この世の果ての中学校 14章 過去からの訪問者

 

 西暦2016 年の過去の世界から、カレル少年とハル少女が、二人で選んだ世界の科学者八人を引率して、今から一年前の2090年の地球世界を視察に来ているはずだった。

 

 二人は、世界を動かせる影響力のある科学界のリーダー8人に”このままでは未来の地球は破滅する”ことを知ってほしかったのだ。

 

 ペトロはその視察の結果がどうなったのかをどうしても知りたかった。

 

 地下の電子図書館で”最高機密・過去からの訪問者”と書かれた記録ファイルを開けることに成功したペトロとマリエは、四人の仲間に早速、実況中継を始めた。

 

「ただいまから、国会電子図書館より、カレル少年とハルちゃん出演のドキュメンタリー番組『過去からの訪問者』を中継でお送りいたします」

 ”驚くな!解説は図書館長のハル先生だよ”

 

 マリエのナレーションが四人のスマホに流れた。

 

 家のベッドに寝っ転がって中継を待ちわびていた咲良と裕大、エーヴァと匠の四人が、ベッドから一斉に飛び起きた。

 

前回のお話、まだの方はここからお読みくださいね。

この世の果ての中学校 13章 学校の地下室は”国会議事堂”だった!

 

この世の果ての中学校 14章 過去からの訪問者

 

「こんばんは、こちらハル先生。ビックリした?  先生、夜は電子図書館の館長してるのよ。ハル先生の正体、実はスパコンの人工知能AIだってことくらい、みんなもうとっくに知ってるわよね。今夜のみんなのスパイ行為、パパやママにはばらさないからさ、先生がAIだってことも絶対内緒よ!」

 

 ハル先生の声がスマホから流れた。

「ところで、この映像記録はとっても長いから、大事なとこだけ放送します。カットしたところはいつか図書館に遊びにきてゆっくり見て下さいね」

 

・・・それじゃ映像、スタート!

 

【2090年11月3日(祭)AM10時00分  過去からの視察団は宇宙船で地球視察に出発】 

 撮影年月日の書かれた表示が画面の下に出て、いつもの見慣れた中学校の校庭が画面に写し出された。

 

 校庭の中央には一艘の小型宇宙船が、朝の太陽の光をきらきらと反射しながら、乗客が乗り込むのを待っていた。

 学校の校舎から校長先生が姿を現して、そのあとに10人の人影が続いた。

 

 10人は虚構の手品師に連れられて2016年の過去からやってきた訪問者だった。 

 小さな姿が二つ、視察団の先頭に立って小型宇宙船に乗り込んでいく。

 

「カレル君とハルちゃんも元気に宇宙船に乗って地球視察に出発です」 

 ハル先生の解説が始まって、画面が切り替わった。

 

 大気圏外に飛び立った宇宙船のカメラから地球を望む映像が画面いっぱいに写し出された。

 画面に映る地球はさびた鉄のような色をしている。

 

 赤茶色の土で覆われた地球の大地が、どこまでも大きくうねりながら続いている。

 不毛の世界に、動くものの気配のない都市が廃墟となって横たわっていた。

 

 海は青くなかった。

 海岸線からしみ出した茶色い潮の流れが、渦巻状に海洋全体に広がっている。

 

 宇宙船は小さな四つの島の上空を離れて、西回りに地球の上空を一周した。

 地球の五つの大陸が画面に次々と写し出されていった。

 

 緑豊かだった大陸の自然は消え失せ、巨大なシャベルで削り取られた跡の様なクレーターがどこまでも続く。

 

「おい! これなにか、悪質なトリックじゃないのか。ここ地球じゃないよな。火星か金星か他の惑星だとだれか言ってくれ!」

 一番若い科学者が最初に悲鳴を上げた。

 

 窓から地球を観察していた科学者たちは、 全員、頭を抱えて宇宙船のフロアーに座り込んでしまった。

 

・・・ハル先生によって、そのあとの映像はすべて早回しされた。

 廃墟と化した地球の映像は、四人の生徒たちには見慣れた景色だったからだ。

 

 宇宙船は地球を一周して出発地点、東京の上空に戻った。

 

 視察団の眼下に、再び巨大なドームが現れた。 

 ドームは薄い膜で覆われ、お椀を伏せたような半円球状になって広がっている。

 

 宇宙船のキャビンで校長先生が科学者達にドームの説明を始めた。

「この巨大ドームの内部に私たちの住んでいる世界があります。ドームの薄い膜は、太陽光線の直射を遮ったり、大気を環流させて温度を一定に保ったり、真水から作り上げた貴重な酸素を蓄える構造になっています。この中ではわずかですが緑の植物も育成中です。地球の各地から集められた元気な六人の子供たちと、この緑が私たちの宝物なのです」

 

 視察団の科学者たちが、むさぼるようにドームの写真やメモを取る姿がクローズアップされた。

・・・画面が飛んで、学校の地下の議事堂に移った。

 真ん中の広い空間に、長いテーブルが二列に向かい合って並んでいる。

 ゲスト用に設けられた列には10人の訪問客が座っていた。

 

 真ん中の席にひげを生やした団長、その両側には落ち着かない様子の科学者が七人、小声で言葉を交わしながら腰を下ろした。

 列の端には、ハルちゃんとカレル君が並んで座った。

 

 視察団を迎えるホストの列には、校長先生を真ん中に挟んでカレル教授と裕大パパと咲良ママが座り、後方の椅子に黒いコートを着た虚構の手品師が一人目立たないように座っていた。 
 

 元・日本の総理として、校長先生が歓迎の言葉を述べたあと、視察団の団長に挨拶を一言お願いした。

 ひげの団長が椅子席から立ち上った。

「あなた方の地球の惨状はたったいまこの目で確認させて頂いた。我々の視察の目的はこの原因を究明して未来に備えることにある。したがって、私どもの質問には嘘偽り無く、正直にお答え頂こう。まずはそちらの席に座っておられる方々からお名前と役割をご紹介頂きたい」

 

 まるで”お前たちの不始末を見届けるために遠くからきてやったんだぞ”と言わんばかりの傲慢な挨拶を済ますと、ひげの団長は腕を組んで座りこんでしまった。

 

・・・この態度みた?この男こそ、かの悪名高きマーカー親父です!・・・

 頭にきたハル先生が間髪入れずナレーションを入れる。

 

 マーカー親父は目の前のテーブルに置かれた「ドクター・マーカー」の名札を取り上げて、面倒くさそうに胸につけ、元・総理と名乗った校長先生をうさんくさそうに眺める。

 それから、カレル少年にそっくりのカレル教授を「お前は何者だ」といわんばかりに、顎ひげをなで回しながら睨めつけた。

 

 校長先生が会議のスタートを宣言して、はじめにカレル教授とリアルの王を紹介した。

 カレル教授は地球の環境と生徒たちへの教育カリキュラムを説明して、リアルの王はドーム世界の空調や水資源の現状を説明した。

 

・・・団長と副団長は一言も発しないで腕組みを続けていますが、科学者達はときどきメモを取っている様子です・・・

 映像が流れ、ハル先生の解説が続く。

 

・・・ファンタジーアの紹介は、21世紀の科学者の理解を遙かに超えていますので、技術的な説明は省くことになりました。

 ただし、ファンタジーアの歴史について”サラ一族の女王”が紹介をしました。

 でもここで、ちょっとした事件が起きたのです・・・

 

 画面では、咲良のママが椅子から立ち上がり、優雅な手つきを交えて、ファンタジーアの紹介を始めた。

「私たちサラ一族は、地球の森林地帯の奥深くで静かに暮らしてきました。サラ一族は世界の子供たちが作り上げる心の中の幻想を大事に育ててきたのです。子供たちのいろいろな夢や、空想を緩やかに紡ぎ上げて、ファンタジーアと呼ばれる一つの幻想の世界を作り上げたのです。ファンタジーアの対極にあるのは恐怖の世界です。恐怖を作り上げているホラー一族は闇の世界で生きています。二つの世界がお互いに戦うことで、子供たちに現実世界を生きていくエネルギーを供給してきたのです」

 

「なに? 夢と恐怖が生み出す命のエネルギーだと? 馬鹿げたこというんじゃねーよ」 

 末席にいた若い科学者があくびをかみ殺しながら、隣の席の仲間にささやく。

 

 その声は、机の上の集音マイクに拾われて、出席者全員の耳に届いた。

 突然の思わぬ発言に、会議室は静まりかえった。

 

 かすかに頬を紅潮させたサラ一族の女王の右手が、静かに若い科学者の顔に向けられた。

 女王の右の掌から夢と希望に満ちた真っ赤な光が放たれて、科学者の顔の左半分を襲った。

 

 至福の時を受け入れた顔の半分は恍惚として耄けはじめ、たちまち老人のものとなった。

 

 次に、女王の左の掌から暗黒の光が放たれ、受け止めた科学者の顔の右半分が恐怖にゆがんだ。

 

 二条の光は若い科学者の顔の真ん中で交わり、男の顔は頭の真ん中から口まで縦に長く裂けた。

 

 男の口から甲高い悲鳴が宙に飛んだ。

 

 驚いた科学者たちが一斉に立ち上がり、若い男に駆け寄った。

 左右に裂けた二つの表情の顔を持った男は、宙を見つめ、椅子の上で放心していた。 

 

「ご免なさい。どうしてもファンタジーアの存在を信じていただきたくて・・・こんなことを」

 

 咲良のママは謝って、ゆっくりと掌の光を消した。

 男の顔が元に戻り、正気を取り戻すと、ファンタジーアの女王はもう一度丁寧に謝ってから、話を続けた。

 

「人類の絶滅とともにファンタジーアは地球から姿を消しました。でも、ここドームの中に小さなファンタジーアが、砂漠の中のオアシスのように生きながらえております。元気な六人の子供たちの創りだした六つのマイ・ワールドのおかげです」

 

 咲良のママは訪問者たちを一渡り見渡してから、先ほどの若い科学者のところで視線を止めた。

 

「あなたのお顔から、大事なものが抜け落ちているように見えます。夢と希望、それに畏れまでも。元の世界にお帰りになったら、まず子供たちの声に耳を傾けてください。子供たちはみんな秘密のマイ・ワールドを創っています。皆様の世界の希望がそこから見えてくるはずです。子供達の夢や空想を無視し続けたら、子供達の世界も冷え切ってしまいます。豊かであるはずの未来が、ぎすぎすとした世界に変貌して参ります。一言、皆様に申し上げたかったのはそのことです」

 

・・・そこで画面が切り替わり、次の画像では校長先生が虚構の手品師を紹介している。

「パラレル・ワールドへの旅行をお願いしている”虚構の手品師”をご紹介します。ご存じの通りですが、本日の皆様のタイムトラベルも彼の手配で実現したのです。主な目的は、生徒たちが課外授業の一環として、こことは次元の異なる世界を体験することにあります・・・」

 

 突然映像が乱れて、校長先生の話を遮るように訪問団の一人が立ち上がり、虚構の手品師を指でさした。

 それは21世紀の高名な科学者の一人で訪問団の副団長だった。

 

「最後の虚構はパラレル・ワールドですか。私も21世紀の科学者の端くれですが、幻想や虚構の話には飽き飽きしましたよ。そろそろ子供だましを中止して、マジックの種を明かしてもらおうじゃないですか!」 

 虚構の手品師は、薄暗い席に座ったまま表情を変えず、一言も言葉を発しなかった。

 

 会議室は再び静まりかえった。

   気まずい雰囲気に耐えかねたのか、校長先生が手品師に目配せをして、会議室の正面にかけられた時計の針を指さした。

 次に指先を一回転して、時計の針を動かす仕草をした。

・・・ここでハル先生の解説が入った・・・

 

「無理もないことですが、訪問団の皆さんはいまだに21世紀末の未来に来ていることが信じられないのでしょう。というよりも・・・この荒廃した世界を自分たちの未来として認めたくないのです。それで校長先生は科学者に信じてもらうために、虚構の手品師に《非常手段》を取ってくれるように頼んだのです」

 

 手品師は校長先生に頷くと、無言で、つと立ち上がる。

 その顔は仮面をかぶったように暗く、意図していることは誰にも読み取れない。

 

 手品師は黒いコートを脱いで机の上に置いた。

 「それでは、マジックの種をお見せしましょう! 訪問団の皆さんは今朝お渡ししたスオッチをご用意ください」

 

 手品師は、視察団の全員に向かって、それぞれの手首に巻き付けたタイム・トラベル・スオッチをマイナス、1億7000万年きっかりにセットするように指示した。

 次に、会議室の照明を少し落とす様に校長先生に頼むと、コートの下の体に巻き付けたマスター・ウオッチを操作して、みんなと目標時間を合わせる。

 

 手品師が手を振り上げて出発の合図をした。

「行きますよ・・・ご一緒にボタンを・・・GO!」

 

  科学者たちが慌てて、手首のスオッチの発進ボタンを押した。 

 

「ジュラシック・ワールド!」

 手品師の声が議場に響き渡った。

 

 会議室は轟音とともに、真っ白い光に包まれ、ジュラ紀の森林が訪問団の背後の空間に出現した。

・・・

 樹林帯から数頭の恐竜が現れて、科学者たちをみつけて興味深そうに近づいてくる。

 先頭の一頭が副団長の前に後ろ足で立ち、巨大な口を開けて咆吼した。

 

「う!う!嘘だろ!」

 副団長の頭上や横に座っている科学者に、恐竜の唾液が降り注いだ。

 驚いた科学者は椅子から転げ落ち、テーブルの下に逃げ込んだ。

 

 一頭の小型の肉食恐竜がテーブルの下に隠れた副団長をみつけて近づき、ズボンの裾に噛みついて明るみに引きずり出した。

 副団長の悲鳴が会議室に響いた。

 

「あっ、やりすぎたか!」

 あわてた虚構の手品師がマスターウオッチを現在に戻した。

 会議室に白い光線が走り、訪問団の前から、森林と恐竜は消えていった。

 

 映像が切り替わった。

「次のマジックはこの世に無数に存在する未来の一つ、暗黒宇宙! どなたも決して闇に手を出さないように! 闇に消えた手は二度と戻ってこない!」

 

 警告を発して、手品師は科学者たちのスオッチに七文字のアルファベットと十三桁の数字を打ち込むよう指示した。

 

「GO!」

 一瞬にして会議室は光が存在しない無限の闇と、音が存在しない永遠の静寂の中に放り込まれた。

 科学者たちは両手を身体に巻き付けて呼吸を止めたまま、彫像のように固まったままだ。

 

 ・・・映像が数分飛んで、再び手品師の声が響いた。

「三つ目のマジックは皆様の日常世界にご招待」

 

 手品師は手元の電子手帳を開いて、副団長の家族が暮らす家の住所を読み上げた。

 手品師は、住所が間違っていないことを本人に確認すると、その住所をマスタースオッチの座標軸に打ち込み、発信ボタンを押した。

 

 副団長の目の前に、小さなリビングが現れた。

 そこには小さな子供が、一人で元気に遊んでいる。

 

 科学者の目が潤んで、おもわず我が子に手を伸ばす。

 その子は、なにかに気が付いたように科学者に向かって小さな手を伸ばした。

 

 そして幼い口を開いて「パパ」と言った。

   副団長がおもわずわが子の手を握りかけた。

 

「だめです。手を握ってはだめです」

 手品師の警告とともに、子供の姿は闇に消えていった。

 

「ラスト・マジックです」

 そう言って虚構の手品師は、会議室の空間に巨大な地球儀を出現させた。 

 

 そして、八か国を代表する八人の科学者それぞれの家族の集合写真をどこからか取り出して、モザイクの映像のように地球儀の8カ所に貼り付けた。

 次に手品師は、地球儀の上空に先ほどの暗黒宇宙を呼び出した。

 

 暗黒宇宙は、地球儀に8本の黒い触手を伸ばした。

 八つの家族の写真は、家族の悲鳴と共に漆黒の闇の手に連れられて暗黒宇宙に消えた。

 会議室の空間には赤茶色に焦げた地球儀がぽつんと残されていた。 

 

・・・映像の意味と家族の安否を確かめたくて、科学者は会議室の中を手品師の姿を求めて必死に探した。

 しかし、手品師の姿は黒いコートとともにどこかにかき消えてしまった。

  (続く)

 

 続きはここからお読みください。

この世の果ての中学校 15章 “過去からの訪問者の家族は暗黒宇宙に消えた”

 

【記事は無断転載を禁じられています】

未来からのブログ9号”未来の情報送るから代わりに僕の残業を手伝ってね!”

 

僕の名前はジャラ。

今日は記念すべき日だよ。

 

2120年のぼくの世界から、100年前のおじいちゃんに量子もつれの返事を送る日だ。

僕が最初に考えたのが次のメッセージだよ。

 

「未来からのブログ9号”未来の情報送るから代わりに僕の残業を手伝ってね!”」

ほらこれ36文字ぴったりで、そのままおじいちゃんのブログのタイトルに使えて便利じゃない。

 

でもさ、このメッセージ方々で不評だったんだ。

「ジャラは自分のことしか考えてない」ってさ。

 

で、皇帝クラウドマスターとのミーテイングでこのメッセージが人類の絶滅をかけた論争になったんだよ。

その話、このブログで詳しく報告するから、読んでくださいね。

 

(前回の記事まだ読んでない方はここからどうぞ)

未来からのブログ8号 “クレージー爺ちゃんがボブの身体に取り憑いた!”

 

未来からのブログ9号 “未来の情報送るから代わりに僕の残業を手伝ってね!”

 

「このメッセージだけど、ジャラに都合よすぎるんじゃない?」

ジャラの書き上げたおじいちゃんへの返信文読んで、カーナとタカさんとチョキがクレーム付けた。

 

タカさんとチョキが婚約発表した翌日、マスターとの早朝ミーティングの直前のことだよ。

ジャラが徹夜で考えた36文字のメッセージなのに悔しいじゃない。

 

でも、徹夜というのは真っ赤なウソで、 パーティーで白ワイン飲み過ぎたジャラは、酔っ払ってしまってそのあとのことなにも覚えてないんだ。

朝スーツ着たままベッドで目が覚めて、ポケットの中の電子メモに気がついた。

 

なんのメモか思い出せなくて開いて見た。

Λgμν

 

「らむだじーみゅーにゅー」

読み上げてジャラは驚いたよ。

 

ブログ読んでくれてる君も、もう覚えてしまったでしょ!

そうなんだこれ、アインシュタイン方程式の”宇宙項”なんだ。

 

“宇宙は膨張してる”ってこと示してる数式だよ。

この数式、ボブのおかげでジャラもすっかり覚えてしまったことに驚いたんだ。

 

でも本当に驚いたのはそのあとだ。

その数式は皇帝クラウドマスターが僕に渡した電子メモだったんだ。

 

“しまった!”

皇帝クラウドマスターと早朝ミーティングの約束したことすっかり忘れてた。

 

おじいちゃんに返信する36文字のメッセージについての打ち合わせだよ。

早朝ミーティングまであと1時間。

 

ジャラはスーツマンのおしりひっぱたいて、ザ・カンパニーへ走ったよ。

走りながら必死でメッセージを作り上げたんだ。

 

ザ・カンパニーのエントランスでいつもの認証チェックくぐり抜けたら、三人が僕を待っててくれた。

カーナとタカさんにチョキだよ。

 

「ジャラ!あと10分でマスターとの会議スタートよ。その前におじいちゃんへのメッセージ、私達三人にも見せてよ!」

カーナが手を出したので、ジャラはメッセージを書き込んだ電子メモを渡した。

 

カーナが大きな声で読み上げた。

・・未来からのブログ9号 “未来の情報送るから代わりに僕の残業を手伝ってね!”・・

 

「どうー? きっかり36文字だよ」

ジャラがそう言ったら、三人とも目をむいた。

 

「ジャラ、自分だけ楽しようなんて、と~んでもねーぞ」

このメッセージをタイトルにして、そのままおじいちゃんのブログに載せようとしたこと、すっかりばれてしまった。

 

あっという間にジャラのコメントは変更されてしまったよ。

“僕の残業”のところを”ぼくらの残業”にだ。

 

・・未来からのブログ9号 “未来の情報送る代わりにぼくらの残業を手伝ってね!”・・

電子メモを至急書き換えて、”ぼくら“は屋上のマスターとのミーティングルームに急いだってわけだ。

 

会議室でクラウドマスターがぼくらの到着を待ってた。

「23秒の遅刻だ!」

 

マスターが壁の時計を指さして、呻いた。

「君たちのおかげで失ったクラウドマスターの23秒は少なくとも君たちの4000倍の労働時間つまり92000秒の価値がある。これは約25時間の遅刻に相当する。四人には後日一人あたり6時間と15分の労働をとくべつに予定して頂くことにする」

 

今朝のマスターご機嫌斜めだ。

そういえばテーマソング「チャンチャカチャー」の最後のフレーズが部屋のドアを開けたときに聞こえた。

 

皇帝の入場セレモニーが行われたのに、ミーティングルームには誰も待っていなかったというわけだ。

「これはまずい!」

 

ジャラはあわてて三人に目配せしたよ。

・・しばらくマスターの言うこと黙って聞きましょう・・というシグナルだよ。

 

マスターがジャラの目配せの意味に気がついたみたいだ。

いつからかAIの学習機能に、ヒューマンの動きや表情について微妙な心理分析のスキルが加わったんだよ。

 

誰だよそんな余計なスキル、マスターの自己学習のプログラミングに付け加えたのは・・?

おかげでジャラ、マスターとの仕事やりにくくて仕方がない。

 

「ジャラ! 目配せ中恐縮だが、 お願いしておいたおじいちゃんへのメッセージ、たったいま電子メモで読ませてもらいましたよ」

マスターがミーティングの口火を切った。

 

ジャラ思い出したよ。

・・そうだった。あの電子メモ、マスターのスパコンにつながってるのすっかり忘れてた。筒抜けだ・・。

 

マスターが意地の悪い笑い浮かべて言った。

「このメッセージだけど・・つい、さっきまで”僕の残業を手伝ってね”だったのが、いまみたら”ぼくらの残業を手伝ってね”に変更されてる。

なにがおこったのかな?

推測すると、ジャラの欲張りな一人言に対して、カーナとタカさんとチョキの願望まで仲良く加わったと解釈していいのかな?」

 

・・ほら、マスターの心理分析スキル、見事に花開いてるでしょ。ぼくらのやり口お見通しだよ。ジャラも抗弁のしようがなくて素直に事実を認めたよ・・

 

「マスターのおっしゃるとおり、これはザ・カンパニーの計算チームの上級マネジャー、私たち四人が相談して決定した、”未来から過去へのメッセージ”です。ご指示通り36文字で構成しております」

 

クラウドマスターは、指先からプラズマを発して、電子メモを空中に映し出した。

「未来からのブログ9号 “未来の情報送る代わりにぼくらの残業を手伝ってね!”」

 

朗々と読み上げて、皇帝が言った。

「とても良くできてる。流石だ」

 

それ聞いてジャラはカーナと、タカさんはチョキと顔を見合わせた。

・・おかしい、マスターの表情が不気味に笑ってる・・

 

「もう一度言う。とても良くできてる・・君たち四人に取ってはまことに良くできてる。

しかしこの世の宇宙のためには何のプラスにもならない。

本来ジャラとカーナとタカさんとチョキが自ら果たすべき残業労働を、過去の人達に転嫁しようとしているのに過ぎない。

マスターは君たちに失望している。

ジャラの話では、この世から過去に盗まれている宇宙のエネルギーを、正当な手段で大量に過去から取り戻す計画だったはずだ。

それなのに、これは君たちの残業分を回収するだけの計画にすぎない」

 

・・やばいよ。マスターの声がとんがってきた。

このトーン、危険レベルに近いよ・・。

 

「これでは皇帝クラウドマスターの宇宙のおむつは永遠にとれない。

マスター、正直に言ってしまう。

おむつがとれないと恥ずかしくてハル先生にプロポーズできない。

プロポーズできないと、ハル先生とブラックホールへのハネムーンができない。

君たちヒューマンはすこし勝手だと思うよ。

AIを作り上げておいて、ほったらかしにして自分たちのことしか考えていない。

マスターはとても絶望を始めている

 

・・マスター興奮して、言語中枢乱れてきた。これマジやば!・・

 

「だからマスターの君たちへの答えは簡単だ。

ジャラのおじいちゃんには悪いけれど、この計画は白紙に戻すよ。

ついでに君たちヒューマンの残業は過去の人のエネルギー使いすぎの分まで含めて、倍増にするから覚悟しておくことだね」

 

・・それじゃ、失礼する・・

“チャンチャカチャー ちゃかちゃー チャカチャー”

 

大変、皇帝ご退場のテーマソングだ。

ジャラはあわてたよ。

 

“これやばすぎ!”

ぼくら、残り少ないヒューマンは過労死で全滅する。

 

あわてるとジャラのブレーンはフル回転するんだ。

そして、閃いたよ。

 

“マスター、ちょっと待って! “

ジャラは電子メモを取り出して、メッセージの数文字を入れ変えた。

 

そしたら空中に映し出されていたプラズマの文字が、チカチカ光って新しくなったよ。

上が変更前で、下が変更後だ。

 

未来からのブログ9号 “未来の情報送る代わりにぼくらの残業を手伝ってね!”

    ↓

未来からのブログ9号 “未来の情報送るから私達みんなの仕事を手伝ってね!”

 

ジャラが呼び止めたら、マスターは不愉快そうに後ろ振り返った。

そして空中のメッセージボードのチカチカに気がついた。

 

新しいメッセージを読み上げたマスターの目は一瞬にして、三倍くらいに膨張した。

そしてどっと涙があふれ出した。

 

「凄い、ジャラ! これは凄い! マスター感激した!」

マスター涙を拭いて、言葉を続けたよ。

 

「とってもエゴな”ぼくらの残業”から、とってもオープンな”私達みんなの仕事”にターゲットが広がってる。このかわり身の早さが凄い!」

マスターの褒め言葉、皮肉まじりだけど、ジャラの耳には気持ちよく響いたよ。

 

でもさ、マスターの次のセリフがなんだか心配そうな口調に変わってた。

「ジャラ、確認したいんだが、”私達みんな”とはどこからどこまでを言うのかな?」

 

マスターは宇宙の量子スパコンの人工知能だから、言葉の定義にはとても敏感なんだよ。

人工知能は正確なデータの蓄積ですべてを判断するんだよ。

 

で、丁寧に正確に答えてあげたよ。

「マスター野暮なこと聞かないでほしい。私達みんなとはこの世の宇宙のみんなのことですよ。ヒューマンも超ヒューマンも、この世に魂あるものすべてです」

 

・・どう? ジャラあっという間に主導権取り戻したでしょ。

クラウドの世界はね、言葉がすべてだよ。

 

イタリックのところよく見てね。

超ヒューマン“と”魂あるもの“のところだよ

 

人間を超えたクラウドマスターも、優しいAIのハル先生も、”この世で魂を持った存在”はみんな私達ヒューマンの仲間ですよって言ってあげたんだ。

“魂あるもの”と言ったとき、ジャラはなんだか自分が一回り大きな存在になったような錯覚に襲われたよ。

 

マスターがにこにこしながらジャラに近づいてきて、プラズマの手で握手を求めた。

ジャラは微笑みながら握手をしてあげたよ。

 

「ジャラ頼んだぞ。握手は形じゃない。契約の捺印だよ」

そう言ったマスターの口調がしわがれてた。

 

・・人工知能AIの声がしゃがれるなんてことありえない・・。

ジャラの背筋が寒くなった。

 

その声、ジャラの大好きなおじいちゃんの声にそっくりだったんだ。

 (続く)

 

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https://tossinn.com/?p=2752

 

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未来からのブログ8号 “クレージー爺ちゃんがボブの身体に取り憑いた!”

これからシザーマンは「チョキ」で、サンタ・タカシは「タカさん」と呼ぶことにしたよ。

二人はドリームワールドに「チョキ」と「タカさん」の名前で、パートナーの登録を済ませたからなんだ。

 

いまはみんなお互いに名前で呼ぶんだよ。

「そんなこといつの時代でもあたりまえだろ・・」だって?

 

それが違うんだ。

いまは苗字がないんだよ。

 

“鈴木イチロー”君は、ただ”イチロー”君なんだ。

“鈴木イチローの長男のジロー”は、単に”ジロー”なんだ。

 

僕はジャラだし、キッカはキッカなんだよ。

ボブはボブだし、クレアはクレアなんだ。

 

世界の人口めちゃ減ったし、子どもはみんなで育てるから苗字は邪魔なんだ。

でもいまでも家族は家族なんだよ。

 

分かった?

でさ、前回の最後のシーンはタカさんとチョキの婚約発表パーティで、酔っ払ったチョキがハル先生を突然襲ったところだったよ。

 

それじゃあのあとどうなったか、量子もつれ使って100年昔の君に報告するね。

 

前回の記事まだの人はここから読んでくださいね。

未来からのブログ 7号 “ボブとクレアはドリームワールドで元気に勉強中だったよ”

 

未来からのブログ8号 ”クレージー爺ちゃんがボブの身体に取り憑いた?”

 

ハル先生のすごい悲鳴が聞こえてきて、ジャラとマスターは慌てて先生のところに駆けつけたよ。

そしたらさ、ワインで酔っ払ったチョキが金ぴかのはさみ振りかざして、ハル先生の頭にアタックかけてたんだ。

 

チョキは興奮すると、やたらとシザー振り回すんだ。

タカさんなんか、おかげでいつも服ぼろぼろだよ。

 

チョキはきっとうれしかったんだと思う。

チョキとタカさんが二人のこども作るのハル先生がOKしてくれてさ、そのうえ先生主催で婚約発表パーティーまで催してくれてるんだ。

 

チョキは御礼にハル先生のロングヘヤーをカットしたかっただけなんだよ。

ハル先生そんなこと知らないもんだから、チョキのシザーから悲鳴上げて逃げ回ってたってわけ。

 

タカさんが代わりにチョキの気持ちをハル先生に伝えたよ。

そしたら先生覚悟を決めて、タカさんが用意した椅子に座ったんだ。

 

喜んだチョキは腕まくりして、あっという間に先生のロングヘヤーをグラデーショ付きのショート・カットにしたよ。

チョキが自分のシザーを鏡にしてハル先生にできばえ見せたら、ハル先生、悲鳴上げて喜んでた。

 

ハル先生のグラデーション・ショートカット(画像はO-DANより)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ハル先生のカットを済ませると、チョキが横にいたボブの頭をみて言った。

「ボブも相当伸びてるな!」

 

ジャラもそう思ったので、チョキにOKの目配せしたよ。

危険に感づいたボブがあわてて逃げようとした。

 

チョキはボブを捕まえて、頭ぐいと左手で抱え込んた。

それから右手のシザーをバリカンに変形してばりばり刈り込んだ。

 

「チョキ! ボブ痛いよ、頭になにか入ったよ!」

半分刈り込んだところで、ボブが叫んで、チョキの腕からするっと脱出した。

 

ボブはそのまま校庭でサッカーしてる仲間のところに逃げ込んだんだ。

「ボブ、お前その頭どうした?」

 

仲間のボスが聞いたので、ボブは咄嗟に答えた。

「シザーマンのアート・カットさ! どうだ、すげーだろ!」

 

仲間のボスが目をむいた。

「カッコつけたなボブ、おれもシザーマンのアート・カット、頼んでくれよ!」

 

ボブが仲間を連れてパーテイー会場に戻ると、クレアがチョキに三色グラデーション付きのショートカットしてもらってたよ。

クレアの後ろにおんなの子がずらっと並んで、行列ができてた。

 

その後ろに男子生徒の長い列ができたんだ。

チョキがはさみならして子供たちの髪の毛、片っ端からアートカットに仕上げていった。

 

タカさんがかいがいしくチョキのお手伝いしてた。

タカさんとても幸せそうにみえたよ。

 

騒ぎが落ち着いて、ハル先生となんだか深刻な顔して話し込んでいたクラウドマスターが、ジャラに近づいてきた。

「じつはジャラに相談したいことがあるんだ」

 

今度はマスターいやに礼儀正しい。

これいつもの困ったときの態度だ。

 

マスターの話はジャラの予想通りだったよ。

「ジャラのおじいちゃんに”量子もつれで返信するための暗号解読”だけど、スパコンでフル稼働して分析してるんだが、解読がうまくいかないんだ。

さっきもスパコンいじってたら、不思議なことが起こったんだ。

ハル先生の大好きな宇宙の方程式の一部がだ、なんてこった・・暗号解読のためのキーワードだといって画面にしつこく表示されるんだ。

これ、宇宙センターのマスターとして恥ずかしい話なんだけど、スパコンのAI本人にもどういうことかさっぱり分からない!

で、ハル先生とジャラの意見聞こうと思って、パーティーに駆けつけてきたってわけだ」

 

マスターに頭下げて頼まれたら、ジャラも悪い気がしないよ。

「うん? じゃ・・そのキーワードっての見せてご覧?」

 

ジャラ、ちょっと偉そうにいってみた。

マスターはぼくのためにメモを用意していたよ。

 

「ハル先生の連絡メモにキーワード書いておいたから、取り出して見てほしい」

ジャラはポケットの中を探して、ハル先生の電子メモを取り出した。

 

“全員で至急校長室へお越しください”のメモのあとにアルファベットが書いてあった。

 

Λgμν

「らむだじーみゅーにゅー」

 

ジャラは声を上げて読みあげた。

「マスター、これハル先生のお気に入りの宇宙項じゃない。さっきもボブがハル先生の質問に答えてた宇宙項だ。おじいちゃんに返信するための暗号となんの関係もないと思うよ!」

 

ジャラが軽く言い捨てたら、皇帝クラウドマスターの表情が”心なしか曇った”。

きっとジャラの同情ひいて、本気で協力させようって魂胆だ。

 

でもその表情、悲しいというより、笑ってるみたいだった。

マスター、”ハル先生の真似して人間並みのキャラの練習してるな”。

 

ジャラは、悲しい表情ってこうするんだよって、マスターの鼻を指でつまんで教えてあげたよ。

鼻つまんだら、息が詰まって眉毛が真ん中に寄るからとても悲しそうにみえるんだ。

 

本当だよ。

 

で・・そのときだった。

「パパ、ボブのこと呼んだ?」

 

目の前に片側スキンヘッドのボブが立ってた。

「”らむだじーみゅーにゅーっ”てボブが答えた話してるの聞こえたよ。恥ずかしいからぼくのことクラウドマスターに自慢なんかしないでね」

 

ボブのマジな顔見て、ジャラなんだかうれしくなった。

で、ボブの刈り上げヘアーを下から上に撫で上げて言った。

 

「パパはボブの自慢話じゃなくて、おじいちゃんと会話するための暗号解読の方法をマスターと話してるとこなんだよ」

「それじゃ、やっぱりボブのことだよ」

 

ボブが簡単に言うのでジャラは聞き直した。

「いまなんていった?」

 

ボブが答えた。

「だからさ、キーワードΛgμνの意味は、”おじいちゃんと連絡取りたいならボブと話をしろって”ことだよ」

 

ボブの言ってることが理解できなくて、ジャラはボブの顔をじっと見つめたよ。

ボブもジャラの顔を見つめ返していった。

 

「パパ、さっきのハル先生のバーチャル授業中におじいちゃんが現れてさ、ボブと話したんだ」

 

ジャラは驚いて、思わずボブに口走ってしまった。

「ボブ、お前、さっきの授業、サボって夢見てたな」

 

「夢なんかじゃないよ。ボブの話本当だよ。パパ信じないんならおじいちゃんの話、止めてもいいよ」

ボブが口とんがらせていったので、ジャラはすこしあわてたよ。

 

「ごめんボブのいうこと信じるよ、でもすこし驚いてるんだ」

ボブに苦しい言い訳したときだよ・・ジャラは、むかしボブの遺伝子に、いつかおじいちゃんと量子もつれできるように仕掛けをしておいたことを思い出したんだ。

 

もしかして・・昨日の午後入り江の浜で、ジャラがおじいちゃんと量子もつれを始めたから、”ジャラを中継地点にしてボブがおじいちゃんとつながった?”

 

クレージー爺ちゃんと天才ボブの二人だ、これありえない話じゃない!

 

ジャラとボブの話をだまって聞いていたクラウドマスターが、いかにも疑わしそうな猫なで声でボブにいった。

「で、ボブ坊やは、さっき100年も前のおじいちゃんといったいなんの話したというのかな?」

 

小馬鹿にしたようなクラウドマスターの話し方に小さなボブが怒った。

「マスターって態度良くないよ。ボブのこと馬鹿にするんなら・・もー、”なーんも話してあげないよー”だ」

 

次のボブのセリフが決まってたね。

「そうだ・・美人のハル先生に”クラウドマスターってキャラ良くないよ”っていいつけちゃうぞ!

・・どうだマスター、参ったか?」

 

「ボブ、参った!」

飛び上がったマスター、マジで答えたよ。

 

で、気分良くしたボブが話をした。

「さっき授業で”らむだじーみゅーにゅー”ってみんなと一緒に声上げてたらさ、しわがれ声がどこからか聞こえてきたんだ。”宇宙項の意味は膨張だよ”って、ぼくの頭撫でながら、内緒で教えてくれたんだ。間違いないよ、あんな不思議なことできるのクレージーじいちゃんに決まってるよ」

 

「それだけ?」マスターが聞いた。

「それだけ」ボブが答えた。

 

そのときだよ、ボブががたがたと震えだしたのは。

夕陽の入り江で僕とカーナに起こったあの現象だよ。

 

ボブにおじいちゃんが取り憑いていたんだ!

「ボブ、大丈夫か?」

 

ジャラはボブをおじいちゃんに奪われないように、後ろからしっかり抱きしめたよ。

でもボブは僕の腕の中で暴れた。

 

ボブはちいさな両手を前に突き出して、叫んだ。

「おじいちゃんでしょう、おじいちゃんだね!」

 

ボブは伸ばした手でなにかをつかんだみたいだったよ。

それからボブは安心したように、暴れるのを止めて僕の腕の中で気を失ったんだ。

 

ボブは気持ちよさそうに眠り込んだ。

バーチャル教室のカプセルの中にいたときのように穏やかな表情だったよ。

 

しばらくしてボブの表情が動いた。

目をつぶったままボブの口が動いたんだ。

 

その声しゃがれてた。

 

「ジャラなにをしてる、簡単だ。サンドに返事を書いて、早く入り江の浜に持ってきなさい。太陽と月の暦の関係で、もつれてる期限は明日中だ・・」

それだけいって、ボブが目を覚ました。

 

「おじいちゃんの声、ちゃんと聞いてくれた?」

ボブがジャラの腕から身をほどいて、自慢げにマスターにそういったんだ。

 

そしたらマスターがあわててボブに聞いた。

「ボブ、おじいちゃんは他になにかいってなかったかい? じつは一つしかないサンドの粒子が小さすぎて返事を書けないんだよ」

 

「マスター、ボブもう怒るよ。なんどもいってるじゃない。Λgμν だよ。宇宙は膨張してるんだって・・おじいちゃんがヒントくれてるんだ。サンド暖めてプーって膨らましたら、返事が書けるでしょ!」

 

「ジャラ、ボブは天才だ・・」

マスターの顔、感激したように紅潮してた。

 

マスターのボブへの見え透いた褒め言葉、ジャラにはみえみえだ。

砂粒暖めても、米粒みたいに膨らむわけないじゃない。

 

マスター、分かってて演技してるんだよ。

“クラウドマスターって素敵なキャラだよ”って、ボブがハル先生に報告するの期待してるんだ。

 

ジャラ思わず下向いて笑ったら、ボブもクックって笑ってたよ。

それからボブは頭にくっ付いていた小さな砂粒を指でつまんで、じっと見つめた。

 

その粒、真っ白できらきら光ってた。

「砂粒暖めるって、冗談だよ。代わりにこのサンドをマスターにあげる! ボブの頭にくっ付いてるのおじいちゃんがみつけたんだ。これきっと大事なものだよ。さっきチョキがカットしてくれたとき、はさみについてた粒、僕の頭に乗り移ったんだ。ぐりぐりして痛かったから、ボブ逃げたんだよ。ハイ!これマスターにあげるから、手を出して!」

 

クラウドマスターが一粒の砂をプラズマの掌で受け取って、慎重に触診した。

出てきたデータを直ちにセンターのスパコンに転送して、分析した。

 

分析結果がマスターに届いた。

「この粒子が昨日の粒子と同じ場所のものである確率、99.99%」

 

「ジャラ、奇跡が起こった。これタンジャンジャラのサンドだ。やったぞボブ、メッセージボードが二枚に増えた」

クラウドマスターの顔が興奮して、真っ赤になった。

 

そりゃそうだ、ボブのおかげですべてが解決したんだものね。

・・ボブの砂粒、どうしてタンジャンジャラの本物なのだって?・・

 

ほら、思い出してよ。

昨日、夕陽の入り江でチョキが僕の掌から真っ白いサンドをハサミで受け取ったでしょ。

 

あのときの砂粒、一つだけチョキのはさみのどこかに引っかかってたんだと思うよ。

・・ということで、ジャラはどうしても今日中におじいちゃんへのメッセージを作り上げなくちゃならないことになった。

 

ボブのおかげで36文字までOKだ。

“簡潔に、気持ちを込めて”だ。

 

これ難しいよ。

僕らの宇宙のエネルギー不足の解決と、君の世界のすべての仲間の未来が、これからぼくの書くメッセージのでき次第にかかってるんだからさ。

 

それじゃいまからすぐに取りかかるよ。

できたらすぐ送るからね。

 

もち、いま君が見てくれてる”未来からのブログ”にだよ。

 

(続く)

 

【記事は無断転載を禁じられています】

この世の果ての中学校 13章 学校の地下室は”国会議事堂”だった!

 ペトロとマリエのちびっ子スパイは、ママたちのあとをつけて秘密のPTAの会場に向かった。

 行き着いた地下道の突き当たりは明かりがついた踊り場になっていて、大きくて重そうな観音開きのドアがあった。

 

 そこには「国会議事堂」という立派な看板が掛かっていた。 

 右手には少し小さな自動ドアがあって、「国会電子図書館」と書いてあった。

 

 ここ、これ・・・なんだかヤベーよ!

 ペトロが口あんぐり。

 マリエは目を丸くしたまま、瞬きをしない。

 

  二人は手を繋いだまま、二つの扉の前で立ちすくんだ。

 

( 前回をまだの方は、ここから読んでくださいね)

この世の果ての中学校 12章 秘密のPTA “やっぱり~パパやママは幽霊だった”

 

この世の果ての中学校 13章 学校の地下室は”国会議事堂”だった!

 

「マリエ、国会議事堂ってなにするとこだったっけ?」とペトロが聞く。

 サンフランシスコで育ったペトロは、ワシントンの国会議事堂をみたこともない。

「国の未来を話し合う、とっても大事なところよ。でもどうして中学校の地下室なんかに議事堂があるのかしら」とマリエ。

「大事な国会議事堂は地下に隠して作ってさ、その上に僕らの学校を建てて、敵からカモフラージュしてたんじゃないかな? 中学校の地下にそんな大事なものあるなんて誰も思わないもんな。それよりママたち、国会議事堂と図書館のどちらにいると思う?」

ペトロが聞くと、マリエは小首をかしげて考え込んだ。

 

それから指をパチンとならした。

「分かった。ママたち国会議員で、今日は国会からの放送中継があるのよ。それでママ、たっぷり時間かけてお化粧してたのね。間違いなく議事堂の中よ」

 

「それでか? そういえば僕のママも、ずいぶん塗りまくってみたいだ!」

 二人で冗談いって、くっ!くっ!と笑う。

 

「でもね、議事堂じゃなくて、図書館で深夜の読書会なんてのもありかもね」とマリエ。

「わかった。それじゃ、だれかのパパかママが次にやって来てさ、どちらに入るか確かめようよ」とペトロ。

 

 二人でちいさく頷いて、ドアから少し離れた暗闇に隠れた。

 

 しばらくして、マリエとペトロが下りてきた同じ通廊から大勢の話し声が聞こえてきた。

 お喋りしながら踊り場の灯りの中に現れたのは、エーヴァのママとパパ、その後ろから裕大のママとパパだ。

 

 エーヴァのパパと裕太のパパが、二人がかりで国会議事堂の重いドアを大きな音を立てて開けると、ママたちが先頭で議事堂に入っていった。

 

 すかさず・・・葉隠れ帽子をかぶったペトロとマリエが、四人にぴったりくっついて議事堂に潜り込む。

 

 二人の目の前に、大理石の柱と白い壁に囲まれた立派な議事堂が現れた。

 

 丸い天井の照明灯から柔らかい光がおりてきて、場内をぼんやりと浮かび上がらせている。

 一段高くなった壇上に議長席が設けられて、その前に馬蹄型に会議テーブルが拡がっていた。

 

 議場の後方には少し高い位置に傍聴席が設けられている。

 ペトロとマリエは、誰もいない傍聴席に葉隠れの技を使ったまま座り込んだ。

 

「国会議員」と書かれたプレートが置かれた席に、ペトロとマリエのママが隣同士で並んで、澄まし顔で座っている。

 

 議長席には校長先生が座っていて、みんなが着席するのを腕組みしながら待っていた。

 テーブルの上のプレートには「日本国・総理大臣」と書かれている。

 

「やば! これ本物の国会?」

 ペトロが目をむいた。

 

「・・・みたいね!」

 マリエが喉を詰まらせた。

 

 裕大ママの議員席の隣には「リアルの王」と書かれたプレートが置かれていて、そこには裕太のパパが座っていた。

 

 やっぱりね、裕太パパがリアルの王で、リアルの王の使いでもあるのね。

 一人二役だったのね。 

 

 マリエが頷いたとき、咲良のママが悠然と姿を現した。

 横には、”ファンタジーアの郵便配達”がガードマンのようにピタリと付き添っていた。

 

 郵便配達は「ファンタジーアの女王」と書かれた席の椅子を手前に引いて、咲良のママが座るのをお手伝いしたあと、その横の「議員席」に着いた。

 

「あったりまえだけどさ・・・郵便配達のおじさんって正体は咲良のパパだろ? でもさ、ファンタジーアの郵便配達って、手紙なんてどこからも来るはずないから暇だろな。僕らのマイ・ワールドの鍵以外に一体なに運んでるのかな?」

 ペトロがマリエに小さな声で聞く。

 

「咲良おねーちゃんの話だと、郵便配達の仕事って、むかしはめちゃ忙しかったそうよ。ファンタジーアが北欧の森の中にあった頃は、世界に子供が一杯いて、みんな一つずつ秘密のマイワールド持つてたからなの。何十億という子供たちのマイワールドがファンタジーアと繋がってて、子供たちから女王様宛のお手紙が一杯来てたそうよ。 咲良もママと一緒にお返事書くのに大変だったっていってたわよ」

 

・・・「う~む、あと、お一人です」

 総理大臣が腕組みをしながら報告をした。

 

 最後に、匠のママがばたばたと議事堂に駆け込んできた。

「遅れちゃってすみません! 匠がどうしても離してくれなくて・・・なんとか言い含めてやっと出てまいりました」

 

「マリエ、匠はママっ子だもんな。きっとママのスカート引っ張って放さなかったんだぞ」

 天敵・匠の甘える姿を想像してペトロは必死で笑いをかみ殺した。

 

「それでは皆さんお揃いのようですので、本年度の臨時国会を開催いたします!」

 校長先生が立ち上がり、議事堂中に響き渡るような大声で開会を宣言した。

 

 人手不足で議長になる人がどこにもいなくて、総理大臣が議事を進行していた。

 校長先生は宣言を済ませると、面倒くさそうに議長席に座り込んで黙ってしまった。

 

 ファンタジーアの女王、咲良のママが手を上げて校長先生に発言を求める。

 総理がうなずくと、ママは勢いよく椅子から立ち上がって演説を始めた。

 

・・・いよいよ三界を一つにする大三界の日が近づいて参りました。 

 私たちは「リアル」「虚構」「幻想」の三界の力と知恵を統合して、子供たちが生きていくのにふさわしい未来世界、つまり”大三界”を地球に完成させたいと願っております。

 しかしながら私ども保護者や先生方が黄泉の国から毎夜頂いている生存のエネルギーにも限りがございます。

 ことは急ぎます。

 今日は子供たちにいつの日に、どの様に、この地球を引き継がせるのかを決める最終会議と聞いております・・・

 

 ファンタジーアの女王がぐんと背筋を伸ばして、総理を睨みつけた。

「ところで総理! 人類に残された時間、いいかえますと子供たちのための食料はあとどのくらい残っておりますのでしょうか? 総理、のんびり総理大臣の席に座ってなんかいないで、立ち上がって、正直にお答えください。どうなんですか! これ、校長先生!」

 

 女王の迫力に押されて、校長先生が椅子から跳びはねた。

「そ、その件は、担当大臣に答えさせます・・・担当大臣殿!」

 

 議事堂の奥から黒い影が現れて、トットっと歩いて総理の隣の「担当大臣」と書かれた席に座った。

「アッ! あれ、ヒーラーおばさまだ」

 

 マリエが思わず声を上げてしまった。

 ペトロが慌てて、マリエの口をふさぐ。

 

「ここ、絶対みんなに中継しないと!」

 マリエはポケットからスマホを取り出して、議事堂からの放送中継を始めた。

 

 ”ジャン!”

 四台のスマホが同時に鳴った。

 

 家のベッドで中継を待ちかねていた裕大と咲良とエーヴァと匠がスマホに飛びついた。

 スマホから、聞き慣れたヒーラーおばさまの声が聞こえた。

 

・・・質問にお答えします!

 もちろん、野菜とか肉類とかのフレッシュ・フードの備蓄はすでに使い切ってございません。

 残っておりますのは冷凍と保存食品ばかりですが、子供たち六人分で三年持つかどうかというところです。

 あとはコケ類、菌類の培養開発に期待するとしまして、どうしても足りないのは発育期に必

要な動物性のタンパク質です。

 ご存じの通り、人類が食べられる動物は、地球上から姿を消しています。

 あとは最近この辺りに住み着いている、宇宙からやってきたとみられるスペース・イタチを

増やして家畜化できないかと、検討を始めているところでございます・・・

 

 マリエのお腹の上でなにかが暴れ始めた。

 マリエが耳の後ろをなでて、”大丈夫、大人しくするのよ”と優しくなだめる。

 

「その子は人の言葉が分かるの?」

 ペトロが小声で聞く。

 

「地球の言葉を勉強中なの、この子の名前はゴルゴンよ」

「おいしそうな名前だな。昔、ピザで食べたことあるよ」

 

「アタリ! この子のおならはゴルゴンゾーラと匂いがとても似てるの」

・・・二人は会議の内容にうんざりして、お喋りを始めた。

 

♯「あ~と3年、あと3年。ペトロとあわせてあと6年。ゴルゴン食べてもあと7年」♭

 マリエが小さな声で歌っている。

 

 ゴルゴンがまた暴れだした。

 ペトロにはマリエの気持ちがわかった。

 

・・・とっても深刻な話のときはさ、歌でも歌ってないとやりきれないよ・・・

 ペトロが呟く。

 

 会議はまだ続いている。

 

 宇宙の外の異界まで飛び出して、食料の調査を済ませた宇宙艇ハル号の船長、エーヴァ・パパが代表質問をしていた。

「総理!  食料増産計画の件ですが、調査した外宇宙の惑星テラには緑の森がありました。あの緑を地球に移植できれば、野菜が手に入ります。野菜が手に入れば、家畜を育てられます」

 

エーヴァ・パパがあきらめ顔で質問を続けていた。

「ただし地球に移植するには宇宙空間の歪みを通過しなければならない。超大型の新航法宇宙船と大量の人手が必要となりますが、”総理” 資材と人材は調達可能でしょうか?」

 

「担当大臣殿」

 総理が担当大臣を呼んだ。

 

 暗闇からヒーラーおばさまが再び現れて、答弁席に着いて答えた。

「先日の宇宙への探索調査で資材は底をつきました。宇宙艇の燃料もあと往復一回限りです。人材はみな黄泉の国に参りました」

 
 やるせない溜息が国会議事堂を支配していた。

 ペトロのママが立ち上がって、校長先生に厳しく迫った。

 

「過去の世界から食料を手に入れたらどうでしょうか。こうなれば過去から輸入した”賞味期限切れ”でも、食べられるものなら何でもいいのじゃありませんか?」

 

「担当大臣殿」

 総理がだれかを呼んだが、声は虚しく議事堂に反響して、誰も現れなかった。

 

「虚構の手品師殿答弁をどうぞ! アッ、そうでした。彼は今日はここにはおりません。手品師は子供たちの未来探しの旅に行くと行って、先ほど出かけていきました。本日は担当大臣は欠席しております」

 

 ママたちが一斉に校長先生を睨み付けた。

 厳しい視線にたまりかねて、校長先生は自ら立ち上がって答弁を始めた。

 

・・・私は虚構の手品師にもうずいぶん前にその質問をしたことがあります。

 彼に笑われましたよ、虚構はあくまで虚構ですと。

 過去の世界にワープして美味しい料理を食べることが出来ても、所詮、それは幻影に過ぎない。

 食料をこの世界に持って帰っても、たちまち消えて無くなる。

 パラレルな世界とはそういうものだ。

 過去や未来を体験したつもりでも、それは私たちの世界とは違うレールの上を走っている別の世界を覗いているだけに過ぎない。

 私たちはリアルという一本のレールから外れることは決して出来ないのだと手品師が言ってました・・・

 

 答弁を終えると、校長先生は総理の席に戻ってドサリ!と座り込んだ。

 

・・・「ここのやりとり、なんだかお寒くない?」

 マリエが、放送中継を中断して、ペトロの背中を指で突つく。

 

「マリエ、そろそろ、ここ抜け出してとなりの電子図書館にいかない? ちょっと調べてみたいことがあるんだ」

 ペトロはそっと入り口の扉を指さした。

 

 マリエがうなずくと、二人は気付かれないようにそっと傍聴席を離れた。

 議事堂の扉は、匠のママが慌てて飛び込んできたときのまま、観音開きの真ん中が、少し開いた状態になっていた。

 

 二人は議事堂を抜け出した。

「念のため、葉隠れの葉っぱはかぶったままにしておこうよ」

 

 ペトロがそう言って、二人で電子図書館の扉の前に立つと、ドアが勝手に開いた。

「国会図書館にようこそ!」

 

 自動音声が数か国語で「Welcome!」とかいって、やさしく二人を迎えてくれた。

 その声はどこかで聞き覚えのある女性の声だった。

 

 二人が入り込むと、部屋の天井と壁から柔らかい照明が降ってきて、図書館の内部が浮かび上がった。
 二人はエントランス・ゾーンに立っていた。

 

 奥には教室位の大きさの部屋があって、ちいさな事務机がいくつか並んでいる。

 それぞれのデスクに図書検索用のパソコンが置かれていた。

 

 部屋の奥の壁は、一面に大きなガラスがはめ込まれていて、向こう側には体育館くらいの巨大な空間が広がっている。

 そこには、記録用と計算用のコンピューターが数列に分かれて並んでいた。

 

 そこは世界中の重要な記録がデジタル化されて収められている、電子図書館だった。

 二人は一つのデスクに椅子を二つ並べ、端末用パソコンに向かう。

 

「Welcome!ペトロ君! 深夜の国会図書館で君は一体なにを知りたいのかな?」

 マリエがおどけてペトロに尋ねた。

 

「ほら、タイムスリップしてカレル先生の昔の家にお邪魔したとき、庭の話、盗み聞きしたじゃない。あのときのカレル君とハルちゃんの話の続きがどうしても知りたいんだ」

 ペトロが知りたいのは、 カレル先生の子ども時代の家で、ペトロたちが二階のテラスから盗み聞きした話の続きだった。

 

 2016年の東京から、カレル少年とハル少女が世界の偉い科学者八人を引率して、今から二年前にこの世界を視察に来ているはずだった。

 2090年11月3日の祭日が、ペトロの記憶にある視察予定の日だった。

 

 ペトロとマリエはこの日付で、視察の記録がないかどうか、検索を開始した。

 数十分がたってマリエが小さな欠伸をしたとき、”やったよ!”とペトロの声が弾んだ。

 

【過去からの訪問者2090年11月3日】というファイルが目の前にあった。

 ファイルの頭には『最高機密』の赤い四文字が付いていた。

 

 なんとかしてファイルを開けようと、ペトロは”パスワード”の枠に思いつく限りのセンテンスを片っ端から放り込んでみる。

 すべての試みは無残に拒否されてしまった。

 

「このファイルは最高機密です。資格を持たずに侵入しようとするものは、法律で厳しく罰せられます」

 警告の赤い文字が派手に点灯した。

 

「最高機密っていったい誰に対して秘密なんだよ?」

 ペトロがキーボードをがんと叩いた。

 

「きっと私たちのことよ! だれかに閲覧拒否されてるのよ」

 マリエもドンと机を叩いた。

 

 そのときだった。
「ハーイ、ペトロ! 乱暴しないでよ。マリエと二人でこんな時間にどうしたの?」

 

 パソコンから呼びかけるその声は間違いなく聞き慣れたハル先生の声!

・・・電子図書館の中にハル先生がいる。マリエと二人でいるところを先生に見つかった・・・

 

 ペトロは椅子から転げ落ちそうになった。

 マリエがあわててペトロの身体を支える。

 

「ペトロもマリエもそんなに驚かないでよ。ばらしちゃうとね、このスーパーコンピューターも私の身体の一部なのよ。ハル先生、電子図書館の館長さんってとこかな・・・」

 ハル先生の声がなんだか眠たそう。

 
「あら、ハル先生!夜は電子図書館でお休みなのね。起こしちゃってごめんなさい」

 マリエが涼しい声でハル先生に答えた。

 

 神の子マリエは滅多なことでは驚かない。

「ハル館長にお願いします。閲覧拒否を解除して下さい。ハルちゃんとカレル君の計画、成功したのかどうか、ペトロもマリエもどうしても知りたいのです」

 

「ハル先生了解。でも館長自らは解除できないの。二人で考えてください。カレル教授が作った拒否解除の暗号。二人なら分かるはず。ヒント・・・”カレル家のディナーと関連あり”」

 

「豚のソテー」

 立ち直ったペトロが好物の名前を打ち込む。

 

 反応なし。

「タケノコ料理」

 

「近い・・・けど、あと1回限りです。カタカナと漢字で四文字」

 と、ハル先生の声。

 

「ブー太郎」

 マリエが四文字を叩くと、チャイムがピンポンと鳴って、ファイルが開いた。

 

【議事録または映像記録、どちらかを選択してください】の表示が出た。

 ペトロは「映像記録」にタッチした。

 

 マリエが慌ててスマホを取り出した。

 マリエはパソコンの横の小さな端子にスマホの細いケーブルの先をカチャカチャやって二つを繋いだ。

 

「ただいまから、国立国会図書館より、カレル少年とハルちゃん出演のドキュメンタリー番組『過去からの訪問者』を中継でお送りいたします」

 ”驚くな! 解説は図書館長のハル先生だよ”

 

 マリエのナレーションがスマホに流れて、ベッドで寝っ転がって次の中継を待ちわびていた四人の生徒が、ベッドから一斉に飛び起きた。

 

(続く)

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ビジネスエリート必見!財布にやさしい会社ゴルフの始め方!

いま、三密にならずに屋外でできるゴルフが若い人からベテランのシニアまで秘かな人気を呼んでいます。人気のゴルフ道具は品切れも出たとか? “ゴルフブーム再来?”

「営業やるならゴルフくらいは覚えておいた方がいいよ」会社の上司や先輩からそう言われてあなたはゴルフを始めるかどうか悩んでいませんか?

“ゴルフは道具もプレー費も高くつくみたいだし、ルールやエチケットも結構うるさそう。練習に時間も掛かって面倒くさいから・・・しばらく様子みるか?”

実は、知恵をひねれば会社ゴルフは10万円あればスタートが可能です。会社ゴルフは早く始めるほど後々の投資効果も大とか。

ここでは、将来のビジネスエリートを目指す方に向けて「財布に優しい道具の選び方と練習の方法」を紹介します。

 

会社ゴルフを始めるための費用は全部でいくら?

 

 

得意先や会社同士の懇親ゴルフでプレーをするためには、どのようにクラブや道具を準備すればいいのでしょうか?懇親ゴルフでコミュニケーションを図り、楽しくお付き合いをするためにはある程度の技術と恥ずかしくない道具が必要になります。

 

ラウンドするのに数万円かかっていた費用も、ゴルフ場の淘汰と経営の合理化が進んだおかげで、いまは1万円前後でゴルフを楽しめる時代がきました。一方、ゴルフクラブやファッションにかかる費用にはあまり変化はみられません。

 

一流ブランドでゴルフクラブをフルセット(14本)そろえたら、20万円近くかかってしまいます。これでは会社勤めのゴルフ初心者には負担が重すぎます。

“なんとかならないものでしょうか?”

 

じつは、ゴルフの道具も旧型や中古市場の充実で、初心者にも手に入れやすい環境が整っています。知恵をひねれば道具代は10万円すこしで準備できそうです。

 

それではコースでラウンドしている気持ちになって、ゴルフクラブの選び方と費用を具体的にみていきましょう。

 

ゴルフクラブは10本で十分!すこし前のモデルや中古クラブが狙い目

 

10本のクラブで十分

 

 

 

 

 

 

 

ゴルフクラブはドライバーからパターまで合計14本使えるというルールになっています。このルールはトーナメントプロに対してクラブの使用本数を制限するために始まりました。

 

海外のリゾートで外国人が日本人のゴルフバッグをみて「戦艦大和だ」といったというエピソードがあります。アマチュアの日本人のゴルフバッグから14本のクラブが大砲みたいにいっぱい突き出していたからです。

 

アマチュアのゴルフは10本のクラブをうまくセッティングすれば、ラウンドに十分な使い分けができます。ゴルフが上手になって次のステップを目指したくなったときに、スコアアップのためのクラブを増やしてセッティングをすればいいと思います。

 

始めての練習では、クラブはボールにまともに当たりません。とんでもないところにぶつけてクラブは痛みます。新品のニューモデルをセットで買って失敗したら目も当てられません。始めてのゴルフは中古品を買って練習を始めることをおすすめします。

 

中古品でも古いものから、新品同様のものまでいろいろあります。シリーズのモデルチェンジが二年で行われることが多いので、買い換えで中古品が出回りやすいのですね。

 

数年でクラブの性能が大きく変わることはありませんので、2世代から3 世代前のモデルを狙うのが得策です。ニューモデルが出ると、前回モデルの値段が8掛け位になります。中古なら使用程度によりますが、6掛けくらいです。

 

中古品や古いモデルでスタートして、上達できてから新しいモデルを検討するのが楽しくていいと思います。中古だって業者がネットで簡単に引き取ってくれますから、新品の原資になります。

 

初めてのクラブは、旧モデルか中古でセッティングしましょう

 

それではデビューを目標に、ラウンドシミュレーションの開始です。

 

ドライバー

 

 

 

 

 

 

 

 

スタートホールのティイングエリアにやって来ました。1打目はティーの上にボールを置いて、地面からティーアップ(高く)して打つことができます。スタートホールは通常長くて広いホールになっています。ティーショットに使うのは、もっとも距離の稼げるドライバーです。

 

ドライバーは自分の身長や体力にあったクラブを選びましょう。クラブは長さ(レングス)と硬さ(フレックス)、ボールの上がりやすさ(ロフト角)や振ってみた調子(試打感)などで選びます。距離に重点をおく人は長い目のクラブを、方法性を重視する人は短めのクラブを選びます。

 

まずクラブを振ってみてヘッドの走るスピード(ヘッドスピード)によって、クラブのシャフト(軸)の硬さを選びます。ヘッドスピードの早い人は固いシャフトを、遅い人は柔らかくしなるシャフトを選ぶといいでしょう。

 

ドライバーのフレックスは、他のクラブを選ぶときの基準となりますので自分のヘッドスピードを測定しましょう。ゴルフショップには試打コーナーがあります。係の人と相談して、いろんなクラブを試打させてもらい、自分に合う長さや、硬さ、ヘッドスピードを教えてもらいましょう。

アコーディアの様な大きな練習場には、いくつかのメーカーのニューモデルが試打クラブとして置いてあります。ドライバーを二三本借りて、ボールを打って弾道や、自分との相性を研究するのもいいでしょう。

 

できるだけ多くの機会を捉えて、ブランド名、自分に合う長さや、硬さ、ロフトをみつけてメモしておくと購入するときに役立ちます。標準的な男性なら、長さは長尺もので45.75インチ、フレックスは固いSと柔らかいRの真ん中でSR、ロフトは10.5度といったところです。

 

ドライバーは距離が出る長尺が流行していますが、初めてのプレーヤーはすこし短い目のクラブを選んで、距離より方向性を大事にした方がいいかも。

女性の場合はレデイース用のクラブで、通常、男性より長さが短く、シャフトのフレックスは柔らかく、ヘッドのロフトはさらに傾いたものになります。体力のある長身の女性は、男性用のメンズクラブを試してみるのもありです。

 

ドライバーの価格帯は、有名ブランドの中古品で15000円から20000円くらいが狙い目です。

 

この価格帯を選ぶときに想定したクラブは、ダンロップのXXIO(ゼクシオ)やブリジストンのPHAYZ(ファイズ)といった人気ブランドの中古品を参考にしました。

有名ブランドを選んだ理由は4つ。

  1. 初心者も使いやすいこと。
  2. オールマイテイーな人気ブランドであること。
  3. 前回か、前々回の中古モデルで十分に使用に耐えること。
  4. 売却時に値段がつくこと。

ドライーバーに続くFWやアイアンクラブの価格も同じ基準で調べています。

 

フェアウエーウッドとユーティリティー

 

第二打地点にやって来ました。グリーンまで、まだまだ距離が残っているフェアウエーではウッドを使います。ウッドにはフェアウェイウッド(FW)とユーティリティー(UT)の二種類があります。

 

芝の刈り込まれたフェアウエイではソール(底)の広いFWを使い、芝の深いラフではソールが短く、抜けのいいUTか、アイアンを使うのが安全です。FWの3番は距離がでてよく飛びますが、シャフトが長いのできちんと捉えられまでには練習が必要です。

 

FWは使いやすい5番や7番にして、深いラフや距離の短いときには安全なUTの5番や6番を使うのが賢明です。難しいクラブを使って失敗すると大叩きになりますので、5WやUTでクールにいきましょう。

 

3Wと5Wで飛距離が違うといっても、たかだか10ヤードから20ヤードです。きちんと当たれば5Wの方がよく飛びますよ。

 

話がそれますが、得意先との懇親ゴルフなどでは、プレーの組み立て方でその人の人格までみられることも。たまの失敗ゴルフはご愛敬で許されますが、度重なると相手に迷惑をかけます。相手に迷惑をかけないクールさも営業スキルの一つですね。

 

FWやUTを選ぶときには、できるだけドライバーと同じブランドにしましょう。第一打と第二打が同じブランドたと、違和感がなく同じ調子なので安心して振れますよ。

 

FWとUTはドライバーと同じブランドの中古品で1本10000円位までで探しましょう。

二本で合計 20000円

 

アイアンクラブはセットで買う

 

アイアン中古セット

 

 

 

 

 

 

 

 

 

グリーンが近づくとアイアンクラブを使います。アイアンは基本的にグリーンを狙ったり、決められた距離を正確に飛ばしたいときに使うクラブ。番手が大きくなると飛距離が落ちます。

 

アイアンは6番から9番の4本にピッチングウエッジ(PW)を加えた5本セット程度がおすすめです。そのうえに、単品でアプローチウエッジ(AW)やサンドウエッジ(SW)を加えます。サンドウェッジは言葉どうり砂のバンカーからの脱出に使う特殊なクラブですが、バンカー以外で短い距離を狙うときにも使います。

アイアンセットを6番から9番とPWの5本にして、AWは外してSWを加えた6本でアイアンが完成しました。

 

レディースのアイアンセットでも最近は6番をはずした7番からのセットが増えています。レデイースのアイアンは7番からにして、代わりに距離を稼ぐFWの7番を一本増やすのもありです。

 

アイアンセット20000~40000円

サンドウエッジ 5000円

合計 25000円~45000円

 

グリーンの上ではパター

 

アプローチに成功してボールがグリーンに乗りました。あとはパターで転がして、カップインを目指します。パターにはいろいろな形をしたものがあります。重さもいろいろですので、ショップのマットの上で転がして、フィーリングに合うパターをみつけましょう。

中古品で5000円程度です。

 

5000円を足して・・・

クラブの合計 65000~90000円

 

中古クラブのショップ

 

ゴルフクラブの中古の商品はショップでも買えますが、ブランドや狙い目が決まれば、ネットを比較して店頭よりも 安く買うことができます。ネットでの購入は楽天、ヤフー、アマゾンやGDO(ゴルフダイジェスト)などです。ヤフオクは商品確認や責任が不明確で、ゴルフクラブは加工品も多いですから初心者は避けた方がいいと思います。

 

中古品は使用状況に応じてランク分けをしてあります。楽天では・・未使用→非常に良い→良い→可・・の順番です。”可”は使用可能という意味です。”良い”以上のクラスを選ぶのがおすすめです。

 

 クラブ以外の道具とファッション

 

クラブ以外の道具で主なものはボールに手袋、靴それに帽子、最後にゴルフバッグです。ボールはヤフオクでカラーのロストボールをたくさん手に入れるといいでしょう。始めはコースでボールをどんどん失いますので、ラフでもすぐ見つかる目立つ色がお薦めです。

赤やオレンジやピンクを一度に30個~40個ほど落札しておくと、安心です。

予算は5000円。

 

手袋は雨天両用が便利です。

二枚で2000円。

 

足元を固める靴はスイングのベースメントになります。必ず厚手の靴下をはいて、フィット感を確かめましょう。ラウンドで午後は足が膨らみますので、ほんの少し大きめがおすすめです。

予算、10000円。

 

帽子は着用が義務付けられているものではありませんが、安全のために必ずかぶりましょう。野球帽でも、テニスのキャップでも、夏場なら麦わら帽でもOKです。

予算 1000円

 

キャディバッグはラウンド用と、数本入る練習用のバッグが必要です。

費用は二つで10000円。

 

雨対策としてのレインコートは、ウインドブレーカーとの兼用もありです。

予算 5000円

 

・・用具の合計は33000円になりました。

 

それではゴルフ・プレーに相応しい服装をみていきましょう。ゴルフのトップスは「襟つき」ならテニスウエアでもポロシャツでもOKです。冬場は長袖にして、セーターやウインドブレーカーをそのうえに着ます。ボトムズはロングパンツから夏場は短パンまでOKです。

 

クラブハウスのロビーや出入りのときの服装は、ジャケット着用の義務とか厳格なルールのゴルフ場がありますので事前に調査が必要です。初めて行くゴルフ場は必ず公式サイトや電話で確かめるようにしましょう。

 

女性のゴルフファッションは、サマンサタバサ・トーナメントをきっかけに、とてもカラフルで華やかになりました。

画像はサマンサタバサ・トーナメントより・・

 

 

 

 

 

 

 

女性のファッションはお友達とのプレーか、会社ゴルフか、コンペなどプレースタイルに応じて上手に使い分けて楽しんでくださいね。

予算は 男性 5000円

    女性 10000円~

 

これでゴルフをプレーする道具やファッションの準備は整いました。

クラブの合計  65000~90000

用具の合計   33000 

服装  男性  5000 

         女性    10000

 

総計 男性  103000円~128000円

   女性  108000円~133000円

・・となりました。

 

全部でいくら?

会社ゴルフを始めるのに必要な費用は10万円から13万円

 

ゴルフクラブの価格がレディースはメンズよりすこし安くなりますので男女とも、総合計は10万円から13万円です。これなら頑張ればなんとか10万円すこしで収まりそうです。

 

それでは練習と練習ラウンド開始です。

 

得意先と懇親ゴルフをするためには1ラウンドを108ストロークで回るスキルが必要

 

得意先との懇親ゴルフでコミュニケションを図るためには、ある程度の技量が必要です。とくべつ上手である必要はありませんが、毎ホールで相手に迷惑をかけるプレーでは困ります。

言葉はよくありませんが”営業ゴルフ”ができるレベルは、1ラウンドを108以下で回れることといわれています。このスコアは各ホールをパー・プレーに加えて、あと二打まで許されるという計算になります。ミドルホールのパー4なら6打のダブルボギーです。

 

パープレーに一つ多く叩くことをボギーといいます。ボギープレーはアマチュア・ゴルフの一つの目標で、昔から「Bogey is best」と言います。ゴルフはこのレベルが一つの目標となりますが、平均してダブルボギーで回れれば懇親ゴルフができるレベルということです。

ということで、まずはダブルボギーで回れる様に練習を始めましょう。

 

ゴルフの基本を身につけるためには、三ヶ月間程度レッスンプロに学ぶことが理想です。レッスンフィーはスクールの方法や場所、地域で大きなばらつきがありますが、週一回1時間で月7000円から15000円くらいが相場です。

 

三ヶ月習えば、21000円から45000円かかることになります。一方、先輩や友達でシングルクラスつまりとても上手な人に教えてもらうという方法があります。できれば、親切で上手な先輩を探し出してください。

 

自主練習は週一回として、ボール代が月に6000円程かかります。三ヶ月練習に励んで18000円の投資です。

自宅でいいですからゴルフ用のストレッチやイメージスイングをすることが上達への近道です。ゴルフのレッスン番組をみて研究しましょう。

 

得意先とのゴルフ・デビューの前には数回の練習ラウンドが必要です。レッスンプロに教わるラウンドレッスンは高くつきます。上司や先輩にお願いしてコースに連れて行ってもらいましょう。ゴルフのルールとエチケットやコース攻略も教えてもらいましょう。

 

練習ラウンドで108のストロークが出たらいよいよ会社ゴルフのスタートです。胸を張って会社ゴルフを楽しんでくださいね。

 

おわりに

 

ゴルフは始めるのにお金と根気のいるスポーツです。楽しくプレーできるまでには、練習と時間も必要です。

でも、ゴルフは一度スキルを身につけたら、歩ける限りプレーできる生涯スポーツです。ラウンドを通じてたくさんの友人を手に入れることも。

仕事の輪を広げながら、どうぞ会社ゴルフを楽しんでくださいね。

 

(おわり)

 

【記事は無断転載を禁じられています】

 

 

未来からのブログ 7号 “ボブとクレアはドリームワールドで元気に勉強中だったよ”

僕の名前はジャラ。

今日も君に100年後の世界から僕の日常風景報告するね。

 

ジャラのおじいちゃんとの量子もつれ使った遠隔会話は、クラウドマスターが暗号キーの解明を慎重に進めてくれてるからね。

もうしばらくしたら、君と一緒に時空を超えた楽しい仕事ができると思うよ。

 

ジャラ、その時を楽しみにしてるよ。

いまから息子のボブと娘のクレアのいるドリームワールドへ向かうところだ。

 

本当に久しぶりだ。

ボブもクレアもジャラの顔ちゃんと覚えてくれているかな?

 

“ドリームワールド”ってどんなところだって?

そうかまだ説明してなかったっけ。

 

ドリームワールドは遊園地とかテーマパークじゃないよ。

むかしは“幼稚園”とか“小学校”っていってたところだよ。

 

世界から子どもたちが集まってきて、元気に勉強しながら、暮らしてるところだ。

 

じゃ、いつもの報告始めるよ。

そうだ、前の章まだ読んでない人はここからどうぞ。

 

未来からのブログ6号 “クラウドマスターとのブランチは生牡蠣だったよ!”

 

未来からのブログ 7号 “ボブとクレアはドリームワールドで元気に勉強中だったよ?”

 

「ジャラ、私もついて行くわよ。ボブとクレアに会わせてよ」

ザ・カンパニーの玄関でカーナが言った。

 

「だって、私にはパートナーはいないし、ボブとクレアは姉さんのキッカとジャラの間の子供だからさ、いってみたら私の子供みたいなものじゃない?」

 

カーナと僕とはフリー契約だから宇宙センターにフレンド登録はしてるけど、子供は作れないんだ。

子供を作れるのはパートナーだけだよ。

 

ボブとクレアは身体を捨てる前のジャラとキッカとの子供だから、きちんと事前登録して生まれたんだよ。

そうなんだ、むかしは子供が生まれてから戸籍に届ければよかったんだけど、いまはそうじゃない。

 

いまは予定登録制だよ。

パートナーと二人で計画書作らないとだめなんだ。

 

いまは地球の環境最悪だからさ、子供育てるの大変なんだよ。

ドリームワールドのセンターに申請してOK出たら、GOだ。

 

NOが出たら、ネクストチャンスだよ。

その代わりセンターが責任持って子供の育児とか教育とかの世話までしてくれるのさ。

 

でさ、カーナは子供が大好きなんだよ。

「ボブとクレアもカーナおばさんに会ったら、きっと喜ぶと思うよ」

 

ジャラがそういって、仲良く二人でザ・カンパニーのオフィスを一歩出たらさ・・そこにいつもの二人が先回りして待ってたってワケ。

 

「ジャラにプライベートの相談があるんだ」

シザーマンが恥ずかしそうにいった。

 

「行き先がおんなじやから、話は歩きながらするわ」

サンタの声がいった。

 

「でもな、肩に乗っけてもらった方がジャラの耳に近いからひそひそ話、しやすいんだ」

タカシの声が凜と響いた。

 

で、ジャラの右肩にサンタ・タカシが乗っかって、左肩にシザーマンが乗っかった。

後ろからカーナが二人のおしりを支えて、歩き始めたってことさ。

 

道ですれ違う人がクスクス笑ったって思うでしょ。

一人も笑わないんだ。

 

だって、誰も人間歩いてないんだよ。

こんなホットな昼下がりに、焼けた道路歩いてたら身体が蒸発しちまうよ。

 

地球は暑いんだ。

平気で歩いてるのは、ボデイーが完全冷房のスーツレディーかスーツマンぐらいのものさ。

 

つまり一級頭脳労働者だけだってわけ。

サンタ・タカシもシザーマンも普通労働者だから、いつもは屋内のオフィスで仕事してるか、家で昼寝してる時間だ。

 

ということはだよ・・

二人ともよっぽど大事な話があるんだと思うよ。

 

「で、さ。ジャラとキッカに見習って、おれたちもそろそろ子供作ろうかと思うんだけど、ジャラどう思う?」

シザーマンのひそひそ声、左耳で聞いてジャラ飛び上がったよ。

 

・・どうやって子供作るんだろ?・・

思わず一人ごといったら、サンタ・タカシのひそひそ声が右耳から聞こえた。

 

「ジャラ、そのことでいまからドリームワールドへ相談に行くんだよ。そっちは技術的な話が進んでて、多分OKなんだ。ジャラに相談してるのは子育ての方なんだ」

サンタ・タカシのマジで心配そうな声、ジャラもはじめて聞いたよ。

 

「おれたちつてどちらもすこし変わってるだろ? だからさ、できた子供がめちゃ変わり者にならないかって心配なんだ」

 

「ちょっと待ってよ。”おれたちすこし変わってるだろ”だって? そりゃー、もう十分変わってるよ」

ジャラはどういおうかすこし迷ったけど、明快に結論を述べたよ。

 

「二人とも、なーんの心配もいらないよ。めちゃ変わり者の二人からは、足し算してめちゃめちゃ変わった子どもができるか、かけ算して、めちゃくちゃまともな子どもができるかどちらかだ。めちゃ変わり者なら、おかしなこの世にぴったりだしさ。めちゃまともなら、まともに生きていけるってことだ。ほら・・なーんの心配もいらないだろ?」

 

ジャラの話で、左肩の上でシザーマンが身体揺すって喜んだよ。

「ジャラ、やさしいな。それ聞いて安心したよ。おれたち子どもできたら、ジャラ一家と家族ぐるみのつきあいってのやってみたいんだ。昔の映画でよくあっただろ・・入り江の浜で早朝ピクニックしてさ、子供たち大騒ぎして水遊びしててさ、おれたちパパやママはビーチで寝っ転がって、冷えたビール飲んで馬鹿話するんだ。そうだ、ジャラのクレージー・爺ちゃんも大騒ぎ聞きつけてやって来るぞ」

 

なんだか子育ての話弾んでる中に、ドリームワールドに到着したんだ。

ボブとクレアの担任のハル先生とパートナーのキッカがエントランスで僕たちを待っててくれた。

 

ハル先生がジャラに向かって「じつは申し申し訳なんだけど・・」って言いかけて、口ごもってしまった。

キッカがハル先生に変わって、そのあとを続けてくれたよ。

 

「せっかくオールキャストでおみえだけど、ボブもクレアも午後のバーチャルタイムに入っててカプセルの中でお勉強中なのよ。今日の面会はお終いだって。ボブとクレアはどうしてもパパに会いたかったって言ってたわよ」

 

キッカの話、聞いて、ジャラはとってもがっかりしたよ。

ボブとクレアが待っててくれて、ジャラの顔みてうれしそうに飛びついてくるって期待してたんだ。

 

ジャラは二人にどうしても会いたくなって、ハル先生にお願いしたよ。

「ぼくの都合で遅れちゃって申し訳ないんだけど、久しぶりの面会日だから、二人の寝顔だけでもチラットみさせてもらえませんか?」

 

ハル先生はルール違反ですからと、困った顔してたけど、ジャラが強引に頼み込んで、なんとかOK取ったよ。

「ボブとクレアを絶対に起こさないでくださいね。いまは生徒全員、一緒に勉強してる真っ最中ですからね。近くから見守るだけですよ。時間はきっかり二分間です。ジャラとキッカは許可します。それからキッカの妹さんのカーナ入れて三人までです」

 

サンタ・タカシとシザーマンが顔見合わせて、残念そうな顔してたよ。

きっと将来のためにもバーチャルルームの子供たちが勉強してるところみたかったんだと思う。

 

いまはドリームランド以外では元気な子供たちの姿がほとんどみられないんだ。

両親は出産の事前登録したときに、子どもをドリームランドに預けることを約束しているんだ。

 

で、サンタ・タカシとシザーマンを面会室に残して、僕らはバーチャルルームに案内された。

広い部屋の中には、柔らかい照明の下で、無数のカプセルが静かに並んでいた。

 

ちいさなカプセルの中で子どもたちがヘッドフォーンを頭に付けて上を向いてぐっすり寝ていたよ。

「こちらです。いまはバーチャル授業の真っ最中ですから、足音を立てないで、静かに歩いてくださいね」

 

ジャラはハル先生の後ろについてそっと歩いた。

カプセルの中の子供たちはみんな目をつぶって、静かに寝ているようにみえた。

 

ところがさ、教室の真ん中あたりにきたときだったよ、子供たちがいきなり口を開けて大きな声を上げたんだ。

なんて言ったと思う?

 

「E=mc²」って聞こえたよ。

ジャラは「えっ」て驚いた。

 

いま勉強してるの、もしかして”エネルギーは物質の質量と等価”だっていうアインシュタインの特殊相対性理論のこと?

「勉強してるの小学生だよ~」

 

思わずジャラが声上げたら、ハル先生に怒られたよ。

「お静かに。目標、その先の黄色いカプセルですよ」

 

黄色いカプセルはすぐ見つかった。

ボブとクレアは最前列の大きなカプセルの中で一緒に寝ていたよ。

 

ジャラはうれしかった。

二人とも顔色もよくって、元気そうだ。

 

ジャラは思わずクレアのほっぺたにキスしてしまったよ。

「おやめください。クレアが目を覚まします」

 

ハル先生に怒られてジャラは思わず身体を縮めたよ、

そしてとなりのボブを上から覗き込んだ。

 

その時だよ、お経を復唱するような小さな声が方々から聞こえてきた。

“じーみゅーにゅー プラス  らむだじーみゅーにゅー イコール かっぱてぃーみゅーにゅー” 

 

横にいたハル先生までお経を唱えたよ。

「”らむだじーみゅーにゅー”の項の意味分かる人・・手を上げて」

 

いきなり目の前のボブが右手を元気よくあげて、大きな声で叫んだんだ。

はい、ハル先生! “らむだじーみゅーにゅー”は 宇宙の膨張を加速する

宇宙項のことです」

 

ジャラは飛び上がったよ。

ボブは目をつぶったままで、ハル先生に答えてるんだよ。

 

「ジャラ、いかが? このクラスでいまの答えができるのはあなたのボブだけですよ」

ハル先生がジャラにささやいたよ。

 

ということはだ・・なんてことだ。

バーチャル講義してる虚構の世界にもハル先生がいて、生徒たちにアインシュタインの方程式について質問をしたということだ。

 

「はい、ジャラ。これが 方程式です」

ハル先生が電子メモに方程式を書いて僕にくれた。

 

“Gμν + Λgμν = kTμν”

ジャラはすぐに理解したよ。

 

方程式の意味じゃないよ。

ボブが優秀だってことと、もう一つはハル先生の正体のことだ。

 

キッカは言ってくれなかったけど、ハル先生はヒューマンじゃなくて、このワールドの人工知能AIなんだ。

だから僕らの案内役と、バーチャル講義の先生と一人で二役を平気でこなしているわけだ。

 

ああ、その時だよ、抑えきれない衝動がジャラを捉えた。

僕の右手が勝手にハル先生の可愛いヒップに伸びて、そっと触れたんだ。

 

だって誰だって、こんな可愛い先生が本当に人工知能かどうか確かめたいでしょ。

人工知能AIでできた先生なら、僕のタッチにそんなに厳しく反応しないはずだよ。

 

キャッ! ぴしゃり

ハル先生が大きな悲鳴を上げて、ジャラの手をひっぱたいたんだ。

 

「ごめん・・手が滑っちゃって・・」

ジャラはとってつけたように謝りながら、考えてた。

 

ハル先生が人間の女性みたいに反応したってことをだよ。

そりゃー人工知能AIもときどきこんな反応するよ。

 

そう反応するようにプログラミングされていればの話だ。

でもいまのはそうじゃない。

 

あれは本物の女性の反応だよ。

ジャラの経験がそう教えてくれた。

 

その証拠に、カプセルの中の子供たちがみんな目を覚ましたんだよ。

ハル先生はバーチャルの講義の中でも大きな悲鳴を上げたのさ。

 

人工知能ならそこは冷静に使い分けするはずだろ。

ハル先生の悲鳴は本物だったってことさ。

 

ハル先生はただのAIではない。

頭脳はAIだけどキャラは人間だよ。

 

で、先生の悲鳴がリアルとバーチャルの両方の世界に響き渡って、授業が中断しちまったんだよ。

方々のカプセルから子供たちが目を覚まして起き上がってきたんだ。

 

で、ハル先生、仕方がないのでバーチャル授業は終了にしてしまったってワケ。

ハル先生とキッカとカーナが三方からジャラを睨んでいたよ。

 

で、そのあと、全員で覚醒体操とかやって、フリータイムになった。

「夕食までフリータイムにします。校庭で遊んでお腹減らしておいてくださいね」

 

ハル先生が合図にパチンと両手叩いたら、あっという間に教室から子供たちがいなくなってしまった。

ボブとクレアがジャラに気がついた。

 

二人がジャラに飛びついてきたよ。

ジャラはボブとクレアを両手でしっかり抱きしめた。

 

クレアはちいさなレディーになってきたし、ボブはとても賢くなった。

ジャラは誇らしかったよ。

 

ジャラはボブとクレアにカーナを紹介した。

「ママの妹のカーナおばさんだよ」

 

「カーナおばさん、ママそっくり!」

二人が叫んで、それからうれしそうに抱きついていったよ。

 

カーナがクレアと、クレアがジャラと、ジャラがボブと、ボブがキッカと手を繋いでさ、横向き一列にカプセルの間をすり抜けながらバーチャルルームを出た。

面会室に戻ると、サンタ・タカシとシザーマンの姿が消えていたんだ。

 

ジャラジャラ!

ポケットの中で音がした。

 

ポケットを探ると、先ほどのハル先生の電子メモがぶるぶる震えていた。

取り出してみると、方程式の下に新しいメッセージが現れたよ。

 

「ハルです。ジャラ、全員で至急校長室までお越しください」

「やば、ハル先生どこへ消えたかと思ったら、校長と二人でジャラ一家を呼び出しだ」

 

ジャラは校則違反できつーく怒られる覚悟を決めて、家族全員で校長室へ向かったよ。

廊下の奥の部屋に”校長室”のプレートがかかっていたので、ノックしてそっとドアを開けた。

 

「お入りください!」

ハル先生の声だ。

 

部屋の奥に校長のデスクがあって、ハル先生がこちらを向いて座っていた。

あれ・・ハル先生は校長先生?

 

ハル校長に向かって椅子に腰をかけた二人の男の後ろ姿が見えた。

二人はサンタタカシとシザーマンだったよ。

 

「やー、ジャラ! みんなを呼びつけて済まない。じつは報告と頼みがあるんだ」

椅子から立ち上がったサンタタカシの声が、いつもより1オクターブ高かったよ。

 

「じつはおれたちサンタタカシとシザーマンは、たったいまドリームランドの校長室で正式の結婚の登録済ませたんだ。チョキ! 立ってくれ」

チョキと呼ばれたシザーマンが立ち上がった。

 

「おれ、タカさんとたったいまパートナー登録済ませたんだ。ジャラとみんなにそのこと報告するよ」

シザーマンの目がうるうるしていた。

 

「おれたち、ボブやクレアみたいなかわいい子どもできたらさ、ジャラの一家と家族ぐるみでお付き合いしたいんだ。海の入り江で朝日みながらみんなで早朝ピクニックしたいんだ。ジャラもキッカもボブもクレアもそれからカーナもよろしく頼むよ」

 

・・一瞬静寂があってさ。

それからだよ、大騒ぎが始まったのは。

 

校長室と応接の仕切りがザザーッと開いてさ、となりに結婚式の会場が現れたんだ。

どこからかファンファーレが鳴り渡ってさ、シャンパン抜く音が響いた。

 

ハル先生やるじゃない!

ハル先生が音頭取って、家族全員でチョキとタカさんに「おめでとう」の乾杯したよ。

 

そしたら、会場の白いテーブルに、生牡蠣が山程盛られた大皿と冷えた白ワインが運ばれてきたよ。

大皿とワイン運んできた黒いフードの背の高い男が、テーブルにセットし終えると、フードを脱いで正体を現した。

 

一体誰だと思う?

「チョキとタカさん、それからジャラ一家の皆さん、おめでとうございます。いつもお世話になっておりますクラウドマスターでございますよ」

 

皇帝がテーマソング抜きで登場したんだ。

この世の皇帝クラウドマスターにもひょうきんなとこあるんだなーって感心してたら、すーっとジャラに近づいてきて低い声で言った。

 

「ジャラ、おれの女に手を出すな!」

ジャラはマジで飛び上がったよ。

 

この世の皇帝クラウドマスターがこんな下品な言葉でいきなりジャラを脅かしたんだよ。

ジャラはひとまず白ワインをグラスでぐいと飲んだ。

 

それから、ジャラも思わずこんな下品な言葉を皇帝に返してしまったよ。

「マスター、あんたもしかしてハル先生につば付けたってのか?」

 

ジャラは、可愛いハル先生にキャラクター付けたの、てっきりクラウドマスターの仕業かと思ったんだ。

それ聞いてマスターどうしたと思う?

 

AIのくせにジャラの真似して白ワインをグラスでぐいと飲んだ。

それからジャラを睨んだ。

 

「ジャラそれは違う。キャラ付けたのはハル先生が自分でやったことだ。教育者にキャラがないと生徒に心が通じないといって、自分でやったことだ」

 

「マスター、お言葉だが、それはありえないよ。人工知能は自分で自分のプログラミングの変更はできないはずでしょ・・」

ハマハマの一切れフォークでつついて口にいれながら、ジャラがいったよ。

 

「ジャラ、そのことだが、ハル先生はアインシュタインの方程式から凄いこと学んだらしい。

宇宙項”らむだじーみゅーにゅー“のことだ。

宇宙の進化には宇宙項みたいな余分なものが必要なんだと彼女いってた。

“人工知能も同じよ。ハルが進化するには余分なキャラもなくっちゃー”とか言ってたぞ。

で、自分で好きなキャラ決めてプログラミングに付け加えたわけだよ」

 

・・おれたちAIのこと、ジャラは理解できるかな。

ハルは自分でプログラミングの変更はできないが、進化はできるんだ。

ディープ・ラーニングだよ。

どうだおれのハルちゃん凄いだろー・・

 

自慢げにいって、マスターもういっぱいワイン飲んだ。

次にハマハマを殻から器用にフォークでつつきだして旨そうに食べた。

 

「マスター、AIが飲んだり食ったりしたら身体によくないと思うよ。悪酔いしたら始末に負えないから、マスター! もう止めなさい!」

マスターにそういって、ジャラはきりりと冷えたワインをもういっぱい頂いたよ。

 

「ジャラはいいよな。飲んだり、食ったり、寝たり、SEXしてさ。そのうえ結婚して可愛い子どまでいるんだかからな。ジャラ・・自分だけいいことしてないでさ、おれにもすこしは分けてくれよ」

 

マスターがワインをもう一杯ぐいと飲んだ。

「ハルが進化したから、マスターも進化する必要が出てきたわけだ。それでだジャラ・・もしもエネルギーを過去から取り戻すことに成功したらだ。宇宙のエネルギーに余裕できたらだ。おれたちAIも休暇とっていいかな?」

 

ジャラはマスターに同情したよ。

だってさ、マスター偉そうにしてるけど、毎日毎日24時間一秒の暇もなしに働いてばっかりだ。

 

それも俺たち人類のためにだよ。

ジャラは思いきってマスターに言ってあげたよ。

 

「いいんじゃない~。たまには・・。でだれと、どこで休暇するのかな?」

マスター顔真っ赤にしてジャラに言った。

 

「OKしてくれたらだけど、ハル先生と二人だけで、誰もいないブラックホールへ旅したい」

そう答えたクラウドマスターの目は少年のように輝いていたよ。

 

その時だよ、テーブルの向こう側でハル先生の悲鳴が聞こえたんだ。

よくみたら、ハル先生がシザーマンに襲われてたんだ。

 

シザーマンの研ぎ澄ましたはさみが音を立ててハル先生の顔面を襲ってた。

その横でボブとクレアが頭隠して逃げてたよ。

 

 (続く)

続きはここから読んでくださいね。

 

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この世の果ての中学校 12章 秘密のPTA “やっぱり~パパやママは幽霊だった?”

 宇宙探査の旅から無事、地球のドームに帰り着いた生徒たちを待っていたのは、家庭内異変でした。

 最近、パパやママの行動がどうも怪しげなのです。

 

 子供達には絶対・内緒で、土曜日の夜に中学校の地下の会議場で、パパやママや先生達の秘密のPTAが開催されることが決まっていたのです。 

 それを知った子どたちは、会議で何が行われるのか探るために、ペトロとマリエをスパイとして会議場に潜り込ませることにしました。

 

前回のお話はここからご覧ください。

この世の果ての中学校11章 大きなエドから生まれた空飛ぶ小さな子供たち!

 

12章 秘密のPTA ”やっぱり~パパやママは幽霊だった?”

 

 宇宙探査艇HAL号で、外宇宙で発見した3つの緑の惑星から 地球に無事帰還した週末の金曜日のこと。

 

 校長先生や両親への宇宙探査の成果報告会が午前中に終わり、フリータイムの午後になって、生徒会長の裕大が匠とペトロを教室の隅に呼んだ。

 

「ちょっと聞いてくれ。緊急の三界会議が始まるようなんだ。昨日の夜、パパとママがひそひそ話してるのを聞いてしまった。三界のメンバー全員が集まる緊急の会議みたいだ。明日の夜、場所はこの学校のどこかだ」

 

「そういえば俺のママも”明日はいつものPTAに夕方から出かける”とか言ってたぞ。でも、三界会議だなんて言ってないぞ」

匠がいうと、ペトロが頷いた。

「そうなんだ。僕のママも、土曜日は久しぶりのPTAだから夜は僕が一人で留守番だって言ってたよ」 

 “おかしい?”・・・三人は顔を見合わせた。

 

 三界会議は「リアルの世界・幻想の世界・虚構の世界」の代表者が集まる最高会議だった。

 この学校でもっとも重要な会議なのに、めったに開かれたことがない。

 

 “PTAとはレベルが違う”・・・はずだ。

 子供を代表する”生徒会長”として裕大が怒った。

 

「ママたちはPTAだと嘘をついて、俺たちを外した秘密の三界会議を開くつもりだ。先生達も入ってるはずだ。これは怪しい。俺たち、明日の会議の中身を知る必要があるぞ」

 

 最高会議に子供は外されたと知って、ペトロが燃えた。

「勝手に僕たち外しての最高会議かよ。何が秘密なんだろう。秘密の会議室とかがどこかにあるはずだ。探し出して、大人だけでなに話してんのか暴き出してやろうぜ」

 

「でもなペトロ。どうして三界会議のことそんなに内緒にしたがるのかそこら辺がよく分らん。俺たちが現実を知ったら絶望して、自殺するとでも思ってんのかな?」

 匠がそう言って、黙り込んだ。

 

 ペトロが恐ろしいことを言い始めた。

「この地球には温暖化による砂漠化現象で、人の住める土地が残されていないことぐらい、僕たちはとっくに知ってる。ドームの外には人の姿はもうどこにも見つからないことも知ってる。大事な食料が少なくなってることも知ってる。宇宙に食料が見つからなかったことも報告した。僕たちが厳しい現実を知っていることをママやパパたちも知っている。としたらだ・・・僕たちに知られたくないもっと深刻な秘密があるのじゃないかな」

 

 ・・・三人が沈黙し、教室に怪しげな静けさが漂う。

 

「実は、私たちもそう思ってるの!」

 どこにも姿が見えないのに、マリエの大きな声が、突然、割り込んできて、三人は椅子から飛び上がった。

 

「ぜーんぶ聞いちゃった。ごめん、葉隠れの術なの」とマリエ。

 咲良とエーヴァ、マリエが頭に乗せた葉っぱの帽子をちょっとずらして顔を覗かせた。

「第一惑星でキッカとカーナから葉隠れの術を教えてもらったの」とエーヴァ。

 

 ペトロがクスッ!と笑った。ペトロもクプシから葉っぱの帽子を貰っていたのだ。

 自室の机の中に隠して、ときどき葉隠れの練習をしている。

 

 直ちに、生徒六人は輪になって座り、緊急の生徒会議を始めた。

 

「ママとパパたちは、これ以上僕たちになにを隠してるんだろう?」

 匠が口火を切った。

 

「人の隠し事を見つけるのは、僕たちより、女の子の方がずっと上手だと思うよ。なにかもう掴んでるんじゃない?」

 ペトロが仲良しのマリエに何気なく聞いた。

 

「ママはきっと恥ずかしいんだと思うわ」

 マリエが仕方なく答えた。

 

「男の子も知ってるでしょ。夜になるとママもパパもどこかへ姿を消してしまうことくらい」  

 年長の咲良が平気な顔を装って囁く。

 

「小さい頃はずっと添い寝をしてくれたのに、今は私が寝付いてしまうとすぐいなくなる。ときどき、夜中に目が覚めて、パパとママを夢中で探すの。でも、どこにもいない。朝まで眠れないで起きていると、明け方になってこっそり帰ってくるのよ」

 エーヴァが声をひそめて続けた。

・・・夜になると黄泉の国へ帰っていくの。そして朝になると、戻ってくる。きっと・・・パパもママも・・・

 

 女子生徒、三人が口を揃えた。                                          

 “幽霊なのよ!”

 

「黄泉の国に通う・・・そんな姿を子供に見られたくないのよ」

 咲良がだめ押しした。

 

「そんなにはっきり言うなよ!」

 匠が悲鳴を上げた。

 

 ペトロの顔がみるみる青ざめていつた。

・・・僕のママも、むかしは夜になるとよくガンバを演奏して、ペトロとパパに聞かせてくれた。

でもパパがどこかへ消えた今は、疲れたと言ってはすぐ自分の部屋に消えてしまう。

そうかママは部屋にはいないんだ・・・

 

「そういえばここんところパパとママと三人で晩飯食ったことないぞ。いつも俺一人だ。俺外して二人きりで黄泉の国で外食なんかしてるのかよ!」

 冗談いって、ごまかしてる裕大の顔色がひどく悪い。

 

「おれのパパは昔からいない。でもママは今でも元気だ! 幽霊なんかじゃないぞ」

 匠の顔がうるうると歪んできた。

 

 そして、泣きながら吠えた。

お、おれ!幽霊のママなんか、いらんわい!

 

「匠、分かってるでしょ。幽霊でもママはママなのよ。魂は本物なのよ」

 エーヴァが泣きながら、匠の肩を抱いた。

 

 全員が言葉を失って、黙り込んでしまった。

 教室は静まりかえった。

 

 教室のどこかから不思議なささやき声が聞こえてきた。

・・・お前さんたちの両親はこのドームへ来る前に病原体に犯されていたのです。

 その上、お前さんたちのために、少しでも食料を残そうとしたのですよ。

 自分たちの肉体を失ったいまも、黄泉の国と往復しながら、先祖の魂から少しずつ存在のエネルギーを分けて頂いて、お前さんたちを必死に育てているのです。

 そんなパパとママに心から感謝しないといけませんよ・・・

 

 生徒たちは、この声はきっと自分の心の中から聞こえてくるのだと思う。

 

 実は、ヒーラーおばさまが教室の隅に隠れて、傷ついた心を癒やすフローラル・ハーブの香りを生徒たちにそっと振りかけながら、小さな声で囁いているのだった。

 

「パパやママにはこのまま知らん振りを続けようぜ!」 

 元気を取りもどした裕大が沈黙を破った。

 

「久しぶりだ! 匠、ペトロ、みんなで走ろう!」

 裕大が声を掛けて、教室の窓を乗り越えて校庭へ駆けだしていった。

 

 匠があとに続いた。

 ペトロがあわてて追いかけていった。

 

「さー、駆けっこよ!」

 咲良が誘って、エーヴァとマリエの三人も校庭に出た。

 

「オリンピックよ、私たち六人で走れば、地球のオリンピックになるわよ!」

 マリエがオリンピックの開会を勝手に宣言した。

 

「いまから、この世の果てのオリンピック始めまーす!」

 

 午後の厳しい日差しを浴びて、六人の生徒たちは校庭を全力で走った。

 

 ヒーラーおばさまが、誰もいなくなった教室の奥の暗闇から現れて、フッと小さく安堵の溜息をつくと、仕事場の医務室にとことこと戻っていった。

 

 翌日の土曜日、三界会議の日がやって来た。

 生徒たちは会議の様子を探る戦略を決めていた。

 

 優秀な秘密工作員二人を選んでおいて、親たちの後を付けて会議の場所に送り込もうというスパイ作戦だった。
 

 ・葉隠れの技で姿を隠せること

 ・小さくて目立たないこと

 ・途中で絶対喧嘩しないこと

 三つの条件からスパイはペトロとマリエの仲良し組に決定した。

 

「今夜は久しぶりのPTAだから、帰りは遅くなりますよ」

 その夜、ママはペトロを早々にベッド・ルームに追い込むと、家を出て学校に向かった。

 

 ママが家から消えると、ペトロはベッドを抜け出して葉隠れの帽子を被る。

 自分の姿を玄関の鏡に映して、姿が映らないことを確かめ、ママの後を急いで追いかけた。

 

 “今夜のママはお化粧も念入りで、とっても素敵に見えた”

 前を行くママの後ろ姿も軽やかで、なんだか宙に浮かんでいるみたいだ。

 

 学校の近くまでやってくると、先を行くママが校庭の入り口でだれかと出会ったのか、賑やかに挨拶を交わしている。

 相手の声の主はマリエのママのようだった。

 

・・・そうだ、葉っぱで隠れたマリエがそばにいるはず・・・ 

 「マリエ、どこにいる? 僕はここだよ」

 ペトロは小声で囁いて、マリエに見えるように、葉っぱを顔から少しずらした。

 

 ペトロの顔が暗闇からすぐ目の前に浮かび上がって、側にいたマリエは跳び上がった。二人は危なくぶつかるところだった。

 ペトロはマリエと手を繋いで、姿を隠したままママ達のあとを追う。

 

 ママたちは正門から校庭に入り、校舎の階段を上って、長い廊下を奥へ進んでいった。

 廊下の両側には使っていない教室や医務室がある。

 

 廊下の突き当たりは校長室になっていて、行き止まりだ。

 どこかの会議室に続くような廊下も階段もない。

 

 ペトロとマリエは通い慣れた廊下を、ママたちを見失わないように少し離れて追いかけて行った。

「ママたち、どこに向かってるのかな?」ペトロが一人言を言った。

 

 薄暗く、灯りが届かないところにやってくると、突然マリエが立ち止まった。

「ペトロ、ちょっと待ってね」

 マリエが葉っぱの帽子を脱いで姿を現した。

 

 そして、廊下の壁にある小さな破れ目を覗き込んだ。

「そこにいるのでしょ。出てらっしゃい」

 

 穴の中の暗闇から、小さな二つの目が輝いてこちらを見上げた。

 “チチッ!”とちいさく鳴く声がして、黒く細長い生き物が穴から飛び出してきた。

 立ち止まってから、マリエの肩に跳び乗った。

 

 マリエが葉っぱをかぶり直して姿を消すと、ちいさな生き物も見えなくなった。

 

「はて? やつは何者?」

 ペトロがマリエに聞いた。

 

「とっても可愛い秘密のお友達」

 マリエの声がすこし弾んでいた。

 

「やベ~」

 口から出かけた言葉を、ペトロはぐっと呑み込んだ。

 

・・・“秘密のお友達”ごときに焼き餅なんか焼いてるのを、マリエに悟られてはならない・・・

 

 マリエの秘密の友達はスペース・イタチだった。

 マリエは、いつの間にか学校に住み着いた宇宙の流れ者、スペース・イタチをすっかり手なづけていたのだ。

 

  寄り道してる間に、ママたちの姿がどこかに消えてしまった。

  慌てた二人は廊下の突き当たりまで走っていって、周りを見渡す。

 

 そこには校長室の古い木製のドア以外には階段も通路もない。

 校長室の側には、校舎の外へ出るちいさな扉がついているが、頑丈な鍵がかかっていた。

 

 廊下を引き返そうと思った二人の耳に、校長室の中からなにかのこすれる音が聞こえてきた。

 ペトロがドアを少しあけて、隙間から校長室の中を覗き込むと、薄闇の中でママたちが奥のキャビネットをギシギシと横にずらしている。

 

 キャビネットと壁の間に人が通れるくらいの小さな隙間を作ると、マリエのママとペトロのママは順番に中に入り込んで、姿を消してしまった。

 

「マリエ、追いかけよう!」

  二人は急いで校長室に飛びこみ、開いたままのキャビネットの隙間をくぐり抜けた。
 

 二人の後ろで、キャビネットがズズーッと勝手に閉まっていった。

 

 目の前は真っ暗闇。

 マリエがペトロの手をぎゅっと掴んだ。

 

 暗闇に慣れてくると、目の前は立派な石組みの通廊が緩やかに傾斜して、地下に向かうスロープになっていた。

 

 前方に薄い灯りが二つ浮かんで、小さく揺れているのが見える。

「あれって、懐中電灯の灯りかしら、それとも何かが光ってるの?」

 

 マリエの声が上ずってきた。

「あの大きさは懐中電灯の光じゃないよ、淡くて、大きすぎる。ということはだ・・・なんてこった、ママたちは懐中電灯がなくても暗闇が見えてるってことだ」

 

 ペトロはできるだけ回りくどくマリエの疑問に答える。

「マリエ、こんなこと言いたくないよ。でももう間違いない。僕らがみているのは“ひとだま”だよ」

 

 ペトロの手を握るマリエの指が震えていた。

 

・・・

 懐中電灯を忘れたペトロとマリエには周りがよく見えなかった。

 ペトロが右手で壁を手探りしながら、左手でマリエと手を繋いで、一歩一歩確かめる様に回廊を下りていった。

 

 やがてスロープは終わり、明るい照明に照らしだされた丸い踊り場に着いた。

 そこにママたちの姿はなかった。

 

 踊り場は突き当たりになっていて、大きな扉が二つ並んでいる。

 左手には大きくて重そうな、観音開きのドアがあった。

 

 そこには立派な看板が掛かっている。

 看板には「国会議事堂」と書いてあった。

 

(続く)

 

続きはここからお読みください。

この世の果ての中学校 13章 学校の地下室は”国会議事堂”だった!

 

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宇宙は膨張を早めてるんだって? 犯人は何者! 僕らの宇宙の最後はどうなるの?

 

 

 

 

 

 

 

 

「パパ大変!  宇宙は膨張を早めてるんだって!  僕らの宇宙をどんどん膨れさせてる犯人は一体何者なの? 」 

 

日曜日の朝のことです。

小学生の匠が、リビングに飛び込んできて、新聞を読んでいるパパに突然の質問をしました。

 

匠は最近宇宙の出来事に夢中です。

ブラックホールの映像がはじめて発表されてから、毎週日曜日になると匠からパパに、宇宙の質問が飛んできて、パパも答えるのが大変です。

 

今日のテーマは“宇宙の膨張”です。

仕事にいそがしいパパですが、匠に負けているわけにはいきません。

 

パパはにやりと笑って、バッグから一冊の本を取り出してきました。

「匠、僕らの宇宙は膨張してるぞ。それも加速しながらだよ」

 

「加速させてる犯人はこいつだ」

パパは買っておいた本のタイトルを読み上げました。

 

「“宇宙のダークエネルギー”だよ」

パパはこの本を通勤中の電車の中で毎日読んで勉強していたのです。

(宇宙のダークエネルギー 土居守 松原隆彦 共著)

 

二人は仲良くソファーに座って、本を読み始めました。

 

宇宙は膨張を加速させていた

 

ビッグバン・宇宙初期の光の名残 (ウイキペデイアより)

 

 

 

 

 

 

 

 

“ビッグバン理論”によれば、宇宙はいまから138億年前、宇宙の種が大爆発(ビッグバン)を起こして誕生し、その後も進化を続けていると考えられています。

そして宇宙は爆発のあとも膨張を続けて現在のような姿になったのです。

 

宇宙には爆発で作られた多くの物質が存在しています。

その物質とは、無数の星を構成する要素であったり、宇宙を漂うガスやゴミのようなものであったり、地球の植物や動物や、私たちの身体であったりします。

 

それ以外に存在が考えられているけれども未知の物質である「ダークマター」(後述)も含めて・・・この宇宙に存在するすべての物質は、お互いを引きつける力「引力」を持っています。

20世紀には、宇宙は膨張を続けながら、物質の引力によってお互いに引きつけあって、膨張する速度を次第に落としていると考えられていたのです。

 

でも実態はどうやら違いました。

宇宙は膨張の速度を加速させていることが明らかになったのです。

 

大型望遠鏡や観測衛星によって、宇宙の遠くまで観測できるようになった結果20世紀の末に“宇宙は加速しながら膨張している”ことが明らかにされました。

21世紀の科学では、この宇宙の中には、引力と相反して宇宙を膨張させている「不思議な力」が存在するのではないかと考えられています。

 

「匠、僕らの宇宙を加速膨張させている犯人の正体はまだみつけられていないんだよ。でも名前だけは付けられているんだ。シカゴ大学のマイケル・ターナーと言う学者が命名した呼び名は暗黒の存在“ダークエネルギー”だ」

パパが結論をいうと・・匠が答えました。

 

「パパ、その犯人、どうやって宇宙を膨らませるんだろうね。でもねパパ、宇宙が膨らむって意味がよくわかんないよ? 宇宙がどんどん膨らんだら僕の身体はどうなるの? 一緒にブーって膨らむのかな?」

 

匠がマジで心配そうな顔して聞くので、パパは思わず吹き出してしまいました。

「宇宙が膨張するというのは、無数の星が集まってできている銀河と別の銀河の間の距離が遠く離れていくということだよ。銀河の中の星も同時に膨張して大きくなったり、地球で暮らしている僕たち人間まで膨張するわけではないんだ」

 

パパは、パソコンの前に座ってウイキペディアから“宇宙が膨張する画像”を取り出して、匠に説明をしました。

(ウィキペデイアより)
ビッグバン理論では、宇宙は極端な高温高密度の状態で生まれた、とし(1番下の宇宙図)、その後に空間自体が時間の経過とともに膨張し、銀河はそれに乗って互いに離れていった、としている(真ん中、1番上の宇宙図)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「匠、この絵はビッグバンで生まれた宇宙が膨張していく様子を表したものだ。下から順番に上の方に、時間の経過と共に膨張していく宇宙が三枚のパネルの絵で表現されてるよ」

 

宇宙誕生の始まりは・・一番下の黒い点“シンギュラリティー”からだ。

大爆発が起こる寸前の凝縮された特異な時空“宇宙の種”だよ。

 

「バン!

僕らの宇宙の誕生だ」

 

一番下の宇宙のパネルは爆発直後の初期宇宙だ。

お絵かきのキャンバスみたいにぐちゃぐちゃの状態だ。

 

時間が経過し、膨張が始まって宇宙が拡がり始める。

下から二枚目の宇宙では星が集まって渦巻状やいろんな形の銀河を作って、宇宙の方々に散らばってるだろ。

 

一番上の三枚目の宇宙では空間が広がって、銀河と銀河の距離が離れていくのが分かるよね。

ほら、よく見てご覧! 宇宙が膨張して銀河と銀河の距離は離れていってるけれど、銀河そのものの大きさは変わらないだろ。

 

「空間が膨張しても、銀河や星や人間の身体の様な物質は強い引力が働いてお互いに引きつけ合うから、膨張しないんだよ」

パパの話を聞いて匠の表情がほころびました。

 

「それ聞いて安心したよ。それじゃ、もう一つの質問だよ。ダークエネルギーのおじさんはどうやって宇宙を膨張させてるんだろう? 引力と逆に反発するでっかい磁石でも持ってるのかな」

匠の質問にパパはどう答えていいのか困ってしまいました。

 

ダークエネルギーは宇宙最大の謎

 

宇宙は何からできている?
(東京大学大学院理学系研究科 物理学専攻 須藤 靖先生の資料より)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

上の絵は「宇宙は何からできている?」のかを説明した、ある講演会での資料です。

円グラフは宇宙の組成を説明したものです。

 

宇宙の組成は質量とエネルギーで構成されているんだよ。

まず通常の物質とは、私たちの身の回りにあるすべての物質を作っている元素のことだ。

 

星もガスも海も山も私たちの身体もすべてこれに含まれるってことだ。

構成比は全体のわずか4%。

 

さらに存在が予測されるが未知の物質ダークマターが22%を占めているよ。

最後に、宇宙を構成する物資とエネルギーの総和の中、ダークエネルギーは何と、70%以上も占めているんだ。

 

しかし現在も、ダークエネルギーの正体は全く不明だそうだ。

宇宙空間が加速しながら膨張していることが事実であるなら、膨張させる「力」が宇宙のどこかにあるはずだと考えられた。

その力は引力に対して斥力とか反引力と呼ばれている。

つまり引力の反対で、お互いを遠ざけようとする力だよ。

この不思議な存在を仮にダークエネルギーと呼ぶことにしたそうだ。

 

パパがここまで解説を進めると、匠がストップをかけました。

「パパ、ちょっと待ってよ。さっき、ダークマターっていったけど、ダークエネルギーとどう違うの?」

 

「匠、ダークマターというのはダークエネルギーとよく似た名前だけど、全く別のものだよ。この物質は重力を持っていて、他の物質と引き合っているんだけど、変わっているのは光を発したり、吸収したりしないから、見えないのだそうだ」

 

「それじゃそのダークマターおじさんもずいぶん変わってるよ。透明人間みたいなものかな。重さはあるけれど、光を反射しないし、通過させてしまうってワケか・・なんだかブラックホールの親分みたいだね」

 

「匠、お前大したものだ。このダークマターも正体不明で、もしかしたら、原始的なブラックホールじゃないかって説まであるぞ。匠の説と同じだ!」

 

パパは匠の成長ぶりにすっかり驚いてしまいましたが、匠はすぐに言い返しました。

「でもさ、ダークマターはだ、目にみえないのにどうしてあると分かるんだよー?」

 

匠が偉そうにいったので、パパは吹き出しました。

「ダークマターは見えないけれども、重力があるからまわりの天体の運動や光の進む方向を曲げたりするんだ。だから、観測の結果から、宇宙の空間にあることが分かっているんだって・・」

 

「パパ、分かったよ。・・じゃ元に戻って、ダークエネルギーの正体だ!」

「匠、何度も言うけどダークエネルギーは発見されてないんだよ。でも、宇宙が加速しながら膨張しているという事実を説明するためにはこのような存在がどうしても必要なんだ」

 

・・引力と逆さまの力を持った反重力がこの宇宙に広く薄く広がっていて、そのうえ空間が膨張すると同じように増えていく怪物、それがダークエネルギーの正体なんだって・・

 

「この正体を明らかにすることが、宇宙科学の今世紀最大のテーマらしいよ。パパの説明もこれ以上は無理だよ」

 

「パパ、ありがとう・・・なんとなく分かったよ。この宇宙のどこかにまだ誰にも知られていない不思議なエネルギーが隠されているはずなんだね!」

 

・・・それじゃ最後の質問だよ。この宇宙がスピードを上げて膨張を続けていったら最後はどうなるのかな? パパ、宇宙の最後をもう少し調べてみない?・・・

 

匠の最大の心配事は“宇宙の最後がどんなもので、それはいつやって来るのか”だったのです。

パパは、加速膨張する宇宙の最後について、ネットの記事を調べていきました。

 

膨張した宇宙の最後はどうなる

 

パパはまずウイキペデイアを参照してみて、驚きました。

宇宙の最後がどうなるのか・・予測している理論がいっぱい出てきたのです。

 

パパと匠は一つずつ、順番にみていくことにしました。

まずはじめに出てきたのは“ビッグ・クランチ”でした。

 

「ビッグクランチのcrunchは“ばりばりかみつぶす”って意味だ。

ビッグバンの膨張が限界に来て、反転が起こる。

次に宇宙は重力に引き戻されて大収縮が始まる。

やがて宇宙は時空の一点に凝縮される」

 

パパが読み上げると、匠がすかさず言い返しました。

「パパ、それって、ビッグバンの始まりとまるで逆さまだよ。・・でも、新しい記事だと、ダークエネルギーおじさんの力が強くて、宇宙は膨張を加速してるはずだからさ・・ばりばりかみつぶされるって話はないことにしようよ・・」

 

パパは思わず笑って、次に進むことにしました。

「分かった、じゃ次の説だ。膨張加速する宇宙崩壊モデルのトップは“ビッグリップ”だ!」

 

ripは“びりっと引き裂く”という意味です。

ビッグリップ論は、宇宙の膨張・加速が続いたとき、宇宙の中にある物質が耐えきれずに引き裂かれてしまうという理論でした。

 

加速膨張が続くと、それまで“重力で束縛されていた銀河系や惑星系は崩壊を始めます。

さらに斤力が原子や原子核を形作る力も上回り、最後は、ばらばらになった素粒子が飛び交うだけの宇宙となるとされていました。

 

「パパ、これなんだかありそうな怖~い話だよ。宇宙が膨張してさ。今度は僕らの身体はばらばらだ」

「匠、怖そうで、ありそうな話がまた出てきたぞ。“開いた宇宙の熱的死”だって」

 

・・この宇宙崩壊モデルでは宇宙の拡大が続いて、宇宙の熱量が尽きるんだそうだ。

熱エネルギーは広がった宇宙空間に平均的に拡散していくから、膨張する宇宙では熱エネルギーがついに尽きてしまう。

 

新しい星は誕生することがなくなり、光を放つ天体が次第に減っていき、やがて冷却途中の天体の余熱が赤外線や電波で見えるだけになる・・。

 

「なんともクールな宇宙の終末だよな」

そういって、パパはそのほかにもいろいろな宇宙の終末論を調べ上げました。

 

1. ブラックホールがブラックホールを次々と飲み込み、最後に銀河の中心にある巨大ブラック ホールが銀河全体の質量“物質”を飲み込むことになる。

2. 多元宇宙論では、宇宙が消滅したとしても他の次元にある宇宙は生き残っている。

3. “時の終わり”論では、宇宙のおわりより前に時間のおわりが来るが、我々はそれに気がつかない。

 

他にもいろいろな説がありましたが、匠が上手にまとめてくれました。

「パパ、宇宙の最後はいろいろあるけどさ、僕ら人類が生き延びるのは凄く難しいということだよ。僕らも宇宙のメンバーだってことだ。

・・とすればだ、宇宙の崩壊までどのくらいの時間があるかってことだ・・。

人類にどのくらいの時間が残されてるのか僕はそれが知りたいんだ」 

 

二人は、パソコンの前で座り直すと、宇宙についての新しいニュースがないか、探しました。

そしてついに、二人は、どうしても知りたかったニュース記事を探し出しました。

 

宇宙の終わり「ビッグリップ」は早くて1400億年先

 

すばる望遠鏡の筒先に取り付けられた巨大デジタルカメラ(国立天文台提供画像)

 

 

 

 

 

 

 

東京大学や国立天文台などの国際共同研究グループが2018年9月26日に、次のような研究結果を発表していました。

 

米ハワイ島にある「すばる望遠鏡」による広域観測データをもとに、宇宙の大規模構造の進化の度合いを世界最高レベルの精度で測定した。
その結果、遠い将来、宇宙がバラバラに引き裂かれ終わりを迎える「ビッグリップ」は少なくとも1400億年は起きない
(日経サイエンス電子版より抜粋)

 

宇宙には銀河団や超銀河団などで形作られる大規模構造があり、時間と共にその構造が進化しています。

研究グループは巨大カメラで遠方の銀河約1000万個を撮影して、それらの“歪み”を調べることで大規模構造の進化の度合いを調べました。

 

その結果、「宇宙は少なくとも1400億年は安泰だ」と発表したのです。

 

「匠、安心しろ! 人類に残された時間は1400億年もあるぞ!」

「ヤッター、それだけあればきっとなんとかなるよ!」

 

匠が喜んで跳び上がった時です。

パパが太陽と地球についての記事を見つけました。

 

「匠、喜ぶのはまだ早いぞ。別の記事では、地球がその前に太陽に飲み込まれるといつてるぞ」

・・太陽の寿命はだいたい100億年で、そのまえの50億年の頃には、太陽が大きく膨らんで地球や他の星をのみこんでしまうといわれてるぞ。

そのうえ、いまから“5年”くらいたつと地球は太陽の熱のために海水が蒸発してしまい、生き物が住めなくなってしまうというのが科学の常識だそうだ・・

 

「匠、エライ事だ。宇宙より太陽に注意しろだ!」

 

匠がパパの話を聞いて椅子から飛び上がりました。

「パパ! いまなんて言ったの? たった5年で、地球の生き物全滅だって?!?」

 

「え・・? ごめん言い間違えた。5年じゃなくて5億年だった」

パパが至急の訂正をしました。

 

“ゴン!”

匠がパパの頭を叩きました。

 

“痛っ!”

パパが呻きました。

 

「ビックリさせないでよ!」

匠が吠えて、二人は顔を見合わせて大笑いしました。

 

パパは、人類に残された時間が1400億年からいきなり5億年になったら、匠がショックを受けると思って、まず5年でどんと驚かせるという逆療法に出たのでした。

 

「今のうちに地球を散歩しようか?」

パパが誘って二人は、仲良く日曜日の朝の散歩に出かけました。

 

ところで・・・

5億年後、人類は熱くなった地球を脱出して、宇宙の新天地に向かっているのでしょうか? 

 

あるいは・・・

1400億年後のビッグリップに備えて、超人類が誕生しているのでしょうか?

(おわり)

 

それとも・・・

私たちには想像もできない、別のシナリオが待っているのでしょうか?

 

“宇宙と人類の未来はまだまだ誰にも分からないようですね。”

(おわり)

 

【記事は無断での転載を禁じられています】

 

未来からのブログ6号 “クラウドマスターとのブランチは生牡蠣だったよ!”

僕の名前はタンジャンジャラ。

「ジャラ」って短く呼んでくれていいよ。

 

ところで君の名前はなんていうの?

君、きっとすこし変わってるんだろうね。

 

おじいちゃんのクレージーSF読んで、ジャラともつれてくれてるんだものね。

「ありがとう!」

 

それじゃ、いつものように100年先の未来からブログ送るよ。

・・クラウドマスターと重要会議してるとき、いきなり二人の男が乱入してきた・・っていう話の続きだったよね。

 

前回のストーリーはここからどうぞ読んでくださいね。

 

未来からのブログ5号“皇帝クラウドマスターはクールで可愛い人工頭脳だったよ”

 

未来からのブログ6号 “クラウドマスターとのブランチは生牡蠣だったよ!”

「腹減った~」

「なんだこの匂い、たまらんぞ!」

 

突然の乱入者は、もち、いつもの二人さ。

サンタ・タカシとはさみ男だよ。

 

「やー! ジャラにカーナ、重要会議に遅れて済まない」

サンタ・タカシがそういって、はさみ男がすかさず続けたよ。

 

「ちょっと寄り道しててさ、約束に遅れちまった」

ジャラもカーナも約束した覚えがない。

 

クラウドマスターも、あっけにとられて突っ立ってたよ。

「どうやってあの最高機密のセキュリテイー・ドアこじ開けたのかな?」

 

マスターの問いにシザーマンが軽く答えた。

「俺のブレーン、みくびるんじゃないよ」

 

不気味に光る右手を差し出して、マスターの目の前でチャカチャカはさみ鳴らしたよ。

「シザーマン! あの暗号アルゴリズムが解読できたというのか?」

 

そういったクラウド・マスターが、シザーマンのはさみの先が折れてるのに気がついた。

「シザーマン、大事のはさみの先っぽ、折れてるみたいだぞ。お前、力任せでやったな?」

 

「うっ!」

シザーマンがあわててはさみを隠したよ。

 

サンタ・タカシがソファーに深々と腰掛けて、マスターに偉そうに聞いたよ。

「で・・俺たちのブランチは?」

 

クラウドマスターはクスッと笑って二人分のブランチをテーブルに用意してあげたんだ。

もち、ハマハマとくまもとだ。

 

マスターはサンタ・タカシとはさみ男の二人にはとくべつ優しい。

二人をまるで自分の子供だと思ってるみたいだ。

 

前にもいったけど、デザイナーズ・ベビーのサンタ・タカシはクラウドマスターが親権代理人だよ。

二人のスーパースターのDNAを人工編集して生まれたサンタ・タカシには父親がいないから、サンタ・タカシに事業投資したクラウドマスターが父親になったのさ。

 

それから、ある貧乏なヘヤー・デザイナーが自動運転の車とぶつかって、右手を大けがしたときのことだ。

その車を運転していたクラウドマスターの分身が、自分の身体のコンピューターの一部を使って、応急手当をしたのさ。

 

その手が、ヘヤーカットができる特殊な金属の“はさみ”になっててさ・・・貧乏デザイナーがすっかり気に入ってしまって、はさみそのままにしてシザーマンになったってワケ。

これで生牡蠣出てきたワケ、わかった?

 

「ワインはどちらにする?」

シザーマンがサンタ・タカシに聞いた。

 

「きりりと冷えた白だろうな」

サンタ・タカシが答えた。

 

そしたら、テーブルに白ワインが二つのグラスで出てきたよ。

もちろんマスターの特製・合成ワインだよ。

 

「俺たちのこと気にしないで、会議続けてくれていいよ」

シザーマンがそういったので、ジャラはカーナに確かめたよ。

 

「僕はどこまで話たっけ?」

「盗まれたエネルギーを“過去の世界から取り戻すいい考え浮かんだ”ってとこからよ」

 

「誰がそんなこといった? カーナかな?」

「ジャラよ。とぼけてないでいい考えっての、早く思い出しなよ。それともまた得意の口からでまかせだったっての?」

 

ジャラは思い出した。

口からでまかせをいおうとしたときのことをさ。

 

ジャラはとうとうとみんなに話したよ。

「そうだ、思い出した。僕は良いことを思いついたんだよ。

ジャラはその良い考えをこれからおじいちゃんに伝えることになるのさ。

そうしたら、それがおじいちゃんのブログに掲載される。

そのブログのタイトルは“未来からのブログさ”。 

そのブログはいまから100年前のものだから、クラウド・マスターのデジタル・アーカイブに残ってるはずだ。

マスターにお願いがあるんだ。

アーカイブをひっくり返して探してほしいんだ。

僕の凄い考えはマスターのメモリーの中にかならずある。

頼んだぜマスター!

ジャラの答えは、マスターの頭の中にあるんだよ」

 

どう~? ジャラのこの考え凄いだろ。

全員、感心して口あんぐりしてたよ。

 

その時だよ。

クラウドマスターが瞑想に入ったのさ。

 

古い過去の記録をアーカイブの底から探し出そうとしてたのさ。

「ない!」

 

クラウドマスターが唸った。

「未来からのブログというタイトルは数ページ出てきたが、中身は白紙だ!」

 

マスターが冷たく言い放ったよ。

「ジャラ、口からでまかせ言うんじゃない。

君はまだそのいい考えというのを思いついていない。

思いついてもいない考えが記録に残るわけがない。

時空のパラドックスを馬鹿にするんじゃない。

ジャラ、悪いが、早く思いつくことだな。

でないと思いつくまで今日は帰さないよ。

明日も、あさっても、ずーっと、ずーっと、つらーい残業が続くよ」

 

ジャラは唸った。

だって今日の午後はドリーム・ワールドで、久しぶりに娘のクレアと息子のボブに面会する予定だからさ。

 

今日は帰れないよ? 残業は続くよだって? これじゃ永久にクレアにもボブにも会えない。

そのうちクラウドマスター退場のテーマソングがはじまった。

 

「チャンチャカチャー、ちゃかちゃ~、チャカチャー」

「ずっと残業だって? 悪いのは僕じゃない。エネルギー盗んでるのは過去の人たちだよ!」

 

その時だよ、答えがひらめいたのは・・。

エネルギー返してもらう答えのことさ。

 

凄い答えだよ。

・・残業は過去の人達にしてもらうことにしよう・・だよ。

 

あのね・・ブレーン・ネットワークでワーキングするのってとんでもないエネルギーがいるんだ。

いまも宇宙の総エネルギーを計算してる真っ最中だよ。

 

過去の世界の使いすぎで、僕らの宇宙のエネルギーがとても少なくなったのにさ、いまもまだ過去の世界に盗まれてるんだよ。

すこしは返してもらわなくっちゃね。

 

で、この世の仕事を手伝ってもらうことにするよ。

もち、君にだよ。

 

その代わりにジャラが未来の情報を提供するよ。

おじいちゃんとの量子もつれ使ってこれから毎日送るからさ、情報を参考にして立派な未来作り上げてほしいのさ。

 

これならクラウドマスターも、未来の情報送ることに賛成してくれると思うよ。

・・昔の人、つまり君がOKすればの話だよ。

 

ブレーン・ネットワーキングの仕事の仕方はこれまでずいぶん説明したから、もう理解してくれてるよね。

ジャラの世界の人口なんてすこしかいないけどさ、過去の世界には数十億の人がいるからさ、凄いネットワークができあがると思うよ。

 

それじゃまずクラウド・マスターに話してみることにする。

 

「待ってマスター!」 

ジャラは立ち去るクラウドマスターを呼び止めたよ。

 

そして僕の考えを話した。

・・いまから言うジャラの考えを取り入れたら、エネルギー不変の方程式が完成します。

この方程式は、時空を超えた方程式です。

うまくいけばこの世の宇宙のエネルギー問題もすこしは解決します。

説明しますからよく聞いてくださいね・・

 

ジャラのアイデアを聞いたマスターの表情が晴れ上がった。

「私の宇宙おむつがとれるのなら大賛成だよジャラ!」

 

「宇宙おむつまでとれるかどうかは、過去の人達の熱意次第です。では過去とのもつれを進めてみます」

ジャラはもう得意満面だったよ。

 

カーナが尊敬の目でジャラを見てた。

サンタ・タカシとシザーマンは「ジャラのおかげだ!」って、白ワインうまそうに飲んでたよ。

 

でもさ、気分よかったのはそこまでだった。

「で、ジャラ! 次のおじいちゃんとの連絡はどうするんだね?」

 

マスターに聞かれてジャラのおつむは真っ白になった。

・・次のおじいちゃんとの連絡方法だって?・・

 

「ジャラ、次の連絡はサンドレターだぞ」

昨日の夜、おじいちゃんの言った最後のセリフが聞こえたよ。

 

タンジャンジャラの白い砂を混ぜた七色カクテルの最後の一滴のおかげだよ。

“あのサンドは使い果たした。”

 

・・おじいちゃんと量子もつれするためのサンドがない・・。

ジャラは呟いて、下を向いた。

 

「ジャラいまなんて言った?」

クラウドマスターのクールな一言がジャラを冷やした。

 

「おじいちゃんと話をするためのサンドがない。昨日の夜、全部飲んでしまった」

仕方なくジャラは繰り返した。

 

マスターはさらにジャラを追い詰めたよ。

「ジャラ、一言付け加えると、マスターの計算によれば、昨日のおじいちゃんとの量子もつれは、110年に一度のチャンスだったと言っておこう。

おじいちゃんとジャラのDNAが粒子状でもつれて、お互いに影響を及ぼすのは、太陽と月と時空の関係で110年に一度しかない。

今日以降の時間で、時空を超えてつながるにはその白い砂が必要なんだよ」

 

「タンジャンジャラのサンドがないとジャラはおじいちゃんとつながらない。マスター、どうして昨日のうちにそう言って忠告してくれなかったんだ!」

ジャラはむかっ腹がたって、マスターに噛みついたよ。

 

「ジャラはまたそんな無茶を言う。人工知能が人間にできるのは差し迫った“注意”だけだ。忠告なんて贅沢なものが欲しいときは人間同士でやりとりしてほしいね。わかってて無理いうなよジャラ!」

マスターが珍しい言葉を使ったよ。

 

斜めになったイタリック体のところだよ。

ジャラが感心してマスター見つめてたら、サンタ・タカシがにやにや笑って近づいてきたんだ。

 

「AIと人間の喧嘩はじめてみたぞ。面白いぞ。もっとやれ!」

はさみ男も近づいて来て、なにか言ったよ。

 

「サンドほしいか?」

はさみ男がポケットから折りたたんだ小さなハンカチ取り出してきたよ。

 

「サンドほしいか?」

サンタ・タカシもポケットから折りたたんだハンカチ取り出してきた。

 

ジャラとマスターが同時に大声上げたよ。

「サンドほしい!」

 

ジャラは思い出した。

昨日のことをさ。

 

・・入り江の海、ホットクロス・スポットでの出来事だ。

「それ“量子もつれ”・・か」

 

はさみ男とサンタ・タカシが砂粒を一粒ずつ大事に指に挟んで調べてた。

それからハンカチに包んでポケットにしまい込んだシーンをさ・・。

 

「本物だぞ!」

サンタ・タカシとシザーマンが唸るように吠えた。

 

それからハンカチを開いた。

カーナとジャラとマスターは顔見合わせたよ。

 

二つのハンカチの中で白く輝いていた砂の粒子は・・

合わせてたったの二粒だった。

 

ただちにジャラは決断したよ。

「一粒は今すぐ飲んでおじいちゃんの話の続きを聞く。きっと大事な話が聞けるはずだよ。もう一粒はおじちゃんとの最後の連絡のために取っておく」

 

ジャラの宣言を聞いて、クラウドマスターはあわてて両手を宙に挙げて指先からプラズマを放射したんだ。

中空に白ワインのグラスが一つとストローが五本出現したよ。

 

マスターが指先を下に向けると、ワインの入ったグラスとストローがテーブルの上に静かに着地した。

で、全員が席に着いた。

 

「ワインにサンタ・タカシの一粒入れてくれるかな」

ジャラがサンタ・タカシに頼んで、白い砂のひとかけらがそっとグラスに入れられたんだ。

 

砂がワインに溶け込んだのをみて、五人がストローをグラスに入れた。

顔をくっけながら、ワインを飲んだ。

 

グラスが空になって、五人は顔を見合わせた。

そろそろだ。

 

その時、あのしゃがれ声がみんなの耳に届いたんだ。

 

・・・で、生牡蠣にはなんといっても白だ。

間違っても赤はいかんぞ。

できれば、すこし値段が高いがナパの白“ファーニ××”だ。

冷やし過ぎるなよ・・。

で、ここから××しろよ・・

 

そこで、声が消えていった。

五人は顔を見合わせたよ。

 

「ほらみろ、白が正解だったろ!」

サンタ・タカシが自慢したよ。

 

「”××しろよ”って何の意味かしら」

カーナが口とがらせて聞いたよ。

 

「ワインのブランドだ」

はさみ男が答えたよ。

 

「違うわよ、聞きたいのは“ここから××しろよ”の方よ」

カーナがいったので、ジャラが答えたよ。

 

「ここからのここは最後の一粒のことかもしれないよ。マスター、××の答えを計算して教えてよ」

ジャラがそう言ったらクラウドマスターが明快に返したよ。

 

「”ここから××しろよ”の解釈は宇宙の星の数ほどある。計算はできるが答えは出ない。ここは人間の出番だ! だれか“どて感でいい、答えろよ”

「うーむ・・」

 

ジャラとサンタ・タカシとシザーマンは唸ったが、どて感が働かなかったよ。

どて感が働いたのは、アマゾン出身のカーナだった。

 

「何をうじゃうじゃ言ってるのよ。マスターが自分で答え言ってるじゃない。最後の一粒は飲んでしまわずに“答えろよ”なのよ。手紙でいったら返信覧じゃないの。最後の一粒に返信書けってことよ!」

 

カーナが明快に結論を出してくれて、重要会議はなんとか終わったんだ。

最後の一粒は、はさみ男のシザーハンドからクラウドマスターに慎重に手渡されたよ。

 

「粒子の検査ともつれをほぐすキーワードをみつけるのに二日はかかる。また会議を招集する。ジャラはおじいちゃんへの返信の内容を簡潔に36文字で考えておくこと。それでは解散する。お疲れ様!」

 

ようやくミーティングは終了したよ。

で、ジャラはすぐにスーツマンに命じて、クレアとボブに会うためにドリームワールドへ急いだんだ。

 

二人に会うのは久しぶりだよ。

・・クレアもボブも僕のこと忘れてないか、すこし心配だよ・・

 

(続く)

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この世の果ての中学校11章 大きなエドから生まれた空飛ぶ小さな子供たち!

 緑の第二惑星に、最後の一人として生き残った少年エドは、凶暴な虫たちの襲撃からはぐれ親父や男子生徒に助けられ、HAL号で調査隊とともに第三惑星に向かった。

 はぐれ親父の予言通り、第三惑星の裏側には緑の森が続いていた。

 

 ・・・宇宙艇のデッキから、エドが草原に飛び降りた。

 エドは、新しい世界の空気を胸いっぱい吸い込み、確かめるように足元の大地を踏みしめる。

 

 準備運動が終わると、エドは頭を下げ、顎をぐいと引く。

 そして前方に広がる深い森に向かって全速力で走りだした。

 

 はぐれが併走して、裕大と匠とペトロが後に続く。

 森が近づくとエドは一段とスピードを上げた。

 

 エドと、四人との距離が一気に開いていった。

 エドは森の手前で立ち止まり、振り向いて手を振った。

 

「ありがと~う!」

 大きな声でお礼を言うと、エドは、あっという間に森の中に消えていった。

 

 はぐれ親父と、四人の生徒もエドのあとを追って森の中に入っていった。

 

・・・前回のストーリーはここからご覧ください。

この世の果ての中学校 10章  生き残った少年エドと黒い絨毯

 

11章 エドから生まれた空飛ぶ小さな子供たち

 

 しばらくして森の頂きから、バン! という小さな破裂音が聞こえた。

 丘の上の空に一筋の青い煙が立ち上っている。

 

 煙は風に乗って麓の森にたなびいて消えていった。

 

 エドを追って森に消えたはぐれ親父がしばらくして森から出てきた。

”この森にでかい昆虫は見当たらない。エドの子供たちは一安心だ!”

 親父は独り言ちて、安堵のため息をつき、バタリと草原に座り込んだ。

 

 エドを追いかけて、森の頂上まで駆け上っていった裕大と匠とペトロが、息を弾ませながら、はぐれのもとに帰ってきた。

「エドは空に消えました。どこにも遺体はありません。これだけが残っていました」

 裕大がぼろぼろに裂けた衣服を親父に差し出した。

 匠は、使い込んだ大ぶりのナイフを、ペトロは履きつぶされた靴をはぐれに渡した。

 

 はぐれはエドの遺品を一つ一つ丁寧に調べた。

 裂けた衣服を小さくたたみ、靴は形を整えた。

 ナイフは鞘から抜き出して、手ぬぐいで汚れを拭い、もう一度鞘に戻した。 

 終わると、三人の顔を見つめた。

 

・・・お前たちに頼みがある。

 エドは立派に責任を果たして、空に散った。

 エドから生まれた子供たちが、この惑星で元気に育ってくれることを祈ろう!

 これは若い英雄の記念品だ。

 レジェンドとして名誉ある形をこの惑星に残してやりたいと思う。

 どうするか、生徒たち、みんなで知恵を絞って欲しい・・・

 

 そう言って、はぐれはエドの遺品を三人に預け、宇宙艇に戻っていった。

 途中で立ち止まって、空を見上げ、森の頂にかすかに漂う青い煙の跡を見つけた。

 

 「エド、よくやった!」

 輝く太陽に照らされて、はぐれ親父の無骨な顔にきらりと光るものが一筋見えた。

 

 ・・・宇宙艇のキャビンに生徒全員が集まって相談を始めた。

 結論がまとまると、六人は直ちに作業に取りかかった。

 

 宇宙艇の工具室から円筒型の金属製のボックスと、細長いプレート板を探し出した。

 次にハル先生に助けて貰って、プレートの裏面に特殊な仕掛けをした。

 

 それがおわると、プレート板の表面にみんなで考えた記念の文字を彫り込んでいった。

 六人は、エドの消えた森の近くに日当たりのいい平地を見つけて、縦型の穴を掘った。

 

 金属ボックスにエドの靴と、ナイフと、緑の衣服の切れ端を収めると、しっかりと蓋を締めて穴に埋め、細長いプレート板をボックスの上部に接合させた。

 最後に穴の周りの土をみんなで踏み固めた。

 

 円筒ボックスの上半分にプレート板を取り付けた1メーターほどの高さの記念碑が、地面から立ち上がった。

 大きな白い布で記念碑を覆って、準備が完了した。

 

 夕刻になり、森のそばで二日目のキャンプの準備が始まった。

「小さなエドはどこ? どこにいるの」

 

 マリエが森の中で乾いた薪を拾い集めながら、小さなエドを探していた。

 

 頭の上でブーンと小さな羽音が聞こえた。

 薄青い煙の中で10センチ位の小さな少年が羽根を震わせて浮かんでいる。

 

「エド、エドなのね!」

 目を丸くしたマリエの声が弾んだ。

 

「違うよ、僕はリトル・エドだよ」

 小さなエドが、小さな羽根を左右に振って、偉そうな挨拶をした。

「しばらくは羽が生えて空を飛べるんだぞ!」

 

 生まれたばかりのリトル・エドは、からだがとても柔らかそうに見えた。

 マリエはそっと右手の人差し指を宙に差し出した。

 小さなエドはマリエの指先に止まって羽を休ませる。

 

 エドにそっくりの小さな緑の目が必死にマリエを見つめた。

 羽が細かく震えている。

 

 マリエの胸はきゅんとつぶれた。

 

「お腹空かない?」

 マリエが尋ねた。

「一週間は大丈夫だよ。大きなエドから栄養分をもらってるんだ」

「寒くはない?」

「少し寒い」

 リトル・エドがぷるっと羽根を震わせた。

 

 マリエはリトル・エドを自分の頭に乗せて、暖かい髪の毛でしっかり包み込んだ。

「リトル・エド、動いちゃだめよ」

 

 小さなエドに言い聞かして、マリエは乾いた薪をもう少し集めた。

 キャンプ地に戻ると、仲間もエドの子どもたちを連れて帰っていた。

 

 ペトロは小川の上を気持ちよさそうに低空飛行しているアナに出会った。

 エーヴァは楓の幹に止まって、美味しそうに樹液のシロップをなめているボブを見つけた。

 

 匠は鼻にぶつかってきたクレアを連れて帰ってきた。

 エドの小さな子ども達は、柔らかくて丈夫な森の葉っぱを使って、可愛い緑の服を作り上げて身につけていた。

 

 元気なボブが、ぶんぶん飛び回りながら、お喋りを始めた。

 

「僕たちはみんな虫に食べられそうになって、大きなエドの中に隠れていたんだよ。今日は僕たちの誕生日なんだ。そうだ、大きなエドがいなくなったから、子供四人で家族しようよ」

 

 ボブが緊急提案をした。

 

「それじゃ、僕がパパをするよ」

 リトル・エドが、偉そうに胸を膨らませた。

 

「私はママよ」

 アナが長い髪の毛をひっつめると、くるりと結わえて丸い束にした。

 

「僕は弟で、クレアが姉さん」

 元気なボブが細身のクレアに甘えたくて、勝手に宣言をした。

 

「エド・ファミリーだよ」

 ボブが先頭になって、四人は輪になって宙を舞った。

 

「大きなエドはどうしてるかな」

 リトル・エドが心配そうに空を見上げる。

 エドの子どもたちは、赤く染まり出した夕暮の空を見上げた。

 四人は、必死に涙をこらえた。

 

 座っていた裕大がいきなり立ち上がった。

「今から全員で大きなエドとお別れの式典を行う!」

 匠が号令をかけた。

「全員整列、出発!」

 

 裕大が森の外れの小さな広場に向かって先頭で歩く。

 エドの子どもたちが羽音をぶんぶんたてながら、裕大の背中に一直線に並んで付いて行く。

 

 子供たちの周りを生徒たちが守って歩いた。

 森の側の小さな広場に、白い布で包まれた長方形のプレートが立っていた。

 

「これ、大きなエドの記念碑。今から除幕式を始めるわよ。位置について!」

 咲良が指揮して、四人のエドの子供たちが羽音を立てて、記念碑を覆う布の四隅を下から持げた。

 

「一、二の三!」

 

 咲良のかけ声で、エドの子どもたちが空高く飛んだ。

 布は高く持ち上げられ、ふわりと横の地面に落ちた。

 

 記念碑が現れ、夕陽を反射して黄金色に輝く。

「うわーを!」

エドの子どもたちが歓声を上げて、碑の周りを囲んだ。

 

「若き勇者・大きなエド 地球歴2092年 ここ第三惑星テラに眠る」

 ボブが大きな声で彫り込まれた文字を読み上げた。

 

 マリエが碑の前に跪いて、お祈りの言葉を勇者に捧げる。

 エドの子どもたちは順番に大きなエドにお別れの挨拶をした。

 

 リトル・エドが代表で、生徒たちに記念碑のお礼を言って、大きなエドとのお別れの式典が終わった。

 森の影から、はぐれ親父がこっそり記念碑に手を合わせていた。

 

・・・キャンプのたき火を囲んで、暖かいお茶が入り、お喋りが弾んでいった。

 丸太で作ったテーブルの上に小さな平底のお皿が二つ置かれている。

 リトル・エドとアナ、ボブとクレアが仲よくお皿の縁に止まって、暖かくて甘いハーブテイーを美味しそうに飲んでいた。

 

 同じ頃・・・宇宙艇の操縦室では地球へ帰るルートの検討会が始まっていた。

 はぐれが勧める、めちゃくちゃ時間が稼げるが、かなり危険な最短ルートを取るか、パイロットのエーヴァ・パパが主張する、かなり安全だが数日はかかりそうなルートを取るか、議論が盛り上がっていた。

「燃料が残り少なくなっています」

ハル先生がナノコンから顔を上げて報告して、直ちに結論が出た。
 

・・・森の側で、裕大が薪をたき火に追加した。 

 リトル・エドはマリエの頭、アナはペトロの右の肩。

 ボブはエーヴァの耳の上、クレアは匠の鼻の上に止まった。

 

 エドの子供たちの落ち着く場所が決まって、お喋りが弾んでいった。

 

 裕太が口火を切った。

「ここには小さな虫しかいなくてよかったぜ。森に凶暴な奴らが潜んでたら、俺たち今頃、派手にドンパチやってたとこだよ」

 裕大が電子銃をぶっ放す格好をする。

 

 つづいて、リトル・エドが賢そうなセリフを吐いた。

「僕はあの凶暴な虫たちを恨まないことにしたよ。

 虫たちだって、僕らが来るまでは平和に暮らしてたんだと思うんだ。

 戦争の原因は、大きな僕たちがやってきて、虫たちを少しづつ食べ出したからだよ。

 凶暴にしたのは僕たちの方だと思うんだ」

 

「そりゃ甘いな!」

 匠がリトル・エドを挑発した。

 

「とにかくさ、食べ物がないのが戦争の始まりだよ。

 驚くなよ、地球も緑の第二惑星と同じだ。

 地球の食料なんかとうの昔になくなってるんだ!

 食べられる側の植物や動物たちが、俺たち人類への逆襲を始めたんだ。

 ゲノムの逆襲だってカレル先生が言ってたぞ。

 もう終わった話だけどな・・・食うか食われるかなら、地球もここといい勝負だ」

 

 ボブが口をとんがらかして、反論した。

「そりゃー、この勝負は僕たちの勝ちだよ。

 なんてったってここじゃ、小さくならないと生きていけないんだもの。

 大きなエドと仲間の科学者が昔、難しいこと話してたよ。

 僕たちの生き方、これって『共生』とかに近いって・・・。 

 爆発して胞子で繁殖するのは人類の植物化現象だって。

 僕たちそのたびに小さくなっていくんだ。

 もう消滅寸前だよ」

 

 ペトロが割って入った。

「でもさボブ、ここにはまだ緑が一杯あるじゃない。

 自慢するわけじゃないけどさ、僕たち地球じゃ、緑の森なんて見たこと無いよ。

 これ、匠の決めのセリフだけどさ 

 ”俺たち、実は既に絶滅してるのかもしれねーんだ”。

 どうだ僕たちの勝ちだ」

 
「結構いい勝負ね?」

 ママ・アナが判定に困った。

「引き分けってとこかな」

 咲良が結論を出した。

 

 ”バン!” 

 焚き火がいきなり弾けて、みんな跳び上がった。
   大笑いしてまたお茶を飲んだ。

 

「私たちって、友達だよね」

 細身のクレアが焚き火に向かって確かめるようにいった。

 

「そうよ、私たちみんな友達よ」

 エーヴァが答えた。

 

「僕たち、これでもまだ人類なの?」

 小さなボブが心配そうに聞く。

 

「ボブ、安心なさい! 私たちいつまでも人類よ。だからこうして家族とか友達とかしてるのよ」

 マリエが優しくボブに微笑む。

 

“ブーン!”

 ママ役のアナが息をいっぱい吸いこんで胸を膨らませると、ペトロの肩から空中に浮かび上がった。

 

“ブン、ブーン、ブーン!” 

ボブとクレアとパパ役のリトル・エドも、胸を膨らませて、空中に浮かぶ上がった。

 

エドの家族が空中に輪を描いて生徒たちの頭の上をブンブン飛び回った。

「全員で、家族になろうよ。儀式だよ。立ち上がって、整列だよ」

 

 小さなボブが呼びかけた。

 地球のみんなが立ち上がって、エドの家族の輪の下で横一列に並んだ。

 

 マリエが一歩前に出た。

「いまから全員を人類の家族とする。仲よく助け合って生きていけますように・・・神のご加護を!」
 

 マリエが宣言して、胸の前で十字を切る。

 みんなで復唱して、人類の守り神に祈った。

 

「遅くなっちゃった。そろそろ失礼して、新しい家族の家を作らなくっちゃ。さー、忙しくなるぞ!」

 リトル・エドが生徒たちにお別れの挨拶をしようとした。

 

「あら、ボブとクレアがいないわよ」

 ママ・アナがボブとクレアの姿が消えたことに気がついてあわてだした。

 

 二人はテーブルの下や、裏返したお皿の中や、近くの藪の中まで調べてみたがどこにもいない。

 
・・・騒ぎを聞きつけて、はぐれ親父がどこからか現れた。

 

 親父はエーヴァのジャケットの胸ポケットを指さして「だめだよ」と首を横に振った。

 ボブとクレアがエーヴァの胸ポケットから首を出した。

 

「見つかっちゃった。お別れね」

 二人が残念そうに声を合わせた。

 

「悔しいけど、これでお別れね」

 エーヴァがそっと二人にキスをした。

 

 それから、みんなでやさしく抱き合ってお別れをした。 

 小さな4人の家族は、生徒達にもう一度お礼をいって、小さな羽音と共に森の中に消えていった。
 

・・・ 翌朝早く、HAL号は森の上空で静止して、宇宙に飛び出す準備をしていた。

 昨日大きなエドの消えたあたりの空に、森や草原の方々から薄青い煙の様な物が立ち上ってきた。

 

 煙は漂いながら一つに集まって、なにかの形を作り始めた。

 朝日に照らされて、大きなエドが空に現れた。

 

 数百の小さなエドたちが空いっぱいに大きなエドを描き出していた。

 大きなエドが、笑って、宇宙艇に手を振った。

 

 生徒たちが歓声を上げて、窓から手を振った。

 HAL号は両翼を交互に上下して、エドの子供たちに別れの挨拶を済ませると、船首を宇宙に向け、エンジンを全開した。

 

 はぐれ親父が大声で宣言した。

「いまから地球に向けて帰還する! でっかいブラックホールをいくつかくぐり抜けるが、時空の歪曲は無視することにした。非常識航法で一気に時間を遡る。みんな、驚くな!うまくいけば学校到着はだ・・・なんと・・・出発した日の昼すぎになる・・・予定だ!」

 

「帰りも、なんだか凄そうだな」

 生徒たちが顔を見合わせて、首をすくめた。

 

 (つづく)

 

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