ウエブ望遠鏡が115億年前の銀河団に「宇宙の結び目」を発見! 大量の暗黒物質の存在も!

2022年10月20日、NASAはジェームス・ウエブ宇宙望遠鏡が捉えた宇宙初期の巨大銀河団の赤外線映像を公開しました。

公開されたのは115億年前、宇宙の始まりであるビッグバンから20億年が経過したばかりの初期の宇宙で、非常に赤いクエーサー(銀河の核)の周りに形成中の巨大銀河団。この度、明らかにされたのはその驚くべき形状と動きです。

天体は1つの銀河ではなくて、3つの銀河がもつれ合いながら高速度で回転していたのです。3つの銀河は尻尾の端が結びついていて、画像を見た研究チームは「宇宙の結び目だ、驚くべき発見だ」と報じています。

このクエーサーは遠く離れた宇宙に存在し、とても明るく輝いているので、ハッブル望遠鏡のような光学望遠鏡では恒星のような点光源になって捉えられていました。小さな点なので内部構造がまるで見えません。

今回は、赤外線望遠鏡であるウエブ望遠鏡によって驚くべき内部の構造が明らかにされたのです。

研究チームは、「宇宙の結び目」に目に見えない謎の物体・大量の暗黒物質ダークマターが存在するかもしれないと言っています。

“初期宇宙の銀河の謎を探るウエブ望遠鏡の旅!”

NASA公式サイトに載せられた研究チームの発表からその概要を紹介します。

115億年前の3つの巨大銀河のもつれ、高密度の「宇宙の結び目」とは?

クエーサー SDSS J165202.64+172852.3
(NASA公式サイト)

この画像は、ジェームズ・ウエブ宇宙望遠鏡によって始めて撮影された115億年前の巨大銀河団の姿です。上部の左の画像はハッブル宇宙望遠鏡で撮影された画像でターゲットのクエーサー 「SDSS J165202.64+172852.3」 が菱形のマークの中で小さく浮かび上がっています。右の画像と、下の画像がウエブ望遠鏡による新しい観測結果の画像です。

下部に並ぶ画像の右端がウエブ望遠鏡の赤外線反応により明らかとなった構造です。形成中の3つの銀河がもつれ合って、中央で尻尾が結ぶ目のようになっているのが確認できます。

3つの銀河は秒速700kmという驚異的な速度でお互いを周回しており、離ればなれにならないように1つの「結び目」でホールドされています。ここには大量の質量が存在することも確認できたそうです。チームはこれが初期宇宙における銀河形成の中で最も密集した領域だと言っています。

このクエーサーが異常に赤いのは、本来の輝きが赤色であることに加えて、銀河の光がウエブ望遠鏡に到達するまでに要した115億年のあいだに「赤方偏移」したためです。「赤方偏移」というのは宇宙が膨張しているので波長も引き延ばされて波長の長い色である赤色になる現象です。赤外線に高度に反応するウエブ赤外線望遠鏡によって、始めて内部構造を詳しく調べることができました。

これまで、ハッブル宇宙望遠鏡や他の天文台による研究で、「銀河風」によるクエーサーの外部への流出現象が見られることから、天文学者はクエーサーのホスト銀河が何か目の見えない相手と合体しているのではないかと推測していました。しかしウエブ望遠鏡の近赤外線分光器のデータから発見された事実は意外な結末でした。一つの銀河だけでなく、少なくとも3つの銀河が渦を巻いている銀河団であることが明らかになったのです。

研究チームは、このクエーサーに3つの銀河の存在を確認し、それらがどのように結びついているかを明らかにしました。「この赤いクエーサーは銀河形成の密な結び目の役割を果たしている」と結論を出しました。チームは銀河団全体の中心部を見ていた可能性があるとして、宇宙初期の高密度な宇宙の結び目(Dense Cosmic Knot in The Early Universe)と呼んでいます。

暗黒物質の2つのハローが合体している領域かもしれない!

チームのリーダーであるWylezalekによれば「暗黒物質の2つの巨大なハローが合体している領域を見ている可能性がある」としています。

暗黒物質 Dark matter とは銀河と銀河団をまとめている目に見えない構成要素であり、銀河を包み込む球状の領域ハローhaloを形成すると考えられています。

一般的に、ダークマターは目に見えない存在ですが銀河の集団である銀河団の運動をサポートするのに不可欠の仮説上の存在です。銀河団の中にある銀河の運動は重力に影響されるので、銀河の運動を調べると銀河全体の総重量が推定できます。ところが実際に銀河の質量やガスの重量を足し合わせても必要な総重量の5分の1程度しかないことが明らかになっています。

とすると、宇宙には目に見えないが存在する重量がどこかにあるはずなので、これを暗黒物質ダークマターと呼んでいます。ダークマターは宇宙で均一に広がっているのではなくて、銀河が観測される場所には多く存在し、銀河のない場所では少なくなっているそうです。ダークマターの正体はいまだに不明です。今回の初期宇宙時代の宇宙の結び目がダークマターの二つのハローが合体している状態であるとすれば、この研究はダークマターという宇宙の謎の解明に一歩近づいたかもしれません。

NASAのチームの記事解説はここまでですが、専門家でない記者の勝手な解釈は次の通りです。

この結び目は高速で回転する銀河団を離ればなれにしないようにつないでいるゾーンであり、そのために引力を作る大質量・ダークマターが集まっているハローがそこにあるはず。目に見えないダークマターが大量に存在するという予測は、引力の形成に必要な大きな質量が銀河団の核に必要だから・・・。 

宇宙の構成要素である“質量とエネルギー”のうち、ダークマターは星やガスなどを構成する目に見える普通の元素(バリオン)の約6倍が存在するとされています。このクエーサーの場合は、回転する銀河の質量と高速回転による脱出のチカラを考えると、引きとどめる引力は、膨大な質量を必要とすると推定されます。「高密度の領域」という記述はそのことを意味しているのかもしれません。

・・・この巨大銀河団のダークマターは、「目に見えない」つまり光を吸収するか反応をしない。「銀河団の中心・銀河核にいて」高速でまわっている銀河をつなぎ止めるだけの「膨大な質量」を持っている。

「そんな物体の正体とは一体何者なのか?」

ここまで記事を書いて来て記者の背筋がチリチリとしてきました。

ダークマターは原始ブラックホールとそっくりじゃないか?」

ダークマターと原始ブラックホールは同一人物?

これは今世紀最大の宇宙のテーマの一つ。原始ブラックホールとダークマター同一説は、1970年代にホーキング博士達が始めて提唱した説で、現在では色あせた考え方とされています。

「ホーキング博士の説が蘇った?」飛び上がった記者は、慌ててNASAの記事から、結びのセンテンスをもう一度確認しました。研究チームのレポートの結びのセンテンスは次のようになっています。

「今回、Wylezalekのチームが実施した研究はウエブ望遠鏡による初期宇宙の調査の一部です。チームはこの予想外の原始銀河団の追跡調査を計画中です。このような密集した無秩序な銀河団がどのように形成されたか、その中心にある活動中の超大質量ブラックホールによってどのような影響を受けるのか解明したいと考えています

結びのコメントでは、ダークマターと原始ブラックホールの関連性について一切触れていませんが、関連性を示唆していることが読み取れます。記者は慌てて他のサイトをひっくり返して、ヒントを探してみました。「ダークマターとブラックホールは同一人物?」で検索すると2つの代表的な記事がみつかりました。

二つの記事のタイトルは次の通りです。

記事1.「ブラックホールと暗黒物質 — それらは同一のものですか?」

(2021年12月12日付けのYale News)

記事2.「宇宙の暗黒物質がブラックホールであることは否定された」

(2018年10月2日付けのBerkelei News)

記事2のバークレー・ニュースはブラックホールと暗黒物質が同じであることを否定。現在の通説となっています。

記事1のイエール・ニュースはブラックホールと暗黒物質が同一であることを示唆しています。この記事は今回のNASAの公式サイト「NASA’s Webb Uncovers Dense Cosmic Knot in The Early Universe」にレポートしたチームと同じメンバーが、ウエブ望遠鏡が打ち上げられる数ヶ月前に寄稿した記事です。

イエール・ニュースの記事を一部引用します。

「これは、イェール大学、マイアミ大学、および欧州宇宙機関 (ESA) の天体物理学者によって作成された初期宇宙の新しいモデルが示唆するものです。まもなく打ち上げられるジェイムズ ウェッブ宇宙望遠鏡のデータで真実であることが証明されれば、この発見は暗黒物質とブラック ホールの両方の起源と性質に関する科学者の理解を一変させるでしょう」

研究チームによる初期宇宙の新モデル(画像)

この画像は、研究チームが作成した初期宇宙の新モデルです。記者の勝手な解釈は次の通りです。左端のレッドゾーンは原始ブラックホールを表しています。真ん中のダークなゾーンに点々とダークマターが表現されています。右端にはダークマターによってホールドされた銀河団が渦巻いています。

このモデルが示唆していることとは・・・

1. ビッグバンから原始ブラックホールは生まれていた

2.   原始ブラック ホールが宇宙のすべての暗黒物質を構成している

3.   暗黒物質によって宇宙の銀河はホールドされている

ダークマターとブラックホールという宇宙の不思議な存在がどのように銀河の形成にかかわってきたのか? その正体が明らかにされる日が近づいているようです。今後のウエブ宇宙望遠鏡の研究チームの発表が待ち遠しくなります。

(おわり)

【参照サイト】

NASA’s Webb Uncovers Dense Cosmic Knot in The Early Universe

この報告はアーリーリリースです。これらの結果は、The Astrophysical Journal Letters に掲載される予定です。(NASA公式より)

記字1. イエールニュース

タイトル「ブラックホールと暗黒物質 — それらは同一のものですか?」

記事2.バークレーニュース

タイトル「宇宙の暗黒物質がブラックホールであることは否定された」

【関連サイト】

NASA/ジェームズ・ウエッブ宇宙望遠鏡が撮影したディープな宇宙の星たちを初めて公開! 

原始の星を探れ!ジェームズ・ウエッブ宇宙望遠鏡に与えられたミッションとは?

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下條 俊隆

下條 俊隆

ペンネーム:筒井俊隆  作品:「消去」(SFマガジン)「相撲喪失」(宝石)他  大阪府出身・兵庫県芦屋市在住  大阪大学工学部入学・法学部卒業  職歴:(株)電通 上席常務執行役員・コンテンツ事業本部長  大阪国際会議場参与 学校法人顧問  プロフィール:学生時代に、筒井俊隆姓でSF小説を書いて小遣いを稼いでいました。 そのあと広告代理店・電通に勤めました。芦屋で阪神大震災に遭い、復興イベント「第一回神戸ルミナリエ」をみんなで立ち上げました。一人のおばあちゃんの「生きててよかった」の一声で、みんなと一緒に抱き合いました。 仕事はワールドサッカーからオリンピック、万博などのコンテンツビジネス。「千と千尋」など映画投資からITベンチャー投資。さいごに人事。まるでカオスな40年間でした。   人生の〆で、終活ブログをスタートしました。雑学とクレージーSF。チェックインしてみてくださいね。

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