ブラックホールは本当にあるの?ホワイトホールって何者? 

日曜日の朝のことです。

「パパ、ブラックホールは本当にあるの? ホワイトホールって何者か教えて」

「ブラックホールゲーム」に熱中している小学三年生の長男・匠が、リビングルームに飛び込んできて、テレビを見ていたパパにいきなり質問をしました。

「ブラックホールは写真も公開されていて、本当にあるよ。どんな物質も食べてしまう宇宙の穴だというけど、ホワイトホールはパパも始めて聞いたよ」

パパはそう言って、世界ではじめて撮影されたブラックホールの報道画像をテレビのニュースでみて、思わず記念に撮影しておいた写真を取り出してきました。

ブラックホールは実在していた! 世界初・国際協力で撮影に成功!

これがパパが写しておいたブラックホールの報道写真の一枚です。

ブラックホールをはじめて撮影。
 2019 /4/11
NHK・BSの報道写真

2019年4月10日に、世界ではじめて撮影されたブラックホールの写真が公開され、大きな話題を呼びました。

この画像は発表の翌日、11日の朝にNHKのBSニュースで報道されたテレビ画面をパパが撮影したものです。

公開されたブラックホールの写真は、世界6カ所の天文台が国際協力をして、電波望遠鏡で観測した映像を二年かけて解析し、統合してできあがったものでした。

撮影したブラックホールは地球から55万光年離れたところにあり、乙女座銀河団(銀河の集まり)の中の一つの銀河「M87」の真ん中あたりにあります。

これが、人類がはじめて目にした巨大ブラックホールの映像です。

巨大ブラックホールM87

「匠みてご覧、これがブラックホールが存在する証拠写真だよ」

パパが自慢げに、匠に画像を見せました。

 写真の赤い輪の中に、黒い穴がはっきりと見えます。

「匠、赤や白く見える部分は周囲のガスやちりが電波を出しているのを写したものだそうだ。この黒い穴がくせ者だよ。“ブラックホールの影”と言うんだそうだ」

「みつけた。これがブラックホールの正体さ。ブラックホール・ゲームの主人公、ミスター・ブラックはここに隠れていたんだ!」

匠がゲームを思い出して、興奮してきたようです。

「匠、すげーぞ! この黒いところの直径は1000億キロだそうだ。俺たちの住んでる太陽系がすっぽり丸ごと収まる大きさだって言うぞ!」

パパもすっかり興奮してしまいました。

ブラックホールが宇宙に存在することは、100年程前にアインシュタイン博士が発表した「一般相対性理論」から予言されていました。

この写真はその証拠写真といえます。

次にパパは、スマホでブラックホールとホワイトホールをざっくり調べてみました。

出てきた答えは、「ブラックホールは宇宙に実在しているが、ホワイトホールは理論上の存在」ということでした。

ブラックホールとホワイトホールのもっと詳しい正体が知りたくて、パパは匠と二人でパソコンの前に仲良く椅子を二つ並べて、本格的調査を開始しました。

ブラックホールは宇宙の蟻地獄!つかまったら二度と脱出できないその構造とは?

二人はまず始めに、NASAがYouTubeにアップしたいろんなブラックホールの映像を調べてみました。

NASAは米国の航空宇宙局のことで、米国の宇宙開発の中枢機関です。

NASAが掲載したブラックホールの映像の中で、もっとも迫力があったのは2015年10月に3機のX線観測衛星が観測した記録結果をもとに、ブラックホールが星を飲み込む瞬間を再現した映像でした。

ブラックホールは、周囲にあるすべての物質を引き寄せ、飲み込んでしまう・・光までも逃がさないほどの強烈な重力(引力)を持つ天体のことです。

光もそこからは脱出できないので、内部の風景は外から見ることができません。

だからNASAの映像は光で視覚的にとらえられたものではないのです。

宇宙の空間に含まれるガスが、ブラックホールに吸い込まれて、圧縮されるときにお互いにぶつかって、X線など超高温の電磁波を放射します。

NASAの映像はこれを観測したデータをもとに視覚的な映像に構成し直したものでした。

この動画を二人で見てみました。

NASA:星を飲み込むブラックホール

次々と星が飲み込まれていく圧倒的な映像に興奮した匠が、ブラックホールに感情移入してしまいました。

「その星、早く食っちゃえ!」とブラックホールに向かって叫んだのです。

匠はブラックホールゲームの主人公「ミスターブラック」になったつもりです。

パパはそこは大人として、冷静に解説をしました。

「ブラックホールは本物の星や物質をいくらでも食べ続ける天体らしいぞ。

蟻地獄のように、一度穴の中に滑り込んだ物質は、二度と逃げ出せないところだ」

熱中してきた二人は、ネットのサイト・チェックを進めました。

調べてみると、私たちの銀河系宇宙にブラックホールは5000万個も存在しているといわれていました。

小さなものでは、半径わずか30キロメーターくらいなのに、質量は太陽の400万倍もあります。

こんな小さな天体が自分より大きな星をいくらでも食べ続けているというのですから、とても神秘的です。

さらにブラックホールの調査を続けていくと、おかしな言葉が出てきました。 

【事象の地平線】です。

これは一体、何者でしょう。

事象の地平線とは、そこからは決して後戻りできないブラックホールの外界と内界との境界のことでした。

「事象の地平線から逃げ出せるのは、光より早いスピードを持つ者だけだって」

パパが大きな声を上げました。

「光より早い者なんてどこにもいないよ。だからブラックホールからはだれも逃げ出せないわけだ」

匠がパパに逆に解説を始めました。

事象の地平線を超えて、ブラックホールの中心に進むと、さらに怪しげな名前のところに到達しました。

そこは【特異点】“シンギュラリティー”と呼ばれています。

【すべての物質が、それ以上押しつぶされない限界にまで押しつぶされている】ところです。

「ここはまるで星や物質の墓場みたいだ」パパが低い声で呻きました。

(方々のサイトに出てくるこの画像は大変わかりやすいので、借用しました)

特異点に落ち込んだ星や物質は押しつぶされて存在が消滅すると言われていました。

ここは密度や重力が無限大に拡散していて、時空をねじ曲げている場所なのです。

物質が消滅するのなら、時間も空間も終わりを迎えるのかもしれません。

「飲み込まれた物質にも、ブラックホールにも、いつかは終わりがあるってことかな?」

匠がぼそっと言いました。

なんだか悲しそうな匠を横目で見て、パパは必死で別の学説を探しました。

「特異点と呼ばれるくらいだから、ブラックホールは無限に物質を食べることができるはずだ。食べた物質は消えるのかな? それともどこかへ行くのかな? ・・ちょっと待った!」

パパがなにかの記事を見つけて大声を上げました。

ホワイトホールの正体は、ブラックホールから生み出された新しい宇宙?

「別の学説が出てきた。この説だとブラックホールは無限大近くまであらゆる物質を食い尽くして、圧縮して、最後には腹一杯で我慢できずに爆発して、すべての物質をどこかへはき出すらしいぞ」

圧縮された物質はワームホールを通って、ホワイトホールに入り、爆発する。

そして新しい宇宙が誕生する。

無限に圧縮された圧倒的な質量と、光速に近いブラックホールの自転でできた強力な時空の歪みによって、自らを抑えきれなくなったブラックホールがついに大爆発を起こし、ホワイトホールから新しい宇宙を誕生させる。

・・ブラックホールが大爆発・ビッグバンを起こすことで、宇宙は圧縮と誕生を繰り返しているのかもしれない・・

これはニューヘイブン大学のニコデム・ポプラウスキーという学者が唱えた学説でした。

私たちの住むこの宇宙も、どこかのブラックホールの爆発から生まれたのかもしれないとこの学説は言っています。

新しい宇宙が別の宇宙のブラックホールから誕生したと主張すれば、この世界に宇宙はいくつも存在することになります。

この説は「マルチバース、多元宇宙論」といわれているものです。

この宇宙にあると推定されるブラックホールの数は5000万個と言われています。

「匠、エライ事だぞ。ブラックホールが新しい世界を生み出しているとすれば、この世にある世界の数は一体いくつになるのかな?」

パパと匠の背中がぞくりと震えました。

「異次元の世界は無数に存在する」

そんな怖ろしい世界観が浮かび上がってきたのです。

この説によると“新しい宇宙は古い宇宙であるブラックホールと、ワームホールでつながっている”とされていました。

ワームホールとは二つの宇宙をつなぐ虫食い穴です。

次の絵を見て想像してみてください。

左のブラックホールに吸い込まれた物質は圧縮され、真ん中のワームホールを通って、時空を超え、右側のホワイトホールからはき出される。

そして新しい宇宙ができあがるというのです。

「やった!ホワイトホールの正体見つけた! ミスター・ブラックの正反対の性格だ。分身みたいな奴だ。ミスター・ブラックが食べて、ホワイトがはき出す。新しい宇宙の入り口だ」

匠が大喜びで両手を突き上げました。

「物質にも、時空にも終わりはないらしい。この二つの宇宙をつなぐトンネル、ワームホールを自由に行き来することができれば、タイムトラベルが可能だということになるらしいぞ」

パパはもうすっかり興奮しています。

「パパ、もしかして僕らのこの宇宙も、ホワイトがはき出してできたものかもしれないよ。ホワイトを探せば、昔の宇宙へタイムトラベルができるってわけだ」

「しかしだ、匠、残念だけどホワイトホールはまだ理論上の仮の姿のようだぞ。パパにはまるで理解できない理論だけど・・」

そこまで言ってパパは頭を抱え込んでしまいました。

・・ブラックホールで押しつぶされて物質が素粒子になっても「情報は失われない」とか、「情報パラドックス」だとか、「ひも理論」とか・・まるで理解を超える話にパパはすっかり悩んでしまいました。

「悩まなくてもきっと大丈夫だよ、パパ! 昔はブラックホールも理論上の存在だったって言うよ。ホワイトおじさんもいつか、現実に姿を見せてくれるかもしれないよ」

「ワオ! 匠、また新しい記事が出てきたよ」

パパがなにか見つけて、叫びました。

「高名な車いすの物理学者、ホーキング博士が亡くなる少し前に、ブラックホールは別の宇宙に通じている可能性があるっていう発言をしたそうだ」

「やった!ミスター・ホワイトはきっと実在するんだ」

匠が大喜びして、跳び上がりました。

エピローグ

その晩、夕食を終えたパパと匠はテラスに出て、星空を見上げました。

「ホワイトはどこかな?」パパが匠に聞きます。

「パパ、もしかして僕らホワイトの中にいるのかもしれないよ」

匠がぶるんと身体を振るわすと・・。

「それとも匠もパパも、ブラックホールの特異点あたりで圧縮寸前かな?」

パパが答えて、二人は大笑いをしました。

 (おわり)

匠とパパの「宇宙シリーズ」続きはここからどうぞお読みくださいね。

「パパ正直に答えて! 宇宙人は本当にいるの?」 日曜日の朝、小学生の匠が、パパに突然の質問をしました。 「アメリカの海軍がパイロットに、UFO目撃したら、きちんと報告するように指導したそうだよ」 匠はテレビのニュースを聞いて、驚いてパパに聞いてきたのです。 パパはどう答えていいのか困りました。 「宇宙人がいる」という証拠はどこにもないし、「宇宙人はいないよ」というのも夢がなくてつまらないし・・。 「よっしゃ、エイリアンの調査開始だ!」

「パパ大変! 宇宙は膨張を早めてるんだって! 僕らの宇宙をどんどん膨れさせてる犯人は一体何者なの? 」  小学生の匠が、パパに突然質問をしました。匠は最近宇宙の出来事に夢中です。 ブラックホールの映像が発表されてから、匠から宇宙の質問が飛んできて、パパも大変です。 今日は“宇宙の膨張”です。

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下條 俊隆

下條 俊隆

ペンネーム:筒井俊隆  作品:「消去」(SFマガジン)「相撲喪失」(宝石)他  大阪府出身・兵庫県芦屋市在住  大阪大学工学部入学・法学部卒業  職歴:(株)電通 上席常務執行役員・コンテンツ事業本部長  大阪国際会議場参与 学校法人顧問  プロフィール:学生時代に、筒井俊隆姓でSF小説を書いて小遣いを稼いでいました。 そのあと広告代理店・電通に勤めました。芦屋で阪神大震災に遭い、復興イベント「第一回神戸ルミナリエ」をみんなで立ち上げました。一人のおばあちゃんの「生きててよかった」の一声で、みんなと一緒に抱き合いました。 仕事はワールドサッカーからオリンピック、万博などのコンテンツビジネス。「千と千尋」など映画投資からITベンチャー投資。さいごに人事。まるでカオスな40年間でした。   人生の〆で、終活ブログをスタートしました。雑学とクレージーSF。チェックインしてみてくださいね。

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