テニス観戦の興味の一つは、女性選手の機能的で華麗なファッションです。
女性のアスリートがオリンピックのテニス競技に参加できたのは1900年の第2回パリ・オリンピックが始まりです。パリから2016年リオデジャネイロ・オリンピックまで、途中中止を挟んで、競技の記録写真からオリンピック女子テニス、金メダリストのベストファッションを選んで紹介します。
目次
1900年パリオリンピックの女子テニス・金メダリストはロングスカートでプレーしていた?
1900年、パリで開催された第2回近代オリンピックに女性がはじめて参加しました。
このときテニスの女子シングルスと混合ダブルスで二つの金メダルを手にしたのが、写真のシャーロット・クーパーです。
イギリス・ロンドン生まれのシャーロットは全英オープンに相当する「ウインブルドン選手権」で5回も優勝している名プレーヤーです。
このときのパリ・オリンピックは、世紀の変わり目にあたる国際博の付帯競技大会として開かれていて、運営の体制が整わず、陸上以外の競技は公式記録が残されていません。
しかしテニスは別格だったようです。
優勝者のシャーロットの立派な記念写真が残されていました。
襟付きの長袖ブラウスに小さなネクタイ、足首が隠れそうなロングスカートにベルトがきりりと締められています。
この写真は金メダルの表彰式のときの服装でしょうか?
それとも、プレーするときもこの服装だったのでしょうか?
このファッションでプレーをしたら、スカートで足がもつれて、転んでしまいそうです。
じつは、1900年当時、女性はこんな服装でテニス・プレーをしていたのです。
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次の写真は、パリから8年後の1908年に開催されたロンドン・オリンピックで、テニスのシングルスに優勝したドロテア・ダグラス・チェンバースのプレー写真です。
イングランド出身のドロテアは、重たそうなスカートを引きずりながら、こんなスタイルでプレーをしていました。
ドロテアは、自分のバックサイドに来たボールを打ち返すために、右足を踏み込んで肩を廻しています。
バックサイドというのは右利きなら身体の左側にあたります。
バックサイドに来たボールは右足を思い切り左に踏み込まないと、力強い返球ができません。
ドロテアのスカートが膝にかかって、身体をひねるのも限度いっぱいのように見えます。
これではあっという間に疲れてしまうでしょうね。
ドロテアはこの服装でウインブルドンのシングルスで7回も優勝しているのです。
1900年から1910年頃の女性のテニス・ファッションには慎み深い上品さが求められていました。
足首まであるロングドレス、長袖のブラウス、ネクタイにタイトなベルト・・・
機能性のみじんもない悲劇的ファッションで、彼女たちは長い時間、コートの上でけなげに戦ったのです。
スザンヌ・ランランはジャン・パトーのデザインでコートを跳ねた。
VOGUE誌のサイトによれば・・1920年代「テニスの女神」と呼ばれたパリ出身のスザンヌ・ランランが、当時流行していたフラッパースタイルをテニスコートに持ち込みました。
彼女が身につけていたのは、ノースリーブのドレスで、膝がちょうど隠れるくらいのプリーツスカートになっています。
このファッションはシャーロットやドロテアのものと比べて、格段に機能的です。
足の可動域も拡がり、コートを飛び跳ねています。
ランランの戦績は全仏優勝六回、ウインブルドン六回、1920アントワープ・オリンピックで金メダル獲得というすさまじい活躍振りでした。
このファッションを考案したのは当時の人気デザイナー、ジャン・パトーです。
ジャン・パトーはテニス・ファッションを華やかにしただけでなく、機能を進化させて女性のテニスの発展に大きな貢献をした人物といえます。
1929年にテニスファッションの原型/膝下までのプリーツ・スカートにカーディガン
この写真の女性は、米国出身で1924年パリ五輪のシングルスで金メダルを獲得したヘレン・ウイルス・ムーディーです。
写真は1929年に撮影されたものです。
服装は膝下までの白いプリーツ・スカートに襟付きシャツとカーディガンという、テニスファッションの原型ができあがっています。
おとなしいファッションですが、この服装なら現在のテニスコートでプレーしても、おかしくありません。
悲しいことですが、ヘレンの活躍した1924年からオリンピックのテニスは長い凍結の時期に入ります。
テニスのプレーヤーは半世紀以上の間、オリンピックという華やかなステージからその姿を消しています。
オリンピック・テニスの凍結と復活
1928年から1984年までのおよそ60年と言う長い期間、オリンピックからテニス競技が除外されています。
原因はテニス競技のプロ化が始まったことです。
男子、女子とも、賞金が手に入るテニス試合が始まって、ランラン選手をはじめ、有力選手のプロ転向が進みます。
その結果、スポーツのアマチュアリズムを提唱していたIOCは、プロ化したテニス競技をオリンピックから除外することを決めました。
その後、60年もの歳月が流れて、1984年のロサンゼルスオリンピックで公開競技としてテニス復活が試されています。
ロスオリンピックは、米国のピーター・ユベロスという実業家が大会組織委員長を務め、オリンピックの運営に民間主導のマーケテイング手法を導入して、事業の黒字化に成功したことで有名です。
この大会以降、オリンピックはアマチュア主義からプロの選手を含めた商業化「オリンピック・マーケティング」の時代に突入していきます。
そして1988年、ソウルオリンピックでついにテニス競技が64年振りに公式競技として復活します。
競技に賞金はありませんが、プロ選手の出場が認められ、有力選手が出場しました。
基本理念「オリンピックはアマチュアスポーツの祭典である」と言う考え方が大きく変更された大会でした。
このとき女子シングルスで金メダルを取ったのがドイツのシュテフィー・グラフです。
グラフは世界ランキング一位の地位を377週(7年強)続けたという男女を通じて史上最多の記録を持っています。
また全豪・全仏・全英・全米の四大タイトルをとる“グランドスラム”に加えて、オリンピックの金メダルをあわせた“ゴールデンスラム”を達成しました。
(4大大会のことを単にグランドスラムと呼ぶことがあります)
しかも、すべてのタイトルを1988年の一年間で獲得したテニス史上ただ一人のプレーヤーです。
グラフのプレースタイルは卓越したフットワークと必殺のフォアハンドでした。
写真を見てください。
ファッションに一分の隙もありません。
半袖シャツに、動きやすいミニスカ、軽いテニスシューズに髪留め。
一切の無駄をそぎ取った究極の機能美と言えるファッションです。
女子テニスの歴史上、もっとも機能的なスタイルといえるかもしれません。
グラフはこのスタイルで強敵のナブラチロワやクリス・エバートと戦い、3回のグランドスラムを達成しました。
彼女は引退後、男子のグランドスラマー、アンドレ・アガシと結婚しました。
アガシはバツイチで、できちゃった婚だそうです。
今は幸せな二児の母親で、夫婦でチャリテイー活動に励んでいるという話です。
もう一人のゴールデンスラマー/セリーナ・ウイリアムズ
オリンピックベストの最後は、セリーナ・ウイリアムズの華麗でパワー溢れるテニス・ファッションです。
エレガントで機能的な白いワンピースに身を包んだセリーナは米国の国民的英雄です。
彼女はグラフと並び四大タイトルとオリンピック金メダルをとったゴールデンスラマーです。
さらに男女を通じてシングルス・ダブルス共に「キャリア・ゴールデンスラム」を獲得しているただ一人の選手です。
彼女は2002~2003年、2014~2015年に全米などのグランドスラム4大会を連続優勝しています。
また、2012年ロンドンオリンピックでシングルスとダブルスの両方で金メダルを獲得。
プレースタイルは姉のビーナス・ウイリアムズとともに圧倒的なパワー・テニスです。
二人が組んだダブルスは大胆なファッションと共に、男子をしのぐほどのスピードとパワーで観客を魅了しました。
エピソード/セリーナ・ウイリアムズは大坂なおみ選手が2018年の全米オープン決勝で戦った相手!
2018年9月、全米オープン・テニスで、大坂なおみ選手は、ゴールデンスラマーのセリーナ・ウイリアムズを破って、日本人で初めてグランドスラムのチャンピオンに輝きました。
この試合で審判の警告に対して、セリーヌ選手は「警告されるようなことは何もしていない」と抗議をして、試合中なんども審判に怒りを表しました。
試合中、観客もセリーナ選手に同情して、審判にブーイングを繰り返しています。
試合後の表彰式で、セリーナの全米制覇を期待していた地元ファンからはブーイングが起こったのです。
セリーナは客席に対し、ブーイングではなく大坂のグランドスラム制覇を祝うように呼びかけました。
大坂は「みんな、セリーナのことを応援していたのをわかっています。こんな終わり方になって、ごめんなさい」と声を詰まらせます。
セリーナに「プレーしてくれてありがとう」と涙ぐみ、憧れの元世界女王への敬意を忘れません。
(NEWS JAPAN より)
二人の優しいやりとりは、観客と世界を感激させました。
大坂なおみ選手! 東京オリンピック! 応援してます!
大坂なおみ選手はどんなファッションで東京オリンピックのコートに現れるのでしょうか?
セリーナウイリアムズは欠場の予定ですが、世界の若手選手のベストファッションが今から楽しみです。
(おわり)
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下條 俊隆
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