地球温暖化が止まらないときの最後の手段! 地球を人工的に冷却するSRM計画をあなたは知っていますか?
2022年夏、今年も熱波や山火事、干ばつなど地球温暖化が原因とされる異常気象が世界で観測されています。いま、私たち日本人が実感している暑さも、2018年の記録的猛暑を越えそうな勢いとか。世界の主要なCO2排出国は2030年に削減目標を達成して、地球の気候変動にストップをかけることができるのでしょうか?それともさらに暑い夏がやって来るのでしょうか?
人類起源による地球温暖化がどうしても止められなくなったとき、温暖化対策の最後の手段として考えられている方法があります。その方法とは、地球を冷却させるために人工的に気候介入を行う方法「SRM( Solar radiation modification )」です。SRMは太陽光の一部を宇宙に反射して、地球に届く太陽光を減らすことで地球の表面温度を下げようという試みです。
SF映画でしかお目にかかれそうにない大胆なテーマですが、米国では2017年に公聴会が開かれ、400万ドルの予算が付いて研究を進めています。一体どのようにして太陽光を反射するのでしょうか? 自然災害などが起こる心配はないのでしょうか?
以下では、地球を人工的に冷やすSRMの仕組みや課題をわかりやすく解説して参ります。
微粒子エアロゾルを成層圏にばらまいて太陽光を反射
SRMの代表的方法は、地表の上空・成層圏に二酸化硫黄などの微粒子(エアロゾル)を撒いて太陽光の一部を遮り、地上に届く光の量を減らして地球の気温を下げてしまう成層圏エアロゾル注入法(SAI)です。安定した大気の層である成層圏、地表20kmに飛行機でエアロゾルを注入して太陽光を反射し、調整します。
これは、火山の噴火によって地球の気温が下がる現象を模倣した方法です。1991年にフィリピンのピナツボ火山が噴火したときエアロゾルが成層圏に滞留し、地球の平均気温が0.5℃下がったと報告されています。
ピナツボ火山の噴火クラスのSAIを起こすことができれば、人類起源による気温の上昇を0.5度ほど抑制することができるという計算です。この方法は地域を限定するなど、比較的実現可能な方法としてモデル化され研究が進められています。
世界の平均気温を下げるための主な気候介入としてもう一つの方法があります。大気中のCO2濃度を下げるために、直接、大気から二酸化炭素を除去してしまうという方法(CDR)です。CDRはSRMに比べて生態系への影響などリスクが少ないとされています。
※CDR (Carbon Dioxide Removal)︓⼤気中の⼆酸化炭素を除去し、地中・地上・海洋の貯留層や製品に持続的に貯蔵する⼈為的な活動
植物の光合成という仕組みではなく、化学的に大気から直接CO2を 除去する手段を開発している企業や団体があります。最大の課題は回収した二酸化炭素をどのように処理するかです。ある企業は二酸化炭素を加工して建築用の資材を作りだしています。ある企業は、二酸化炭素を食べる藻やバクテリアに処理させる方法に成功したとか。いずれにしても、CDRは、現在の技術では世界の平均気温を下げることができる規模の場合、とんでもないコストが掛かるとされています。
一方、SAIを実装するためのコストとテクノロジーは達成可能な範囲ではあるが、生態系への影響など危険性については、まだ十分に研究されていないと言うことです。
人工的気候介入(SAI)が地球の生態系に及ぼす影響は不明?
2020年2月に米国科学アカデミーの機関誌・PNAS(Proceedings of the National Academy of the Sciences of the United States of America)に掲載された論文:
「地球を冷やすために太陽光を反射させることによる気候介入の生態学的影響の可能性」によりますと・・・SAIを使った人工的気候介入が生態系に及ぼす影響についてはほとんど不明とされています。
SAIによる成層圏エアロゾルは紫外線を含む太陽光を宇宙へ反射して、地表の紫外線を減少させる一方、成層圏のオゾンを破壊して地表の紫外線を増加させる可能性もあります。一般的に紫外線は生物に有害で、植物は成長に影響を受けるとされているので、生態系へのリスクが懸念されます。
紫外線とオゾンに対するSAIの影響の程度は、成層圏のエアロゾルの量や分布の状態、エアロゾルの種類、大気との科学反応や、放射との相互作用に依存するとされています。結論としては、生態学者・エコロジストと、気候科学者の間で国際的なチームを組んでSAIの潜在的な影響やリスクを研究する必要があるということです。
将来にむけて
実は、21世紀の初めから2013年にかけて、温暖化が見られなかった「ハイエイタス」と呼ばれる時期があります。気候変動に関する政府間パネル・IPCCはこの原因を海洋の熱吸収が大きかったこと、太陽放射が減少したことに加えて「エアロゾルによる冷却化が大きかった可能性」も理由に挙げているそうです。地球冷却化計画・SAIの有効性が示されているのかもしれません。
一方、エアロゾルは大気汚染物質でもあり、人体や生物への悪影響が懸念されます。SAIによる人工的気候介入には不確実性が付きまとっています。一方、生態系への影響などリスクが不明のまま、単独国家が強行して実施に踏みきるといった危険性も指摘されています。SAIは国際的なガバナンスや同意が必要とされる手段として、最後の最後まで残しておいてほしいものです。
【参考資料】
PNAS:Proceedings of the National Academy of the Sciences of the United States of America
「地球を冷やすために太陽光を反射させることによる気候介入の生態学的影響の可能性」
Potential ecological impacts of climate intervention by reflecting sunlight to cool Earth | PNAS
技術で地球は変えられるか?~気候工学(ジオエンジニアリング)~
https://www.jstage.jst.go.jp/pub/pdfpreview/sicejl/56/5_56_366.jpg
人類は地球温暖化対策としてどこまで踏み切るべきか?(杉山昌広准教授)/コラム/東京大学政策ビジョン研究センター (u-tokyo.ac.jp)
国際環境経済研究所
「エアロゾル」による地球冷却効果
―地球温暖化の知られざる不確実性―
https://ieei.or.jp/2019/11/opinion191127/
下條 俊隆
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