この世の果ての中学校21章“ゴルゴン一家と蘇ったカレル先生の記憶 ”

クオックおばばとホラー一族に囚われたカレル先生を助けようと、地下の広場に飛び出した裕大、ペトロ、マリエの3人だったが・・

ペトロの発射した放射光で身体を貫かれ、おばばはため込んだ記憶をはき出していく。

もがき苦しむおばばの姿を見て、ホラーとアンデッドが怒った。

壁画からホラーが踊り出して四方を取り囲み、空にはアンデッドが舞った。

救助隊3人は絶体絶命のピンチだった。

前の章はここからお読みください。

この世の果ての中学校20章“クオックおばばにカレル教授の記憶が盗まれた!”

21章“ゴルゴン一家と蘇ったカレル先生の記憶”

「ヒュッ! ヒュッ!」マリエが口笛で甲高い音を立てた。

「ウオーッ!」トンネルの暗闇から雄叫びが上がって、小さな茶色の助っ人たちが広場に飛び出してきた。

 先頭を切って走るのはパパ・ゴルゴン。

 宇宙を彷徨うスペース・イタチ、ゴルゴン一族の長だ。

 イタチ族は逞しく、多産だった。

 地下で生き延びているわずかなネズミと苔を食料にして、家族を増やしていた。

 その上必要とあればいつでも凶暴になることができた。

 ゴルゴン一族がうなり声を上げてホラーに食い付き、空を舞うアンデッドに飛びついていく。

 ペトロはハンドの赤いボタンを押し続けたまま、なぎ倒すように放射光を連続発射した。

 ホラーは広場の壁際に追い詰められ、アンデッドがゴルゴン一族に地面に引きずり下ろされていった。

 クオックおばばの喉笛を、パパ・ゴンの鋭い牙が襲った。

 おばばは両手を伸ばして必死の形相で抵抗している。

 広場の方々からホラーとアンデッドの悲鳴が聞こえた。

「そこまでだ!」記憶を取り戻したカレル先生が地面から身体を起こして叫んだ。

「そこまでよ!」マリエが「ひゅっ!」と口笛を吹いた。

 おばばののど頸に噛みついていたパパ・ゴンが、マリエの口笛に聞き耳を立てて、後ろ足で立ち上がり、“ヒュッ!”と鳴いた。

 ゴルゴン一族の攻撃がぴたりと止む。

 マリエがちょんとおばばに近づいて囁いた。

「おばば、降参した方が身のためよ。でないとゴルゴンに命じて、この広場におならをまき散らすことにします。悪臭で数年間は寝泊まり不可能です」

 おばばはしつこく首を横に振る。

「一発軽くかましてやりなさい!」

 マリエが命じてパパゴンがおばばの顔面に軽くかました。

 おばばの顔が歪み、よろよろと立ち上がる。

「参った、参った! マリエ、降参する、降参じゃ。いや停戦でどうじゃ」

 今度はマリエが首を横に振った。

 
「分かった。でもおばばは少し疲れた。しばらく眠りにつくことにする。そうじゃ、この凍結細胞ボックスはお前たち若い三人に預けておく。そのときが来るまで命がけで守るのじゃ!」

 言い残したおばばは、身を翻して広場の奥の壁に向かって走り出した。

 岩壁に着くと、ぴょんと飛びついて、苔を頼りに手をかけ、ひょいひょいと登っていく。

 洞窟のてっぺんに登り詰めると、下を眺めて片手を振った。

 最後に一声笑うと、天井に苔で描かれた美しい娘に姿を重ねて、その身体に溶け込んでいく。

 天井画は100年前のおばばの若い姿だった。

「参った、参った」

 動物のホラーたちがおばばの後を追いかけて、壁を登り、抜け出してきた壁画の中に逃げ込んでいった。

 アンデッドたちは宙に舞い上がり、広場の天蓋の薄闇に消えた。

 異形の姿は消え、広場に静寂が戻った。 

・・・

 3人の救助隊とカレル教授は広場をあとにした。

 先導するのはパパゴン。

 裕大がカレル先生を背中に担いで、ペトロが後から支えていく。

 凍結ボックスを両手で抱えたマリエが後に続く。

 ママゴンとチビゴンが四人を囲んで、地下道を学校に向かう。

 パパ・ゴンがビート効かして歌い始めた。

 ママ・ゴンとちびゴンも身体を揺すって歌い出した。

「なに歌ってるの?」

 カレル先生のお尻を両手で支えながら、ペトロが振り向いてマリエに聞いた。

「邪魔する奴には、強烈な悪臭をかませるぞって」

「ゴルゴン一族のテーマソングかな」

「今夜はスリラー・ナイトだって」

「この曲知ってるよ。マイケル・ジャクソンだ。100年前のホラー・ソング」

「一緒に怪物達と戦おう。そしたら今夜は君がぞくぞくするほど抱きしめてあげるって」

「僕、そのセリフ頂いてマリエにあげる」

 ククッと笑ってマリエが続けた。

「おれたちで明日の世界を変えられる。でも本当のワルは誰だって」

「ん・・深いな」ペトロが考え込んだ。
 

 ゴルゴン一家は学校の廊下に通じる小さな穴まで四人を案内すると、太い尻尾を左右に振って挨拶を済ませ、曲の続きを大声で歌いながら秘密の巣穴に帰っていった。
 

××
 カレル教授は裕大の背中でぐっすり眠り込んで、昔の夢を見ていた。

おばばに引っ掻き回されて戻ってきた記憶の中から、 思い出したくない澱のようなものが浮かび上がってきた。
 

“ゲノムの逆襲”

 遺伝子操作で科学者が作り上げた新しい種である食料が、逆襲に出た。

 彼らは人間に食べられないように自己防衛を始めた。

 まずくて食べられない食料に化けたり、栄養価の少ない食物に変化した。

 はじめはその程度だった。

 ある日、家畜や野菜たちは自らを兵器に変えた。

 人間が食べると、胃袋や腸の中で病原体に変質して人間の細胞を食べた。

 新しい種は、人の体内で臓器を食べ増殖した。

 人類には食べることを止める以外、取りうる対策はなかった。

 カレル教授が出した結論はただ一つ。

 その有機体は人類の絶滅によってのみ根絶が可能。

“完璧な寄生体は宿主そのものの絶滅によってのみ絶滅させられる”と。 

 研究員がつぎつぎに倒れ、ついにハルがやつらから攻撃を受けた。

「カレル! カレル!」 

 助けを呼ぶハルの声が遠くから聞こえる。

・・・

「カレル!カレル!」 

 ハル先生が医務室のベッドに横たわっているカレル教授を呼び続けていた。

 六人の生徒がそんな二人を心配そうに見守っている。

 カレル教授のまぶたが突然開いて、ベッドから半身を起こしてまわりを見回す。

「あれ、ここどこ? みんな、おはよ!」

 間の抜けた挨拶をしたカレル教授に、ハル先生が“キャッ!“と悲鳴を上げて、抱きついていった。 

 咲良とエーヴァが歓声を上げ、匠がこぶしを突き上げた。

 騒ぎを聞きつけて、医務室のヒーラーおばさまが駆けつけてきた。

「ハイこれ! おばさま特製、たちまち記憶回復薬」

 ヒーラーおばさまが処方した蜂蜜入りのハーブテイーをゆっくり飲み干して、カレル教授が元気を取り戻した。

 教授はハル先生から血糊のついた愛用のハットを返してもらうと、一振りして斜めに被った。

「私を助けてくれたこのハットは、ハルからの婚約記念のプレゼントです」 

 教授は右手でハル先生の肩を優しく抱いた。

「あらためてみんなに紹介します。私のフィアンセのハルです」

 美人のハル先生がカレル教授に飛びついて、熱くて長いキスをした。

 匠が派手に口笛を吹いて、裕大とペトロが足を踏みならした。

「今のうちに、みんなに話しておきたいことがある。ハルの誕生と君たちの秘密にかかわることだ・・」

 騒ぎが収まるのを待って、カレル教授は6人の生徒を前に、おばばから取り戻した記憶を語り始めた。

・・ハルには子供の頃から一つの夢があった。

“いつの日か必ず宇宙の方程式を完成させる”という壮大な夢だよ。

 人類に終末が近づいて、研究所から研究員の姿が消えていったときのことだ。

 最後の研究員になったハルが、ついに病原体に襲われて倒れてしまったんだ。

 ハルの身体の異変に気がついたとき、私はある約束をハルと交わした。

“たとえハルが命をなくしても、わたしが必ずその命を復活させてみせる。ハルが方程式を立派に完成させる日まで”と。

 それは無謀な約束だったけれども、わたしは本気だった。 

 必死の看病の甲斐なく、ハルはその日のうちに神に召されてしまった。

 ハルの横たわるベッドの側でわたしは、ハルとの約束を決行することを心に決めた。

 カレル教授はハットを脱ぎ、そっと膝の上において話を続ける。

・・その夜のことだ。

 人気のない研究室に白い法衣を身につけた見知らぬ男が突然訪ねてきた。

 驚いたわたしは思わず防犯ブザーを押したが、研究所のどこからも応答はなかった。

 法衣の男は“ハルの訃報を聞いて”バチカンのキリスト教会の本部から派遣されて来た、位の低い牧師だと名乗った。

 牧師はハルに長い祈りを捧げた。

 終わるとわたしにハルの復活を預言したんだ。

 まるでわたしの計画を見透かしているようにだ。

 牧師はドームの計画をわたしから詳しく聞き出したあと、本部から預かってきたという極秘のリストをわたしに手渡した。

 そこには教会のネットワークで見つけたという、6人の子供たちの名前と国と住所が載せられていた。

「その子供たちは例の病原体に対して特殊な免疫システムを持っていて、生き残る可能性が強いのです」

 牧師はそう言って、この子供たちと家族を至急救出して、ここ巨大ドームで収容して育てるようにわたしに頼んだ。

 6人の子供たちとはもちろん君たちのことだ。

 この不思議な牧師こそ君たちの命の恩人だよ。 

 だが、そのあと牧師を不幸が襲った。

 本部へ戻るために研究所を数歩離れたとき、外は熱風が吹き荒れていた。

 吹き上げるつむじ風が、あっという間に牧師の身体を空に持ち上げて掠っていったんだ。

 あれが幻視なのか、それとも現実だったのか、わたしにはいまだに分からない・・

 話を続けるカレル教授の手の中でハットが激しくまわった。

「牧師から励ましと預言をもらった私は、ハルと交わした約束を決行した。採取したハルの遺伝子をナノ・レベルに縮小したユニット・モデルを無数に作り上げた。そしてそのユニットを使って世界最小の量子コンピューター“ハル”を完成させた」

・・ハルはいまでも君たちとともに成長を続けている。

 たとえ君たちの両親やわたしや校長先生や医務室のおばさまの魂がこの世から消滅したとしても、ハルは君たちの側に寄り添ってくれる。

 ハルは君たちの未来のために尽すようにプログラミングされているのです。

 そしてハルはいまも大好きな宇宙の方程式に挑戦しています・・。

 話し終えたカレル先生の手から、廻していたハットが勢いよく宙に飛び出してしまった。

 ハル先生が素早く立ち上がって、ハットを受け止め頭にかぶった。

 つぎにハットを斜めに少しずらして、ポーズを決めるとみんなにウインクした。

「とんでもない私の秘密に驚かないでね! あらためまして、よろしくね!」

 挨拶したハル先生の顔は晴れ晴れとして、一点の曇りもなかった。

 6人の生徒達が歓声を上げてハル先生に飛びついていった。

・・・医務室の柱の陰で「6組の家族の救助」を軍に指令した当時の総理・校長先生と蔭の総理・ヒーラーおばさまが仲良く肩を寄せ合っていた。
 

・・・ペトロの横でマリエが不思議な牧師のことをカレル先生にしつこく質問している。

「で、カレル先生、その牧師さんは夜空に消えていなくなったというの?」

「そうだよ、最初、牧師の白い法衣が熱風に持ち上げられてはためいた。それから身体が夜空に浮かび上がって・・遠い闇に消えていったようにみえた」

「その牧師さんの目の色はどんなだった?」マリエが聞く。

「はっきりと覚えている。澄み切った青い色をしてた。深い湖のような瞳だった」

 マリエの表情がこわばってきた。

 ペトロの耳にマリエの心臓が激しく高鳴るのが聞こえた。

 マリエの目も澄み切った青だ。

 ペトロはマリエから何度も聞いていた。

 “マリエのパパはポーランドの首都ワルシャワの郊外、丘の中腹にあるキリスト教会の牧師よ。

 “次から次に近所の人が亡くなって、お葬式で教会が大忙しになった頃、突然パパはマリエに一言も言わずにどこかへ逃げていったの。

(もしかしたら牧師の正体はマリエの・・)

ペトロが思わず呟いたとき、マリエが小さな声でペトロに言った。

「パパがいなくなったのは救助の人がやって来たちょうど2日まえのこと。パパは仕事でしばらく留守なのとママがいってた。ママは嘘つきと思ってたけど、空に消えた牧師はパパかもしれない。パパは牧師の勤めから逃げたのじゃなくて、私達を命がけで助けてくれたのかもしれない」

「このことみんなに内緒よ!」

 マリエが小さな手でペトロの手をつかんだ。 

「分かった、極秘事項だ!」

 ペトロもあわててマリエの手を握り返した。

・・ペトロにはどうしても納得がいかないことがある。 

 マリエのパパは僕たち6人のことをカレル教授に頼んだあと、熱波に掠われて空に消えた。

 みんなを病原体から救うために必死で実験をしたハル先生も命を失った。 

 カレル先生も校長先生もヒーラーおばさまもじつは仮装している幽体だ。

 未だに内緒にしてるけれど、パパやママも幽霊だ。

 僕たちを命がけで育てたのに、みんなたった一つの命を失った。

「一体誰がこんなひどい仕打ちをするのか? 神様が犯人なら、捕まえてとっちめてやる。でないと気が済まん!」

 ペトロのブレーンに血が上って、ブーンと鳴った。

・・・

「一つ覚えておいて欲しいことがある。おばばから取り返した凍結ボックスのことだ」

 カレル教授がベッドでなにか言ってるけど、ペトロはまるで上の空だ。

「ペトロ、凍結ボックスとはなにか、みんなに説明してくれますか」

 ベッドの側に置かれた箱を指さして、カレル教授がペトロに話しかけている。

 「ペトロ、先生が凍結ボックスのこと聞いてる!」

 マリエにいわれてペトロは我に返った。

「えーっと、それはノアの箱舟です」

・・選ばれた動物の種を保存したボックスで、中には動物たちの幹細胞が凍結保存されています。

地球に緑が戻ってくれば幹細胞を再生して、野生動物や大事な家畜として育てあげることができます。

このボックスは、えーっと・・いま世界に3つあって・・

これはおばばが盗んだのを取り返した分で、あと二つは図書館の奥にある実験室のなかです。

例え誰かに盗まれても決して無くならない方法で隠されています・・。

「ペトロ満点です。・・・それではみんなに質問します。この動物たちを再生出来る日が来たと仮定します。再生したあと、動物たちを育てる上で私たちが必ず守らなければならないこととは何でしょうか?」
 

 答えを期待したカレル教授が、6人の生徒の顔を順番に見回した。

 いくら待っても誰からも返答がなかった。

 カレル教授は悲しそうに肩をすぼめると、だれもいない壁の方を向いて黙り込んでしまった。

 咲良とエーヴァが生徒会長の裕大に囁いた。

「ほらあれよ、きっとあのことよ。『先生が私たちに伝えたかったこと』」 

「それだ!」裕大が慌てて立ち上がった。

「カレル先生! 僕らが守らなければならないこと、それは生き物たちの尊厳を守ることです」 

 振り向いたカレル教授の顔が嬉しそうに崩れて、次の言葉を待ちこがれている。

「ペトロ、フォローしてくれ」

 裕大に脇腹を突つかれて、ペトロが立ち上がった。

「ただいまの生徒会長のコメントは先生に対する解答のほんのイントロでございます」 

 カレル教授がにやりと笑った。

「ほう~ペトロ、それではその続きとやらを教えて頂く訳には参りませんでしょうか」 

 教授は待ちきれないといった表情で愛用のハットをクルクルと廻し始めた。

 ペトロが裕大を指さした。

「食べ過ぎない、残さない」

 裕大が始めた。

「生き物と仲よくする。でないとホラーの逆襲に遭う」

 咲良が続ける。

「大事な緑は瞬時にいなくなった、なぜか?」

 匠が疑問を投げた。

「惑星テラには緑。地球は荒れ地」

 エーヴァが疑問を繋ぐ。

「我々を超える存在が我々に怒っている」

 マリエが締めくくった。
 

 カレル教授がベッドの上に立ち上がって、愛用のハットを天井に飛ばした。

「お見事! みんなの答えは私達が抱えている問題の核心を突いた。解決へのヒントまで隠されている。もう私の授業は必要がなくなった。本日をもって終了。生徒の皆さんは卒業とします」

 満面に笑みを浮かべたカレル先生はベッドを出て、一人で歩き出した。

「今から私はおばばに拉致されていた1週間分を休ませてもらう。急用でないかぎり誰も起こさないように!」

 カレル先生は自分の個室に戻ってドアを閉めると、愛用のハットを慎重に専用ブラシで掃除してから、デスクの引き出しに仕舞いこんだ。

 それから乱暴に服を脱ぎ捨て、「イエーイ」と一声叫んで、特殊魔法瓶に飛び込んでいった。

 最後に、誰にも邪魔をされないように中から蓋をした。

 しばらくしてハル先生が個室を覗き込むと、教授のいびきが魔法瓶を規則正しく揺らしていた。

「カレル、ゆっくりお休みなさい」

 ハル先生はそう言って医務室に戻った。 
 

××

 医務室に残った生徒たちは、ペトロの神殿のミーティングの続き「これからの行動計画」を検討し始めた。

 ハル先生がナノコンを取り出してシミュレーションを開始した。

 なんだかいい匂いが漂ってきた。

 ヒーラーおばさまが厨房に立って、お腹の空いたみんなのために大好きなスペシャル・カレーを作り始めた。

「ペトロ! ある生命の種が絶滅しないで生存をつづけられる最低限の個体数はいくつだ?」

 口いっぱいにカレーをほおばりながら、裕大がペトロに尋ねた。

「僕たちのことだね?」

 カレーを食べ終わったペトロがすかさず聞き返した。

「そうだ、この地球に俺たちの他にだれがいる?」 

 偉そうに答えた裕大の声が、切ないトーンに切り替わる。

「ペトロ頼むから6人だと答えてくれ」

「まえにアーカイブ図書館の学術記録をスマホから調べたことがあるよ。個体数が6だと遺伝子的に問題が出て来るかもしれない。そうだ、図書館長のハル先生に調べてもらおう」

 ペトロがハル先生に近づいていって相談をはじめた。

「ペトロ、これシミュレーションが膨大だから少し時間をもらうわね」

 ハル先生がナノコンを図書館のアーカイブとつないで、カタカタと計算をはじめた。

 しばらくして・・「みなさん答えが出たわよ」

 カレーを食べ終わった 6人がハル先生に駆け寄って、ナノコンのディスプレーを覗き込んだ。

 数字と記号が一杯で意味不明。

 ペトロが得意顔で解説を始めた。

「えーっと・・前提・・地球環境が正常に復元したとき・・100年から1000年後の人類の生存確率が90~95%であるためには・・存続可能な最小個体数は・・500~1000人必要

 緑の文字から赤い数字を読み上げるペトロの顔が青ざめていく。

 裕大がため息をついて、匠が下を向いた。 

 咲良とエーヴァとマリエが床に座り込んでしまった。

 深夜に、会議の結論が出た。

 逃げていった緑の惑星テラを呼び戻そう。

 地球と融合させて元の緑の地球を復元しよう。 

 そして小さなエドたちや緑の植物や蘇った動物たちと仲良く暮らそう、という計画だった。

(続く)

続きはここからご覧ください。

スペース・イタチ一族の長(おさ)、パパ・ゴルゴンが薄ら寒い地下の穴蔵で焚き火を起こした。 パチパチと火がはぜて暖かくなってくると、焚き火のまわりに子どもたちを集めた。 「いまのうちにお前たちに伝えておかなきゃならんことがある。俺たち一族の話だ」  パパ・ゴルゴンは長ーい話を始めた。

【記事は無断の転載を禁じられています】

The following two tabs change content below.
下條 俊隆

下條 俊隆

ペンネーム:筒井俊隆  作品:「消去」(SFマガジン)「相撲喪失」(宝石)他  大阪府出身・兵庫県芦屋市在住  大阪大学工学部入学・法学部卒業  職歴:(株)電通 上席常務執行役員・コンテンツ事業本部長  大阪国際会議場参与 学校法人顧問  プロフィール:学生時代に、筒井俊隆姓でSF小説を書いて小遣いを稼いでいました。 そのあと広告代理店・電通に勤めました。芦屋で阪神大震災に遭い、復興イベント「第一回神戸ルミナリエ」をみんなで立ち上げました。一人のおばあちゃんの「生きててよかった」の一声で、みんなと一緒に抱き合いました。 仕事はワールドサッカーからオリンピック、万博などのコンテンツビジネス。「千と千尋」など映画投資からITベンチャー投資。さいごに人事。まるでカオスな40年間でした。   人生の〆で、終活ブログをスタートしました。雑学とクレージーSF。チェックインしてみてくださいね。

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする