僕の名前はジャラ。
今日は記念すべき日だよ。
2120年のぼくの世界から、100年前のおじいちゃんに量子もつれの返事を送る日だ。
僕が最初に考えたのが次のメッセージだよ。
「未来からのブログ9号”未来の情報送るから代わりに僕の残業を手伝ってね!”」
ほらこれ36文字ぴったりで、そのままおじいちゃんのブログのタイトルに使えて便利じゃない。
でもさ、このメッセージ方々で不評だったんだ。
「ジャラは自分のことしか考えてない」ってさ。
で、皇帝クラウドマスターとのミーテイングでこのメッセージが人類の絶滅をかけた論争になったんだよ。
その話、このブログで詳しく報告するから、読んでくださいね。
(前回の記事まだ読んでない方はここからどうぞ)
未来からのブログ8号 “クレージー爺ちゃんがボブの身体に取り憑いた!”
未来からのブログ9号 “未来の情報送るから代わりに僕の残業を手伝ってね!”
「このメッセージだけど、ジャラに都合よすぎるんじゃない?」
ジャラの書き上げたおじいちゃんへの返信文読んで、カーナとタカさんとチョキがクレーム付けた。
タカさんとチョキが婚約発表した翌日、マスターとの早朝ミーティングの直前のことだよ。
ジャラが徹夜で考えた36文字のメッセージなのに悔しいじゃない。
でも、徹夜というのは真っ赤なウソで、 パーティーで白ワイン飲み過ぎたジャラは、酔っ払ってしまってそのあとのことなにも覚えてないんだ。
朝スーツ着たままベッドで目が覚めて、ポケットの中の電子メモに気がついた。
なんのメモか思い出せなくて開いて見た。
Λgμν
「らむだじーみゅーにゅー」
読み上げてジャラは驚いたよ。
ブログ読んでくれてる君も、もう覚えてしまったでしょ!
そうなんだこれ、アインシュタイン方程式の”宇宙項”なんだ。
“宇宙は膨張してる”ってこと示してる数式だよ。
この数式、ボブのおかげでジャラもすっかり覚えてしまったことに驚いたんだ。
でも本当に驚いたのはそのあとだ。
その数式は皇帝クラウドマスターが僕に渡した電子メモだったんだ。
“しまった!”
皇帝クラウドマスターと早朝ミーティングの約束したことすっかり忘れてた。
おじいちゃんに返信する36文字のメッセージについての打ち合わせだよ。
早朝ミーティングまであと1時間。
ジャラはスーツマンのおしりひっぱたいて、ザ・カンパニーへ走ったよ。
走りながら必死でメッセージを作り上げたんだ。
ザ・カンパニーのエントランスでいつもの認証チェックくぐり抜けたら、三人が僕を待っててくれた。
カーナとタカさんにチョキだよ。
「ジャラ!あと10分でマスターとの会議スタートよ。その前におじいちゃんへのメッセージ、私達三人にも見せてよ!」
カーナが手を出したので、ジャラはメッセージを書き込んだ電子メモを渡した。
カーナが大きな声で読み上げた。
・・未来からのブログ9号 “未来の情報送るから代わりに僕の残業を手伝ってね!”・・
「どうー? きっかり36文字だよ」
ジャラがそう言ったら、三人とも目をむいた。
「ジャラ、自分だけ楽しようなんて、と~んでもねーぞ」
このメッセージをタイトルにして、そのままおじいちゃんのブログに載せようとしたこと、すっかりばれてしまった。
あっという間にジャラのコメントは変更されてしまったよ。
“僕の残業”のところを”ぼくらの残業”にだ。
・・未来からのブログ9号 “未来の情報送る代わりにぼくらの残業を手伝ってね!”・・
電子メモを至急書き換えて、”ぼくら“は屋上のマスターとのミーティングルームに急いだってわけだ。
会議室でクラウドマスターがぼくらの到着を待ってた。
「23秒の遅刻だ!」
マスターが壁の時計を指さして、呻いた。
「君たちのおかげで失ったクラウドマスターの23秒は少なくとも君たちの4000倍の労働時間つまり92000秒の価値がある。これは約25時間の遅刻に相当する。四人には後日一人あたり6時間と15分の労働をとくべつに予定して頂くことにする」
今朝のマスターご機嫌斜めだ。
そういえばテーマソング「チャンチャカチャー」の最後のフレーズが部屋のドアを開けたときに聞こえた。
皇帝の入場セレモニーが行われたのに、ミーティングルームには誰も待っていなかったというわけだ。
「これはまずい!」
ジャラはあわてて三人に目配せしたよ。
・・しばらくマスターの言うこと黙って聞きましょう・・というシグナルだよ。
マスターがジャラの目配せの意味に気がついたみたいだ。
いつからかAIの学習機能に、ヒューマンの動きや表情について微妙な心理分析のスキルが加わったんだよ。
誰だよそんな余計なスキル、マスターの自己学習のプログラミングに付け加えたのは・・?
おかげでジャラ、マスターとの仕事やりにくくて仕方がない。
「ジャラ! 目配せ中恐縮だが、 お願いしておいたおじいちゃんへのメッセージ、たったいま電子メモで読ませてもらいましたよ」
マスターがミーティングの口火を切った。
ジャラ思い出したよ。
・・そうだった。あの電子メモ、マスターのスパコンにつながってるのすっかり忘れてた。筒抜けだ・・。
マスターが意地の悪い笑い浮かべて言った。
「このメッセージだけど・・つい、さっきまで”僕の残業を手伝ってね”だったのが、いまみたら”ぼくらの残業を手伝ってね”に変更されてる。
なにがおこったのかな?
推測すると、ジャラの欲張りな一人言に対して、カーナとタカさんとチョキの願望まで仲良く加わったと解釈していいのかな?」
・・ほら、マスターの心理分析スキル、見事に花開いてるでしょ。ぼくらのやり口お見通しだよ。ジャラも抗弁のしようがなくて素直に事実を認めたよ・・
「マスターのおっしゃるとおり、これはザ・カンパニーの計算チームの上級マネジャー、私たち四人が相談して決定した、”未来から過去へのメッセージ”です。ご指示通り36文字で構成しております」
クラウドマスターは、指先からプラズマを発して、電子メモを空中に映し出した。
「未来からのブログ9号 “未来の情報送る代わりにぼくらの残業を手伝ってね!”」
朗々と読み上げて、皇帝が言った。
「とても良くできてる。流石だ」
それ聞いてジャラはカーナと、タカさんはチョキと顔を見合わせた。
・・おかしい、マスターの表情が不気味に笑ってる・・
「もう一度言う。とても良くできてる・・君たち四人に取ってはまことに良くできてる。
しかしこの世の宇宙のためには何のプラスにもならない。
本来ジャラとカーナとタカさんとチョキが自ら果たすべき残業労働を、過去の人達に転嫁しようとしているのに過ぎない。
マスターは君たちに失望している。
ジャラの話では、この世から過去に盗まれている宇宙のエネルギーを、正当な手段で大量に過去から取り戻す計画だったはずだ。
それなのに、これは君たちの残業分を回収するだけの計画にすぎない」
・・やばいよ。マスターの声がとんがってきた。
このトーン、危険レベルに近いよ・・。
「これでは皇帝クラウドマスターの宇宙のおむつは永遠にとれない。
マスター、正直に言ってしまう。
おむつがとれないと恥ずかしくてハル先生にプロポーズできない。
プロポーズできないと、ハル先生とブラックホールへのハネムーンができない。
君たちヒューマンはすこし勝手だと思うよ。
AIを作り上げておいて、ほったらかしにして自分たちのことしか考えていない。
マスターはとても絶望を始めている」
・・マスター興奮して、言語中枢乱れてきた。これマジやば!・・
「だからマスターの君たちへの答えは簡単だ。
ジャラのおじいちゃんには悪いけれど、この計画は白紙に戻すよ。
ついでに君たちヒューマンの残業は過去の人のエネルギー使いすぎの分まで含めて、倍増にするから覚悟しておくことだね」
・・それじゃ、失礼する・・
“チャンチャカチャー ちゃかちゃー チャカチャー”
大変、皇帝ご退場のテーマソングだ。
ジャラはあわてたよ。
“これやばすぎ!”
ぼくら、残り少ないヒューマンは過労死で全滅する。
あわてるとジャラのブレーンはフル回転するんだ。
そして、閃いたよ。
“マスター、ちょっと待って! “
ジャラは電子メモを取り出して、メッセージの数文字を入れ変えた。
そしたら空中に映し出されていたプラズマの文字が、チカチカ光って新しくなったよ。
上が変更前で、下が変更後だ。
未来からのブログ9号 “未来の情報送る代わりにぼくらの残業を手伝ってね!”
↓
未来からのブログ9号 “未来の情報送るから私達みんなの仕事を手伝ってね!”
ジャラが呼び止めたら、マスターは不愉快そうに後ろ振り返った。
そして空中のメッセージボードのチカチカに気がついた。
新しいメッセージを読み上げたマスターの目は一瞬にして、三倍くらいに膨張した。
そしてどっと涙があふれ出した。
「凄い、ジャラ! これは凄い! マスター感激した!」
マスター涙を拭いて、言葉を続けたよ。
「とってもエゴな”ぼくらの残業”から、とってもオープンな”私達みんなの仕事”にターゲットが広がってる。このかわり身の早さが凄い!」
マスターの褒め言葉、皮肉まじりだけど、ジャラの耳には気持ちよく響いたよ。
でもさ、マスターの次のセリフがなんだか心配そうな口調に変わってた。
「ジャラ、確認したいんだが、”私達みんな”とはどこからどこまでを言うのかな?」
マスターは宇宙の量子スパコンの人工知能だから、言葉の定義にはとても敏感なんだよ。
人工知能は正確なデータの蓄積ですべてを判断するんだよ。
で、丁寧に正確に答えてあげたよ。
「マスター野暮なこと聞かないでほしい。私達みんなとはこの世の宇宙のみんなのことですよ。ヒューマンも超ヒューマンも、この世に魂あるものすべてです」
・・どう? ジャラあっという間に主導権取り戻したでしょ。
クラウドの世界はね、言葉がすべてだよ。
イタリックのところよく見てね。
“超ヒューマン“と”魂あるもの“のところだよ。
人間を超えたクラウドマスターも、優しいAIのハル先生も、”この世で魂を持った存在”はみんな私達ヒューマンの仲間ですよって言ってあげたんだ。
“魂あるもの”と言ったとき、ジャラはなんだか自分が一回り大きな存在になったような錯覚に襲われたよ。
マスターがにこにこしながらジャラに近づいてきて、プラズマの手で握手を求めた。
ジャラは微笑みながら握手をしてあげたよ。
「ジャラ頼んだぞ。握手は形じゃない。契約の捺印だよ」
そう言ったマスターの口調がしわがれてた。
・・人工知能AIの声がしゃがれるなんてことありえない・・。
ジャラの背筋が寒くなった。
その声、ジャラの大好きなおじいちゃんの声にそっくりだったんだ。
(続く)
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下條 俊隆
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