イーロン・マスクのNeuralink社「脳とコンピューターを結ぶBCI計画」に手厳しい反響!前途多難か?

脳とコンユーターを結ぶBCI計画で、イーロン・マスク氏が苦境に立っています。

2022年11月30日水曜日、イーロン・マスクのニューラリンク(Neuralink)社が、「脳とコンピューターを結ぶデバイス(情報端末)を人間の頭に埋め込む臨床試験」を今後半年以内に行う予定だと発表しました。プレゼンテーターのマスク氏は時期が来れば自分の頭にもデバイスを埋め込むつもりだと言っています。

これに対する批評家やメデイアの反響は手厳しく、「Neuralinkの報告の内容はすでに別の企業や学術環境で達成されており、マスク氏は過大宣伝している」といった批判的な評価が多く見られます。先行している例としてSynchron Inc.という米国の企業を上げて、オーストラリアの筋萎縮性側索硬化症(ALS)の患者に脳インプラントを埋め込み、コンピューターを介した外部とのコミュニケーションを可能にしている事例などを指摘しています。

「Neuralink」とはどのような企業なのか? Neuralinkに託すマスク氏の思いとは? プレゼンテーションの概要とメディアの批評に加えて、ブレイン・コンピューター・インターフェース(BCI)と呼ばれる新しい領域の企業動向も探ってみました。

マスク氏の目標は人間が思考するだけでコンピューターを直接操作できる脳インプラント技術を作りあげること

マスク氏の目標は「人間の脳に埋め込むデバイスを開発して、脳の活動だけでコンピューターを制御するBCI企業を作りあげる」ことです。既に、2019年にNeuralinkはサルを使った実験でデバイスをテストしていると発表しています。2020年にはインプラントを装着した豚を発表し、2021 年にはサルが埋め込まれたチップで脳の電気信号を読み取り「Pongゲーム」をしているビデオを公開しています。

脳の電気信号でPongゲームをするサル

今回2022年のマスク氏のデモンストレーションでも、サルが脳に埋め込まれたインプラントを使用して「Welcome to show and tell」というゲストへの歓迎のフレーズを「タイプ」する様子や、デバイスを自分で充電する様子が示されました。

動物によるテストの次のステージは人間による臨床試験です。マスク氏は、人間の臨床試験に必要な書類を米国の所轄の食品医療薬品局(DFDA)に提出済で承認を待っているところだと言っています。Neuralinkの デバイスは極細の電極の束がついた小型のチップを頭蓋骨に埋め込み、電極を脳に挿入してコンピューターと接続します。チップを埋め込むのには頭蓋骨にドリルで穴をあけて電極を脳組織に挿入する手術が必要だそうです。

「これは、頭蓋骨の一部をスマートウォッチに置き換えるようなものです。よい例えといえませんが」と Musk 氏は言っています。Neuralinkは脊椎損傷で体が動かない人の運動能力を回復させる脊椎インプラントや、視力の改善や回復に役立つ治療法を開発していることも明らかにしました。

批評家やメデイアの反応は批判的な評価が多い

一方、これに対する批評家やメデイアの反応は、「Neuralinkの報告の内容はすでに別の企業や学術環境で達成されており、マスク氏は過大宣伝している」といった批判的な評価が多く見られます。先行している例としてSynchron Inc.という米国の企業を上げて、オーストラリアの筋萎縮性側索硬化症(ALS)の患者に脳インプラントを埋め込み、コンピューターを介した外部とのコミュニケーションを可能にしたケースを紹介しています。

また、オランダのOnward Inc.のように体がマヒした患者の脊椎にインプラントを埋め込んで歩行できる臨床実験に成功した例が既に存在しているという記事も見られます。

Synchron は規制の緩やかなオーストラリアですでに人間による臨床試験に成功しており、マスク氏のNeuralinkに先駆けて米国での所轄FDAの検査を通過したとのことです。デバイス埋め込みの手法は血管ステント技術で行うので、侵襲性が少ないと高評価を受けています。

これに比べてNeuralinkの行った臨床試験は人間ではなくて豚とサルによるテスト段階に過ぎません。埋め込み手法も頭蓋骨に穴を開けてチップを埋め込み、電極を挿入する侵襲的方法と報告されています。動物愛護協会から非難を寄せられているとの報道も見受けられます。

脳に埋め込むデバイス

脳に埋め込むデバイス

技師であり、先進的実業家としての評価が高いマスク氏がこのようなNeuralinkへの批判的評価をどのようにとらえて、今後どのような手を打つのか気になるところです。

ところで、先行するSynchron 社がオーストラリアで行った人間による臨床試験とは一体どのようなものだったのでしょうか?次の章ではSynchronの試験試験について、2022年11月10日付けの「INSIDER」に掲載されたヒラリー・ブリュック氏の詳細な取材記事をご紹介します。

Synchronの臨床例/メルボルンのALS患者がズームやゲーム、オンラインショッピングも可能に!

INSIDER記事より:フィリップ・オキーフさんがステントロードを使用。 ポール・バーストン、メルボルン大学

INSIDER記事より:フィリップ・オキーフさんがステントロードを使用。 ポール・バーストン、メルボルン大学

メルボルン在住の、手を使うことができないALS筋萎縮性側索硬化症患者のフィリップ・オキーフさんは、2020年春の臨床試験の結果、指を動かさずに自分の頭脳だけを使ってコンピューターの操作が可能になりました。部屋の電気をつけたり消したり、オンラインで買い物をしたり、ズームで友達と会ったり、ソリティアやマージャンゲームを楽しむことができます。

オキーフさんは、頭頂部の血管内に埋め込まれたデバイスを経由して自分の考えをコンピューターに伝えることで、コンピューターを操作しています。クリック、ズームイン、マウスの移動ができます。

SynchronのデバイスはステントロードStentrodeと呼ばれ、オキーフさんの脳の血管内に配線されています。脳が電気信号で光ると、ステントロードが神経信号を読み取り、血管の中を通るワイヤーで胸部の小さな送信機Bluetoothに伝送。ここから信号はワイヤーレスでコンピューターに中継され、コンピューターは信号をデコード(元の信号に戻すこと)し、クリックのアクションに変換されます。

オキーフさんは「あなたより少し遅いですが、ほとんど何でもできる能力があります」と言っています。

Synchronはすでに米国で人間による臨床試験を開始

INSIDERの記事によれば、Synchronは米国の食品医薬品局(FDA)と6年間のやりとりの結果、今年2022年8月17日にALSの患者にステントロードを挿入して臨床試験に入ったとのことです。腕や足を動かしたり、正常に会話ができない男性は、数ヶ月のトレーニングでデバイスを使って介護の人に「こんにちは」のメールを送ったり、「薬局」を検索できるようになったそうです。各タスクには約90秒かかりますが、男性がオキーフさんと同じようにスキルセットを開発できることが期待されています。

マスク氏のニューラリンクの設計は埋め込み型で実用的ですが、侵襲性や感染のリスクに問題があるとされています。一方、Synchron の CEO である Thomas Oxley 氏はSynchronのStentrodesは脳の静脈を介して埋め込むので低侵襲性で、感染のリスクを回避できたとしています。

Oxley 氏はパーキンソン病や鬱病など様々な脳の治療に使用できると発言、数十年後にはBCI手術が日常的に行われるようになり、関節炎、多発性硬化症、筋ジストロフィーなどにインプラントを使用する人が世界で1億人に達するだろうと語ったそうです。

BCIが未来の先進的医療として注目を集めるなかで、マスク氏の今回のデモンストレーションはNeuralink の開発段階での遅れを取り戻したいという気持ちが込められたデモンストレーションと思われます。競合社に勝てる優秀な技術者を集めたいという意図も見え隠れします。次の章では、マスク氏が1年ほど前から行った興味深い行動やその背景についてロイターなどが報道していますので、その内容をご紹介します。

マスク氏を取り巻くBCI環境はライバル続出で苦境に?/ライバルへの出資の打診も!

2021年5月にニューラリンクの共同創設者で社長のMax Hodak氏が突然退社しています。その理由は明らかにされていませんが、BCI開発のスピードが遅いことに関係していることが推測されます。Hodak氏のその後の活動を見れば、必ずしも友好的な退社とは言えないようです。

2022年8月19日のロイターによりますと、元従業員の4人の人物からの情報としてイーロン・マスク氏がBCIで先行するSynchron Incに投資の可能性についてアプローチしたと報道しています。マスク氏が、ニューラリンクの従業員の進歩の遅さに不満を表明した後に行われたとのこと。

マスク氏は 先行するSynchron の責任者である Thomas Oxley氏 に連絡を取り、何らかの取引について話し合ったとされています。 取引に Synchron と Neuralink の間の提携または協力が含まれるかどうかは明らかではありません。情報筋は投資の可能性についてその後の進展はないとしています。

両社を比較しますとSynchronは従業員約60人、投資家から約6,500万ドルを集めています。一方、Neuralinkの従業員は300人、マスク氏を含めた投資家から3億6,300万ドルを集めています。マスク氏の会社の方が規模では大きいのです。

ロイターによると、驚いたことにNeuralink の社長を辞任した Max Hodak は、現在 Synchron に投資している投資家の一人だそうです。Hodak氏のさらに驚くべき活動が報道されています。

Neuralink の元社長 Max Hodak氏が「イーロン・マスクと 真っ向勝負」

GIZMODO(2022年12月1日付)は「イーロン・マスクと 真っ向勝負」と題して「Max Hodak氏が仕掛けるスタートアップScience Corp、1億6000万ドルの資金を集めた」と紹介。

Hodak氏が立ち上げた新会社は「視神経に情報を送る」という光工学的BCIアプローチとか。光工学を使って脳に障害を持つ人を支援できるとしています。既に試作機「サイエンス・アイ」を開発し、視力障害のあるウサギの網膜に埋め込んでテストを進めているそうです。

GIZMODOによると、BCI市場に進出しているライバル企業はSynchronの他にも多く、Blackrock Neurotech は2023年にBCIシステムを市場に出す予定。Pardromics は2023年に人間での試験を開始するとされています。

マスク氏の今後の動向は?

マスク氏 ロイターより

マスク氏 ロイターより

BCI領域の競合環境がますます激しくなりそうな現状では、マスク氏の今後の動向は予測不可能です。マスク氏の動機の真ん中にあるのは“人類を救うこと”

1日に2冊の本を読み、ファンタジー小説やSF小説を多読していた事が「世界を救う」という夢につながっているのかもしれません。これはマスク氏の父親の言葉だそうです。

「コミュニケーションの未来は、脳とコンピューターとのインターフェースであると私は信じています」これは、ALS患者のホーキング博士が最後の著作で述べた言葉です。

追記/2023年5月26日  

・・・マスク氏の動向がBCIの未来を切り開く導火線となることが期待されます。

追記:脳直結コンピューター「Neuralink」の人体実験許可下りる

Image: Shutterstock 引用:https://www.gizmodo.jp/2023/06/clinical-trial-with-neuralink-approved.html

Image: Shutterstock
引用:https://www.gizmodo.jp/2023/06/clinical-trial-with-neuralink-approved.html

2023年5月、マスク氏が待ち続けた脳直結コンピューター「Neuralink」の人体実験許可がFDAより下りました。

2023年5月26日のツイッターでneuralinkは次のように喜びを伝えています。

私たちは、FDAの承認を得て、ファーストインヒューマン臨床試験を開始したことを共有できることを嬉しく思います。

これは、FDAと緊密に協力したNeuralinkチームによる素晴らしい作業の結果であり、いつの日か私たちの技術が多くの人々を助けることを可能にする重要な第一歩を表しています。

臨床試験の募集はまだ受け付けていません。これについては、まもなく詳細を発表します。

(Microsoft Bingで翻訳)

余談:イーロン・マスクはTwitterをスタッフの「ホテル」に変える

Twitterのサンフランシスコ本社の会議室をベッドルームに改装

Twitterのサンフランシスコ本社の会議室をベッドルームに改装

12月8日BBC NEWSによればTwitter の新しいボスであるイーロン マスク氏は、会社を買収して以来、Twitterの本社に滞在しています。会議室を自分のベッドルームに改造したようです。BBCは、寝室に改造されたTwitterオフィススペースの写真を提供されており、サンフランシスコ当局は建築基準法違反の可能性ありとして調査しています。

経営陣のほとんどを解任し、従業員を半数に減らしたマスク氏は、成功するためには「筋金入りになる必要がある」と全スタッフにメールで伝えたところです。リモートはなしで、敷地内に従業員のための寝室も設置したそうです。

世界一の金持ちで、オナーであるマスク氏本人が率先して泊まり込みで働いているのでしょうか?

・・・“マスク氏の次の行動は誰にも予測不可能です”ね。

(おわり)

【主な参考資料】

Elon Musk claims Neuralink is about ‘six months’ away from first human trial – The Verge

https://www.theverge.com/2022/11/30/23487307/neuralink-elon-musk-show-and-tell-2022

Elon Musk’s Neuralink “Show and Tell” event

(1740) Elon Musk’s Neuralink “Show and Tell” event – YouTube

INSIDER

ヒラリー・ブリュック 2022 年 11 月 10 日 19:00

https://www.insider.com/brain-computer-interface-what-is-it-how-does-it-work-2022-9

ロイター 2022年8月19日

https://www.reuters.com/technology/musk-approaches-brain-chip-startup-synchron-about-deal-amid-neuralink-delays-2022-08-19/#:~:text=8%E6%9C%8819,%E3%81%A7%E3%81%AF%E3%81%82%E3%82%8A%E3%81%BE%E3%81%9B%E3%82%93%E3%80%82

BBC NEWS 2022年12月8日

https://www-bbc-com.translate.goog/news/technology-63897608?

GIUZMODO 

2022.12.01 10:15 「イーロン・マスクと真っ向勝負」

https://www.gizmodo.jp/2022/12/neuralink-science-corp-max-hodak-elon-musk.html

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下條 俊隆

下條 俊隆

ペンネーム:筒井俊隆  作品:「消去」(SFマガジン)「相撲喪失」(宝石)他  大阪府出身・兵庫県芦屋市在住  大阪大学工学部入学・法学部卒業  職歴:(株)電通 上席常務執行役員・コンテンツ事業本部長  大阪国際会議場参与 学校法人顧問  プロフィール:学生時代に、筒井俊隆姓でSF小説を書いて小遣いを稼いでいました。 そのあと広告代理店・電通に勤めました。芦屋で阪神大震災に遭い、復興イベント「第一回神戸ルミナリエ」をみんなで立ち上げました。一人のおばあちゃんの「生きててよかった」の一声で、みんなと一緒に抱き合いました。 仕事はワールドサッカーからオリンピック、万博などのコンテンツビジネス。「千と千尋」など映画投資からITベンチャー投資。さいごに人事。まるでカオスな40年間でした。   人生の〆で、終活ブログをスタートしました。雑学とクレージーSF。チェックインしてみてくださいね。

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