未来からのブログ10号 クラウドマスターがジャラのじいちゃんのキャラ盗んだ?

 

「ジャラ頼んだぞ。握手は形じゃない。契約の捺印だよ」

クラウドマスターのその声、しわがれてた。

 

・・人工知能AIの声がしゃがれるなんてことありえない・・。

ジャラの背筋が寒くなった。

 

その声、ジャラの大好きなおじいちゃんの声にそっくりだったんだ。

 

 前回のストーリーはここからお読みください。

未来からのブログ9号”未来の情報送るから代わりに僕の残業を手伝ってね!”

 

未来からのブログ10号 クラウドマスターがジャラのじいちゃんのキャラ盗んだ?

 

「ジャラ、クラウドマスターは“とっしんじい”のキャラを頂いたよ」

マスターのしゃがれ声がジャラの耳を打った。

 

「えっ?」

ジャラの背筋が震えたよ。

 

この世の宇宙皇帝・クラウドマスターはじつは量子スパコンの人工知能だってことは前にも言ったよね。

2045年生まれのクラウドマスターは、人工知能としてはじめて人間の知能を追い越したんだよ。

 

シンギュラリティー1号だ。

史上最高知能のマスターがジャラのクレージーじいちゃんのキャラを盗んだって、言ってるんだよ。

 

・・IQ無制限のAIのくせに、クレージーじいちゃんのキャラまで手に入れたって?・・

 

「マスター、いつの間にジャラのじいちゃんの魂抜いたんだよ。勝手な事するなよ!」

ジャラはマスターの行為はAI行動倫理規定に違反すると結論したんだ。

 

言い換えたら、とっしんじいちゃんの孫として「頭にきた」ってことさ。

「マスター、きちんと釈明しろよ。でないとAI倫理委員会を開いて、最高刑に処しちゃうかもしれないよ」

 

スパコンの最高刑って“廃棄処分”ってことだ。

誇り高いクラウドマスターの背筋も震えたはずさ。

 

だって人材不足だから、ジャラが倫理委員会の委員長なんだよ。

・・知ってた?・・

 

「ウッ! ジャラ、最高刑はひどいよ。じいちゃんの魂を抜いたんじゃない。じいちゃんの人柄とっても気に入ったのでコピーしただけだ。性格と姿と声のところだよ」

目を細めてマスターのプラズマ姿よくながめたら、おじいちゃんの若い頃に似てきた。

 

「いつコピーした? 記憶も抜いたのか?」

ジャラは厳しく詰問したよ。

 

「きのう、ボブ経由でとっしんじいちゃんの声聞いたときだ。ボブの遺伝子経由でとっしんじいちゃんと量子もつれおこして、じいちゃんのクレージーなキャラ、すごく気に入ったのでコピーしていただいてしまった。一瞬のことだから性格と声と容姿だけだ。記憶までは手が届かなかった」

 

「マスター、かわいそうだけど、それだけで重罪だよ。人格権無視、肖像権侵害、著作権無断使用、他人の経歴詐取、他にも罪が山ほどあるよ」

「ジャラ、この世界とおじいちゃんの世界は平行世界だ。同じ世界での犯罪とはちがうと思う。おじいちゃんになんの迷惑もかけてない。もう勘弁してよ」

 

「じいちゃんの財産の継承権を持つ孫としてもう一つだけ聞きたい。動機は?」

「二つある。一つはハル先生が可愛いキャラ持ったこと。マスターもハルちゃんにプロポーズするのに自分のキャラほしかった。二つ目。ジャラのじいちゃん、女性にモテモテで真似したかった」

 

・・・その時だったよ。

観客がその場に三人いることすっかり忘れてた。

 

「これ面白いぞ!二人ともどんどんやれ!人間対人工知能の喧嘩だ」

タカさんスマホ取り出して、SNSに中継始めたんだ。

 

・・いまどき、SNSなんか見る人どこにもいないのにさ?

 

「それよりどんと腹減った!」

チョキがハサミならした。

 

「いきなりずんとお腹すいた!」

カーナが合わせたよ。

 

「ぐぐー」

ジャラの腹が鳴いた。

 

ジャラとマスターは顔見合わせたよ。

ジャラも朝寝坊したので、朝食まだだった。

 

「マスター! 罪を認めて、罰でブランチしようか?」

ジャラがマスターに魅力的な取引申し入れたんだ。

 

「罪認めた。メニューのオーダーは?」

マスターが取引に飛びついた。

 

「じいちゃんが大好きだったメニュー、生牡蠣の他にもう一つ思い出したよ。そりゃー“号入り神戸牛の刺身”さ」

 

話を聞いてたチョキがハサミならしてマスターに後ろから近づいた。

プラズマで輝いた純粋エネルギーを形のいいヒップから600グラムほど頂いたんだ。

 

「痛っ!」

呻きながらいつの間にかエプロン掛けしたクラウドマスター、チョキから渡された純粋エネルギーを変換して、神戸牛という物質を造りあげた。

 

あっという間に、できあがった霜降りが真っ白い器にきれいに盛り付けられたよ。

取り皿が6つに、醤油と生わさびをマスターが用意してテーブル・セッティング完成。

 

「で、マスターお薦めのワインは?」

タカさんがマスターにしっかり訴えたよ。

 

マスターの口から、じいちゃんのしゃがれ声が聞こえた。

「赤チリのソービニョンで我慢しなさい。結構いけるよ。このあと、入り江の浜で、ジャラのじいちゃんにサンドレター届けなきゃならんから、フルボトルで二本まで」

 

これじいちゃんの知恵に間違いない。

マスター内緒にしてるけど、じいちゃんの記憶も盗んだみたいだ。

 

「お待たせ~っ!」

可愛い声がして、赤チリが二本とワイングラスが6個、ミーティングルームに運び込まれた。

 

・・あれ? マスター入れても五人なのにグラスが6個はどうして・・・。

クイズ! 可愛い声で、ワイン運び込んできたレディーは誰だと思う?

 

分かった?

正解はハル先生だよ。

 

ハル先生入れて6人だ。

でもこのタイミングでハル先生が登場なんて・・話できすぎだと思わない?

 

「それじゃメッセージの完成とジャラのじいちゃんにみんなで乾杯しましょう」

そう言って、ハル先生はグラス片手にそっとクラウドマスターに寄り添ったよ。

 

そのとき、マスターの頬っぺた緩んだのジャラ見逃さなかった。

ジャラにはすべてお見通しだよ。

 

「おぬし、ハル先生と・・できたな・・」

マスターに近づいてジャラは耳元で囁いた。

 

「ジャラのじいちゃんのハスキーボイスと、ルックス使っただろ」

マスターの耳と肌のプラズマが“ぽっ”と赤らんだよ。

 

あたりだ。

「おめでとう!」

ジャラはマスターの手を握った。

 

「ありがとうジャラ」

マスターがジャラに御礼を言って、ハル先生をみんなに紹介したよ。

「あらためてご紹介します。マイ・レィディーのハルです」

 

いつのまにか“ハル先生”が“マイ・レィディーのハル”に変わってた。

“マイ・レィディー”ってパートナーに近い恋人のことだよ。

 

でさ、二人はみんなの前で、チューしたのさ。

そこからまた大騒ぎになって、ワインでお祝いの乾杯したってわけ。

 

これ“もうすぐ第二次シンギュラリティー”だよ。

だって、宇宙史上最高の人工知能の持ち主、クラウドマスターとハル先生が結婚するんだよ。

 

いつの日にか、二人に可愛いAIベビーが生まれるんだ。

きっとIQ測定不能のクレージーな子供だよ。

 

・・ところで、神戸牛の刺身、旨かったよ。

舌の上に乗せるだけで、いつの間にかとろけてなくなるんだ。

 

マスターの料理の腕、じいちゃんのおかげでずいぶん上がったみたいだ。

で、グラスでワイン三杯目飲んでたら、クラウドマスターが宇宙情報センターからの報告受け取った。

 

「ジャラ、サンドレターが完成した。日暮れが近づいてきたから、直ちに入り江の浜に出発しよう」

そう言って、クラウドマスターは右手の掌を固く握りしめた。

 

次にパッと開いた。

小さな透明の金属ケースの中に、白い砂粒が二つ収められていた。

 

マスターがジャラにケースを手渡した。

ケースの蓋に、ジャラのじいちゃんとの量子もつれの暗号・キーワードが記されていた。

 

Λgμν

ジャラは声を上げて読みあげた。

 

全員が声を上げて復唱した。

「らむだじーみゅーにゅー」と。

 

(続く)

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下條 俊隆

下條 俊隆

ペンネーム:筒井俊隆  作品:「消去」(SFマガジン)「相撲喪失」(宝石)他  大阪府出身・兵庫県芦屋市在住  大阪大学工学部入学・法学部卒業  職歴:(株)電通 上席常務執行役員・コンテンツ事業本部長  大阪国際会議場参与 学校法人顧問  プロフィール:学生時代に、筒井俊隆姓でSF小説を書いて小遣いを稼いでいました。 そのあと広告代理店・電通に勤めました。芦屋で阪神大震災に遭い、復興イベント「第一回神戸ルミナリエ」をみんなで立ち上げました。一人のおばあちゃんの「生きててよかった」の一声で、みんなと一緒に抱き合いました。 仕事はワールドサッカーからオリンピック、万博などのコンテンツビジネス。「千と千尋」など映画投資からITベンチャー投資。さいごに人事。まるでカオスな40年間でした。   人生の〆で、終活ブログをスタートしました。雑学とクレージーSF。チェックインしてみてくださいね。
下條 俊隆

投稿者: 下條 俊隆

ペンネーム:筒井俊隆  作品:「消去」(SFマガジン)「相撲喪失」(宝石)他  大阪府出身・兵庫県芦屋市在住  大阪大学工学部入学・法学部卒業  職歴:(株)電通 上席常務執行役員・コンテンツ事業本部長  大阪国際会議場参与 学校法人顧問  プロフィール:学生時代に、筒井俊隆姓でSF小説を書いて小遣いを稼いでいました。 そのあと広告代理店・電通に勤めました。芦屋で阪神大震災に遭い、復興イベント「第一回神戸ルミナリエ」をみんなで立ち上げました。一人のおばあちゃんの「生きててよかった」の一声で、みんなと一緒に抱き合いました。 仕事はワールドサッカーからオリンピック、万博などのコンテンツビジネス。「千と千尋」など映画投資からITベンチャー投資。さいごに人事。まるでカオスな40年間でした。   人生の〆で、終活ブログをスタートしました。雑学とクレージーSF。チェックインしてみてくださいね。

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