筒井俊隆のSFファンタジー
荒廃した地球の果て、人工ドームで暮らす六人の中学生。
彼らは食料を求めて、ハル先生達と宇宙探索の旅に出た。
この世の宇宙を突き抜けてたどり着いたところは、地球によく似た緑の小惑星テラ。
そこに住む森の家族はアマゾンの奥地の言葉を話し、その生活環境は地球以上に過酷だった。
森の家族と小惑星テラはどこから来たのか?
カレル教授とスーパー人工知能・ハル先生のチームワークで、惑星誕生の謎が解き明かされます。
長編の連載小説です。
毎週、章が新しくなりますので、ゆっくり読んでくださいね。
前回のストーリーはここからどうぞ。
「この世の果ての中学校 8章 マーが森の家族の秘密を話した!」
9章 緑の小惑星テラ誕生の謎
森の家族の姿が消えると、はぐれ親父がみんなを呼び集めた。
「みんな今日はよくやった。この親父、感動したよ。俺たちも森の家族に見習って今夜はここで野営しよう。火をおこして川の水で飯を炊くから、みんなで薪を集めてくれるかな・・」
はぐれ親父の指示で、生徒たちは川岸を歩いて乾いた流木を集め、焚火の準備を始めた。
焚火が勢いよく燃え上がると、マリエはみんなから離れて、川岸の大きな岩に腰を掛け、森に沈んでいく真っ赤な夕陽に向かって祈りを捧げた。
ペトロが近づいていって、マリエの横に腰掛けた。
「なにお祈りしてるの?」
マリエが夕陽を指さした。
「ほらあれ見て、ペトロ! 夕陽が歪みに入っていくわよ。太陽の神様は、暖かい光をみんなに分け与えて命を育て、長い一日のお仕事が終わったら、あそこの歪みの中でゆっくりお休みになるの」
ペトロは額に手をかざして夕陽を眺めたが、神様らしいお顔も、歪みらしいものも、何にも見えなかった。
最後に夕陽が大きくふくれあがって、森の中に半分消えた。
ペトロは慌てて半分になった神様にお祈りをした。
非常食のおかずで、飯ごうで炊きあげた熱々ご飯を食べ終えたころ、ほの暗くなった森から黒い影が二つ現れて、たき火のそばに近づいてきた。
エーヴァが小さな足音に気が付いて振り返ると、黒い影が緑に変わり、クプシとカーナが姿を現した。
「先ほどもらった食料だけど、さっそく夕食に頂いたわよ。とってもおいしかった。これほんの御礼の気持ち」
そう言って、カーナがエーヴァに小さな果物の実を八つ手渡した。
「よく見て、よく聞いててよ、お土産に葉隠れの術を教えてあげるね」
クプシが小声で囁いた。
二人は背中から大きな葉っぱを取り出して、帽子の形に折り曲げ、チョンと頭に載せた。
一言呪文を唱えると、二人は一瞬に黒い影に戻り、サッと身を翻して森の闇に消えていった。
二人の消えたあとに、小さな可愛い葉っぱの帽子が二つ残されていた。
お土産の帽子はエーヴァや咲良には小さすぎて、ペトロとマリエの頭にぴたりと収まった。
8個の小さな黒い果実は生徒6人と、はぐれ親父、ハル先生に一つずつ配られた。
みんなは果物の固い皮をむいて、取り出した果肉をゆっくり味わいながら食べた。
果肉は最初少し酸っぱくて、ツンと頭に響いた。
そのうち甘い食感が口に拡がってきて、とても美味しかった。
「貴重な食料なのに、私たちにもお裾分けしてくれたのね」
咲良がうるうる声で言った。
ハル先生が黒い実を丁寧にハンカチに包むと、匠をそばに呼んだ。
「匠、この果実だけど、宇宙艇のカレル先生に急いで届けてくれないかしら?」
「代わりに、カレル先生に食べてもらうの?」
「違うの、すぐに分析器にかけて、調べてもらって下さい。もしかするとこの惑星の秘密が隠されているかも知れないから」
・・この惑星の秘密だって?・・
好奇心がわき上がった匠は、ハル先生から黒い実を包んだハンカチを受け取ると、ポケットにしっかり収めて、暗闇を一気に走った。
匠はあっという間に川を渡って、宇宙艇のデッキに駆け込んでいった。
匠が野営地に舞い戻ってしばらくすると、ハル先生のナノコンからカレル教授の興奮した声がみんなの耳に届いた。
「ハル先生、驚かないでください。遺伝子鑑定の結果が出ました。これは地球のアマゾンの奥地に自生していた樹木の果実です。他の地域にはない稀少種ですよ」
カレル教授の声が、一オクターブ高くなった。
「ハル先生、この惑星の植物層は、消え去った地球のアマゾンのもののようです」
「なんだよ! やっぱりそうだったのか。これだけ苦労して宇宙船でやってきたのに、ここは地球のアマゾンだったのかよ!」
裕大がぼけた振りした。
「裕大、冗談言ってる場合じゃないわよ。カレル先生はアマゾンの奥地がここへやってきたと言ってるのよ。ここは宇宙を飛び越えてきた大アマゾン川の奥地なのよ」
咲良が裕大の頭をゴンと叩いた。
「咲良、見事な回答だ。この果実がその証拠物件だよ。この星は地球から分離した小惑星だ。森の家族はアマゾンの原住民つまり巨人の末裔だ。巨人は生き残るために、共生と爆発を繰り返して小さくなったんだよ」
「教授、その結論、ちょっと待ってくれ」
横からはぐれ親父が割り込んできた。
「カレル教授。その話矛盾してるぞ。それじゃ、俺が前にここで出会ったでっかい巨人はアマゾンからやってきたというのかね。奴らは俺の背丈のたっぷり十倍はあったぞ。教授、あんなでかい巨人が昔地球のアマゾンにいたとおっしゃるのかね!」
カレル教授が静かに答えた。
「どうでしょう、こういう考えは・・アマゾンの森の住人が宇宙に飛び出してから、親父さんと遭遇するまでの間に、親父さんの背丈が1/10に縮んだというのは」
「なんやと? 俺様がいつ縮んだんや・・」
はぐれ親父が目をむいて怒り出した。
慌てて教授が訂正した。
「それでは言い換えましょう。親父さんの身体だけが縮んだといってるんじゃなくて、歪みを通過した物体はすべてが縮小したり膨張したりするのじゃないかと・・。前回の親父さんも気がつかないうちにあの歪みにやられて縮小したのかもしれないですぞ」
カレル教授は、歪みを通過したときに、見事に形が歪んでしまった愛用のハットを、悔しそうに両手でつかみ直して、ぐいと頭を押し込んで、話を続けた。
「あの歪んだ空間が、通過する物体の形や、人間の意識や、時間さえも自由に弄んでいるという不可解な出来事に比べれば、この程度の矮小化は不思議でもなんともない、ごく小さな出来事だと思うのですが。でも、この話がお気に召さなければこう言い換えてもいいのですよ。
親父さんが縮んだのじゃなくて、アマゾンが歪みの中を飛んだとき、アマゾン全部がずんと10倍に膨張して巨人を作ったのだと。どちらでも同じことですが」
・・こらあかん! 重症や。教授のおつむどっかへ突き抜けてもうとる・・
「了解しました。教授。私は縮みました。立派に縮みましたよ」
はぐれ親父はこれ以上カレル教授に逆らわないことにした。
しかし教授はしつこく話を続けた。
「親父さん、自分が縮小したことをまだ信じられないようなら最後に一言付け加えましょう。
あなたの食べた果実、じつはあれは記録によれば、アマゾンのものに比べて10倍の大きさなのですぞ。
前の森の木立をよく見てください! アマゾンの木の10倍はでかいはずだ」
はぐれ親父は教授との会話を諦め、腰を上げると、あらためて薄暗くなってきた森を眺めた。
森に近づいて確かめると、教授の言うとおり森の木は見上げるような巨木ばかりだった。
「よかった、教授の頭は正常のようだ」
親父は頭を一振りすると、火の勢いが弱まってきた焚き火に大きな流木を一本加え、六人の生徒を前に翌日の計画を話した。
「明日は緑の第二惑星に向かう。目的地まで二時間半の短いフライトだが、途中できっと、凄い発見に出会える筈だ。昨日よりさらにでかい歪みがあって、こいつはもう蓋を開けてのお楽しみ。明日に備えてぐっすり休んでくれ」
生徒たちは、親父の話が終わる頃には焚き火のまわりで、深い眠りについていた。
はぐれ親父と夜も眠らないハル先生が、朝まで交替で見張り番に付いた。
・・歪みが私の大事な生徒達を宇宙船・ハル号丸ごと縮小させたかも、ですって? また誰かが宇宙のルールを変えたのかしら・・
ハル先生は歪みの中で自分の顔を真っ赤な光で射し貫いた、赤い顔の男を思い出していた。
・・あんな失礼な男に負けてたまるか・・
スーパー・人工知能のハル先生は自らのボデイーである量子ナノコンを膝の上に置いて、コトコトと音を立て、宇宙の方程式の完成を目指して計算を続けた。
翌日早朝に、はぐれ親父とハル先生に引率されて生徒たちが宇宙艇に戻ってきた。
生徒たちは森の家族のために、野営地に自分たちの食料を少しずつ置いていこうと話し合ったが、はぐれ親父に厳しくたしなめられた。
「俺が昨日食料を差し出したのは緊張した事態を和らげるためだ。俺たちはこの星の住人ではない。単なる訪問者だ。この星には群れの家族達が数百人は住んでいる。責任のない一過性の親切など何の役にも立たない。宇宙の旅の基本ルールだ。我慢しなさい」
宇宙艇は宇宙に飛び出す前に、森の上でしばらくの間、騒々しい音を立ててホバリングをした。
それは森の家族への別れの挨拶だった。
森に動きが無いか、全員が宇宙艇の窓から眺めたが、群れの家族たちはどこにも姿を見せなかった。
「きっとまだ寝ているんだ。朝寝坊の家族なんだよ」
ペトロが見えない森の家族に心を残して、窓から一人手を振った。
宇宙艇は数回森の上を旋回してから、角度を上方に変え、一気に宇宙に向けて出発した。
森の小さな家でファーとマーの間で眠りこんでいたクプシが、ホバリングの音に気が付いて目覚めた。
クプシは家から外に飛び出して空を見上げた。
朝の木漏れ日の中に、銀色の乗り物がみえた。
乗り物の丸い窓にチカッと小さな人影が映った。
クプシは必死で手を振った。
ペトロらしい人影が、クプシに気が付いたのか、窓から大きく手を振ってくれた。
宇宙艇では生徒たちが、あっという間に遠ざかっていく緑の惑星をいつまでも眺めていた。
30分後、宇宙艇ハル号に非常事態のベルが鳴り響いて、はぐれ親父が生徒全員をキャビン後方に呼び集めた。
「今度の歪みは少しきついぞ。何が起こっても泣くんじゃない。俺の真似をしてシートにしっかり沈み込め。ベルトを締めて、シートから離れるな。お前達、俺様の変身をよーく見ておけよ。お楽しみ、はぐれのお絵かき教室だ。いいか、作品の正体が分かったら大声を上げて答えろ!」
はぐれ親父がシートを逆向きにして、生徒達と向かい合った。
次に、シートの形を自分の体型に変形させて潜り込んだ。
生徒達もはぐれの真似をして、身体をフィットさせながらシートに沈み込んでいった。
歪みは静かにやって来た。
宇宙艇に侵入した猥雑なエネルギーは、生徒達の身体を内側から侵食していった。
エーヴァと匠の脳髄が、ぐにゃりと変形して頭を抜け出し、ぷかぷかと空間に漂い出した。
二人の意識が錯乱して交錯し、妄想となった。
「匠の脳みそ、フルーツポンチ!」
エーヴァがからかった。
「エーヴァのブレーン、ところてん!」
匠がやり返した。
はぐれがにやりと笑って、変身を開始した。
その顔は細長く歪み始めた。
斜めに顔を傾けた若い女性。
その目は青く塗りつぶされて、大事な人を失った喪失感が漂い、悲しく見える。
「モジリアーニの奥様!」
マリエと咲良とエーヴァが叫んだ。
はぐれの顔が黒く小さくなって、口が大きく縦に開いた。
その顔はなにかに怯えて叫んだ。
自分の悲鳴を聞きたくないのか、両手が耳を塞いだ。
「ムンクの『叫び』」匠と裕大とペトロが叫んだ。
歪みに引き裂かれたはぐれの肉体が崩壊していく。
親父の身体は椅子の部品と共に、細かく散らばって、空間に浮遊した。
困った親父は両手で散逸した自分の身体をかき集めた。
顔にひげを付けてピヨンと先っぽを跳ね上げた。
シートの背中が時計になって、半分がぐにゃりと歪んで生徒にお辞儀をした。
散らばったパーツが四角い帆布のキャンバスに吸い込まれて、乱雑な構図を作り上げた。
「ダリ!」
六人の生徒たちが足を踏みならして、一斉に叫んだ。
はぐれ親父の目の前では、六人の生徒たちの肉体が七色に輝く断片となって砕け、空間を浮遊していた。
親父は生徒の魂まで歪んで壊れてしまわないように、自作自演の名画展で笑わせることで、生徒たちの意識を現実につなぎ止めていたのだった。
いきなり時空の嵐は去り、宇宙艇に静けさが戻った。
「ショーは終わりだ!」
はぐれ親父がシート・ベルトを外して、勢いよく立ち上がった。
宇宙艇の前方スクリーンに、第二惑星テラが姿を現していた。
降り注ぐ太陽の光線を厚い空気の層がはね返して、惑星は深い碧色に包まれている。
はぐれ親父がまぶしそうに目を細めた。
「数年前のことだ。俺は第一惑星の巨人の手を逃れ、命がけでこの星にたどり着いた。
途中、地獄の歪みを一人乗りのスペース・モバイルで耐えた。
楽しかった記憶を引っ張り出して、頭がおかしくなるのを防いだ。
漂着したこの惑星には巨人は一人もいなくて、俺と同じ背丈の種族が棲息していた。
エドという少年が傷だらけの俺を助けて、手当てをしてくれたんだ。
俺はここで数日を過ごして、元気を取り戻したんだよ。
ここの住人には本当に世話になった」
そう言って、はぐれ親父は近づいてくる緑の山々を懐かしそうに見つめた。
(続く)
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下條 俊隆
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