてきてジャラを無視して爺チャンに尋ねた。

「プロフェッサーG! ジャラが了解してくれたら、いまからジャラの記録日記をお見せできます。ジャラの行動と発言をブログ用にコンピューターで編集したものです。できたてのほやほやですよ」

 

・・なんだって? ジャラに内緒でいつの間にそんなもの作ってたんだよ・・

むかっときたけど、爺チャンの手前だ、ジャラは鷹揚にマスターに頷いた。

 

「記録・スタート!」ってね。

 

“チャンチャカチャー、チャカチャーチャカチャー”

宇宙皇帝のテーマソングが流れて、マスターの指先からプラズマが空中に放射された。

 

レストランの空間にタイトルとイントロがでっかく映し出されたよ。

未来からのブログ1号「 今日はマイ・ブレーンをリースしてお金稼いできたよ」前編

こんにちは。 僕はタンジャンジャラ。   この記事は僕が暮らしてる2119年の未来から100年前、つまり2019年のぼくのおじいちゃんのブログに宛てて投稿してるんだ。 驚いた?   どうしてそんなこと…

出演:ジャラ キッカ カーナ タカさん チョキ クラウドマスター 通行人・数人 

(これはプレビューです、ただ今編集中ですのでご意見をお寄せください・・編集部)

 

じいちゃんが映画のロードショーと勘違いして、両手叩いて足踏みして喜んだよ。

でさ、ブログ1号の前編と後編を、全員が集まって楽しく見たのさ。

 

でもさ、ブログ2号のタイトルが出て、ジャラはぶっ飛んだ。

未来からのブログ2号「今日はザ・カンパニーでとなりのカーナと午後の浮気したよ」前編

 

「NG!」ジャラが叫んだ。

「見せろ!」爺ちゃんがすかさず反論した。

 

あとで分かったんだけど、じつは2号には危ない映像がいっぱい入ってたんだ。

そこんところクラウドマスターは、編集者としての注意が足りないって言うか、理解が及ばないって言うか・・でも、成長過程のAIだから仕方がないんだ。

 

マスターと爺ちゃんとカーナとキッカとハル先生とジャラの六人で協議してこんな風に表現と内容を変えたよ。

未来からのブログ2号「今日はザ・カンパニーでとなりのカーナと午後の浮気したよ」前編

ジャラとカーナのエクスタシーの動画あるんだけど、投稿はしないよ。君にはすこし刺激が強すぎると思うんだ。悪いけど、またの機会にするね。

(これはプレビューです。ボブとカーナもみているので映像は削除してあります・・編集部)

 

それから順番に各号のブログ見ていったら、みんなからクレームや注文一杯ついて大騒ぎになったんだ。

ボブとクレアもブログ7号のタイトルに注文つけたよ!

未来からのブログ 7号 “ボブとクレアはドリームワールドで元気に遊んでたよ?”

 

でさ、ここんところこんな風に変更したよ。

未来からのブログ 7号 “ボブとクレアはドリームワールドで元気に勉強中だったよ?”

 

で、クレージーじいちゃんの歓迎会は、「未来からのブログ」の編集会議になって盛り上がったってわけさ。

編集会議はエンドに近づいていった。

 

つまり編集会議は現在進行形・・実況中継に入ったということなんだ。

未来からのブログ12号 クレージーじいちゃんは過去に戻れずに途方にくれたよ!

 

(途中省略) 

じいちゃんのキャラを無断で盗用したクラウドマスターがじいちゃんのパンツの花柄模様まで真似した理由。 

  1. じいちゃんがモテモテなのを知って、パンツが花柄であれば女性にもてると思った。
  2. 量子もつれ利用してじいちゃんのパンツの花柄を盗んだ。
  3. 恥ずかしいので、そのことを内緒にしていた。
  4. 秘密を持つことで、マスターは思春期に入ったといえる。
  5. ハル先生と結婚したいので、人間みたいに身体を持ちたいと思っている。
  6. 近い将来にきっと子供をほしがるだろう。
  7. その先のことはだれにも分からない。

 

中継画像がここまで来たとき、宇宙皇帝・クラウドマスターが中継を中止した。

そしてマスターはじいちゃんにそっと近づいた。

 

「先輩! クラウドマスターはプロフェッサーGのキャラを無断でもらっちゃいました。事後になるけど許してほしい。恥ずかしいけど許しついでにあのこと教えてほしい。あのこと・・」

 

ジャラが見たら、マスターの顔真っ赤になってたよ。

ジャラのじいちゃん、右手伸ばしてマスターのほっぺた優しく撫でてあげたよ。

 

「マスター! こんなにみんなの面倒みてくれて、Gは感激してるよ。こんなチャラいキャラでよかったらマスターに全部あげちゃうよ。Gは分かってる。あれだろ、シンギュラリティー1号が子供を作る方法、どうするか教えてあげるね」

それからじいちゃん立ち上がって、マスターの耳元で何事か囁いていたよ。

 

ジャラには聞き取れなかったんだ。

でも、ジャラのじいちゃんのことだ、きっとクレージーで、凄いこと思いついたんだと思うよ。

 

マスターの目が希望に満ちて、きらきら輝きはじめたんだから。

でもさ、その時だよ。

 

突然じいちゃんが震えだしたんだ。

真っ白いブラウスが激しく横に揺れてた。

 

「Wow! この地震の揺れ凄~い。ジャラ、100年の時差ぼけが一度に来~た、みたい!」

 

「地震じゃないよ。揺れてるのじいちゃんだよ」

その動き、入り江の浜でジャラが震えたのとそっくり同じだった。

 

「違和感があ~る! 生牡蠣食ってワーイン飲んでからだ」

ハル先生が飛んできて、Gの脈を取って注射器取り出した。

 

ハル先生、看護婦もするんだよ。

で、Gの血液すこしとって、注射器をクラウドマスターに渡した。

 

「マスターお願い。大至急、この血液、構成してる素粒子まで詳しく調べてみて!」

頼まれたクラウドマスター、あわててGの血液を自分の舌で舐めて、チェックしてさ、宇宙センターの量子スパコンにそのデータを送った。

 

じいちゃんの身体の震えがひどくなって、椅子から落ちそうになった。

ジャラは必死でじいちゃんの身体抱きしめてたよ。

 

センターから大急ぎで検査の結果が送り返されてきた。

そのデータを見て、ハル先生の顔色が変わったんだ。

 

「ジャラ大変よ。じーちゃんはこの宇宙の人じゃない。別の世界の人よ」

・・ハル先生、そんなことぐらい僕にも分かってるよ・・

 

ジャラが口答えしようとしたら、ハル先生が1オクターブ声高くして叫んだ。

・・違うの。宇宙の意味が違うの。じいちゃんの身体の組成が私達とまるで逆の素粒子でできてる。

ジャラのじいちゃんの宇宙はこの宇宙と正反対の素粒子でできてるのよ。

二つの素粒子がぶつかると爆発する・・

 

「な、なんだと~。ハ、ハル先生。おれの素粒子、紐の揺~れ方が逆向きだというのか?」

「そのようだわ。急に違和感出たのは、この世界の生牡蠣と生のお肉食べたからよ。じいちゃんの胃袋が、反粒子の食料を消化しようとしたために、凄いエネルギーが放出されて、じいちゃんの身体が大揺れしてしまった」

 

「ハル先生それ違うと思う。おれの素粒子、ブラックホールの底で100年の時空越えたときに、反転したみたいだ。100年の時差ぼけ1度に来ると量子の世界でひもの揺れが逆転する? 天才アインシュタインもビックリ。これ宇宙の大発見!」

爺ちゃんがほざいた。

 

その時だよ、タカさんが横から掛け合いでいつもの茶々入れたんだ。

「ジャラのじいちゃんの症状やけどな、ただの食あたりちゃうか?・・そや、ハル先生、料理の仕方、間違えたみたいやで」

「生牡蠣と生肉と冷えたワインじゃなくてさ・・生ものには火を通してさ、牡蠣フライと焼き肉とホットワインにすればよかったのさ」

 

それ聞いて頭にきたハル先生、ワインをタカさんにぶっかけようとして、赤ワインの入ったグラスをテーブルから手で持ち上げた。

で、なにか思いついて、その手を止めた。

 

「マスター、この赤ワイン・・Gの血液と同じ組成にして、ホット・ホットにできる?」

 

「ハルちゃん、すこし時間くれるならやってみる。そのワイングラス、テーブルに置いてくれる?」

マスターがみんなの前で、ハル先生のこと、“ハルちゃん”って、とっても甘く優しく呼んだよ。

 

これ、きっとじいちゃんの指導の成果だよ。

マスター、子作りに向かって一歩前進だ!

 

で、マスターはハルちゃんがテーブルに置いたグラスに向かって両手を突き出した。

「さっきのプロフェッサーGの血液の味はと・・反粒子の味、思い出せ・・」

 

“チャンチャカチャー、チャカチャーチャカチャー”

宇宙皇帝のテーマソングが再び流れて、マスターの指先から組成再合成のプラズマが放射された。

 

グラスの中の赤いワインが沸騰して、グラスからこぼれだした。

マスターがグラスを手にとってホットワインを一口試しに飲んだ。

 

「うまい! これ震える」

マスター、震える指先でグラスをつまんでハル先生にわたした。

 

「この世のマスターが震えるワインってことわ・・逆にじいちゃのお口には合うってことだよね」

ハル先生そう言って、じいちゃんの口元にグラスを運んだ。

 

じいちゃんは震えながらホットワインを二口飲んだ。

そしたら、じいちゃんの震えがぴたりと止んだんだ。

 

喜んだじいちゃん赤ワインの残りをうまそうに飲み干したよ。

そしてゆらりと立ち上がった。

 

「みんなありがとう。おかげで元気になったよ。どうもこの世はじいちゃんの宇宙とひと味違う世界のようだ。でも未来の情報はたっぷりいただいたよ。早く持って帰ってじいちゃんの世界の未来に役に立てたいと思ってるんだ・・ところでボブはどこ行ったかな」

そう言ってじいちゃんはボブを探した。

 

ボブはもうとっくにキッカの膝の上でぐっすり眠り込んでいた。

「ボブが気にするのでいままで言わなかったけれど、このじいちゃん、じつは入り江の浜からタンジャンジャラには戻れないんだ。じいちゃん自身がジャラの世界にきてしまったんだから、過去の世界にもつれる相手がいなくなって、じいちゃんはもう元の世界に戻れないんだ」

 

・・でさ、だれかじいちゃんが元の世界に戻る方法マジでみつけてほしいんだ!・・

 

そこまで言って、じいちゃんの身体がぐらりと揺れた。

そして横にいたカーナの膝の上に座り込んだんだ。

 

じいちゃんのまぶたが落ちて、そのままいびきをかいて寝込んでしまったってわけ。

 

無理ないよね・・100年の時空を一瞬のうちに飛んで来たんだものね。

クレージーじいちゃんは疲労困憊してたのさ。

 (続く)

 

続きはここからどうぞ。

未来からのブログ13号 クレージー爺ちゃんが早朝の散歩してたら街が溶け始めたよ!

 

【記事は無断転載を禁じられています】

 

芦屋で散歩! 途中でお喋りランチとスイーツするならベスト・ルートはこれで決まり

芦屋川上流の景色

 

 

 

 

 

 

芦屋で散歩!2025最新版です。

芦屋でおしゃれな町並みを散歩!途中でランチとスイーツするなら芦屋川沿いがおすすめです。

 

毎日散歩している地元の筆者が、お喋りランチを挟んだ三時間の散歩コースを厳選ルポ。

阪急芦屋川をスタートして、川沿いに阪神芦屋まで下り、茶屋の町を経由してJRの芦屋駅前へ。

 

駅前のメイン通りを芦屋川に戻って周回コースをフィニッシュします。

周回コースですからスタート地点は阪急駅でも阪神駅でも、JR駅でも便利なところを選んで計画してくださいね。

 

阪急芦屋川から川沿いにウオーキング!「マイス・ドレ」から「ダニエル」「ベリーニ」そして「シャルパン」へ!

 

 

 

 

 

 

マップの左上が阪急芦屋川です。

散歩のおともにフランス生まれの黄金のポップコーンはいかが?

芦屋川駅の山側、広場に面した駅の一角にあるのが、ニューオープンの「MAIS DORÉ」マイス・ドレです。

MAIS DORÉ
MAIS DORÉ

 

 

 

 

 

 

MAIS DORÉは、フランス語で「黄金のトウモロコシ」という意味。

フランスの輝く大地で育ったトウモロコシを焼き上げた、サクサク、ぱりぱりのポップコーンは一口食べたらもう止まりませんよ。

 

上の写真は、フランス生まれのパティシエ、マーク・グレイスさんと元気なスタッフのお姉さまです。

メニュー
メニュー

 

 

 

 

メニューは塩バター、キャラメル、チョコレートと今週のおすすめの4種。

量もS、M、Lと選べる3サイズでお値段もお手頃です。

人数と好みに合わせて散歩のおともに用意しちゃいましょう。

 

散歩の途中で、芦屋川の鴨ちゃんには絶対あげないでくださいね。

病みつきになったら困っちゃいますよ。

 

 

芦屋川を下り最初の橋を左に渡って左岸(下流に向かって左側)をすこし歩くと、テラス・ダニエルです。

マップの赤い丸印のところです。

 

ダニエル

 

 

 

 

 

ダニエルの本店は山手環状線の甲南寄りに立派な店ができています。

芦屋の店はテラス・ダニエルといいます。

 

店の中と、前のテラスの二カ所にテーブル・シートがあって、スイーツやサンドイッチを買ってすぐに食べることができます。

川に向かったテラスのスペースではペットのワンコも同伴ランチしてますよ。

 

サンドイッチは数種類あって、鴨のサンドが私の好物ですが、昼前には売り切れます。

写真はテイクアウトしたチキン・サンドです。

 

テイクアウトのチキンサンド

 

 

 

 

 

チキンサンド 一個540円

天気のいい日は、早めにサンドイッチを買っておいて、リバーサイドでピクニック気分で食べるのもいいですね。

 

店内のショーケースと恥ずかしがり屋の店員さん(無理矢理笑わせちゃいました)

 

 

 

 

 

 

菓子ではカヌレとウナギの寝床がダニエル伝統の売れ筋商品です。

“カヌレ”はフランスの修道院が原産地?

 

 

 

 

 

カヌレはフランスの修道院が原産で“cannelé de bordeaux”といいます。

フランスの修道院では昔からワインを自分の農園で作っていたことで有名ですが、カヌレのようなお菓子も作っていたのです。

 

ダニエルはこれを食べやすいプチサイズの大きさにしました。

数種類のカヌレからチョイス

 

 

 

 

 

ダニエルでは、写真のような数種類のカヌレから好きなものをチョイスできます。

外かりかり、中しっとり・・夜中にお腹がすこし空いたときなど、カヌレがあるとハッピーですよ。

一個 120円

ウナギの寝床

 

ウナギの寝床は・・生地にブラックチョコレート、チョコチップ、ドライイチジク、アプリコットを混ぜ込み、細長い型で焼き上げたしっとりとしたチョコレートケーキです。

(公式サイトより)

 

お土産で何回か使いましたが、大変好評でしたよ。

ウナギの寝床 小 1296円  大 2592円

 

「白いうなぎの寝床」もできました!

「白うなぎ」には上質なバターたっぷりの生地に、クリームチーズ、ホワイトチョコを錬り込んで焼き上げ、ホワイトチョコレートで繊細にコーティングしています。

 

ショーケースにはおいしそうな生菓子やケーキも並んでいますよ。

公式サイト http://unaginonedoko.com/

 

ダニエルの川向かいのおしゃれなレストランがイタリアンの“ベリーニ”です。

マップの黒い丸印●のところです。

 

レストラン・ベリーニの全景二棟
レストラン・ベリーニのエントランス

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レストラン・ベリーニは本格的なイタリアンレストランで、大人数のお祝い事によく使われています。

緑のスペースをたっぷり取った贅沢なファサードに眼を見張りますが、コースの料理も素晴らしくて、ワインの種類とサービスがまた圧倒的です。

 

一度、友人のお祝い事にお呼ばれして、ワインを飲み過ぎて途中退席したことがあります。

あれは・・お恥ずかしいかぎりでしたよ。

 

今日は散歩がメインですから景観として楽しみましょう。

公式サイト https://bellini-ashiya.com/

 

芦屋川からの景観“仏教会館と黒塀のお屋敷”

 

芦屋川の川岸を歩くと、両側に瀟洒な家並みが広がっているのがみえます。

仏教会館と黒塀のお屋敷

 

 

 

 

 

上の写真は、国道二号線の手前のところで、芦屋川の右岸に現れる景色です。

右側のひときわ目立つ、重厚な建物が芦屋のランドマークの一つ、仏教会館です。

 

重厚な仏教会館

 

 

 

 

 

 

 

 

どっしりした石造りの建物は存在感が抜群です。

1927年(昭和2年)に丸紅の初代社長伊藤長兵衛さんの出資によって創設された(財)芦屋仏教会館の近代建築物です。

当時としては早くも免震構造を取り入れて建築されたので、阪神淡路大震災でも軽微な被害で無事でした。

芦屋市が市のランドマークに指定しています。

仏教関係の催しや無料の講座が開かれていますが、一般利用もされています。

内部は蓮の花をモチーフにしたステンドグラスで飾られて、教会のようですよ。

 

黒塀と見越しの松のお屋敷
  •  

 

 

 

 

仏教会館のとなり、芦屋川と国道二号線に面した角地に黒塀の広大なお屋敷があります。

お屋敷は黒い板塀に囲まれ、みごとに手入れされた松の木が数本、覗いてみえます。

 

地元企業の創業者の所有物とのことで、“芦屋川の黒塀屋敷”で有名です。

粋な風情は必見ですよ。

昭和の初め頃の芦屋川の原風景画を発見!
長谷川三郎「芦屋浜風景」1923年(大正12年)

 

 

 

 

 

 

 

芦屋市立美術博物館で「芦屋浜風景」というタイトルの絵画をみつけました。

この絵は現代抽象画家の先駆けとして有名な長谷川三郎が芦屋に住んでいた大正12年、17才の時に描いた風景画とされています。

絵の中、右の建物は仏教会館と推定されますが、仏教会館が竣工したのが1927年ですので、おそらくこの絵は1927年以降の作品と思われます。

屋根の先端に望楼のような建築物が見えます。その後、仏教会館は何度も改修されていまは先端はポールに代わっています。

また絵の中、左のお屋敷は高く白い塀に囲まれています。住友銀行の友人の話では屋敷は住友銀行の役員用社宅だったとのことです。黒塀になったのは所有者が代わってからのことでした。

右手前の橋は、長谷川画伯が近くの橋をこの位置に架空して描いたものと思われます。画伯は甲南高校(旧制)から東京帝国大学の美術学科で学び、卒業後、一人で世界に羽ばたいていきました。

川沿いの小道をウオーキング

国道二号線の手前で、芦屋川の左岸から、川の流れの岸まで下りてみましょう。

流れに沿ってウオーキングできる小道がずっと続いています。

川沿いの小道をウオーキング

 

 

 

 

振り向いてみると遠くに六甲山の山並みが見えますよ。

 

川向こうのお屋敷

 

 

 

 

 

国道の下をくぐり抜けて、川向こうを見上げるとおしゃれで大きなお屋敷が続いています。

一軒のお屋敷の中を拝見したことがありますが、オーダーメイドなデザインが持ち主の個性を主張して、うらやましい限りの贅沢空間でしたよ。

 

ここから川沿いの小道は芦屋の浜まで続いていて、ランニングやウオーキングにぴったりです。

ウオーキングの好きな方はここから海の浜辺まで歩いて約20分です。

 

秋になると、川は小魚が元気に群れて泳ぎます。

芦屋川の自然を観察しながら、往復40分のウオーキングをお腹空かしにいかがでしょうか?

 

芦屋川の松並木と芦屋教会

 

芦屋川の松並木

 

 

 

 

芦屋川の両岸には、上流に桜並木が、下流には松並木が広がっています。

写真は阪神芦屋駅にほど近い芦屋川の松並木、遠くに見える青い尖塔は芦屋教会です。

 

青い尖塔の芦屋教会

 

 

 

 

 

 

 

 

カトリック芦屋教会はローマ・カトリックに所属する教会で、1945年に設立されています。

市民に愛されているこの教会も、芦屋のランドマークの一つです。

 

散歩の途中で、青い尖塔をみると気持ちが和みますよ。

日曜日はもちろん平日もミサが行われていて、いつでも誰でも出入りが自由です。

 

芦屋教会の礼拝堂

 

 

 

 

 

私はキリスト教徒ではありませんが、散歩の途中でときどき礼拝堂に入って、一休みさせてもらっています。

心の落ち着く静かな空間です。

 

上の写真は日曜日の午後のひととき、朝のミサが終わったあとで、年配の女性がただ一人最前列で礼拝中でした。

散歩の途中で疲れたときは、遠慮なく一休みさせてもらいましょう。

 

ご報告です!

散歩の途中で阪神芦屋駅の近くにとても便利な医院を発見しましたよ。

 

のどはら歯科医院

 

 

 

 

 

写真をご覧ください。

二階の看板に“のどはら歯科医院”と書いてあるじゃありませんか?

 

喉とお腹と歯の具合の悪いときに一度に全部診てもらえる便利な医院を発見して大喜びしました。

・・なんですって? 「のど」じゃなくて「のとはら」さんですって?

 

すみません、最近眼の方ももう一つで・・。

 

横道から戻りまして、芦屋警察の前という超安全なロケーションに「シャルパン」こと“アンリ・シャルパンティーエ”の本店があります。

周回マップ左下の阪神芦屋駅のすぐ上、緑のマークのところです。

 

アンリ・シャルパンティーエの芦屋本店

 

 

 

 

 

パリで昔お菓子の修行をした店長さんが始めたお店です。

今ではおなじみの全国ブランドになりました。

 

JR芦屋の大丸一階にもシャルパンの出店がありますが、カフェのスペースがあるのはこちらだけです。

定番の焼き菓子はフィナンシェとマドレーヌです。

 

フィナンシェ
マドレーヌ

 

 

 

 

 

 

 

 

私は贈り物には日持ちのする焼き菓子の詰め合わせを選びます。

単価は共に 141円

 

自宅用には大好きなクレープをいくつか買います。

ごく薄のなめらかなクレープの中で上品なクリームがとろけますよ。

一個 220円

 

芦屋で散歩のスイーツ女子なら、シャルパンの本店でのカフェタイムは・・。

すこし贅沢してあのクレープ・シュゼットで決まりです。

 

クレープ・シュゼット
  •  

 

 

 

 

 

一皿 ¥1,296(税込)

 

薄く手焼きをしたクレープを、銅製の片手鍋に入れ、バター、オレンジ果汁、リキュールを用意すると、さあ、炎のパフォーマンスの始まりです。絹のようになめらかなクレープと芳醇なオレンジ果汁が奏でるおいしさ。アンリ・シャルパンティエのシンボルともいえるデセールを、ぜひどうぞ。
 公式サイトより

 

クレープシュゼットは目の前で手作りしてくれます。

ご存じ、ブランデーが炎を上げるパフォーマンスは圧巻です。

 

シュゼットにはクレープが二つ入っていますので、カップルとか友人となら、二人で一つ取って、シェアーしてもいいですね。

 

あと、お腹の加減を見て、焼き菓子も追加するとか・・。 

公式サイト

 http://www.henri-charpentier.com/

 

うどんでランチなら手打ちの“花菜“ 喉が渇いてソフトクリームは“パンタイム” 

 

 

 

 

 

 

シャルパンの前の通りを宮川の方向・東に向かって歩きます。

左側に可愛い五角形の店があります。

(マップで黄色の丸印)

 

芦屋ロール

 

 

 

 

 

“天使のシフォン”がキャッチコピーのロールケーキ専門の可愛いお店です。

一度、買って食べてみましたが、あの有名な“堂島ロール”とそっくり同じ味で、ビックリしましたよ。

 

現在はクローズド中です。

 

通りを、東にしばらく行くとうどんの“花菜”(はなな)があります。

マップでは赤丸のところです。

手打ちうどんの花菜 (公式サイトより)

 

芦屋界隈ではいま人気ナンバー1の本格的な手打ちうどんの店です。

ご主人が道に面したガラスケースの中でうどんを手打ちしています。

 

手打ちの麺は、“しこしこ”感と“もちもち”のバランスがとても好くて、我が屋の家族も絶賛です。

平日も昼時は満員になりますので、すこし早いめに伺うのがいいです。

 

メニューは多くて選ぶのに困ります。

うどん好きの方は、事前に公式サイトから研究しておくのも楽しいですよ。

私は夏場は“ぶっかけ”を選ぶことが多いです。

 

花菜のメニューの一部

うどん玉は、頼めば、お持ち帰りだけでもOKですので、すこし時間がかかりますが、通りすがりに今晩か明日のランチ用に数玉買うのもありです。天かすも少し・・・。

公式サイト http://hanana.biz/

 

花菜を過ぎてすこし歩くと左手に、PAN TIME (パンタイム)というパン屋があります。

MAPでは黄色い丸印のところです。

 

1995年にオープンした芦屋オリジナルな人気店です。

ファミリー連れの多いパンタイム

 

連日、常連さんのファミリーで混雑しています。

最近、お味がファミリー向きになったのかなというのが、私の印象です。

 

パンタイムの店内

 

 

 

 

 

 

 

 

店内は焼きたてのパンが次々と運び込まれてきて、たちまち売れていきます。

パンの種類が豊富で、一日中、客で混雑しています。

 

じつはパンケーキは、店内で売っているソフトクリームが激うまなのです。

散歩途中で、喉が渇いたらぜひものですよ。

ソフトクリーム 一個 200円

 

パンタイムを通り越してつぎの通りを左折しましょう。

国道二号線に向かうこの通りは、美容院やいろんな雑貨屋や金又やちいさな和食店が並んでいて、楽しい散歩道ですよ。

 

丹波篠山の物産店“金又”
雑貨やホットドッグを売っているお店
いつも売り切れお菓子の“plein”

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

国道近くの通りの左側に、見落としそうなちいさなパティセリー“プラン”(patisserie plein)があります。

MAPでは緑の丸印です。

 

ちいさな店ですが、人気店なので、午後になるとケーキや生菓子はほとんど売り切れています。

すこし売れ残っているシュークリームが一口サイズの優しさで私の好物です。

一個 150円

 

・・この通りを国道を渡って直進するとJR芦屋駅に到着します。

芦屋駅の二階改札横を抜け、北側に下りると駅前のメイン通りです。

 

ホテルのバーでランチ・カフェ? メインストリートを抜けて芦屋川にフィニッシュ

 

六甲の山を眺めてゆったりと午後のお茶とお喋りを楽しみたい方には、JR芦屋駅前のホテル竹園の9FにあるCafe & Bar がお薦めです。

MAPでは黒い丸印がホテル竹園です。

ホテル竹園 Cafe&Bar

 

窓際のシートで六甲山を眺めながら、コーヒーやケーキ、サンドイッチを楽しむことができる至福の空間です。

 

竹園のサンドイッチ

 

 

 

 

 

ここのサンドイッチはおいしくてボリューム満点です。

一皿1800円前後で、三種類ありますので、お友達と三人~四人なら二種類を二皿取ってシェアーするのも楽しいです。

 

すこし高くつきますが、居心地とサービスは満点ですよ。

ただ夏場は冷房が良く効くので、半袖だけでは要注意です。

 

昼間からカウンター・バーがオープンしていますから、カクテルやウイスキーを始めている男性客もいますよ。

公式サイト

 https://takezono.co.jp/cafe_bar/

 

・・ホテル竹園を出て、メイン通りを西に200メーターもいくと、芦屋川に戻ることができます。

メイン通りには両側に飲食店が並んでいます。

 

通りの始めに、昼だけ営業でいつも満員の“たこ好”があります。

MAPの赤い丸印のところです。

“たこ好し”

 

 

 

 

昼食時は混み合いますが、ちいさな待合でみんな気長に待っています。

天丼、天ぷらそば・うどん・・・エビの天ぷらが入ったものが人気です。

上記で900円~1200円

 

回転が速いので、時間がほしいお喋りランチには向かないかもしれませんが、地元のシニアには御用達の人気店ですよ。

 

通りに面して山側、MAPの緑の丸印が・・ステーキ・ランチのある“ジャクソンズ・ニューヨーク・ダイナー”です。

ステーキハウス
ジャクソンズ・ニューヨーク・ダイナー

 

本格的なステーキハウスですが、がっつり肉食系女子にうれしいお値段のステーキ・ランチがあります。

カットステーキランチ(130g) 900円

上ハラミステーキランチ(130g) 1000円

 

カットステーキを試してみましたが、すこしお肉が固めですので、上ハラミがお薦めかと思います。

昼のランチ時は満席になりますが、12時前の入店なら予約が可能です。

https://www.facebook.com/jacksons.ny.diner/

 

通りを芦屋川に向かうと山側に新装開店の「おでんと肴とお酒の店 花がつお」があります。

花かつお

 

 

 

 

 

 

お代も大変リーズナブルで「芦屋で散歩」の仕上げにピッタリですよ。おでんは一番人気の「牛すじ」の品がなくなりやすいので、入店したらすぐご注文を!

 

お店は、前掲の花菜(はなな)の経営なので、手打ちうどんで〆るのもおすすめです。

JR駅から200メーターほど歩くと商店街は終わり、芦屋川に到着します。

 

芦屋散歩のお薦めルートを一周して、スタート地点のダニエルに戻りました。

・・「芦屋で散歩!途中でランチとスイーツ」のご紹介は以上です。

 

お店の情報は毎日変わります。

それぞれの店の情報は必ず公式サイトや電話で確認してくださいね。

 

新しい発見があれば、これからも追加・修正して参ります。

芦屋の散歩が楽しいひとときになりますように・・。

(おわり)

 

芦屋で散歩ついでにカルチャーしたい方は下記からどうぞ。

芦屋で散歩/カルチャー好きなら芦屋川から谷崎潤一郎記念館と市立美術博物館巡りがおすすめ!

【記事は無断転用を禁じられています】

 

 

 

この世の果ての中学校16章“深夜の生徒会議”

 

エトロとマリエが、国会図書館から「過去からの訪問者の映像中継」を無事終了したときのことだ。

 

 パパやママの叫び声が図書館の入り口から聞こえてきた。

「侵入者が国会図書館の中にいるようです!」 

「なにものだ? 出てこい!」

 

 二つの怒鳴り声が重なって聞こえてくる。

 ペトロとマリエは大あわてでデスクの端末を閉じて、椅子から立ち上がった。

 

 (前回のストーリーはここからどうぞお読みください)

この世の果ての中学校15章 “過去からの訪問者の家族は暗黒宇宙に消えた”

 

 16章 深夜の生徒会議              

 

”PTA”と称して開催された秘密の臨時国会は審議を終了していた。

 パパやママが地下室の国会議事堂から踊り場に出てきて、となりの国会図書館に照明が付いているのに気がついたみたいだ。

 

 図書館の出口は一カ所だけで、二人の隠れるところはどこにもない。

「やべーな! これじゃ葉隠れで姿消しても、だれかとぶつかっちゃうよ」

 

「スパイ諦めて、二人でいさぎよく自首して出ようか?」とペトロがマリエに聞く。

・・・だめ!そんなことしたら、咲良ねーちゃんやエーヴァにぶん殴られるわよ・・・マリエが首を横に振った。

 

「そこにだれかいるのか?」

 パパたちが、ばたばたと図書館のエントランスに入り込んで来る。

  二人はあわててデスクの下に隠れた。

 

 “チチッ!”

 マリエが葉隠れの葉っぱをポケットから取り出そうとしたとき、マリエの上着の中から鳴き声が聞こえる。

 

「ペトロ! いいこと思いついたわよ」

 そういって、マリエが上着の裾から黒くて細長い生き物を引っ張り出した。

 

「ゴルゴン! 緊急事態発生よ。エントランスまで走って行って、あなたの最終兵器を思い切りぶっ放してらっしゃい」

・・・“ゴルゴンは臭くってとても食べられない”ってみんなに思わせるの・・・。

 

「いいわね、いくわよ!」

 マリエがゴルゴンのお尻をパチンと叩いた。

 

“チチッ!”

 ゴルゴンは小さな目を二、三度瞬いてから、エントランスに向かって勢いよく走り出していった。

 

「はいペトロ!これパパからもらった匂い消し。しっかり吸い込んでおきましょう」

 マリエは首に架けたお守りから乳香スプレーを取り出すと、ペトロと自分の鼻に“シュッ!”と振りかけた。

 

“ぎやーっ!”

 踊り場から悲鳴が聞こえてきた。

 パパやママたちが未体験の悪臭から逃れようと、廊下を走り回っていた。

 

「大変! 図書館にスペース・イタチが入り込んでいます。この悪臭、イタチの最後っ屁です! 皆さん急いで校長室へ引き上げてください」

 ヒーラーおばさまの叫ぶ声が聞こえて、パパやママの悲鳴と足音が遠ざかっていった。

 

 ほどなくあたりは静かになった。

 

 ペトロとマリエは小さな声でハル先生にお礼を言って、踊り場に出た。

 二人は誰もいなくなった石畳の通廊を、遠くにかすんでみえる小さな明かりを目標にして上がって行った。

 

 灯りは校長室から漏れていた。

 開いたままのタンスの隙間をすり抜けて校長室に戻ってみると、部屋は電気がつけっぱなしで、誰もいない。

 

 床の上にゴルゴンが仰向きに寝そべって二人を待っていた。

 ゴルゴンの得意そうな顔を見たマリエが“クスッ!”と笑って、ご褒美にお腹を撫でてあげた。

 

 校長室の電気を消して廊下に出ると、辺りは静かで人の気配がなかった。

 

 廊下の破れ目までやってくると、ゴルゴンが尻尾を振って、二人にお休みの合図をした。

「ありがとう。じゃ、またね」

 マリエとペトロはゴルゴンにお礼を言った。

 

 ゴルゴンは、“チュッ!”と一声叫んで、嬉しそうに破れ穴の中に飛びこんでいった。 

 時刻は夜の一二時を過ぎていた。

 

 廊下にも、教室にも、校長先生やパパやママの姿はなくて学校中が静まりかえっている。

「ペトロ! あれ見て!」

 

 マリエの声が静寂を破った。

 廊下の窓越しにマリエが校庭の砂場を指さす。

 

 砂場の横のスペースに、見覚えのある黄色いバスが、月明かりの中で浮かび上がるように止まっている。

 バスの窓越しに、マリエのママとペトロのママが仲よく並んで座っているのが見えた。

 

 校長先生とヒーラーおばさま、それにパパやママたち、秘密の会議を終えた11人の大人たちが全員バスに乗り込んでいた。

 

「発進しまーす!」 

 運転手の声が風に乗って二人の耳に届いた。

 

 「行ってらっしゃーい!」

 マリエが小声でいったので、ペトロも思わずバスに向かって手を振った。

 

  黄色いバスは校庭から空に舞い上がり、スピードを上げると、あっという間に夜空に消えていった。

 

・・・ペトロとマリエは校庭を横切って、正面の門を開け、小高い丘につながるいつもの小道に出ると・・・。

 

 門の蔭から声がした。

 

「ずいぶん待ったよ」

 すぐ近くで匠の声がして、マリエとペトロは飛び上がった。

 

 黒い影が四つ立ち上がった。

 咲良とエーヴァ、裕大と匠が校門の蔭で二人が出てくるのを待っていた。

 

「お疲れ様!」

 年長の咲良が二人にねぎらいの言葉を掛けた。

 

「ママやパパ、黄色いバスに乗ってくの見た?」

 マリエが誰にともなく尋ねた。

 

 みんながもう一度黄色いバスが消えていった夜空を眺める。 

 見上げる咲良の目が潤んできらきらと輝いていた。

 

「ここからはっきり見たわよ。

みんな月の光を浴びて、きれいに輝いて仲よくバスに乗り込んでったわ。

私、感動しちゃった」

 

しばらくしてマリエが話題を変えた。

「中継放送はみてくれた?」

 

「国会中継も、ハルちゃんのかっこいいシーンもちゃんと見たわよ」

そういって、エーヴァが着込んできた厚手のセーターを派手に腕まくりした。

「こんやはパパもママも留守だし、もう興奮しちゃってとても眠れそうにないな・・・みんなこれから・・・どうする?」

 

・・・秋の夜の冷気が身体を突き抜けて、六人の生徒たちの気分は冴え渡っている。

 

「俺たちも生徒会議やろうぜ!」

 匠が緊急の提案をした。

 

 生徒会長の裕大が結論を出した。

「明日は学校休みだからさ、俺たちきっと朝寝坊すると思って、パパとママは油断するぞ。間違いなく、明日はゆっくりの朝帰りだ。俺たちの時間はたっぷりある。今から一番近い家に行って、日が昇るまで打ち合わせしよう。・・・近いのは俺の家だ」

 

「裕太兄ちゃん、ちょっと待って。一番近い家はと、そりゃーもう、僕のマイ・ワールドで決まりだ」

 ペトロがポケットからマイワールドのキーを取り出した。

 

「なんてったって、ここが入り口だもんね」

 ペトロの神殿につながる風船ゲートがプーッと開いて、みんなを誘っていた。

 

 ペトロはマイワールドをリフォームしていた。

 改修されたペトロの神殿は議事堂と違ってとても明るく、暖かくて機能的、その上護衛官に兵隊まで付いていた。 

 

・・・「子供たちの生徒会議が始まったようです。ペトロの神殿に6人が集合しています」

 咲良のママが黄色いバスの中で深夜の生徒会議の中継を始めた。

 

 実は、ファンタジーアの女王にはファンタジーアの中にあるペトロのマイワールドは自分の心の中にある一つの情景として、手に取るように見えていた。 

 

「あら! もうパパやママに自分たちの未来を任しておられないと全員が言ってますわ」

 

 パパやママが、バスのシートから歓声を上げた。

「あの子たちはついに、立ち上がりました。今夜の子供たちへの仕掛けイベントは大成功のようでございます」

 

 咲良のママが報告を終えると、代わりに裕大のママが立ち上がった。

・・・それでは、今夜の表彰式に移らせていただきますね・・・

 

「本日の演技賞は、なんと言いましてもあのいかにも頼りなげで、投げやりな答弁で子供たちの自立心を駆り立てられた・・・我らが校長先生に差し上げたいと思います」

 

 裕大のママは、黄泉の国に向かう途中でお腹の空いた人のために用意した手作りの特大ケーキを持ち出した。

 

「あら、裕大ママ、そのケーキは私が頂きますわ。

 総理の答弁、あれは演技ではございません。

 あれは地のままでございます。

 主人に代わりまして、大臣への早変わり演技で、その賞は私が頂戴いたします」

 

 隣のシートでいびきをかいている校長先生を横目に、ケーキには目のないヒーラーおばさまがついにその正体を現した。

 

 ヒーラーおばさまの真の姿は、日本国最後の総理大臣の奥様、万能のファースト・レデイー・・・かっては影の総理と言われた女性だった。

 

 夜も更け、ペトロの神殿で始まった子供会議の様子にひと安心したママとパパたちは、子供たちより一足先に、黄色いバスのシートでお休みのひとときとなった。

 

・・・深夜を過ぎて、ペトロの神殿で続けられている生徒会議は、意見が方々に飛び散って、収拾が付かなくなっている。

 

「お手上げだ! ペトロ! 適当に・・・もとへ・・なんとかうまくまとめてくれないか」

 疲れきった裕大がペトロに頼みこんだ。

 

「それじゃ、まず一人ずつ簡単に結論を述べよう!」

 ペトロが立ち上がって全員に尋ねた。

 

 「眠たい」「腹減った!」「お腹空いた」「喉渇いた」

 マリエと匠とエーヴァと咲良が同時に答えた。

 

 ペトロは自分の影を呼びつけて何事か頼んだ。

 まもなく、リニューアルした厨房から、焼き上げた非常食用のクッキーと熱いコーヒーの香りが漂ってきて、みんなは目を覚ました。

 

「それじゃ、もう一度元気を出してみんなでまとめてみようよ」

 ペトロがサッと手を一振りすると、空中に電子黒板が現れた。

 

 ペトロは右手で熱いコーヒーを一口飲んで、左手に持った電子ペンでボードにテーマを書き込んだ。

【カレル教授とハル先生が僕たちに伝えたかったこと】

 

「テーマはこれに絞るよ。それじゃ、順番に思いついたポイントを一つずつ言うことにしよう。まず生徒会長の見解をどうぞ」と、ペトロが裕大を指さす。

 

「やるべきことの第一、それは環境を守ること。やってはならないことは生き物の尊厳を奪うこと。カレル教授が別れ際にドクターにそう言ってたぞ・・・うーんと、一言で言えばだ・・・むやみと食べ過ぎない、それから食べ残しをしないことだと思うよ」

 

【食べ過ぎない、残さない】

ペトロがまとめてボードに書いた。

 

「生き物たちと仲良くすることだと言ってたわ、でないと逆襲されるって・・・命を失ったホラーがダークサイドから出てくるのよ」

 咲良がファンタジーアの王女の見解を述べた。

 

【生き物と仲良くする。でないと暗闇から逆襲に遭う】

 ペトロがボードにまとめる。

 

「大事な緑が逃げだしたのは、ほんとにあっという間だったよ。ぼくの田舎の庭の柿の木もアッという間に枯れちまったもんな。あの頃食い物なくなって毎日おなかが減ったよ。地球の緑、奪ったの誰の仕業だ」

 匠が怒りのパンチを空に突き上げる。

 

【地球の緑は瞬時にいなくなった。誰の仕業だ!】

 電子ペンを持つペトロの左手が踊った。

 

「荒れ果てた地球と違って、惑星テラには緑がいっぱいあったわ。小さなボブもクレアも元気にしてるかしら」

 小さなエドの家族を思い出したエーヴァの目が、潤んだ。

 

【地球は荒れ地、テラには緑!】

 ペトロの目も潤んでくる。

 

「生き物を見守ってる大きな存在が怒ったのよ。きっとそうよ」

 マリエが両手を合わせて祈っていた。

 

 ペトロが最後の一行を加えた。

【大きな存在が我々に怒っている】

 

 みんなは眠い目をこすりながら、ボードを見上げた。

 何のことか分からなくなって、ペトロは頭をかしげた。

 

 かしげたついでに、電子ボードのコメントを上から順番に大きな声をだして読んでみた。

 

・・・食べ過ぎない、残さない→生き物と仲良くする。でないと暗闇から逆襲に遭う→地球の緑は瞬時にいなくなった。誰の仕業だ→地球は荒れ地、テラには緑→大きな存在が我々に怒った・・・

 

 な~んだか、核心がほの見えてきた。

「でも、大きな存在っていったい何者なんだ!」

 

・・・大変だ! 犯人が見えてきた・・・

 ペトロが頭の中で叫んだ。

 

「あーと三年、あと三年」

 寝ぼけ眼のマリエがまたあの歌を歌っている。

 裕大のいびきが聞こえてきた。

 

 ペトロの影が、眠り込んだ裕大の肩を優しく揺すった。

「生徒会長! もうすぐ夜が明けます」

 

 裕太が目を覚まして、寝ぼけ眼で閉会を宣言した。 

「今日はこれでブレイクしようぜ! つぎはアクション・プランだ!」

 

・・・六人はペトロの神殿を出て、風船ゲートをくぐり抜け、学校の門の前に戻った。

 そして、明るくなってきた東の空を眺めて、パパやママが黄泉の国から戻る前に家に帰り着こうと元気に掛けだしていった。

 (続く)

 

続きはここからお読みください。

https://tossinn.com/?p=3527

 

 

【記事は無断転載を禁じられています】

 

 

終活散歩・奈良飛鳥方面 “壺阪寺から高取町・土佐街道を経てキトラ古墳へ”

 

六人のシニア仲間で行く終活旅の散歩のルポです。

会社に勤めた頃に始めた異業種交流会のOB仲間が集まって、奈良飛鳥方面を中心に日帰り旅行をしています。

 

今回は“お里・沢市の心中物語”壺坂霊験記で有名な古刹・壺阪寺から、奈良にあるのに“土佐街道”を経由して、“現れた竜の壁画の展示”キトラ古墳を見学。

最後にもう一度、高取町の古い町並みをすこしだけ歩きました。

 

決して無理はしないツアーですので、シニアの方やゆっくり旅したい方にはお役に立つ情報です。

新緑の色濃い6月の終活散歩、報告スタートです。

 

壺阪寺のご本尊は眼を守る観音様だった!

 

壺阪寺
天竺渡来の大釈迦如来像

 

 

 

 

 

 

 

 

貞淑な妻お里と目の悪い沢市の夫婦の愛の物語“壺坂霊験記”の舞台となったここ壺坂寺は、本尊の十一面観世音菩薩に拝むことで、眼病が治ると言われています。

 

二人が身を投げた谷を上から覗いてみましたがそれほど深い谷ではありませんでしたよ・・。

 

ふたりの切ない夫婦愛が観音様に通じて奇跡が起こり、お里も沢市も命が助かり、沢市の目も開眼したというハッピーエンドなお話です。

壺坂寺には観音様やお釈迦様が方々にいっぱいおられて、参道の途中でも眼病に効果のある観音様とパワーストーンを発見しました。

 

パワーストーンに乗る友人

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私達も、お里・沢市にあやかろうと、観音様の見守る中、パワーストーンに靴を脱いで登り、順番に開眼パワーを頂きましたよ。

 

壷坂霊験記

壷坂霊験記

今より三百年以上昔、座頭の沢市は三つ違いの女房お里と貧しいながらも仲睦まじく暮らしていた。沢市は盲目ゆえ琴三味線を教え、お里は内職というなんともつつましい暮らしであった。

そんな沢市の胸中に一つ不安が生まれていた。というのも明けの七つ(午前四時)になると、お里が毎晩床を抜け出していたからだ。

「もしや好きな男が…」と問いただすと、お里は沢市の目の病が治るよう、この三年もの間欠かさず壷阪寺の観音様に朝詣でをしていると訴える。

疑った自分を恥じる沢市はともに観音様にお参りすることにしたが、心の中は盲目がゆえに不遇な暮らしをしているのだと自分を責める。そして、一度お里を家に帰して、お里を自由な身にしてやろうと自分の身を投げてしまうのであった。
不吉な予感であわてて戻るお里は、非常な現実に遭遇し、自らも身を投げてしまう。

 (壺阪寺公式サイト)

 

壺阪寺はお釈迦様のテーマパーク?

 

壺阪寺は正式には南法華寺(みなみほっけじ)といって、西国三十三所の第6札所です。

京都の清水寺の北法華寺に対して南法華寺といい、“終の観音霊場”として古くから多くの人にお参りされてきました。

 

壺阪寺はまるでパノラマのようにインド渡来の石像が本尊や三重塔などの建造物に囲まれて配置されています。

壺阪寺という一つの山が、宗教的な香に包まれたテーマパークのように広がっていましたよ。

 

朱塗りの橋と三重塔 (友人撮影)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

橋の手前からの眺めで・・

朱色の太鼓橋の明るさと、三重塔の静けさのコントラストが見事でした。

 

そびえ立つ“天竺渡来大観音石像”(公式サイト)

 

壺阪寺の国際交流

壺阪寺は昭和40年からインドにおいてハンセン病患者の救済活動に参加して、その後もインド国内で奨学金事業など様々な国際交流を展開しています。

 

壺阪寺にある多くの石彫文化はこのような日印交流のご縁で御招来されたものです。

壺阪寺を象徴する全長20m、全重量1200t に達する天竺渡来大観音石像もインド政府の協力でインドから招来したものです。

 

南インドカルカラの三億年前の古石から、7万人のインドの石工が参加してすべて手造りで製作されました。

 20mの巨岩は66個に分割して彫刻し、日本に運ばれ組み立てられました。

 

この巨岩を支える土台は深く基礎岩盤にまで掘り下げられ、数万巻の写経と土台石が埋納されています。

立像のまわりをぐるっと一周して眺めてみて、石像の重量感に圧倒されました。

 

でも、後ろにまわって見たら大観音様のヒップのあたりは盛り上がりがすこし欠けてましたよ。

・・こんなとこまで観る人いないですよね(笑い)

 

八角円堂(公式サイト)

 

 

 

 

 

 

 

 

大宝3年(703)に創建された本尊十一面千手観世音菩薩を祀る八角形の御堂です。

まるでシルクロードのパビリオンのようでした。

 

 

ご本尊の十一面千手千眼観音菩薩は・・

無数の手とたくさんの眼を持つ、頬がふくよかで、優しそうな観音様でした。

 

壺坂寺へのアクセス

 

近鉄吉野線の壷阪山駅から壺阪寺まで、奈良交通バスで約11分でした。

バス利用のときは、本数が大変少ないので事前に運行時間チェックが必要です。

 

ゆっくり歩いて登れば片道30~40分です。

壺阪寺参拝のあと、土佐街道やキトラ古墳の行程を予定されるのであれば、体力と時間を残してバスを利用することをお勧めします。

 

壺阪寺への歩行ルート(高取町観光ガイドより)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(自家用車を利用されるときは壺坂寺の入り口に有料駐車場があります)

壺阪寺の公式サイト

http://www.tsubosaka1300.or.jp/

 

高取町を抜けてキトラ古墳へ

 

壺阪寺参拝と昼の弁当を済ませた仲間六人は・・

壺阪寺からバスに乗って、「壺坂手口」停留所で途中下車、高取町を斜めに抜けて次の目的地キトラ古墳に向かいました。

 

高取町を抜けてキトラ古墳へ

 

 

 

 

 

 

 
上のマップで、赤い線が土佐街道です。
街道沿いに、武家屋敷などの高取町の古い町並みが広がっています。
 
・・土佐街道の由来は、六世紀の始め頃、大和朝廷の都造りに土佐を離れこの地に召し出された人達が、その後、帰郷がかなわずこの地に住み着いたところから土佐街道と呼ばれたと言われています。
 
青い線は私達がバス停から高取の町並みを通り、キトラ古墳に抜けたルートです。
このルートは本来の土佐街道とはクロスしていますが、古い町並みの写真を取りましたので、ご覧ください。
 
 
高取町の古民家
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
驚くほど古い家です。
明治時代にタイムスリップです。
 
 
民家の入り口が雑貨の展示室
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
普通の民家の入り口スペースに昔の小間物が雑多に展示されていました。
古いポスター、竹細工、風鈴、昭和レトロなビール瓶、仁丹や昔の薬。
 
出入り自由な明治か昭和レトロな空間でしたよ。
 
 
古くてモダーンな民家
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
これはもはやアートです。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
このあたりは条例で建築基準が厳しく制限されています。
高取の街の景観を保全するためです。
 
街の方々で景観保全のメッセージを見かけました。
街ぐるみで観光客の誘致をはかっていることが伝わってきましたよ。
 
 
 
タンポポの薬効
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
タンポポ
薬効は胃腸薬・ねつさまし・ぜんそく
 
 
 
センブリの薬効
 
 
センブリ
薬効は消化不良・脱毛症・水虫
 
 

 

 

 

 

 

高取町は富山と並ぶ薬売りの町でした。

道路のところどころに自然の草花の薬効が説明されたプレートがありましたよ。

 

高取町は高取城の城下町

 
高取城・明治20年頃の写真
 
高取城をCGで再現 (高取町観光ガイドより)
 
高取の町は、高取城の城下町として発展した町です。
上の写真は、残された高取城の古い写真と、それをもとにしてCGで城を再現したものです。
 
 
寛永7年(1640年) 植村氏が藩主としてこのあたりを治めていた頃、山の上の高取城では毎日の生活が大変不便なため、藩主や家臣達の屋敷は麓の土佐街道の道筋に移されていきました。
 
そして街道に沿って城下町が形成されていきます。
今も古い町屋が残る石畳の道が当時のメインストリートの土佐街道で、正面の山に高取城の遺跡が残されています。
 
 
今回私達が歩かなかった土佐街道の町並みを高取町の観光ガイドからピックアップしてみました。
 
 
土佐街道の石畳と町屋
 
 
 
 
 
 
 
 
 
町屋
 
 
 
 
 
 
 
 
 
町屋は平屋で二階は屋根裏部屋となっています。
殿様を見下ろさないためだと言われています。
 
 
 
夢創館
 
 
 
 
 
 
 
 
 
明治大正の呉服屋だった建物です。
現在は観光案内所。
 
 
 
土佐街道から壺阪寺への分岐点
 
 
 
 
 
 
 
 

ここは私達がキトラ古墳へ向かうときにクロスしたところです。

むかしは、ここに高札が建てられ「お触書(御触書)」を掲示した場所でした。

 

武家屋敷

 

 

 

 

 

 

300年前の長屋門をそのまま残した武家屋敷です。

窓の格子が横向きになっている「与力窓」を二つ、つけています。

 

高取町観光ガイド 

http://sightseeing.takatori.info/cource/no3.html

 

キトラ古墳で青龍の壁画(実物)を初めて見た!

 

キトラ古墳全景

 

 

 

 

高取町を抜けてキトラ古墳に到着しました。

古墳全景写真の円盤状の丘の下に古墳の石室があります。

 

一般の人はもちろんキトラ古墳の室に入ることはできません。

古墳のすぐ近くに「キトラ古墳壁画体験館・四神の館」という立派な建物があり、この中で様々な古墳にかかわるプレゼンテーションが行われて、見学者が楽しみながら勉強出るようになっています。

 

今回、古墳の石室の東壁「青龍、十二支・寅」の実物が公開されたので、応募して見学に行きました。

 

公開壁画のパンフ

 

今回お世話になった友人に応募予約をしていただいたのですが、予約時間より相当早く着いてしまって、係の人に頼み込んで、前の組に入れて頂きました。

青龍の画像は東壁から切り取られて、ガードマン二人に警護された一階の特別展示室のショーケースに治められていました。

 

青龍は古代中国では東の方角を守ると言われる想像上の生き物です。

古墳では東の壁に描かれて、高貴な身分の埋葬者(不詳)を長い年月にわたって守っていたことになります。

 

この写真が、今回展示されていた実物の壁の「青龍」です。

 

東壁に描かれた青龍

 

 

 

 

 

 

 

 

右下に流れるように跳ねている赤い線が竜の舌です。

左側にあるべき竜の姿は消えています。

 

後世に侵入した泥土に覆われていたため、主要な部分が判然とせず失われたと説明されています。

近くの高松塚古墳の青龍は元気に飛んでいます。

 

〈参考〉高松塚古墳画の青龍

 

 

 

 

 

 

 

二つの赤い舌を比較してみますと同じ壁画画家が描いたようにみられるほど、舌の形がそっくりです。

キトラ古墳の青龍もむかしはこのような姿で、元気に飛んでいたのです。

 

二つの古墳はすぐ近くにあります。

古墳で埋葬者を守る儀式として、飛鳥のころ、石室の壁面に誰がどのような気持ちでこのような絵を描いたのか、その姿を想像するとなんだか時を超えて興奮させられますね。

 

もう一枚の展示は同じ東の壁に描かれた寅の壁画の写真です。

寅・・斜光写真

 

 

 

 

 

 

 

キトラ古墳の石室には頭は獣で身体は人間の姿をした十二支が描かれています。

埋葬者の魂を鎮めたり邪悪なものから守るためです。

 

この画像は斜光写真です。

壁画の実物ではなく、写真ですが、暗闇に“ぬぼーっ”と立っている虎の姿が戯画っぽくて面白かったですよ。

 

国宝になることが決まったキトラ古墳の壁画の特別展が続いています。

毎回展示の内容が異なりますので、事前に展示の壁と壁画の内容をチェックしていくと、興味が増して楽しいですよ。

 

キトラ壁画の公開見学の説明はここからご覧になれます。

http://www.kitora-kofun.com/

 

最後に・・

 

キトラ古墳の壁画見学を終えて、近鉄の壺坂山駅に向かう途中、土佐街道を右に折れて子嶋寺に参拝しました。

 

子嶋寺の山門
子嶋寺の本堂

 

写真は弘法大師由来の国宝「両界曼荼羅」を寺宝に頂く真言宗の子嶋寺です。

立派な山門と本堂の写真です。

 

目的は寺の山門でした。

日本三大山城の一つ、高取城が明治に入り廃城とされたとき、城の二の門がここ子嶋寺の山門として移築されていたのです。

 

内側から見た山門

 

 

 

 

 

 

 

 

この門は構造的に大きな特徴がありました。

  1. 普通の寺の山門に比べて柱が太くて頑丈です。
  2. 屋根の構造が寺の外側(正面)に向かって傾斜した部分が内側より相当長く垂れ下がっています。

 

同行の設計会社の建築士M氏にいろいろと調べてもらった結果を基に、二人で構造上の理由を結論してみました。

 

結論の一は、 柱が太く頑丈にできているのは敵の攻撃で簡単に倒れないようにしたためである。

守備の兵士は柱の陰から出て敵と応戦したはずだから、柱は身体を隠すための大きさが必要だった。

 

・・ 門の種類は“薬医門”というのだそうです。

 “薬医門”のいわれの一説に矢の攻撃を食い止める“矢食い”とあります。

 

結論の二つ目は、外側の屋根が内側より広いのは敵の矢による攻撃を防ぐためのものである、ということになりました。

二つの結論が正解であればいいのですが・・。

 

日本・三大山城の中、最強の山城と言われた高取城の二の門が、廃城のあとも子嶋寺の山門として、逞しく生き続けていたのですから、感動の物語ですね。

 

・・「おお 大砲」という司馬遼太郎の短編に、幕末の“天誅組の変”のとき、戦った高取城の軍勢がたった一門の大砲で敵方を遁走させたというエピソードがあります。

 その時の大砲“ブリキトース”のレプリカが元の商工会議所の玄関においてあるそうです。

 

プリキトースのレプリカ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・高取町とその近辺にはまだまだ歴史物語のお宝が眠っているようです。

毎年秋の祭日に挙行される“たかとり城まつり”には古い時代のパフォーマンスやフリーマーケットが出て、町中がお祭り騒ぎになります。

 

私たち六人の終活顧問で、親友の信貴山の和尚さんも剣舞の詩吟で特別出演する予定です。

秋にこの町を再訪することを子嶋寺の山門に誓って、この日の終活の旅は終わり、仲間六人は近鉄壷阪山の駅に向かいました。

(終わり)

 

【記事は無断転載を禁じられています】