この世の果ての中学校11章 大きなエドから生まれた空飛ぶ小さな子供たち!

 緑の第二惑星に、最後の一人として生き残った少年エドは、凶暴な虫たちの襲撃からはぐれ親父や男子生徒に助けられ、HAL号で調査隊とともに第三惑星に向かった。

 はぐれ親父の予言通り、第三惑星の裏側には緑の森が続いていた。

 ・・・宇宙艇のデッキから、エドが草原に飛び降りた。

 エドは、新しい世界の空気を胸いっぱい吸い込み、確かめるように足元の大地を踏みしめる。

 準備運動が終わると、エドは頭を下げ、顎をぐいと引く。

 そして前方に広がる深い森に向かって全速力で走りだした。

 はぐれが併走して、裕大と匠とペトロが後に続く。

 森が近づくとエドは一段とスピードを上げた。

 エドと、四人との距離が一気に開いていった。

 エドは森の手前で立ち止まり、振り向いて手を振った。

「ありがと~う!」

 大きな声でお礼を言うと、エドは、あっという間に森の中に消えていった。

 はぐれ親父と、四人の生徒もエドのあとを追って森の中に入っていった。

・・・前回のストーリーはここからご覧ください。

この世の果ての中学校 10章  生き残った少年エドと黒い絨毯

11章 エドから生まれた空飛ぶ小さな子供たち

 しばらくして森の頂きから、バン! という小さな破裂音が聞こえた。

 丘の上の空に一筋の青い煙が立ち上っている。

 煙は風に乗って麓の森にたなびいて消えていった。

 エドを追って森に消えたはぐれ親父がしばらくして森から出てきた。

”この森にでかい昆虫は見当たらない。エドの子供たちは一安心だ!”

 親父は独り言ちて、安堵のため息をつき、バタリと草原に座り込んだ。

 エドを追いかけて、森の頂上まで駆け上っていった裕大と匠とペトロが、息を弾ませながら、はぐれのもとに帰ってきた。

「エドは空に消えました。どこにも遺体はありません。これだけが残っていました」

 裕大がぼろぼろに裂けた衣服を親父に差し出した。

 匠は、使い込んだ大ぶりのナイフを、ペトロは履きつぶされた靴をはぐれに渡した。

 はぐれはエドの遺品を一つ一つ丁寧に調べた。

 裂けた衣服を小さくたたみ、靴は形を整えた。

 ナイフは鞘から抜き出して、手ぬぐいで汚れを拭い、もう一度鞘に戻した。 

 終わると、三人の顔を見つめた。

・・・お前たちに頼みがある。

 エドは立派に責任を果たして、空に散った。

 エドから生まれた子供たちが、この惑星で元気に育ってくれることを祈ろう!

 これは若い英雄の記念品だ。

 レジェンドとして名誉ある形をこの惑星に残してやりたいと思う。

 どうするか、生徒たち、みんなで知恵を絞って欲しい・・・

 そう言って、はぐれはエドの遺品を三人に預け、宇宙艇に戻っていった。

 途中で立ち止まって、空を見上げ、森の頂にかすかに漂う青い煙の跡を見つけた。

 「エド、よくやった!」

 輝く太陽に照らされて、はぐれ親父の無骨な顔にきらりと光るものが一筋見えた。

 ・・・宇宙艇のキャビンに生徒全員が集まって相談を始めた。

 結論がまとまると、六人は直ちに作業に取りかかった。

 宇宙艇の工具室から円筒型の金属製のボックスと、細長いプレート板を探し出した。

 次にハル先生に助けて貰って、プレートの裏面に特殊な仕掛けをした。

 それがおわると、プレート板の表面にみんなで考えた記念の文字を彫り込んでいった。

 六人は、エドの消えた森の近くに日当たりのいい平地を見つけて、縦型の穴を掘った。

 金属ボックスにエドの靴と、ナイフと、緑の衣服の切れ端を収めると、しっかりと蓋を締めて穴に埋め、細長いプレート板をボックスの上部に接合させた。

 最後に穴の周りの土をみんなで踏み固めた。

 円筒ボックスの上半分にプレート板を取り付けた1メーターほどの高さの記念碑が、地面から立ち上がった。

 大きな白い布で記念碑を覆って、準備が完了した。

 夕刻になり、森のそばで二日目のキャンプの準備が始まった。

「小さなエドはどこ? どこにいるの」

 マリエが森の中で乾いた薪を拾い集めながら、小さなエドを探していた。

 頭の上でブーンと小さな羽音が聞こえた。

 薄青い煙の中で10センチ位の小さな少年が羽根を震わせて浮かんでいる。

「エド、エドなのね!」

 目を丸くしたマリエの声が弾んだ。

「違うよ、僕はリトル・エドだよ」

 小さなエドが、小さな羽根を左右に振って、偉そうな挨拶をした。

「しばらくは羽が生えて空を飛べるんだぞ!」

 生まれたばかりのリトル・エドは、からだがとても柔らかそうに見えた。

 マリエはそっと右手の人差し指を宙に差し出した。

 小さなエドはマリエの指先に止まって羽を休ませる。

 エドにそっくりの小さな緑の目が必死にマリエを見つめた。

 羽が細かく震えている。

 マリエの胸はきゅんとつぶれた。

「お腹空かない?」

 マリエが尋ねた。

「一週間は大丈夫だよ。大きなエドから栄養分をもらってるんだ」

「寒くはない?」

「少し寒い」

 リトル・エドがぷるっと羽根を震わせた。

 マリエはリトル・エドを自分の頭に乗せて、暖かい髪の毛でしっかり包み込んだ。

「リトル・エド、動いちゃだめよ」

 小さなエドに言い聞かして、マリエは乾いた薪をもう少し集めた。

 キャンプ地に戻ると、仲間もエドの子どもたちを連れて帰っていた。

 ペトロは小川の上を気持ちよさそうに低空飛行しているアナに出会った。

 エーヴァは楓の幹に止まって、美味しそうに樹液のシロップをなめているボブを見つけた。

 匠は鼻にぶつかってきたクレアを連れて帰ってきた。

 エドの小さな子ども達は、柔らかくて丈夫な森の葉っぱを使って、可愛い緑の服を作り上げて身につけていた。

 元気なボブが、ぶんぶん飛び回りながら、お喋りを始めた。

「僕たちはみんな虫に食べられそうになって、大きなエドの中に隠れていたんだよ。今日は僕たちの誕生日なんだ。そうだ、大きなエドがいなくなったから、子供四人で家族しようよ」

 ボブが緊急提案をした。

「それじゃ、僕がパパをするよ」

 リトル・エドが、偉そうに胸を膨らませた。

「私はママよ」

 アナが長い髪の毛をひっつめると、くるりと結わえて丸い束にした。

「僕は弟で、クレアが姉さん」

 元気なボブが細身のクレアに甘えたくて、勝手に宣言をした。

「エド・ファミリーだよ」

 ボブが先頭になって、四人は輪になって宙を舞った。

「大きなエドはどうしてるかな」

 リトル・エドが心配そうに空を見上げる。

 エドの子どもたちは、赤く染まり出した夕暮の空を見上げた。

 四人は、必死に涙をこらえた。

 座っていた裕大がいきなり立ち上がった。

「今から全員で大きなエドとお別れの式典を行う!」

 匠が号令をかけた。

「全員整列、出発!」

 裕大が森の外れの小さな広場に向かって先頭で歩く。

 エドの子どもたちが羽音をぶんぶんたてながら、裕大の背中に一直線に並んで付いて行く。

 子供たちの周りを生徒たちが守って歩いた。

 森の側の小さな広場に、白い布で包まれた長方形のプレートが立っていた。

「これ、大きなエドの記念碑。今から除幕式を始めるわよ。位置について!」

 咲良が指揮して、四人のエドの子供たちが羽音を立てて、記念碑を覆う布の四隅を下から持げた。

「一、二の三!」

 咲良のかけ声で、エドの子どもたちが空高く飛んだ。

 布は高く持ち上げられ、ふわりと横の地面に落ちた。

 記念碑が現れ、夕陽を反射して黄金色に輝く。

「うわーを!」

エドの子どもたちが歓声を上げて、碑の周りを囲んだ。

「若き勇者・大きなエド 地球歴2092年 ここ第三惑星テラに眠る」

 ボブが大きな声で彫り込まれた文字を読み上げた。

 マリエが碑の前に跪いて、お祈りの言葉を勇者に捧げる。

 エドの子どもたちは順番に大きなエドにお別れの挨拶をした。

 リトル・エドが代表で、生徒たちに記念碑のお礼を言って、大きなエドとのお別れの式典が終わった。

 森の影から、はぐれ親父がこっそり記念碑に手を合わせていた。

・・・キャンプのたき火を囲んで、暖かいお茶が入り、お喋りが弾んでいった。

 丸太で作ったテーブルの上に小さな平底のお皿が二つ置かれている。

 リトル・エドとアナ、ボブとクレアが仲よくお皿の縁に止まって、暖かくて甘いハーブテイーを美味しそうに飲んでいた。

 同じ頃・・・宇宙艇の操縦室では地球へ帰るルートの検討会が始まっていた。

 はぐれが勧める、めちゃくちゃ時間が稼げるが、かなり危険な最短ルートを取るか、パイロットのエーヴァ・パパが主張する、かなり安全だが数日はかかりそうなルートを取るか、議論が盛り上がっていた。

「燃料が残り少なくなっています」

ハル先生がナノコンから顔を上げて報告して、直ちに結論が出た。
 

・・・森の側で、裕大が薪をたき火に追加した。 

 リトル・エドはマリエの頭、アナはペトロの右の肩。

 ボブはエーヴァの耳の上、クレアは匠の鼻の上に止まった。

 エドの子供たちの落ち着く場所が決まって、お喋りが弾んでいった。

 裕太が口火を切った。

「ここには小さな虫しかいなくてよかったぜ。森に凶暴な奴らが潜んでたら、俺たち今頃、派手にドンパチやってたとこだよ」

 裕大が電子銃をぶっ放す格好をする。

 つづいて、リトル・エドが賢そうなセリフを吐いた。

「僕はあの凶暴な虫たちを恨まないことにしたよ。

 虫たちだって、僕らが来るまでは平和に暮らしてたんだと思うんだ。

 戦争の原因は、大きな僕たちがやってきて、虫たちを少しづつ食べ出したからだよ。

 凶暴にしたのは僕たちの方だと思うんだ」

「そりゃ甘いな!」

 匠がリトル・エドを挑発した。

「とにかくさ、食べ物がないのが戦争の始まりだよ。

 驚くなよ、地球も緑の第二惑星と同じだ。

 地球の食料なんかとうの昔になくなってるんだ!

 食べられる側の植物や動物たちが、俺たち人類への逆襲を始めたんだ。

 ゲノムの逆襲だってカレル先生が言ってたぞ。

 もう終わった話だけどな・・・食うか食われるかなら、地球もここといい勝負だ」

 ボブが口をとんがらかして、反論した。

「そりゃー、この勝負は僕たちの勝ちだよ。

 なんてったってここじゃ、小さくならないと生きていけないんだもの。

 大きなエドと仲間の科学者が昔、難しいこと話してたよ。

 僕たちの生き方、これって『共生』とかに近いって・・・。 

 爆発して胞子で繁殖するのは人類の植物化現象だって。

 僕たちそのたびに小さくなっていくんだ。

 もう消滅寸前だよ」

 ペトロが割って入った。

「でもさボブ、ここにはまだ緑が一杯あるじゃない。

 自慢するわけじゃないけどさ、僕たち地球じゃ、緑の森なんて見たこと無いよ。

 これ、匠の決めのセリフだけどさ 

 ”俺たち、実は既に絶滅してるのかもしれねーんだ”。

 どうだ僕たちの勝ちだ」

 
「結構いい勝負ね?」

 ママ・アナが判定に困った。

「引き分けってとこかな」

 咲良が結論を出した。

 ”バン!” 

 焚き火がいきなり弾けて、みんな跳び上がった。
   大笑いしてまたお茶を飲んだ。

「私たちって、友達だよね」

 細身のクレアが焚き火に向かって確かめるようにいった。

「そうよ、私たちみんな友達よ」

 エーヴァが答えた。

「僕たち、これでもまだ人類なの?」

 小さなボブが心配そうに聞く。

 

「ボブ、安心なさい! 私たちいつまでも人類よ。だからこうして家族とか友達とかしてるのよ」

 マリエが優しくボブに微笑む。

“ブーン!”

 ママ役のアナが息をいっぱい吸いこんで胸を膨らませると、ペトロの肩から空中に浮かび上がった。

“ブン、ブーン、ブーン!” 

ボブとクレアとパパ役のリトル・エドも、胸を膨らませて、空中に浮かぶ上がった。

エドの家族が空中に輪を描いて生徒たちの頭の上をブンブン飛び回った。

「全員で、家族になろうよ。儀式だよ。立ち上がって、整列だよ」

 小さなボブが呼びかけた。

 地球のみんなが立ち上がって、エドの家族の輪の下で横一列に並んだ。

 マリエが一歩前に出た。

「いまから全員を人類の家族とする。仲よく助け合って生きていけますように・・・神のご加護を!」
 

 マリエが宣言して、胸の前で十字を切る。

 みんなで復唱して、人類の守り神に祈った。

「遅くなっちゃった。そろそろ失礼して、新しい家族の家を作らなくっちゃ。さー、忙しくなるぞ!」

 リトル・エドが生徒たちにお別れの挨拶をしようとした。

「あら、ボブとクレアがいないわよ」

 ママ・アナがボブとクレアの姿が消えたことに気がついてあわてだした。

 二人はテーブルの下や、裏返したお皿の中や、近くの藪の中まで調べてみたがどこにもいない。

 
・・・騒ぎを聞きつけて、はぐれ親父がどこからか現れた。

 親父はエーヴァのジャケットの胸ポケットを指さして「だめだよ」と首を横に振った。

 ボブとクレアがエーヴァの胸ポケットから首を出した。

「見つかっちゃった。お別れね」

 二人が残念そうに声を合わせた。

「悔しいけど、これでお別れね」

 エーヴァがそっと二人にキスをした。

 それから、みんなでやさしく抱き合ってお別れをした。 

 小さな4人の家族は、生徒達にもう一度お礼をいって、小さな羽音と共に森の中に消えていった。
 

・・・ 翌朝早く、HAL号は森の上空で静止して、宇宙に飛び出す準備をしていた。

 昨日大きなエドの消えたあたりの空に、森や草原の方々から薄青い煙の様な物が立ち上ってきた。

 煙は漂いながら一つに集まって、なにかの形を作り始めた。

 朝日に照らされて、大きなエドが空に現れた。

 数百の小さなエドたちが空いっぱいに大きなエドを描き出していた。

 大きなエドが、笑って、宇宙艇に手を振った。

 生徒たちが歓声を上げて、窓から手を振った。

 HAL号は両翼を交互に上下して、エドの子供たちに別れの挨拶を済ませると、船首を宇宙に向け、エンジンを全開した。

 はぐれ親父が大声で宣言した。

「いまから地球に向けて帰還する! でっかいブラックホールをいくつかくぐり抜けるが、時空の歪曲は無視することにした。非常識航法で一気に時間を遡る。みんな、驚くな!うまくいけば学校到着はだ・・・なんと・・・出発した日の昼すぎになる・・・予定だ!」

「帰りも、なんだか凄そうだな」

 生徒たちが顔を見合わせて、首をすくめた。

 (つづく)

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下條 俊隆

下條 俊隆

ペンネーム:筒井俊隆  作品:「消去」(SFマガジン)「相撲喪失」(宝石)他  大阪府出身・兵庫県芦屋市在住  大阪大学工学部入学・法学部卒業  職歴:(株)電通 上席常務執行役員・コンテンツ事業本部長  大阪国際会議場参与 学校法人顧問  プロフィール:学生時代に、筒井俊隆姓でSF小説を書いて小遣いを稼いでいました。 そのあと広告代理店・電通に勤めました。芦屋で阪神大震災に遭い、復興イベント「第一回神戸ルミナリエ」をみんなで立ち上げました。一人のおばあちゃんの「生きててよかった」の一声で、みんなと一緒に抱き合いました。 仕事はワールドサッカーからオリンピック、万博などのコンテンツビジネス。「千と千尋」など映画投資からITベンチャー投資。さいごに人事。まるでカオスな40年間でした。   人生の〆で、終活ブログをスタートしました。雑学とクレージーSF。チェックインしてみてくださいね。

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