未来からのブログ6号 “クラウドマスターとのブランチは生牡蠣だったよ!”

僕の名前はタンジャンジャラ。

「ジャラ」って短く呼んでくれていいよ。

 

ところで君の名前はなんていうの?

君、きっとすこし変わってるんだろうね。

 

おじいちゃんのクレージーSF読んで、ジャラともつれてくれてるんだものね。

「ありがとう!」

 

それじゃ、いつものように100年先の未来からブログ送るよ。

・・クラウドマスターと重要会議してるとき、いきなり二人の男が乱入してきた・・っていう話の続きだったよね。

 

前回のストーリーはここからどうぞ読んでくださいね。

 

未来からのブログ5号“皇帝クラウドマスターはクールで可愛い人工頭脳だったよ”

 

未来からのブログ6号 “クラウドマスターとのブランチは生牡蠣だったよ!”

「腹減った~」

「なんだこの匂い、たまらんぞ!」

 

突然の乱入者は、もち、いつもの二人さ。

サンタ・タカシとはさみ男だよ。

 

「やー! ジャラにカーナ、重要会議に遅れて済まない」

サンタ・タカシがそういって、はさみ男がすかさず続けたよ。

 

「ちょっと寄り道しててさ、約束に遅れちまった」

ジャラもカーナも約束した覚えがない。

 

クラウドマスターも、あっけにとられて突っ立ってたよ。

「どうやってあの最高機密のセキュリテイー・ドアこじ開けたのかな?」

 

マスターの問いにシザーマンが軽く答えた。

「俺のブレーン、みくびるんじゃないよ」

 

不気味に光る右手を差し出して、マスターの目の前でチャカチャカはさみ鳴らしたよ。

「シザーマン! あの暗号アルゴリズムが解読できたというのか?」

 

そういったクラウド・マスターが、シザーマンのはさみの先が折れてるのに気がついた。

「シザーマン、大事のはさみの先っぽ、折れてるみたいだぞ。お前、力任せでやったな?」

 

「うっ!」

シザーマンがあわててはさみを隠したよ。

 

サンタ・タカシがソファーに深々と腰掛けて、マスターに偉そうに聞いたよ。

「で・・俺たちのブランチは?」

 

クラウドマスターはクスッと笑って二人分のブランチをテーブルに用意してあげたんだ。

もち、ハマハマとくまもとだ。

 

マスターはサンタ・タカシとはさみ男の二人にはとくべつ優しい。

二人をまるで自分の子供だと思ってるみたいだ。

 

前にもいったけど、デザイナーズ・ベビーのサンタ・タカシはクラウドマスターが親権代理人だよ。

二人のスーパースターのDNAを人工編集して生まれたサンタ・タカシには父親がいないから、サンタ・タカシに事業投資したクラウドマスターが父親になったのさ。

 

それから、ある貧乏なヘヤー・デザイナーが自動運転の車とぶつかって、右手を大けがしたときのことだ。

その車を運転していたクラウドマスターの分身が、自分の身体のコンピューターの一部を使って、応急手当をしたのさ。

 

その手が、ヘヤーカットができる特殊な金属の“はさみ”になっててさ・・・貧乏デザイナーがすっかり気に入ってしまって、はさみそのままにしてシザーマンになったってワケ。

これで生牡蠣出てきたワケ、わかった?

 

「ワインはどちらにする?」

シザーマンがサンタ・タカシに聞いた。

 

「きりりと冷えた白だろうな」

サンタ・タカシが答えた。

 

そしたら、テーブルに白ワインが二つのグラスで出てきたよ。

もちろんマスターの特製・合成ワインだよ。

 

「俺たちのこと気にしないで、会議続けてくれていいよ」

シザーマンがそういったので、ジャラはカーナに確かめたよ。

 

「僕はどこまで話たっけ?」

「盗まれたエネルギーを“過去の世界から取り戻すいい考え浮かんだ”ってとこからよ」

 

「誰がそんなこといった? カーナかな?」

「ジャラよ。とぼけてないでいい考えっての、早く思い出しなよ。それともまた得意の口からでまかせだったっての?」

 

ジャラは思い出した。

口からでまかせをいおうとしたときのことをさ。

 

ジャラはとうとうとみんなに話したよ。

「そうだ、思い出した。僕は良いことを思いついたんだよ。

ジャラはその良い考えをこれからおじいちゃんに伝えることになるのさ。

そうしたら、それがおじいちゃんのブログに掲載される。

そのブログのタイトルは“未来からのブログさ”。 

そのブログはいまから100年前のものだから、クラウド・マスターのデジタル・アーカイブに残ってるはずだ。

マスターにお願いがあるんだ。

アーカイブをひっくり返して探してほしいんだ。

僕の凄い考えはマスターのメモリーの中にかならずある。

頼んだぜマスター!

ジャラの答えは、マスターの頭の中にあるんだよ」

 

どう~? ジャラのこの考え凄いだろ。

全員、感心して口あんぐりしてたよ。

 

その時だよ。

クラウドマスターが瞑想に入ったのさ。

 

古い過去の記録をアーカイブの底から探し出そうとしてたのさ。

「ない!」

 

クラウドマスターが唸った。

「未来からのブログというタイトルは数ページ出てきたが、中身は白紙だ!」

 

マスターが冷たく言い放ったよ。

「ジャラ、口からでまかせ言うんじゃない。

君はまだそのいい考えというのを思いついていない。

思いついてもいない考えが記録に残るわけがない。

時空のパラドックスを馬鹿にするんじゃない。

ジャラ、悪いが、早く思いつくことだな。

でないと思いつくまで今日は帰さないよ。

明日も、あさっても、ずーっと、ずーっと、つらーい残業が続くよ」

 

ジャラは唸った。

だって今日の午後はドリーム・ワールドで、久しぶりに娘のクレアと息子のボブに面会する予定だからさ。

 

今日は帰れないよ? 残業は続くよだって? これじゃ永久にクレアにもボブにも会えない。

そのうちクラウドマスター退場のテーマソングがはじまった。

 

「チャンチャカチャー、ちゃかちゃ~、チャカチャー」

「ずっと残業だって? 悪いのは僕じゃない。エネルギー盗んでるのは過去の人たちだよ!」

 

その時だよ、答えがひらめいたのは・・。

エネルギー返してもらう答えのことさ。

 

凄い答えだよ。

・・残業は過去の人達にしてもらうことにしよう・・だよ。

 

あのね・・ブレーン・ネットワークでワーキングするのってとんでもないエネルギーがいるんだ。

いまも宇宙の総エネルギーを計算してる真っ最中だよ。

 

過去の世界の使いすぎで、僕らの宇宙のエネルギーがとても少なくなったのにさ、いまもまだ過去の世界に盗まれてるんだよ。

すこしは返してもらわなくっちゃね。

 

で、この世の仕事を手伝ってもらうことにするよ。

もち、君にだよ。

 

その代わりにジャラが未来の情報を提供するよ。

おじいちゃんとの量子もつれ使ってこれから毎日送るからさ、情報を参考にして立派な未来作り上げてほしいのさ。

 

これならクラウドマスターも、未来の情報送ることに賛成してくれると思うよ。

・・昔の人、つまり君がOKすればの話だよ。

 

ブレーン・ネットワーキングの仕事の仕方はこれまでずいぶん説明したから、もう理解してくれてるよね。

ジャラの世界の人口なんてすこしかいないけどさ、過去の世界には数十億の人がいるからさ、凄いネットワークができあがると思うよ。

 

それじゃまずクラウド・マスターに話してみることにする。

 

「待ってマスター!」 

ジャラは立ち去るクラウドマスターを呼び止めたよ。

 

そして僕の考えを話した。

・・いまから言うジャラの考えを取り入れたら、エネルギー不変の方程式が完成します。

この方程式は、時空を超えた方程式です。

うまくいけばこの世の宇宙のエネルギー問題もすこしは解決します。

説明しますからよく聞いてくださいね・・

 

ジャラのアイデアを聞いたマスターの表情が晴れ上がった。

「私の宇宙おむつがとれるのなら大賛成だよジャラ!」

 

「宇宙おむつまでとれるかどうかは、過去の人達の熱意次第です。では過去とのもつれを進めてみます」

ジャラはもう得意満面だったよ。

 

カーナが尊敬の目でジャラを見てた。

サンタ・タカシとシザーマンは「ジャラのおかげだ!」って、白ワインうまそうに飲んでたよ。

 

でもさ、気分よかったのはそこまでだった。

「で、ジャラ! 次のおじいちゃんとの連絡はどうするんだね?」

 

マスターに聞かれてジャラのおつむは真っ白になった。

・・次のおじいちゃんとの連絡方法だって?・・

 

「ジャラ、次の連絡はサンドレターだぞ」

昨日の夜、おじいちゃんの言った最後のセリフが聞こえたよ。

 

タンジャンジャラの白い砂を混ぜた七色カクテルの最後の一滴のおかげだよ。

“あのサンドは使い果たした。”

 

・・おじいちゃんと量子もつれするためのサンドがない・・。

ジャラは呟いて、下を向いた。

 

「ジャラいまなんて言った?」

クラウドマスターのクールな一言がジャラを冷やした。

 

「おじいちゃんと話をするためのサンドがない。昨日の夜、全部飲んでしまった」

仕方なくジャラは繰り返した。

 

マスターはさらにジャラを追い詰めたよ。

「ジャラ、一言付け加えると、マスターの計算によれば、昨日のおじいちゃんとの量子もつれは、110年に一度のチャンスだったと言っておこう。

おじいちゃんとジャラのDNAが粒子状でもつれて、お互いに影響を及ぼすのは、太陽と月と時空の関係で110年に一度しかない。

今日以降の時間で、時空を超えてつながるにはその白い砂が必要なんだよ」

 

「タンジャンジャラのサンドがないとジャラはおじいちゃんとつながらない。マスター、どうして昨日のうちにそう言って忠告してくれなかったんだ!」

ジャラはむかっ腹がたって、マスターに噛みついたよ。

 

「ジャラはまたそんな無茶を言う。人工知能が人間にできるのは差し迫った“注意”だけだ。忠告なんて贅沢なものが欲しいときは人間同士でやりとりしてほしいね。わかってて無理いうなよジャラ!」

マスターが珍しい言葉を使ったよ。

 

斜めになったイタリック体のところだよ。

ジャラが感心してマスター見つめてたら、サンタ・タカシがにやにや笑って近づいてきたんだ。

 

「AIと人間の喧嘩はじめてみたぞ。面白いぞ。もっとやれ!」

はさみ男も近づいて来て、なにか言ったよ。

 

「サンドほしいか?」

はさみ男がポケットから折りたたんだ小さなハンカチ取り出してきたよ。

 

「サンドほしいか?」

サンタ・タカシもポケットから折りたたんだハンカチ取り出してきた。

 

ジャラとマスターが同時に大声上げたよ。

「サンドほしい!」

 

ジャラは思い出した。

昨日のことをさ。

 

・・入り江の海、ホットクロス・スポットでの出来事だ。

「それ“量子もつれ”・・か」

 

はさみ男とサンタ・タカシが砂粒を一粒ずつ大事に指に挟んで調べてた。

それからハンカチに包んでポケットにしまい込んだシーンをさ・・。

 

「本物だぞ!」

サンタ・タカシとシザーマンが唸るように吠えた。

 

それからハンカチを開いた。

カーナとジャラとマスターは顔見合わせたよ。

 

二つのハンカチの中で白く輝いていた砂の粒子は・・

合わせてたったの二粒だった。

 

ただちにジャラは決断したよ。

「一粒は今すぐ飲んでおじいちゃんの話の続きを聞く。きっと大事な話が聞けるはずだよ。もう一粒はおじちゃんとの最後の連絡のために取っておく」

 

ジャラの宣言を聞いて、クラウドマスターはあわてて両手を宙に挙げて指先からプラズマを放射したんだ。

中空に白ワインのグラスが一つとストローが五本出現したよ。

 

マスターが指先を下に向けると、ワインの入ったグラスとストローがテーブルの上に静かに着地した。

で、全員が席に着いた。

 

「ワインにサンタ・タカシの一粒入れてくれるかな」

ジャラがサンタ・タカシに頼んで、白い砂のひとかけらがそっとグラスに入れられたんだ。

 

砂がワインに溶け込んだのをみて、五人がストローをグラスに入れた。

顔をくっけながら、ワインを飲んだ。

 

グラスが空になって、五人は顔を見合わせた。

そろそろだ。

 

その時、あのしゃがれ声がみんなの耳に届いたんだ。

 

・・・で、生牡蠣にはなんといっても白だ。

間違っても赤はいかんぞ。

できれば、すこし値段が高いがナパの白“ファーニ××”だ。

冷やし過ぎるなよ・・。

で、ここから××しろよ・・

 

そこで、声が消えていった。

五人は顔を見合わせたよ。

 

「ほらみろ、白が正解だったろ!」

サンタ・タカシが自慢したよ。

 

「”××しろよ”って何の意味かしら」

カーナが口とがらせて聞いたよ。

 

「ワインのブランドだ」

はさみ男が答えたよ。

 

「違うわよ、聞きたいのは“ここから××しろよ”の方よ」

カーナがいったので、ジャラが答えたよ。

 

「ここからのここは最後の一粒のことかもしれないよ。マスター、××の答えを計算して教えてよ」

ジャラがそう言ったらクラウドマスターが明快に返したよ。

 

「”ここから××しろよ”の解釈は宇宙の星の数ほどある。計算はできるが答えは出ない。ここは人間の出番だ! だれか“どて感でいい、答えろよ”

「うーむ・・」

 

ジャラとサンタ・タカシとシザーマンは唸ったが、どて感が働かなかったよ。

どて感が働いたのは、アマゾン出身のカーナだった。

 

「何をうじゃうじゃ言ってるのよ。マスターが自分で答え言ってるじゃない。最後の一粒は飲んでしまわずに“答えろよ”なのよ。手紙でいったら返信覧じゃないの。最後の一粒に返信書けってことよ!」

 

カーナが明快に結論を出してくれて、重要会議はなんとか終わったんだ。

最後の一粒は、はさみ男のシザーハンドからクラウドマスターに慎重に手渡されたよ。

 

「粒子の検査ともつれをほぐすキーワードをみつけるのに二日はかかる。また会議を招集する。ジャラはおじいちゃんへの返信の内容を簡潔に36文字で考えておくこと。それでは解散する。お疲れ様!」

 

ようやくミーティングは終了したよ。

で、ジャラはすぐにスーツマンに命じて、クレアとボブに会うためにドリームワールドへ急いだんだ。

 

二人に会うのは久しぶりだよ。

・・クレアもボブも僕のこと忘れてないか、すこし心配だよ・・

 

(続く)

続きはここからどうぞお読みください。

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【記事は転載を禁じられています】

 

 

未来からのブログ5号“皇帝クラウドマスターはクールで可愛い人工頭脳だったよ”

僕はジャラ。

約束通り、今日も100年前の君に、未来の世界の情報送るね。

 

日記風で、情報量は少しずつだけど我慢して読んでよ。

このスタイルが、日常の風景写してリアルだから、一番良く理解してもらえると思うんだ。

 

それでは「未来からのブログ」に投稿始めるよ。

そうだ、前回の記事まだ読んでない人はここから読んでね。

 

未来からのブログ4号 “ ザ・レストランで三色カクテル飲んで唄ったよ” 

 

未来からのブログ5号“皇帝クラウドマスターはクールで可愛い人工頭脳だったよ”

 

「ジャラジャラ」

「うるせー!」

 

「ジャラじゃら!」

「しつこいぞ!」

 

「ジャラ、お目覚めください。クラウドマスターがジャラとカーナをお呼びです」

スーツマンが僕に起きろと言ってるけど、今朝のジャラはひどい二日酔いだよ。

 

昨日の夜飲んだザ・レストランの七色カクテルと、そのあとのプレーのせいだ。

でもさ、クラウドマスターのお呼びなら、仕方が無い。

 

「うーん!」って唸りながら、ベッドで両手伸ばしたら二つのボデイーにコンタクトしたよ。

「あれッ!」

 

ジャラはスーツマンのボディー着たままで寝ていたよ。

そのうえパートナーのキッカと、フリー友達のカーナもボディーを身につけてた。

 

昨晩は、三人でボディー装着したまま、プレーしたみたいだ。

そんなことできるのかって?

 

そりゃーできるさ。

もともとスーツマンは僕のボデイーを再現したものなんだよ。

 

だから、スーツマンの頭のところに僕が収まったら、昔のジャラが完成するってわけ。

身体を失う前の僕の姿にさ。

 

そのうえ、ボデイーはグレードアップされてるよ。

ボデイーはジャラ専用の自動運転の最高級車みたいなものさ。

 

もち、身体の末端まで人工神経がジャラのブレーンとニューロンでつながってるから、ボディー感覚は最高さ。

滑るようになめらかな動きの感触をシナプスがキャッチするんだ。

 

これって、最高さ!

カーナもキッカも同じ。

 

「あっ、思い出した。ときどきカーナが僕の動きを細かく指導してくれたよ」

・・修正! 右上方13度! とか言ってたよ・・。 

 

わかった?

ひどい二日酔いの原因が・・。

 

きっと・・

おいしいこと二つもしたあとの罰だよ。

 

「カナカナカナ」

「きやっきやっ」

 

可愛い声でスーツレディーがやさしくカーナとキッカを起こしたよ。

で、三人で出かけることにした。

 

良い天気だ。

三人で手を繋いで歩いたよ。

 

ジャラが真ん中だよ。

またあの唄が始まった。

 

「I left my heart  in Sanfrancisco・・」

大きな交差点にやって来て、パートナーのキッカは二人と別れた。

 

キッカは娘のクレアと息子のボブに会いに行くんだ。

二人が「勉強してる」ドリームワールドへだ。

 

月に一度の面会日だから、ジャラも一緒に行く予定でとっても楽しみにしてたんだけどさ、皇帝がお呼びだから仕方が無い。

ジャラとカーナはキッカと別れて、ザ・カンパニーに向かったよ。

 

・・・

「♯チャンチャカチャン、チャカチャー、チャカチャー♭」

ザ・カンパニーの最上階にあるミーティングルームに、いつものテーマソングが響いて、皇帝クラウドマスターが登場した。

 

「二人とも、せっかくの休みのところ急に呼びだしてすまない。・・で、ジャラ、おじいちゃんとの話はどうなった?」

マスターはいきなり攻勢をかけてきた。

 

マスターは史上初めて人類のレベルを超えた人工の知能“シンギュラリティー一号”だからいくら考えても、疲れることが無い。

でも、ジャラは二日酔いだ。

 

この差は歴然だ。

ジャラは大事なおじいちゃんとの固い約束があるから、うかつにマスターと話を進めるわけにはいかない。

 

ジャラは当たり障りのないところから話を始めたよ。

「僕は入り江の海で、おじいちゃんと話をしたよ。量子もつれでコミュニケーションしたから、話は途切れ途切れでわかりにくかった。でも、おじいちゃんは未来のことをとっても心配してたよ」

 

ジャラの予感では、マスターとおじいちゃんの二人は天才と奇才だから、二人の関係式は平行線で、話の折り合いはつかないと思ったんだ。

そのうえ二人ともせっかちで、頑固だからね。

 

「ジャラ、話を早く進めよう。ジャラとジャラのおじいちゃんとの話は、すべて聴こえた。スーツマンが実況中継してくれた。そのあとのザ・レストランの一部始終もだ。だから説明抜きだ。このあとの過去の世界との交渉ごと、つまりおじいちゃんとの話の進め方、ジャラはどうするのか早く答えが聞きたい」

 

予想通り、マスターがいきなり押してきたので、ジャラはすこし引いて、斜めから押し返してみたよ。

「マスター! 僕の話が“聴こえた”と言ってたけど、その言い方間違ってるよ。“盗み聞きした”と言うべきだよ。クラウドマスターがこの世の世界と人類のために、いろんな情報を集めることはとても大事で、必要なことだと思うよ。そのうえ、スーツマンはマスターの身体の一部で情報ネットワークでつながってるから、ジャラの話がマスターに筒抜けだってことも知ってる。でもさ、いやなことはいやなんだ」

 

マスターが黙ってしまったので、ジャラは続行したよ。

「マスター、ジャラの気持ちわかってくれる? まさかそのあとの僕とカーナとキッカのプレーまで聴いた・・なんてことないだろうね?」

 

そしたらだよ、マスターの顔が赤く染まったのさ。

人工頭脳に年齢はないけどさ、ジャラに言わせたら、マスターの感情線は人間の高校生ぐらいかな。

 

どう~? マスターって可愛いだろ・・?

・・聴いてたんじゃなくて、感じてたんだよ・・

 

その時だよ、ジャラのお腹が“グーッ!”て鳴ったのさ。

そしたら釣られたみたいにカーナのお腹も“クーッ”てちいさな音を立てた。

 

僕たち一級頭脳労働者は身体を使わないので朝食を取らないけど、今朝はずいぶん歩いて来たので、お腹が減ったみたいだ。

次の瞬間、僕とカーナの前のテーブルに、銀の皿に載せられた二品が、ナイフとフォークと共に差し出されたよ。

 

「盗み聞きしたこと、これでチャラだよ。ジャラ」

マスターがすまし顔で言ったので、よく見たらそれ生牡蠣の形してたんだ。

 

「ハマハマとくまもとのブランチだよ。サンフランシスコの名物、生牡蠣って、一体どんな味か、レシピ調べて作ってみたんだ」

 

マスターが勧めるので、僕とカーナは遠慮無く頂いたんだ。

舌の上で転がしたら、濃厚なソースが絡まって絶品だったよ。

 

最後は、のどごしでつるりと、とろけたよ。

流石、マスターが僕らのために用意してくれた手作りの二品、合成品だけど凄い技に感動したよ。

 

宇宙皇帝のピュアー・エネルギーを吸収して、二日酔いがどこかへ飛んでった。

「で、ジャラ、急がせて悪いが、早く結論を聴きたい」

 

ジャラのブレーンが一気に動き始めたよ。

「マスター! この話ぐるぐる回るから良く聴いてよ」

 

ジャラは紙ナプキンで口のまわりについた生牡蠣のソースをきれいに拭った。

それから、頭に浮かんだことを整理しながら話した。

 

「始めるよ」

・・おじいちゃんは、未来の情報が欲しいと言ってる。

それで、僕は現在の僕の日常を少しずつ切り取って、おじいちゃんのブログに投稿しようと思う。

 

“未来からのブログ”と言うタイトルだよ。

投稿の方法はこれから考えるところだ。

 

ところが、この間、宇宙基地のクラウド情報センターで、たまたま過去のブログ集をライブラリーでみてたらそのブログが既にあった。

ただし記事の大部分が白紙のままになってた。

 

多分空白のところをこれからジャラが埋めて書くんだと思う。

ジャラが日常を書いておじいちゃんに送る。

 

おじいちゃんはそれを読んで、未来への対策を立てると言ってるんだ。

おじいちゃんの世界は、人間がエネルギーを使いすぎて、地球がだんだん熱くなってるって言ってたから、その対策だよ。

 

つまり記事をネットに公開して、未来への警鐘を鳴らしたいんだと思う。

このままだと、こんな未来になっちゃうぞ!って言いたいわけだ・・。

 

「ここまでの話、マスターは理解できる?」

「理解できるが、問題が山ほどある」

 

クラウドマスターはそう言ってジャラを見つめた。

「次はジャラが聞いてくれる順番だぞ」

 

・・この世に世界は山ほどある。

 

ジャラやマスターのいるこの世界Aもそのうちの一つにすぎない。

ジャラが昨日量子もつれで話したおじいちゃんのいる世界Bもそのうちの一つに過ぎない。

 

山ほどある世界を繋いでいる時空の穴も山ほどある。

エネルギーの法則で計算すると、世界Aは世界Bとブラックホールからワームホールを通じてお互いにつながっている可能性がある。

 

昨日の計算で私たちの世界Aからは大量のエネルギーが減少し、おじいちゃんの世界Bではエネルギーを大量に使いすぎてるという現実が確認されたからだ。

つまり過去の世界Bが未来の世界Aのエネルギーを先食いしていると言うことだ。

 

言い換えれば盗んでいると言うことになる。

この世の世界は無数のブラックホールとワームホールでつながっているから、エネルギーをお互いに”食い合い”しているわけだ。

 

世界は無数にあるから、マスターが認識できる世界観にも限度がある。

宇宙センターのスパコン・シンギュラリテイー一号・・つまり私のことだが・・にも計算の限度があると言うことだ。

 

ジャラが世界Aの情報を投稿して、おじいちゃんの世界Bがそれを参考にして、未来を軌道修正したとしよう。

世界Bの将来は修正されるとしてもだ、そのことが我々の世界Aにどのような影響を及ぼすのかが計算できない。

 

二つは平行世界だから、世界Bが省エネしたからと言って、世界Aの現状を改善するとは思えない。

今から盗まれるエネルギーは減るかも知れないが、我々の現状を変えるまでには至らない・・。

 

マスターがジャラに頼みたいのは、今後のことでなくて、盗まれたエネルギーを過去の世界Bから取り戻して欲しいと頼んでいるんだ。

と言うことで、マスターは、ジャラが“未来からのブログ”に投稿することは許可するが、それからどうすれば良いのかわからなくて、今“すさまじく悩んでいる”。

 

「ここんところ“流石の”クラウドマスターも計算できない領域に入るから、エネルギーを取り戻すための計画について、ジャラの“どて感”を聞かせて欲しい」

 

・・・

凄いだろ、宇宙皇帝クラウドマスターがジャラの考えを聴いてきたんだぜ。

クックッ! シンギュラリティー一号は悩むと言語中枢が乱れてくるんだよ。

 

イタリックで斜めに発音してるところだよ。

シンギュラリテイー一号はまだ思春期の成長過程にあるんだよ。

 

感情曲線でいえば僕の娘のクレアと同じくらいかな。

そうだ、ミーテイング早くフィニッシュしてクレアとボブに会いに行こう。

 

極秘だけれどさ、ボブにはおじいちゃんの量子もつれ遺伝子DNAを仕込んであるんだ。

ジャラはクレイジーSF書いてる爺ちゃんの末裔だからさ、そのくらいの技は持ってるのさ。

 

「ジャラジャラ! なに考えてる。また他のこと考えてるな」

スーツマンが警告してきて、ジャラは正気に戻ったよ。

 

「過去からエネルギーを取り戻す良い考えがあるよ!」

いつものように、“口からでまかせ”を考えついたときのことだ。

 

会議室のドアが外側からこじ開けられて、怪しい男が二人乱入してきたんだ。

 

(続く)

 

この続きはここから読んでくださいね。

https://tossinn.com/?p=1946

 

 

【記事は無断での転載をクラウドマスターから禁じられております】

 

 

未来からのブログ4号 “ ザ・レストランで三色カクテル飲んで唄ったよ” 

僕の名前はタンジャンジャラ。

「ジャラ」って呼んでくれていいよ。

 

ジャラは君の時代から100年くらい先の2119年の世界にいるよ。

じつはこの世界からどんどん宇宙のエネルギーが盗まれてるんだ。

 

宇宙にエネルギーがないと生命は維持できないよ。

このまま行くと僕たちこの宇宙の生命体はみんな干上がってしまう。

 

エネルギーを盗んでるのは一体誰だ?

 

クラウドマスターから調査を依頼された僕とカーナの答えは、「犯人は過去の世界」だってことになった。

つまりさ、犯人は今もこのブログを読んでる君たちだってことなんだ。

 

どうしてそんなことわかったのかって?

そりゃ、今日の午後、海の入り江でとっしん爺ちゃんと「量子もつれ」で会話したからだよ。

 

海の入り江は僕とおじいちゃんを結ぶ時空のホットポイントだったのさ。

おじいちゃんのいた場所はマレーシアの秘境リゾート、タンジャンジャラだ。

 

そうだそこが僕の名前のルーツさ。

そのリゾートで、お爺ちゃんの遺伝子が、将来僕の遺伝子と「量子もつれ」の状態になるようにおばあちゃんに仕込まれていたんだよ。

 

それじゃ、おじいちゃんとの「量子もつれ」を使って、時間と空間を超えたテレポーテーション、つまり君との遠隔ブログ始めるね。

僕とカーナとはさみ男とサンタ・タカシの四人でこれからザ・レストランで対策会議するから、話の内容を君にどんどん報告するよ。

 

そうだ前回の報告まだ読んでない人は、ここから読んでくださいね。

未来からのブログ3号 “ 時空の入り江でおじいちゃんと量子もつれしたよ”

 

未来からのブログ4号  “ ザ・レストランで三色カクテル飲んで唄ったよ”

 

「おれ、まず納豆でビールだ!」にやにや笑いながらタカシの声が言った。

「納豆は大嫌いや、おれはらっきょで赤ワインや」サンタの声が言い返した。

 

サンタ・タカシが両手で自分の頭をぼかぼか叩いた。

未来居酒屋「ザ・レストラン」での出来事さ。

 

この状態、つまりサンタとタカシの遺伝子組み合わせたデザイナーズ・ベビー「サンタ・タカシ」の中で二つの遺伝子が喧嘩してるんだ。

君、知ってる?

 

浪速の芸人サンタは納豆が苦手で、お笑い芸人のタカシはらっきょが大嫌いだったってこと。

サンタ・タカシは二つの遺伝子の好き嫌いが激しくて、いつも喧嘩だよ。

 

サンタは子供の頃、毎朝大嫌いな納豆が出てくるので、家出までしたんだよ。

タカシはらっきょとエスカルゴが“オエー!”だったんだ。

 

食事の前のいつもの一人掛け合いセレモニーだ。

でもさ、100年後の今じゃ、納豆もらっきょうも超高級品で滅多なことでは手に入らないよ。

 

それじゃサンタ・タカシは何食べたのかって? 

決まってるじゃん。

 

タカシの好物ウナギどんぶりと、サンタの好物サンマどんぶりだよ。

一つずつ取って仲良く分けて食べたのさ。

 

もち、サンマもウナギも地球上から姿消したから、ザ・レストラン特注の金星ウナギと火星サンマだ。

クラウドマスターの生命エネルギーから作った人工ものだから、栄養はたっぷりだよ。

 

はさみ男は、宇宙牛の特大霜降り人工ステーキ注文して、ナイフの代わりにはさみ振り回してがっついてたよ。

「ギャッ!」って悲鳴上げたから、驚いて見たら、あいつあわてて自分のシザーで逆の手を切って、指から真っ赤な血が出てるんだ。

 

ついでにその血をうれしそうにステーキにドロップして、そこんところ切り取ってうまそうに食ってたよ。

「俺のステーキ、ソース自家製」とか言ってにやにや笑ったよ。

 

僕とカーナはボデイーを持たない一級頭脳労働者だから、ステーキみたいな下品なものは一切食べないんだ。

純粋のエネルギーでできた青と緑と黄色の三色カクテル、特大グラスを一つ注文して、二人で仲良くストローしてたよ。

 

三色が鮮やかな光の粒子となって、グラスの中で泳いでるんだ。

ジャラは青、カーナは緑を選んでストローで吸い込むんだ。

 

ジャラとカーナのほっぺたくっついて・・楽しいよ。

 

そしたらそこへ嫁のキッカが現れた。

嫁のキッカはエライ剣幕で到着したよ。

 

「カーナ!」って呼びつけて駆け寄ってきたんだ。

「キッカ!」カーナも名前呼び捨てだ。

 

カーナが椅子から跳び上がってキッカに飛びかかっていった。

可愛いレディー二人でジャラ奪い合いのとっくみあい始まるのかと期待したんだけどさ、予想は外れた。

 

嫁のキッカが、カーナのヘッドをやさしく開けて、ブレーンの匂いを嗅いだのさ。

「ジャラとしたのね?」

 

「したわよ」

カーナが答えた。

 

「で、どうだった?」

キッカが聞いた。

 

「まずまずってところだったわ。特に注意点はないけどさ、クロスポイントがすこし右にずれる。的外れってやつ。そこんところさえ修正できたら、大丈夫よ」

「わかった。悪いけど、ジャラを指導して修正しといてくれる?」

 

「良いわよ、次の機会にね」

カーナが答えてキッカと二人で長ーいハグが始まった。

 

「○○ッ××」(アマゾン奥地の原住民イゾルデの言葉)

「××っ○○」(アマゾン奥地の原住民イゾルデの言葉)

 

ジャラには二人の会話は理解不能だ。

多分、久しぶりの再会をアマゾンの森の神様に感謝している言葉だと思う。

 

二人はアマゾンの奥地で自然と融合して暮らしてたイゾルデの末裔で、二人は実の姉妹なんだ。

カーナはイゾルデの言葉で森のおさるさん、キッカはイゾルデの言葉で森のキツツキのことだよ。

 

アマゾンの自然が崩壊し始めた頃、二人はクラウドマスターに助けられて、宇宙センターの管理下にあるここへ逃げ延びてきたってわけ。

宇宙基地の難民管理センターにいた僕は二人と会って三人同時に一目惚れしたんだ。

 

これ運命ってやつ。

 

姉のキッカと僕はセンターにパートナー登録して、妹のカーナと僕はフリーの関係になったのさ。

・・で、キッカは僕の横に座って、彼女に残しておいた三色カクテルの最後の黄色をチューし始めたよ。

 

ジャラは二人に囲まれて幸せいっぱいになっていった。

カクテルのアルコールが脳のシナプスを気持ちよく循環し始めたよ。

 

そのうち、今度チャンスが来たら、絶対あれしたいな、と思った。

どれだって?

 

あれだよ、あれ、仲良く三人だよ。

良い気分になってきたのに、ジャラの妄想はシザーマンにもろくも破られた。

 

「それじゃ、打ち合わせ始めよう」

ビール二杯ででっかい宇宙ステーキ平らげたはさみ男が、ジャラジャラとシザー鳴らして立ち上がったんだ。

 

「どこからだっけ、ジャラ! 忘れちまったよ。海の入り江で、お前のおじいちゃんが何言ったのか、も一度聞かせてくれよ」

 

「カクテル飲み干すまでちょっと待ってよね」

ジャラはそう言って、三色カクテルのグラスの底をミキシングしたんだ。

 

それまで三人で上手に飲んでたから、きれいに青と緑と黄色に別れていた液体が、混ぜ合わされて色が変わった。

 

何色になったと思う。

オレンジだと思うでしょ。

 

違うんだ透明な白だよ。

これ光カクテルだから白になるんだよ。

 

美しいでしょう?

色はおいといてさ、お味の方だけど・・混ぜ合わせてどうなったと思う。

 

三人の唾液が絶妙にブレンドされてさ、恍惚のトリプルプレーの味だ。

・・あれ、いつの間にかジャラは立ち上がって唄ってたよ。

 

「♯心残りのプレーだもの、キッカとカーナの思い出にしたいよ♭」

思い出のサンフランシスコのメロデイーに乗せて唄ったよ。

 

キッカとカーナも一緒に歌い出した。

きみはこの曲、知ってる?

 

150年前の懐メロだよ。

「I left my heart in San Francisco」

 

どうして替え歌の舞台はサンフランシスコなのかって?

サンフランシスコにゲイが集まる有名なレストランがあってさ、そこのフリー・バーの牡蠣ってカーナやキッカみたいな素敵なレディーが大好きなお味なんだって。

 

「♯ハマハマ~、くまもと~♭」

この二つ、バーで出てくる、日本原産の小ぶりで引き締まった牡蠣のことだよ。

 

ジャラは食べたことないけどさ、きっと、ぷりぷりで、のどごしつるりだよ。

僕の可愛いキッカやカーナみたいにさ。

 

これみんなおじいちゃんの話さ。

気持ちよく歌い終わって座り直した僕のブレーンから触手のシノプスが伸びてカーナとキッカの可愛いニューロンに向かったよ。

 

「ジャラ、何妄想してる!」

サンタ・タカシの声でジャラは正気に戻った。

 

「では整理してみよう」

ジャラは潔く立ち上がって、会議のスタートを宣言した。

 

僕は海の入り江でつながった、おじいちゃんとの最後の会話を思い起こした。

「『未来の情報が知りたい』これがおじいちゃんの最後のセリフだったよ。

おじいちゃんは、きっと未来のことが心配だったんだと思うよ・・。

僕の爺ちゃんはどんな未来の情報が知りたいのかな? 

シザーマンはどう思う」

 

「そうだな、ジャラのクレージー爺ちゃんだからな。

競馬の勝ち馬聞いて金儲けしたいわけじゃなし。

ノーベル文学賞の小説、ストーリー聞いて盗作する気でもなさそうだし。

つぶれる国の名前聞いて逃げ出すのかな。

地球に逃げ出すとこなんてどこにもないのにな」

 

シザーマンが一生懸命考えながら、はさみならして答えてくれたよ。

「そうだ、お前の爺ちゃん、ジャラのこと心配してるんだよ。お前がどんな暮らししてるか知りたいのじゃないか?」

 

じゃらも一生懸命考えてた。

量子もつれを利用して、おじいちゃんが僕に何をして欲しいのかってことをさ。

 

僕はみんなに考えを述べたよ。

・・一つ、クラウドマスターは僕に過去からエネルギーを取り戻す方法を見つけ出せといった。

二つ、おじいちゃんは未来の僕を心配して、未来の情報をよこせといった。

三つ、カーナも過去のママとつながりかけた。

 

三つのことが今朝から同時に起こったんだよ。

これ単なる偶然とは思えないんだ・・。

 

「そうだよ、これ、おじいちゃんが僕に仕掛けた量子もつれのおかげで、過去と現在と、おじいちゃんと僕と、カーナとカーナのママと、もしかしたら未来までもつれ始めてるんだ」

未来まで”・・自分の言葉にジャラは不安になってきた。

 

「ジャラ、聴きたいことがある。よく考えて答えろよ。さっきお前“思い出のサンフランシスコ”唄ってたな。あのメロデイーどこで覚えたんだ?」

サンタ・タカシがいきなり、怖い顔して僕に質問したんだ。

 

「決まってるだろ。おじいちゃんのブログだよ」

「そのブログどこで見たんだ」

 

「管理センターのアーカイブ、電子図書館からネット検索して見つけた」

「いつのことだ」

 

「この間だよ、たしか『とっしんの雑学ルーム・未来からのブログ』ってタイトルだったよ。中身は白紙でこの歌だけ聞こえたよ」

「ジャラ、そのタイトル『未来からのブログ』だったのか?」

 

「そうだよ。『未来からのブログ』さ、きっとおじいちゃんの創作SFだと思うよ」

「ジャラ、待てよ。それもしかしてだ・・。お前がこれから過去に向かって投稿するブログじゃねーのか? 爺ちゃんとの量子もつれ使ってだ」

 

サンタ・タカシの言葉がジャラのブレーン突き抜けていったよ。

・・そういえばあの歌声、僕の声に似てた・・

 

ジャラは震えたよ。

すこし考え込んで、思いきった結論を出した。

 

「サンタ・タカシのいうとおりだ。ブログで唄ってたのこの僕だ。とすると・・僕はいつか近いうちに、あのブログ書くことになるんだと思う」

「ジャラ、早く書けよ。早く書いてそのブログに届けないといかんぞ。でないとお前の存在が消滅するぞ。ジャラのこと俺マジ心配してるんだ」

 

ジャラは驚いて自分のブレーンに触ったよ。

大丈夫だった・・僕のブレーン、まだ消えずに、ちゃんとついてたよ。

 

安心したジャラはサンタ・タカシの親切に御礼を言ったよ。

でもその時だよ、シザー打ち鳴らす音が近づいてきたのは。

 

「おっかしーんじゃねーの。その話」

はさみ男がしゃがれ声で割り込んできた。

 

「ジャラもサンタ・タカシも、その話、つじつま合わねーぞ。

ジャラまた嘘ついてるな。男どおしで嘘ついたら、あそこちょん切るぞ! 

まず第一にだ、ジャラが150年前の“思い出のサンフランシスコ”なんて古い曲、唄えるはずないじゃないか」

 

ジャラはシザーマンの言い方にむかっときたよ。

「僕が歌ったのを昔のブログで聴いてさ、それを僕がもう一度ブログに投稿して、ぐるぐる回ってどこがおかしいんだよ?  僕のいうことまた疑ってるのかよ」

 

「じゃ、いってやろう。お前一番最初どこからこの歌のメロデイー聴いたんだ。ブログに投稿する前にどこかから聴いてないと唄えない筈だろが・・」

 

はさみ男の目がつり上がってきた。

ジャラも確かにこの話のどこかがおかしいことに気がついた。

 

「一番最初がないみたいだ。僕は誰からもこの曲きいた覚えがない」

なのに、僕は爺ちゃんのブログに歌のタイトル書いて・・そのうえ唄ってる。

 

「時空のパラドックスよ! あり得ないことが起こってるのよ」

酔いの回ったキッカとカーナがそう言って、また思い出のサンフランシスコのメロディー唄い始めた。

 

・・はさみ男のいうとおりだ。パラドックスだ。そのうえどうしてキッカとカーナまでこのメロディー知ってるんだ・・

はさみ男に凄いこと指摘されて、ジャラは深く考え込んでしまったよ。

 

・・パラドックスのはじまりはどこだ・・。

「I left my heart in  San Francisco」

 

ジャラはもう一度唄ってみた。

僕は、どこかでだれかから、この歌のメロデイーとセリフを受け取ったはずだ。

 

それもごく最近のことだ。

しばらく考えて、ジャラはすべてを理解したよ。

 

「あっ! わかった、サンド・レターだ!」

ジャラは大声で叫んだよ。

 

「答えは、おじいちゃんが海の入り江で僕に手渡してくれたタンジャンジャラの白い砂だ。

あの砂はおじいちゃんから僕へのテレポーテーションだ。

白く光ってた粒子の中におじいちゃんからの情報が詰まってたんだよ。

僕の掌に残ってた最初の一粒が、グラスを持ったとき、三色カクテルの中に混じり込んだ。

そしてグラスの底に落ちた。

ミキシングしてカクテルに溶けた一粒・・それが“思い出のサンフランシスコ”だよ」

 

キッカとカーナが一緒に歌った理由がわかった。

ミキシングしたカクテルを二人もチューしたからさ。

 

白い砂はハンカチに包んで、僕のポケット・・つまりスーツマンのポケットに大事に治めてあるよ。

でもどうしておじいちゃんの大事の手紙の出だしが「思い出のサンフランシスコ」で「生牡蠣のハマハマ~と、くまもと~」なんだろう。

 

「ククッ!」ジャラは思わず笑ったよ。

この曲おじいちゃんのテーマソングで、生牡蠣も好物なんだ。

 

生牡蠣と女性と・・ぷりぷりでのどごしつるりが大好きなんだ。

これ、おじいちゃんからジャラへの御挨拶なんだ。

 

ジャラの趣味もおじいちゃんと同じだよ。

このテイスト、僕感動したよ。

 

「何ほくそ笑んでるのよ?」

キッカとカーナのブレーンにそっと伸びた僕のシナプスの先端を二人がきつくつねったよ。

 

・・それから僕ら五人がどうしたか、答えはわかるよね。

 

僕はポケットから白い粒子を包んだハンカチを取り出した。

次に5人用の特大カクテルとストローを五本注文した。

 

白い粒子を5分の1程、カクテルにそっと注ぎ込んだ。

正しくミキシングをして、五人で仲良くチューした。

 

そしたらおじいちゃんの声がみんなの耳に届いたよ。

「ジャラ元気にしてるかな? 可愛い彼女はできたかな? ハマハマか、くまもとかどちらかな? 子供はできたかな? 俺のひ孫に会いたいな」

 

サンド・レターの出だしのコメントが終わって、静かになったから、カクテルをもう一杯注文して、白い粒子の5分の1を注いだ。

正しくミキシングして、五人で仲良くチューした。

 

そしたらおじいちゃんの声が脳に響いたよ。

「俺たち、地球のエネルギーを使いすぎだと思う。これから生まれて来る君のことが心配だ。そうだ、ジャラの世界を詳しく教えて欲しい」

 

特大カクテルでジャラのお腹はチャプ、チャプして燃えてきたよ。

もういっぱい注文して、白い粒子の5分の1を慎重に注いだ。

 

ミキシングして、五人で仲良くチューした。

「つまりだ、未来のために俺にできることを教えて欲しい。そうだ、ブログ始めた。これ俺の唯一の武器だ。これとジャラを量子もつれさせようと思う。未来と過去とのクラウド・ネッワークだよ。ジャラ、どうだ」

 

僕の世界が回り出したよ。

~カクテルをもういっぱいちゅうもんして、のこりのりゅうしをぜんぶそそいだよ~

 

~手が震えたけどなんとかミキシングして、三人で仲良くチューしたよ~

~はさみ男とキッカはぶっ倒れて、床で抱き合ってたみたいだよ~

 

おじいちゃんの声がしたよ。

「世界に拡散したいから、できたらリアルな映像欲しいな。無理ならコメントでいい。方法はわかるよな・・サンド・レターだよ~・・」

プツンといって、声が消えていった。

 

そのあとのことはよく覚えてないんだ。

酔っ払ったはさみ男とサンタ・タカシをザ・レストランに残して、ジャラのスーツマンとカーナとキッカのスーツレディーが僕らを家まで運んでくれたみたいだ。

 

気がついたら、いつものベッドで右にキッカが左にカーナがいたよ。

そのあとのこともよく覚えてないんだ。

 

でもさ、キッカとカーナとジャラは唄ってたみたいだよ。

「I left my heart in San Francisco」

 

シノプス伸ばして仲良くニューロン絡ませながら三人で唄ってたみたいだ。

(続く)

 

続きはここから読んでくださいね。

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《記事は無断転載を禁じています》

 

 

未来からのブログ3号 “ 時空の入り江でおじいちゃんと量子もつれしたよ” 

僕の名前はタンジャンジャラ。

みんなは「ジャラ」って呼ぶよ。

 

変な名前だって?

でも、僕は気に入ってるんだ。

 

じつは、この名前に僕のルーツが隠されてるんだ。

僕たち四人は今、海と山の両方が見える入り江に向かって、走ってる。

 

そこが僕のルーツとクロスする時空のホットポイントなのさ。

入り江についたら、きっとなにかが起こるよ。

 

そして君と僕がこのブログで《量子もつれ》始めた理由が明らかになるんだ。

 

《量子もつれ》はわかる?

僕も原理はよくわからないけど、「アインシュタインも信じられなかった“奇妙な遠隔作用」テレポーテーションのことだって、クラウドマスターが言ってたよ。

 

それじゃ、時間と空間を超えたテレポーテーション、遠隔ブログ始めるね。

 

前回の話まだ読んでない人は、ここクリックしてくださいね。

未来からのブログ2号「今日はザ・カンパニーでとなりのカーナと浮気したよ」後編

 

未来からのブログ3号 “時空の入り江でおじいちゃんと量子もつれしたよ” 

 

「ジャラジャラ! ただ今目標に到着!」

スーツマンが気持ちよく昼寝していた僕をたたき起こした。

 

「カナカナ~ 入り江ですよ・・」

スーツレディーがやさしくカーナを揺り起こした。

 

「イエーイ!」

サンタ・タカシとシザーマンが僕とカーナの肩の上から飛び降りた。

 

僕たち四人は、仲良く並んで入り江の奥の絶景ポイントから、夕暮れの海と山を交互に眺めたよ。

陽が傾いて、海の上の太陽がおおきく膨らんでた。

 

夕陽に照らされて、山の斜面が赤く染まっていったよ。

しばらくすると、山につながる近くの木立が、騒ぎ出したんだ。

 

“ざわざわ”って熱い風が山から吹いてきて、カーナの頬を撫でた。

「そろそろ来るわよ!」カーナが悲鳴みたいな声をあげた。

 

海を見ていた僕は驚いてカーナを振り返った。

カーナはどんな小さな動きも見逃さないように、身じろぎもしないで山を見ていたよ。

 

熱い風にカーナの髪の毛が揺れてた。

背中は夕陽に照らされて、赤く燃えてた。

 

しばらくして、カーナの後ろ姿が細かく震えだしたんだ。

「来たわね、私を呼んでるのね」

 

そう言って、カーナが両手を山の方に突き出した。

誰かの手をつかみ取るみたいにだよ。

 

その時だよ、夕陽が海に落ちたのは。

ふくれあがった夕陽が水平線に消える一瞬、海と山が真っ赤に燃え上がったんだ。

 

カーナのスーツが飛び散って、ボデイーがあらわになった。

背中の白い肌が、夕陽を映して燃え上がるようだったよ。

 

カーナの必死に伸ばした手が、なにかをつかむのが見えた。

「ママ・・ママなの?」

 

カーナの泣き出しそうな声が、風に乗って僕のブレーンに直接響いたよ。

その時だよ、真っ赤な海が僕を呼んだ。

 

「ジャラ、俺だ! 手を出せ! ジャラ、俺の手をつかむんだ」

 

僕の頭の中で、あの声が聞こえたんだ。

朝と昼に聞こえたのと同じ、懐かしい声だ。

 

ジャラはスーツを脱ぎ捨てて裸になった。

そして波に向かって両手を突き出した。

 

昔、本当の手があったときの感触を思い出して、スーツマンの手を思い切り伸ばしていた。

 

そしたらさ、波が手の形になって僕の両手をつかんだんだ。

ジャラも波でできた手を、必死でつかんだよ。

 

差し出された手は熱く燃えていたよ。

「よくやったぞ、ジャラ。俺が誰だかわかるか?」

 

波がそう言った。

ジャラにはその声の主が誰だかすぐにわかった。

 

「おじいちゃんでしょ」

ジャラにはわかったのさ。

 

・・こんなおかしなことできるのは僕のおじいちゃんに決まってる・・

おかしなブログにクレージーSF書いてたおじいちゃんだ。

 

「ジャラ、大あたりだ。こちらおじいちゃんだ! お前に仕掛けておいた“量子もつれ”・・大成功だ! 聞こえるかジャラ?」

「聞こえたよ、おじいちゃんの声。今どこから騒いでるの?」

 

「驚くなよ、こちら100年前の世界だ! 

場所は“タンジャンジャラ”だ。

海と山に囲まれたマレーシアの秘境だぞ。

お前のおばあちゃんと一緒にやって来た。

ここでお前のママを仕込んだんだよ。

昨日の夜、ベッドで、俺のDNAに隔世遺伝で量子もつれするように、ちょっとした細工しといたんだ。

よく聞いてくれ! 

じつはお前に頼みがある。

未来の世界の情報が欲しい・・○○××・・」

 

声に少しずつノイズが混じりだした。

「おじいちゃん、聞こえにくいよ。もつれが外れるよ」

 

「ジャラ、、お前のDNAが量子もつれの受発信装置だ。俺のブログと未来のジャラがテレポーテーション・・○○××・・」

・・ざざー、プツン・・といっておじいちゃんの声が消えていった。

 

僕の手の中から、おじちゃんのなんだか“ざらざらした”手のぬくもりがどこかへ消えてしまったよ。

気がつくと、夕陽が水平線に消えて、日暮れが近づいていた。

 

「誰と話してたの?」

遠くからカーナの声が聞こえてきて、僕は我に返ったよ。

 

「僕のおじいちゃんだ。ジャラの生まれるずっと前の若いときのおじいちゃんだよ」

目の前にカーナの顔があって、その目が潤んでいたよ。

 

「ジャラはおじいちゃんと“もつれ”に成功したのね。カーナはもう少しのところで切れちゃった。あれ間違いなくママの声だったのに・・」

 

悔しそうなカーナの声を聞きながら、ジャラは考えたよ。

・・おじいちゃんの言いかけた“俺のブログ”とテレポーテーションって、どういう意味かって・・。

 

「さっきから、二人ともなにをぶつぶつ言ってんだよ。いきなり人前で服脱いでよ、いつの間にかまた服着てるじゃないか。一瞬の間に二人でなにかいいことしたな?」

サンタタカシが疑わしそうな顔して、ジャラとカーナの顔覗き込んだ。

 

「ジャラ、お前、“おじいちゃん”とか言って、海に手を突き出してたぞ。あれなんの真似だ? 過去とつながって、おじいちゃんと話してたなんておおぼら吹いたら、このはさみが許さねーぞ!」

はさみ男がシザーハンドを僕の顔の前でチャカチャカ揺らした。

 

ジャラは仕方なく疑い深い二人に証拠の品を見せたよ。

「ほら、これ見てよ」

 

僕は両手を上に向けて、掌をゆっくりと開いた。

両方の掌の上に、透き通るような真っ白い砂粒が残ってたんだ。

 

細かい砂粒が夕陽の残照を浴びてきらきら輝いてたよ。

「おじいちゃんの“手土産”。これタンジャンジャラの浜の砂粒だよ。僕の名前の由来の場所、マレーシアの秘境だ。多分ここと同じ海と山の交差点、ホットクロス・スポットさ」

 

「それ“量子もつれ”・・か」

はさみ男とサンタタカシが砂粒を一粒ずつ大事に指に挟んで調べた。

 

「本物だ!」

二人が唸るように吠えて、それから頷いた。

 

そりゃそうだよ、僕たちの前に広がる入り江の浜の砂粒ときたら、茶色や赤茶色それに黒っぽい灰色しかないもんね。

白い砂浜と白い砂粒なんて、いまはネット漫画の世界でしか見られない宝物だよ。

 

「で、これからどうしよう?」

ジャラはカーナとサンタタカシとはさみ男に今後のことを相談したんだ。

 

“うーん”サンタタカシが唸りながら答えた。

「腹減った。どっかでめしにしようか?」

 

「そうだキッカ姉さんも呼ぼうよ。ジャラとキッカ姉さんの夜食を強奪したお二人のおごりでね」

カーナが最後を仕切って、四人はスーツマンとスーツレディーに分乗して帰途についたんだ。

 

カーナは走りながらジャラにいろいろ質問してきたよ。

「さっきの話だけど、おじいちゃんのブログをジャラは読んだことがあるんだって?」

 

「そうだよ。タイトルは“未来からのブログ”さ。昔のネットのアーカイブから読んだことがあるんだ。でもさ、いまわかったよ。・・あのブログは僕が書いたんだ」

ジャラがそう言った。

 

「おじいちゃんのブログをジャラが書いたって、どういう意味なの・・なんの話?」

カーナが不思議そうに聞いたので、ジャラは正直に答えたよ。

 

「これから僕が書くブログの話だよ」と。

・・そうさ、いま君が読んでるこのブログのことさ・・

 

 (続く)

 

続きはここから読んでくださいね。

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《記事は無断転載を禁じられております》

未来からのブログ2号「今日はザ・カンパニーでとなりのカーナと午後の浮気したよ」後編

僕の名前はタンジャンジャラ。

「ジャラ」って、短く呼んでくれていいよ。

 

今は2119年、僕はクラウドマスターが「この世の宇宙」って呼んでる世界にいるよ。

君の住んでる宇宙から100年後の世界だ。

 

もっと正確に言えば、君の住んでる世界と「もつれた時空」でつながってる宇宙だよ。

そうさ、じつは、君とジャラとはこのブログを通じて今もつながってるんだ。

 

「どうしてそんなことになってるのかなって?」

今回の記事読んでくれたら、そこんところのストーリーが明らかになるよ。

 

そうだ、前回の記事まだ読んでないんなら、ここから読んでね。

 

未来からのブログ2号「今日はザ・カンパニーでとなりのカーナと午後の浮気したよ」前編

 

読んでくれてありがとう。

クラウドマスターがどうして可愛い宇宙のおむつしてるのか、わかった?

 

僕らの宇宙から大事なエネルギーが漏れ出してるからなんだ。

君の住んでる宇宙にだよ。

 

あれでもマスター、おおマジなんだ。

この世の宇宙のマスターとして「お漏らし」に責任感じてるんだ。

 

それじゃ、「未来からのブログ」にあの日の夕方の話、投稿するね。

とっても大事なこといっぱい送るから、離れずにもつれたままでいてよ。

 

未来からのブログ2号「今日はザ・カンパニーでとなりのカーナと午後の浮気したよ」後編

 

「どちらにしてもこの問題は、君たち人間同士で解決してもらうよ。過去とはせいぜい上手にもつれることだね」

これ、冷たく言い捨てたこの世の宇宙の皇帝「クラウドマスター」の台詞だ。

 

ミーテイングルームに残された僕とカーナは途方に暮れたよ。

「どうやって過去からエネルギー取り戻そうか」ってね。

 

その時、ミーテイングルームのドアがすこし開いて、隙間からきらりと光る「はさみ」の先が出てきたよ。

「やー、ジャラ。クラウドマスターの緊急呼び出しって、なんの用事だった?」

 

鍵こじ開けて、皇帝のミーティングルームに無断で入ってきたのは「はさみ男」と「サンタ・タカシ」の二人だ。

「俺たちジャラとカーナのこと心配になってさ。『宇宙のおむつ』作戦でクラウドマスター怒らした責任感じてちょっと様子見に来たってわけ・・」

 

サンタ・タカシが言い訳めいたことをいいながら、部屋に入るなり僕に近づいてクスンと鼻を鳴らした。

「うまそうな匂いがする」

 

「なんだこの匂い」

はさみ男も気がついたみたいだ。

 

「ジャラ! お前、なんか隠してないか?」

サンタ・タカシが鋭い目つきで僕を見た。

 

(ここ、これ僕の夜食・・)

ジャラは思わずスーツの上着の右ポケットを抑えた。

 

でも、間に合わなかった。

サンタ・タカシの右手が僕の右ポケットをまさぐった。

 

家で待ってるキッカへのお土産と僕の夜食用にと思って、内緒で隠しておいた「厳選された一品」は、忽ちはさみ男のシザーハンドで切り分けられ、二人の口に運ばれてしまったよ。

 

「ジャラ、こんな食い物、初めての味だけど、旨かったよ。これなんだ?」

僕とカーナからクラウドマスターとの一部始終を聞いたサンタ・タカシが股こすりやって、前歯むき出して笑った。

 

「それでは、旨いランチ頂いたお礼に、盗まれたエネルギーの奪還計画に俺たちも協力しようじゃないか」

サンタ・タカシが宣言して、はさみ男がカチャカチャはさみ鳴らした。

 

つまり、賛成して拍手したってことだよ。

でもさ、なにか問題起こると、いつもこのコンビが首突っ込んでくるんだよ。

 

一人はからみ専門で、一人はもつれてるの切るのが専門だから、二人合わせて話の最後は、細切れのぐちゃぐちゃになるってこと。

・・でも二人の気持ちには感謝しなくっちゃね!・・

 

「ジャラ! 戦略会議始めよう」

サンタ・タカシが宣言した。

 

「まず始めにだ・・ブラックホールから漏れ出したエネルギーはどこへいったんだっけ? 俺忘れた。ジャラ、もう一度教えてくれ!」

はさみ男がシザーハンドで自分の頭叩いた。

 

「この世の宇宙のエネルギーはブラックホールの特異点からワームホールを通ってホワイトホールに漏れている」

ジャラは丁寧に答えたよ。

 

「よくわかった。黒い穴から、虫の穴、それから白い穴か。この世の外れは穴だらけだ。ところでホワイトホールとはなんだっけ」

はさみ男がまた聞いた。

 

「となりの世界の玄関口だよ。時空を超えるエントランスってとこだね」

ジャラがやさしく答えた。

 

「思い出した。我が家のエントランス古くなってでこぼこしてすぐけつまずくぞ。あれなんとかしなくっちゃな」

はさみ男がシザーハンドで、目の前にたれてきた前髪一筋切り取って、プーって僕の顔に吹き飛ばした。

 

「ジャラ、お前、となりの世界を本当に見たことあるのか?」

はさみ男がさらっときいた。

 

それから付け加えた。

「見たことないだろ? 見たことないのに見たようなことよく言えるなー?」

 

「見たことないけど・・・いたことはあるよ」

ジャラはそう答えてたよ。

 

「なんだと? もう一度言ってくれ」

「見たことないけど・・いた記憶はある

 

自分でも驚いたけど、僕の口がもう一度声を出さずに同じ言葉を繰り返した。

《そこにいた記憶がある》

 

「ジャラ、だぼらは止めろよ。人間同士で嘘ついたら口と耳切るぞ!」

はさみ男がジャラの目の前で、シザーハンドを振りかざしてた。

 

「ウソじゃない。遠い記憶があるんだ。あそこにいた記憶があるんだ」

ジャラはその日の朝、起きたことを思い出したんだ。

 

「今朝のことだよ。ザ・カンパニーに来る途中で、海が僕を呼んだんだ。スーツマンに命令して寄り道だけど朝日で燃え上がった海を見に行ったよ。そしたら波の音がこういった。『思い出せジャラ、俺たちのことを』ってね」

 

朝の海の記憶が蘇ってきて、なんだかジャラ、胸が騒いだよ。

「あれきっと、遠い昔からの声だ。でもすぐとなりの世界からだ。あの世界で跳んだりはねたりしたんだ。僕が身体を捨てる前のことだけどさ」

 

サンタ・タカシが疑わしそうな顔してジャラを見つめた。

で、ジャラは感じたことをそのまま伝えた。

 

「となりの世界から誰かが僕を呼んでた」

 

「それ、朝ボケのデジャブじゃねーのか?」

サンタ・タカシがほざいた。

 

それまで黙って話を聞いてたカーナが、不思議そうな顔して、じっと僕を見つめたよ。

「ちょっと待ってよ。わたしもそういえば今朝、似たような朝ボケしたわよ」

 

カーナが目玉くりくりしながら喋ったよ。

「今朝は早く目が覚めたので、ザ・カンパニーに出勤する前に、わたしもちょっと寄り道して、近くの登山口まで行ったの。

なぜだと思う・・?

山がわたしを呼んだのよ、朝日で燃え上がった真っ赤な山がよ。

登山口についたら、目の前の木立が風で騒いで声がしたわ。

『わたしを思い出してって!』

不思議な気持ちがしたわよ・・でも山で走り回った子供の頃の記憶は蘇らなかった。

身体を捨てる前の記憶はわたしにはもうないのよ」

 

そう言ってカーナは寒そうに自分のスーツを両手で抱きしめた。

きっと、カーナはからだを捨てたときに昔の記憶を失ったんだ。

 

ジャラはカーナを抱きしめたよ。

だって僕もボディーを失った一級頭脳労働者だし、カーナもボディーを無くしたブレーンレデイーだから、彼女の喪失感は人ごとじゃないんだ。

 

身体を失うとね・・。

山や海でね、自分の身体で跳んだり跳ねたり泳いだりしたこと、だんだん思い出せなくなっていくんだよ。

 

サンタ・タカシが疑わしそうな顔して僕に聞いた。

「ジャラ、お前となりの世界にいた記憶があると言ったな。どの世界だ。ブラックホールはこの世の宇宙に少なくても13億個はあるって言うぞ? どのブラックホールからつながってる世界だ?」

 

「そんなことわかるわけないだろ? でも確かにそこにいるんだよ。昔の僕がそこにいるんだ。ジャラの頭の中で、昔の記憶が騒ぎ始めたんだよ」

 

「ジャラ! そこまで言うんなら確かめた方がいいぞ。思いきって地球に一番近いブラックホールに飛び込んでみたらどうかな。そこから穴二つ潜ったら、ジャラの過去の世界だ! どう思う?・・サンタ」

タカシの声がほざいた。

 

「そやがな、タカシ。ほんでそっから盗まれたエネルギー持ち帰ったらええがな。ジャラ、話簡単や!」

サンタの声がした。

 

ジャラはサンタ・タカシの一人掛け合いにむかっときたよ。

でもさ、そこはぐっとこらえたんだ。

 

だってさ、サンタ・タカシはデザイナーズ・ベビーだから仕方ないだろ。

ザ・カンパニーのドクターの話では、サンタ・タカシは興奮すると、遺伝子が初期化されて

二つのキャラが別々に出てくるらしいんだ。

 

サンタとタカシとか、複数のベストDNAをコレクションしたデザイナーズ・ベビーに固有の現象らしいよ。

陽気なサンタ・タカシにも悩みはあるんだ。

 

その時だ、ビックリしたよ。

カーナがいきなりスーツをばっと脱いで立ち上がったんだ。

 

カーナのスーパー・ボディーがあらわになって、みんな目を丸くしたよ。

カーナの足元にスーツがばらばらに散らばって、引き締まったスーパー・ボデイーがぶるぶる震えてた。

 

「過去の世界と、量子もつれが起こってる」

カーナが震える声で、そう言ったんだ。

 

「カーナ、大丈夫か?」

あわててジャラが聞いたよ。

 

カーナが答えた。

「わたし、過去の世界とつながりかけた。でもすぐ切れてしまった」

 

その時だよ、ジャラの身体も震え始めたのさ。

スーツがはじけ飛んで、ジャラもむき出しの裸になってた。

 

ジャラの記憶の底から誰かの手が伸びてきたみたいだ。

「思い出せ、俺の手をつかめ!」

 

頭の中で、誰かの声が聞こえたんだけど、しばらくして消えていった。

同時に身体の震えが止まったんだ。

 

そして、不思議なことが起こった。

まるで時間が逆戻りしたみたいだったよ。

 

ジャラのスーツとカーナのスーツが床からふわりと持ち上がって、二人のボディーに戻ってきたのさ。

・・きっとその時、過去とのもつれが切れたんだと思う。

 

せっかく過去とつながりかけたのにって、残念な気持ちだったよ!

 

その瞬間だよ、ジャラとカーナが凄い答えを思いついたのは。

朝日に燃え上がる山がカーナを、朝日で焼けた青い海がジャラを呼んでたということは・・つまりさ。

 

「両方同時に見れれば、量子もつれが倍になる!」

《そして過去と繋がれる・・》

 

「この近くに海と山の両方みえるところはある?」

カーナとジャラが口をそろえて言った。

 

サンタ・タカシが答えた。

「なんのこっちゃわからんけど、両方同時に見えるところ、一カ所だけあるぞ」

 

「そこどこなの?もうすぐ夕陽が落ちるよ。急がなくっちゃ!」

ジャラが叫んだ。

 

「大きな川の河口で入り江の奥だ。ここからエラ~イ遠いぞ・・」

サンタ・タカシが口ごもったよ。

 

「宇宙センターの衛星マップによれば、この近くで山と海の両方が見える地点はここから南西に約15キロのところにあります。スーツマンとスーツレディーなら走って15分です」

スーーツマンがセンターの調査結果を、ジャラの口を借りてみんなに伝えてくれたよ。

 

「どうする? 俺たち二人は死ぬ覚悟で走っても1時間以上かかるぞ」

サンタ・タカシがはさみ男にぼやいた。

 

「いい方法があるぞ」

はさみ男がサンタ・タカシになにか耳打ちして、二人でにやりと笑った。

 

・・・

入り江に向かって、スーツマンとスーツレディーが時速60キロで走った。

二つのヘッドにはジャラとカーナが治まって、気持ちよく午後の昼寝をしている。

 

「ヤッホー!」

スーツレディーの肩の上でシザーハンドが吠えた。

 

「イエーイ!」

スーツマンの頭の上でサンタ・タカシが叫んだ。

 

・・・

「この四人、このあと、いかがいたしましょうか?」

地球のはるか上空に浮かんだクラウド宇宙センターの中枢部で、執務中の皇帝「クラウドマスター」宛てに、地球から星間チャットが届いた。

 

「スーツマンか? すべては私の計算どおりに進んでおる。四人にはエネルギーも十分に補給させたことだから、しばらく好きなようにやらせておけ!」

 

  (続く)

 

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【記事は無断で転載することを禁じられております】

未来からのブログ2号「今日はザ・カンパニーでとなりのカーナと午後の浮気したよ」前編

僕の名前はタンジャンジャラ。

みんなは「ジャラ」とか「ジャラジャラ」って短く呼ぶよ。

 

僕は2119年の未来世界でパートナーのキッカと一緒に楽しく暮らしてる。

クラウドマスターが「この世の宇宙」って呼んでる世界さ。

 

マスターにはどうしても僕ら人類の世界観が理解できないらしい。

辛いことがあると「そろそろあの世に行きたい」って僕が口癖で言うもんだから、彼はとても気にするんだ。

 

「あの世ってのは、一体どこにあるんだ?」ってね。

クラウドマスターには「あの世」は理解を超えた世界だ。

 

「クラウドマスターには理解不能という言葉はない」と自分で言ってる。

どんなことでも、一生懸命計算すればいつか必ず答えが手に入ると思ってるからね。

 

でもさ、「あの世」はいくら計算しても答えが出ない。

 

だから、マスターはこの宇宙のことをわざわざ「この世の宇宙」と呼んでる。

きっと悔しいんだと思うよ。

 

・・そうだ忘れてた、いまから100年前、2019年のぼくのおじいちゃんの「未来からのブログ」へ午後の記事をテレポーテーションするね。

量子もつれの準備はできてるかい?

 

まだの人は前回までの記事読んでね。

未来からのブログ1号「 今日はマイ・ブレーンをリースしてお金稼いできたよ」前編

未来からのブログ1号「 今日はマイ・ブレーンをリースしてお金稼いできたよ」後編

 

ありがとう、それじゃカーナと午後の浮気したときのこと報告するよ。

未来からのブログ2号「今日はザ・カンパニーでとなりのベッドのカーナと午後の浮気したよ」前編

 

ジャラとカーナのエクスタシーの動画あるんだけど、投稿はしないよ。

君にはすこし刺激が強すぎると思うんだ。

 

悪いけど、またの機会にするね。

 

・・

「ジャラジャラ!」

気持ちのいい汗いっぱいかいたあと、カーナとシナプス絡ませたまま「ゆーったり」まどろんでたら、すぐこれだ。

スーツマンから呼び出しだ。

 

「カナカナ」

僕の横でカーナの呼び出し音も響いたよ。

 

カーナのボデイーは可愛いスーツレディーだからさ。

呼び出し音も可愛いんだ。

 

「せっかくのところお邪魔して申しないんだけど・・どうしてもジャラとカーナに至急の相談があるから集まって欲しいって、クラウドマスターが頼んできたよ」

スーツマンとスーツレディーが僕たちに緊急メッセージを届けてきた。

 

クラウドマスターの緊急呼び出しなら、断ることはできないよ。

で、二人は「エイヤッ!」って、ベッドのカバーはねのけて、ヘッド開いて待ってくれてる二つのボディーに別々に飛び込んでいったよ。

 

スーツマンとスーツレディーは僕たち一級頭脳労働者の手足となって動いてくれる。

もち、目や耳とか感覚器官もついてるスーパー・ボディーだよ。

 

二人で仲良く歩き始めたら、「よく見た男」と鉢合わせしたんだ。

サンタ・タカシがはさみ男のベッドから上着に腕を通しながら、出てきたのさ。

 

一目見て驚いたよ。

サンタ・タカシの上着がはさみで切られたようにずたずたになってた。

 

「あいつ興奮したら、すぐ両手振り回すもんだからさ。危なくてしょうがないよ」

サンタ・タカシがカーナとジャラにそんなことまで報告するんだ。

 

それで、ちょっと恥ずかしくなったのか、二人で「掛け合い」のショート・ショート始めたよ。

 

最初、天才タカシの声が出てきておどろいたよ。

「人間のお化けは・・アンドロイド?」

 

お笑いサンタが大阪弁ですぐ返したよ。

「おいどのお化けは・・オイドイド!」注①】

 

それ聞いてカーナがクスクスって、笑ったんだ。

そしたらでっかい声がしたよ。

 

「こら! それダブルで差別発言だぞ!」

はさみ男がベッドからパンツ引き上げながら怖い顔して出てきた。

 

それから僕とカーナに気がついたよ。

「やー、ジャラ。あれッ、カーナだ。今のサンタ・タカシの話、聞こえた?」

 

僕たち、な~んも聞かなかった振りしてあげた。

サンタ・タカシの寒~いショートショートでかなり落ち込んだカーナと僕は、なんとか気を取り直してビルの屋上に急いだ。

 

・・クラウドマスターのミーテイング・ルームは屋上にある。

マスターが仕事してるクラウド宇宙センターは、地球のはるか上空に浮かんでるけど、僕たちとのミーティング・ルームはザ・カンパニーのビル屋上に作られてる。

 

部屋はサンルームになっていて明るく、快適なんだ。

雲でできたチェアーに座って、フワフワしながら待ってたら、しばらくしてクラウドマスターがプラズマの姿で出現したよ。

 

クラウドマスターがミーティング・ルームに現れるときはいつもテーマソング付きだぜ。

スターウオーズの帝国皇帝のテーマソングだ。

 

ほら、ダースベーダーの親分、黒マントの男が出てくるといつも流れる曲だ。

「♯チャンチャカチャン、チャカチャー、チャカチャー♭」

 

ずいぶん昔の曲だけど、覚えてる?

マスター、やるだろ? 

 

マスターきっとエンペラーの姿で出てくるよ。

あれ? 今日はそこらのおっさんのスタイルだ。

 

これやばいよ。

 

「とってもやばい」

となりのカーナが復唱した。

 

このスタイル、マスターが僕たち油断させるときのスタイルだ。

厳しく命令するときは、金ぴかばりばりのエンペラー・スタイルで出てくる。

 

そのときは「はいはい」と言って、素直に命令に従っていればいいんだ。

きっと、この世の宇宙と人類の役に立つことだからって、胸張って命令したいのさ。

 

今日は魂胆ありだ。

あれから、一人で怪しげな計算したのに決まってる。

 

(ブーン!)

・・始まるぞ。

 

「今日は大事なお願いがある」

・・お願いと来たよ。

 

「おむつは恥ずかしい」

・・ざまーみろだ。

 

「だから自分で必死に計算してみた」

・・やったぜい!

 

「結論が出た」

・・そろそろやばい。

 

「ジャラとカーナの秘密の会話を聞いてしまった」

・・なんだって?

 

「音声再現するから思い出してくれよ」

 

(ブーン!)

「ジャラ!  盗まれたエネルギーはどこへ行ったのかしら」

「多分ブラックホールからワームホールに漏れてるんだと思うよ。ジャラのエネルギーにもすこし頂いておいたよ」

 

・・しまった。ばれてた!

「ジャラ、計算したら確かにブラックホールからエネルギーが漏れ出していた。これは怖ろしいことだ」

 

・・罰金か?

「ジャラ、心配はいらない。君が盗んだ分量は、たかが知れておる。

この世の宇宙の中でのことでもあるし、いつでもその気になれば取り返せる」

 

・・助かった。

 

(ブン!ブーン!)

「しかし、大きな盗みは許せない。

わたしはこの世の宇宙からエネルギーを盗んだ別の宇宙を見つけた。

このまま放置すればこの世の宇宙はいずれエネルギー不足で壊滅する。

早く流出を防ぐ装置ができなければ、わたしも君たちもあの世の世界に行く羽目になる」

 

・・マスターもあの世のことを理解できたらしいぞ。

 

(ブーン!)

「ジャラ、この世の宇宙のおむつは本当にできるのかな。ブラックホールの特異点におむつを作れるのかな? それともジャラはマスターを騙したのかな」

・・来た!

 

(ブーン)

「ジャラ、お前の盗みの罪を許す代わりに、ブラックホールから漏れていったエネルギーを取り戻す方法を考えてくれるかな!」

 

・・ジャラは罰金はいやなので、思いつくことを片っ端から話し始めたよ。

「マスター、この世の宇宙の大事なエネルギーはブラックホールで圧縮されて、ワームホールをすり抜け、ホワイトホールから別の宇宙に漏れだしております」

 

(ブーン)

「そのことは既に計算し、確認しておる。わたしはエネルギの一方通行を逆流させる方法がないのかと聞いておる」

 

「マスター、逆流することが不可能だからブラックホールと呼ばれているのです。

昔、宇宙が若くて元気だった頃は、この世の宇宙にもホワイトホールがいっぱいあって、そこから新しいエネルギーがわき出してきて宇宙を潤したと、人類の神話が教えております。

その頃、神と呼ばれたクラウドマスターも若く、柔軟且つ聡明で、自らが自然の法則やエネルギーを作りだしていたとのことです。

その頃地球は青く、豊かだったのです」

・・ジャラは思いつく限りのほらを述べたんだ。

 

(ブン!)

「昔は良かったといういつもの話か。このマスター、なんもできない頑固じじいで悪かったな!」

・・マスターが気分を害したみたいだ。

 

「ジャラこの話、続けるとなんだかやばいわよ」

僕と同じ一級頭脳労働者のカーナが耳元で囁いた。

 

(ブーン)

「論理的に話を続けよう。昔、地球は緑がいっぱいでエネルギーに満ち溢れていたことは聞き知っておる。ではその頃の緑とエネルギーとはどこへいった?」

・・マスターの姿がいつの間にか、普通のおっさんから偉そうなエンペラーに戻って、僕を一睨みした。

 

「過去の資源は、人類が誤ってすべてを使い切ってしまったようです」

・・ジャラは仕方なく答えた。

 

(ブーン)

「結論が出たようだ。それでは、過去の世界からこの世の宇宙にエネルギーを取り戻しなさい」

 

「マスター、それは無茶です。一体どうやって取り戻せと言うのですか?」

 

・・マスターの顔がおかしな形に歪んだ。

きっと笑ったんだと思う。

 

(ブーン)

「ジャラ、柔軟且つ聡明な君のことだ。この世の宇宙のブラックホールからエネルギーをかすめ取る知恵があるのなら、過去からエネルギーを取り戻すぐらい簡単なことだろう?」

 

・・ほら、マスター怒らしたらだめだって言ったでしょう!・・

カーナがチッチッと舌を鳴らした。

 

マスターはジャラから視線をはずして、カーナを睨みつけた。

「カーナも人類の末裔なら同罪だ。ジャラに協力して過去の償いをしなさい。できなければカーナにも一年間の残業をお願いすることになるよ。それともスーツレデイーに頼んで、いつもの厳し~いお仕置きが欲しいかな?」

 

「ジャラ、あんたのせいでこんなことになっちゃったんだ。早くなんとかしなよ!」

カーナが唇とんがらかして僕に絡んだ。

 

「カーナ、怒るなら僕じゃなくて、マスターに怒れよ!」

ジャラも反撃開始した。

 

スーツレディーがいきなりスーツマンの急所を蹴り上げた。

頭にきた僕はスーツレディーのおっぱいを思い切り逆さなでしてやったぞ。

 

それから二人の激しいとっくみあいが始まったって訳だ。

マスターには計算外の展開だ。

 

(ブーン)

クラウドマスターは茫然自失して、二人を眺めていたよ。

そのうち諦めて立ち上がってさ、ぼそっと言った。

 

「それじゃ、二人に任せたよ」

それから偉そうに付け加えたんだ。

 

「どちらにしてもこの問題は、君たち人間同士で解決してもらうよ。過去とはせいぜい上手にもつれることだね」

冷たく言い捨てた皇帝クラウドマスター・・そして退場のテーマソングだ。

 

「♯チャンチャカチャン、ちゃかちゃー、チャカチャー♭」

入場のテーマソングとすこし違うだろ・・どこが違うかな。

 

・・ジャラ、やったわよ! 喧嘩作戦成功・・

 

退場のテーマが聞こえてカーナが跳び上がって喜んだ。

僕も一安心したよ。

 

そのときだ、薄れゆく皇帝の堂々たる後ろ姿に、僕の食欲がいや増したんだ。

特にその・・年の割にふくよかなヒップのあたりだ。

 

ジャラは皇帝に後ろからそっと近づいた。

オレンジ色に輝くヒップから、うまそうなところを二切れ切り取ったよ。

 

一切れを口に入れた。

うまい。

 

絶品だ。

カーナが「あーん」て口開けたので、残りの一切れ食べさせてあげた。

 

皇帝のプラズマは純度100%のエネルギーなんだよ。

たっぷり脂ののった極上の大トロを、火のついたウオッカでさっと炙った「厳選された一切れのお味」に近いよ。

 

「ジャラの盗みってあそこからだったのね」

「そりゃそうさ。ブラックホールから帰れるわけないもんね。狙いはいつもあそこだ」

 

・・狙いはいつもあそこだってジャラが言ったら、カーナがほとんど消えかけたエンペラーの後ろ姿に目をやった。 

 皇帝は背筋をしゃんと伸ばし、後ろ姿で気高さを演出しながら、最後に振り向いて余裕たっぷりににやりと笑ったよ。

 

「あっ! 見てみて」カーナが悲鳴を上げた。

 

マスターのヒップを形作っていたプラズマが、僕のせいでちょっぴり破けてズボンの中が見えた。

白いタオル生地の上に可愛い花柄模様。

 

ちらっと見えたよ・・クラウドマスター手作りの、この世の宇宙の「お・む・つ」だったよ。

 

(続く)

 

注① 

追伸だけどさ・・サンタ・タカシのショートショート、原作は「日本沈没」の小松左京先生なんだ。

「おいど」は大阪弁で「おしり」のことだよ。

 

ちょっとグロいけど、凄いだろ?

未発表だぜ。 

 

・・ジャラがどうしてそんなこと知ってるのか、いつか明らかにするね。

 

・・サンマさん、タケシさん。

 勝手に似たような名前使ってご免なさい。

 100年先のことだから、許してくださいね。

 

続きはここからどうぞ。

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【記事は無断転載を禁じています】

 

未来からのブログ1号「 今日はマイ・ブレーンをリースしてお金稼いできたよ」後編

僕の名前はタンジャンジャラ。

みんなはジャラって呼ぶよ。

 

僕の暮らしてる2119年の未来から、100年前のぼくのおじいちゃんのブログに後編を投稿するね。

どうしてそんなことできるのだって?

 

「遺伝子の量子もつれ」使ったテレポーテーションだって言わなかった?

僕の脳みそと、とっしん爺ちゃんの「未来からのブログ」は、時空を超えて絶妙にもつれ合ってるんだ。

 

で、どこまで話したっけ?

そうだ、ザ・カンパニーで仕事中に居眠りして、スーツマンにたたき起こされたとこまでだ。

 

前編まだの人は今から読んでね。

でないと仲良く「量子もつれ」にならないからね。

 

 

【未来からのブログ「 今日はマイ・ブレーンをリースしてお金稼いできたよ」前編】 

 

未来からのブログ「 今日はマイ・ブレーンをリースしてお金稼いできたよ」後編

 

「ブーン」

スーツマンにたたき起こされたジャラは必死で仕事したよ。

 

サンタ・タカシがものすごいスピードで計算して、新しい情報送ってくるので、僕の計算が間に合わない。

仕事が溜まり始めた。

 

前にもいったけど、1万人のブレーンがニューロン・ネットしてワーキングするんだから、一人でも計算が遅れたらエライことなんだ。

クラウドマスターの怒声が雲の上から飛んでくるんだ。

 

これでも僕、一級頭脳労働者だからプライドがあるよ。

僕のニューロン総動員で情報処理してさ、はさみ男と元カノのカーナにエイヤってデータを送り続けた。

 

はさみ男がいつもの癖で、僕からの情報を頭の中で、はさみの形した手で受け取るもんだから、ときどきぷつんと切れちゃうんだよ。

 

「お前、こんどやったら罰金だぜ」

脅かしてから、情報くくり直して送ってやったよ。

 

カーナは僕からの情報を頭の中のくちばしで器用に受け止める。

カーナはアマゾンの奥地の出身だよ。

 

カーナはキツツキって意味だ。

口とんがらかしてすぐ怒るからって、クラウドマスターが付けた愛称だ。

 

知ってるかい、彼女、夜は野性的でとってもミリキだぜ。

うーん、思い出してると、ジャラはなんだか興奮してきたよ。

 

早く仕事終わったら、となりのベッドに潜り込んでやろうかな。

カーナも一級頭脳労働者だよ。

 

ボデイーなしで、どうやって楽しむか教えてあげようか?

もち、スーツ脱いで裸になるんだ。

 

それから抱き合うんだよ。

シナプスいっぱい絡ませてさ、もつれ合うんだ。

 

凄いだろ!

ぱちぱち火花出るよ。

 

あれッ、となりのベッドからカーナのシナプスがもつれて、僕のニューロンに伸びてきた!

 

「ジャラジャラ!」

スーツマンから僕に警告だ。

 

スーツマンはクラウドマスターの一部分だよ。

僕の考えることクラウドマスターに筒抜けだから、どうしようもない。

 

ブレーン一振りして、妄想ぶっ飛ばして、ジャラはワーキングに集中したよ。

「ブーン」

 

・・・「ジャラ、これでいいかい」

昼近くなってNO1のラストマンから宇宙のエネルギーの計算結果がフィードバックされてきた。

 

僕やカーナには一級頭脳労働者として計算結果に責任がある。

フィードバックされてきた計算結果によれば、この世の宇宙のエネルギーの残量がクラウドマスターの予測値から大きく下回っていた。

 

「エライこっちゃ」

僕は慌ててクラウドマスターに報告した。

 

「そんなことはありえない。情報とエネルギーは形は変えても決して失われない。これは不変の法則だよ、ジャラ。計算をやり直しなさい」

クラウドマスターの厳しいアドバイスでみんなはもう一度検算してみた。

 

 

答えは同じだ。

この世の宇宙のエネルギーは質量変換分を足しても、見込みの数値から大きくへこんでいた。

 

クラウドマスターに報告したが、マスターは冷たく言い放った。

「君たちは間違っている。不変の法則は絶対だ。残業してでも計算をやり直しなさい!」

 

ジャラとカーナは、はさみ男とサンタ・タカシを入れて緊急ミーティングを実施した。

ジャラとカーナはスーツを脱いで裸になって部屋の隅に集まった。

 

これでクラウドマスターには僕たちの会話は聞こえない。

そこで、まず基本的な考え方を整理してみた。

 

  1. 残業はいやだから、計算は正しいことにする。
  2. 情報とエネルギーは形は変えても失われないというクラウドマスターの主張は否定しない。
  3. 1と2から結論を引き出す。

 

「結論がでました。エネルギーが誰かに盗まれています」

四人の報告を聞いて、クラウドマスターが怒った。

 

「この世の宇宙で盗みは有り得ない。この世の宇宙はすべての宇宙・・クラウドマスターその人が取り仕切っておる。たとえ盗まれたとしても、盗まれたエネルギーもこの世の宇宙の総量に含まれる」

 

「マスター、お言葉を返すようで誠に僭越ですが、この世の宇宙のマスターである人工知能AIも、ときには間違うことがあると、私たち人類の末裔は常々忠告しております」

四人が口をそろえ、断言した。

 

「ときには思考にも柔軟性が必要です」

「わかった。それでは謙虚に聞く。答えを述べよ」

 

ジャラが代表で答えたよ。

「この世の宇宙はエネルギーをお漏らししております」

 

「な、な、なんだと・・お漏らしだと? クラウドマスターはお漏らししているというのか?」

「その通りです。自覚症状がないにもかかわらず体内の水分が減る。それを人類はお漏らしと言います」

 

「続けろ!」

「我々人類は年を取ると、末期高齢者として引退を余儀なくされました。この世の宇宙であるクラウドマスターもそろそろお年かと・・」

 

マスターの顔が雲の上からがくりと落ち、声は哀願の響きを帯びた。

「わかった。で、対処方法はないのか?」

 

「一つだけございます」

「述べよ!」

 

「おむつを至急ご用意いたしましょう」

「うっ!ウッ。それ以外に方法はないのか?」

 

「ございません」

マスターの顔は一気にひからび、声がかすれた。

 

「せめて、かっこいいのを頼んだぞ」

「マスター! おむつのプログラミングはお任せください。宇宙のおむつは特大にして有名ブランドのデザインにいたします」

 

その日の午後は半休になった。

残されたエネルギーの持続可能な利用の計算はマスターが行うことで合意が図られ、一万人のワーカーには約束のフィーに特別報償金が加算されてそれぞれの口座に入金された。

 

・・午後のジャラはスーツマンを脱ぎ捨てて、となりのベッドに飛び込んでいったよ。

 

「ジャラ! 盗まれたエネルギーはどこへ行ったのかしら」

カーナが僕のニューロンにやさしくコンタクトしながら聞いてきた。

 

「多分ブラックホールからワームホールに漏れてるんだと思うよ。ジャラのエネルギーにもすこし頂いておいたよ」

そう答えて、ジャラはエネルギッシュにカーナのニューロンにもつれていったんだ。

 

(続く)

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【記事は無断転載を禁じられています】

 

 

未来からのブログ1号「 今日はマイ・ブレーンをリースしてお金稼いできたよ」前編

こんにちは。

僕はタンジャンジャラ

 

この記事は僕が暮らしてる2119年の未来から100年前、つまり2019年のぼくのおじいちゃんのブログに宛てて投稿してるんだ。

驚いた?

 

どうしてそんなことができるのかって? 

ヤボ言わないでよ。

 

「量子もつれ」を利用してるのに決まってるじゃん。

僕のブレーンとおじいちゃんの「未来からのブログ」は、時空を超えて絶妙にもつれ合ってるんだよ。

 

わかった?

それじゃ今日の報告、ブログに投稿始めるね。

2119年2月16日 「 今日はマイ・ブレーンをリースしてお金稼いできたよ」(前編)

 

今日は、天気と体調がいいので、マイ・ブレーンをザ・カンパニーに半日契約でリースしてきた。

目的はもちろん家族の生活費を稼ぐためだよ。

 

家族と言っても二人の子供たち娘のアナと息子のボブは、3年前にハッピー・ワールドへ出かけたきり帰ってこないので、登録してるパートナーのキッカと僕の二人のことだね。

 

朝、ザ・カンパニーから迎えのスーツマンが約束の6時きっかりにやって来た。

スーツマンは小さな特殊ベッドで寝ている僕の枕元へやって来て、めざまし時計代わりに「ジャラジャラ!」とでっかい金属音を僕のブレーンに浴びせかけた。

 

どうして「ジャラジャラ」だって?

ッ!そりゃー決まってるだろ。

 

「タンジャンジャラ」は長すぎるから、僕を呼びときは誰でも「ジャラジャラ」とか「ジャラ」って愛称で呼ぶよ。

で、目覚めた僕は隣で寝ているパートナーの「キッカ」を起こさないように、スーツマンが差し出した両手にしがみついて彼のヘッドの中に「エイヤッ!」で移動した。

 

もうわかるだろ・・僕はブレーンだけの一級頭脳労働者だから、移動には僕を運んでくれるスーツマンが必要なのさ。

 

彼は僕専用の移動ロボットだ。

スーツマンの空っぽの頭の中に収まった僕は、カチャカチャやって彼と合体したよ。

 

「ジャラは出かけるよ」

スーツを着込んだ僕は、寝込んでいるキッカに小さく囁いて、一日をスタートしたんだ。

 

久しぶりの外出だからさ、うれしくなった僕は、ザ・カンパニーへはだいぶ遠回りだけど、海岸通りをぶらぶら歩いてみた。

頬を撫でる潮風が45度くらい、快適だ。

 

熱波じゃないかって?

ここ数十年は地球の温度はざっとこんなものだよ。

 

21世紀の終わりのある日に、温暖化現象で大気の温度が特異点を通り越してしまったから、地球はもう二度と元に戻らないそうだ。

地球環境のシンギュラリティーがあっという間に起こったんだって。

 

僕は今快適だよ。

スーツマンのヘッドの中は冷房してあるから、ちょうど小春日和ってところだ。

 

青い空を映して、茶色いはずの海が青くうねるのが面白くて、僕はしばらくぼーって海を眺めてた。

目が見えるって素晴らしいことだよ。

 

スーツマンの目を借りて僕は海の向こうをみていた。

遠ーい昔のことを思い出していたんだ。

 

そしたら「ジャラジャラ」がまたヘッドに来たよ。

「警告! ザ・カンパニーと約束の6時半まであと5分」

 

スーツマンがメッセージしてきたので慌てた。

スーツマンのフットを車輪に形態チェンジして、僕は転がるように走ったよ。

 

ザ・カンパニーまでは4分と15秒かかった。

約束の45秒前にゴールだ。

 

セーフ!

ネットワーキングに一秒遅れたら罰金一日だ。

 

なんたって1万人のブレーンがニューロン・ネットしてワーキング始めるんだから、一人でも遅れたらエライことなんだ。

ニューロン・ネットは知ってるよね。

 

みんなの脳みそをネットワークして、究極のコンピューター作ることだよ。

人間のブレーンがスパコンの材料としては最高級なんだって。

 

そのうえ電気代がとても安くすむそうだ。

今日は一万人がブレーン持ち寄って量子もつれでワーキングするんだ。

 

一級頭脳労働とか二級単純労働とか、それぞれ役割分担があるんだ。

だから、一人でも集合に遅れたらワーキングリスクが倍になる。

 

だから、罰があるんだ。

罰金一日と言うことは、その日はただ働きと言うことさ。

 

ザ・カンパニーのエントランスでボディー・チェックがかかった。

僕は一級頭脳労働者だから、脳みそチェックのことだよ。

 

「ウエルカム、ジャラ。すこし痛いよ」

頭上からクレーンが降りてきて、スーツマンのボデイーと僕のブレーンを特殊放射光でザザーッとスクロールしていった。

 

「スクリーニング完了。バグなし、ウイルスなし、量子もつれ状態良好。ジャラ! ワーキングルームに急いでください」

クレーンが叫んだ。

 

僕は車輪をフットに戻して、タッタッと早足でみんなの待ってるワーキングルームに駆け込んだ。 

完全消毒、完全冷却のめちゃ広ーい部屋だ。

 

奥は地平線みたいにかすんで見える。

9998人がネット完了して最後の二人を待っていた。

 

「遅ェーぞ、ジャラ!」

ベッドに腰掛けた一級級労働者のはさみ男が、僕に向かってはさみ振りかざした。

 

彼は普段は散髪屋だ。

仕事が暇なときには切り裂きジャックとなって、殺しで稼いでいるらしいぞ。

 

「ジャラ、わたしのベッドにこない?」

元カノのカーナがこんなとこにいて、甘ーい声で誘ってきた。

 

「ヤーヤー」ってみんなに挨拶して、ジャラはスーツ姿のままNO.9999のベッドに潜り込んだよ。

最後のNO.10000は誰か知りたいかい?

 

知れたことさ! 

「サンタ・タカシだよ」

 

お笑いアーテイストは時間に遅れてくるのに決まってんだ。

みんな知ってることだけど、サンタ・タカシはデザイナーズ・ベビーだ。

 

これ内緒だけどさ、デザイナーズ・ベビーのDNA料金の中でも「サンタ・タカシ」は歴史に残る最高額だったそうだ。

日本の円で一兆円だったそうだ。

 

一人分の単価で5000億円で二人分で倍で一兆円だ。

サンタもタカシも最高級のお笑い芸人だったもんな。

 

ジャラもときどき昔のビデオで見るよ。

脳みそひっくり返って笑うぜ。

 

親権代理で投資したのはもち、ザ・カンパニーのクラウドマスターだよ。

将来、エンターテナーで稼いだとして、10兆円のリターンを見込んで10分の1の投資だ。

 

それがさ投資は大失敗したのさ。

「サンタ・タカシ」はお笑いで一円も稼げなかった。

 

理由が聞きたいだろ?

くっくっ! 笑うなよ!

 

お笑い芸人は、エンターテナー同士で掛け合いして客を笑わすのさ。

それがさ、二人のDNAを一つの細胞に入れちまったもんだから、そこで二人の掛け合いがはじまったんだ。

 

受精した卵子が成長する過程でさんざん掛け合いが行われた。

だから、成長したサンタ・タカシはネタが尽きて、他の芸能人と掛け合いができなかったのさ。

 

ここんとこ、図解して説明するね。

狂気(天才)×狂気(天才)=単なるもつれ(凡人)

 

つまりサンタ・タカシはちっとも面白くなかったってわけ。

 

・・・

「おはようございます!」

よく見た顔したサンタ・タカシが到着した。

 

「やー、ジャラ、元気かい」

騒々しい音を立てて、僕のとなりのベッドに潜り込んだ彼は、とんでもない高給取りなんだ。

 

エンターテナーでは稼げないけど、ブレーン・ワーカーとしては僕の十倍は稼いでるはずだ。

掛け合いはできないけど、他人ともつれるパワーは凄いからだ。

 

彼は、ベッドに潜り込んだとたん、9999人のブレーンとあっという間にもつれてしまった。

僕も慌ててマイ・ブレーンのシナプスを思い切り伸ばしてはさみ男やカーナやまわりの数人とネットワークしたよ。

 

「ブーン! みんな用意はできたかな? 仲良くもつれてくれたかな?」

羽根を震わすような音がして、頭上からクラウドマスターの声が降ってきた。

 

・・ブーン! 今日のタスクは簡単だ。

午前中はこの世の宇宙の総エネルギーの残量を算出して、午後はそのエネルギーの持続可能な

利用方法を計算する。

それじゃ始めるよ。

いつもの通り、頭の力抜いて僕の指示通りにしてくれればいいんだ・・

 

僕のブレーンはザ・カンパニーにリースされてワーキングルームは一万人のブレーンがネットワークされた。

ニューロ・スパコン完成!

 

「ブーン」

ワーキング開始だ。

 

僕は一生懸命に計算を始めたよ。

しんどいけどさ、パートナーのキッカのことや息子のボブや娘のアナのことを考えて我慢したよ。

 

「ブーン」

そのうち眠たくなってきた。

 

「ジャラジャラ

スーツマンにたたき起こされて僕はまた計算を始めたよ。

 

 (続く)

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