2019年11月6日、科学者が連名で「地球の気候は危機的状況にある」と題した警告を発しました。
論文を書いたのはアメリカ、オーストラリア、南アフリカの自然環境の研究員の人達です。
研究チームはこの危機を乗り越えるために直ちに実行すべき政策を6つあげています。
そして、日本を含む世界の153カ国、1万1000人を越える科学者がこれに賛同の署名をしました。
その中に私達生活者に深く関係する対策が二つ含まれています。
「地球の人口を減らすこと」と「食習慣をあらためること」です。
これまでタブー視されてきた“人口のコントロール”というテーマを地球温暖化の対策として科学者が賛同を表明したことが世界に波紋を呼んでいます。
また肉食を中心とした食習慣にメスを入れるべきだという声明も肉好きな人々や畜産業界からの強い反発が予想されます。
宣言の視点として論文は冒頭でつぎのように述べています。
科学者は人類に壊滅的な脅威があることを明確に警告し、事実を“あるがままに伝えるという道徳的義務を負っている”と。
原題:World Scientists’ Warning of a Climate Emergency
オックスフォード大学出版“BioScience”より
目次
地球気候変動の危機を乗り越えるために、いますぐ実行すべき6つの政策
論文では、第一回世界気候会議を開いた1979年のジュネーブ宣言から、2019年に至るまでの40年間、温室効果ガスの排出量は急速に増加して、地球はいまや危機的状態に陥っていることをデータとグラフを活用して明快に示しています。
その原因は、森林伐採の増加、エネルギー消費量の増加、二酸化炭素排出量の増加、世界人口の増加、家畜の反すうによる二酸化炭素排出量の増加など・・。
とくに気になるのは、気候変動が不可逆的な気候転換点を越えてしまって、自然の力によるフィードバックが効かなくなり、人間のコントロールをはるかに超えた壊滅的な“ホットハウスアース”状態につながることだと言っています。
・・ホットハウスアースとは灼熱の温室と化していく地球を表現する言葉です。
レポートは、持続可能な未来を確保するために私達の生き方を変えなければならないと強調した上で、いますぐに実行すべき6つの政策を提言しています。
以下に6つの施策をできるだけ原文に忠実に報告します。
1.エネルギーを化石燃料から、再生可能な、安全でクリーンなエネルギーにする
ガス、石炭や石油など化石燃料の残りの在庫を地中に残し、再生可能なエネルギーにシフトする。
化石燃料を使うときは、ソースからの炭素抽出、空気からのCO2の捕獲などを実行する。
化石燃料の補助金(対エネルギー企業2018年4000億米ドル超)を速やかに廃止し、化石燃料の使用を抑制する政策を実行する。
・・宣言はさらに“裕福な国々は化石燃料から移行するべき貧しい国々を支援する必要がある”と国の利害を超えた異常気象への取り組みを訴えています。
2.メタン、ブラックカーボン(すす)など短命の気候汚染物質の排出を抑える
このような短命の気候汚染物質の排出量を速やかに削減する。
これによって気候フィードバックが安定して、今後10年間で短期的な温暖化現象が50%以上減少する可能性がある。
・・宣言は“大気汚染の減少によって何百万人もの命を救い、作物の収穫量を増加させることが期待できる”としています。
3.地球の自然と生態系を守り復元させる
植物プランクトン、サンゴ礁、森林、サバンナ、草原、湿地帯、泥炭地、土壌、マングローブ、海藻などは大気中のCO2を取り込んで、隔離してくれる。
海洋や陸上の動植物、微生物は炭素や栄養の循環と貯蔵に重要な役割を果たしている。
(・・2019 年にはアマゾンや北米、オーストラリアの森林が、大規模火災によって失われています。大規模な森林火災は今後も続くだろうというのが専門家の予想です)
宣言は“生物の生息地を保護し、復元することがパリ協定の排出削減の目標(2度未満)を達成することになる”と強調しています。
4. 温室効果ガスを排出する家畜を減らすため野菜が主体の食事にする/食品ロスをなくす
温室効果ガスを排出する牛、ヒツジ、ヤギといった家畜を減らすために、野菜が主体の食事に変えることが必要。
宣言は、育てるのに大量の植物飼料を必要とする家畜を減らすためにも、又人間の健康のためにも植物性食料を直接食べることが効果的であるといっています。
・・国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が2019年の8月に発表した報告は、温室効果ガスの総排出量の37%が人間の食料システムによるものだとしています。
また、牛、ヒツジ、家禽類(主にニワトリ)の生産は温室効果ガスの総排出量の18%を占めるという専門機関の記事があります。
IPCCは、仮に世界が英国式の食事スタイルとなって、おなじ量の肉を食べたとしたら必要となる農地は地球上の居住可能な土地の95%に達するといっています。
また世界が米国の食生活を取り入れたら、世界の土地の178%を農地にしなければならなくなると警告しているのです。
・・これは表現を変えれば、“地球が二つ必要だ”という話になります。
また、宣言はIPCCの報告を取り上げて食品ロスをなくそうといっています。
・・IPCCの報告によると、現在生産された食料のうち25~30%が食品ロス(食べられるのに捨てられた食品)または廃棄とされています。
これによる温室効果ガス排出は、全体の8~10%という驚くべき量です。
ロスの量と原因は先進国と発展途上国によってずいぶん異なるのでしょうが、収穫技術、保存、インフラ、輸送、パッケージ、小売り、教育などを改善することでロスを減らすことが可能だとIPCCは断言しています。
5. 我々の目標をGDPの成長と豊かさの追求から、生態系の維持とカーボンフリーな経済活動にシフトすること
持続可能な地球環境のために、私達は目標と価値を見直して、生態系の維持と、化石燃料に依存した経済活動から直ちに脱却すべきだという提言です。
宣言文は科学者の世界連合として、国の政策立案者や企業や民間セクターや国民の意志決定者を支援する準備はいつでもできていると言っています。
6. 世界の人口を安定させ、できれば減少させる
現在、世界で年間約8000万人、1日あたり20万人以上の人口が増加している。
社会的・経済的な正義を保証しながら、世界の人口を安定させ、理想的には緩やかに減少させる必要がある。
つまり、人権を守りながら出生率を低下させ、人口増加が温室効果ガスの排出量や生物多様性の損失に及ぼす影響を軽減することが可能な政策がある。
「それは地球のすべての人々に家族計画のサービスを提供し、またすべての若い女性のためにグローバル基準の教育を提供することだ」
・・宣言では、人口増が気候変動の要因であり、人口の抑制が気候変動の安定をもたらすと明言しています。
さらに世界人口を抑制する最良の方法は、避妊手段の普及(貧困に対しては無料サービス)と女性教育であると訴えています。
これは「地球環境と生物多様性を守るためには、人口の増加を抑制することが必要不可欠である」という事実を科学者達が世界に宣言した初めてのケースではないかと思われます。
私達日本人には疎遠なことかもしれませんが宗教上の理由や、貧困や国策、そのほか様々の理由で「人口の抑制やコントロール」は公に声を上げにくいテーマなのかもしれません。
アフリカではニジェールの女性の出生率は世界一高くて、2010年の世界銀行の推計で1人の女性が生涯に産む子供の数が平均で7を越えています。
国連人口基金の推定では、2億人以上の女性が貧困などのために家族計画の手段を手に入れることができない。その結果が7000万件以上の望まない妊娠と人口増だと多くの専門家は指摘しています。
国連が示した最新の予測では、現在77億の世界人口は今世紀半ばを過ぎても増え続けて、2100年までに110億人に達するとしています。
地域別に見ますと、アフリカでは2019年の10億6600万人から2100年には4倍に近い38億人に増えるという予測です。
世界人口の増加33億の80%がアフリカで起こるということです。
世界の協力がなければ、アフリカは極度の貧困と食料不足という難題を抱え続けることになりそうです。
そしてそのことが世界に及ぼす影響は私達の想像をはるかに超えるものになりそうです。
結論
この論文は前置きで「科学者は人類に壊滅的な脅威があることを明確に警告し、事実を“あるがままに伝えるという道徳的義務を負っている”と記しています。
そして、153カ国の科学者11000名を越える世界の科学者が賛同の署名をしました。
気候変動には国境がありません。
対策についても、国の壁を越え、ボーダーレスな取り組みを、あらゆるレベルで始めないことにはこの危機は乗り越えられないと科学者連合は宣言しました。
私たち人類にはもう逃げ場がなさそうです。
文明崩壊の危機が少しでも遠のくように、できることから始めましょう!
なんといっても地球は一つしかないのですから・・!
(おわり)
論文原題:World Scientists’ Warning of a Climate Emergency
(オックスフォード大学出版“BioScience”)
論文の主な執筆者
○ウィリアム・J・リップル&クリストファー・ウルフ
オレゴン州立大学コルヴァリスの森林生態系社会学部に所属。
○トーマス・M・ニューサム
オーストラリア シドニー大学生命環境科学部に所属。
○フィービー・バーナード
オレゴン州コルヴァリスにある保全生物学研究所
南アフリカのケープタウンにあるケープタウン大学のアフリカ気候開発イニシアチブに所属
日本からも東京大学の山本良一先生、兵庫県立大学の土居秀幸先生、広島大学の吉田有紀先生、日本大学の犬丸瑞枝先生など複数の研究者が署名に加わっています。
【記事は無断転載を禁じられています】
下條 俊隆
最新記事 by 下條 俊隆 (全て見る)
- 地球温暖化はもう止まらないかもしれない!灼熱の気温上昇にいまから備えるべきこととは? - 2024年11月5日
- おでこや顔のヘルペスに厳重注意!顔面麻痺・後遺症・失明の恐れがあります(ルポ) - 2024年3月3日
- GPT4のBingがヤバイ! しつこく誘うので難問ぶつけたら答えが凄かった。 - 2023年11月1日