この世の果ての中学校 6章 七人の調査隊と消えた巨人

筒井俊隆のSFファンタジー

の~んびりした人類絶滅物語です。

ワームホールを無事くぐり抜けて、銀河系宇宙を飛び出した宇宙艇シンギュラリティーHAL号は、異界に並ぶ3つの惑星を発見します。

惑星の1つは、はぐれ親父が昔、巨人に襲われた緑の惑星でした。

子供たちとハル先生の七人で惑星の調査隊が編成されます。

探検に出た調査隊は七人の森の小さな家族と遭遇します。

彼らは調査隊のメンバーと瓜二つでした。

彼らは何者で、巨人たちは一体どこに消えてしまったのか?

宇宙船に残されたはぐれ親父は不吉な予感に襲われます。

前回のストーリーはここからどうぞ。

この世の果ての中学校 5章 三界はぐれと異界の旅

6章 七人の調査隊と消えた巨人

「ブラックホール脱出成功! 外宇宙に到着!」

 はぐれ親父が高らかに宣言した。

「前方、直線上に惑星を三つ確認」

 パイロットのエーヴァ・パパがスクリーンに小さな惑星が三つ直線上に並んでいるのを見つけた。

 この宇宙にも太陽のような恒星がはるか彼方で真っ赤に燃えていて、3つの惑星を鮮やかに浮かび上がらせていた。

 手前の二つの惑星は緑色、一番遠い惑星は茶色に輝いて見えた。

「一番手前が今日の目標の第一惑星だ。地球時間で3年前のことだ。俺が一人乗りのスペース・モバイルで漂着したときには、危険な巨人が棲息していた。姿は人間だが、俺の三倍はあるでかい奴だ」

はぐれ親父はその時のことを思い出していた。

「食料になる生き物がいないのか、彼らは、お互いに食い合ってたみたいだ。俺も危なく食われるところだったぜ」

宇宙艇の計器を手動に切り替えたパイロットの手が思わず止まった。

「おい、親父!そんなところに着陸して、生徒達大丈夫なのか?」

「あの状態じゃ、巨人は絶滅している可能性が高いと思うが、いきなり着陸するのは極めて危険だ。まず上空から偵察してみたいが、あそこの森林地帯の上空でホバリングができるかな?」

「了解した。目視できる距離まで地上に接近する」

 宇宙艇HALはパイロットの自動操縦で低空飛行に移った。

「お前たち、仕事だ。それぞれ窓際に張り付いて地上の動きを目視してくれ」

はぐれ親父の指示で、生徒たちは左右の窓際に別れて、草原や森の中に生きものの動きがないか目をこらした。

「ここの緑は目に滲みるぜ!」

 裕大が目を細めた。

「下界は山盛りのサラダね。おいしそう」

 咲良が唇をなめた。

 宇宙艇HALは、ホバリングしたり横に移動したりしながら、山や森の探索飛行を重ねたが、生徒たちの目線の先に、動く影はどこにもなかった。

・・・山の稜線ぎりぎりの低空飛行に移ったとき、裕大が小さな動きを捉えた。

「右前方、川の向こうの森に動くものがみえます。4~5人のグループのようです。二足歩行してます!」

 ハル先生が宇宙艇に備え付けた監視カメラを動かして、群れの姿を探し当てた。

 操縦室の前面スクリーンに小さな群れが影のように映し出された。

 「ハル先生! ズーム最大アップだ!」

 カレル教授がシートから乗り出して、ハル先生に叫んだ。

 全員がスクリーンいっぱいにアップされた映像に思わず息を呑んだ。

 彼らはどう見ても人間だった。

 森を抜けていく数人の一団は、まわりの木々の大きさと比較して、人間の子供の背丈ぐらいだった。

 彼らは家族のように見えた。

 はぐれ親父が拍子抜けした声を出した。

「巨人じゃないぞ。なんだこれは・・俺たちと同じ人間じゃないか」

 カレル教授がはぐれ親父をからかった。

「残念だが親父の大好きな巨人はこの辺りにはいないようだ。親父さん、巨人は歪曲空間の影響で起こった錯覚だったようですな」

「あの群に危険はなさそうだから、川のこちら側に着陸して様子をみることにしましょうか」

 エーヴァパパの大胆発言に親父がうーんと考え込んだ。

 パイロットは宇宙艇を降下させて、川岸の上空で静かにホバリングをして様子をみた。

 その時森の群れの映像が揺れ動いた。

 群れの全員がスクリーンの中から、こちらをにらんでいた。

 ホバリングの音に気が付いて、森の外れを歩いていた群れが宇宙艇を見上げていた。

「私たちに気がついたみたいです! こちらをみています」

 窓越しに群れをみていた咲良とエーヴァが思わず手を振った。 

 群れの中の小さな二人が手を振って応えたように見えた。

 宇宙艇が川岸に砂を巻き上げて接近すると、群れは慌てて森に消えていった。 

  宇宙艇は群れの消えた森から離れ、川の手前に静かに着陸をした。 

 はぐれ親父が宇宙艇から一人で飛び出していった。

 親父は群れの消えた森に入りあたりを調べたが、彼らの姿は消えていた。

「森から群れの気配が消えて、静かなものでしたよ。俺たちを警戒しているようです」 

 宇宙艇に戻ってきた親父から報告を聞いたカレル教授が、しばらく考え込んだあと、大胆な提案をした。

「親父さん、群れは小人数の家族のようだし、体格も生徒と同じくらいだ。どうだろう、あの群れとの接触を思い切って生徒たちに任せることにしたらどうかと思うのだが」

それを聞いたはぐれ親父が猛反対した。

「教授、それは無茶だ」

・・俺のような大人が出て行くと群れに警戒されるから、確かにいい計画だと思う。しかし巨人が100%いないことはまだ確認できていない。生徒だけでは危険過ぎる・・

 どうしても巨人のことが気になる親父の意見に、「うーん」と考え込んだ教授をみて、はぐれ親父が付け加えた。

「それでは、生徒の引率をハル先生にお願いして、万一の危険に備えて男子生徒に電子銃を持たせるということでどうでしょう。女性のハル先生なら群れにも警戒されないでしょう」

・・・ハル先生が大喜びで賛成して、直ちに生徒六人とハル先生の七人の調査隊ができあがった。

「ハル先生、我々はいつでも出動できるように宇宙艇で待機しますので、先生はナノコンの端末からの映像中継を絶やさないで頂きたい。いいですか、常時ですよ」

 はぐれ親父がハル先生に念を押した。

「さーみんな、行くわよ! 未知とのコンタクトよ!」

 ナノコンをナップザックに収めたハル先生が、生徒六人に号令をかけた。

 リーダーのハル先生を先頭に、七人の調査隊が宇宙艇のデッキから緑の大地へ飛び出した。

 森に続く川は流れも緩やかで、浅瀬が続いていた。

 浅瀬には人の歩幅に合わせたように、小さくて平らな岩が点々と向こう岸まで続いていた。

「これきっと、あの人たちの作った飛び石よ。この川はあの人たちの生活圏なのね」

 ハル先生が石伝いに川を渡り始め、生徒達も後に続いた。 

 向こう岸にたどり着いた一行は、群れが消えていった森を目指した。

 森の手前まできて、ハル先生がはぐれ親父の警告を思い出した。

 先生はナップザックからナノコンを取り出し、自分の目と耳で捉えた映像と音声を宇宙船の操縦席のスクリーンに自動的に届くようにセットした。 

「確か・・この辺りよ!」

 咲良が宇宙艇の窓から、群れが消えた場所の目印に見つけておいた、黄色く紅葉した一本の巨木を指さした。

たしか・・このあたりよ

 咲良とそっくりの声が木の陰から返ってきた。

 驚いて身構えた生徒たちの前に、七つの人影が浮かび上がった。

 影は、ハル先生と六人の生徒の前に一つずつ相対して立ち、静かに揺れていた。

 黒い影が色彩を帯びてきて、姿を現した。

 迷彩服の男子が三人、派手なトレッキング姿の女子三人と大人の女性が一人。 

「嘘だろ? 俺とそっくりじゃないか」

 先頭にいた裕大が叫んで、相手をよく見ようと一歩前に出た。

「ウソだろ、おれとそっくりじゃないか」

 群れから大柄な少年が一歩前に出て、叫んだ。

 少年は裕大と双子のように似ていた。

 裕大が慌てて身を引くと、相手も慌てて裕大から離れた。

「きゃっ! なんてこと!」

 ハル先生が、ナノコンを抱えた自分を見て、悲鳴を上げた。

「キャッ! なんてこと!」

 向こうのハル先生が甲高い声を上げた。

「あなたは誰?」

 エーヴァがエーヴァに尋ねた。

「あなたはだれ?」

 向こうのエーヴァが答えた。

「そこに匠がいる」ペトロが匠を見つけた。

「そこにたくみがいる」ペトロの声がはね返ってきた。

「ペトロだ」匠がペトロを指さした。

「ペトロだ」向こうの匠がこちらのペトロを指さした。

「咲良とマリエがいる」咲良とマリエが同時に叫んだ。

「サラとマリエがいる」群れから二人の声が返ってきた。

 七人の調査隊と七人の群れが、向かい合ったままで立ちすくんでしまった。

 二つの群れは大きな鏡に向かい合っているように同じ姿をしていた。

(コンタクト! 冷静にコンタクトよ!)

 胸のナノコンがハル先生に囁いた。

「今日は!」

 ハル先生は、群れのハル先生につかつかと近寄って、思い切って右手を差し出した。

「こんにちは!」向こうからは左手が差し出された。

 二人はおかしな形で握手をした。

 裕大がハル先生に見習って、右手を差し出した。

 相手から左手がかえって来て、ねじれた握手になった。

(これは、擬態です!)

 ハル先生のナノコンが計算を開始して、即座に相手の正体を見破った。

 群れはこちらの姿と動きを、写し鏡のように真似していた。

 ハル先生はにっこりと顔中で笑った。

 それから両手で相手の片手をしっかり握りしめて動けないようにした。

「これで真似は出来ないわよ」

「これでまねはできないわよ」

 群れのハル先生は片手しか動かすことができなかった。

 まねのできないハル先生の姿が崩れていった。

 群れは一瞬に姿を消して、目の前に新しい五人の子どもたちが現れた。

 それは群れの本当の姿だった。

 五人は生徒たちと同じくらいの背丈で、男の子が二人に女の子が三人。

 全員、肌の色は濃い茶色で、髪の毛は黒。

 葉っぱで縫い合わせた緑の服を着ていた。

 五人は被っていた緑の葉っぱの帽子を脱ぐと、背中の袋に丁寧に仕舞い込んだ。

 それから女生徒たちのグリーンベレーと緑のブレザーに背中のナップザックを指さして、クスクスと笑い出した。

 二組のファッションは擬態する前から、よく似ていた。

 ハル先生と花の三人組も思わず吹き出してしまった。

(そうか、擬態は友好の意思表示、ご挨拶だったのね)

 ハル先生は生徒達に群れの擬態は友好の意思表示だと思うと伝えた。

 それから友好のお返しに、目の前の大柄な少年に、英語で話しかけてみた。

「初めまして、私の名前はハル」

 少年は小首をかしげた。

 ハル先生はナノコンを開いて、地球の数十カ国の言葉で話しかけてみたが、反応がなかった。

(銀河系の外側で、地球の言葉が通じる訳ないわね)

 困った先生は、自分を指さして「ハル」と言ってみた。

 少年は意味を理解したようだった。

 自らを指さして「ファー」と言った。

「マー」

 大柄な隣の少女が続いた。

「キッカ」「カーナ」

 二人の少女が挨拶した。

 最後に小さな男の子が・・

「クプシ」と元気に叫んだ。

「あら、さっきは確か七人いたのに・・」

 気がついたマリエが周りを見渡した。

 咲良とマリエの前にいた群れの二人が消えていた。

「これって凄い技よ。元々5人だったのね。一人二役、だれかが分身して擬態してたのよ」

 咲良が森の群れの技に感嘆して、コンタクトを始めた。

「さー、こちらも順番にご挨拶でお返しよ」

「サラ」「ゆうた」

「エーヴァ」「たくみ」

「マリエ」「ペトロ」

 生徒たちが順番に名前を名乗って、森の家族が復唱していった。

 森からさわやかな風が一陣、吹いて、二組の間の緊張を吹き飛ばしていった。

 小さなクプシがハル先生に近づいて、なにか話しかけて来た。

 ハル先生は首を横に振って、謝った。

「御免ね、クプシの言葉、私のナノコンのデータにないのよ」

 クプシは川向こうの宇宙艇を指さして、また同じ言葉を喋った。

 横にいたエーヴァがそれを聞いて、ハル先生の耳元で囁いた。

「クプシは私たちに、あの大きな鳥に乗ってどこからやって来たのかと聞いています。先生、驚かないで下さいよ。これは南米アマゾンの奥地の言葉のようです。わたしこの人たちの言葉がすこしだけどわかるみたいです」

 エーヴァの囁き声に、ハル先生は目を丸くして驚いた。

「こんなところでアマゾンの言葉喋ってるっていうの? エーヴァ、馬鹿なこと言わないで・・」

 混乱したハル先生は胸のポケットのナノコンを乱暴にどんと叩いた。

 ナノコンが作動して、エーヴァの過去のデータを探した。

【報告。エーヴァの母親は著名な言語学者。エーヴァは小学生の頃、母親に連れられてアマゾンの奥地で、文明世界と隔絶した森の住人イゾラドと数ヶ月の間、共同生活していた】

「驚いたわ、エーヴァ。アマゾンの言葉だってこと、事実なのね。この人たちとの会話、あなたに任せたわよ」

 エーヴァの言語能力に驚嘆したハル先生は、群れとのコミュニケーションをエーヴァに委ねることにした。

(でも、この惑星でどうして地球のイゾラドの言葉が使われているの?)

 ハル先生は深く考え込んでしまった。

「あれは鳥じゃなくて、空を飛ぶ乗り物よ。私たちとっても遠い惑星からあれに乗ってやってきたの」

 エーヴァがクプシに答えた。

「僕らの先祖だって、とっても遠い処から飛んできたんだよ」

 クプシが口をとがらせ、負けずに言い返した。

「遠いところってどこかしら、教えてよ」

「そりゃーもう、クプシも知らないぐらい、遠ーい、ところさ」

「クプシってアルマジロさんのことでしょ。空を飛べるわけないんだけどな・・」

 エーヴァがクプシを指さして、口をとがらせ、首をすくめ、四つ足でよたよたと歩いた。

 クプシが嬉しそうにケラケラ笑った。

「キッカはキツツキで、カーナはたしかお猿さんよね」

 エーヴァが側の巨木にひょいと登って、キツツキと猿のもの真似をした。

 キッカとカーナが喜んで、地面にひっくり返って笑い転げた。

「ファー、あなたはきっとパパね。そしてマー、あなたは三人のママなのね」

 ファーとマーが頷いた。

 群れは五人家族のようだった。

  森からやってきた五人の家族と、地球からやってきた七人の調査隊は、森に続く柔らかい大地に腰を下ろして、身振り手振りでお喋りを始めた。

 お互いの服装を調べたり、耳や鼻や髪の毛に触ったりしてクスクス笑い合った。

 宇宙艇の操縦室で、はぐれ親父とカレル教授、それにエーヴァ・パパの三人が、スクリーンに映し出されていく二つの群れの交流の様子を食い入るように眺めていた。

「エーヴァがアマゾンにいたことは事実かね?」

 はぐれ親父がエーヴァパパに聞いた。

「ほんのしばらくの間だよ・・エーヴァがイゾラドの言葉を覚えていたとは驚いたな」

 パイロットが答えると、はぐれ親父が頭を抱え込んで、ぶつぶつ話し出した。

「聞いてくれ! 俺にはあの群れは謎だらけだ」

・・まず一つ。

 擬態だ。

 天敵が見当たらないのに、なぜ擬態の必要があるんだ。

 二つ目、森の家族のファーとマーは子ども達と背丈がほとんど違わない。

 父親と母親にしては、不自然だとは思わないか? 

 あれは単なる役割分担かもしれない。

 それなら彼らの親はどこにいった。

 三つ目。

 これが最大の謎だ。

 どうしてあの家族は地球のアマゾンの奥地の言葉なんか話してるんだ? 

 おい、誰か教えてくれ!・・

 それを聞いたカレル教授の目が狂気を帯びてきて、怪しく光った。

「答えは簡単だ。この惑星は地球の分身だ。急激に温度が上昇した地球から慌てて逃げだして来た緑の大地、つまりアマゾン川の流域に間違いない。クプシたちの先祖はアマゾンの大地にくっついて宇宙を飛んだのだ」

「エライこっちゃ。天才教授の脳みそがぶっ飛んでもうた」

 はぐれ親父がうめいた。

 パイロットのエーヴァ・パパが、冷静に正しい解を探り出していく。

「宇宙船も知らない彼らが、どうして遙か彼方の地球の奥地の言葉を話すのか? 正解はこうだ。昔、この惑星にやってきた誰かが、ここに住んでいた彼ら原住民にアマゾンの言葉を教えたんだ。そんな馬鹿な真似をしたのは一体誰だ」

 エーヴァ・パパがはぐれを振り向きざま怒鳴った・・「それは親父、お前さんや」

「アホ言うな・・俺やない。俺は若い頃アマゾンにも何度か探検に行ったから、森の家族の言葉が少しは理解できるが教えるほどじゃない。ここへ来たときも、奴らが食い合いしてる横を、命がけで逃げ伸びるだけで精一杯だった」

 はぐれ親父の不安が膨らんでいった。

・・俺を襲った巨人はいったいどこへ消えた?

 もしかしたら、森の群れの擬態は巨人から隠れるためじゃないのか。

 どこか近くに巨人が潜んでいるとしたら、生徒たちはただ事ではすまない・・

 はぐれ親父は、ぞくりと震えてハル先生との緊急連絡ボタンを押した。

「ハル先生、こちら、はぐれ。前回、ここで出会った巨人のことがどうしても気になります。巨人がどうして姿を消してしまったのか、ファーかマーから聞き出してくれませんか?」

 緊迫したはぐれの声で不安になったハル先生は、エーヴァの通訳で、巨人のことをファーに尋ねた。 
 ファーは巨人が消えたいきさつを話してくれた。

 程なく、ハル先生からはぐれ親父に報告が入った。

「巨人がいたことは事実です。

 ファーの話では、食料がなくなって弱っていった巨人が、お互いに共生して・・つまり食べ

合って、その数が確実に減っていったそうです。

 数年前にただ一人となった最後の巨人は、山の頂きで爆発して、粉々になって消えていった。

 だからこの星には巨人はもういない。

 残っているの自分たちだけだ。

 ファーの話は切れ切れでわかりにくいのですが、つなぎ合わせるとこうなります」

 ハル先生の報告を聞いたあとも、はぐれ親父はどうしても納得がいかなかった。

「ハル先生! いやな予感がします。周囲や、森の群れへの警戒を決して怠らないようにして下さい」

 親父から念を押されたハル先生は、周りを見渡した。

 森は静かで、どこにも不自然なことは見当たらないし、森の家族と生徒たちとの交流もうまくいっていた。

 ハル先生はナノコンを胸のポケットに収め、一息ついた。

 大柄なファーが、心配そうな顔付きでそばに寄ってきて、ハル先生の肩にそっと手を置いた。

ノモラ?

親しげにファーが聞いた。

「ノモラって友達って意味です。先生は友達かって、聞いてますよ」

 エーヴァが横から通訳した。

「ノモラ、私たち友達よ」

 ハル先生が気軽に答える。

「×××」

 ファーが意味の分からない言葉を喋って、触診でもするようにハル先生の手首を握った。

「ファーはハル先生のことを『光る子』と呼んでますわ。輝くような美人ってことかな」

 エーヴァが冗談っぽく通訳する。

 ハル先生は、自分の身体がホログラムで偽装したものであることを、なぜかファーが見破っていることに気づいた。

 ファーの擬態の技術もホログラムの一種だから、私の身体が光の粒子で出来ていることがファーには見えている。

 優しいファーは友達になったハルの身体の状態をとても心配してくれているんだ・・と思う。

「ノモラ?」

 ファーがハル先生に「友達か」と念を押した。

ノモラ

 ハル先生がしっかりと答えた。

 ファーの黒い目が、深い哀しみを湛えて輝き始めた。

 その目から涙に似た薄い光が溢れ出して、肩に沿って胸に落ち、ファーの全身を包んだ。

 光は柔らかく揺れ動いて、新しい形を作り始めた。

 ファーの姿がかき消えて、そのあとに女性の輪郭が現れた。

 派手なトレッキングスタイル。

 それはもう一人のハル先生だった。

 その女性は本物のハル先生に覆い被さってきて、口を大きく開けた。

「ファー、冗談止めなさい!」

 ハル先生が笑って言った。

「危ない。逃げろ!」

 ライブで送られてくる映像を、身を乗り出して見ていたはぐれ親父の叫び声が操縦室に響いた。

 電子銃を引っ掴むと、親父は宇宙艇のデッキから飛び出していった。

(続く)

続きはここからご覧ください。

地球に残された六人の中学生は、異界の惑星テラで、不思議な森の家族と遭遇した。 彼らはコピーのように生徒達と同じ姿だ。 森の家族のリーダー、ファーがハル先生の擬態をして先生に襲いかかった。 ハル先生は食べられてしまうのか? 森の巨人たちは一体どこに消えたのか? 森の家族の正体に迫ります。  

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下條 俊隆

下條 俊隆

ペンネーム:筒井俊隆  作品:「消去」(SFマガジン)「相撲喪失」(宝石)他  大阪府出身・兵庫県芦屋市在住  大阪大学工学部入学・法学部卒業  職歴:(株)電通 上席常務執行役員・コンテンツ事業本部長  大阪国際会議場参与 学校法人顧問  プロフィール:学生時代に、筒井俊隆姓でSF小説を書いて小遣いを稼いでいました。 そのあと広告代理店・電通に勤めました。芦屋で阪神大震災に遭い、復興イベント「第一回神戸ルミナリエ」をみんなで立ち上げました。一人のおばあちゃんの「生きててよかった」の一声で、みんなと一緒に抱き合いました。 仕事はワールドサッカーからオリンピック、万博などのコンテンツビジネス。「千と千尋」など映画投資からITベンチャー投資。さいごに人事。まるでカオスな40年間でした。   人生の〆で、終活ブログをスタートしました。雑学とクレージーSF。チェックインしてみてくださいね。

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