僕の名前はタンジャンジャラ。
みんなはジャラって呼ぶよ。
“未来からのブログ”、13号まで読んでくれてほんとうにありがとう。
100年後の世界の情報、すこしは役にたった?
ジャラの投稿もそろそろおわりに近づいたみたいなんだ。
ジャラの爺ちゃんが100年後の僕らの世界にやって来てしまったからさ、ジャラの投稿記事を君に中継してくれる人間がいなくなってしまったんだ。
この記事君が読んでくれてることが事実だとしたら、量子もつれでジャラは君とまだつながってるってことさ。
爺ちゃんが君の世界に無事帰り着いたのかもしれないし・・それとも宇宙の果てに飛ばされてそこから僕ら二人のために必死に情報を中継してくれてるのかもしれないよ。
ジャラにはそこんところは分からない。
とりあえず、今朝もライブで未来の日常の情報、君に送るね。
(前回の記事まだの方はここから読んでくださいね)
未来からのブログ12号 クレージーじいちゃんは過去に戻れずに途方にくれたよ!
未来からのブログ13号 クレージー爺ちゃんが早朝の散歩してたら街が溶けはじめたよ!
「おはようジャラ! めちゃ腹減ったよ!」
しゃがれ声で目を覚ました僕の顔を、ベッドの上からクレージー爺ちゃんが覗き込んでいた。
「爺ちゃん、早すぎるよまだ朝の5時だ」
ジャラはそう言ったけど、爺ちゃんがお腹空いたワケ、思い出した。
昨日、100年前の過去からやって来た爺ちゃんのウエルカムパーティーで、好物の生牡蠣と肉の刺身一口ずつ食べた爺ちゃんは、それ以外なにも口にしてないんだ。
爺ちゃんの身体は僕らの世界の素粒子と真逆の素粒子でできあがってたんだよ。
この世界の食べ物を爺ちゃんの身体は受け付けなくて、吐きだしてしまったんだ。
100年の時空の旅をしてさ、100年の時差ぼけ食らってさ、ザ・レストランですっかり疲れ切った爺ちゃん、たまらず寝込んでしまったんだ。
で、そのあと、爺ちゃんのこれからとか、食事どうするかとかクラウドマスターとハル先生いれてみんなで話し合った。
結論はなーんにも出なかったよ。
食事についてだけだけど、素粒子変換した赤ワインは爺ちゃんも吸収できたんだから、固形物も素粒子変換できないか、宇宙センターで研究しておくってことで、昨日はお開きになった。
とりあえず、飲み水は素粒子変換ができて、夜の中に爺ちゃんのところに届いた。
飲み水がないと、爺ちゃんはワインしかなくてアルコール中毒になっちゃうよ。
目が覚めてしまったので、ジャラも起きることにした。
キッカのベッドのそばで、久しぶりに家に帰ってきたボブとクレアがちいさなベッドを二つ並べて、仲良く寝てた。
ジャラはとてもラッキーで、とても恵まれてると思う。
ジャラは身体を捨てる前に立派な子供を二人ももうけることができたんだからさ。
いままで内緒にしてたんだけど白状してしまうと、実は、クレアはジャラとキッカの子どもで、ボブはジャラとカーナの子供だ。
じつは僕たち五人家族なんだよ。
この熱波の中じゃ、普通、子供は生まれてこない。
子供ができない症状を「人類群崩壊症候群」というんだそうだ。
ジャラは気に入らないけど自然科学者のハル先生がつけた病名だから仕方がない。
昔、ミツバチが絶滅した「峰群崩壊症候群」にちなんでつけたんだそうだ。
いろんな原因が積もり積もって突然やって来る人口の崩壊現象だそうだ。
“でもジャラはキッカとカーナのおかげでこの症候群を乗り越えたのさ!”
キッカとカーナはジャラたちのような都会型チャラ族とはDNAの“できが違う”んだ。
アマゾンの森林が高温火災で焼け落ちたときも、熱波に対応して生き延びた原住民の末裔だものね。
早朝から目を覚ました爺ちゃんにそんな自慢話をしたら、爺ちゃん目の色変えて聞いてた。そりゃそうだ、過去からきた爺ちゃんがいちばん知りたかったテーマだ。
燃え上がった熱波から、生き延びる方法だよ。
「ジャラ、いまからこの街歩いてみたい。猛暑を生き抜いた人間の生活ってどんな具合か見てみたい」
腹ぺこで動けないはずの爺ちゃんがマジで言った。
でさ、ボブとクレアの面倒はキッカに任せて、ジャラと爺ちゃんは街を一周してから、宇宙センターのオフィスに向かうことにしたんだ。
早朝で温度の低いときなら、生身の爺ちゃんも街中を歩いて大丈夫だからね。
宇宙センターのオフィスというのは、ザ・カンパニーの最上階にある宇宙皇帝クラウドマスターとのミーティングルームのことさ。
オフィスに着いたら、反粒子のモーニング・セットなんかできあがってたりして・・・そしたら、爺ちゃん飛び上がって喜ぶんだけど・・・。
僕は冷房の効いたスーツマンを着て、爺ちゃんは白いブラウスと綿パンとスニーカーの軽装に、ジャラの愛用の日よけハットをかぶってさ・・
暑くなりはじめた古い街を二人で歩いた。
街に人影はなくて、古びた店はシャッターが下りたまま。オフィスビルには人が活動をはじめる気配がなかった。
「やけに静かだな!」
「ここ怠け者の多い街なんだよ。こんな早くから起きてんの爺ちゃんとジャラだけだよ」
無駄話をしながら、二人はオフィス街を抜けて低層の居住地区にはいった。
「ジャラ、この居住地区、どこにも人の住んでる気配がないな。朝メシの時間なのに、どこからも朝食の匂いが漂ってこないぞ」
爺ちゃんが不思議そうにまわりを見回して風の匂いをかいでた。
で、ジャラは爺ちゃんに内緒でスーツマンにメッセージを伝えたよ。
「ジャラの食いしんぼ爺ちゃんが、この街、朝メシの匂いがどこからもやってこないから、とても寂しいっていってるよ」
そしたらしばらくたって、すこし離れたマンションの二階の窓が開いて、男の顔が覗いた。
「やー、ジャラ、マックだ! 朝早くからどこへお出かけかな? そこのかっこいいスニーカーおじさんはだれかな?」
ジャラが二階の男に手を振って「やー、マック! 俺たち朝の散歩中さ。このスニーカーおじさん若く見えるけどさ、じつはジャラのおじいちゃんだ!」
「よおー、ジャラの爺ちゃんだって? おれマックだ。よろしくな。どうだ、散歩の途中に朝メシ一緒にどうだ?」
二階のマックが爺ちゃんに声かけて、よろこんだ爺ちゃんが下から答えた。
「うれしいけど遠慮しとくよ、マック。じつは遠くからきたもんで、水が合わなくて腹こわしてるんだ」
爺ちゃんがマックにウインクして、元気に歩き始めた。
そのうち立ち止まって呟いた。
「おかしいな、この街どこにもワンコもニャンコもいないぞ」
考え込んだ爺ちゃんを見つめて、ジャラが爺ちゃんに聞こえないように一人呟いた。
・・スーツマン、爺ちゃんのいまのセリフ聞こえた? 急いでクラウドマスターに伝えてよ・・
たちまち裏通りから三毛猫が走り出てきた。
ぶちのワンコが吠えながら猫の後を追いかけてきた。
二匹はあっという間に路地に消えた。
爺ちゃんは目を丸くして二匹の消えた暗い路地を見つめてた。
そしてぼそっと言った。
「どこか緑のあるところに行きたい」
それを聞いたジャラは、すこし離れたところにあるちいさな公園に爺ちゃんを連れて行ったんだ。
公園のまわりの生け垣には低木がびっしり植わっていて、真ん中の花壇には暑さに強い黄色い花が咲きこぼれていた。
黄色い花には白いチョウチョウが遊んで、生け垣からはチッチッと鳥のさえずる声が聞こえた。
爺ちゃんはベンチに座って、足元の地面から湿った黒い土をすこし手に取った。
両手で土をこすると、黒い土は色が赤く変わり、ぱさぱさと宙に舞って消えた。
爺ちゃんの顔つきが厳しくなった。
「ジャラ、気休めはいらない。真実を見せてくれ」
かすれた声がそういったんだ。
「分かってたんだね。どうやって見破ったの?」
そう言ってジャラも爺ちゃんと並んで、ベンチに座った。
「朝メシ誘った男の名前がよくある“マック”だろ。
猫は三毛猫で犬はブチときた。
夏の公園は黄色いひまわりに白いチョウチョウときた。
連想が教科書通りだ。
知能指数は計測不可能だが意外性はゼロなキャラ。
シンギュラリティー1号の仕業だと見破ったんだ」
クレージーじいちゃんが素っ気なくいったので、ジャラはあわててセンターに伝えたよ。
「 クラウドマスター! ジャラの爺ちゃんが言ってる。気休めはいらないから、幻影じゃなくって真実を見せてくれって!」
ひとときが経って、二人のまわりの世界が溶けはじめた。
足元の黒かった地面が赤く変色して、ひび割れが走った。
ひまわりの花壇は溶けて消えた。
眼の前には雑草が数本しがみついたような、枯れた空き地がひろがっていた。
「ワーオ!」
爺ちゃんがわめいた。
目の前にひろがるオフィス街のビルが、ゆっくりと崩壊していった。
薄い煙の中から現れたのは、人気のない灰色のゴーストタウンだった。
目をむいた爺ちゃんがベンチからよろよろと立ち上がった。
「これはひどい! 廃墟だ!」
ジャラも立ち上がって、爺ちゃんにしがみついた。
「爺ちゃんには見せたくなかったんだ。でもこれが僕らの現実だよ」
いまにも泣き出しそうなジャラを爺ちゃんがしっかり抱きしめた。
「泣くなジャラ! 元気出せ!」
爺ちゃん、怖い顔してジャラにいった。
「ジャラ、正直に答えてくれ! 仲間はどこにいる」
ジャラはすぐには答えられずに爺ちゃんの顔を見つめた。
「この町のコロニーにいる人間は僕の家族と仲間だけだよ」
「ジャラの家族と仲間というのはだれとだれのことを言ってる?」
「ジャラの家族と、タカさんとチョキのペアーだよ」
「わずか7人じゃないか。他のコロニーはどこにある?」
「成人を含んだコロニーはここ以外、他にはないよ。“人類群崩壊症候群”のラスト・ステージで、世界から助けられてきた子供たちがドリームワールドで生活している。クレアとボブをいれてぜんぶで20人だよ。人類の希望の星のすべてだよ」
「ちょっと待て。そんなはずがない。爺ちゃんがボブに呼び出されてドリームワールドの教室とつながったとき、教室に子供たち少なくても200人はいたぞ」
「爺ちゃん、ボブたち以外の180人は幻影だよ。生徒は多い方が、刺激し合って、成長するってさ。ハル先生の授業のバーチャル友達さ。さっきのマンションの二階の男と同じだよ」
爺ちゃんが近づいて来てジャラのほっぺたを思い切りつねった。
「痛っ! 僕のほっぺた人工だけど神経通ってるんだよ」
「ジャラは本物だ、安心したよ」
クレージー爺ちゃんが、そう言ってジャラを引き寄せて力一杯抱きしめた。
それから、泣き出した。
爺ちゃんの身体が暖かかった。
ジャラも安心して、思い切り声を上げて泣いてしまった。
ママが亡くなって一人で泣いたとき以来のことだよ。
公園に降り注ぐ朝の日差しが厳しくなってきた。
“ジャラジャラ”
突然スーツマンがメッセージを届けてくれた。
「爺ちゃん、ハル先生からメッセージが届いた。爺ちゃんのブレックファーストができたそうだ。大したもんじゃないけど、暖かいうちに食べてほしいから至急ミーティングルームに来てくれっていってる」
でさ、爺ちゃんとジャラはザ・カンパニーへ全力で走ったってわけ。
もちろん爺ちゃんは僕の背中に乗っかってた。
「朝メシだ。ヤッホー!」
爺ちゃん、街中に聞こえるような大声上げたよ。
その声、街にはだれも聞く人いないんだけどさ。
(続く)
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未来からのブログ14号 「おれ紐になる!未来の情報持って明日の朝、過去に帰る」爺ちゃんが叫んだ!
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下條 俊隆

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