未来からのブログ11号 クレージーじいちゃんが時空を越えてやって来た!

 

知ってる?

ジャラのじいちゃん、60才で若い女性にナンパされたんだよ。

 

かっこよかったクレージーじいちゃんのいつもの自慢話だ。

銀座の混み混みの地下コンコースでの出来事さ。

 

ブロンドの可愛い女性から「アフタヌーン・ティーでもいかが?」って誘われたんだってさ。

クラウドマスターがジャラのじいちゃんのキャラとスタイル盗んだわけわかったでしょ?

 

2119年にナンパなんてことありえないよ。

だって繁華街とか混み混みの地下街なんて地球のどこにもないからさ。

 

地球はめちゃ暑くなってさ、人工ガタ減りで、町並みは残ってるけど人気(ひとけ)がないんだ。

でさ、そんな街へこれからみんなで繰り出すことになった。

 

もち、入り江の浜でジャラのじいちゃんに会うためにだよ。

未来からのメッセージできたから、クレージーじいちゃんに届けなくっちゃね。

 

前回のストーリーまだの方はここからどうぞ。

未来からのブログ10号 クラウドマスターがジャラのじいちゃんのキャラ盗んだ?

 

未来からのブログ11号  クレージーじいちゃんが時空を越えてやって来た! 

 

夕陽が落ちてきて、日暮れが近づいた。

ジャラ達、めちゃ暑くて人気のない街を必死で走ったよ。

 

地球はエネルギー不足だから乗用車なんて贅沢なものはないんだ。

スーツマンの足だけが頼りさ。

 

スーツマンって何者か・・覚えてくれてるよね。

僕はブレーン、スーツマンはかっこいい僕のボディーさ。

 

“GO! スーツマン!” 

ジャラがスーツマンに命令して、二本の足を回転フットにギヤチェンジしたから、時速60キロはチョロいもんだ。

 

「イエーイ!」

ジャラの右肩の上で風を受けながらタカさんが叫んだ。

 

「ヤッホー!」

カーナのスーツマンの背中でチョキが吠えたよ。

 

僕らの上空を、ハル先生を背中に乗っけたクラウドマスターが入り江の浜辺に向かって飛んでた。

ほら、SF映画のX-MENシリーズでプロフェッサーXとジーン・グレイが非常事態で空飛ぶシーン・・あれだよ、あれ思い出してよ。

 

ハル先生とマスターの正体は量子スパコンの人工知能だけど、現実世界での表現としては純粋エネルギーでできたプラズマだからさ・・。

ザ・カンパニーの会議室から入り江の浜辺へ行くことなんて、ちょい身体ずらしたら瞬間移動できるんだけど、ついでに初めての空飛ぶデートを楽しんでるんだよね。

 

二人は僕らの地球みたいに“ただいまHOT & HOT” なのさ。

で、入り江の浜辺に着いた。

 

そしたら妻のキッカがクレアとボブを連れて、僕らを待ってた。

「ボブとクレアがクレージーじいちゃんにどうしても会いたいっていうもんだからさ・・ハル先生も急のお休みで授業もなくなったから三人で学校抜け出してきた」

 

キッカが口とんがらかしてジャラに説明してる最中に、マスターがハル先生乗っけて空から降りてきた。

マスターの背中から降りたハル先生、キッカとカーナとボブみて、恥ずかしそうにぽっと顔赤らめた。

 

「あらハル先生、どうしてマスターの背中なんかでいちゃいちゃして・・」

キッカの目つきが怪しく輝いてきたので、ジャラはハル先生とマスターが婚約したこと伝えたんだ。

 

それ聞いて喜んだボブとクレア、ハル先生に飛びついていったよ。

で、みんなでもう一度大騒ぎしたってわけ。

 

タケさんが掛け合いのショートコントで初恋の二人を笑わせてさ、キッカとカーナがラブラブソング唄ってだよ、チョキがハサミでチャカチャカってリズム取ってさ、ハルちゃんとマスター真ん中にしてボブとクレアとジャラで囲んで輪になって、きれっきれのアイリッシュダンスしたってことさ。

 

で、気がついたら、入り江の浜の夕陽が陰ってたんだ。

「やばい!」ジャラが叫んだ。

 

・・で、気がついたら、タンジャンジャラの夕陽が陰ってた。

「やばい!ジャラなにしてる!」

 

プロフェッサーGは腕にはめた手製の時空時計をちらっと見て、タンジャンジャラの白い浜に夕陽が無情に落ちていくのを睨んだ。

“プロフェッサーG”とはジャラの祖父つまりクレージーじいちゃんのことだ。

 

Gのプロジェクトは計画の半ばまで到達していた。

ここ秘境の地で秘かに妻に仕込んでおいた“もつれ遺伝子”が効果を現して、二日前の夕刻、Gはこの浜辺で孫のジャラと時空を越えた“量子もつれ”を起こした。

 

そのとき、Gは白い浜辺に現れたジャラの手に、過去からのメッセージを刻んだサンドレターを渡した。

その返事を受け取る刻限がもうすぐやって来る。

 

昨日は、ジャラの“もつれ遺伝子”経由で、ひ孫のボブとまでつながることができた。

「ボブは大物になる。あいつクラウドマスターとか言う怪しげな天才男と口喧嘩して、みごとにやっつけてたもんな・・」

 

“流石おれのひ孫!” 

にやりと笑ってGはもう一度腕の時空時計をみた。

 

「頼む、ジャラ急いでくれ。時間切れで世界を救えなくなるぞ!」

 

Gはもう待ちきれずに白い砂の上を裸足で歩き、浅瀬の海に入った。

そして両手を夕陽に向かって差し出し、波に向かって叫んだ。

 

「ジャラ! 早く手を伸ばせ! 量子もつれがほどけそうだ」

Gはそのまま海に飛び込み、水平線に沈みかかった夕陽を追いかけて泳ぎだした。

 

そしてボブに聞こえるように水中で唄った。

「らむだじーみゅーにゅー」と。

 

・・ジャラは焦ってた。

入り江の浜から夕陽が消えかけていたのさ。

 

辺りはほの暗くなった。

その時だよ・・波間からかすかにじいちゃんのしゃがれ声が聞こえたんだ。

 

水平線に沈みかかった夕陽に向かってジャラは必死で両手を伸ばしたよ。

片手にはじいちゃんに渡すメッセージサンドの入った小さな箱をしっかりにぎってた。

 

でも、ジャラの手が捉えたのは、クレージーじいちゃんの手ではなくて、波のしずくだった。

その時だよ、ジャラの横で突っ立ってたボブが震えだしたのは。

 

ボブは震えながらあの暗号を唱えてた。

Λgμν

「らむだじーみゅーにゅー」と。

 

ジャラも声を上げて一緒に唄ったよ。

クレアとキッカとカーナがソプラノして、チョキが三拍子でリズムとって、タカさんテナーで、マスターにハル先生までプラズマ振るわせて・・全員が声を上げて復唱した。

 

「♯らむだじーみゅーにゅー」と。

みんなの声は夕陽に向かって弾けた。

 

その時ジャラは感じ取ったんだよ・・あれだよあれ。

入り江の浜が震え出したんだ。

 

そして世界が、僕らの宇宙が膨張を始めた。

入り江の浜が少しずつタンジャンジャラの白い浜辺に向かって膨張を加速したんだよ。

 

ジャラは右手を必死で伸ばした。

ボブは必死で左手を伸ばした。

 

・・プロフェッサーGの耳に、合唱するみんなの声が波間の奥から届いた。

「ボブいいぞ、そっちの宇宙を膨張させろ! もう少しで手が届く」

 

Gの前方に、波間に揺れながら大きな手と、小さな手が現れた。

Gは両手を伸ばして、二つの手をつかんだ。

 

・・ボブは感激した。

「やった、これクレージーじいちゃんの手だ。間違いないよ。バーチャル教室で僕の頭優しく撫でてくれた手だ」

 

ボブはうれしくて、もう一度じいちゃんに教えてもらったアインシュタイン宇宙の膨張係数をでっかい声で唱えた。

「らむだ~爺、爺にゅー!」と。

 

・・その瞬間だよ、じいちゃんの身体が波間から飛び跳ねて、宙を飛んで入り江の浜に落ちたんだ。

そうなんだ・・ボブの言い間違いが宇宙の膨張エネルギーを時空のプラス方向に放射させたんだよ。

 

で、じいちゃんは過去から未来の宇宙に吹き飛ばされたってわけ。

距離にしてたった数メートルのことだけどさ、時空に直すとおよそ100年・・でも宇宙の年齢は138億年ぐらいだから、ちょっと散歩してて石ころにけつまずいたくらいのものだよ。

 

じいちゃんは海水にぬれた綿パンの砂をたたき落として、入り江の浜辺からさっと立ち上がった。

夕陽を背にじいちゃんは背筋を伸ばし、髪の毛一振りしてハスキーな声で言ったよ。

 

「やー、ジャラ! おれ、クレージーじいちゃんだ。どうだ100年前のじいちゃん、かっこいいだろ?」

ジャラはじいちゃんに駆け寄って、抱きついて、泣いたよ。

 

だって、ジャラのママがひどい暑さで急に亡くなったとき、ママが最後にジャラに残した言葉を思い出したんだ。

 

「ジャラ、頑張って生きていくんだよ。

“ジャラはいつか地球を救う”  

お前が生まれたとき、ジャラのじいちゃんがそう言ってたよ。

いつかどこかでジャラと会うのが楽しみだ・・とね」

 

ジャラはあの言葉信じて、今まで頑張って生きてきたんだ。

肉体失って、ブレーンだけになってもだよ。

 

「じいちゃんぼくボブ。暗号間違ってごめん!」

ボブが恥ずかしそうに近づいていって、じいちゃんに謝った。

 

「いいんだボブ、こうしてみんなに会えたんだからな」

じいちゃんはボブの頭撫でて、暗くなった海を眺めたよ。

 

「でも、すぐ帰らなきゃな!」

腕の時空時計みて、じいちゃんがあわててた。

 

「あのね、じいちゃん今晩お泊まりしたら?」

クレアがじいちゃんのシャツの裾つかんで言ったんだ。

 

「美人のクレアにそんなこと言われたらじいちゃん、考え込むな」

じいちゃんそう言ってクレアを抱き上げた。

 

それからすこし考えて、じいちゃんはまわりを取り囲んだ僕たち全員に向かって言ったんだ。

「100年前のクレージーじいさんだが、どこかで一晩お泊まりさせてもらえるかな?」ってね。

 

(続く)

続きはここからどうぞ。

 

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下條 俊隆

下條 俊隆

ペンネーム:筒井俊隆  作品:「消去」(SFマガジン)「相撲喪失」(宝石)他  大阪府出身・兵庫県芦屋市在住  大阪大学工学部入学・法学部卒業  職歴:(株)電通 上席常務執行役員・コンテンツ事業本部長  大阪国際会議場参与 学校法人顧問  プロフィール:学生時代に、筒井俊隆姓でSF小説を書いて小遣いを稼いでいました。 そのあと広告代理店・電通に勤めました。芦屋で阪神大震災に遭い、復興イベント「第一回神戸ルミナリエ」をみんなで立ち上げました。一人のおばあちゃんの「生きててよかった」の一声で、みんなと一緒に抱き合いました。 仕事はワールドサッカーからオリンピック、万博などのコンテンツビジネス。「千と千尋」など映画投資からITベンチャー投資。さいごに人事。まるでカオスな40年間でした。   人生の〆で、終活ブログをスタートしました。雑学とクレージーSF。チェックインしてみてくださいね。
下條 俊隆

投稿者: 下條 俊隆

ペンネーム:筒井俊隆  作品:「消去」(SFマガジン)「相撲喪失」(宝石)他  大阪府出身・兵庫県芦屋市在住  大阪大学工学部入学・法学部卒業  職歴:(株)電通 上席常務執行役員・コンテンツ事業本部長  大阪国際会議場参与 学校法人顧問  プロフィール:学生時代に、筒井俊隆姓でSF小説を書いて小遣いを稼いでいました。 そのあと広告代理店・電通に勤めました。芦屋で阪神大震災に遭い、復興イベント「第一回神戸ルミナリエ」をみんなで立ち上げました。一人のおばあちゃんの「生きててよかった」の一声で、みんなと一緒に抱き合いました。 仕事はワールドサッカーからオリンピック、万博などのコンテンツビジネス。「千と千尋」など映画投資からITベンチャー投資。さいごに人事。まるでカオスな40年間でした。   人生の〆で、終活ブログをスタートしました。雑学とクレージーSF。チェックインしてみてくださいね。

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