僕の名前はタンジャンジャラ。
みんなはジャラって呼ぶよ。
僕の暮らしてる2119年の未来から、100年前のぼくのおじいちゃんのブログに後編を投稿するね。
どうしてそんなことできるのだって?
「遺伝子の量子もつれ」使ったテレポーテーションだって言わなかった?
僕の脳みそと、とっしん爺ちゃんの「未来からのブログ」は、時空を超えて絶妙にもつれ合ってるんだ。
で、どこまで話したっけ?
そうだ、ザ・カンパニーで仕事中に居眠りして、スーツマンにたたき起こされたとこまでだ。
前編まだの人は今から読んでね。
でないと仲良く「量子もつれ」にならないからね。
【未来からのブログ「 今日はマイ・ブレーンをリースしてお金稼いできたよ」前編】
未来からのブログ「 今日はマイ・ブレーンをリースしてお金稼いできたよ」後編
「ブーン」
スーツマンにたたき起こされたジャラは必死で仕事したよ。
サンタ・タカシがものすごいスピードで計算して、新しい情報送ってくるので、僕の計算が間に合わない。
仕事が溜まり始めた。
前にもいったけど、1万人のブレーンがニューロン・ネットしてワーキングするんだから、一人でも計算が遅れたらエライことなんだ。
クラウドマスターの怒声が雲の上から飛んでくるんだ。
これでも僕、一級頭脳労働者だからプライドがあるよ。
僕のニューロン総動員で情報処理してさ、はさみ男と元カノのカーナにエイヤってデータを送り続けた。
はさみ男がいつもの癖で、僕からの情報を頭の中で、はさみの形した手で受け取るもんだから、ときどきぷつんと切れちゃうんだよ。
「お前、こんどやったら罰金だぜ」
脅かしてから、情報くくり直して送ってやったよ。
カーナは僕からの情報を頭の中のくちばしで器用に受け止める。
カーナはアマゾンの奥地の出身だよ。
カーナはキツツキって意味だ。
口とんがらかしてすぐ怒るからって、クラウドマスターが付けた愛称だ。
知ってるかい、彼女、夜は野性的でとってもミリキだぜ。
うーん、思い出してると、ジャラはなんだか興奮してきたよ。
早く仕事終わったら、となりのベッドに潜り込んでやろうかな。
カーナも一級頭脳労働者だよ。
ボデイーなしで、どうやって楽しむか教えてあげようか?
もち、スーツ脱いで裸になるんだ。
それから抱き合うんだよ。
シナプスいっぱい絡ませてさ、もつれ合うんだ。
凄いだろ!
ぱちぱち火花出るよ。
あれッ、となりのベッドからカーナのシナプスがもつれて、僕のニューロンに伸びてきた!
「ジャラジャラ!」
スーツマンから僕に警告だ。
スーツマンはクラウドマスターの一部分だよ。
僕の考えることクラウドマスターに筒抜けだから、どうしようもない。
ブレーン一振りして、妄想ぶっ飛ばして、ジャラはワーキングに集中したよ。
「ブーン」
・・・「ジャラ、これでいいかい」
昼近くなってNO1のラストマンから宇宙のエネルギーの計算結果がフィードバックされてきた。
僕やカーナには一級頭脳労働者として計算結果に責任がある。
フィードバックされてきた計算結果によれば、この世の宇宙のエネルギーの残量がクラウドマスターの予測値から大きく下回っていた。
「エライこっちゃ」
僕は慌ててクラウドマスターに報告した。
「そんなことはありえない。情報とエネルギーは形は変えても決して失われない。これは不変の法則だよ、ジャラ。計算をやり直しなさい」
クラウドマスターの厳しいアドバイスでみんなはもう一度検算してみた。
答えは同じだ。
この世の宇宙のエネルギーは質量変換分を足しても、見込みの数値から大きくへこんでいた。
クラウドマスターに報告したが、マスターは冷たく言い放った。
「君たちは間違っている。不変の法則は絶対だ。残業してでも計算をやり直しなさい!」
ジャラとカーナは、はさみ男とサンタ・タカシを入れて緊急ミーティングを実施した。
ジャラとカーナはスーツを脱いで裸になって部屋の隅に集まった。
これでクラウドマスターには僕たちの会話は聞こえない。
そこで、まず基本的な考え方を整理してみた。
- 残業はいやだから、計算は正しいことにする。
- 情報とエネルギーは形は変えても失われないというクラウドマスターの主張は否定しない。
- 1と2から結論を引き出す。
「結論がでました。エネルギーが誰かに盗まれています」
四人の報告を聞いて、クラウドマスターが怒った。
「この世の宇宙で盗みは有り得ない。この世の宇宙はすべての宇宙・・クラウドマスターその人が取り仕切っておる。たとえ盗まれたとしても、盗まれたエネルギーもこの世の宇宙の総量に含まれる」
「マスター、お言葉を返すようで誠に僭越ですが、この世の宇宙のマスターである人工知能AIも、ときには間違うことがあると、私たち人類の末裔は常々忠告しております」
四人が口をそろえ、断言した。
「ときには思考にも柔軟性が必要です」
「わかった。それでは謙虚に聞く。答えを述べよ」
ジャラが代表で答えたよ。
「この世の宇宙はエネルギーをお漏らししております」
「な、な、なんだと・・お漏らしだと? クラウドマスターはお漏らししているというのか?」
「その通りです。自覚症状がないにもかかわらず体内の水分が減る。それを人類はお漏らしと言います」
「続けろ!」
「我々人類は年を取ると、末期高齢者として引退を余儀なくされました。この世の宇宙であるクラウドマスターもそろそろお年かと・・」
マスターの顔が雲の上からがくりと落ち、声は哀願の響きを帯びた。
「わかった。で、対処方法はないのか?」
「一つだけございます」
「述べよ!」
「おむつを至急ご用意いたしましょう」
「うっ!ウッ。それ以外に方法はないのか?」
「ございません」
マスターの顔は一気にひからび、声がかすれた。
「せめて、かっこいいのを頼んだぞ」
「マスター! おむつのプログラミングはお任せください。宇宙のおむつは特大にして有名ブランドのデザインにいたします」
その日の午後は半休になった。
残されたエネルギーの持続可能な利用の計算はマスターが行うことで合意が図られ、一万人のワーカーには約束のフィーに特別報償金が加算されてそれぞれの口座に入金された。
・・午後のジャラはスーツマンを脱ぎ捨てて、となりのベッドに飛び込んでいったよ。
「ジャラ! 盗まれたエネルギーはどこへ行ったのかしら」
カーナが僕のニューロンにやさしくコンタクトしながら聞いてきた。
「多分ブラックホールからワームホールに漏れてるんだと思うよ。ジャラのエネルギーにもすこし頂いておいたよ」
そう答えて、ジャラはエネルギッシュにカーナのニューロンにもつれていったんだ。
(続く)
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下條 俊隆

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