僕はジャラ。
約束通り、今日も100年前の君に、未来の世界の情報送るね。
日記風で、情報量は少しずつだけど我慢して読んでよ。
このスタイルが、日常の風景写してリアルだから、一番良く理解してもらえると思うんだ。
それでは「未来からのブログ」に投稿始めるよ。
そうだ、前回の記事まだ読んでない人はここから読んでね。
未来からのブログ4号 “ ザ・レストランで三色カクテル飲んで唄ったよ”
未来からのブログ5号“皇帝クラウドマスターはクールで可愛い人工頭脳だったよ”
「ジャラジャラ」
「うるせー!」
「ジャラじゃら!」
「しつこいぞ!」
「ジャラ、お目覚めください。クラウドマスターがジャラとカーナをお呼びです」
スーツマンが僕に起きろと言ってるけど、今朝のジャラはひどい二日酔いだよ。
昨日の夜飲んだザ・レストランの七色カクテルと、そのあとのプレーのせいだ。
でもさ、クラウドマスターのお呼びなら、仕方が無い。
「うーん!」って唸りながら、ベッドで両手伸ばしたら二つのボデイーにコンタクトしたよ。
「あれッ!」
ジャラはスーツマンのボディー着たままで寝ていたよ。
そのうえパートナーのキッカと、フリー友達のカーナもボディーを身につけてた。
昨晩は、三人でボディー装着したまま、プレーしたみたいだ。
そんなことできるのかって?
そりゃーできるさ。
もともとスーツマンは僕のボデイーを再現したものなんだよ。
だから、スーツマンの頭のところに僕が収まったら、昔のジャラが完成するってわけ。
身体を失う前の僕の姿にさ。
そのうえ、ボデイーはグレードアップされてるよ。
ボデイーはジャラ専用の自動運転の最高級車みたいなものさ。
もち、身体の末端まで人工神経がジャラのブレーンとニューロンでつながってるから、ボディー感覚は最高さ。
滑るようになめらかな動きの感触をシナプスがキャッチするんだ。
これって、最高さ!
カーナもキッカも同じ。
「あっ、思い出した。ときどきカーナが僕の動きを細かく指導してくれたよ」
・・修正! 右上方13度! とか言ってたよ・・。
わかった?
ひどい二日酔いの原因が・・。
きっと・・
おいしいこと二つもしたあとの罰だよ。
「カナカナカナ」
「きやっきやっ」
可愛い声でスーツレディーがやさしくカーナとキッカを起こしたよ。
で、三人で出かけることにした。
良い天気だ。
三人で手を繋いで歩いたよ。
ジャラが真ん中だよ。
またあの唄が始まった。
「I left my heart in Sanfrancisco・・」
大きな交差点にやって来て、パートナーのキッカは二人と別れた。
キッカは娘のクレアと息子のボブに会いに行くんだ。
二人が「勉強してる」ドリームワールドへだ。
月に一度の面会日だから、ジャラも一緒に行く予定でとっても楽しみにしてたんだけどさ、皇帝がお呼びだから仕方が無い。
ジャラとカーナはキッカと別れて、ザ・カンパニーに向かったよ。
・・・
「♯チャンチャカチャン、チャカチャー、チャカチャー♭」
ザ・カンパニーの最上階にあるミーティングルームに、いつものテーマソングが響いて、皇帝クラウドマスターが登場した。
「二人とも、せっかくの休みのところ急に呼びだしてすまない。・・で、ジャラ、おじいちゃんとの話はどうなった?」
マスターはいきなり攻勢をかけてきた。
マスターは史上初めて人類のレベルを超えた人工の知能“シンギュラリティー一号”だからいくら考えても、疲れることが無い。
でも、ジャラは二日酔いだ。
この差は歴然だ。
ジャラは大事なおじいちゃんとの固い約束があるから、うかつにマスターと話を進めるわけにはいかない。
ジャラは当たり障りのないところから話を始めたよ。
「僕は入り江の海で、おじいちゃんと話をしたよ。量子もつれでコミュニケーションしたから、話は途切れ途切れでわかりにくかった。でも、おじいちゃんは未来のことをとっても心配してたよ」
ジャラの予感では、マスターとおじいちゃんの二人は天才と奇才だから、二人の関係式は平行線で、話の折り合いはつかないと思ったんだ。
そのうえ二人ともせっかちで、頑固だからね。
「ジャラ、話を早く進めよう。ジャラとジャラのおじいちゃんとの話は、すべて聴こえた。スーツマンが実況中継してくれた。そのあとのザ・レストランの一部始終もだ。だから説明抜きだ。このあとの過去の世界との交渉ごと、つまりおじいちゃんとの話の進め方、ジャラはどうするのか早く答えが聞きたい」
予想通り、マスターがいきなり押してきたので、ジャラはすこし引いて、斜めから押し返してみたよ。
「マスター! 僕の話が“聴こえた”と言ってたけど、その言い方間違ってるよ。“盗み聞きした”と言うべきだよ。クラウドマスターがこの世の世界と人類のために、いろんな情報を集めることはとても大事で、必要なことだと思うよ。そのうえ、スーツマンはマスターの身体の一部で情報ネットワークでつながってるから、ジャラの話がマスターに筒抜けだってことも知ってる。でもさ、いやなことはいやなんだ」
マスターが黙ってしまったので、ジャラは続行したよ。
「マスター、ジャラの気持ちわかってくれる? まさかそのあとの僕とカーナとキッカのプレーまで聴いた・・なんてことないだろうね?」
そしたらだよ、マスターの顔が赤く染まったのさ。
人工頭脳に年齢はないけどさ、ジャラに言わせたら、マスターの感情線は人間の高校生ぐらいかな。
どう~? マスターって可愛いだろ・・?
・・聴いてたんじゃなくて、感じてたんだよ・・
その時だよ、ジャラのお腹が“グーッ!”て鳴ったのさ。
そしたら釣られたみたいにカーナのお腹も“クーッ”てちいさな音を立てた。
僕たち一級頭脳労働者は身体を使わないので朝食を取らないけど、今朝はずいぶん歩いて来たので、お腹が減ったみたいだ。
次の瞬間、僕とカーナの前のテーブルに、銀の皿に載せられた二品が、ナイフとフォークと共に差し出されたよ。
「盗み聞きしたこと、これでチャラだよ。ジャラ」
マスターがすまし顔で言ったので、よく見たらそれ生牡蠣の形してたんだ。
「ハマハマとくまもとのブランチだよ。サンフランシスコの名物、生牡蠣って、一体どんな味か、レシピ調べて作ってみたんだ」
マスターが勧めるので、僕とカーナは遠慮無く頂いたんだ。
舌の上で転がしたら、濃厚なソースが絡まって絶品だったよ。
最後は、のどごしでつるりと、とろけたよ。
流石、マスターが僕らのために用意してくれた手作りの二品、合成品だけど凄い技に感動したよ。
宇宙皇帝のピュアー・エネルギーを吸収して、二日酔いがどこかへ飛んでった。
「で、ジャラ、急がせて悪いが、早く結論を聴きたい」
ジャラのブレーンが一気に動き始めたよ。
「マスター! この話ぐるぐる回るから良く聴いてよ」
ジャラは紙ナプキンで口のまわりについた生牡蠣のソースをきれいに拭った。
それから、頭に浮かんだことを整理しながら話した。
「始めるよ」
・・おじいちゃんは、未来の情報が欲しいと言ってる。
それで、僕は現在の僕の日常を少しずつ切り取って、おじいちゃんのブログに投稿しようと思う。
“未来からのブログ”と言うタイトルだよ。
投稿の方法はこれから考えるところだ。
ところが、この間、宇宙基地のクラウド情報センターで、たまたま過去のブログ集をライブラリーでみてたらそのブログが既にあった。
ただし記事の大部分が白紙のままになってた。
多分空白のところをこれからジャラが埋めて書くんだと思う。
ジャラが日常を書いておじいちゃんに送る。
おじいちゃんはそれを読んで、未来への対策を立てると言ってるんだ。
おじいちゃんの世界は、人間がエネルギーを使いすぎて、地球がだんだん熱くなってるって言ってたから、その対策だよ。
つまり記事をネットに公開して、未来への警鐘を鳴らしたいんだと思う。
このままだと、こんな未来になっちゃうぞ!って言いたいわけだ・・。
「ここまでの話、マスターは理解できる?」
「理解できるが、問題が山ほどある」
クラウドマスターはそう言ってジャラを見つめた。
「次はジャラが聞いてくれる順番だぞ」
・・この世に世界は山ほどある。
ジャラやマスターのいるこの世界Aもそのうちの一つにすぎない。
ジャラが昨日量子もつれで話したおじいちゃんのいる世界Bもそのうちの一つに過ぎない。
山ほどある世界を繋いでいる時空の穴も山ほどある。
エネルギーの法則で計算すると、世界Aは世界Bとブラックホールからワームホールを通じてお互いにつながっている可能性がある。
昨日の計算で私たちの世界Aからは大量のエネルギーが減少し、おじいちゃんの世界Bではエネルギーを大量に使いすぎてるという現実が確認されたからだ。
つまり過去の世界Bが未来の世界Aのエネルギーを先食いしていると言うことだ。
言い換えれば盗んでいると言うことになる。
この世の世界は無数のブラックホールとワームホールでつながっているから、エネルギーをお互いに”食い合い”しているわけだ。
世界は無数にあるから、マスターが認識できる世界観にも限度がある。
宇宙センターのスパコン・シンギュラリテイー一号・・つまり私のことだが・・にも計算の限度があると言うことだ。
ジャラが世界Aの情報を投稿して、おじいちゃんの世界Bがそれを参考にして、未来を軌道修正したとしよう。
世界Bの将来は修正されるとしてもだ、そのことが我々の世界Aにどのような影響を及ぼすのかが計算できない。
二つは平行世界だから、世界Bが省エネしたからと言って、世界Aの現状を改善するとは思えない。
今から盗まれるエネルギーは減るかも知れないが、我々の現状を変えるまでには至らない・・。
マスターがジャラに頼みたいのは、今後のことでなくて、盗まれたエネルギーを過去の世界Bから取り戻して欲しいと頼んでいるんだ。
と言うことで、マスターは、ジャラが“未来からのブログ”に投稿することは許可するが、それからどうすれば良いのかわからなくて、今“すさまじく悩んでいる”。
「ここんところ“流石の”クラウドマスターも計算できない領域に入るから、エネルギーを取り戻すための計画について、ジャラの“どて感”を聞かせて欲しい」
・・・
凄いだろ、宇宙皇帝クラウドマスターがジャラの考えを聴いてきたんだぜ。
クックッ! シンギュラリティー一号は悩むと言語中枢が乱れてくるんだよ。
イタリックで斜めに発音してるところだよ。
シンギュラリテイー一号はまだ思春期の成長過程にあるんだよ。
感情曲線でいえば僕の娘のクレアと同じくらいかな。
そうだ、ミーテイング早くフィニッシュしてクレアとボブに会いに行こう。
極秘だけれどさ、ボブにはおじいちゃんの量子もつれ遺伝子DNAを仕込んであるんだ。
ジャラはクレイジーSF書いてる爺ちゃんの末裔だからさ、そのくらいの技は持ってるのさ。
「ジャラジャラ! なに考えてる。また他のこと考えてるな」
スーツマンが警告してきて、ジャラは正気に戻ったよ。
「過去からエネルギーを取り戻す良い考えがあるよ!」
いつものように、“口からでまかせ”を考えついたときのことだ。
会議室のドアが外側からこじ開けられて、怪しい男が二人乱入してきたんだ。
(続く)
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下條 俊隆
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