この世の果ての中学校 2章「リアルの世界は一度逝ったら戻れない(前編)」

筒井俊隆のSFファンタジー

 の~んびりした人類絶滅小説です。

 今回は、地球に生き残った六人の子供達が、2016年の東京にタイムスリップします。

 そこで生徒たちは中学生の頃のカレル先生と美人のハル先生に出会います。

 仲の良い二人は、若く優秀な研究者として、世界の行く末に暗い予感を抱いていました。

 これまでの話は下の二つをご覧ください。

この世の果ての中学校 プロローグ「ついにあいつがやって来た」

この世の果ての中学校 一章 ハッピーフライデー「ペトロの誕生日」

2章「リアルの世界は一度逝ったら戻れない(前編)」

「今日は初めてのタイムトラベルだ! いまから一泊二日で2016年の東京視察に出かける」 

 金曜日の朝、愛用のハットを斜めに被ったカレル先生が、六人の生徒を教室に集めて宣言した。

「ヤッター!」

 女生徒が歓声を上げ、男子生徒は床を踏みならして、うおーっ!と吠えた。

「都心は繁華街や工事中が多くて危険だから、直接、目的の宿泊地に向かうことにする」

「先生宿泊はホテルでしょうか?」

 エーヴァが目を輝かせて聞いた。

「残念だが、今夜の宿泊先は先生の実家だ。先生が子供の頃暮らしていた家だよ」

 カレル先生の目が、昔を思い出して潤んできた。

・・実は先生は今晩、家族と会って大事な話をしなければならないんだ。

 あの世界の家族の未来に関わる大事な話だ。

 でも、君たちは遠慮無く騒いで楽しく過ごして欲しい。

 それから明日は山登りと、自然観察、目的のネイチャー・アドベンチャーだ・・

 ちょっと落ち込んだ生徒六人の視線が生徒会長の裕大に集まった。

 裕大が手を上げてみんなの気持ちを代弁した。

「カレル先生、お願いがあります。今日はみんなのハッピー・フライデーだから、僕たちの希望を言ってもいいですか?」
 
「おっと、失礼した。ハッピー・フライデーを忘れてた。みんなの希望を聞かせてくれ」

「フルーツの入ったケーキ食べたい!」マリエとペトロが叫んだ。

「繁華街で遊びたい!」エーヴァと匠が続いた。

「ショッピングしたい!」咲良と裕大が追加した。

 ここドームの中の世界には豊かな山も、緑も、繁華街も、買い物のできるショップも、フレッシュな果物も無かった。

 あるのは厳しい現実と幻想の世界だけ。

 カレル先生は、何でも手の届いた自分の子供の頃を思いだして、生徒たちの声に、思わず胸が痛んだ。

「わかった! それじゃプログラムを追加しよう。まず都心の繁華街に潜り込んでぶらぶらしよう。途中どこかでケーキとお茶をする。

・・それから郊外にある先生の実家を目指す。これでどうだ?」

 大騒ぎを始めた生徒たちにストップをかけて、カレル先生が旅の注意をした。

「その代わり約束を三つ守って欲しい。

一つ、未来から来たことは決して誰にも話さない。もちろん先生の家族は別だ。

二つ、争い事は起こすな。匠、誰にも手を出すな。ペトロ、口喧嘩もだめだ。

三つ、お土産は持ち帰るな。咲良、買い物は我慢しよう。以上だ」

 ・・ということで計画変更です。

そこんところをなんとかお願いしますよ・・。 

カレル先生は誰かにスマホで変更を伝え、了承を取りつけたようだ。
 

「交渉成功!」

 先生が、愛用のハットを脱いで空中で一振りすると、教壇の電子ボードに21世紀の世界地図が浮かび上がった。

 ゆっくりと地図がズーム・アップしてきて、一番大きな大陸の南側に、小さな四つの島が輪郭を表すと、その真ん中を先生が指さした。

「目的地はここだ! 日本の首都、東京の都心の繁華街を目指す。

世界で最も刺激的で、ビジーな場所の一つだ。

今からタイム・トラベル・スオッチを配る。

何があってもこれだけは無くさないように、しっかり腕にはめてロックしろ。

失うと時空を彷徨って、二度と帰れなくなるぞ」

 全員が時計の文字盤を2016年5月7日10時00分に合わせた。

「GO!」

 カレル先生の合図で生徒たちがスオッチを稼働させた。

 教室は一瞬にして銀色に輝き、白く薄い闇に吸い込まれた。

 世界はゆっくりと回転を始め、時空の揺らめきに翻弄された生徒たちが上げる悲鳴と共に、はるかな過去に向かって巻き戻されていった。 

 闇を漂う生徒たちの目の前に、薄い幕一枚を隔てて、ビルに囲まれた繁華街が迫ってきた。道路は行き交う車と、人混みでごった返している。

「僕の動きをよく見ておいてくれよ」

   カレル先生は薄膜をするりと通り抜けて、道路の人混みの中に入り込んで行った。

 道路を歩く人たちは、目の前に先生が現れても、驚いて立ち止まって一言文句を言うだけで、すぐに歩き始めた。

 人混みを避けて、ビルの片隅に身体を移した先生が「ここへ飛びこんで来い!」と生徒たちに合図をした。

 一番にマリエが白く薄い膜を通り抜けて、カレル先生の胸の中に飛びこんでいった。 

 未来からの訪問者、六人の中学生と一人の先生がオリンピックを控えた東京の雑踏の中に紛れ込んでいった。

「車と人にはぶつからないように、気をつけた方がいいよ。ここではどんなことも一度やってしまうとやり直しが効かないらしいよ」

 リアルの王の息子、裕大が咲良にそっと囁いた。

「えっ! ここには現実しかないの? なんてさみしいとこなの」

 ファンタジーアの王女、咲良がぶるっと身体を震わせて、思わず裕大の手を掴んだ。

 幻想の世界、咲良が暮らしていたファンタジーアでは一度や二度はやり直しが効いた。

「いまの、やり直しよ」王女が命令すれば現実は元に戻せる。

 それにここは人が多すぎる。

 人いきれで眩暈を起こしそうになる。

 咲良が、地下鉄の駅から階段を駆け上がってきた若い女性をよけきれずに、ぶつかってしまった。 

 咲良が謝って、話しかけようとしたら、その女性は咲良をじろりと見て、一言も言わずに立ち去ってしまった。

 咲良はその態度にコチンときた。

 今度はタクシーの乗り場に向って、スマホを見ながら早足で歩いてきた背広姿の男の人に身体が接触してしまった。

「ご免なさい、私、咲良と言います。遠くからやってきましたもので、人混みに慣れなくて」

 咲良は自分から挨拶をして、謝った。

 男の人は振り返って咲良を見つめると、ちらっと時計を見て・・

「ごめん。話してる時間が無くて・・」と言って、慌てた様子で歩き去っていった。
 

 咲良は訳が分からなくて、ますます頭にきた。

 「何これ? 失礼な! みんな、どうなってんのよ?」

 咲良の故郷のファンタジーアではだれかに出会えば、挨拶をして、軽い会話をするのが当たり前の礼儀だった。

「この様な挨拶をしない人の関係を、この世界では『他人』とか『人ごと』といいます」

 カレル先生がおかしな解説をして、咲良を慰めた。

「ファンタジーアでは他人という関係はありません。『まだよく知らない人』という表現ならあります」

 咲良がほっぺたを膨らませて怒っていた。
 

 メインストリートから一歩脇道に入り込むと、連休の狭間の平日なのに、大学生や高校生が賑やかにお喋りをしながら歩いていた。

 カレル先生も学生の頃によく来て遊んでいた界隈だった。

 エーヴァがどこかからブーンというマシーンの音と、ガチャガチャという摩擦音に混じって男の子たちの叫び声を聞きつけた。

「あっ! あの音は宇宙船の発着音よ、ちょっと遊ばせて」

 エーヴァは、カレル先生にお願いして5百円玉を数枚借りて店の中に飛び込んで行った。

  NASA発オリンピック協賛「スーパー・スペース・バトル!」のコーナーの前に人だかりがしていた。

 それはシングル乗りの五艇の宇宙艇で、バトルを争うNASAのバーチャルゲームだった。 

 しばらくゲームを観戦していたエーヴァが、次の番でウエイティングしている男子の高校生四人グループに声を掛けた。

「一人、混ぜてくれない?」 

 ジーパンとピンクのTシャツを着た金髪の可愛い女の子が、いきなり乱入してきて乱暴な口をきいた。

 ラフなコーデの高校生が目をむいた。

「どこから来た?」

一番でかい赤いチェックのシャツが聞いた。

「海の向こうよ」

 チカッとウインクすると、エーヴァは空いたコックピット・ブースにさっさと入り込んだ。

 ヘッドセットを装着し終えると、「♯プリプリプリ♭」とお尻で軽くリズムを取った。

「そこのでかいの・・早くいらっしゃい!」

 エーヴァが、スペース・シップのエンジン・ボタンを押した。

 スタート・ラインに滑り込んでいくエーヴァに気が付いて、四人の高校生が慌てて四隻の宇宙艇に飛び乗った。

「痛めつけて欲しいのか?」

でかいのが隣のスタートラインからエーヴァに笑いかけた。

「泣かせてあげるわよ」

エーヴァが軽く受け流す。

一周のテストランが終わり、轟音と共に5艇のスペース・シップがバトルを開始した。

 応援に駆けつけた五人とカレル先生まで、観覧ブースに座り込んだ。

 小柄なマリエが、大声を上げて、エーヴァの応援を始めた。 

 エーヴァはフランス空軍のパイロットの娘で、子供の頃は地球脱出用の宇宙船が自宅代わりだった。

 パパに頼んで、内緒で操縦を教えてもらい、腕はプロ並みだった。 

 エーヴァに絡むつもりが逆にさんざんからかわれた赤シャツが、視界を失って仲間と衝突し、宇宙艇の操縦シートから床に転げ落ちた。

「ほんのお遊びでしたわ。これご自宅にお土産」

 引き上げてきたエーヴァが、カレル先生に報告を済ませ、景品を差し出した。
 

  繁華街から小さな公園を通り抜けると、生徒たちの家の100倍はありそうな大きなビルが現れた。

「このホテルで休憩していくか?」

 カレル先生はそう言うと、ずんずんと大きなビルに無断で入っていった。

 制服の門番が自動ドアを手で開けたまま、待ち構えてくれるので、みんなも慌てて先生にくっついてビルに入っていった。

 匠やペトロにとってホテルは、小さな子供の頃、都会から人影が消える前に、両親に手を引いてもらって食事に出かけた時の記憶がかすかに残っているだけだった。

 ロビーの広い空間を通り抜け、突き当たりに並んでいる小さな部屋の一つに全員で入り込むと、先生が扉の横の操縦ボタンを押した。

 扉が閉まって、部屋が丸ごと縦に動き始めた。

「ヒエー! この宇宙船どこにも窓がねーぞ!」

 匠がわめいた。

 生徒たちの乗り物はいつもエーヴァ・パパの操縦する小型の宇宙船と決まっていて、丸い窓が沢山並んでいて外が見える。

 外の景色を眺めたら、いまどこにいるのか・・安全なドームの中か、ドームの外の危険地帯に出たのかがすぐに分かる。

「ここ気持ち悪いよ!」

 匠が騒いでいる中に、宇宙船はビルの最上階に到着して、ドアが開いた。

 フロアーに出るとすぐ前にガラス張りの広い部屋があった。ガラスの向こうには大都会の午後の景色が拡がっていた。

 みんなは眺めのいい窓際を探して、ふかふかのシートに落ち着いた。

 それからサンドイッチやプリンやケーキやアイスクリームや果物やフレッシュ・ジュースを片っ端からやっつけながら、慌ただしい下界の風景をゆったり眺めた。

 ふざけ合ったり、お喋りしたりして午後のひとときを楽しんだ。 

 お腹がいっぱいになったペトロがラウンジから廊下に出てきて、最上階のフロアーを探検し始めた。

 宴会場や大小の会議室が続いていて、廊下の突き当たりの大きな部屋に「宇宙物理学会会議場」という案内板が出ていた。

 会議は始まっていて、受付と書かれたデスクの前にはだれもいなかった。

 ペトロは科学が大好きで、今はハル先生の特別授業の「宇宙の方程式」に取り組んでいる。
 
 「宇宙物理学会」の文字に興味を引かれたペトロはドアをそっと開け、中を覗いてみた。

 会議場は満員で、いろんな国の言葉が飛び交い、世界から集まってきた学者や先生方が方々で議論している。

 遠くてよく見えないけれども、壇上のボードになんだか見たような数式が書かれていた。

 ひげもじゃで巨体の偉そうな先生が、立派な講演机にもたれかかりながら・・

「お静かに・・それでは次の質問をお願いします」と会場の人たちに呼びかけていた。

 何人かが手をあげると、ひげもじゃ先生が順番に指名をして、次々と質問に簡単明瞭に答えていった。

 ペトロは会議場の後方から、満員の座席の横を通り抜けて、ボードに書いてある数式がよく見えるところまで近づいてみた。

 それはアルファベットと数字が入った簡単な一行の方程式で、タイトルは「アインシュタインの方程式」と書いてあった。

「あれっ! これってハル先生の宇宙の第一方程式にそっくりじゃない」

  ペトロはなんだかぞくぞくしてきて、方程式をよく確認してみようと、もう一歩壇上に近づいてみた。

「宇宙の構造」と説明書きが付いているところはハル先生の第一方程式と同じだけど、「宇宙項」と説明のあるところが、ハル先生の方程式と少し違っていた。

 アインシュタイン先生がとんでもない天才科学者だったことはペトロもよく知っていた。

  「でもこの方程式は間違っている」

 だってハル先生は「宇宙の第一方程式は完成よ」と言って、今は次の第二方程式に取り組んでいるからだ。

「もうご質問はございませんね」

 ひげの先生が偉そうにひげもじゃを一筋むしりとった。

 次の瞬間、ペトロの右手が勝手に上がってしまった。

 ひげの先生は慌てた様子でペトロを見つめた。

 先生はちょっと目が悪くて、ペトロが少年であることに気が付かない。

 壇上からペトロを指さして「どうぞ!」と質問を促した。

 ペトロは、もしもハル先生ならこんなときどうするだろう、と考えて、直ちに行動に移った。

 トットットッと舞台の横から小さな階段を登って、壇上まで上がると、方程式の書かれたボードを見上げた。

 それは電子ペンで書き込むタイプのボードだった。 

 ペトロは電子ペンを探して、手に取ると、思い切り背伸びをして、方程式の「宇宙項」の所を二本線で消した。

 そしてもう一度伸びをして正しい数式に書き換えてあげた
 

 数式が完成すると・・

「先生、これでいかがでしょうか?」といつもの授業の調子でひげもじゃ先生に尋ねた。

 ボードを見つめていた先生の顔がみるみるうちに真っ赤に染まっていった。

「こらーっ!」

 ひげもじゃ先生は会議場に響き渡る大声で吠えると、血相変えてペトロに飛びかかってきた。

 先生はとんでもない悪ガキのいたずらと思い込んで、頭に血が上って、怒り狂っている。

 小さなペトロの前にひげもじゃ先生の巨体が迫った。

 ペトロは一歩横に跳んで、なんとか先生の突進をかわした。

 掴む相手がいなくなった先生は、前のめりになって、見事に床に転んでしまった。

 先生の悲鳴を背中で聞きながら、ペトロは壇上から飛び降り、一目散に会議場から逃げだした。

 廊下に出ると、ペトロは背筋を伸ばしてゆっくりと歩いた。

 ラウンジに戻って、仲間のいるところに無事到着すると、目立たないようにシートに深々と小さな身体を沈めた。

 表の廊下で、警備員の叫ぶ声がしばらく聞こえていた。

 知らん振りを決め込んで一息つくと、ペトロはサイド・テーブルに手を伸ばして、ショート・ケーキに乗っかっている大好きなイチゴを指でつかんだ。

 口に運んで軽く噛むと、イチゴはチュッとつぶれて、新鮮な果汁が飛び出してきた。
 

 ペトロはしばらく昼寝をすることに決めた。

 ペトロはすぐ夢を見る。

  ×× 

 いまは遠い故郷、サンフランシスコのすぐ北のナパ峡谷に沿って広がっているブドウ畑のそばの小さな土地・・

 パパが借りていろんな野菜を育てている畑に仰向けに寝ている。
 

 パパはここからいくつか山を越えたシリコン・バレーというところにある最先端技術の企業の研究員だ。

 パパの趣味は仕事とは正反対で、古本集めと、畑仕事だ。

 天気のいい休みの日には小さなペトロはパパと一緒に畑に出て、野良仕事を手伝う。

 疲れてくると、ペトロは野菜を収穫した後の畑の畦に寝転がって、勝手な空想遊びをする。

 パパは野良仕事の合間、合間にペトロに声を掛けてくる。

 ペトロが元気に返事をすると、安心して仕事を再開する。

 いまペトロは畑に仰向けに寝て、太陽の日差しを浴びて真っ赤に熟した食べ頃のイチゴをつまんでは食べている。

 昔大きな山火事があって、ワイン畑から野菜畑に変わったところだ。

 渓谷から吹き上げてくる風が、青く抜けるようなカリフォルニアの空に舞い上がって行く。

 ここは昼間は太陽が照って暖かく、夜は温度が下がる。

 渓谷の川の流れから適当な湿気が上がってくるので、毎日水やりに通わなくても野菜は育つてくれるんだ、とずぼらなパパが勝手な理屈を言う。 

「ペトロ! そのイチゴを食べてはダメだ!」

 パパの叫ぶ声が遠くから聞こえた。
 

 パパの話では、最近ここの野菜は、人間に食べられないように変身して、食べた人の体を犯す悪い有機体を含むようになってしまったそうだ。

 パパはブドウ農園の人たちと共同で、悪い有機体を含まないブドウや新種の野菜を開発中だ。

 地球のどこもかもで、果物の出来る樹木や、食料になる野菜や、大人しい家畜の生態にまでとても危険な変化が起こり始めている、とパパたちが集まって怖い話をしていた。

「食べ物がなくなったら、緑の野菜や果樹のあるどこかの惑星を探しに行かなくっちゃ」

 ペトロは高い空の向こうにある緑の惑星を想像してみる。

「そこにも人類や動物はいるのかな?」

 やがて気持ちのいい眠りに落ちると、パパの声も聞こえなくなった。 

 ペトロの横で一緒に寝っ転がっているマリエがなにかムニャムニャ喋っている。

 パパの姿がどこかに消えて、こんなところにマリエがいる?  
  ××

「さっきはどこ行ってたの?」

 マリエの声でペトロの目が覚めた。

 仲良しのマリエがアップル・パイを頬張りながらとなりのシートからペトロに話しかけてきた。

「ちょっと奥の部屋で、ひげもじゃの偉い先生にお勉強教えてあげてた。内緒だよ!」

 ペトロは、ひげもじゃ先生とのやりとりをすっかり話して、マリエに自慢をしたかったのだけれど、なんだか嫌な予感がして、お喋りするのを我慢した。

「内緒ね」と繰り返すと、マリエはアップルパイをもう一口、頬張る。
 

 そばのシートで気持ちよく寝込んでいる裕大の大きないびきが聞こえてきた。

「少し遅くなったから、そろそろ我が家に向かうとするか」 

 カレル先生が大きな伸びをして、裕大を起こした。

「出発!今からカレル先生のお宅にお邪魔する!」

 目覚めた生徒会長の一言で、みんなは重いリュックを肩に担ぎ上げた。

 リュックは宿泊用のパジャマやタオルや下着の着替えや、洗面用具や、それに大事な非常食と飲料水でぱんぱんにふくれあがっている。

 非常食と飲料水は十分に備えておくようにと、カレル先生から命令が下っていた。

 先生のお宅でごちそうになるのに、どうして非常食がこんなにたくさんいるのかよくわからなかった。

「多分タイムトラベルで迷子になったときのためだよ」ペトロの説明でみんなは納得していた。

 ホテルを出てしばらく歩くと、迷路のように入り組んだ巨大な駅に着いた。

「ここで迷子になるなよ、見つけるのに数時間はかかるからな」

 カレル先生が先頭に立って、駅の構内に入り、四方に繋がる通路をあっちこっち歩いて、長くて動く階段を登ったり、下りたり、径路板を見たり、通行人に聞いたり、迷路ゲームを楽しんで、ようやく目的のホームにたどり着いた。

 電車に乗りこむと、中は結構混んでいた。

 乗客は座っている人も、立っている人もみんな、スマホに夢中で、スマホの中で暮らしているみたいだ。

 ベビーカーで子供を連れているママまで片手でスマホをしている。

 電車が揺れてベビーカーが動き出すと、慌ててベビーカーをつかむ。

 スマホを見てないのは生徒たちだけだ。

 携帯は「持って行ってもどことも繋がらないよ」と先生が言うので、教室に置いてきた。

 

 生徒たちは乗降客の邪魔にならないように、開閉しない側のドアのそばに集まって、騒々しい町並みから静かな住宅街に移り変わっていく風景を興味深そうに眺めていた。

 電車はあっという間に、都心から離れた郊外の駅に到着した。

「この駅でおりるぞ!」
 カレル先生が電車から降りて改札に向かった。

 エーヴァが電車からプラットホームに降りて、みんなの先頭に立って改札に向かって歩き始めた。

 そのとき、同じ制服を着た高校生と中学生の男子のグループが、到着してきた電車に飛び乗ろうと、ホームに走り込んできた。

 騒々しいグループの中で一番でかいボスっぽいのが、ふと立ち止まった。

 デニムのジーパンと、ピンクのTシャツの上に薄手の白いセーターを着込んで、リュックを肩に担いだ可愛い女の子が近づいてくるのに気が付いた。

 ボスっぽいのがその子にさっと近づいて、片手で胸にタッチした。

 キャッと悲鳴を上げるエーヴァに向かってピュッと口笛を吹いて、近くの車両に駆け込んだ。

 その車両に匠が残っていた。

 みんなの最後に電車から降りようとしていた匠が、エーヴァの悲鳴を聞きつけてドアの前で立ち止まった。

 その車両に駆け込んできたボスが、大きな肩をどんと匠にぶつけた。

「なにすんだよ!」

 よろけた匠が叫んだ。

「どけよチビ! 邪魔なんだよ」

 笑いながら、ボスが片手で匠の身体を乱暴に払いのけた。

 弾みで飛ばされた匠は、危なくホームと電車の間にはまり込みそうになった。

 匠はとっさに肩に抱えていたナップザックをホームに放り投げ、電車からホームの床に前足を伸ばして着地した。

 着いた方の片足で、くるりと身体を半回転させ、体制を立て直した。

   匠はホームに立ち、電車の中の高校生に正面から向かい合った。

 両手をだらりと下げ、そいつを下から睨み上げた。

 匠の素早い身のこなしに驚きながらボスは匠を見下ろして、肩を怒らした。

「なんだよてめえ、文句あるんか!」

その一言で・・匠の顔つきが一変した。

「匠、やめろ!」

 事態に気が付いたカレル先生が、ホームから振り向いて大声を上げた。

 匠は武道家の孫、鍛え上げられた跡継ぎだ。

 小さいが本気で殴ったら、高校生の方が危ない。

 高校生は、匠の右肩がぴくりと小さく動いたことに気が付いた。

 次の瞬間、下からズンと突き上げられて来る匠の拳を見て、思わず目を閉じた。

 高校生は殴られることを覚悟した。

 拳は目の前、一センチのところでピタリと寸止めされた。

 高校生が目を開けると、人差し指と中指の二本が鈎爪になって両方の黒目のすぐ前にあった。
 ピピーと車掌が警告の笛を吹いた。

 茫然と突っ立っている高校生の前でドアが閉じていった。

 動き出した車両の中で、高校生が無事を確かめるように、自分の顔を掌でそっと触っているのを見て、匠はガラス越しに、にやりと笑い返してやった。

 匠は殴ってもいない相手の顔にすでに大きな生傷があって、制服の黄色い銀杏のマークに、血が茶色くなってこびりついていることに気が付いた。

 電車が出て行き、カレル先生がホームに全員を呼び集めた。

 匠はてっきり怒られるものと思って、身体を縮めて先生に近づいた。

「匠、お前よく我慢したな!」

 カレル先生は顔をくしゃくしゃにして匠の肩を叩いた。

 それからエーヴァに向き直って「だいじょうぶか?」と心配顔で聞いた。

どうってことねーよ」男の子みたいな口ぶりでエーヴァが答えた。

「エーヴァ、あの高校生は中高のボスだ。この近くに大学付属の中・高一貫校があるんだ」
 

 カレル先生は遠い昔を思い出した。

 あの高校生には見覚えがあった。

 それどころか、あの顔は忘れようがなかった。

「よっしゃー、出発!」カレル先生が全員に号令した。

 改札口を通りすぎたところで、エーヴァが匠の側に来て、お礼ついでに文句を言った。

「匠、おかげですっきりしたわよ。 でもさ、ついでにあのスケベ野郎、あのまま“ズン!”と殴り倒してくれてりゃもっと気持ちよかったんだ」

 エーヴァが拳を握りしめて、勢いよく空に突き上げた。

「先生から、喧嘩は止められてるからね、ちょっと驚かしただけだよ」

 そう言いながら、匠は・・

 エーヴァの口から男の子みたいな乱暴な言葉が飛び出すと、なんだかとっても可愛くて胸に“ズン!”と来るな・・と思った。

 駅を出ると、登りの坂道がだらだらと続いた。

 先頭を歩いて、息が切れてきたカレル先生は、坂の途中で愛用のハットを斜めに被り直して一休み。

 カレル先生は若い振りをしているが、実は相当の高齢なのだ。

 みんなが追いつくと、「近いぞ、もう一息だ!」と気合いを入れ直して足を速めた。
  

  ××
 カレル先生は少年時代を、この近くの家で両親と三人で暮らしていた。

 先生のパパはヨーロッパのプラハからやってきた高名な作家で、この近くの大学で客員教授としてヨーロッパ文学を教えていた。

 ママはその大学で学ぶ日本の学生だった。

 ある日、構内のレストランでたまたま同じテーブルで隣り合わせに座った二人は、無駄話から話が弾み過ぎて、ちょっとした口喧嘩になってしまった。

 とても年が離れているのに気が付いた教授が先に謝った。

 すぐに学生も謝って、大笑いした二人はその日のうちに仲良くなり、翌週には恋に落ち、一月後には二人だけで近くの教会で結婚式を挙げた。

 東京で暮らすことに決めた二人の間に生まれたカレル少年は、このあたりで毎日を楽しく走り回って成長していった。

 今回の課外授業では、カレル先生が子供の頃に経験した楽しいことを、生徒たちにも体験させてやりたいと思っていた。

 自然の中で遊ぶスリルに満ちた興奮とか、季節の手料理とか、例えそれがひとときの虚構の体験であるとしても、子供たちが生きていくことの素晴らしさに気付く時間にしたいと願っていた。

 ××

 初夏に向かう東京の五月の夕陽は新緑に反射して、目に痛い。

 先生は太陽が苦手で、いつも愛用のハットを被って、直射日光を避けている。

 四つ角に出るたびに、ハットを少しずらし、懐かしそうな目つきで周りを確認すると、

「こちらだ」と自信たっぷりに叫んで、早足で歩いて行く。

 そのうち、いまにも走り出しそうなペースになって来た。

 必死について行く生徒からは、先生の両脚はまるで宙に浮いて、飛んでいるように見えた。 

 坂道の傾斜が厳しくなってきて、最後尾のペトロとマリエがダウン寸前になったとき、ようやく高台にある大きな屋敷に到着した。

「ピンポーン、僕だよ!」 

 カレル先生が石造りの門の前で、ベルを押さずに、大きな声で叫んだ。
 

 庭を走る足音がして、長身のおじさんと優しそうなおばさんが、門を開けて出てきた。

「ハーイ! カレルの生徒たちだ、遠いところからみんな良く来た、良く来た」

 茶色い髪に青い目をしたおじさんは、大きな身体を折り曲げて男の子と握手を交わしたり、女の子を軽くハグしたりしている。

「いらっしゃい、お名前は?」

 若くて黒い髪の小柄なおばさんは、一人ずつ生徒の名前を聞いて顔を見つめ、忘れないようにもう一度名前を呼ぶ。

 それから両手で抱きしめる。

「おじゃましまーす!」

 全員で門をくぐると、庭の石畳が奥の玄関まで続いていた。

 玄関のそばに大きな白い犬がつながれていた。 

 でっかいワンコが先頭でやって来た裕大を見つけて、勢いよく吠えた。

「ブー太郎! お客さまですよ、静かにしなさい!」 

 おばさんが命令しても、ちっともいうことを聞かない。

 裕大を先頭に押し立てて、生徒が一列に庭の石畳を踏んで玄関に近づく・・

 ワンコはふさふさのしっぽを、丸いお尻ごと猛烈に振りながら、鎖をいっぱいに引っ張って、激しく吠えたてた。
 

 生徒たちは、でっかいワンコの前で立ちすくんでしまった。

 そのとき、小さなマリエがみんなの前に出て来て、自分より大きなワンコに歩み寄った。

「ブー太郎、どうしたの?」 

 腰をかがめて優しく聞いた。

 ワンコは吠えるのを止めてマリエの顔を見て、少し首をかしげた。

 それから芝生にぺたんと座り込んだ。

 マリエはワンコの大きな頭を撫でてやりながら、お喋りを始めた。

 その隙間をみて、みんなはワンコのそばを通り抜けて、玄関に走り込んでいった。

「あら、マリエもブー太郎とお話ができるのね」

 おばさんがやってきて、マリエと二人でワンコとお喋りを続けた。

「マリエ、ブー太郎はなんて言ってたの?」

 ペトロが玄関の上がり間口でマリエを待ち構えて聞いた。

「頭、撫でて欲しいって! あの子はみんなに遊んで欲しくて吠えてただけなの」

 ペトロは庭に戻ると、白いワンコに思い切って近づいた。

 それから腰を屈めて怖々頭を撫でてみた。

 ワンコが嬉しそうに頭をすり寄せてきた。

「ペトロ、もっとしっかり頭を掻いて欲しいっていってるわよ」

 玄関からマリエの声が聞こえた。

 おばさんが庭に面した広いリビング・ルームにみんなを案内してくれた。

「男の子は二階のベッド・ルーム、女の子は一階の寝室、三人で一部屋よ」

・・いつもは海外からの留学生を泊めてる部屋だから、自由に使いなさい。

 部屋のドアは開けてあるから、荷物を放り込んでから順番にシャワーを浴びて、六時にリビングに集合ですよ!・・ 

 おばさんがお尻を叩いて急がせると、生徒たちは階段と廊下の二手に分かれて、自分たちのベッドルームに向かった。

 カレル先生の悲鳴が聞こえて来て、ペトロは階段の途中でリビングを振り向いた。

 先生より背の高いおじさんが「久しぶりだ。元気か?」と言って先生を抱き上げて、床の上をグルグルと廻っている。

 年上に見える先生が、ずいぶん若いおじさんに抱き上げられて、子供みたいに笑っていた。

 逆さまみたいだけれども、なんだかハッピーな光景だった。 

 六時になって、生徒たちがリビングに集合した。

 おばさんが淹れてくれた冷たいお茶で渇いた喉を潤して、お喋りして騒いでいると、玄関から「ピンポーン!」という男の子の声がして、ブー太郎が騒ぎ出した。

「ただいま!」

 大声を上げた少年がリビングに半分、顔を覗かせた。

「お帰り! みんなでお邪魔してるよ」

 それまで目を凝らして読んでいた朝刊をソファーに放り投げて、カレル先生が少年をリビングに招き入れた。

 部屋に入ってきた少年を見てみんなが目を丸くした。

 少年の青い目がカレル先生の瞳の色とそっくりで、顔つきがそっくり。

 そこまではみんなで予想していた通りでだれも驚かなかった。

 でも、よく見ると、着ている制服の上着はしわくちゃで、ボタンが半分取れて、胸のあたりに血がいっぱい付いて赤黒く汚れていた。

「また連中にやられたのか!」

 カレル先生が問い質した。

「うん」と頷いて・・

少年は上着を脱いで、カバンと一緒に派手にソファーに放り投げ、照れくさそうに頭を掻いた。

「駅で会った高校生たちだな! しつこい奴らだ」

 カレル先生はぶつぶつ独り言を言いながら、少年をみんなに紹介した。

「この子はこの家の一人息子で、私と同じ名前でカレルと言います。中学二年生です」

 カレル少年は、ちょっと照れくさそうに、大人っぽい歓迎の挨拶をしてくれた。

「よくいらっしゃいました。みなさんのことは先生からなんども聞いています。ここは皆さんのお家だと思って、どうぞ思いっ切り騒いで下さいよ」

 匠は、カレル少年が着ている制服の胸のマークが、さっきの乱暴な高校生のものと同じ黄色の銀杏のマークであることと、血糊が少年の上着に付いているのに、顔や手足には生傷がまったくないことを見逃さなかった。

 生徒たちが順番に自己紹介を済ませると、先生がカレル少年を呼んだ。

「匠はカレルと同じ中学二年だが、凄腕の武道家だ。二度と無い機会だから、匠からでかい奴らを相手にしたときの必殺技をあとで教えて貰ったらどうだ?」

 先生は、カレル少年が目を輝かせたのを見て、匠に指導の約束を取り付けると、みんなをリビングに残して靴下を脱いだ。

 テラスから裸足のままで庭に出て行った先生は、ブー太郎に近づいて、首から鎖を外して自由にした。

 先生は四つん這いになって、挑発するように、ブー太郎に一声唸った。

 ワンコが先生に飛びついた。

 取っ組み合いが始まって、先生がワンコに倒された。

 足をバタバタさせている先生の顔を、ワンコが上から長い舌でなめた。

 悲鳴を上げて逃げ回っている先生の姿を、テラスのガラス越しに、全員があきれかえって眺めていた。

 
 カレル少年はリビングで生徒に取り囲まれて、質問攻めに遭った。

 内容は、通っている中学校の授業の内容とか、給食の献立とか、部活とか、いじめの話とかだった。

 いじめはずいぶんひどくて、カレル少年もやられるのは嫌いだから、柔道部に入って、毎日、朝稽古をして鍛えていると言った。

 匠は駅での高校生との一幕を少年に話した。

「カレル君はあいつにやられたんじゃなくて、やっつけたんでしょ」
 匠が高校生の顔の生傷を思い出して言った。

「いい勝負なんだ。あいつ、中高のボスで子分いっぱい連れてるけどさ、いつも二人だけで勝負しようって言うんだ。そこんところはまともなんだよ」

「ガチンコの訳って、どんなことなの?」

 ボスにちょっかい出されて頭にきていたエーヴァが横から聞いた。

「僕が中学の授業に出ないで、近くの大学の研究室にしょっちゅう出入りしているのをたれ込みで知ってさ、それで怒ってんのさ。

 あれでもあいつ高校二年で学年委員なんだ。

 中学の先生が僕の研究を黙認しているので、余計腹が立つみたいだ。

 きっと僕のこと中学二年にしてはからだがでかいし、生意気な奴だと思ってるんだろうけどね。

 僕にも大事な研究があるんだから、これ以上邪魔しないで欲しいんだ」

 匠は、カレル少年が目を輝かせながら話をするのをじっと聞いていたが、突然、カレル先生からの頼まれ事を思い出した。

「お主、できるな、一勝負するか!」

 匠が仕掛けて、二人の目が合った。

「センパイ!ご指導いただけますか?」

 カレル少年が頭を下げて、二人は庭に出た。

   一息ついたカレル先生とブー太郎が、仲よく見学を始めた。
 

 キッチンからうまそうな匂いがリビングに流れ込んできて、生徒たちのお腹がグーグーと鳴った。

 「今日は天気がいいからテラスでデイナーだ」

 おじさんがエプロンを掛けたままキッチンから出てきて、庭に張り出したテラスに置かれた大きなテーブルに、取り皿を並べ始めた。

 生徒たちも手伝ってナイフやフォークやお箸をテーブル・クロスの上に並べた。

 おばさんが、できあがった料理を盛り付けた大皿をいくつも運んできて、テーブルに並べた。

 みんなが料理を見て歓声を上げた。

 咲良が料理のメニューと作り方を教えてとせがんだ。

 おばさんはエプロンで手を拭きながら、「カレル家の本日のメニューよ」と言って献立を紹介してくれた。

・・これはね、おじさんが買ってきてくれたイベリコ豚を、熱い大判のフライパンで皮ぱりぱりにソテーしたの。

 それにとろとろのバルサミコ・ソースをたっぷり掛けて、メイン・デイッシュのできあがり。

 バルサミコ・ソースが薄いときにはプラムをつぶして混ぜるととろとろになるわよ。

 サイドに蒸し上げた春キャベツをいっぱい添えてと、キャベツは今が旬でとても美味しいの。

 それと、今朝、不思議なことが起こったのよ。

 朝まだ暗い中からブー太郎があんまり吠えるので、散歩に連れて行ったの。

 そしたらブー太郎が私を力ずくで、山の方に引っ張っていくの。

 行き着いた先はおじさんが大事に手入れしている竹藪畑。

 前足で土を掘り出したので、うんこでもするのかなと思ってよく見たら・・違うの。

 土が盛り上がってるのを教えてくれたのよ! 

 なんてこと、季節外れなのに、まるでみんなの到着に合わせたみたいに、大ぶりで、真っ白のタケノコが六つも採れたわ。

 すぐに茹で上げておいた朝堀の白子を、バターとオリーブ・オイルで焼き上げたの。

 それにマーマレードとお酒とお醤油に木の芽を刻み込んだ特製たれを絡めて出来上がり。

 カレル家の旬の逸品よ!

 ブー太郎にお礼を言って、あつあつご飯で召し上がれ!・・

 ドームの未来ではお目にかかれない山盛りの料理を目の前にして、生徒たちのお腹がまたグーッと鳴った。

 (続く)

続きを読んでくださいね。

この世の果ての中学校 2章「リアルの世界は一度逝ったら戻れない(中編)

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下條 俊隆

下條 俊隆

ペンネーム:筒井俊隆  作品:「消去」(SFマガジン)「相撲喪失」(宝石)他  大阪府出身・兵庫県芦屋市在住  大阪大学工学部入学・法学部卒業  職歴:(株)電通 上席常務執行役員・コンテンツ事業本部長  大阪国際会議場参与 学校法人顧問  プロフィール:学生時代に、筒井俊隆姓でSF小説を書いて小遣いを稼いでいました。 そのあと広告代理店・電通に勤めました。芦屋で阪神大震災に遭い、復興イベント「第一回神戸ルミナリエ」をみんなで立ち上げました。一人のおばあちゃんの「生きててよかった」の一声で、みんなと一緒に抱き合いました。 仕事はワールドサッカーからオリンピック、万博などのコンテンツビジネス。「千と千尋」など映画投資からITベンチャー投資。さいごに人事。まるでカオスな40年間でした。   人生の〆で、終活ブログをスタートしました。雑学とクレージーSF。チェックインしてみてくださいね。

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