「パパ大変、地球はミニ氷河期に突入するって本当? 地球は温暖化じゃないの?」
日曜日の朝、長男の匠がスマホを手に持って、リビングで新聞を読んでいるパパのところに駆け寄ってきました。
スマホをみると「2030年に地球はミニ氷河期に突入」といった記事が並んでいます。
地球温暖化の対策が叫ばれているときに、ミニ氷河期到来とは、いったいどういうことでしょう。
気になったパパは、匠と仲良く椅子を並べてパソコンに向かい、ミニ氷河期の調査を開始しました。
目次
ミニ氷河期とはなに? いつ到来する?
“地球は2030年頃からミニ氷河期に突入する”
これは、2015年7月9日に開かれた英国王立天文学会における英国の研究者の発表を受けて、世界のメデイアが叫んだトップ記事の見出しでした。
英国ノーザンブリアン大学のジャルコバ教授(女性)は「太陽の内部にある二つの磁気波の周期的な変化から、太陽活動の動きを予測する新しいモデルを確立した、精度は97%」と発表しました。
このモデルによれば、太陽の活動は2030年ころから著しく低下し、その影響で地球はミニ氷河期に入るというのです。
ミニ氷河期とは
ミニ氷河期とは小氷期(しょうひょうき・Little Ice Age)と呼ばれ、氷河期ではないけれども、周期的に現れる寒冷期間のことを言います。
ミニ氷河期は過去にも記録されています。
太陽の黒点が激減し、地球が寒冷化して、ミニ氷河期が起こった1645年から1715年の様子がつぎのように伝えられています。
・・英国のテムズ川が凍結、米国のニューヨーク市では湾が凍って、向かいの島まで歩いてわたれた。
ヨーロッパや北米大陸では冬は激寒、夏は冷夏が続き農作物は収穫が落ち、漁業は大きな被害が出た。
・・日本では江戸時代の初期にあたり湿潤な天気が続いて、農業に影響を与え、飢饉と農民の一揆が起きたという記録があります。
仮にジャルコヴァ教授の予想が正しければ、私達は間もなく、370年間にわたって人類が経験することのなかったような凍てつく気温と自然災害を体験することになります。
(参照: wired 2015.07.14)
「パパ、この予測が当たるんなら、もう地球温暖化の心配はいらないね! その代わり、めちゃ寒くなったときの準備が必要みたいだね!」
匠が安心したような、困ったような表情で言ったので、パパはあわてました。
「匠、ちょっと待った。この学説、相当前に発表されたものだ。ほら、最近の日経電子版に、そのあとの話や、反対の学説が紹介されてるよ」
パパがみつけたのは2019年6月26日付けの、日経電子版の記事でした。
記事はつぎのことを伝えていました。
ミニ氷河期の到来は断言はできない!
これは論文を発表したジャルコヴァ教授自身のコメントです。
実は教授はメディアの反応(取り上げ方)をみて、とても驚いたのです。
教授は、世界中のメディアが「ミニ氷河期が来る!」といった恐ろしげなトーンで報道したことに戸惑って、後日「気候変動には言及していません」とコメントを発しています。
学者として研究内容を数値で示すことはできても、15年後に地球規模で寒冷化現象が起こるかどうかまでは断言はできないということでした。
同時に、日経の記事はジャルコヴァ教授の論文とは反対の説があることも伝えていました。
「IFLサイエンス」という科学誌が「ミニ氷河期は15年後にはたぶん来ない」というタイトルの記事を、ジャルコヴァ教授の論文が発表された直後に掲載したのです。
この記事は、「寒冷化を心配するよりも、二酸化炭素の増加がもたらす温暖化の方が深刻である」という論旨でした。
日経電子版:地球は2030年からミニ氷河期に入るのか?
「ミニ氷河期が来るなんてセンセーショナルな学説を日本の研究機関はどのように受け止めていたのかな?」
パパはそう言って、調査を続けました。
調べていくと、“地球環境研究センター”という国立環境研究所の中核組織が、2018年6月号のセンター・ニュースの中で「ミニ氷河期は到来するのか?」というテーマを取り上げていました。
ミニ氷河期がたとえ来たとしても、温暖化を打ち消す話にはならない
地球環境研究センターの副センター長の江守正多氏の結論は明快でした。
“ミニ氷河期がたとえ来たとしても、1°Cくらい気温が下がる程度なので温暖化を打ち消す話にはならない”・・と。
前にもいいましたが、地球の北半球は300年前にもミニ氷河期と呼ばれた、寒い時期がありました。
下のグラフは過去1000年の気温変動を示したものですが、青い横線の時代がミニ氷河期(小氷期)です。
小氷期と呼ばれたこの時代は、太陽活動が非常に弱い「マウンダー極小期」と呼ばれていました。
このころ、太陽の活動を示す黒点が現れない時代が70年くらい続いたといわれています。
その頃どれくらい寒かったかというと、産業革命前の平均気温より0.5°C、どんなに大きく見積もっても1°Cくらいの低下だったそうです。
現在太陽活動は実際に弱まっていて、マウンダー極小期のような長期的な弱まりがこれからくるかもしれないと考えている太陽の研究者は多いようです。
それが地球の温度を下げる効果をもつということは十分考えられますが、その大きさが1°C未満ならば、温暖化をすべて打ち消すような話ではありません。
(地球環境研究センターの副センター長 江守正多)
江守先生はミニ氷河期の到来を否定し、人間が引き起こしている温暖化現象の深刻さにもっと目を向けるべきだと言っています。
このグラフをよく見ますと、20世紀末から21世紀に向かって、急激な温度上昇のカーブがみられます。
このような急激な温度上昇は自然現象だけでは説明が付かないと江守先生は言っています。
この温度上昇は、人間の生活や経済活動の影響によるものだと断言しているのです。
「匠、残念だけど、太陽の活動が弱まったとしても、地球に人間がいる限り、温暖化は止まらないということだよ」
パパはそう言って、パソコンの手を止め、両手を天井に思い切り伸ばして調査活動を一休みしました。
「パパ!休んでる場合じゃないよ。ほら凄いのが出てきたよ!」
自分のスマホで調査を続けていた匠が大声を上げたのです。
パパは匠が差し出したスマホの画面を見て驚きました。
“ホットハウス・アース!の危険性、気温が2度上昇すると地球は温室化する”
「パパ、この記事、気温がたった2度上がっただけで、地球のスイッチが切り替わって、どんどんホットな温室になっていくっていってるよ。人の住めないところが一杯できるって! “ホットハウス・アース”っていったい何者?」
「ん・・なぬ?」
パパは椅子に座り直して、直ちにパソコンの調査を再開しました。
「ホットハウス・アース」 の危険性 CO2削減でも気温が2度上昇すると地球は温室化?
「地球温暖化で“ホットハウス・アース”の危険性がある」
2018年8月6日、米国科学アカデミー発行の学術誌(PNS)に寄せられた科学論文が海外のメデイアで衝撃的な内容として紹介されていました。
論文の著者はオーストラリアのWill Steffen教授を筆頭とする国際的なメンバーで、世界の持続可能性研究をリードしている専門家たちです。
NEWS JAPANの報道によれば発表の内容は・・「人類が頑張って、世界の平均気温の上昇を2℃程度に抑えたとしても、地球はうだるような温室“ホットハウス・アース”になる危険性がある」といっています。
上昇温度が2℃を越えれば、温暖化現象は不可逆な道に向かってスイッチを切ってしまうのだと。
これまで人類の味方であった地球のシステムはその時点で、人間の手に負えない敵に変わり、地球は長い灼熱地獄に向かう危険性があるというのです。
地球の気温を2℃前後に抑えるというのは2015年のパリ協定で合意された目標です。
米国政府のパリ協定からの離脱宣言だけでも大騒ぎなのに、パリ協定の目標を達成できたとしても温暖化は止められないとなると、これはもう“破滅的な予言”と言わざるをえません。
ホットハウス・アースとはいったい何者でしょうか?
ホットハウス・アースとは何者か?
研究論文によると、ホットハウス・アース期に入った地球では過去120万年で最も高い気温を記録することになります。
地球の気温が産業革命以前と比べて4~5度高くまで上昇し・・地上のあらゆる氷が溶け出し、海面は現在より10~60メートル上昇するだろうと言っています。
「なんだと! せっかく新築したのに、匠、わが家はすぐ山の上に引っ越しだ!」
パパが悲鳴を上げています。
ホットハウス・アースとは、地球の多くの地域で人が住めなくなる状態を招く、人類の手に負えない悪循環のことなのです。
その理由は、「何百万トンもの温暖化ガスを含有している永久凍土や、アマゾンの熱帯雨林といった自然界のいい味方だったものが、吸収する以上の炭素を吐き出して、ますます温室化を進めるといった悪い循環を始める危険性がある」のだと説明しています。
「温暖化対策として、現在のCO2削減計画では不十分で・・気温上昇が2度を超えた段階で地球のシステムは友人から敵に変わる。人類の運命は、均衡を乱した地球のシステムに完全に委ねられる」
研究チームは、2度温度が上がるだけで、地球の気候は人間のコントロールが効かないホットなお手上げ状態に突入するかもしれないと言っているのです。
「匠! これマジ、エライこっちゃ!」
「ほんまや! パパ、なんとかせんかい!」
記事の中身が手に負えなくなってきたパパと匠は、ふざけた会話で気持ちを立て直して、シリアスな調査を続けました。
でもなかなか良いニュースがみつかりません。
パパ、何か良いニュースはない?
匠がそういったとき、パパがNEWS JAPANの記事の最後にホットハウス・アースの問題に対する答えとヒントをみつけました。
「ホットハウス・アースへのシナリオは回避できるが、その為には地球との関係を根本的に見直さなければならないだろう」
研究の共著者でコペンハーゲン大学に所属するキャサリン・リチャードソン教授はこのように答えています。
「今世紀半ばまでに化石燃料を使うのを止めるだけでなく、木を植えたり、森林を守ったり、どうやって宇宙から降り注ぐ太陽光を地球に届くまでにさえぎるかとか、大気中から直接炭素を取り除く機械をどうやって開発するかといった根本的なことに技術と労力を割いていかなければならない」
・・我々はこれからは、地球の世話役にならなくてはいけないのだ・・と。
ホットハウス・アースについて他の科学者はどう言っているのか?
このショッキングな論文に他の科学者はどのように反応したのかが気になって、パパは調査を続けました。
NEWS JAPANの別の記事によりますと、驚いたことに、一部の科学者はこの論文の結論はまともなものだと支持していたのです。
英イースト・アングリア大学のフィル・ウイリアムソン博士は「人類が気候に与えた影響で地球の自発的冷却システムを人類は越えてしまったということだ」と、論文を肯定的に解説しています。
先述の国立環境研究所、地球環境研究センターの江守正多先生がこの論文を解説している記事をパパがみつけました。
はじめに論文の著者は国際的なメンバーで、世界の持続可能性研究をリードしている専門家たちだ、と紹介した上で先生はつぎのように言っています。
- この論文で、「2℃」の気温上昇で臨界点(スイッチの入る点)を超えるという定量的な分析は示されていない。
- パリ協定の目標を達成しても“臨界点を超える”ことは、極めて不確かだが、可能性として排除することはできない。
- これらの現象の多くはゆっくりと進行するため、たとえ起こるとしても数百年以上の時間をかけて起こるだろう。
・・と述べてつぎのように締めくくっています。
未来の地球は不確かさで満ちている。
地球システムの様々なフィードバックも、太陽活動の変動も、そして我々人類の社会がどのように変化していくかも不確かな中で、人類は持続可能な未来を切り開いていかねばならない。
そのためには、今回の論文が提示するような問題を、科学者だけでなく、社会全体で考えていくことが求められているのだ。
(江守先生の記事、詳しくは下記をご覧ください)
「匠、先生方の話をまとめるとだ・・ホットハウス・アースは起こらないとは言い切れない。しかしホットハウス・アースを確実に防ぐ方法をまだ僕らは持たない。みんなでがんばってみつけなくっちゃということかな・・?」
パパがなんだか歯切れの悪いまとめをしたときです・・。
「パパ、凄く明るい記事が出てきたよ」
匠がみつけたのは、大気中のCO2を低コストで直接・吸収する画期的な新技術をカナダの企業が開発したという2018年6月の記事でした。
カナダのカーボン・エンジニアリング社は、低コストで大気から二酸化炭素を回収し、それを水素と合成して“炭素フリー”という夢の液体燃料を作ることに成功したと発表していました。
夢の“再生可能エネルギー1oo%社会”実現への一歩となるかもしれません。
「ほらパパ、知恵をひねって行動したら解決策はあるということだね」
匠が明るく言って、顔をしかめています。
「匠、いい話なのに、なんでしかめっ面してるんだ?」
「みんなでがんばろうとパパが言ったから、さっきからおなら我慢してるんだよ。メタンガスでこれ以上地球の温度をあげないようにね」
「それ身体に悪いから、パパがOKするよ」
ちいさなおならの音が聞こえて、匠とパパは顔を見合わせて大笑いしました。
(おわり)
“地球は大丈夫?”シリーズ記事をご覧ください。
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下條 俊隆
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