「ワケあって僕たちまもなく絶滅します②」チンパンジー、チーター、カバ、ホッキョクグマ、パンダはいま地球に何頭いますか?

いま、多くの野生の哺乳類が絶滅の危機に瀕しています。

世界自然保護基金WWFの「リビング・プラネット・レポート2022」によれば1970年以降、野生動物の個体数は69%激減したという報告です。

2年前の同レポートでは推計で6割近くが減少となっていますので、直近の2年間でさらに1割程度減ったという恐ろしい結果になります。

その主な原因は、生息域の浸食、狩猟と取引、環境汚染や地球温暖化による気候変動など人間の経済活動によるものとみられています。

このブログの前号は、子供たちの大好きな野生のライオンやトラ、象やキリンやゴリラについてルポしました。すべての種が絶滅の危機にあることに筆者も驚きました。

他の野生動物はどうなっているのか心配になって、今回は子供たちの大好きな野生の動物からチンパンジー、チーター、カバ、ホッキョクグマ、パンダの5種に焦点をあてて調べてみました。

 

1. チンパンジー 絶滅危惧種

昼間はほとんど樹上で寝ているチンパンジー 引用:WWF
昼間はほとんど樹上で寝ているチンパンジー 引用:WWF

 

 

 

 

 

 

 

「天才!志村動物園」で人気タレントとなったパンくん。いつもの“お使い”の行き帰りに2足歩行するので、チンパンジーは2本足で歩く可愛いイメージが強いですが、野生のチンパンジーが普段過ごしている樹木から下りて地面を歩くときは、危険を避けて素早く動ける四つん這いで移動します。

 

チンパンジーは、中央アフリカや西アフリカの森林や草原で暮らしています。チンパンジーの個体数は生息地のアフリカ全土でわずか17万頭から30万頭です。絶滅が心配される3段階評価の中、最も危険な領域にある絶滅危惧種に指定されています。

 

類人猿に属するチンパンジーは人間と最も近い動物で、遺伝子配列の98%以上が同じとされています。共通の祖先から枝分かれした古い仲間であるにもかかわらず、チンパンジーを絶滅に追い込んだのは実は人間です。

 

WWFによれば、その原因は主に次の3つです。

1.人間による森林の伐採、農耕地や鉱物資源の採掘による生活圏の浸食

2.趣味・習慣としてのブッシュミート(野生動物から得る食肉)

3.ペットとしてチンパンジーの赤ちゃんを密売

など、主犯は人間とされています。

チンパンジーの未来を安全にできるかどうかは、私たち人間次第ということですね。

 

2.チーター 絶滅危急種

チーターの親子  引用:BBCニュース

 

 

 

 

 

 

美しい姿で草原を疾走するチーター! チーターは走り始めてから3秒で最高速度に達します。最高速度は時速約120キロと、スポーツカークラスの性能です。

地上で最速の哺乳類であるチーターの数が激減しています。2016年・PNAS(米国科学アカデミー紀要)に複数の科学者達が寄稿した論文によれば、チーターの総個体数はわずか7,100頭です。

チーターの生息地はアフリカの南部とアジアの一部で、過去の分布地域のわずか9%になってしまったそうです。アジアではイランだけで生き残っていて、集団の個体数は13頭と推定されています。

 

PNASによれば、チーターは人間と接触するようになってから本来の行動圏・生活圏の91%を失ったとされています。

 

チーターの生息圏の推移 引用:PNAS

 

画像はチーターの生息圏の推移を示しています。Aがアフリカ、Bがアジアです。灰色の網掛けは過去に生息していた範囲で、赤い網掛けは現在の生息推定範囲を示しています。失われた生活圏の大きさが一目で分かります。

 

青色マークはIUCNの保護区域(PA)の境界を示したものです。筆者の目で見ても、保護区域と実際の生息が確認されている赤色との分布のズレが目立ちます。生息地が保護区域からはみ出したところに点在しているのがみてとれます。

 

肉食動物であるチーターの生活圏は広範囲に及び、野生保護区の圏外に及んでいます。しかし、保護区の圏外は農地に開拓され、餌とする動物も人間の食料として狩られているのでチーターの食料が少なくなり、チーターは飢えに苦しんでいるのが現状です。

 

論文は、保護区域を設立して維持することは「生物多様性保全のための重要な施策だが、チーターのような広範囲でまばらに暮らす種には不十分」と指摘しています。アフリカに生息するチーターの分類は現在「絶滅危急」となっているので、論文は「絶滅危惧種」に引き上げる必要があると指摘しています。

一方、イランだけに生息するアジアのチーターは絶滅危惧種に指定されていますが、わずか13頭では絶滅寸前と言うべきでしょう。

 

また、BBCの報道によると、子どものチーターは湾岸諸国で富裕層にペットとして人気があり、捕獲されて高値で密売されていることも個体数激減の原因だと言っています。

 

近い将来、チーターが草原を走る姿が見られなくならないかとても心配です。

 

3.カバ 絶滅危急種

引用:WWFジャパン

 

 

 

 

 

 

カバは国際自然保護連合IUCNのレッドリストで絶滅危急種に分類されています。サハラ砂漠以南のフリカ大陸に生息し、IUCNの推定で個体数はわずか11万5000から13万頭です。

 

1.5トンのでっかい身体に短い足、大口あけて欠伸をするカバは愛嬌があって、動物園でも子どもの人気者。陸上動物では象やシロサイに続く大型哺乳類です。

野生のカバは陽射しの強い日中は水中で過ごし、夜になると水辺から陸に上がって草などを食べます。皮膚が常に濡れていることが必要で、生きていくためには水と陸という両方の自然環境が必要な動物です。

 

一方、近くに水がある陸地は農地や家畜の放牧地として開発され、カバの生育地が失われています。縄張り意識の強いカバが侵入してきた人を攻撃する事故が多発し、逆に銃で駆除されることが多くなったのです。気候変動によると思われる干ばつが方々で増えたこともカバにとっては致命的です。

 

内戦や紛争地帯では治安の悪化や貧困から、食肉用や、象牙の代替品とされる牙を狙われて殺される密漁が激増しています。一方、政情が安定した国では保護区や密漁対策が行われ、個体数が回復している傾向も見られます。

 

WWFは絶滅危急種であるカバを守るためには貧困や、紛争に悩む地域に対する世界の支援が必要だとしています。

 

【カバの特技を3つご紹介】

1. オスは縄張り意識が強くて乱暴者。近づいた見学ツアーの観光船に体当たりしたことがあります。

2.水中で眠ることができます。水中でもいびきをかいているのでしょうか?

3.体重が重すぎて泳ぐことが苦手です。水の中では実は、足で地面をけって歩いています。呼吸をするときには地面を強くけって顔を水面に出します。

 

4.ホッキョクグマ 絶滅危惧種

北極の海氷は厚さと範囲の両方で減少  引用:BBC NEWS
北極の海氷は厚さと範囲の両方で減少 引用:BBC NEWS

 

夏の動物園で、プレゼントされた氷と戯れるホッキョクグマ(シロクマ)は、子供たちの人気者です。

肉食動物で最強のホッキョクグマですが、現在の総個体数はわずか26,000頭です。国際自然保護連合ICUNは絶滅危惧種に指定しています。北極圏で暮らす野生のホッキョクグマは、地球温暖化の影響で氷が溶けために、活動の範囲が狭くなってアザラシなどの餌が取れなくなり、絶滅の恐れがあるとしています。

 

北極圏の氷は地球の他の地域と比べて2倍以上の速さで温暖化が進んでいます。アラスカやカナダ北西部の平均気温は過去50年間で3~4度上昇しました。氷は太陽の光を大量に反射しますが、色の濃い海水は太陽熱を吸収しやすいので、さらに氷の溶解が進んでしまいます。フィードバックループと呼ばれる悪循環が起こっているのです。

アメリカのGFDL(地理的流体動力研究所)によれば、このまま地球温暖化が進むと2050年には夏に溶ける氷の量が増えて、北極圏では5か月もの間溶けたままの状態が続く恐れがあるとの試算も。

ホッキョクグマは、獲物の少ない夏に生命が維持できるように、春に獲物を大量に捕らえて体脂肪を蓄える必要があります。氷が溶け出すのが早くなれば陸地に移動する時期が早まり、体脂肪を蓄える狩りの時間が少なくなります。

学術誌「Nature Climate Change」に発表された研究では、コグマが生まれても子育てに必要な母熊の母乳が薄くなり、生き残るコグマの数が減っているそうです。

 

また、地球温暖化の影響で、近年、北極圏の永久凍土が溶け出して植物や動物の遺骸からCO2やメタンという温暖効果ガスが放出されています。その結果、温暖化が加速されるという悪循環が指摘されています。ホッキョクのシロクマを守ることは、温暖化から地球環境を守ることと直結しているのです。

 

筆者は20年前にアラスカの北端バローに行って永久凍土の上を歩いた経験があります。原住民のイヌイットの人達の住居は高床式の二階建てで、3階くらいの高さがありました。屋根の上には狩猟で獲ったアザラシの肉が干してありました。聞いてみると、シロクマに獲られないように高いところで干し肉にするのだそうです。

 

バローで野生のシロクマを観察する機会はなかったのですが、アラスカのホテルのロビーで剥製の巨大シロクマがいまにも襲いかからんばかりに展示されていました。その大きさと迫力に圧倒されたことを鮮明に覚えています。

 

いま、バローのホッキョクグマたちは、どのようにして餌をとってコグマを育てているのか心配になります。

 

5.パンダ

動物園で子供たちの圧倒的な人気者のジャイアントパンダとレッサーパンダ。ともに哺乳類の食肉目ですが、ジャイアントパンダはクマ科に属し、レッサーパンダは独自のレッサーパンダ科に分類されています。

ジャイアントパンダはクマの一族で、レッサーパンダはスカンクやアライグマ、イタチに近い別の動物です。ともに「パンダ」と呼ばれるのは、笹を食べることが理由です。レッサーパンダが始めてネパールで発見されたときに、現地の言葉で「nigalya ponya」(「竹を食べる」の意味)でポーニャと呼ばれたことが発祥です。

後にジャイアントパンダが発見されたときに同じく竹を食べるので、大きなパンダ「ジャイアントパンダ」と名づけられ、従来のパンダは小さなパンダ「レッサーパンダ」と呼ばれたのです。

二つのパンダの共通点は、とても可愛いこと、竹を食べること、そして絶滅が心配されていることです。

レッサーパンダ 絶滅危惧種

Red panda 引用:WWF
Red panda 引用:WWF

 

レッサーパンダは体毛の多くの部分が赤茶色をしているのでレッドパンダとも呼ばれています。国際自然保護連合IUCNのレッドリストで最も危険水域にある絶滅危惧(EW)に指定されています。

 

中国南部、インド北東部、ネパール、ミャンマー、チベットの温帯森林に生息していますが、生息地の50%はヒマラヤの東部です。森林の多くが伐採されて、生息地のほとんで個体数が減少しているそうです。

 

WWFによれば、総個体数は10,000頭を下回ると報告されています。レッサーパンダは野生のブタやシカなどを狙う罠にかかって命を落とすことがよくあるそうです。毛皮が目的で密漁されて、中国やミャンマーで売られているのがみつかっているとのことです。

 

ジャイアントパンダ 絶滅危急種

野生のジャイアントパンダ  引用:WWF

 

 

 

 

 

ジャイアントパンダは世界自然保護基金WWFのシンボルキャラクターです。

ジャイアントパンダ(以下パンダ)は国際自然保護連合IUCNの2021年レッドリストで「絶滅危急(VU)」に指定されています。近年はWWFと中国当局との共同作業で保護活動が進み、野生の個体数が増加傾向にあるとみられています。

しかし、WWFによれば野生の個体数は最大でもわずか1,000頭(成獣のみ)で、絶滅の危機は今なお続いているとのことです。

野生のパンダは食物の99%を数種類のタケに依存している草食動物で、タケの群生する奥深い山地の森でしか生きられません。環境の変化でタケがなくなると絶滅の危機が襲います。絶滅が懸念される理由は、長年の開発による山林の喪失と地球温暖化による生息環境の変化です。

気温や気候の変化で生育や発芽ができなくなるタケが出てくる可能性も指摘されています。野生以外に世界の動物園で飼育されている総数は700頭近いとのことです。

 

昔、東京の上野動物園のパンダが妊娠したときに、パンダ基金を集めるために、ある関西の企業に生まれたパンダのスポンサーになる内諾を取り付けて、園長さんにその話を持ち込んだら快諾をしてもらったことがあります。

スポンサーになる企業は、人気者のパンダの応援団としてPRできると喜んでおられたのですが、ある日園長さんから筆者に電話がかかってきて、「残念ですが、パンダの赤ちゃんを流産してしまいました」とのことで、THE ENDになりました。

 

実は、たとえ生まれたとしても生まれたてのパンダの赤ちゃんは85~140gと、とても小さくて自分で動けない赤ちゃんを母親が舌でやさしく拾いあげるのだそうです。生後約2か月間は目が見えないので、自力で動くことができません。母親の体温と母乳が命綱で、母親に守ってもらはないと生きていけないのです。ママパンダも大変です。

 

パンダは育てるのが難しい動物です。野生のパンダがいなくなったときのためにも動物園や保護区で少しでも個体数を増やしておいて欲しいですね。

 

(おわり)

関連記事もお読みくださいね。

「ワケあって僕たち間もなく絶滅します」ライオン・トラ・象・キリン・ゴリラはいま地球に何頭いますか?

 

クイズ!地球の哺乳類を4つに分類「人類、野生の哺乳類、ペット、家畜」個体数の多い順番は?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

永久凍土の溶解が地球の温暖化を加速!消えていく永久凍土を復活させるマンモス草原計画とは?

アラスカ・バロー 永久凍土の融解
NHK/BS 世界のドキュメンタリー

 

 

 

 

 

 

 

 

いま、北極圏の永久凍土が地球温暖化の影響で溶け始めています。

温暖化が進んで、永久凍土の中に閉じ込められていた動植物の遺骸(有機物)からCO2やメタンガスが大気中に放出され、さらに温暖化を加速させるという悪循環が起こっているのです。

“地球は大丈夫?”シリーズの今回は、永久凍土溶解の現状と永久凍土を復活させる「マンモス草原計画」について、ロイターやネイチャーの記事、公式機関の発表などを中心に追跡・ルポしてまいります。

 

止まらない悪循環?永久凍土の溶解が地球温暖化を加速!

 

永久凍土分布の予想図
永久凍土予測分布図 引用:イベルドローラ

 

 

 

 

 

 

 

 

この図は、永久凍土が変化していく予測図です。濃い茶色が2050年までに消滅する地域。薄い茶色が2100年までに消滅する地域。黄色は2100年に永久凍土が残っている地域です。

スペインに本拠を置く多国籍電力公益企業・イベルドローラが米国立NSDC(National Snow and Iice Data Center)のデータから作成した予測図です。

この図を見ると、2100年までに永久凍土の半分近くが消滅するという予測になっています。いい代えれば、永久凍土の半分の領域から温暖効果ガスが放出されることになります。

ロシアの生態科学者セルゲイ・シモフ氏によれば、永久凍土の溶解によるCO2の排出量は、人間が排出するCO2の総量と同等程度だが、メタンの温室効果はCO2の80倍強力で、CO2による影響の4倍になる可能性があるそうです。

私たち人類が努力して2050年までに温暖効果ガスの排出量が、現在目指しているカーボンニュートラルの目標値に達したとしても、永久凍土の溶解が続けば温暖化を食い止めることはできないという恐ろしい結論になってしまいます。

シモフ氏や永久凍土の研究者は、永久凍土の融解が気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の予測に正しく反映されていないのではないかと言っています。シモフ氏は、コロナ渦による経済の沈静化のなかでも大気中のメタンが増えた原因は永久凍土の溶解が原因だ、としています。

 

既に、永久凍土の溶解はティツピングポイント(戻れない地点)を通過したのでないかという科学者のコメントも聞かれます。セルゲイ・シモフ氏も、この自然現象は人間の手におえないかもしれないと危惧する科学者の一人です。

 

シモフ氏は、人間の手に負えないのであれば、動物の手を借りることができれば、溶解を止めることができるかもしれないと考えつきます。シモフ氏は、シベリヤの永久凍土で実験を始めました。

実験を行うエリアは「更新生パーク」と名付けられました。氷河期の更新世(こうしんせい)の時代に永久凍土を作り続けた「マンモス草原(ステップ)」を、現代に復活させようという壮大な計画です。

実験は現在も続いています。果たしてマンモス草原は復活するのでしょうか? 

 

そもそも、永久凍土とは何者なのでしょう?

 

永久凍土とはいったい何者なのか? 

 

現れた永久凍土の断面
引用:国連ニュース

 

 

 

 

 

 

 

永久凍土とはいったい何者なのでしょうか?

永久凍土は主にカナダ、アラスカ、シベリアなどの北極圏の周囲に広がる土壌で、北半球の陸地の25%という広大な領域を占めています。

永久凍土は、数千年から数万年にわたって、枯れた植物や死んだ動物をその中に閉じ込めることで、有機物からCO2やメタンの放出を封じ込める地球の炭素保管庫としての役目を果たしてきました。

温暖化で永久凍土が溶けると、大量のCO2や高濃度のメタンが放出されて、地球温暖化を加速させることになります。温度が上昇するとさらに永久凍土の凍解が進み温暖化が加速するフィードバックサイクルが心配です。

 

筆者は、20年前にアラスカの北端、北極圏のバローへ行って永久凍土の上を歩いてきました。低い草が密集してふかふかの絨毯の上を歩いているみたいで、踏みごたえがない不思議な感覚が鮮明に記憶に残っています。

北極海に面して、ところどころに小さな水たまりや湿原がある永久凍土が広がっていたのを思い出します。イヌイットの人たちの住居は高下駄式で、食料のアザラシの肉を北極クマに取られないように屋根の上に干していましたよ。

いま、バローの永久凍土が溶けだして、小さな池からメタンがブクブクと吹きだしているそうです。20年前にはみられなかった光景です。火種があると爆発する危険なゾーンになっています。

噴き出すメタン。引用:NHK BS 世界のドキュメンタリー

 

 

 

 

 

 

 

住居の下の永久凍土が溶けると、住居は傾き、倒壊する恐れがあります。住居をいつでも安全な地形に移動できるように、イヌイットの人達は、移動式住居に切り替えているとの報道もみられます。

 

北極周辺の永久凍土には、地球上のすべての植物に含まれる有機物の2倍以上の量の有機物が含まれていると報告されています。永久凍土が貯蔵する有機物の炭素は主にメタンと二酸化炭素です。その量は地球の大気圏にある炭素のおよそ2倍に達するそうです。

前掲のロシアの地球物理学者で生態科学者でもあるセルゲイ・ジモフ氏は、ユネスコの記者のインタビューに答えて・・・「永久凍土では有機物のほとんどが上層部の3mに集中していて、その3mが溶けるのにわずか3年から5年しかかからない」と言っています。

このことが、永久凍土の融解が地球気候に対する直接の脅威である理由だとしています。融解が温室効果ガスを発生し、その結果としての地球温暖化が永久凍土の融解を加速させる。「この循環するプロセスを止めるのは非常に困難です」とジモフ氏は答えています。

永久凍土から放出されるメタンはCO2よりはるかに危険です。「CO2だけなら、人間が排出する量と同程度だが、ガスの10%から20%はメタンだ。メタンの温室効果は短期間ではCO2の80倍強力で、その影響はCO2より最大4倍も大きくなる」とのことです。

・・・

温暖化への影響も深刻ですが、永久凍土の溶解で起こる脅威は、温暖化の悪循環だけでは無いと報告されています。

警告! 永久凍土の溶解で起こる脅威は温暖化だけではない?

 

2万4000年前の永久凍土で眠っていた微生物が復活…解凍後に餌を食べ繁殖も  引用:ビジネスインサイダー

 

 

 

 

 

 

 

永久凍土の溶解で起こる脅威は、温暖効果ガスの放出にとどまらないと言われています。溶解によるそのほかの脅威についての科学者からの警告は主に次の3つです。

警告1 ウイルスや細菌の放出

2016年12月、シベリアのツンドラでトナカイの死骸が発見されました。死骸から伝染したとみられる炭疽菌によって少年が死亡し、数十人が入院。調査の結果、病原体として古代の微生物が発見されたのです。

永久凍土の溶解で70年前に埋まっていたトナカイから炭素菌が生き返り、トナカイの群のあいだで広まったことになります。科学者は、永久凍土が溶解すると、腺ペストや天然痘など古代の病原体が放出される危険性があると警告を発しています。

警告2 生態系への影響

シベリアの永久凍土が溶けてツンドラの土地に泥だらけの風景が広がり、植物相が消滅しています。そのため、植物を餌にしている野生動物が餓死しているのです。湖などの下の永久凍土が溶けると、水が地面に浸透して消滅し、干ばつを引き起こします。

北極圏では、栄養失調のシロクマの映像が記憶に残っていますが、IPCC/海洋と雪氷圏に関する特別報告書の極地章の主執筆者であり、WWFの北極プログラム保全責任者であるマーティン・ゾンマーコーン博士によりますと、北極圏の動物の生息地と生活条件が劇的に変化しつつあるとのことです。

警告3  地滑りと地質事故

永久凍土の上に建設された都市では、地滑りが発生しています。国土の60%以上が永久凍土のロシアでは深刻な問題です。永久凍土の上に作られた最大の都市、ヤクーツクで土地の崩壊が起こっているそうです。

カナダの北極圏、永久凍土の上に作られたイヌイットの村では、地面が家の下に陥没してしまい、安全な内陸部への移動が始まっています。

 

永久凍土の溶解を防ぐいい手立てはないのでしょうか? 

次章では、シベリヤで永久凍土の溶解を食い止めるべく、氷河時代に隆盛を誇ったマンモス草原の復活にかける科学者親子の奮闘をルポします。

 

永久凍土の融解を止めるマンモス草原の復活とは?

 

氷河期におけるマンモス草原https://pleistocenepark.ru/science/

 

 

 

 

 

 

ネイチャー誌によれば、セルゲイ・ジモフ氏は1988年にシベリアの北東部コリマ川流域に哺乳類を再導入する実験を始め、息子のニキータ氏とともに1996年に更新生公園を作りました。氷河期である更新世後期にユーラシアで優勢だったマンモス草原(ステップ)に匹敵する生態系を復元することが目的でした。

マンモス草原とは、1万年~10万年前の氷河期にあった豊かな生態系を育んだ草原のことです。草原を維持するためには草食性のマンモスや大型草食動物の役割が欠かせなかったのではないかとジモフ氏は考えました。

大きな身体で木を倒して葉や果物を食べ、土を掘り返して根を食べ、排泄物で栄養を与え、草の生長を促したのだと。大事なことは、重い足で雪と氷の大地を踏みしめ、北極圏の冷たい空気を永久凍土の奥深くまで送り込んで凍らせていたのだろうと推測したことでした。

シベリアの永久凍土の溶解によるメタンとCO2の放出に警告を発してきたジモフ氏は、大型の草食動物を導入して豊かなマンモス草原を作ることが、永久凍土を硬く凍らせて炭素を地中にとどめることにつながると思いついたのです。

そのことを検証するために、ジモフ氏と息子のニキータ氏はチェルスキーに近いツンドラの土地にフェンスで囲った「更新世パーク」を開設。シカ、バイソン、トナカイ、フタコブラクダなど大型の草食動物を200頭放牧しました。

 

更新世パーク  引用:ネイチャー日本版

 

 

 

 

 

 

 

更新世パークでは、他の地域に比べて永久凍土の温度が下がっていると二人が言っています。2021年11月8日のロイターによれば、ネイチャーが発行する「サイエンティフィック・リポーツ」誌に掲載された二人の共著の論文は・・・

「更新世パークに導入された動物により、平均的な積雪の深さは半分になり、地中温度は年間平均で1.9度低下した。冬と春には下げ幅がさらに大きくなる」と発表しています。(*積雪には保温効果があり、雪の下では摂氏0度より温度がさがらない)

永久凍土の北極圏の温度が上昇している中で、更新世パークは年間平均で1.9度低下していると言うことは驚異と言うべきでしょう。

 

更新世パークで実現したマンモス草原計画という手法は、地球規模のモデルで実現可能なのでしょうか? 論文では、更新世パークの動物の生育密度「1平方キロメートルあたり114個体」は北極圏全体の規模でも実現可能であるとしています。

「地球規模のモデルでは大型草食動物をツンドラ地帯に導入することで北極圏の永久凍土の37%で融解を防止できることが示唆されている」と結んでいます。

息子のニキータ氏は、地球温暖化に対して単一の解決策は存在しないと語っています。「こうした生態系が温暖化対策に役立つことを証明しようと努力している。でももちろん、私たちの取り組みだけで十分というわけではない」と。

 

マンモスを復活させてマンモス草原へ放牧する計画が秘かに進行中!

 

未来をみつめるセルゲイ・ジモフ氏
更新世パークの未来を見つめるセルゲイ・ジモフ氏    引用:ロイター

 

 

 

 

 

 

 

2021年9月13日、米ハーバード大学の遺伝学者ジョージ・チャーチ氏は、起業家ベン・ラム氏とともに「コロッサル」というスタートアップ企業を立ち上げました。目的は、永久凍土から出土したケナガマンモスのDNAを使って、寒冷地に強いアジア象との間にハイブリッド象を作り出すことでした。

チャーチ氏は、セルゲイ・ジモフ氏とナショナルジオグラフィック教会本部で開かれた世界初の「脱絶滅に関する会議」で出会い、更新世パークについて話し合います。二人はもしハイブリッド象が誕生したら更新世パークで何頭かを放牧するという約束をしたのです。(日経ネイチャー日本版より)

倫理上の問題、動物相への影響、北方先住民族への影響、など検討すべき事は山ほどあるとされていますが、ロシアによるウクライナへの侵攻が長期化する中、米・露の民間人主導による地球温暖化対策への壮大なロマンとして注目されます。

 

~地球ぐるみでの壮大なマンモスパークへの取り組みが始まるといいですね~

 

(おわり)

 

主な参考・引用資料

「永久凍土の溶解」イベルドローラ(多国籍電力公益企業)

https://www.iberdrola.com/sustainability/what-is-permafrost

 

地球環境研究センターニュース
https://www.cger.nies.go.jp/cgernews/201811/335001.html

 

国連ニュース
https://news.un.org/en/story/2022/01/1110722

 

ユネスコの記者による特別インタビュー
セルゲイ・ジモフ氏

https://en.unesco.org/courier/2022-1/sergey-zimov-thawing-permafrost-direct-threat-climate

 

マンモス草原画像

マンモス草原の復活を目指す:更新世公園とは
https://pleistocenepark.ru/science/

 

日経 ネイチャー日本版より

マンモス復活計画が始動 気候変動対策の切り札?
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC2167U0R20C21A9000000/

 

フォトログ:永久凍土融解を防げ、科学者父子の「氷河期」計画
ロイター編集

https://jp.reuters.com/article/climate-un-russia-permafrost-idJPKBN2HT0C3