未来からのブログ2号「今日はザ・カンパニーでとなりのカーナと午後の浮気したよ」後編

僕の名前はタンジャンジャラ。

「ジャラ」って、短く呼んでくれていいよ。

今は2119年、僕はクラウドマスターが「この世の宇宙」って呼んでる世界にいるよ。

君の住んでる宇宙から100年後の世界だ。

もっと正確に言えば、君の住んでる世界と「もつれた時空」でつながってる宇宙だよ。

そうさ、じつは、君とジャラとはこのブログを通じて今もつながってるんだ。

「どうしてそんなことになってるのかなって?」

今回の記事読んでくれたら、そこんところのストーリーが明らかになるよ。

そうだ、前回の記事まだ読んでないんなら、ここから読んでね。

未来からのブログ2号「今日はザ・カンパニーでとなりのカーナと午後の浮気したよ」前編

読んでくれてありがとう。

クラウドマスターがどうして可愛い宇宙のおむつしてるのか、わかった?

僕らの宇宙から大事なエネルギーが漏れ出してるからなんだ。

君の住んでる宇宙にだよ。

あれでもマスター、おおマジなんだ。

この世の宇宙のマスターとして「お漏らし」に責任感じてるんだ。

それじゃ、「未来からのブログ」にあの日の夕方の話、投稿するね。

とっても大事なこといっぱい送るから、離れずにもつれたままでいてよ。

未来からのブログ2号「今日はザ・カンパニーでとなりのカーナと午後の浮気したよ」後編

「どちらにしてもこの問題は、君たち人間同士で解決してもらうよ。過去とはせいぜい上手にもつれることだね」

これ、冷たく言い捨てたこの世の宇宙の皇帝「クラウドマスター」の台詞だ。

ミーテイングルームに残された僕とカーナは途方に暮れたよ。

「どうやって過去からエネルギー取り戻そうか」ってね。

その時、ミーテイングルームのドアがすこし開いて、隙間からきらりと光る「はさみ」の先が出てきたよ。

「やー、ジャラ。クラウドマスターの緊急呼び出しって、なんの用事だった?」

鍵こじ開けて、皇帝のミーティングルームに無断で入ってきたのは「はさみ男」と「サンタ・タカシ」の二人だ。

「俺たちジャラとカーナのこと心配になってさ。『宇宙のおむつ』作戦でクラウドマスター怒らした責任感じてちょっと様子見に来たってわけ・・」

サンタ・タカシが言い訳めいたことをいいながら、部屋に入るなり僕に近づいてクスンと鼻を鳴らした。

「うまそうな匂いがする」

「なんだこの匂い」

はさみ男も気がついたみたいだ。

「ジャラ! お前、なんか隠してないか?」

サンタ・タカシが鋭い目つきで僕を見た。

(ここ、これ僕の夜食・・)

ジャラは思わずスーツの上着の右ポケットを抑えた。

でも、間に合わなかった。

サンタ・タカシの右手が僕の右ポケットをまさぐった。

家で待ってるキッカへのお土産と僕の夜食用にと思って、内緒で隠しておいた「厳選された一品」は、忽ちはさみ男のシザーハンドで切り分けられ、二人の口に運ばれてしまったよ。

「ジャラ、こんな食い物、初めての味だけど、旨かったよ。これなんだ?」

僕とカーナからクラウドマスターとの一部始終を聞いたサンタ・タカシが股こすりやって、前歯むき出して笑った。

「それでは、旨いランチ頂いたお礼に、盗まれたエネルギーの奪還計画に俺たちも協力しようじゃないか」

サンタ・タカシが宣言して、はさみ男がカチャカチャはさみ鳴らした。

つまり、賛成して拍手したってことだよ。

でもさ、なにか問題起こると、いつもこのコンビが首突っ込んでくるんだよ。

一人はからみ専門で、一人はもつれてるの切るのが専門だから、二人合わせて話の最後は、細切れのぐちゃぐちゃになるってこと。

・・でも二人の気持ちには感謝しなくっちゃね!・・

「ジャラ! 戦略会議始めよう」

サンタ・タカシが宣言した。

「まず始めにだ・・ブラックホールから漏れ出したエネルギーはどこへいったんだっけ? 俺忘れた。ジャラ、もう一度教えてくれ!」

はさみ男がシザーハンドで自分の頭叩いた。

「この世の宇宙のエネルギーはブラックホールの特異点からワームホールを通ってホワイトホールに漏れている」

ジャラは丁寧に答えたよ。

「よくわかった。黒い穴から、虫の穴、それから白い穴か。この世の外れは穴だらけだ。ところでホワイトホールとはなんだっけ」

はさみ男がまた聞いた。

「となりの世界の玄関口だよ。時空を超えるエントランスってとこだね」

ジャラがやさしく答えた。

「思い出した。我が家のエントランス古くなってでこぼこしてすぐけつまずくぞ。あれなんとかしなくっちゃな」

はさみ男がシザーハンドで、目の前にたれてきた前髪一筋切り取って、プーって僕の顔に吹き飛ばした。

「ジャラ、お前、となりの世界を本当に見たことあるのか?」

はさみ男がさらっときいた。

それから付け加えた。

「見たことないだろ? 見たことないのに見たようなことよく言えるなー?」

「見たことないけど・・・いたことはあるよ」

ジャラはそう答えてたよ。

「なんだと? もう一度言ってくれ」

「見たことないけど・・いた記憶はある

自分でも驚いたけど、僕の口がもう一度声を出さずに同じ言葉を繰り返した。

《そこにいた記憶がある》

「ジャラ、だぼらは止めろよ。人間同士で嘘ついたら口と耳切るぞ!」

はさみ男がジャラの目の前で、シザーハンドを振りかざしてた。

「ウソじゃない。遠い記憶があるんだ。あそこにいた記憶があるんだ」

ジャラはその日の朝、起きたことを思い出したんだ。

「今朝のことだよ。ザ・カンパニーに来る途中で、海が僕を呼んだんだ。スーツマンに命令して寄り道だけど朝日で燃え上がった海を見に行ったよ。そしたら波の音がこういった。『思い出せジャラ、俺たちのことを』ってね」

朝の海の記憶が蘇ってきて、なんだかジャラ、胸が騒いだよ。

「あれきっと、遠い昔からの声だ。でもすぐとなりの世界からだ。あの世界で跳んだりはねたりしたんだ。僕が身体を捨てる前のことだけどさ」

サンタ・タカシが疑わしそうな顔してジャラを見つめた。

で、ジャラは感じたことをそのまま伝えた。

「となりの世界から誰かが僕を呼んでた」

「それ、朝ボケのデジャブじゃねーのか?」

サンタ・タカシがほざいた。

それまで黙って話を聞いてたカーナが、不思議そうな顔して、じっと僕を見つめたよ。

「ちょっと待ってよ。わたしもそういえば今朝、似たような朝ボケしたわよ」

カーナが目玉くりくりしながら喋ったよ。

「今朝は早く目が覚めたので、ザ・カンパニーに出勤する前に、わたしもちょっと寄り道して、近くの登山口まで行ったの。

なぜだと思う・・?

山がわたしを呼んだのよ、朝日で燃え上がった真っ赤な山がよ。

登山口についたら、目の前の木立が風で騒いで声がしたわ。

『わたしを思い出してって!』

不思議な気持ちがしたわよ・・でも山で走り回った子供の頃の記憶は蘇らなかった。

身体を捨てる前の記憶はわたしにはもうないのよ」

そう言ってカーナは寒そうに自分のスーツを両手で抱きしめた。

きっと、カーナはからだを捨てたときに昔の記憶を失ったんだ。

ジャラはカーナを抱きしめたよ。

だって僕もボディーを失った一級頭脳労働者だし、カーナもボディーを無くしたブレーンレデイーだから、彼女の喪失感は人ごとじゃないんだ。

身体を失うとね・・。

山や海でね、自分の身体で跳んだり跳ねたり泳いだりしたこと、だんだん思い出せなくなっていくんだよ。

サンタ・タカシが疑わしそうな顔して僕に聞いた。

「ジャラ、お前となりの世界にいた記憶があると言ったな。どの世界だ。ブラックホールはこの世の宇宙に少なくても13億個はあるって言うぞ? どのブラックホールからつながってる世界だ?」

「そんなことわかるわけないだろ? でも確かにそこにいるんだよ。昔の僕がそこにいるんだ。ジャラの頭の中で、昔の記憶が騒ぎ始めたんだよ」

「ジャラ! そこまで言うんなら確かめた方がいいぞ。思いきって地球に一番近いブラックホールに飛び込んでみたらどうかな。そこから穴二つ潜ったら、ジャラの過去の世界だ! どう思う?・・サンタ」

タカシの声がほざいた。

「そやがな、タカシ。ほんでそっから盗まれたエネルギー持ち帰ったらええがな。ジャラ、話簡単や!」

サンタの声がした。

ジャラはサンタ・タカシの一人掛け合いにむかっときたよ。

でもさ、そこはぐっとこらえたんだ。

だってさ、サンタ・タカシはデザイナーズ・ベビーだから仕方ないだろ。

ザ・カンパニーのドクターの話では、サンタ・タカシは興奮すると、遺伝子が初期化されて

二つのキャラが別々に出てくるらしいんだ。

サンタとタカシとか、複数のベストDNAをコレクションしたデザイナーズ・ベビーに固有の現象らしいよ。

陽気なサンタ・タカシにも悩みはあるんだ。

その時だ、ビックリしたよ。

カーナがいきなりスーツをばっと脱いで立ち上がったんだ。

カーナのスーパー・ボディーがあらわになって、みんな目を丸くしたよ。

カーナの足元にスーツがばらばらに散らばって、引き締まったスーパー・ボデイーがぶるぶる震えてた。

「過去の世界と、量子もつれが起こってる」

カーナが震える声で、そう言ったんだ。

「カーナ、大丈夫か?」

あわててジャラが聞いたよ。

カーナが答えた。

「わたし、過去の世界とつながりかけた。でもすぐ切れてしまった」

その時だよ、ジャラの身体も震え始めたのさ。

スーツがはじけ飛んで、ジャラもむき出しの裸になってた。

ジャラの記憶の底から誰かの手が伸びてきたみたいだ。

「思い出せ、俺の手をつかめ!」

頭の中で、誰かの声が聞こえたんだけど、しばらくして消えていった。

同時に身体の震えが止まったんだ。

そして、不思議なことが起こった。

まるで時間が逆戻りしたみたいだったよ。

ジャラのスーツとカーナのスーツが床からふわりと持ち上がって、二人のボディーに戻ってきたのさ。

・・きっとその時、過去とのもつれが切れたんだと思う。

せっかく過去とつながりかけたのにって、残念な気持ちだったよ!

その瞬間だよ、ジャラとカーナが凄い答えを思いついたのは。

朝日に燃え上がる山がカーナを、朝日で焼けた青い海がジャラを呼んでたということは・・つまりさ。

「両方同時に見れれば、量子もつれが倍になる!」

《そして過去と繋がれる・・》

「この近くに海と山の両方みえるところはある?」

カーナとジャラが口をそろえて言った。

サンタ・タカシが答えた。

「なんのこっちゃわからんけど、両方同時に見えるところ、一カ所だけあるぞ」

「そこどこなの?もうすぐ夕陽が落ちるよ。急がなくっちゃ!」

ジャラが叫んだ。

「大きな川の河口で入り江の奥だ。ここからエラ~イ遠いぞ・・」

サンタ・タカシが口ごもったよ。

「宇宙センターの衛星マップによれば、この近くで山と海の両方が見える地点はここから南西に約15キロのところにあります。スーツマンとスーツレディーなら走って15分です」

スーーツマンがセンターの調査結果を、ジャラの口を借りてみんなに伝えてくれたよ。

「どうする? 俺たち二人は死ぬ覚悟で走っても1時間以上かかるぞ」

サンタ・タカシがはさみ男にぼやいた。

「いい方法があるぞ」

はさみ男がサンタ・タカシになにか耳打ちして、二人でにやりと笑った。

・・・

入り江に向かって、スーツマンとスーツレディーが時速60キロで走った。

二つのヘッドにはジャラとカーナが治まって、気持ちよく午後の昼寝をしている。

「ヤッホー!」

スーツレディーの肩の上でシザーハンドが吠えた。

「イエーイ!」

スーツマンの頭の上でサンタ・タカシが叫んだ。

・・・

「この四人、このあと、いかがいたしましょうか?」

地球のはるか上空に浮かんだクラウド宇宙センターの中枢部で、執務中の皇帝「クラウドマスター」宛てに、地球から星間チャットが届いた。

「スーツマンか? すべては私の計算どおりに進んでおる。四人にはエネルギーも十分に補給させたことだから、しばらく好きなようにやらせておけ!」

  (続く)

続きはここからどうぞお読みください。

僕の名前はタンジャンジャラ。みんなは「ジャラ」って呼ぶよ。 変な名前だって? でも、僕は気に入ってるんだ。この名前に僕のルーツが隠されてる。 僕たちは今、入り江に向かって走ってる。 そこが僕のルーツとクロスする時空のホットポイントなのさ。入り江についたら、きっとなにかが起こるよ。

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下條 俊隆

下條 俊隆

ペンネーム:筒井俊隆  作品:「消去」(SFマガジン)「相撲喪失」(宝石)他  大阪府出身・兵庫県芦屋市在住  大阪大学工学部入学・法学部卒業  職歴:(株)電通 上席常務執行役員・コンテンツ事業本部長  大阪国際会議場参与 学校法人顧問  プロフィール:学生時代に、筒井俊隆姓でSF小説を書いて小遣いを稼いでいました。 そのあと広告代理店・電通に勤めました。芦屋で阪神大震災に遭い、復興イベント「第一回神戸ルミナリエ」をみんなで立ち上げました。一人のおばあちゃんの「生きててよかった」の一声で、みんなと一緒に抱き合いました。 仕事はワールドサッカーからオリンピック、万博などのコンテンツビジネス。「千と千尋」など映画投資からITベンチャー投資。さいごに人事。まるでカオスな40年間でした。   人生の〆で、終活ブログをスタートしました。雑学とクレージーSF。チェックインしてみてくださいね。

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