こんにちは。
僕はタンジャンジャラ。
この記事は僕が暮らしてる2119年の未来から100年前、つまり2019年のぼくのおじいちゃんのブログに宛てて投稿してるんだ。
驚いた?
どうしてそんなことができるのかって?
ヤボ言わないでよ。
「量子もつれ」を利用してるのに決まってるじゃん。
僕のブレーンとおじいちゃんの「未来からのブログ」は、時空を超えて絶妙にもつれ合ってるんだよ。
わかった?
それじゃ今日の報告、ブログに投稿始めるね。
2119年2月16日 「 今日はマイ・ブレーンをリースしてお金稼いできたよ」(前編)
今日は、天気と体調がいいので、マイ・ブレーンをザ・カンパニーに半日契約でリースしてきた。
目的はもちろん家族の生活費を稼ぐためだよ。
家族と言っても二人の子供たち娘のアナと息子のボブは、3年前にハッピー・ワールドへ出かけたきり帰ってこないので、登録してるパートナーのキッカと僕の二人のことだね。
朝、ザ・カンパニーから迎えのスーツマンが約束の6時きっかりにやって来た。
スーツマンは小さな特殊ベッドで寝ている僕の枕元へやって来て、めざまし時計代わりに「ジャラジャラ!」とでっかい金属音を僕のブレーンに浴びせかけた。
どうして「ジャラジャラ」だって?
ッ!そりゃー決まってるだろ。
「タンジャンジャラ」は長すぎるから、僕を呼びときは誰でも「ジャラジャラ」とか「ジャラ」って愛称で呼ぶよ。
で、目覚めた僕は隣で寝ているパートナーの「キッカ」を起こさないように、スーツマンが差し出した両手にしがみついて彼のヘッドの中に「エイヤッ!」で移動した。
もうわかるだろ・・僕はブレーンだけの一級頭脳労働者だから、移動には僕を運んでくれるスーツマンが必要なのさ。
彼は僕専用の移動ロボットだ。
スーツマンの空っぽの頭の中に収まった僕は、カチャカチャやって彼と合体したよ。
「ジャラは出かけるよ」
スーツを着込んだ僕は、寝込んでいるキッカに小さく囁いて、一日をスタートしたんだ。
久しぶりの外出だからさ、うれしくなった僕は、ザ・カンパニーへはだいぶ遠回りだけど、海岸通りをぶらぶら歩いてみた。
頬を撫でる潮風が45度くらい、快適だ。
熱波じゃないかって?
ここ数十年は地球の温度はざっとこんなものだよ。
21世紀の終わりのある日に、温暖化現象で大気の温度が特異点を通り越してしまったから、地球はもう二度と元に戻らないそうだ。
地球環境のシンギュラリティーがあっという間に起こったんだって。
僕は今快適だよ。
スーツマンのヘッドの中は冷房してあるから、ちょうど小春日和ってところだ。
青い空を映して、茶色いはずの海が青くうねるのが面白くて、僕はしばらくぼーって海を眺めてた。
目が見えるって素晴らしいことだよ。
スーツマンの目を借りて僕は海の向こうをみていた。
遠ーい昔のことを思い出していたんだ。
そしたら「ジャラジャラ」がまたヘッドに来たよ。
「警告! ザ・カンパニーと約束の6時半まであと5分」
スーツマンがメッセージしてきたので慌てた。
スーツマンのフットを車輪に形態チェンジして、僕は転がるように走ったよ。
ザ・カンパニーまでは4分と15秒かかった。
約束の45秒前にゴールだ。
セーフ!
ネットワーキングに一秒遅れたら罰金一日だ。
なんたって1万人のブレーンがニューロン・ネットしてワーキング始めるんだから、一人でも遅れたらエライことなんだ。
ニューロン・ネットは知ってるよね。
みんなの脳みそをネットワークして、究極のコンピューター作ることだよ。
人間のブレーンがスパコンの材料としては最高級なんだって。
そのうえ電気代がとても安くすむそうだ。
今日は一万人がブレーン持ち寄って量子もつれでワーキングするんだ。
一級頭脳労働とか二級単純労働とか、それぞれ役割分担があるんだ。
だから、一人でも集合に遅れたらワーキングリスクが倍になる。
だから、罰があるんだ。
罰金一日と言うことは、その日はただ働きと言うことさ。
ザ・カンパニーのエントランスでボディー・チェックがかかった。
僕は一級頭脳労働者だから、脳みそチェックのことだよ。
「ウエルカム、ジャラ。すこし痛いよ」
頭上からクレーンが降りてきて、スーツマンのボデイーと僕のブレーンを特殊放射光でザザーッとスクロールしていった。
「スクリーニング完了。バグなし、ウイルスなし、量子もつれ状態良好。ジャラ! ワーキングルームに急いでください」
クレーンが叫んだ。
僕は車輪をフットに戻して、タッタッと早足でみんなの待ってるワーキングルームに駆け込んだ。
完全消毒、完全冷却のめちゃ広ーい部屋だ。
奥は地平線みたいにかすんで見える。
9998人がネット完了して最後の二人を待っていた。
「遅ェーぞ、ジャラ!」
ベッドに腰掛けた一級級労働者のはさみ男が、僕に向かってはさみ振りかざした。
彼は普段は散髪屋だ。
仕事が暇なときには切り裂きジャックとなって、殺しで稼いでいるらしいぞ。
「ジャラ、わたしのベッドにこない?」
元カノのカーナがこんなとこにいて、甘ーい声で誘ってきた。
「ヤーヤー」ってみんなに挨拶して、ジャラはスーツ姿のままNO.9999のベッドに潜り込んだよ。
最後のNO.10000は誰か知りたいかい?
知れたことさ!
「サンタ・タカシだよ」
お笑いアーテイストは時間に遅れてくるのに決まってんだ。
みんな知ってることだけど、サンタ・タカシはデザイナーズ・ベビーだ。
これ内緒だけどさ、デザイナーズ・ベビーのDNA料金の中でも「サンタ・タカシ」は歴史に残る最高額だったそうだ。
日本の円で一兆円だったそうだ。
一人分の単価で5000億円で二人分で倍で一兆円だ。
サンタもタカシも最高級のお笑い芸人だったもんな。
ジャラもときどき昔のビデオで見るよ。
脳みそひっくり返って笑うぜ。
親権代理で投資したのはもち、ザ・カンパニーのクラウドマスターだよ。
将来、エンターテナーで稼いだとして、10兆円のリターンを見込んで10分の1の投資だ。
それがさ投資は大失敗したのさ。
「サンタ・タカシ」はお笑いで一円も稼げなかった。
理由が聞きたいだろ?
くっくっ! 笑うなよ!
お笑い芸人は、エンターテナー同士で掛け合いして客を笑わすのさ。
それがさ、二人のDNAを一つの細胞に入れちまったもんだから、そこで二人の掛け合いがはじまったんだ。
受精した卵子が成長する過程でさんざん掛け合いが行われた。
だから、成長したサンタ・タカシはネタが尽きて、他の芸能人と掛け合いができなかったのさ。
ここんとこ、図解して説明するね。
狂気(天才)×狂気(天才)=単なるもつれ(凡人)
つまりサンタ・タカシはちっとも面白くなかったってわけ。
・・・
「おはようございます!」
よく見た顔したサンタ・タカシが到着した。
「やー、ジャラ、元気かい」
騒々しい音を立てて、僕のとなりのベッドに潜り込んだ彼は、とんでもない高給取りなんだ。
エンターテナーでは稼げないけど、ブレーン・ワーカーとしては僕の十倍は稼いでるはずだ。
掛け合いはできないけど、他人ともつれるパワーは凄いからだ。
彼は、ベッドに潜り込んだとたん、9999人のブレーンとあっという間にもつれてしまった。
僕も慌ててマイ・ブレーンのシナプスを思い切り伸ばしてはさみ男やカーナやまわりの数人とネットワークしたよ。
「ブーン! みんな用意はできたかな? 仲良くもつれてくれたかな?」
羽根を震わすような音がして、頭上からクラウドマスターの声が降ってきた。
・・ブーン! 今日のタスクは簡単だ。
午前中はこの世の宇宙の総エネルギーの残量を算出して、午後はそのエネルギーの持続可能な
利用方法を計算する。
それじゃ始めるよ。
いつもの通り、頭の力抜いて僕の指示通りにしてくれればいいんだ・・
僕のブレーンはザ・カンパニーにリースされてワーキングルームは一万人のブレーンがネットワークされた。
ニューロ・スパコン完成!
「ブーン」
ワーキング開始だ。
僕は一生懸命に計算を始めたよ。
しんどいけどさ、パートナーのキッカのことや息子のボブや娘のアナのことを考えて我慢したよ。
「ブーン」
そのうち眠たくなってきた。
「ジャラジャラ!」
スーツマンにたたき起こされて僕はまた計算を始めたよ。
(続く)
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下條 俊隆
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