宇宙探査の旅から無事、地球のドームに帰り着いた生徒たちを待っていたのは、家庭内異変でした。
最近、パパやママの行動がどうも怪しげなのです。
子供達には絶対・内緒で、土曜日の夜に中学校の地下の会議場で、パパやママや先生達の秘密のPTAが開催されることが決まっていたのです。
それを知った子どたちは、会議で何が行われるのか探るために、ペトロとマリエをスパイとして会議場に潜り込ませることにしました。
前回のお話はここからご覧ください。
この世の果ての中学校11章 大きなエドから生まれた空飛ぶ小さな子供たち!
12章 秘密のPTA ”やっぱり~パパやママは幽霊だった?”
宇宙探査艇HAL号で、外宇宙で発見した3つの緑の惑星から 地球に無事帰還した週末の金曜日のこと。
校長先生や両親への宇宙探査の成果報告会が午前中に終わり、フリータイムの午後になって、生徒会長の裕大が匠とペトロを教室の隅に呼んだ。
「ちょっと聞いてくれ。緊急の三界会議が始まるようなんだ。昨日の夜、パパとママがひそひそ話してるのを聞いてしまった。三界のメンバー全員が集まる緊急の会議みたいだ。明日の夜、場所はこの学校のどこかだ」
「そういえば俺のママも”明日はいつものPTAに夕方から出かける”とか言ってたぞ。でも、三界会議だなんて言ってないぞ」
匠がいうと、ペトロが頷いた。
「そうなんだ。僕のママも、土曜日は久しぶりのPTAだから夜は僕が一人で留守番だって言ってたよ」
“おかしい?”・・・三人は顔を見合わせた。
三界会議は「リアルの世界・幻想の世界・虚構の世界」の代表者が集まる最高会議だった。
この学校でもっとも重要な会議なのに、めったに開かれたことがない。
“PTAとはレベルが違う”・・・はずだ。
子供を代表する”生徒会長”として裕大が怒った。
「ママたちはPTAだと嘘をついて、俺たちを外した秘密の三界会議を開くつもりだ。先生達も入ってるはずだ。これは怪しい。俺たち、明日の会議の中身を知る必要があるぞ」
最高会議に子供は外されたと知って、ペトロが燃えた。
「勝手に僕たち外しての最高会議かよ。何が秘密なんだろう。秘密の会議室とかがどこかにあるはずだ。探し出して、大人だけでなに話してんのか暴き出してやろうぜ」
「でもなペトロ。どうして三界会議のことそんなに内緒にしたがるのかそこら辺がよく分らん。俺たちが現実を知ったら絶望して、自殺するとでも思ってんのかな?」
匠がそう言って、黙り込んだ。
ペトロが恐ろしいことを言い始めた。
「この地球には温暖化による砂漠化現象で、人の住める土地が残されていないことぐらい、僕たちはとっくに知ってる。ドームの外には人の姿はもうどこにも見つからないことも知ってる。大事な食料が少なくなってることも知ってる。宇宙に食料が見つからなかったことも報告した。僕たちが厳しい現実を知っていることをママやパパたちも知っている。としたらだ・・・僕たちに知られたくないもっと深刻な秘密があるのじゃないかな」
・・・三人が沈黙し、教室に怪しげな静けさが漂う。
「実は、私たちもそう思ってるの!」
どこにも姿が見えないのに、マリエの大きな声が、突然、割り込んできて、三人は椅子から飛び上がった。
「ぜーんぶ聞いちゃった。ごめん、葉隠れの術なの」とマリエ。
咲良とエーヴァ、マリエが頭に乗せた葉っぱの帽子をちょっとずらして顔を覗かせた。
「第一惑星でキッカとカーナから葉隠れの術を教えてもらったの」とエーヴァ。
ペトロがクスッ!と笑った。ペトロもクプシから葉っぱの帽子を貰っていたのだ。
自室の机の中に隠して、ときどき葉隠れの練習をしている。
直ちに、生徒六人は輪になって座り、緊急の生徒会議を始めた。
「ママとパパたちは、これ以上僕たちになにを隠してるんだろう?」
匠が口火を切った。
「人の隠し事を見つけるのは、僕たちより、女の子の方がずっと上手だと思うよ。なにかもう掴んでるんじゃない?」
ペトロが仲良しのマリエに何気なく聞いた。
「ママはきっと恥ずかしいんだと思うわ」
マリエが仕方なく答えた。
「男の子も知ってるでしょ。夜になるとママもパパもどこかへ姿を消してしまうことくらい」
年長の咲良が平気な顔を装って囁く。
「小さい頃はずっと添い寝をしてくれたのに、今は私が寝付いてしまうとすぐいなくなる。ときどき、夜中に目が覚めて、パパとママを夢中で探すの。でも、どこにもいない。朝まで眠れないで起きていると、明け方になってこっそり帰ってくるのよ」
エーヴァが声をひそめて続けた。
・・・夜になると黄泉の国へ帰っていくの。そして朝になると、戻ってくる。きっと・・・パパもママも・・・
女子生徒、三人が口を揃えた。
“幽霊なのよ!”
「黄泉の国に通う・・・そんな姿を子供に見られたくないのよ」
咲良がだめ押しした。
「そんなにはっきり言うなよ!」
匠が悲鳴を上げた。
ペトロの顔がみるみる青ざめていつた。
・・・僕のママも、むかしは夜になるとよくガンバを演奏して、ペトロとパパに聞かせてくれた。
でもパパがどこかへ消えた今は、疲れたと言ってはすぐ自分の部屋に消えてしまう。
そうかママは部屋にはいないんだ・・・
「そういえばここんところパパとママと三人で晩飯食ったことないぞ。いつも俺一人だ。俺外して二人きりで黄泉の国で外食なんかしてるのかよ!」
冗談いって、ごまかしてる裕大の顔色がひどく悪い。
「おれのパパは昔からいない。でもママは今でも元気だ! 幽霊なんかじゃないぞ」
匠の顔がうるうると歪んできた。
そして、泣きながら吠えた。
「お、おれ!幽霊のママなんか、いらんわい!」
「匠、分かってるでしょ。幽霊でもママはママなのよ。魂は本物なのよ」
エーヴァが泣きながら、匠の肩を抱いた。
全員が言葉を失って、黙り込んでしまった。
教室は静まりかえった。
教室のどこかから不思議なささやき声が聞こえてきた。
・・・お前さんたちの両親はこのドームへ来る前に病原体に犯されていたのです。
その上、お前さんたちのために、少しでも食料を残そうとしたのですよ。
自分たちの肉体を失ったいまも、黄泉の国と往復しながら、先祖の魂から少しずつ存在のエネルギーを分けて頂いて、お前さんたちを必死に育てているのです。
そんなパパとママに心から感謝しないといけませんよ・・・
生徒たちは、この声はきっと自分の心の中から聞こえてくるのだと思う。
実は、ヒーラーおばさまが教室の隅に隠れて、傷ついた心を癒やすフローラル・ハーブの香りを生徒たちにそっと振りかけながら、小さな声で囁いているのだった。
「パパやママにはこのまま知らん振りを続けようぜ!」
元気を取りもどした裕大が沈黙を破った。
「久しぶりだ! 匠、ペトロ、みんなで走ろう!」
裕大が声を掛けて、教室の窓を乗り越えて校庭へ駆けだしていった。
匠があとに続いた。
ペトロがあわてて追いかけていった。
「さー、駆けっこよ!」
咲良が誘って、エーヴァとマリエの三人も校庭に出た。
「オリンピックよ、私たち六人で走れば、地球のオリンピックになるわよ!」
マリエがオリンピックの開会を勝手に宣言した。
「いまから、この世の果てのオリンピック始めまーす!」
午後の厳しい日差しを浴びて、六人の生徒たちは校庭を全力で走った。
ヒーラーおばさまが、誰もいなくなった教室の奥の暗闇から現れて、フッと小さく安堵の溜息をつくと、仕事場の医務室にとことこと戻っていった。
翌日の土曜日、三界会議の日がやって来た。
生徒たちは会議の様子を探る戦略を決めていた。
優秀な秘密工作員二人を選んでおいて、親たちの後を付けて会議の場所に送り込もうというスパイ作戦だった。
・葉隠れの技で姿を隠せること
・小さくて目立たないこと
・途中で絶対喧嘩しないこと
三つの条件からスパイはペトロとマリエの仲良し組に決定した。
「今夜は久しぶりのPTAだから、帰りは遅くなりますよ」
その夜、ママはペトロを早々にベッド・ルームに追い込むと、家を出て学校に向かった。
ママが家から消えると、ペトロはベッドを抜け出して葉隠れの帽子を被る。
自分の姿を玄関の鏡に映して、姿が映らないことを確かめ、ママの後を急いで追いかけた。
“今夜のママはお化粧も念入りで、とっても素敵に見えた”
前を行くママの後ろ姿も軽やかで、なんだか宙に浮かんでいるみたいだ。
学校の近くまでやってくると、先を行くママが校庭の入り口でだれかと出会ったのか、賑やかに挨拶を交わしている。
相手の声の主はマリエのママのようだった。
・・・そうだ、葉っぱで隠れたマリエがそばにいるはず・・・
「マリエ、どこにいる? 僕はここだよ」
ペトロは小声で囁いて、マリエに見えるように、葉っぱを顔から少しずらした。
ペトロの顔が暗闇からすぐ目の前に浮かび上がって、側にいたマリエは跳び上がった。二人は危なくぶつかるところだった。
ペトロはマリエと手を繋いで、姿を隠したままママ達のあとを追う。
ママたちは正門から校庭に入り、校舎の階段を上って、長い廊下を奥へ進んでいった。
廊下の両側には使っていない教室や医務室がある。
廊下の突き当たりは校長室になっていて、行き止まりだ。
どこかの会議室に続くような廊下も階段もない。
ペトロとマリエは通い慣れた廊下を、ママたちを見失わないように少し離れて追いかけて行った。
「ママたち、どこに向かってるのかな?」ペトロが一人言を言った。
薄暗く、灯りが届かないところにやってくると、突然マリエが立ち止まった。
「ペトロ、ちょっと待ってね」
マリエが葉っぱの帽子を脱いで姿を現した。
そして、廊下の壁にある小さな破れ目を覗き込んだ。
「そこにいるのでしょ。出てらっしゃい」
穴の中の暗闇から、小さな二つの目が輝いてこちらを見上げた。
“チチッ!”とちいさく鳴く声がして、黒く細長い生き物が穴から飛び出してきた。
立ち止まってから、マリエの肩に跳び乗った。
マリエが葉っぱをかぶり直して姿を消すと、ちいさな生き物も見えなくなった。
「はて? やつは何者?」
ペトロがマリエに聞いた。
「とっても可愛い秘密のお友達」
マリエの声がすこし弾んでいた。
「やベ~」
口から出かけた言葉を、ペトロはぐっと呑み込んだ。
・・・“秘密のお友達”ごときに焼き餅なんか焼いてるのを、マリエに悟られてはならない・・・
マリエの秘密の友達はスペース・イタチだった。
マリエは、いつの間にか学校に住み着いた宇宙の流れ者、スペース・イタチをすっかり手なづけていたのだ。
寄り道してる間に、ママたちの姿がどこかに消えてしまった。
慌てた二人は廊下の突き当たりまで走っていって、周りを見渡す。
そこには校長室の古い木製のドア以外には階段も通路もない。
校長室の側には、校舎の外へ出るちいさな扉がついているが、頑丈な鍵がかかっていた。
廊下を引き返そうと思った二人の耳に、校長室の中からなにかのこすれる音が聞こえてきた。
ペトロがドアを少しあけて、隙間から校長室の中を覗き込むと、薄闇の中でママたちが奥のキャビネットをギシギシと横にずらしている。
キャビネットと壁の間に人が通れるくらいの小さな隙間を作ると、マリエのママとペトロのママは順番に中に入り込んで、姿を消してしまった。
「マリエ、追いかけよう!」
二人は急いで校長室に飛びこみ、開いたままのキャビネットの隙間をくぐり抜けた。
二人の後ろで、キャビネットがズズーッと勝手に閉まっていった。
目の前は真っ暗闇。
マリエがペトロの手をぎゅっと掴んだ。
暗闇に慣れてくると、目の前は立派な石組みの通廊が緩やかに傾斜して、地下に向かうスロープになっていた。
前方に薄い灯りが二つ浮かんで、小さく揺れているのが見える。
「あれって、懐中電灯の灯りかしら、それとも何かが光ってるの?」
マリエの声が上ずってきた。
「あの大きさは懐中電灯の光じゃないよ、淡くて、大きすぎる。ということはだ・・・なんてこった、ママたちは懐中電灯がなくても暗闇が見えてるってことだ」
ペトロはできるだけ回りくどくマリエの疑問に答える。
「マリエ、こんなこと言いたくないよ。でももう間違いない。僕らがみているのは“ひとだま”だよ」
ペトロの手を握るマリエの指が震えていた。
・・・
懐中電灯を忘れたペトロとマリエには周りがよく見えなかった。
ペトロが右手で壁を手探りしながら、左手でマリエと手を繋いで、一歩一歩確かめる様に回廊を下りていった。
やがてスロープは終わり、明るい照明に照らしだされた丸い踊り場に着いた。
そこにママたちの姿はなかった。
踊り場は突き当たりになっていて、大きな扉が二つ並んでいる。
左手には大きくて重そうな、観音開きのドアがあった。
そこには立派な看板が掛かっている。
看板には「国会議事堂」と書いてあった。
(続く)
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この世の果ての中学校 13章 学校の地下室は”国会議事堂”だった!
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