この世の果ての中学校 12章 秘密のPTA “やっぱり~パパやママは幽霊だった”

 地球に残された六人の中学生の物語です。

 最近パパやママの行動がどうも怪しげです。

 やっぱり、 彼らのパパやママは“この世の人ではなかった”のです。

 土曜日の夜、中学校の地下の会議場で子供には内緒で、パパやママや先生達の秘密のPTAが予定されていました。 

 それを知ったペトロとマリエは、スパイとして会議場に潜入することにしました。

 そこで二人がみたものは・・。

 ペトロとマリエはスマホで仲間の子供たちに、実況中継を始めました。

 前回のお話はここからご覧ください。

この世の果ての中学校11章 大きなエドから生まれた空飛ぶ小さな子供たち!

12章 秘密のPTA “やっぱり~パパやママは幽霊だった”

 宇宙艇ハル号で、外宇宙の緑の惑星から 地球に無事帰還した翌週の金曜日のこと。

 午前中の校長先生の授業がおわり、フリータイムの午後になって、裕大が匠とペトロを教室の隅に集めた。

「ちょっと聞いてくれ。緊急の三界会議が始まるようだぞ。昨日の夜、パパとママが俺に内緒でひそひそ話してるのが聞こえちまった。三界のメンバー全員が集まる緊急の会議みたいだ。明日の夜、場所はこの学校のどこかだ」

「そういえば俺のママは、明日はPTAに夕方から出かけるとか言ってたぞ。でも、三界会議だなんて言ってないぞ」

匠がいうと、ペトロが頷いた。

「僕のママも、土曜日は久しぶりのPTAだから、夜は僕が一人で留守番だって、それだけ言ってたよ」 

 “おかしい!”・・思わず三人は顔を見合わせた。

 三界会議はリアルの世界、幻想の世界、虚構の世界の代表者が集まる重要会議だった。

 この世でもっとも重要な会議なのに、いままで開かれたことがない。

 “PTAとはレベルが違う”・・はずだ。

 子供代表の生徒会長として裕大が怒った。

「ママたちはPTAだと嘘をついて、俺たちを外した秘密の三界会議を開くつもりだ。先生達も入ってるはずだ。怪しい。俺たち、会議の中身を知る必要があるぞ」

 最高会議に子供は外されたと知って、ペトロが燃えた。

「勝手に僕たち外して、一体何が秘密なんだよ! 会議室がきっとどこかにあるはずだ。探し出して、大人だけでなに話してんのか暴き出してやろうぜ」

「でもな、どうして三界会議のことそんなに内緒にしたがるのかそこら辺がよく分らん。俺たちが現実を知ったら絶望して、自殺するとでも思ってんのかな?」

 匠がそう言って、黙り込んだ。

 ペトロが恐ろしいことを言い始めた。

「地球には人の住めない土地しか残されていないことぐらい、僕たちはとっくに知ってる。ドームの外には人間の姿はもうどこにも見つからないことも知ってる。大事な食料が少なくなってることも知ってる。僕たちが知っていることをママやパパたちも知っている。としたらだ・・僕たちに知られたくないもっと深刻な秘密があるのじゃないかな」

 教室に怪しげな静けさが漂った。

「実は、私たちもそう思ってるの!」

 突然、すぐ側でマリエの大きな声が割り込んできて、三人は椅子から飛び上がった。

「ごめん、葉隠れの術なの」

 咲良とエーヴァ、マリエが頭に乗せた葉っぱの帽子をちょっとずらして顔を覗かせた。

・・第一テラでキッカとカーナから「葉隠れの術」を教えてもらったの・・

 ペトロがクスッ!と笑った。

 ペトロもクプシから葉っぱの帽子を貰っていたのだ。

 家に隠して、ときどき葉隠れの練習をしていたのだ。

 それから、生徒六人は輪になって教室の黒板の前に座り、緊急の生徒会議を始めた。

「ママとパパたちは、これ以上僕たちになにを隠してるんだろう?」

 匠が口火を切った。

「人の隠し事を見つけるのは、僕たちより、女の子の方がずっと上手だと思うよ。なにかもう掴んでるんじゃないの?」

 ペトロがマリエに何気なく聞いた。

「ママはきっと恥ずかしいんだと思うわ」

 マリエが仕方なく答えた。

「男の子も知ってるでしょ。夜になるとママもパパもどこかへ姿を消してしまうことくらい」  

 咲良が平気な顔して囁いた。

「小さい頃はずっと添い寝をしてくれたのに、今は私が寝付いてしまうとすぐいなくなる。ときどき、夜中に目が覚めて、パパとママを夢中で探すの。でも、どこにもいない。朝まで眠れないで起きていると、明け方になってこっそり帰ってくるのよ」

 エーヴァが声をひそめた。

「夜になると黄泉の国へ帰っていくの。そして朝になると、戻ってくる。きっと・・パパもママも・・」

 女子生徒、三人が口を揃えた。

                                                 

 “幽霊なのよ!”

「黄泉の国に通う姿を子供に見られたくないのよ」

 咲良がだめ押しした。

「そんなにはっきり言うなよ!」

 匠が悲鳴を上げた。

 ペトロの顔がみるみる青ざめていつた。

・・ペトロのママも、むかしは夜になるとよくガンバを演奏して、ペトロとパパに聞かせてくれた。

でもパパがどこかへ消えた今は、疲れたと言ってはすぐ自分の部屋に消えてしまう。

そうかママは部屋にはいないんだ・・。

「そういえばここんところパパとママと三人で晩飯食ったことないぞ。いつも俺一人だ。俺外して二人きりで黄泉の国で外食なんかしてるのかよ!」

 冗談いって、ごまかしてる裕大の顔色がとても悪い。

「おれのパパは昔からいない。でもママは今でも元気だ! 幽霊なんかじゃないぞ」

 匠の顔が、うるうると歪んできた。

 そして、泣きながら吠えた。

「おれ、幽霊のママなんか、いらんわい!」

「匠、分かってるでしょ。幽霊でもママはママなのよ。魂は本物なのよ」

 エーヴァが泣きながら、匠の肩を抱いた。

 全員が言葉を失って、黙り込んだ。

 教室は静まりかえった。

××
「お前さんたちの両親はここへ来る前に病原体に犯されていたのです。

その上、少しでも食料を残そうとしたのです。

自分たちの肉体を失った後も、黄泉の国と往復しながら、先祖の魂から少しずつ存在のエネル

ギーを分けて頂いて、お前さんたちを必死に育てているのですよ。

そんなパパとママに心から感謝しないといけません」

 教室のどこかから不思議なささやきが聞こえてきた。

 生徒たちは、この声はきっと自分の心の中から聞こえてくるのだと思った。

 真実は、ヒーラーおばさまが教室の隅に隠れて、傷ついた心を癒やすフローラル・ハーブの香りを生徒たちにそっと振りかけながら、小さな声で囁いているのだった。

 ××

「パパやママにはこのまま知らん振りを続けようぜ!」 

 元気を取りもどした裕大が沈黙を破った。

「久しぶりだ! 匠、ペトロ、走ろう!」

 裕大が声を掛けて、教室の窓を乗り越えて校庭へ駆けだしていった。

 匠があとに続いた。

 ペトロがあわてて追いかけていった。

「さー、駆けっこよ!」

 咲良が誘って、エーヴァとマリエの三人も校庭に出た。

「オリンピックよ、私たち六人で走れば、地球のオリンピックになるわよ!」

 マリエがオリンピックの開会を宣言して、午後の厳しい日差しの中を六人は必死に走った。

 ヒーラーおばさまが、誰もいなくなった教室の奥の暗闇から現れて、フッと小さく安堵の溜息をつくと、教室を出て仕事場の医務室にとことこと戻っていった。

 翌日の土曜日、三界会議の日がやって来た。

 生徒たちは会議の様子を探る戦略を決めていた。

 それは優秀な秘密工作員二人を選んでおいて、当日親たちの後を付けて会議の場所に送り込もうというスパイ作戦だった。
 

 一、葉隠れの技で姿を隠せること

 二、小さくて目立たないこと

 三、途中で絶対喧嘩しないこと

 三つの条件からスパイはペトロとマリエの仲良し組に決定した。

「今夜は久しぶりのPTAだから、帰りは遅くなりますよ」

 その夜、ママはペトロを早々にベッド・ルームに追い込むと、家を出て学校に向かった。

 ママの気配が家から消えると、ペトロはベッドを抜け出して葉隠れの帽子を被った。

 自分の姿を玄関の鏡に映して、姿が映らないことを確かめると、ママの後を急いで追いかけた。

 “今夜のママはお化粧も念入りで、とっても素敵に見えた”

 前を行くママの後ろ姿も軽やかで、なんだか宙に浮かんでいるみたいだった。

 学校の近くまでやってくると、先を行くママが校庭の入り口でだれかと出会ったのか、賑やかに挨拶を交わしている。

 相手の声はマリエのママのようだった。

・・そうだ、葉っぱで隠れたマリエがそばにいるはず・・ 

 「マリエ、どこにいる? 僕はここだよ」

 ペトロは小声で囁いて、マリエに見えるように、葉っぱを顔から少しずらした。

 ペトロの顔が暗闇からすぐ目の前に浮かび上がって、すぐ側にいたマリエは跳び上がった。

 二人は危なくぶつかるところだった。

 ペトロはマリエと離れないようにしっかり手を繋いで、ママ達のあとを追った。

 ママたちは正門から校庭に入り、校舎の階段を上って、長い廊下を奥へ進んでいく。

 廊下の片側は使っていない教室が続いていた。

 廊下の突き当たりは校長室になっていて、行き止まりだ。

 どこかの会議室に続くような廊下も階段もない。

 ペトロとマリエは通い慣れた廊下を、ママたちを見失わないように、少し離れて追いかけて行った。

「ママたち、どこに向かってるのかな?」

 ペトロが一人言を言った。

 薄暗く、灯りが届かないところにやってくると、突然マリエが立ち止まった。

「ペトロ、ちょっと待ってね」

 マリエが葉っぱの帽子を脱いで姿を現した。

 そして、廊下の壁にできた小さな破れ目を覗き込んだ。

「そこにいるのでしょ。おいで!」

 穴の中の暗闇から、小さな二つの目が輝いてこちらを見上げた。

 “チチッ!”と鳴く声がして、黒く細長い生き物が穴から飛び出して、マリエの肩に跳び乗った。

 マリエが葉っぱをかぶり直して姿を消すと、ちいさな生き物も葉っぱの影に姿を消した。

「はて? やつは何者?」

 ペトロがマリエに聞いた。

「とっても可愛い秘密のお友達」

 マリエの声がすこし弾んでいた。

「やベー」

 口から出かけた言葉を、ペトロはぐっと呑み込んだ。

・・ちいさな“秘密のお友達”ごときに焼き餅なんか焼いてるのを、マリエに悟られてはならない・・

 じつはマリエの秘密の友達はスペース・イタチだった。

 マリエは、いつの間にか学校に住み着いた宇宙の流れ者“スペース・イタチ”をすっかり手なづけて、マイ・ペットにしていたのだ。

  寄り道してる間に、ママたちの姿がどこかに消えてしまった。

  慌てた二人は廊下の突き当たりまで走っていって、周りを見渡した。

 そこには校長室の古い木製のドア以外には階段も通路もなかった。

 校長室の側には、校舎の外へ出るちいさな扉がついているが、頑丈な鍵がかかっていた。

 廊下を引き返そうかと思った二人の耳に、校長室の中からなにかのこすれる音が聞こえてきた。

 ドアを少しあけて、隙間から校長室の中を覗き込むと、薄闇の中で、ママたちが奥のキャビネットをギシギシと横にずらしていた。

 キャビネットと壁の間に人ひとりが通れるくらいの小さな隙間を作ると、マリエのママとペトロのママは順番に中に入り込んで、姿を消してしまった。

「マリエ、追いかけよう!」

  二人は校長室に飛びこみ、開いたままのキャビネットの隙間をくぐり抜けた。
 

 二人の後ろで、キャビネットがズズーッと勝手に閉まっていった。

 目の前は真っ暗闇。

 マリエがペトロの手をぎゅっと掴んだ。

 暗闇に慣れてくると、目の前は立派な石組みの通廊が緩やかに傾斜して、地下に向かうスロープになっていた。

 前方に薄い灯りが二つ浮かんで、小さく揺れているのが見えた。

「あれって、懐中電灯の灯りかしら、それとも何かが光ってるの?」

 マリエの声が上ずってきた。

「あの大きさは懐中電灯の光じゃないよ、淡くて、大きすぎる。ということはだ・・なんてこった、ママたちは懐中電灯がなくても暗闇が見えてるってことだ」

 ペトロはできるだけ回りくどくマリエの疑問に答える。

「マリエ、こんなこと言いたくないよ。でももう間違いない。僕らがみているのは“ひとだま”だよ」

 ペトロの手を握るマリエの指が震えていた。

・・・

 懐中電灯を忘れたペトロとマリエには周りがよく見えなかった。

 ペトロが右手で壁を手探りしながら、左手でマリエと手を繋いで、一歩一歩確かめる様に回廊を下りていった。

 やがてスロープは終わり、明るい照明に照らしだされた丸い踊り場に着いた。

 ママたちの姿はなかった。

 踊り場は突き当たりになっていて、大きな扉が二つ並んでいた。

 左手には大きくて重そうな、観音開きのドアがあった。

 そこには立派な看板が掛かっていた。

 看板には「国会議事堂」と書いてあった。

(続く)

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この世の果ての中学校 13章 学校の地下室は”国会議事堂”だった!

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下條 俊隆

下條 俊隆

ペンネーム:筒井俊隆  作品:「消去」(SFマガジン)「相撲喪失」(宝石)他  大阪府出身・兵庫県芦屋市在住  大阪大学工学部入学・法学部卒業  職歴:(株)電通 上席常務執行役員・コンテンツ事業本部長  大阪国際会議場参与 学校法人顧問  プロフィール:学生時代に、筒井俊隆姓でSF小説を書いて小遣いを稼いでいました。 そのあと広告代理店・電通に勤めました。芦屋で阪神大震災に遭い、復興イベント「第一回神戸ルミナリエ」をみんなで立ち上げました。一人のおばあちゃんの「生きててよかった」の一声で、みんなと一緒に抱き合いました。 仕事はワールドサッカーからオリンピック、万博などのコンテンツビジネス。「千と千尋」など映画投資からITベンチャー投資。さいごに人事。まるでカオスな40年間でした。   人生の〆で、終活ブログをスタートしました。雑学とクレージーSF。チェックインしてみてくださいね。

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