ウエブ望遠鏡が115億年前の銀河団に「宇宙の結び目」を発見! 大量の暗黒物質の存在も!

2022年10月20日、NASAはジェームス・ウエブ宇宙望遠鏡が捉えた宇宙初期の巨大銀河団の赤外線映像を公開しました。

公開されたのは115億年前、宇宙の始まりであるビッグバンから20億年が経過したばかりの初期の宇宙で、非常に赤いクエーサー(銀河の核)の周りに形成中の巨大銀河団。この度、明らかにされたのはその驚くべき形状と動きです。

天体は1つの銀河ではなくて、3つの銀河がもつれ合いながら高速度で回転していたのです。3つの銀河は尻尾の端が結びついていて、画像を見た研究チームは「宇宙の結び目だ、驚くべき発見だ」と報じています。

このクエーサーは遠く離れた宇宙に存在し、とても明るく輝いているので、ハッブル望遠鏡のような光学望遠鏡では恒星のような点光源になって捉えられていました。小さな点なので内部構造がまるで見えません。

今回は、赤外線望遠鏡であるウエブ望遠鏡によって驚くべき内部の構造が明らかにされたのです。

研究チームは、「宇宙の結び目」に目に見えない謎の物体・大量の暗黒物質ダークマターが存在するかもしれないと言っています。

 

“初期宇宙の銀河の謎を探るウエブ望遠鏡の旅!”

NASA公式サイトに載せられた研究チームの発表からその概要を紹介します。

 

115億年前の3つの巨大銀河のもつれ、高密度の「宇宙の結び目」とは?

 

クエーサー SDSS J165202.64+172852.3
(NASA公式サイト)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この画像は、ジェームズ・ウエブ宇宙望遠鏡によって始めて撮影された115億年前の巨大銀河団の姿です。上部の左の画像はハッブル宇宙望遠鏡で撮影された画像でターゲットのクエーサー 「SDSS J165202.64+172852.3」 が菱形のマークの中で小さく浮かび上がっています。右の画像と、下の画像がウエブ望遠鏡による新しい観測結果の画像です。

下部に並ぶ画像の右端がウエブ望遠鏡の赤外線反応により明らかとなった構造です。形成中の3つの銀河がもつれ合って、中央で尻尾が結ぶ目のようになっているのが確認できます。

 

3つの銀河は秒速700kmという驚異的な速度でお互いを周回しており、離ればなれにならないように1つの「結び目」でホールドされています。ここには大量の質量が存在することも確認できたそうです。チームはこれが初期宇宙における銀河形成の中で最も密集した領域だと言っています。

 

このクエーサーが異常に赤いのは、本来の輝きが赤色であることに加えて、銀河の光がウエブ望遠鏡に到達するまでに要した115億年のあいだに「赤方偏移」したためです。「赤方偏移」というのは宇宙が膨張しているので波長も引き延ばされて波長の長い色である赤色になる現象です。赤外線に高度に反応するウエブ赤外線望遠鏡によって、始めて内部構造を詳しく調べることができました。

 

これまで、ハッブル宇宙望遠鏡や他の天文台による研究で、「銀河風」によるクエーサーの外部への流出現象が見られることから、天文学者はクエーサーのホスト銀河が何か目の見えない相手と合体しているのではないかと推測していました。しかしウエブ望遠鏡の近赤外線分光器のデータから発見された事実は意外な結末でした。一つの銀河だけでなく、少なくとも3つの銀河が渦を巻いている銀河団であることが明らかになったのです。

 

研究チームは、このクエーサーに3つの銀河の存在を確認し、それらがどのように結びついているかを明らかにしました。「この赤いクエーサーは銀河形成の密な結び目の役割を果たしている」と結論を出しました。チームは銀河団全体の中心部を見ていた可能性があるとして、宇宙初期の高密度な宇宙の結び目(Dense Cosmic Knot in The Early Universe)と呼んでいます。

暗黒物質の2つのハローが合体している領域かもしれない!

 

チームのリーダーであるWylezalekによれば「暗黒物質の2つの巨大なハローが合体している領域を見ている可能性がある」としています。

暗黒物質 Dark matter とは銀河と銀河団をまとめている目に見えない構成要素であり、銀河を包み込む球状の領域ハローhaloを形成すると考えられています。

 

一般的に、ダークマターは目に見えない存在ですが銀河の集団である銀河団の運動をサポートするのに不可欠の仮説上の存在です。銀河団の中にある銀河の運動は重力に影響されるので、銀河の運動を調べると銀河全体の総重量が推定できます。ところが実際に銀河の質量やガスの重量を足し合わせても必要な総重量の5分の1程度しかないことが明らかになっています。

 

とすると、宇宙には目に見えないが存在する重量がどこかにあるはずなので、これを暗黒物質ダークマターと呼んでいます。ダークマターは宇宙で均一に広がっているのではなくて、銀河が観測される場所には多く存在し、銀河のない場所では少なくなっているそうです。ダークマターの正体はいまだに不明です。今回の初期宇宙時代の宇宙の結び目がダークマターの二つのハローが合体している状態であるとすれば、この研究はダークマターという宇宙の謎の解明に一歩近づいたかもしれません。

 

NASAのチームの記事解説はここまでですが、専門家でない記者の勝手な解釈は次の通りです。

この結び目は高速で回転する銀河団を離ればなれにしないようにつないでいるゾーンであり、そのために引力を作る大質量・ダークマターが集まっているハローがそこにあるはず。目に見えないダークマターが大量に存在するという予測は、引力の形成に必要な大きな質量が銀河団の核に必要だから・・・。 

 

宇宙の構成要素である“質量とエネルギー”のうち、ダークマターは星やガスなどを構成する目に見える普通の元素(バリオン)の約6倍が存在するとされています。このクエーサーの場合は、回転する銀河の質量と高速回転による脱出のチカラを考えると、引きとどめる引力は、膨大な質量を必要とすると推定されます。「高密度の領域」という記述はそのことを意味しているのかもしれません。

 

・・・この巨大銀河団のダークマターは、「目に見えない」つまり光を吸収するか反応をしない。「銀河団の中心・銀河核にいて」高速でまわっている銀河をつなぎ止めるだけの「膨大な質量」を持っている。

「そんな物体の正体とは一体何者なのか?」

ここまで記事を書いて来て記者の背筋がチリチリとしてきました。

ダークマターは原始ブラックホールとそっくりじゃないか?」

 

ダークマターと原始ブラックホールは同一人物?

 

これは今世紀最大の宇宙のテーマの一つ。原始ブラックホールとダークマター同一説は、1970年代にホーキング博士達が始めて提唱した説で、現在では色あせた考え方とされています。

「ホーキング博士の説が蘇った?」飛び上がった記者は、慌ててNASAの記事から、結びのセンテンスをもう一度確認しました。研究チームのレポートの結びのセンテンスは次のようになっています。

 

「今回、Wylezalekのチームが実施した研究はウエブ望遠鏡による初期宇宙の調査の一部です。チームはこの予想外の原始銀河団の追跡調査を計画中です。このような密集した無秩序な銀河団がどのように形成されたか、その中心にある活動中の超大質量ブラックホールによってどのような影響を受けるのか解明したいと考えています

 

結びのコメントでは、ダークマターと原始ブラックホールの関連性について一切触れていませんが、関連性を示唆していることが読み取れます。記者は慌てて他のサイトをひっくり返して、ヒントを探してみました。「ダークマターとブラックホールは同一人物?」で検索すると2つの代表的な記事がみつかりました。

 

二つの記事のタイトルは次の通りです。

記事1.「ブラックホールと暗黒物質 — それらは同一のものですか?」

(2021年12月12日付けのYale News)

記事2.「宇宙の暗黒物質がブラックホールであることは否定された」

(2018年10月2日付けのBerkelei News)

 

記事2のバークレー・ニュースはブラックホールと暗黒物質が同じであることを否定。現在の通説となっています。

記事1のイエール・ニュースはブラックホールと暗黒物質が同一であることを示唆しています。この記事は今回のNASAの公式サイト「NASA’s Webb Uncovers Dense Cosmic Knot in The Early Universe」にレポートしたチームと同じメンバーが、ウエブ望遠鏡が打ち上げられる数ヶ月前に寄稿した記事です。

 

イエール・ニュースの記事を一部引用します。

「これは、イェール大学、マイアミ大学、および欧州宇宙機関 (ESA) の天体物理学者によって作成された初期宇宙の新しいモデルが示唆するものです。まもなく打ち上げられるジェイムズ ウェッブ宇宙望遠鏡のデータで真実であることが証明されれば、この発見は暗黒物質とブラック ホールの両方の起源と性質に関する科学者の理解を一変させるでしょう」

 

研究チームによる初期宇宙の新モデル(画像)

 

 

 

 

 

 

この画像は、研究チームが作成した初期宇宙の新モデルです。記者の勝手な解釈は次の通りです。左端のレッドゾーンは原始ブラックホールを表しています。真ん中のダークなゾーンに点々とダークマターが表現されています。右端にはダークマターによってホールドされた銀河団が渦巻いています。

 

このモデルが示唆していることとは・・・

1. ビッグバンから原始ブラックホールは生まれていた

2.   原始ブラック ホールが宇宙のすべての暗黒物質を構成している

3.   暗黒物質によって宇宙の銀河はホールドされている

 

ダークマターとブラックホールという宇宙の不思議な存在がどのように銀河の形成にかかわってきたのか? その正体が明らかにされる日が近づいているようです。今後のウエブ宇宙望遠鏡の研究チームの発表が待ち遠しくなります。

(おわり)

 

【参照サイト】

NASA’s Webb Uncovers Dense Cosmic Knot in The Early Universe

この報告はアーリーリリースです。これらの結果は、The Astrophysical Journal Letters に掲載される予定です。(NASA公式より)

 

記字1. イエールニュース

タイトル「ブラックホールと暗黒物質 — それらは同一のものですか?」

 

記事2.バークレーニュース

タイトル「宇宙の暗黒物質がブラックホールであることは否定された」

 

【関連サイト】

NASA/ジェームズ・ウエッブ宇宙望遠鏡が撮影したディープな宇宙の星たちを初めて公開! 

 

原始の星を探れ!ジェームズ・ウエッブ宇宙望遠鏡に与えられたミッションとは?

 

NASA/ジェームズ・ウエッブ宇宙望遠鏡が撮影したディープな宇宙の星たちを初めて公開!

2022年7月12日、ジェームズ・ウエッブ宇宙望遠鏡が撮影した深い宇宙の星たちの驚異の映像をNASAが公開しました。星の誕生が見られる若い星雲から、生涯を終えつつある年老いた星たちの様子。踊るように見える5つ子の星や、水の存在を示す観測データ。130億光年離れたディープフィールドの銀河まで、エキサイティングな5つの映像をNASAの公式サイトからご紹介します。

1. カリーナ星雲  Carina nebula

Carina nebula カリーナ星雲(NASA公式)

 

生まれたばかりの若い星たちを包む星雲「カリーナ星雲」の画像です。山や谷や、雲のように見える風景は、実は巨大なガスや塵でできています。ガスや塵が落ち着いたところでは、集まって新しい星が形成されていきます。

この画像はカリーナ星雲の一部、NGC3324と呼ばれる若い星形成領域の端のゾーンを撮影した画像です。この星雲の高さは最大で約7光年・光の速さで7年掛かる距離があるそうです。

ガスの中にある若い星からの熱くて強い紫外線と恒星風が星雲を彫り上げています。高性能のジェームス・ウエブの赤外線望遠鏡でキャプチャーされたこの画像は、星が誕生する領域を始めて明らかにしました。

最新のウエブ赤外線宇宙望遠鏡によって、星が誕生するメカニズムがさらに詳しく解明されることが期待されています。

 

2. ステファンの5つ子 Stephan’s Quintet

 

ステファンの5つ子 Stephan’s Quintet (NASA公式)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ステファンの5つ子」は近接した5つの銀河がダンスをしているように見えます。1877年にエドゥアール・M・ステファンによって発見された「ステファンの5つ子」が、この度、ウエブ望遠鏡で鮮明に映し出されました。この画像は、遠近の異なる5つの銀河を視覚的に近くに見えるように撮影した画像です。

銀河は4つに見えますが、上の大きな3つの銀河の中、一番下にある銀河をよく見ると白く光る部分が2か所あります。この銀河には中心が二つあるように見えますが、実はNGC 7318A と NGC 7318B という二つの銀河が存在しています。二つの銀河は接近しているので、接近遭遇による相互作用によって、いまも若い星が劇的に誕生していると報告されています。

実は、左サイドにある矮小銀河 NGC 7320 は地球から4,000万光年の距離に位置して、他の銀河は約3億光年先のペガスス座にあります。5つ子とはいえ、一つだけ約7倍も地球に近いので「5つ子」とはいえないかもしれませんね。

 

下の画像は、ウエブ宇宙望遠鏡の兄貴分に当たるハッブル望遠鏡で2,009年半ばに観測した「5つ子」です。赤外線望遠鏡のウエブの最新画像と比較してみると特徴が異なるので興味深いですよ。

 

「ステファンの5つ子」ハッブル撮影・合成(NASA公式)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ハッブルの観測は、青、緑、赤外線とフィルターを用いて、合成画像を作成しています。赤外線望遠鏡のウエブ画像よりもカラフルに見えるのはそのためです。

 

3. 南のリング星雲 Southern Ring Nebula

 

南のリング星雲 Southern Ring Nebula(NASA公式)

 

 

 

 

 

 

“Some stars save the best for last.” 

「いくつかの星は、最高のものを最後まで取っておきます」(NASA公式)

ロマンティックなキャッチコピーで紹介されているのは、約2,500光年の距離にある、生涯を終えかけて美しく輝いている「南のリング星雲」NGC 3132 の画像2点です。NASAは、この画像はこの星が塵に覆われた惑星状星雲であることを明らかにしたと報告しています。

惑星状星雲とは死にかけた星が放出するガスや塵でできた星雲のこと。惑星状星雲になるのは太陽の8倍以下の質量の恒星で、核融合の材料がなくなる最終段階で膨張して赤色巨星となります。星の外層のガスが周囲に放出されて、中心に取り残された白色矮星からの紫外線が周囲のガスを電離して天体がこのように輝くのです。

 

左右に2枚の画像がありますが、「左の“近赤外線カメラ”の画像では、星とその光の層が際だっており、右の“中間赤外線カメラ”の画像では、二番目の星が塵に囲まれていることが初めて明らかになった」と、NASAは報告しています。

中心に見える明るい方の星は星形成の初期段階にあり、将来的には自らの惑星状星雲を放出すると考えられているとのことです。

 

4. WASP-96b

 

恒星の周りの巨大ガス惑星の大気中に水の存在を示すサインを確認(NASA)
恒星の周りの巨大ガス惑星の大気中に水の存在を示すサインを確認(NASA)

 

NASAによれば、ジェイムズ・ウエッブ宇宙望遠鏡が、太陽に似た恒星の周りを周回する高温の巨大ガス惑星WASP-96 b の大気中に水の存在を示す明確なサインを捉えたと発表しました。

WASP-96 b は、天の川銀河系で確認されている太陽系外惑星の一つ。南天のフェニックス座から1,150光年の距離に位置するガス惑星で、太陽系には存在しないタイプです。質量は木星の半分以下、直径は1.2倍、水星と太陽の距離の9分の1という近距離を公転しています。

WASP-96 b は、大きさ、公転周期の短さ、大気の膨らみ具合などから大気観測に理想的な天体だとのことです。ハッブル宇宙望遠鏡は20年以上をかけて太陽系外の惑星の大気を分析して、2,013年に始めて水を検出しましたが、ウエブ宇宙望遠鏡は即時に何百光年離れた惑星の水の大気を検出しました。

水は生命の誕生に不可欠です。ウエッブ宇宙望遠鏡は、地球外の居住可能・ハビタブルな惑星の特徴を探る上で、大きな期待をかけることができる存在と言えます。

 

5. SMACS 0723

 

デイープフィールドの銀河団SMACS0723(NASA公式)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウエッブ宇宙望遠鏡が撮影したディープ・フィールド(最も遠い宇宙)の銀河団SMACS0723の画像です。“最も暗い天体を含む何千もの銀河”が、ウエッブの前にその姿を現しました。この画像は手のひらサイズの砂粒のようなもので、広大な宇宙の一角に過ぎないとのことです。

画像に映っているのは、46億年前に出現したSMACS 0723 という銀河団とその前後にある銀河の映像です。46億年前に宇宙に飛び出した光は宇宙の膨張によって引き延ばされ、波長の長い赤外線となって、ウエッブ赤外線望遠鏡に素早くキャッチされ映像化されたのです。NHKが専門家に問い合わせところ、画像の中には130億光年離れた銀河も映っているとのことです。

不思議な特徴として、NASAはこのフィールドが極めてアーク状であると報告しています。銀河団による強力な重力場が、背後にある遠くの銀河からの光線を曲げているとのことです。虫眼鏡が画像を曲げて歪ませるように、背景の画像は歪んでいるのだそうです。

 

ウエッブの今後の活躍

 

ウェッブの中間赤外線観測装置(MIRI)は、星の形成や生命の誕生に重要な要素であるダスト(塵)の存在を探しています。今後、さらにディープなフィールドからの赤外線がキャッチできれば、生命の誕生や、宇宙の始まりの謎が解明できるかもしれません。

(おわり)

ウエブ宇宙望遠鏡のミッションについてはここからどうぞ。

原始の星を探れ!ジェームズ・ウエッブ宇宙望遠鏡に与えられたミッションとは?

 

参照:NASA公式サイト

ウエブ宇宙望遠鏡の画像はここからどうぞ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

地球温暖化が止まらないときの最後の手段! 地球を人工的に冷却する“SRM計画”とは?

地球温暖化が止まらないときの最後の手段! 地球を人工的に冷却するSRM計画をあなたは知っていますか?

 

2022年夏、今年も熱波や山火事、干ばつなど地球温暖化が原因とされる異常気象が世界で観測されています。いま、私たち日本人が実感している暑さも、2018年の記録的猛暑を越えそうな勢いとか。世界の主要なCO2排出国は2030年に削減目標を達成して、地球の気候変動にストップをかけることができるのでしょうか?それともさらに暑い夏がやって来るのでしょうか?

 

人類起源による地球温暖化がどうしても止められなくなったとき、温暖化対策の最後の手段として考えられている方法があります。その方法とは、地球を冷却させるために人工的に気候介入を行う方法「SRM( Solar radiation modification )」です。SRMは太陽光の一部を宇宙に反射して、地球に届く太陽光を減らすことで地球の表面温度を下げようという試みです。

 

SF映画でしかお目にかかれそうにない大胆なテーマですが、米国では2017年に公聴会が開かれ、400万ドルの予算が付いて研究を進めています。一体どのようにして太陽光を反射するのでしょうか? 自然災害などが起こる心配はないのでしょうか? 

 

以下では、地球を人工的に冷やすSRMの仕組みや課題をわかりやすく解説して参ります。

 

微粒子エアロゾルを成層圏にばらまいて太陽光を反射

 

成層圏エアロゾル注入(SAI)の概念図
成層圏エアロゾル注入(SAI)の概念図 (東京大学ビジョン政策研究センター)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SRMの代表的方法は、地表の上空・成層圏に二酸化硫黄などの微粒子(エアロゾル)を撒いて太陽光の一部を遮り、地上に届く光の量を減らして地球の気温を下げてしまう成層圏エアロゾル注入法(SAI)です。安定した大気の層である成層圏、地表20kmに飛行機でエアロゾルを注入して太陽光を反射し、調整します。

 

これは、火山の噴火によって地球の気温が下がる現象を模倣した方法です。1991年にフィリピンのピナツボ火山が噴火したときエアロゾルが成層圏に滞留し、地球の平均気温が0.5℃下がったと報告されています。

 

ピナツボ火山の噴火クラスのSAIを起こすことができれば、人類起源による気温の上昇を0.5度ほど抑制することができるという計算です。この方法は地域を限定するなど、比較的実現可能な方法としてモデル化され研究が進められています。

 

世界の平均気温を下げるための主な気候介入としてもう一つの方法があります。大気中のCO2濃度を下げるために、直接、大気から二酸化炭素を除去してしまうという方法(CDR)です。CDRはSRMに比べて生態系への影響などリスクが少ないとされています。

 

※CDR (Carbon Dioxide Removal)︓⼤気中の⼆酸化炭素を除去し、地中・地上・海洋の貯留層や製品に持続的に貯蔵する⼈為的な活動

 

植物の光合成という仕組みではなく、化学的に大気から直接CO2を 除去する手段を開発している企業や団体があります。最大の課題は回収した二酸化炭素をどのように処理するかです。ある企業は二酸化炭素を加工して建築用の資材を作りだしています。ある企業は、二酸化炭素を食べる藻やバクテリアに処理させる方法に成功したとか。いずれにしても、CDRは、現在の技術では世界の平均気温を下げることができる規模の場合、とんでもないコストが掛かるとされています。

 

一方、SAIを実装するためのコストとテクノロジーは達成可能な範囲ではあるが、生態系への影響など危険性については、まだ十分に研究されていないと言うことです。

 

人工的気候介入(SAI)が地球の生態系に及ぼす影響は不明?

SAIを用いたSRMが気候に及ぼす影響・イメージ図(PNASより)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2020年2月に米国科学アカデミーの機関誌・PNAS(Proceedings of the National Academy of the Sciences of the United States of America)に掲載された論文:

「地球を冷やすために太陽光を反射させることによる気候介入の生態学的影響の可能性」によりますと・・・SAIを使った人工的気候介入が生態系に及ぼす影響についてはほとんど不明とされています。

 

SAIによる成層圏エアロゾルは紫外線を含む太陽光を宇宙へ反射して、地表の紫外線を減少させる一方、成層圏のオゾンを破壊して地表の紫外線を増加させる可能性もあります。一般的に紫外線は生物に有害で、植物は成長に影響を受けるとされているので、生態系へのリスクが懸念されます。

 

紫外線とオゾンに対するSAIの影響の程度は、成層圏のエアロゾルの量や分布の状態、エアロゾルの種類、大気との科学反応や、放射との相互作用に依存するとされています。結論としては、生態学者・エコロジストと、気候科学者の間で国際的なチームを組んでSAIの潜在的な影響やリスクを研究する必要があるということです。

 

将来にむけて

 

実は、21世紀の初めから2013年にかけて、温暖化が見られなかった「ハイエイタス」と呼ばれる時期があります。気候変動に関する政府間パネル・IPCCはこの原因を海洋の熱吸収が大きかったこと、太陽放射が減少したことに加えて「エアロゾルによる冷却化が大きかった可能性」も理由に挙げているそうです。地球冷却化計画・SAIの有効性が示されているのかもしれません。

 

一方、エアロゾルは大気汚染物質でもあり、人体や生物への悪影響が懸念されます。SAIによる人工的気候介入には不確実性が付きまとっています。一方、生態系への影響などリスクが不明のまま、単独国家が強行して実施に踏みきるといった危険性も指摘されています。SAIは国際的なガバナンスや同意が必要とされる手段として、最後の最後まで残しておいてほしいものです。

 

【参考資料】

PNAS:Proceedings of the National Academy of the Sciences of the United States of America

「地球を冷やすために太陽光を反射させることによる気候介入の生態学的影響の可能性」

Potential ecological impacts of climate intervention by reflecting sunlight to cool Earth | PNAS

 

技術で地球は変えられるか?~気候工学(ジオエンジニアリング)~

https://www.jstage.jst.go.jp/pub/pdfpreview/sicejl/56/5_56_366.jpg

 

人類は地球温暖化対策としてどこまで踏み切るべきか?(杉山昌広准教授)/コラム/東京大学政策ビジョン研究センター (u-tokyo.ac.jp)

 

国際環境経済研究所

「エアロゾル」による地球冷却効果
―地球温暖化の知られざる不確実性―

https://ieei.or.jp/2019/11/opinion191127/

 

ロシアのウクライナ侵攻で国際宇宙ステーションISSの中で米ロ紛争勃発?

国際協力のシンボルとして、米国や欧州・日本も含めた西側諸国とロシアとが共同で運用してきた国際宇宙ステーションISS! ロシアのウクライナ侵攻によって、米・欧とロシアの対立が深まる中、狭い宇宙ステーションISSの内部で各国の宇宙飛行士の関係はどのようなことになっているのでしょう。気になって、ウエブで調べてみました。

「ISSで米ロ紛糾」といった記事はどこにも見当たらないので、「紛糾なし」と思って安心したのですが、英文で調べますとSpaceNews誌の公式サイトに掲載された記事のショッキングな見出しが目に刺さりました。

「How Russia’s war with Ukraine jams NASA」

直訳しますと「ロシアとウクライナの戦争がNASAをいかに妨害しているか」ウイリアム・ビアンコ ーApril 14, 2022 

サブタイトルは「国際協力と国際宇宙ステーションの未来」です。ウイリアム・ビアンコ氏はインディアナ大学の政治学教授でNASAとの関係が深く、国際チームを率いてISSが各国の共同運営に至る過程を研究した人物です。以下では、ビアンコ氏の発言の要旨と、ISSの構造がどのようになっているのかを紹介します。

 

“国際協力こそ国際宇宙ステーションの存在の意義!”

国際宇宙ステーションISS構造(NASA公式)

 

 

 

 

 

 

 

1990年代の初頭、米国のNASAは、コストの上昇で中止の危機に瀕した宇宙ステーションISSを存続させるために、「ISS」をロシアで進行中の宇宙ステーション計画「ミール」と統合するという大胆な計画を立て、当時のクリントン政権に提案をしました。この提案は、ロシアとの(冷戦後の)緊密な関係の実証として、またミサイルや核兵器などの武器輸出のための技術開発とは異なる平和的な宇宙ハードウエア開発へロシアを向けさせるという点で、クリントン政権にとって魅力的な提案だったとしています。

一方、NASAで働くあるロシア人の話として「二つのプログラムをまとめる国際宇宙ステーション計画は政治的な決定によるもので、エンジニアの誰も望んでいません。技術者にとってはサイとブルドッグの合体でした」と、余り知られていない否定的な内容の発言を紹介しています。国際宇宙テーションISSは、共同運営による科学的メリットとしては余り役立たなかったが、資金を獲得し、国際協力という大義を手に入れたことではNASAにとってよい取引だったとビアンコ氏は解説しています。

NASAは、ISSを国際パートナーシップのモデルであり、米ロが対立を乗り越えた証であり、ライバル同士が平和的に協力することを学ぶためのガイドとして、長い間、その意義を強調してきました。NASAの写真には国籍の違う宇宙飛行士が仲良く一緒に生活し、仕事をしている様子が写されています。つまり、国際協力こそがISSの存在の意義であったとビアンコ氏は暗に言っているのです。

それでは、今回のロシアのウクライナ侵攻によって「サイとブルドッグの合体」したISSはどうなったのでしょうか?ビアンコ氏は、ロシアのウクライナとの戦争は、NASAにとってのISSの存在の危機を生み出したと言っています。

国際協力のシンボルとしてのISSの価値はロシアのウクライナ侵攻によるNATOとの対立で廃墟に!

「ロシアのウクライナ侵攻とNATOの対立が迫ったことで、国際協力の実証としての国際宇宙ステーションの価値は廃墟と化した」とビアンコ氏は言っています。西側の制裁が続けば、ロシアの宇宙産業がISSに宇宙飛行士を送り続けられるかは疑問であるとしています。

侵攻が始まった数週間後にロシアの国営宇宙公社ROSCOSMOSのトップ、ディミトリ・ロゴジン氏が「国際宇宙プロジェクトをキャンセルし、現在ISSを軌道に乗せているロシアの推進システムを切り離す」と脅したということです。「アメリカ企業へのロケットエンジンの提供を終了し、宇宙に行きたければ『代わりにほうきを使え』」と米国の顧客に忠告したことも記事に付け加えています。

さらに、ROSCOSMOSはロシアの宇宙飛行士が(ISS内のロシア側モジュールの)ハッチを閉じ、ISSのアメリカ側を切り離して、地上に落ちていくのを見ながらアメリカの同僚に別れを告げる様子を再現した合成ビデオも配布したとのことです。

実は、デイミトリ・ロゴジン氏は暴言で有名な政治家で、北方領土問題で「日本人は切腹せよ」と放言したこともあります。AP通信によれば、NASAのチーフであるビル・ネルソン氏は「大きな口を叩くが、彼は結局のところ私たちの仲間だ」と冷静なコメントを発しています。「ロシアの民間宇宙計画で働く他の人々は専門家だ。アメリカの宇宙飛行士、アメリカのミッションに問題はありません。宇宙では、ロシアの友人、ロシアの同僚と協力することができます」と。

2022年3月30日、NASAの宇宙飛行士マーク・ヴァンデ・ヘイは、2人のロシア宇宙飛行士と共に、カザフスタン共和国のバイコヌール宇宙基地から、ロシアのソユーズ宇宙船のカプセルに乗ってISSに向かっています。

国際協力の一環として、ISS滞在クルーが交代するときには要員の国籍にかかわらずソユーズ宇宙船が運ぶことになっているのです。それでは、ISSに到着した後、各国のクルーはどのように分かれて生活をしているのでしょうか? 日本のJAXAのサイトを覗いてみました。

ISSの中での宇宙飛行士の生活や仕事の場所はどこ?

ISS内部には国境はありませんが、クルーは米国、欧州、ロシア、日本の実験モジュールに分かれて仕事をしています。日本の実験棟は「希望」です。米国は「デステニィー」、欧州は「コロンブス」、ロシアは「ナウカ」と「ズベズダ」です。

宇宙飛行士が生活する場所は、主に4つあります。ロシアが開発した「ズベズダ」サービスモジュールではロシアのクルーが寝泊まりや食事をしています。

その他の各国のクルーは米国の3つの結合モジュールで生活をしています。「ユニティ」は食事の場所、「ハーモニー」は睡眠などの個室、「トランクウィリティー」には運動器具やトイレが備えられています。

国別のクルー構成は。ロシアROSCOSMOS 3名。米NASA 4名。欧州ESA 1名、日本JAXA 0名。星出宇宙飛行士が2021年11月9日に帰還しており、次の日本人宇宙飛行士は2022年秋以降に若田宇宙飛行士が打ち上げ予定です。

各国の宇宙飛行士は、普段は別々の生活を送っていますが、特別なイベントや休日にはクルー全員が集まって仲良く食事をすることもあるとのことです。

 

おわりに

ロシアとアメリカの宇宙開発当局の責任者二人のやりとりは興味深いところですが、ビアンコ氏の結論は国際協力を失ったとき、ISSはその存在の意義を失うと警告しています。

宇宙開発という人類共通の夢を乗せた国際宇宙ステーションの存在が、新しい形の国際協力によって次のレベルに進化していくことを願うばかりです。

 

追記:2022年10月7日  ロシアの女性宇宙飛行士がアメリカ/日本の宇宙飛行士と仲良くISSに乗船!

宇宙船に乗り込む4人の宇宙飛行士
左端がロシア人宇宙飛行士(SPACE X/NASA)

 

 

 

 

 

 

 

 

ロシア大統領府から“西側のウクライナ支援が続けば戦況次第では戦術核の使用もいとわない”という危険なシグナルが打ち上げられた2022年9月。ウクライナを巡る紛争は核戦争までを予感させるカオスな様相を呈しています。

 

そのような時・・・10月7日午前8時前(日本時間)日本の宇宙飛行士の岩田さん、アメリカの宇宙飛行士2名、さらにロシアの宇宙飛行士1名の計4名を乗せた宇宙船が国際宇宙ステーションISSとのドッキングに成功と言うニュースが入ってきました。

宇宙船はアメリカンのスペースX社が開発した民間機「クルードラゴン」5号で、ケネディー宇宙センターから打ち上げられました。宇宙飛行士は最年長でべテランの岩田さんの他にネイテイブアメリカンの女性を含むアメリカ人2名とロシア人1名です。

クルードラゴンに搭乗する前の記念撮影で4人のクルーは仲良く肩を組んでいます。ロシア人宇宙飛行士の名前はアンナ・ユリエフナ・キキナさん。2012年に宇宙飛行士に選ばれた女性のエンジニアです。現在ロスコスモスで活躍している只一人の女性宇宙飛行士で、ロシア人として始めてアメリカの民間宇宙船に搭乗しました。

ロスコスモスがISSからの脱退を示唆し、ISSの存在意義とされる国際協力体制が危惧されるなか、ロシアによるウクライナ侵攻以前からあった計画とは言え、ロシアの女性宇宙飛行士が米国の先住民の女性宇宙飛行士や日本の宇宙飛行士とともにアメリカの宇宙船で仲良くISSに運ばれたニュースは、深い暗闇の中の一筋の灯火といえるのではないでしょうか。

 

【参照記事】

論説|ロシアのウクライナとの戦争がNASAを妨害する方法

ウィリアム・ビアンコ — April 14, 2022

https://spacenews.com/op-ed-how-russias-war-with-ukraine-jams-nasa/?msclkid=db04aea8c78311ec9d9094e1eab1b475

 

ISSの構成

ISSの構成 | JAXA 有人宇宙技術部門

 

原始の星を探れ!ジェームズ・ウエッブ宇宙望遠鏡に与えられたミッションとは?

打ち上げに成功した“ウエッブ”のミッションは“原始の星を探れ!”です。

2021年12月25日、ハッブルの後継機、ジェームズ・ウエッブ宇宙望遠鏡がギアナ宇宙センターから打ち上げられました。史上最大・最高度な赤外線望遠鏡は、ハッブルの限界を超えて135億年以上前にさかのぼることが可能です。宇宙最初の星や銀河の誕生を目撃することができるかもしれません。

ジェームズ・ウエッブ宇宙望遠鏡イメージ図(NASA)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

“ウエッブ”のゴールは月の軌道の約4倍、地球から150万km離れた「2番目のラグランジュポイント(L2)」と呼ばれる宇宙の重力が安定したところです。ウエッブは熱に大変弱い望遠鏡なので、L2で太陽を周回しながら太陽や地球や月からの光や熱を避けるために、テニスコートサイズの5層の傘・サンシールドを宇宙に拡げます。

 

その姿は、宇宙を飛ぶ巨大コウモリのように見えます。コウモリはソナーで獲物の昆虫の動きを察知しますが、ウエッブは遠い宇宙の果て“原始の星”からやって来るかすかな赤外線を感知してその姿を観測します。

 

“ウエッブ”に与えられたミッションは宇宙の始まりの観察と、惑星が生まれ出る“原始惑星系円盤”の観測です。それでは、二つのミッションとウエッブの新しい機能についてみていきましょう。

ミッション1 最初の星 “巨大恒星ファーストスター”の秘密を探れ!

ファーストスターのイメージ画像(ナショジオ)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この宇宙に、最初の星はどのようにしてできたのでしょうか?

宇宙の始まりはいまから138億年前。ビッグバンで生まれた原始宇宙は高温度の霧で満たされていました。そして、霧が晴れ渡ると、宇宙は「暗黒時代」と呼ばれる光のない時を迎えます。暗い宇宙にはほんのわずかな密度の濃淡があり、濃淡の濃い重力空間にガス状の物質が集まり始め、宇宙に最初の構造物が誕生しました。

 

それは、銀河のような複雑な構造ではなくて、想像を絶する巨大な恒星だったとされています。超大な太陽のような“ファーストスター”がビッグバンから約2億年後に誕生していたはずだとされているのです。

 

ジェームズ・ウエッブ宇宙望遠鏡の感度はハッブルの約100倍とされています。ハッブルは128億光年までが探査の限界でしたが、ウエッブは135億光年まで目撃することができます。ウエッブ宇宙望遠鏡の登場で、宇宙の始まりの星ファーストスターや最初の銀河が誕生するシーンがみられるかもしれません。

 

初期の宇宙から100億年以上をかけてやって来る光は、宇宙が膨張を続けているために波長を引き延ばされて人の目に見えない赤外線になっています。これは“赤方偏移”と呼ばれる現象です。

 

そのため、ウエッブは赤外線を観測できるように6.5mのメイン反射鏡に金メッキが施されています。また、検出器は測定の邪魔になる熱などの赤外線ノイズを出さないようにマイナス200度の超低温に保たれるといった高感度構造に仕上げられているのです。

 

宇宙の始まりに生まれた最初の星たちはどのような姿をしていたのでしょう。また、どのような元素でできていたのでしょう。ファーストスターは大爆発を起こして、超新星となり、質量の重い元素(重元素)が宇宙全体に広がっていったといわれています。

 

重元素は超新星の中で作られた物質です。重元素と呼ばれるもののなかには、炭素や酸素といった生命に必要不可欠な重元素が含まれていました。そういえば、私たちの身体を作っている炭素や酸素も元を質せば星のかけらです。星の中で作られ、宇宙を巡りながらここまでやって来たのです。

 

ウエッブ宇宙望遠鏡のミッションはあなたのルーツに迫る旅でもあるのですね。

 

ミッション2 惑星のルーツ“ 原始惑星系円盤”の内側を探れ!

アルマ望遠鏡による20個の原始惑星系円盤(NASA)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

地球のような恒星の周りをまわる惑星はどのようにしてできたのでしょうか?

この画像は、2018年に南米チリにあるアルマ望遠鏡で観測された20個の原始惑星系円盤です。アルマ望遠鏡が撮影した画像は円盤の外側ですが、ウエッブ宇宙望遠鏡は、このうち17個の円盤を選んで円盤の内側を高角解像度プロジェクトで詳しく調べる予定です。

 

そもそも、原始惑星系円盤(protoplanetary disk)とは何者でしょう? 原子惑星系円盤とは、惑星を形成する過程の初期に現れる円盤状の構造のことです。まず始めに、ガス状の雲の中にある密度が濃い分子雲コアが、自分の重量で収縮を繰り返すことによって原子恒星が出来上がります。

 

そのとき、大きな回転力(角運動量)を持ったガスと塵は、収縮する中心部の恒星にたどり着けず、恒星の周りに円盤を形成します。これが原始惑星系円盤です。この後、数100万年から1000万年ほどの時間を掛けて、円盤内でガスと塵が集束していくつもの惑星が形成されていきます。

 

ウエッブ宇宙望遠鏡のミッションは、20個の原始惑星系円盤の中から、中心星(恒星)の質量が太陽の0.5倍から2倍ほどの17個を選んで、円盤の内部にある物体の組成を解明することです。

原子惑星系円盤のスペクトル分析・シミュレーション(NASA)

 

ウエッブは中赤外線(mid-infrared light)と呼ばれる波長を使って円盤の内部のスペクトル分析をします。メタン、アンモニア、二酸化炭素などのガスがどれだけ含まれているか?

とくに水がどのくらい含まれているかを解明できると期待されています。

 

原始惑星系円盤は地球のような岩石惑星が形成されたゾーンに位置しています。NASAの研究チームは、原始惑星系円盤の内部の組成を観察することによって、生命の存在が可能なハビタブルゾーンについて新しい発見ができるかもしれないといっています。

 

そういえば、NASAの火星探査車“パーサビアランス”も、生命の痕跡を求めて、かつて水があったとされる火星のジェゼロクレーターで小さな岩石を採集しています。2030年頃には地球に持ち返って調べる予定です。

 

ウエッブが観測を開始するのは打ち上げの半年後。宇宙に生命が誕生した秘密が解明される時が近づいているのかもしれません。

 

ハッブル宇宙望遠鏡の功績とウエッブ宇宙望遠鏡への期待

1990年に打ち上げられたハッブル宇宙望遠鏡は、現在地球の約545km上空を周回しています。当初は10年程度の寿命とされていましたが、チームの努力で故障を乗り越え、30年もの間、宇宙探査活動を続けています。現在は機能を停止して回復が待たれる状態です。

 

NASAによれば、ハッブルの功績は、銀河核内のブラックホールの存在を確認したこと。系外惑星大気の組成を測定したこと。もっとも遠い銀河を発見したこと。宇宙の加速膨張を検証したことなどとされています。ハッブルは偉大な発見や功績をたくさん残してくれました。

 

後継機のウエッブ宇宙望遠鏡はどのような発見をしてくれるのでしょうか? 天文学者たちは「ハッブルとウエッブの両方が宇宙にあり、同時に観測できることを楽しみにしている。それぞれの望遠鏡の観測装置と波長範囲から、異なることが明らかになるはずだ」といっているそうです。

 

ウエッブの寿命は、軌道を修正する燃料が必要なので10年程度とされています・・・。ハッブルと同じように長寿を重ねて、銀河の始まりや、生命誕生の謎に迫って欲しいですね。

 

打ち上げられたウエブ望遠鏡は、ゴールに行き着く途中の宇宙空間でサンシールドとミラーを組み立てます。迫力のシミュレーション画像をご覧ください。

James Webb Space Telescope Deployment Sequence (Nominal)

 

(おわり)

*ジェームズ・ウエッブ宇宙望遠鏡は、アメリカ航空宇宙局(NASA)がパートナーである欧州宇宙機関(ESA)とカナダ宇宙機関(CSA)と共に推進する国際プログラムです。

 

【補】原始惑星系円盤の進化シナリオ概念図

原始惑星系円進の進化シナリオ概念図

 

 

 

 

 

 

 

この図は、原始惑星系円盤(Protoplanetary Disks)が進化していく様子を描いた概念図です。

a(左上)→b(右上)→c(左下)→d(右下)の順番に進化して、惑星ができていく様子を描いています。それでは、順番に見ていきましょう。

 

黄色の丸は中心にできる中心星・恒星。水色の雲はガス。赤い点々が惑星に成長するダスト・破片たちです。ガスとダストを含む水色の部分が原始惑星系円盤です。

a. 大規模に燃え上がる円盤:円盤の初期段階。円盤からガスが中心星に降着していきます。また、中心星の紫外線によって円盤内のガスが蒸発していきます。

b. 定着・沈殿する円盤:降着率が低下して、ダストが合体・成長していきます。やがてダストは円盤の赤道面に沈殿します。

c. ガスが蒸発・散逸する円盤:紫外線による蒸発率が上がり、中心星に近いガスから散逸して円盤からガスがなくなります。

d. 破片となった円盤:ガスがほとんどなくなり、ダストが微惑星や原始惑星から惑星となります。中心星は前主系列星から主系列星になります。

「Protoplanetary Disks and Their Evolution(原始惑星系円盤と進化)」Jonathan P. Williams and Lucas A. Ciez 

より抜粋しました。

Protoplanetary Disks and Their Evolution (sunysb.edu)

 

 

 

 

 

 

思わず触ってみたくなるヤバ可愛い生き物14選!

思わず触ってみたくなるヤバくて可愛い小さな生き物を14選してご紹介!

食べたくなるほど可愛い生き物や、触りたくなるけどヤバイ生き物。地球史上最強の微小生物やメキシコの歩く魚? 進化論からはみ出した化石動物など。

 

写真や画像を見て、笑って、想像して、楽しんでくださいね。

1.  あれ? サーモン寿司?

アクアマリン公式サイトより

 

 

 

 

 

 

思わず手でつまんで、口に放り込みたくなるようなサーモン握り?

 

実はこれ、「アクアマリンふくしま」で元気に飼育されている未知数の深海生物「ウオノシラミ属」の一種です。「名称まで特定するためには解剖する必要があるので、名前までは追求しません」と飼育の人が。

 

北海道羅臼の沖、水深800~1200mから刺し網漁によって採集されました。全長は約3cmで深海の魚の体液を吸って生きています。いまアイドル的人気を誇るオオグソムシとは親戚筋だそうです。

 

学名:Rocinela sp. 

アクアマリンふくしまによれば、ただ一つの個体なので、今のうちに観察に来てくださいとのことですよ。

 2.  なにこれ? エロぬいぐるみ?

Taenia solium デザイン画

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エロチックなぬいぐるみでしょうか?

実はこれ、人に寄生するとヤバイ有鉤条虫のデザイン画です。

 

症状は軽い腹痛ですが、脳内に寄生すると意味不明の言葉を発したり、意識不明に陥ってけいれんを起こすことも。米国では救急車で運ばれた例も報告されています。

 

名称は有鉤条虫(ゆうこうじょうちゅう)Taenia solium。

通常は人の小腸に寄生するサナダムシの一種です。人との感染は生きている有鉤条虫を持っている豚肉を食べたときに多いそうです。中間宿主はブタやイノシシが主ですが、ヒツジ、シカ、イヌ、ネコ、ネズミ、ウシ、ヒトなども中間宿主となることも。

 

怖ーいお話ですが、極小とは真っ赤な嘘。

実はこれ、人の小腸で成長すると2~7mにまで達するそうです。地理的分布は世界中ですが、生のままや、調理しないで豚肉を食べる貧しいコミュニティで多く報告されています。

 

 ヤバ! これ、新種のエイリアン? 

TERESA ZGODA / SCIENCE SOURCE / SCIENCE PHOTO LIBRARY

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いまにも食らいつかれそう! これ、新種のエイリアンでしょうか?

 

実は、これが素顔の有鉤条虫です。顕微鏡で撮影した画像です。目のように見えるのはホスト(宿主)に接続するための吸盤です。鋭い歯が宿主の皮膚に食い込み、栄養素を取り出します。

 

これ見たら、SF映画の“エイリアン”も尻尾を巻いて逃げ出すかもしれませんね。

 

3. なにこれ? 8本足のブンむくれ?

BBC/NATURE より

 

 

 

 

 

 

ふくれっ面したブンむくれ野郎に見えますが、実はこれ、地球史上最強の生物タージグレードです。

 

タージグレードtardigrade:俗称 waterクマまたはクマムシ。

苔の子豚とも呼ばれています。可愛いニックネームの微小生物は全長4mm未満の8本足。爪がありますがご覧のように頭はほとんどありません。

タージグレードは水があるところなら地球上のほぼすべてで棲息できます。最近では、新種が日本の駐車場の苔から発見されています。

 

沸騰した液体や凍結状態、深海の圧力、宇宙の放射線に耐えることができる史上最強の生き物です。極端な環境下では水を身体から排出して代謝を遅らせ、乾燥した保存状態に入ります。数十年たってからでも目を覚まして復元可能といわれています。

 

人類絶滅のあとも生き残る地球の優等生かもしれませんね。

4. チョボ可愛い子犬? えっ!メキシコの歩く魚だって?

Reader’s Digest
「世界で最もかわいい野生動物の42枚の写真」より

 

 

 

 

 

 

 

 

リボンを付けた可愛い子犬? メキシコの歩く魚だそうです。

実はこれ歩く魚と言っても、魚類ではなくて両生類のサンショウウオ。アホロートルと呼ばれています。アホロートルとはアステカ文明の言葉で「水」と「犬」を組み合わせた言葉。”水の中の可愛いわんこ”とぴったりの名前ですね。

 

アホロートル:メキシコサンショウウオ (Ambystoma mexicanum)

オタマジャクシから成長する際に変態に必要なチロキシンを生成することができないので、幼少期のまま大きくなってこんな可愛いプロポーションに。視覚情報からサイズと厚みを変えて、周囲の色にカモフラージュすることもできるそうです。

 

全長10cmから25cm。15年は生きる個体も。まれには、変態して成体になって陸上生活に移行する個体もあるとか。日本の大台ヶ原山のオオサンショウウオはみんな変態して、雨が降ると大ミミズを食べにのこのこと山道にまで出て来ますよ。

5. ギャはっ! これ面白すぎ! 漫画じゃない?

Wikipediaより
1989年早川書房刊 スティーブンジェイグールド著「ワンダフル・ライフ バージェス頁岩と生物進化の物語」より

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この画像は漫画ではありません。1909年カナダのロッキー山中のバージェス頁岩から発見された5億年前の奇怪な化石の復元図です。1972年のオックスフォード大学で開かれた古生物学会で発表されたときは、爆笑の渦に包まれたそうです。

 

オパビニア:Opabinia

カンブリア紀の節足動物の祖先? 付けられた名称は「オパビニア」。体長わずか5㎝で、前頭部には飛び出した5つの目玉。前に伸びるおかしなノズルの先は爪のようになっています。発表者によればオスがメスを捕まえるときに使った器官ではないかと?

 

後日、ノズルは食物を捕らえるハサミで、ノズルで口に運んで食べていたのではないかと修正されています。また、切断や精査の結果、オパベニアは節足動物ではなく、どこにも属さない動物かもしれないと報告されました。

 

面白すぎる無脊椎動物オパビニアは「進化の方程式からはみ出した」不思議な動物の化石なのです。バージェス頁岩からは、これ以外にもはみ出し物の生き物の化石が多数発見されています。

 

「遺伝子が爆発をおこして、はみ出し物が山ほど出た!」といわれて、それまでの進化論が見直されるきっかけにもなったとか。

6. 「深海で微笑む、ひげ爺ちゃん?」「いいえ、子ぶたイカといいます」

 

 

 

 

 

 

http://ianimal.ru/topics/kalmar-porosenok

 

「深海で笑っているのはひげ爺ちゃん?」

実は、子ぶたイカ(Piglet Squid〉というイカ属の仲間です。漢字で書くと「猪口烏賊」となります。ぽっこりと膨らんだお腹には内蔵の他に、アンモニアが入った袋があります。

アンモニアは水より軽いので、この袋で浮力を調整して浮かんでいるのです。

学名:Helicocranchia pfefferi

 

「泣いてるの?」「いいえ光っているのです」

光る子ぶたイカ
光る子ぶたイカ

 

 

 

 

 

 

 

深海で光っているのは、同じ子ぶたイカの仲間です。子ぶたイカは子供のころは海面近くで暮らし、成長すると200m~1,400mほどの深海で過ごします。

 

この深さはトワイライトゾーンと呼ばれて、太陽の光が届かない深海です。光るのは小魚や小エビを呼び寄せて、足でつかまえて食べてしまうためです。

 

泣いてるのではなくて、呼び寄せているのでした。

学名:Helicocranchia pfefferi

 

7. あっ! 食べちゃダメ!

食べちゃダメ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

食べちゃいたいほどかわいい! マルっこいボデーちゃん! 

ちょっと待って! 食べちゃダメです。

 

実はこの子、鍋でお馴染みのあの・・・フグ。地球で2番目に強い毒を持つお魚。テトロドキシンという物質を含んでいて、青酸カリの1,200倍の毒性があるのです。1匹のフグに含まれる毒素は人間30人を殺す量があり、解毒剤もありません。料理は専門の調理師にお任せしましょう。

オレ様を怒らせるんじゃ~ねーぞ!

 

 

 

 

 

 

「俺様、怒らせるんじゃ~ねーぞ」

 

8. アッカンベー! 

ダンボ・オクトバス(スミソニアン資料より)

 

 

 

 

 

 

 

かわいい顔で「アッカンベー!」しているのは、深海性のタコの一種「ダンボ・タコ」です。

 

英語名でDumbo Octopuses(Grimpoteuthis)。

耳のように見えるのは大きな鰭(ヒレ)です。ディズニー映画のダンボに似ているので、このように名付けられました。

 

ダンボ・タコはヒレを動かして、水かきのある腕(触手)を脈打たして泳ぎます。体長約30cm、水深10,000フィートほどの海底に棲息して、カタツムリやミミズなどを餌にしています。13種類が確認され、平均寿命は3~5年だそうです。

 

深海で泳ぐ貴重な映像はここからどうぞ。

 

ダンボ・オクトバス・ダンス(スミソニアン資料)

The Dumbo Octopus: An Underwater Dance | Smithsonian Ocean (si.edu)

 

9. 不老不死! 何度でも生まれ変われるんだぞ!

米国フロリダ州のパームビーチ沖に生息するベニクラゲ

 

 

 

 

 

 

 

遠い宇宙に浮かぶ銀河のように見えるのは「不老不死といわれるクラゲの一種・ベニクラゲ」です。米国フロリダ州の観光地パームビーチの沖合の海中で撮影されました。

 

ベニクラゲは、傷ついたり、飢えたりしてやばくなると、ポリプという幼生時代に戻り、生まれ変わることができます。その後、成長してクラゲになります。ライフサイクルを繰り返すことによって老齢で死ぬことはないとされています。

 

実は、直径が4.5mm未満で魚などに捕食されたり、別の方法で死ぬことが通常なので、実際に不死に到達することはできません。世界中の温帯から熱帯の海に生息して、日本でも夏に全国の沿岸で見られます。傘の形状は写真のようにベル型で、赤く見えるのは消化器官だそうです。

 

学名:Turritopsis nutricula 

 

ベニクラゲ(海遊館ニュースより)

 

10. 僕もう歩けないよ! 

メンダコ
メンダコ

 

 

 

 

 

 

 

海の底で座り込んでいるのは、ご存じ、深海のアイドル「メンダコ(面蛸)」。体長20cmほどのタコの仲間です。水から上がると身体が柔らかいのですぐにぺたんこ(面状)になってしまうのでメンタコと呼ばれています。

 

英語名で「pancake devilfish」「flapjack octopus 」

パンケーキとおいしそうな名前ですが食べてはダメです。シンナーのようなきつい刺激臭があるので網にかかると漁師さんは他の魚に匂いが移るのですぐに捨ててしまうそうですよ。

でも愛らしい姿が人気で、水族館に運ばれることもあります。

 

学名: Opisthoteuthis depressa

メンダコ(面蛸、面鮹、学名: Opisthoteuthis depressa )は軟体動物門 頭足綱 八腕類

 

11. これ欲しい! 虹色に輝く素敵なネックレス?

 

コームゼリー
引用:https://ocean.si.edu/ocean-life/invertebrates/jellyfish-and-comb-jellies

 

 

 

 

 

 

 

 

暗闇に輝く可愛いアクセサリーのようですが、実はこれ、コームゼリーと呼ばれる古代からの生き残り。ゼラチン状の小さな海洋生物です。

 

コームゼリーは、ゼリー状のコーム(Comb)「櫛」に似た本体の中に水を通し、後ろから排出することで、前向きの推力を得て前進します。

虹色に輝くコームは、生物発光ではなくて、水を通すために動く繊毛によって光が方々に散乱されることで、虹のように輝いて見えるのです。

クラゲとよく似ていますが、近縁種ではなく、生き方も大きく異なるとされています。コラムゼリーには、釣り糸のような2本の触手があり、粘着性のある細胞で近寄ってきた獲物をつかまえて食べます。クラゲと異なって、コームゼリーの触手に触れても刺されることがありません。

 

二つのシンプルな穴「口と排泄孔」を持つコラムゼリーは、動物がいつ肛門を持つように進化したのかについて、重要なヒントになるとのことですよ。

Dryodora glandiformis:北極海と北ヨーロッパの海域で見られる有棘動物

参照:スミソニアン資料

 

12. そっと持たないと刺しちゃうぞ!

ハリネズミの赤ちゃん
ハリネズミの赤ちゃん

 

 

 

 

 

 

 

手のひらサイズのかわいいぬいぐるみ?

ハンドバッグにリングしちゃおうかな・・・。ダメです。チャームではありません 。

 

この子、じつは本物の ハリネズミの赤ちゃんです。 まだ、身を守るためのハリが鋭くなっていないので、手のひらに載せても大丈夫です。BLAZE PRESSの「手のひらに収まる愛らしい小動物38選」の1位に輝いています。

BLAZE PRESS「手のひらに収まる愛らしい小動物38選」

 

13.  僕、赤ちゃんじゃないよ! もう大人だよ!

ピグミーポッサム

こちら、指の中にすっぽり収まっている哺乳類最小級の子!

ピグミーポッサムと呼ばれています。赤ちゃんじゃなくて、これでも立派な成獣です。

南オーストラリアのカンガルー島に113匹が確認されていましたが、2019年9月頃から2020年2月まで続いた森林火災で絶滅したのではないかと危惧されていました。

ところが、最近、カンガルー島で発見されたのです。

 

世界最小の有袋類で、「チビフクロヤマネ」とも呼ばれています。クスクス亜目ブーラミス科、夜行性で日中は木の祠などで休んでいるそうですよ。

名称:Tasmanian pygmy possum  体長7センチ前後 体重10グラム

 

「手のひらに収まる愛らしい小動物38選」12位です。

BLAZE PRESS「手のひらに収まる愛らしい小動物38選」

14. アイ・メイクを間違えた? ヤバイお猿さん!

新種の霊長類 ポッパ・ラングーン
引用:CNN

 

 

 

 

 

 

名前はポッパ・ラングーン。

目の周りが白く、丸く縁取られたリングが特徴の新種の霊長類・お猿さんです。自動撮影の調査用カメラでミャンマーのポッパ山で2020年頃に発見されました。

CNNニュースで「アイ・メイクを間違えたお猿さん」と紹介されて一躍世界で話題になりました。

体重は約8キログラム、尻尾は体長より長く1m近くあります。樹上で果物などを食べていますが、狩りをするときは地上に下りてくることもあるようです。

生息数はわずか200~250個体と推計され、発見された直後に絶滅危惧種に指定されたヤバ~イ霊長類のお猿さん。

引用:https://www.cnn.co.jp/photo/l/972462.html

 

 

 

 

 

 

 

学名:Trachypithecus popa

元気に繁殖して個体数を増やして欲しいですね。

 

おわりに

今回は、最近気になるヤバ可愛い生き物を14種類、取り上げてみました。すでにご存じの個体もあったのではないでしょうか?

 

小さな生き物シリーズは新しい”ヤバ可愛い”個体を見つけたときに、追加していく予定です。面白い生き物を見つけたら、どうぞ教えてくださいね。

 

うるう年はだれが作った? 古代ローマのユリウス暦から現在のグレゴリウス暦までを解説

うるう年はだれがなぜ作ったのでしょうか?

暦は、天体と季節の移り変わりに合わせて人間が作ったものです。暦が狂っていては農耕も人の生活も成り立ちません。農耕での種まきから刈り取りまでのスケジュール、祭り事をいつ行うのかなど、一年の生活のスケジュールを決めるために暦はなくてはならないものでした。

 

紀元前46年、ローマの英雄ジュリアス・シーザーは、自然や天体の動きを正確に反映する新しい暦を作り上げました。それは四年に一度、1年の365日に一日を加える“ユリウス(ジュリアス)歴”です。これがうるう年の始まりでした。

 

その後、ユリウス暦はローマ教皇グレゴリウスの手で修正され、現在の私たちの生活に欠かせないグレゴリウス歴に進化します。ここでは、暦の進化の歴史を、由来やエピソードを交えてご紹介します。

 

古代ローマの英雄ユリウス・カエサル【ジュリアス・シーザー】がうるう年を作った

ユリウス・カエサル

 

うるう年を取り入れた現在の暦のひな形はローマの英雄ユリウス(ジュリアス・シーザー)が、紀元前46年に作りました。ユリウスはエジプトを征服した英雄です。エジプトからローマに凱旋したユリウスは、一年を365日としたエジプトの暦を参考にして新しい暦を作りました。

 

新しいユリウス暦は、4年に一度、1日を増やして、1年が366日の「うるう年」を作ったのです。これがうるう年の始まり、ユリウス暦です。なぜそんなことをしたのでしょう。

 

1年とは、地球が太陽のまわりを回って元の位置に戻ってくる日数のことです。この日数が暦と同じ365日であれば問題はないのです。しかし、現実には地球が太陽のまわりを回って元の位置に戻ってくるのには、1年の365日に対して0.24219 日・約5.8時間が余分にかかっていました。

 

暦が一年経ちましたよといっても、地球はまだ一年前の位置のすこし手前にいたわけです。次の図をみてみましょう。暦の上で1年が経過したとき、地球はまだ少し前の位置「ここ」にいるのです。

実際の位置はまだ1周のすこし手前にいます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

このように、1年を365日とする暦を使っていると、四年が経てば約一日、暦と地球の位置にズレが出ました。 

0.24219 日×4年=約1日

 

地球に「もっと早く回れ!」と言っても無理です。ということで、ユリウスは4年に一度、平年より1日多い366 日のうるう年を作って、1日のズレを調整したのでした。4年に一度追加された1日のおかげで、地球はぴたりと元の位置に戻れるのです。これがうるう年をユリウスが作った理由です。

 

ところで、うるう年に追加される1日を1年のどこに置くかについて、面白いエピソードがあります。ユリウスは、まず1日増やす月は2月にしようと決めました。そこまではよかったのですが、ユリウスは1日増やす方法として、2月24日を2回繰り返したのです。

 

きっとみんな驚いたでしょうね。翌日目が覚めたらまた前の日と同じ日付けなのですから。でも現在なら誕生日が2月24日の子供は大喜びしたでしょう。誕生日のお祝いが2日続くのですから。1日の増やし方として、とても乱暴なやり方ですが、凡人には思いもつかない合理的な方法ともいえますね。

 

さて、この暦は無事スタートしたのですが、カエサルの死後とんでもないことが起こります。4年に1回のうるう年をなんと間違って3年に1度にしてしまったのです。ありえないミスですが、数年間だれも気がつかなかったのです。

 

のちに初代のローマ皇帝アウグストゥスがこれに気づいて元に戻すことになります。この功績でアウグストゥスは8月に自分の名前を付けて、「Augusutus」(英語でAUGUST)とします。先輩のユリウスが、既に7月を自分の名前を取って「Juliusu」(英語でJULY)としていたのでこれを見習ったのでした。

 

ローマ法王グレゴリウスがユリウス暦を修正、現在も使われているグレゴリウス暦とは?

グレゴリウス13世

 

 

 

 

 

 

 

 

 

現在私たちが使っている暦はグレゴリウス暦といいます。これはユリウス暦と実際の天体の動きの間に起きる月日のズレを解消するために、ローマ法王・グレゴリウス13世が1582年に定めたものでした。

 

実は、ユリウス暦を使用していたローマ教会やヨーロッパの国では、長い年月の間に自然とのあいだに1年間で10日のズレが生じていました。市民の日常生活や教会の活動にも影響が出たため、法王と教会はユリウス暦を修正して新しい暦“グレゴリウス暦”を作ることを決定します。

 

グレゴリウス暦では、うるう年は4年に1度ではなくて、「400年に97回」設けられました。新しい暦では400年のうち、4年に1回の合計100回ではなくて、3回減らした97回がうるう年となります。

 

それでは、先ほどの計算式をもう一度、見てみましょう。

1年のズレ0.24219 日×4年=約1日

0.24219日のズレが0.25日であれば4年できっちり1日のズレになるのです。しかし、ユリウス暦では1年で0.00781日のずれが残っていました。この結果、ユリウス暦では400年経つと1年で3日分、太陽に対する地球の位置が暦からずれてしまいます。

 

そこで、グレゴリウス13世は「400年に3日のズレ」を修正した新しい暦を作ったのです。

グレゴリウス暦の新しい「うるう年ルール」とは・・・。

  1. 西暦が4で割り切れる年をうるう年とする
  2. このうち100の倍数はうるう年から外す
  3. 最後に400の倍数はうるう年に復活させる

 

たとえば西暦2001年から2400年で見ていきますと・・・4で割切れる年は2004年に始まって最後の2400年迄、100回がうるう年です。このうち100の倍数の2100年、 2200年、 2300年、 2400年の4回はうるう年から外します。最後に400の倍数2400年はうるう年として復活させます。

これで400年にうるう年は97回となり、太陽の動きと暦が重なって無事400年が過ぎるのです。

 

グレゴリウスは1582年10月4日の翌日に新しい暦をスタートさせますが、このときのエピソードがあります。グレグリウス暦では、ユリウス暦10月4日木曜日の翌日を、グレゴリウス歴の10月15日金曜日としたのです。教会の暦にユリウス暦を使っていたために、長い年月をかけて暦が10日ほどずれていたので10日分を暦からカットしたのです。

 

グレゴリウスはキリスト教徒に取って大事な暦計算の基礎となる春分の日を3月20頃と決めて、新しい暦のスタートに際して10日の日数を暦からぶっ飛ばしてしまいました。これにはヨーロッパ中が驚いたことでしょう。10日間も失った人たちは予定が狂って、大忙しだったでしょうね。

 

新しいグレゴリウス暦では、それまで続いていたうるう年に2月24日を二回繰り返すことを止めて、2月に一日を増やして2月29日を設けることとしました。これが4年に1度のうるう日2月29日の始まりでした。

 

おわりに

ローマの英雄ジュリアス・シーザーは、古い暦を、天体の動きに合った正確な暦にするために、4年に1度、1日を増やして“うるう年”を作りました。しかしこの暦は完全ではなかったのです。

ローマ法王・グレゴリウス13世が「400年に3日のズレ」を修正した新しい暦を作り上げます。このグレゴリウス暦が現在も使われている暦です。でも、まだ微妙なズレがあるのです。次はどんな暦ができるのでしょう。

地球が太陽の周りを回る太陽暦ではなくて、宇宙で暮らすための宇宙歴かも。

(おわり)

 

参照:国立天文台・暦計算室長 片山真人著「暦の科学」

 

関連記事

「うるう年2月29日生まれの誕生日はどうなる?年齢の計算方法をチェック!」

https://tossinn.com/?p=118

 

この世の果ての中学校最終章“お腹が減ったママとパパと先生たち!”

 

みんなが避難したペトロの神殿と、小さなエドの集まっている森が、ゆるやかにぶつかり、歪み、押しつぶされていく。

 

「お願い、ペトロ! 助けて!」

 悲鳴をあげながら守り神に祈る人たちの身体は、四方に砕け散り、ガンバの奏でる重い響きと共に宇宙に消えた。

 

前回の話はここからお読みください。

この世の果ての中学校31章“もう俺たちは後戻りできない”

この世の果ての中学校最終章“お腹が減ったママとパパと先生たち”

 ペトロはあわただしく、厳しい修行を乗り越えて、人間の守り神として天上の神殿に佇む。 

 神殿の庭園から、薄い帳を通して、パノラマのように広がる宇宙のすべてが見えた。

 近くで、地球と惑星テラが衝突を繰り返していた。互いに食い込み、離れ、壊れていく様子が手に取るように見える。

 ペトロの神殿から、たたきつけるようなガンバの響きとともに仲間の悲鳴が聞こえた。

 

××

 スマホが鳴った。

「ペトロ! お願い・・・みんなを・・・助けて!」

 いつものマリエの声が聞こえて、

 だんだん小さくなり、

 どこかへ、消えていった。

 

 ペトロは太陽神から譲り受けた宇宙の始まりの力を、二つの掌に込め、双子の惑星に向かって放った。 

 それは、宇宙の創生と、命の誕生を約束する原始の光! 

 荒々しいガンバの響きに引き寄せられて双子の惑星を照らし出し、やさしく包み込んでいく。

 

 二つの星は、そっと触れあった。

 戯れ、愛し合いながら融合していく。

 

 風が舞い、海が沸き立ち、山が盛り上がった。

 

 いにしえに失われた自然が、あるべきところにその青い姿を現した。 

 そして、古い命が蘇り、新しい形が生まれ出ていく。

××

 

・・・マリエの頬を芝生がそっと撫でた。

 目を覚ましたマリエは、柔らかい光に包まれて、校庭の芝生の上にあおむけに放り出されている。

 

 ペトロの神殿はかき消え、空に消えていったはずの校舎が姿を現した。

 みると、学校から細い道が丘の上の教会に続いている。

 

 丘の先には緑の森が拡がり、遠い先には山の峰々が青く聳えていた。

 

 マリエは、立ち上がり、空を見上げ、風を吸い込む。

 

「ワオ―!」

 咲良と裕太が駆け寄ってきた。

 

 三人は、抱き合って、笑って、泣いた。

 それから、裸足になって、青い芝生の上を思い切り駆けた。

 

・・・

 校庭の隅で、ママたちが目を覚ました。

「お腹減らない?」

 ペトロのママがマリエのママに聞いた。

 

「なんだかペコペコ。こんなに空いたの、何年ぶりかしら?」

 そう言って、二人は顔を見合わせた。

 

 それから、掌でお互いの顔を勢いよく叩き合った。

「痛い!」

 二人のほっぺたが、赤くはれ上がった。

 

「これって、なんだっけ?」

 ペトロのママが呟く。

「 陽に焼けた素肌にお化粧するときのあの感じ?」

 マリエのママが答える。

 

“もしかして・・・私たち・・・蘇った?”

「キャッ!」

 二人が悲鳴を上げた。

 

 悲鳴を聞きつけて、二人の周りにママ達が集まった。

 顔を見合わせて、6人でほっぺたを叩き合っている。

 

「腹減ったー!」

 パパ達が叫んで、

 ママ達の上に倒れこみ、

 それから、みんなで、芝生の上を転げ回った。

 

・・・

 青く、突き抜けるような空から、銀色に輝く小さな宇宙艇が風に揺れながら、その姿を現した。

 宇宙艇は人影の多い校庭をあきらめて、誰もいない砂場に不時着した。

 

 扉を開けて、ハル先生がタラップを駆け降りて来る。

 校庭を見回して、校舎から走り出してきたカレル教授を見つけると、大声をあげて抱きついていった。

 

「お帰りハル! あれっ! ナノコンはどうした?」

 カレル教授が目を丸くして聞く。

 

「大事なハルのナノコン、宇宙に飛ばされたとき失くしちゃったみたいよ」

 ハル先生がさらりと言う。

 ハル先生とカレル教授はしばらくじっと見つめ合った。

 

「もう、計算やーめた」

 ハル先生がそういって、カレル教授に長いキスをした。

 教授のハットが宙に飛んだ。

 

 匠とエーヴァが宇宙艇から下りてきた。

 待ち構えていた咲良、マリエ、裕大の三人が二人を取り囲む。

 

 裕大と咲良が匠の頭をぽんと叩いた。

 小さなマリエがエーヴァのお尻を蹴飛ばした。

 

 五人は相手かまわず、叩き合った。

 それを見た、パパとママたちも駆け寄ってきて、

 殴り合いに参加した。

 

・・・

 丘の向こうの森の中から「わーっ!」という歓声が沸き上がった。

 

 エドの子どもたちが学校に向かって、丘の斜面を駆け下りてきた。

 先頭にはボブ、クレアが続く。

 

 エーヴァがボブを抱き上げ、クレアとマリエがキスをした。

 

「キャッ!かわいい!」

パパやママたちがエドの子どもたちと抱き合ったり、背中を叩いたり、緑の髪の毛をぐしゃぐしゃにした。

 

・・・

 ホラーの広場を鹿や熊が走り回っている。

 広場の壁に描かれた動物たちの壁画が姿を消していた。

 

 一人の娘が地下を流れる川の畔で身体を清めている。

 天井に描かれていた美しい娘の姿がない。

 クオックおばばが、若いころの姿を取り戻したみたいだ。

 

”お腹空いた。フレッシュな記憶が食べたい!”

 娘は一言、贅沢を言うと、川辺に水を飲みにやってきた大鹿の背中に飛び乗り、角を掴み、腹を足で蹴り上げた。

 驚いた大鹿は地下道を駆け上がり、校舎の廊下を駈け抜け、校庭に飛び出した。

 まぶしい夕陽に驚いた牡鹿は立ち止まり、その場で跳びはねる。

 娘の身体は牡鹿の背中から飛ばされ、校庭に落ちた。

 

 娘の悲鳴を聞きつけて一人の若者が駆け寄り、娘を助け起こした。

 若者は呻き声を上げている娘を抱きかかえ、牡鹿の背中にそっと戻す。

 

 娘は若者に一言礼を言うと耳元に口を寄せ、

「あなたの記憶が食べたい」と甘い声で囁いた。

 

「こんな詐欺師の記憶で良ければ・・・」

 思わず答えた若者は、大鹿の背中に片足を掛け、娘の後ろに飛び乗った。

 

 ホワイト・スモーキーは牡鹿の腹を一蹴りして、娘と森の中に消えていった。

 大鹿を追いかけて、熊や、猿や、羊たちが森に駆け込んで姿を消した。

 

「ホラーの広場をゴルゴン一族の住み家とする」

 パパ・ゴルゴンがホラーの広場に一族を集めて宣言した。

 暖かく、飲み水と食料があって、安全な地下の広場はゴルゴン一族の領地となった。

 

・・・

 校長先生がカレル教授とハル先生を呼んで、校長室で打ち合わせを始めた。

「小さなエドたち緑の惑星の333人を加えて、合計338人に増えた生徒たちの教育をこれからどのように進めるかだが・・・」

 頭をかかえた校長先生が、話を切り出したとき、部屋のドアがバタンと開いて背の高い男が入ってきた。

「カレル教授、大事なハットが落ちてましたよ」

 未来の旅から帰ってきた虚構の手品師は校庭で拾った帽子を教授に手渡し、椅子に座り込んで大きく息を吐いた。

 

 カレル教授は手品師にハットのお礼を言って、早速、気になることを訊ねた。

「あなたのことを生徒たちがとても心配していましたよ。ペトロのパパはどこへ行ったのかとね・・・それで、地球の未来はどうでした?」

 

「未来はずっと続いていました。ほぼ順調です」

 手品師は努めて明るく答えた。

 

「ほぼ・・とは?」

 耳聡い校長先生が聞き返す。

 

「念のため三つの未来をパラレルに覗いてきました。二つの未来は平和そのものでした」

「で、三つ目は・・・?」

 校長先生と教授が声を合わせた。

 

「三つ目の地球では・・・生命を持つた一族が五つの大陸に分かれて戦っていました」

 手品師が渋々と話を続ける。

 

・・・北の大陸では進化した昆虫が人類と戦い、

南の大陸では巨人の兵士が強国を作り上げて、

他の大陸に侵略を繰り返しているようでした・・・

 

 校長と教授の表情が強ばったことに気が付いて、手品師が慌てて修正した。

「先生方、御心配には及びません。人類の未来は三つとも確かに存在していたのですから」

 

「この地球に、戦争が起こる確率は?」校長先生が手品師を問い詰める。

「33.3%」手品師は仕方なく答えた。

 

「ハル先生、巨人の住んでいた惑星や人食い昆虫の惑星が緑の惑星にくっついて地球にやってきた可能性はどのくらいありますか?」

 カレル教授がハル先生に聞いた。

 

「おそらく33.3%くらいかと」

ナノコンを宇宙で失ったハル先生が計算が出来なくて困っていると・・・。

 

「暖かいハーブティーとクッキーはいかが?」

ヒーラーおばさまがやってきて、ハーブティーと秘蔵のクッキーを配った。

クッキーがあっという間になくなったのを見届けてから、ヒーラーおばさまが結論を出した。

 

・・・人間がいる限り、いつかはどこかで戦争が起こっても驚くには当たりません。子供たちを信頼して、もうその話は止めましょう・・・

「それより手品師の先生! お顔がペトロのパパに戻っておられますよ!」

 驚いた手品師が両手で自分の顔を探って見ると、くぼんだ目に手が触った。鼻が伸びて、大きな耳が二つも付いていた。

 

 「どうやら、わたしの虚構の旅は終わったようです。未来は子どもたちの手に戻りました」

 手品師はペトロそっくりの顔で安堵の溜息をついた。

 

 「あなた、お帰りなさい!」
 ペトロのママが校長室のドアを開けて駆け込んできて、手品師の胸の中に飛び込んだ。

 

・・・

「代役は終わった。ペトロのもとに戻ろう」

 校庭の隅からすべてを見届けたペトロの影は、一息つくと、校舎の暗闇に消えた。

 影は、本来影のあるべき場所、守り神ペトロのいる天上へ帰って行った。

エピソード 若き勇者の記念碑
 

 学校から森に続く一角に、小さなメモリアルパークが造られた。

 ペトロがマイ・ワールドにつくった「森の中の森」が再現され、水が噴き上げる六角形のフォリーと、咲き乱れる花畑のそばに二つの記念碑が並んでいる。

 一つはプレートで創られたエドの記念碑。

 その横にペトロの記念碑が新しく建てられた。

 

 祈念碑には、

「若きペトロここに眠る・・・2079年~2093年」

と刻んであった。

 

 その前に全員が集まっている。今日は除幕式だ。

 

「まだ見習い中ですが即興です。演目は【亡き二人の勇者のためのパバーヌ】」 
 

 そういって、ペトロのママから特訓を受けたマリエが双子のガンバを演奏した。

  演奏が始まると虚構の手品師がペトロの碑の前に跪き、一冊の古書を取り出して台座においた。

 真っ黒な厚手の表紙に銀箔で「虚構の手品師と不毛の楽園」と書かれている。裏表紙には「無名の手品師に贈る。弟子・ペトロ著」とあった。

 

 両手を合わせた手品師の目に涙が浮かび、その一粒はつつーと頬を伝わって、古書の上にぽとりと落ちた。

 しずくは古書の表紙ににじみ込んでタイトルを消した。そして裏表紙に回り、著者の文字を消した。

 しばらくして新しい文字が現れた。

 黒い表紙に「この世の果ての中学校」の銀文字が鮮やかに浮かび上がった。

 除幕式が終わり、ペトロの碑の台座に置かれた古書に興味を引かれたボブが、近づいて行って「この世の果ての中学校」を手に取った。

 本を途中まで読んで自分の名前を見つけた。 

 そこには・・
「ボブが途中のページを開いたとたん、一陣の風がさっと吹きつけ、古書を空高くさらっていった」と太い文字で書いてあった。

 ボブが慌てて本を閉じようとしたが、間に合わなかった。一陣の風がさっと吹き付け、古書を空高くさらっていった。

 

 ボブは大事な本を飛ばした責任を感じて、ふさぎ込んだ。

「ボブは紙の本は好きかな?」ペトロのパパがボブに近寄って聞いた。

「本はまだ呼んだことがありません。でも是非一度読んで見たいと思っています」
 

 ボブが答えると手品師はボブの肩に手を置いて、優しくささやく。

「いずれ私の古書店にご案内しよう。学校からわずか五分のところだ。隣の実験室には、みんなの将来の夢をかなえる秘密のプレゼントも隠してある」
 

 ボブの目が輝いた。

 ペトロに代わる弟子を探している手品師の技が小さなボブを捉えていく。
 

エピローグ

 

・・・お前達覚悟しておけ! 明日は古代ローマの闘技場に向かって出発する。ついでにもう少しさかのぼってギリシャの古代オリンピックも視察する。

ペトロのパパにお願いして、二泊三日の課外授業だ。

男子生徒は奴隷やアスリートの命をかけた戦いを体験してもらう。

女生徒はハル先生が引率する。ローマ帝国の女性たち、優雅な貴族と、過酷な平民や女奴隷の生き様の研究だ。

生徒の数が多すぎたから抽選で20名の代表に絞った・・・

 そういって、はぐれ先生が生徒に旅の衣装と装備を説明する。

 

 男子生徒には古代ローマの剣闘士・グラディエーターの重装衣装に槍と棍棒、兜と盾が、女生徒にはローマ貴族の白い上下の絹のローブに金色のベルトと小さな靴、そして勝者に与える髪飾りが用意された。

 男子生徒は早くも興奮気味。

 パパ・エドとアスリートの匠が校庭に出た。

 

「ペトロの弔い合戦だ!」匠は槍を選んだ。

「エドの敵討ちだ!」パパ・エドが棍棒を選んだ。

 

 二人は不敵な笑いを浮かべ、戦いを開始した。

 クレアとマリエがツンと顔を上に向け、気取った足取りで貴族夫人となって歩く。

 長いローブの裾に蹴つまずいてクレアとマリエが芝生に倒れた。
 
  ××
「この授業、先が思いやられるぜ!」

 守り神ペトロが天上から眺めて思い切り笑った。
 ××
 
 「ジャン!」

 マリエのポケットでスマホが鳴った。

 「遊びに行っていい?」

 

  マリエは丘の上の教会に向かって駆けだしていく。

  教会のステンドグラスがキラキラと輝いている。                           

 (おわり)

 

・・・

 ボブが飛ばした古書「この世の果ての中学校」は時空を越えて、お手元に届いたでしょうか?

 約5年をかけて書き、何度もリライトしている中にとんでもない長編になりました。

 最後までお読みいただき、誠にありがとうございます。

 ・・・感謝を込めて、虚構の手品師

 

 

 

 

 

 

この世の果ての中学校31章“もう俺たちは後戻りできない”

 
 その日の朝早く、裕大は、みんなが暮らしている巨大人工ドームの大気環流装置をいつものように静かに稼働させた。

 天蓋によって守られた穏やかな空を眺め、少しずつ出力を上げていく。

 環流装置に圧縮して溜め込まれていた清浄な空気が噴き出し、ドームの内部空間に強い上昇気流が起こった。 

 

 「お世話になった楽園とお別れだ!」

 そう言って、裕大は出力をマックスから一気にレッドレベルに上げる。装置が破裂する轟音とともに、爆風が一直線にドームの天蓋に向かって吹き上がった。

 天蓋の中央に亀裂が入り、亀裂は四方に走った。そして、巨大な天蓋が粉々に砕けて飛び散った。

 

・・・前回のお話はここからどうぞお読みください。

この世の果ての中学校30章“暴かれた宇宙の歪みの秘密!”

 

この世の果ての中学校31章“もう俺たちは後戻りできない”

 

 荒々しい太陽の光線が直接地上に降り注ぎ、熱せられた地面が熱い空気を作り強力な上昇気流を巻き起こした。

 

「上昇気流完成! これでもう俺たちは後戻りできない!」 

 そうつぶやくと、裕太は壊れた制御室を離れ、厳しい日差しの中を学校に向かった。

 
 校庭に「おもちゃのマーチ」が聞こえて来た。ペトロの神殿が空に浮かび、校庭に運び込まれてくる。神殿の屋根に偉そうに座って、歌っているのは匠。ペトロの兵隊たちが声を合わせ、神殿の四隅を担ぎあげている。

 アーチ状の神殿は逞しく生まれ変わっていた。光る影と兵隊が一晩かけて作り上げたものだった。神殿には《結界》が設けられ、内部は守り神ペトロによる「聖域」となった。神殿は校庭に運び込まれ、ペトロの兵たちが周りを固めた。

 

 教室から校庭を眺めていた裕大のパパが、運び込まれた神殿が上昇気流に吹き上げられて揺れているのを見て、となりにいる咲良のパパに話しかけた。

「裕大が、みんなでペトロの神殿に早く避難しろというのですが・・・あの揺れ具合だとこの教室の方が安全じゃないでしょうか?」

「幻想で作られたペトロの神殿はファンタジーアを離れたらいずれ消滅する運命です。私もここを離れませんよ」咲良のパパが吹き出す汗をぬぐいながら答える。

 

「教室はとても暑いし、危険です。頑固なパパたちは放っておいて、私たちママは早々にペトロの神殿に参りましょうね」エーヴァ・ママがパパたちに聞こえるように大声で話した。

 ママたち6人は荷造りを終えて神殿に避難を始めた。

 

 咲良が、カレル先生がその中に眠り込んでいる特殊魔法瓶を神殿に運んできた。

「ハル先生から、『留守の間、カレル君の面倒みておいてね!』って頼まれたんだけど・・・カレル先生のベッドはどこに置けば安全かしら?」と、咲良がマリエに聞く。

「ペトロの玉座の中はどうかしら・・・大事なノアの箱舟と一緒によ。きっとペトロが守ってくれると思うの」

 二人は玉座に隠されている秘密の引き出しを開けて、カレル先生と箱舟を並べて入れ、揺れてもいいように緩衝材を隙間に詰めた。

 兵たちの目を盗んで、小さな生き物が一列になって神殿に走り込んできた。先頭の一頭がマリエの横に座って「チチッ」と鳴いた。

「あら~! お帰りゴルゴン!」マリエが飛び上がって喜ぶ。

 ゴルゴン一家が戻ってきた。パパ・ゴルゴンは「この世で一番安全なところはペトロの神殿だ」と一族に宣言をした。ゴルゴン一家はマリエの横に並んで祭壇に小さな手を合わせた。

 

「私のガンバはどこ?」

 神殿でペトロのママが騒いでいる。

 光る影が、神殿の奥に据え付けた電子ボードの裏側からガンバを取り出し、ママに渡す。

 ママはガンバを指ではじいてみた。 

 ”ぎぎ、ガリ!”

 

 電子ボードがガンバに反応して、明滅をはじめる。

 音合わせが終わるとママは椅子に座り、両脚でガンバを挟み込んだ。

 

 一泊置いてママが神殿の奥に向かってOKのサインを送った。

 神殿の奥で待ち構えていたペトロの光る影が、指揮棒で電子ボードを軽く叩く。

 

「みんな、行くわよ!」

 大きく叫んだペトロのママは、右手をくねらせて弓を持ち上げ、双子の弦に勢いよく叩き込んだ。

 電子ボードが激しく明滅し、神殿の天蓋に光の束を放った。

 光の束は、8つの色に分かれて、神殿の朧な屋根を突き抜け、大気を引き裂き、宇宙の歪みに向って飛び出していった。

 光の束は、「双子の惑星のシンフォニー」序章「おもちゃのマーチ」を奏でていた。

 

 校庭の砂場で改修を終えた超光速艇ハル号が発進の時を待っていた。

 艇長はハル先生、操縦士はエーヴァ、乗員は匠と天上の案内役のスモーキーだ。

 

 艇は先端が両側に大きく開いている。海洋からオキアミを掬い取る鯨のように、宇宙に散らばるダークエネルギーを拾い集める集塵装置だ。

 

 神殿から響いてくるガンバの重奏低音がハル号を揺らした。

「始まったぞ!」操縦室でホワイト・スモーキーが匠の肩から跳び上がった。

「ダーク・プロジェクト発進!」匠が宣言した。

 

 エーヴァが操縦桿を手前に引き込み、宇宙艇を宙に浮かせる。

 神殿の上空で、上昇気流と光の束の流れを掴まえたハル号は、猛烈な勢いで宇宙に飛び出していった。

 

 緑の惑星の森がざわついて来た。

 森の前の広場で小さなエドたちが大きなエドの碑の前に集まって、遠くから聞こえてくるガンバの響きに合わせておもちゃのマーチを唱っている。

 

「ボブ、第一楽章は『風の目覚め』だよ!」匠が宇宙艇からボブに伝えた。

 

 風を運ぶ森のテンポでボブとクレアが踊った。333人の小さなエドたちが素早いステップで「風の目覚め」を舞った。 

 

「風のおじさん起きて! お目覚めの時間だよ!」

 ボブの声が緑の守り神の身体を揺らした。

 

「おっと! ボブとクレアとの約束の時間だ」

 目を覚ました守り神は、いつもの渓谷を一気に登り切り、森の上空に舞い上がってつむじ風を巻き起こした。

 
「ギシ!ギシ!」

 柱がきしむ嫌な音が聞こえてきて、教室に残っていたパパや校長先生が慌てて神殿に避難をはじめた。ママたちは神殿の中央に車座になってガンバの響きに耳を傾けている。

 パパたちもその輪に加わって座り込み、一息ついた。

 

「難儀な男たちだこと!」ヒーラーおばさまが神殿の暗闇から現れて、最後に車座に加わって、勢ぞろいとなった。

 

 校庭のテントからホラーの悲鳴が聞こえてきた。ホラーやアンデッドが、風に持っていかれそうになって必死でテントの柱にしがみついている。

 

 あわてて、咲良がホラーを神殿に避難させた。

 喜んだホラーやアンデッドが、神殿の暗闇を奇声を上げて飛び廻り始めた。

 

「なんだか騒がしくありません?」マリエのママが異変に気が付いた。

「キャッ! いま、耳元をかすめて何か飛んでいきましたわ」エーヴァ・ママが首を竦めた。

 

 クオックおばばが、ガンバの重い響きに引き寄せられて、ペトロのママに近寄り、耳元で囁いた。

「あんたの演奏、上手じゃのー。この神殿、居心地良くて気に入った! ここをおばばの新しい住み家にしたいのじゃがどうかな? ホラーの広場と交換で・・・」

 

「ギギギ! ガガ!」
 ペトロのママの手元が狂って、双子のガンバが宇宙に怪しげな音を響かせた。
 

・・・
 超光速艇ハル号は最初の目的地、歪みの壁の近くに到着した。そこは匠がハンモックで寝ていたところだ。

 匠は天上への入り口を探したが、なにも見えない。

 

「スモーキー! 目を覚ませ!」

 匠は、窓際で気持ちよく眠っている白い煙をたたき起こした。

「暗黒物質の在処(ありか)を教えろ! 少々頂戴して持ち帰る!」

 

 天上の案内人、スモーキーの記憶が目覚めた。

「了解。歪みの外壁そのものが暗黒物質で出来ているから、壁をかじり取ればいい。素早くかじって、素早く逃げる」

「分かった。それで壁はどこだ?」

「それは分からない。守り神でないと分からない」スモーキーが軽く受け流す。

「なぬ?」と匠が考え込んだ。

 

・・・待てよ、あのとき葉っぱの端切れが宙に浮いてて、そこで壁を見つけた。天井の入り口の鍵『葉っぱのハーフポーション』だ。あれ、たしか、帰りにも使ったぞ。それであの後どうしたっけ?・・・

 

 匠の記憶が蘇った。

「スモーキー! お前、あの葉っぱを隠してるな。確かその腹のあたりだ」

 

「ばれたか!」

 スモーキーは隠していた葉っぱを取り出して、匠に手渡した。彼は、天上に取り上げられた自分の身体をいつか取りもどしてやろうと、入り口の鍵を隠していたのだ。

 

 匠は光速艇の開口部から葉っぱをそっと外に出して、一陣の風を送った。

「飛んでけ、飛んでけ、歪みの壁まで飛んで行け~!」

 

 葉っぱは宙を舞い、宇宙艇から右斜め上100メーターの位置で静止した。

「歪みの壁発見! エーヴァ操縦士、葉っぱの手前10センチにベタピンだ。出来るか?」と、匠が聞く。

 

「任せなさい!」エーヴァが光速艇を葉っぱの手前に近づけていく。

 “ゴツン!” 

「大当たり!」スモーキーが叫んだ。

 

 匠はハル号の前方の取り込み口を開いて、前歯を回転させ、がりがりと透明な壁をかみ砕いた。粉砕した暗黒物質は艇の冷凍庫に収めた。

 

「逃げろ!黒い衛兵が来るぞ」スモーキーが首をすくめる。

「まだだ、もう少しだ」匠は冷凍庫がいっぱいになるまで囓り続けた。

 

「終わった。逃げろ!」匠が叫ぶ。

「了解!」エーヴァは艇を半回転させ、一目散に壁を離れた。
 
  ××
「すばしこい小僧だ! 今度は俺の尻をかじりやがった」

 監視カメラを見ながら太陽神が怒っていた。

 ×× 

 

「第一段階成功!」

 宇宙艇を安全なところまで運んで、エーヴァと匠がハイタッチした。

 

「大変! 匠、これ見て!」

 ハル先生が操縦席の前方にあるエネルギー制御盤を指さして騒ぎ出した。

 画面いっぱいに真っ赤な危険信号が明滅している。

 

「至急、第二段階開始。 暗黒物質を地球と緑の惑星に向けて緊急発射しましょう。・・・ ミスマッチでとんでもないことが起こりそう」

 

ハル先生が量子ナノコンで計算を始めた。

・・・地球からの航行中に拾い集めておいた大量の反重力エネルギーが、たった今採集した暗黒物質に反応する確率は・・・ワーオ! 99.9%!・・・

二つが宇宙艇の中で至近距離で反応しあうとなると・・・あら、これ、ビッグバンが起こって宇宙がどこかへ消し飛んでしまう!!!

「匠! 暗黒物質を大至急放出してください!」
 

 匠は冷凍庫から暗黒物質を取り出し、二つの超光速ミサイル弾に仕分けると、艇の先端と後部にある二つの発射砲に弾を込めた。

 ひとつは地球、もう一つは緑の惑星に向けて同時に発射した。 

 二つのミサイルは鮮やかな銀色の軌跡を宇宙に描いて、目的の惑星に向かって飛んで行った。

 沈黙の数十分が経過した。

「やったわよ! 着地成功!」

 ハル先生がミサイル追跡装置から目を上げ、振り向いてにっこり笑った。

   暗黒物質は地球と第三惑星に到着して、地底深くに潜り込んで行った。

 

“ドンドン!” 

 宇宙艇を外部から叩く音が響いてきた。宇宙艇の窓の外から、宇宙服姿の見知らぬ男が顔を覗かせて、匠に手を振る。

「ヤベー! 天上の黒い衛兵だ!」慌てる匠に、男が口を大きく開けて何か伝えてきた。

「なぬ! ”SMOKY” だって?」

 

 匠が出入口の二重ドアを開けると、若い男が息を弾ませて入ってきた。

「成功! 壁の隙間から天上に入り込んで、私の身体を取りもどしてきました。ついでに倉庫番をうまく騙して、クローゼットから宇宙服の最新モデルをひとつ」

 

 宇宙服を脱いで、幸せいっぱいに笑ったスモーキーは若くてとびきりのハンサム。とても詐欺師には見えなかった。

「あなたあのスモーキーなの?・・・あら、そのフェースで片っ端から他人を騙してきたのでしょう」と、エーヴァがからかった。

 

「これで、僕もやっと肩の荷が下りた。やれやれだよ」と、匠が続けた。
  
  ×× 
「冷凍倉庫から人間のボデイが一体盗まれました。それと守り神のためのニューデザインの宇宙服も一着」黒い衛兵が太陽神に報告した。

「今度は煙野郎の仕業か!」最長老の顔が紅潮してきた。

 太陽神の怒りが爆発する前に、危険を察した衛兵たちは慌ててその場から姿を消した。
  ××
 
 暗黒物質が二つの惑星の地下深くで、目を覚ました。

 明るく暖かい壁の中で気持ちよく休んでいたところを、突然がりがりとわが身を引きちぎられて、目が覚めたところは暑くて暗い。どこかの惑星の大地の底深く。

 暗黒物質はだんだん不愉快になってきた。

 

 粉砕され、遠く引き離された暗黒物質が、元の姿に復元しようとして動き出した。

 緑の惑星の暗黒物質は地球の暗黒物質を引きつけ、地球の暗黒物質は緑の惑星の暗黒物質を呼び戻した。

 地球と緑の惑星、二つの惑星がじわりと動いた。

 二つの惑星は暗黒の力で引っ張り合い、その形を楕円形に変えてお互いを引き寄せていく。

 

 緑の惑星の地軸が乱れ、海が川のように流れ、山が傾き、森が悲鳴をあげる。

 ボブとクレアはエドの碑の前で風に吹き飛ばされそうになっていた。

 二人は頭を抱えて地面にしゃがみ込んだ。

 

「ここは危ない、森の家に戻ろう」

 小さなエドが仲間を森の中に避難させようとしたが、間に合わなかった。ボブとクレアと森の仲間の数人が風に巻き込まれて吹き飛ばされていく。

 

「風のおじさん、助けて!」空を舞いながら、ボブとクレアは風のおじさんを必死に呼んだ。   

 緑の守り神のおおきな顔がにゅっと現れて、ボブたちを風の手で掴まえた。

 おじさんは肩に担いできた大きな空気の袋を拡げ、みんなを優しく包みこむ。

 全員が入り終えると、風のおじさんは袋を閉じた。

 中は暖かく、風が遮断されて安全だった。

 

「ボブもクレアも、この中でみんなと一緒に頑張れよ!」

 風のおじさんが大きな緑の手で袋を上から押さえてくれているのが見える。

 

 緑の惑星に引き寄せられたペトロの神殿が、進路のただ中にある宇宙の歪みに突入した。

 

 神殿がじわりとゆがみ、

 ホラーが奇声を上げて宙を舞い、

 暗い片隅ではおばばとアンデッドが抱き合った。

 

 学校の校舎は風に飛ばされて宙に舞い、ばらばらになって空に消えていった。
 

 ペトロの神殿から、天蓋を通して緑色をした惑星が頭上に迫ってくるのが見える。

 ママたちは悲鳴を上げ、パパや先生は頭を抱えて衝突に備えた。
 
 ・・・

 光速艇ハル号は、地球と緑の惑星が近づいてくるのを待ち構えていた。

 

「緩衝エネルギー発射用意!」 

 ハル船長が匠に向かって叫ぶ。

「カプセル投棄!」

 

 匠は宇宙空間で集めておいたダークエネルギーの粉塵をカプセルに分納して、宇宙船の船尾につないでおいた。

 匠はカプセルの引き綱を切って中身を宇宙に投棄した。

 反重力エネルギーが地球と緑の惑星の中間点にまき散らされた。

 

 カプセルに閉じ込められていた反重力エネルギーが宇宙空間に放出され、近づいてくる地球と第三惑星をはね返した。

 巨大な暗黒の手が両側に伸びて、二つの惑星を押しとどめる。

 

 惑星はスピードを徐々に落としながら、互いの距離を縮めていく。

「作戦終了! 反転離脱」ハル先生がナノコンを放り上げた。

「作戦終了。とんずら開始」エーヴァが叫んだ。

 

 四人を乗せた宇宙艇はまき散らした反重力エネルギーに弾き飛ばされ、回転をしながら時空のどこかへ消えていった。
 

 ボブが風の袋の中から空を見上げると、大きな地球が目の前に迫ってくる。

 神殿の屋根が見えて、ボブの大好きな曲がかすかに聞こえた。

 ボブも大声を出して風のおじさんの歌を唱った。

 

「ボブ!どうした」緑色の大きな顔がぬっと現れた。

「もうすぐ衝突するよ。でも、スピードがあまり落ちてないよ。お願い! そっと、そっとだよ!」

 ボブが悲鳴を上げた。

 

 風のおじさんは近づいてくる地球に向かって胸を膨らませ、ありったけの風を地球に向かって吹き付けた。 
 

・・・

 二つの惑星がゆっくりと衝突した。

 ペトロの神殿の天井に、緑の森が逆さまになって食い込んできた。

 

 ペトロのママがガンバの弦を力の限り叩く。

 スナップを効かして強烈なドライブをかけ、弓を弦にたたき込んだ。

 腹に食い込むような響きがガンバの双胴から放たれ、神々の集まっている天上に響き渡った。

 

 ペトロの神殿と、小さなエドのいる森は、ゆるやかに歪み、押しつぶされていく。

 

「お願い、ペトロ! 助けて!」

 悲鳴をあげながら守り神に祈る人たちの身体は、四方に砕け散り、ガンバの奏でる重い響きと共に宇宙に消えた。

(続く)

 

続きはこちらからご覧ください。

この世の果ての中学校最終章“お腹が減ったママとパパと先生たち!”

 

【記事は無断転載を禁じられています】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

近代五輪のお手本「古代ギリシャオリンピック」 実は破廉恥な6つの裏話! 

クーベルタン男爵が提唱した近代オリンピックは、古代ギリシャのオリンピックの平和主義とアマチュア精神を手本にしたとされています。しかし、史実によれば古代オリンピックの実態はクーベルタン男爵が描いた理想のイメージとは異なっています。

オリンピアで男性が裸で戦ったのは有名な話ですが、その背景に破廉恥な習慣がありました。アマチュア精神とかけ離れた優勝者への特別待遇や、“聖なる丘”の劣悪な環境、ネロ皇帝の虚栄心など「実は破廉恥な6つの裏話」をご紹介します。

古代ギリシャのオリンピックとは?

古代オリンピック   陶器・壺

 

 

 

 

 

 

そもそも古代ギリシャのオリンピックとはどのような大会だったのでしょうか?

古代オリンピックが誕生したのは、紀元前6世紀から4世紀にかけて、古代ギリシャの栄光の時代でした。伝説的な話では紀元前776年にギリシャのオリンピアで始ったとされています。日本では神武天皇が国を開いたと伝承されるのが紀元前660年ですから、その100年も前にギリシャではスポーツの祭典であるオリンピック大会が開催されたことになります。

古代オリンピックは西暦393年まで12世紀ものあいだ、ゼウスの神に捧げる平和の祭として、4年に1度行われ、合計では293回の大会が開催されました。大会の開催を挟む3か月の間はアテネやスパルタなど都市国家間の戦争が禁止されたので、ギリシャ中から熱心な観客がオリンピアに向けて歩いて集まったとされています。

西暦392年、ギリシャを支配していたローマ帝国がキリスト教を国教とした事で、異教であるゼウスを崇めるオリンピックは、その翌年の393年に禁止され、長い歴史を閉じます。

 

近代五輪のお手本「古代ギリシャオリンピック」実は破廉恥な6つの裏話 

それでは、クーベルタン男爵が近代五輪のお手本とした「古代ギリシャのオリンピック」の実は破廉恥なエピソードを6つ紹介します。

 

エピソード1  選手はなぜ裸で戦ったのか? 青少年教育の一環?

 

総合格闘技コンテスト「パンクラチオン」を示す紀元前530年頃のギリシャの壷。右側のアスリートは、服従のしるしとして人差し指を上げています。

 

古代オリンピックで選手が裸で戦った理由は、競技中に一人の走者の腰布が外れ、つまずいて競争できなくなったことがきっかけで、他の選手も腰布を外して走ることにしたからだという説があります。それ以外に、不正を防ぐために裸になったという説や、すべてをさらけ出して戦うのがギリシャ市民の平等の精神であったという説など、いろいろとありますがその真相は不明です。

裸体はギリシャ文化の特徴です。古代オリンピックも含めて肉体の顕示はギリシャの文化の最大の特徴とされています。

実は、古代ギリシャのスポーツの世界では思春期に達する前の少年を指導するという大義の下に、練習が裸で行われ、指導者と少年との性的な関係が一般化していたとされています。

文化的都市国家の始まりといわれる古代ギリシャで、このような行為が教育の一環として社会的に認知されていたというのには驚きます。

 

エピソード2  裸で戦った屈強な男性たちの姿を、なぜ未婚の女性は観覧が許されたのか?

 

裸で走るアスリート
IOC公式

 

 

 

 

 

 

 

古代オリンピックでは、競技で戦うのは男性のみで女性は競技に参加することができません。既婚の女性は競技場に入ることも観覧することも禁止されていましたが、若い女性や未婚の女性に限って観覧することが許されていました。若い男性の裸を婚前の若い女性が見ることを禁じるのが常識とされそうですが、事実は逆でした。

実は、若い娘の父親がオリンピックの優勝者と娘を結婚させたいという下心から、ルールを破って娘を会場に連れてきたのが始まりという説があります。オリンピックの優勝者はそれほど娘の結婚相手として理想的だったということです。

親心はいつの世も同じです。オリンピックの優勝者と結婚できれば、可愛い娘には生涯、裕福な生活が約束されたのでしょうね。

 

エピソード3  古代オリンピックの優勝賞品はオリーブの花輪と名誉だけ!は大間違い!

 

古代オリンピックはアマチュアリズムのお手本のように語られることが多いです。近代オリンピックからプロ選手を厳しく排除したクーベルタン男爵は、「古代オリンピックのアスリートは高貴なアマチュアであって、運動能力を現金で売るような下品なことはしなかった」と主張しています。

実は、古代ギリシャにはアマチュアとかプロといった区別はなかったのですが、優勝者が自国に凱旋すれば英雄として迎えられ、特別な待遇が待っていました。豪華な無料の食事、現金の提供、税の優遇などがあり、一生豊かに暮らすことができたとされています。古代ギリシャの植民地イタリアのクロトン(Crotona)ではオリンピック優勝が目当ての競技者を育てる専門の学校と施設まであったのです。

 

エピソード4  オリンピアの聖なる丘/実は不衛生で蠅だらけ、水不足で熱射病、大量の死者が出た!

 

大会の行われたゼウスの神域であるオリンピアは一般の観客にとって苦難の場所でした。都会であるアテネからオリンピアまで340キロも離れていて、東京から名古屋に相当する距離を数日かけて歩かないといけません。到着してもオリンピアにはVIP相手の簡易な宿泊施設しかなくて、一般の観客は不潔で過密なキャンプで過ごすしかなかったのです。

競技場は草で覆われた低い丘があるだけで、観客席や日よけの天井がなく、きれいな飲み水の不足と熱射病が待ち受けています。トイレや衛生施設もなく、悪臭が立ちこめ、病が流行ると多くの死者が出ました。

汚くて低い丘でしたが、そこはゼウスが父親とレスリングをした聖なる場所であり、神々もオリンピックの競技に参加して戦っていると考えられていました。オリンピアはギリシャの人々にとっては神の中の神であるゼウスの気配が感じられる美しい聖地でした。

 

エピソード5  破廉恥などんちゃん騒ぎ! 儲けたのは誰?

 

会場周辺では、若い学生たちが中心になって、ゼウスに捧げられた猪や牛の肉を食べ、酒を飲んでどんちゃん騒ぎが連日繰り広げられます。

実は、集まった男性の観客を目当てに地中海の方々から売春を目的にした女性が集まっていました。彼女たちはオリンピック開催のわずか5日間で1年分のお金を稼いだとされています。

また、古代オリンピック大会には、競技場への入場料がありません。大会を主催したのは貴族たちで、ギリシャ最大の宗教的行事に名誉をかけて働くことが目的で、金儲けは二の次でした。

実は、儲けたのは上手く便乗した事業家や、地元の農家や宿泊の提供者などいわゆる付帯事業を行った人達でした。現代で言えば、観光やインバウンド事業といったところでしょうね。

 

エピソード6  皇帝ネロの虚栄心のおかげでオリンピックが文化的イベントに?

 

古代オリンピックは、紀元前2世紀半ばから廃止となる393年まで、500年以上ものあいだローマ帝国の支配下で開催されていました。

ローマ皇帝はオリンピックに一般の競技者として出場することを規則で禁じられていましたが、第5代ローマ帝国の皇帝ネロはオリンピックに参加したくてたまりません。西暦67年、ネロは自ら規則を修正してオリンピックのメイン競技である数頭立ての戦車レースに出場します。

ルールにより戦車を引く馬は4頭と決められていますが、ネロは10頭立てで参戦。御者として太りすぎのネロは訓練不足も原因で、レースを開始して最初のターンの途中、10頭の制御ができずに投げ出されて瀕死の重症を負います。完走できなかったネロですが、強引にレースの勝利者としての栄誉を手に入れたとされています。

また、皇帝ネロは自分自身を詩人でありパフォーマーであると考えたため、スポーツの祭典であるオリンピックに芸術的な競技を新たに付け加えました。竪琴の演奏、トランペット、紋章コンテスト、演技と歌を競技として創設。ネロは競技のいくつかに参加し優勝しました。

ポルトガルギターの弾き語りでファドの原型と言われる“ギターラ歌手”として舞台に立った皇帝ネロ。そのパフォーマンスは聞くに堪えない代物で、観客は会場を逃げまわったとされています。もちろんネロはパフォーマンスのチャンピオンとして表彰されました。

ローマ市民は皇帝のオリンピック参加を是とせず、日頃から暴挙を行うネロを殺害する計画を秘かにたてていました。これを知ったネロ皇帝はギリシャからローマに変装して帰国しますが、燃え上がった市民の怒りから逃れられない運命と知り、覚悟を決めます。皇帝ネロは、過酷な死刑執行を避けるために西暦68年6月9日、自らの喉を切り裂いて命を絶ちました。

ネロの虚栄心のおかげでしょうか、古代オリンピックの精神を引き継いだとされる近代オリンピックでも、大会の開催都市ではスポーツ競技以外に、“アート・ウイーク”として地元の文化イベントが伝統的に併催されています。

 

おわりに

古代オリンピックには、興味深い裏話やエピソードがまだまだ隠されています。戦ったアスリートの汗は、媚薬として売られていたという説もあります。

古代オリンピックの裏話をこれからも探して参りますので、楽しみにしていてくださいね。

 

(おわり)

【記事は無断転用を禁じられています】