この世の果ての中学校  一章 ハッピー・フライデー「ペトロの誕生日」

 

 

 

 

 

 

 地球に生き残った六人の子供たちが

命を無くして幽体に身を移した両親や

人工知能AIになった先生たちに教えてもらって 

助け合いながら逞しく 成長していくお話!

 

ドームの中にある生徒6人の小さな中学校!

金曜日はハッピーフライデーと呼んで授業は自由学習です。

そのうえ、もうすぐペトロの誕生日。

この先、いったいどんな冒険が待っているのでしょうか?

 

この日を担当する先生の足音が廊下から聞こえてきました。 

 

(プロローグをまだお読みでない方は、こちらからどうぞご覧ください)

この世の果ての中学校 プロローグ「ついにあいつがやって来た」

長編になりますので、ゆっくり読んでくださいね。

 

1章 ハッピー・フライデー「ペトロの誕生日」

 今日はハッピー・フライデーだ。
 ジュニア・スクールの金曜日は特別な日、朝から自由学習だ。

 その日の担当がハル先生なら「ファンタジーア」で幻想遊びが出来るし、カレル先生なら「パラレル・ワールド」へ跳んで、危ない異世界の探検かもしれない。 

 

 月曜日から木曜日までは、ハル先生の宇宙物理とカレル先生の生命科学、それに校長先生の歴史と政治だ。

 毎日とても難しい勉強が続くので、生徒たちは、金曜日を「ハッピー・フライデー」と呼んで、その日がくるのを待ちかねていた。

 

 もし校長先生がやって来たら大変だ。

 ハッピーフライデーなのに、政治の勉強が始まる。 

 

 ドームの中には、僕たち中学生が六人と、両親入れても全部で16人しかいない。

 あとは3人の先生と医務室のおばさんだけだ。

・・政治なんて勉強する必要ないのにな・・といつもペトロは思う。

 

「お早う!」

 ドアから顔を覗かせたのは、美人のハル先生だった。

「やったぜ!ファンタジーアでバーチャル・ゲームだ!」喜んだ匠が片足跳びでハル先生のまわりを飛び跳ねた。

 

 先生は教壇にツツーと登ると、胸に抱えてきたナノコンをデスクの上に、「どん!」と置いた。 

 でっかい音が教室に鳴り響いて、大騒ぎしていた生徒たちは、慌てて席に着いた。

 

 ハル先生はナノコンを開いて、画面のどこかをやさしく叩いた。

 教室の正面のブラックボードが点滅して、2文字のフレーズが浮かび上がった。

 

  『MY WORLD!

 

 みんなの視線がボードに集まるのを待って、ハル先生がいきなり怪しげな話を始めた。

 

「みんなの創ってる『マイワールド』なんだけどさ・・そろそろお互いに交換会を始めたらどうかなと思いついたの。

マイワールドはみんなの秘密の世界だから、他の人を招くのはとても勇気がいることだと思う。

でもお互いをもっとよく知るために、たまには心の中をさらけ出すことも必要じゃないかしら。

どうでしょう、どなたか思い切って自分から手を上げてくれる人はいないかしら?」

 

 ハル先生の目が、優しく探るように生徒たちを見つめていく。

 咲良とエーヴァとマリエは下を向いて、先生の視線を避けた。

 

・・・せっかく創り上げた秘密の世界だ。誰だって、他人に見せたいなんて思うわけないじゃないか? ハル先生、一体、何考えてんだよ・・・

 ペトロは無関心を装って、斜め上の天井に顔を向ける。

 

 ハル先生の目がぎらりと光って、1オクターブ甲高い声が飛び出した。

「そうだ、だれか今週か来週がお誕生日の方はいなかったかしら」

 

 先生の視線が彷徨って、ペトロのところで止まった。

 そのまま視線が動かない。

 

”これやばい!とてもやばい”

 ハル先生にやさしく見つめられるとペトロはどぎまぎしてしまう。

 ハル先生は変わっている。

 どこへ行くときも愛用のナノコンを大事そうに胸に抱えている。

 

 少しでも時間があればナノコンを開いて、宇宙の方程式の計算を始める。

「これって、スーパーコンピューターを持ち運びできるようにナノ・サイズに縮めた量子コンピューター。私の可愛い『ナノコン・ハル』よ」

 ハル先生はさらりと言う。

 

 先生はまるでカタツムリみたいだ。

 ナノコンの中で寝泊まりでもしているみたいに決して身体から離さない。

 

「誕生日が近いのは誰だって?」  

 そんなの、あさっての日曜日がペトロの誕生日だということぐらいみんなが知ってる。

 僕の家のバースデー・パーテイーにみんなを招待してるんだから。

 

 そのことをハル先生も知っていて試しているんだ。

 ペトロがマイワールドにみんなを招待する勇気があるかどうかをだ。

 

 これは誕生日に「僕んちへどうぞ」というのとは訳が違うぞ。

 マイワールドへの招待は自分の内なる世界への招待だから、普段考えていることがなにもかも知られてしまう。

 

 もしも手を上げて、次の日曜日が誕生日です、と言ったら「THE END」だ。

「それではペトロの世界に案内してもらいましょう。きっと忘れられない誕生日の記念になるわよ」

・・・先生はそう言うのに決まっている。

 ペトロは仲間にとても好き嫌いがある。

 好きな子には、誰にも内緒で来てほしいし、嫌いな奴には来てほしくない。

 

 好きなあの子は恥ずかしくて誘いにくいし、嫌いな奴は誘いたくないし・・

 だから今まで誰一人マイ・ワールドに招待したことがなかった。

 

 他のみんなだって、同じ気持ちだと思う。

「どうしよう」ペトロは悩んだ。
 

「そうだ!あの手だ」

 アメリカのナパ・バレーからやってきてまだ1年だ。 

 

 まだ間に合う。

 

「にほんご、たいへんむつかしい。ハルせんせい、なにいってんのか、さっぱりわからん」

・・・振りをした
 

 そのうち、みんながじっと僕を見つめ始めた。

「とぼけるなよペトロ、わかってんだろ」

 

 匠が横から、僕の脇腹をつついた。

「止めろよ。匠!」

 

 ペトロは、匠の手を払いのけて気がついた。

 誕生会には全員を招待したんだから、マイ・ワールドへの招待も好き嫌いがいえない筈だ。

 

「どうしよう・・」

 悩んで、考え込んだペトロをみて、美人のハル先生がにっこり笑って、ウインクした。

 「あっ!」ペトロの身体を電気が走った。

 

「はい! 先生」

 ペトロの右手が勝手に上がってしまった。

 

「しまった!」と思った時はもう遅かった。

 いつもの手でハル先生にまたやられた。

 

「あっ!ペトロが手を上げてくれました。それではみんなでペトロにお願いして、お誕生日のお祝いに、いまから『ペトロの世界』にお邪魔することにいたしましょう」

 ハル先生がすかさず言った。

 

「ハル先生!何がお祝いだよ!僕の気持ちなんか知らないくせに、先生が勝手に決めてるだけだよ」

 慌てたペトロが日本語で喋った。

 

「わたしもペトロのにほんごわからない」

 ハル先生はペトロの必死の抗議を無視して、ファンタジーアの郵便配達にスマホで予約まで入れてしまった。
 

・・・マイワールドは、それぞれの心の中で作られる小さな世界だけれども、実は「ファンタジーア」という無限に広がる幻想の世界の中に存在している。

 ファンタジーアは咲良ちゃんの両親が僕たち六人のために作りだした世界だ。

 

 昔よく遊んだバーチャル・リアリテイーに似ているが、こちらは現実に存在する世界だ。

 咲良ちゃんのママがファンタジーアの女王でファンタジーアの隅々まで支配している・・・

 

”あれ、なにこれ?早すぎる!”

 教室の窓の外、校庭の空に真っ赤な空飛ぶ自転車に乗った郵便配達のおじさんが現れ、校庭に舞い降りてきた。

 まるで、ハル先生と打ち合わせておいたみたいだ。

 

 おじさんは自転車を校舎の入り口の壁に立てかけ、駆け足で教室に入って来た。

 ハル先生に軽く挨拶して、ペトロを見つけると、赤い鞄からマイ・ワールドの鍵を取り出し、そっと手渡してくれた。

 

 ペトロの鍵はブラックだ。

 みんなのマイワールドの鍵は、色違いにしてあって、誰にも勝手に侵入されないように、ファンタジーアの郵便配達が預かって、管理事務所の金庫に大切に保管していた。

 

 ペトロが鍵を受け取ったのをみて、咲良とエーヴァとマリエがすっかりその気になった。

 ”ちょっと変わった男の子”ペトロの空想の世界を早く見たくて、ウズウズしていた。

 

 生徒会長の裕大と、ペトロの宿敵・匠は・・・「僕はどっちでもいいよ」と興味なさそうな振りを装っている。

 本心では、天才ペトロのブラックな世界を覗いてみたくて仕方がないはず。

 

 ペトロは受け取った鍵で胸の内ポケットを開けると、マイワールドに繋がる通廊の先っぽを慎重に引っ張り出した。

 風船のような黒い袋が、プーッとみんなの背丈くらいの大きさに膨らんでいった。

 

・・・僕の世界の静けさが天敵・匠の手で破られる・・・

「内なるペトロよ、御免!」

 

 ペトロはすっかり諦めて、マイワールドで留守番をしてくれてる筈の分身、影のペトロに秘かに謝った。

 それから、風船の表面に触って小さなゲートを作り上げるように小声で頼んだ。

 

 ゲートの奥には深い暗闇が広がっていた。

「みんな順番に並んで入ってくれ! いいね、乱暴にしないでソッとだよ」

 

・・・なるようになれだ!・・・

 

 ペトロがすっかり諦めたとき、ハル先生がそっと近づいて来た。

 ペトロの身体を後ろから両腕でふわりとハグして、とっても甘い声で囁いた。 

     

              「LOVE YOU!」
  

 ペトロの視界が一気に晴れた。

 

 ・・・よっしゃ、やったろうやないか!・・・

 

《警告! ここはペトロの世界への入り口です。ペトロの許可無く無断で侵入した者は厳しく罰せられます》

 黒い風船に真っ赤な注意書きが現れた。

 赤い文字は血の流れのように滴り落ちている。

 

「ペトロ、入ってもいい?」

 匠が、嫌に丁寧に聞いてきた。

 でも、その顔はハル先生の前では断れないぞ、と言っていた。

 

 匠は運動神経が抜群で、ペトロは100m走でも、箱飛びでも、それに宇宙遊泳でも、いくら頑張っても勝てない。

 

・・・そのうえ空手の名人らしい。

 悔しいから、あまり好きじゃない。

 でもいまは、ハル先生やみんなの手前、大きな心を持つ天才ペトロが、そんな小さな事で入場を断る訳にはいかない・・・
 

 ペトロはゲートの入り口を片手で支えて拡げ、もう一方の手で鷹揚にOKのサインを出した。
 

 宿敵・匠が「悪いな、それじゃ」

 生徒会長・裕大は偉そうに「おーす」 

 咲良とエーヴァとマリエが「お邪魔しまーす」

 適当な言葉を並べて、みんながペトロの心のゲートをくぐり抜けていった。
 

 最後に残ったペトロが、ハル先生を振り向いて「あれ?先生は来ないの?」と尋ねた。

 

「先生は大人だから、子供のマイ・ワールドには入れないの。教室でお留守番よ。あと、ペトロにお任せしますから、みんなをよろしくね」

 ハル先生の勝手な答えが返ってきた。

 

「わかった。それじゃ先生は僕の風船ゲートのお守りをしっかりお願いしますよ。出口が消えると迷子になって、永久に帰れなくなるからね」

 ハル先生が大きくうなずき返すと、安心したペトロは風船ゲートに飛びこんでいった。
 

 先生は残された風船ゲートを教室の隅っこに運んで、二つの机で挟んで動かないように固定した。 

 それから、教壇に登り、机の上のナノコンに向かって座った。

「さー、行くわよ!」

 派手に腕まくりをすると、先生は「宇宙の方程式」の計算を開始した。 

 

 しばらくするとハル先生の姿はどこかにかき消えて、机の上のナノコンの画面で、キー・ボードだけが勝手に動いていた。 

 誰もいなくなった教室に、カタカタという乾いた音がいつまでも響いた。
 

 

 裕大が先頭に立って一団は暗闇を進んだ。

 遠くに薄明かりの出口が見えた。

 

 トンネルを抜けると、そこは大きな広間だった。

 

「ペトロの神殿にようこそ!」

 いつの間に先回りをしたのか、黒い燕尾服に身を固め、白いシルクハットを被ったペトロが現れ、優雅に身を屈め、挨拶をした。

 そこは中世の聖堂を再現した広い空間「ペトロの神殿」の真ん中だった。

 

「ずっとここでお待ちしておりましたよ!」 

 神殿の奥にある祭壇の前に据え付けられた玉座から低い声が響いた。

 玉座の腕おきに偉そうに片肘をついた黒い影が、暗い顔をゆっくりとこちらに向けた。
 

 その顔はペトロにそっくりだった。

「僕のアバターだよ。いつも代わりに、留守を守ってくれてるんだ」

 ペトロがみんなに分身を紹介した。

「お疲れ様、その玉座、僕に譲ってくれるかな?」

 ペトロが頼むと、分身は生徒たちをじろりとひと睨みしてから玉座を降り、神殿の最深部に向い、おぼろの闇に消えていった。

 

「なんだか、本物より分身の方が威張ってるみたいだぜ!」 

 誰かがそう言ってククッと笑った。

 

・・・その声は間違いなく、匠!・・・

 

 ペトロは玉座の前に立つと、背筋をピンと伸ばして匠を睨み付けた。

「ここは僕のくつろぎの場所だ。頭にくることがあるとここへ来て怒りの対象を幻想で創り出して、厳しく処罰するんだ。たまには処分しちゃうことだってあるぞ」

 

 もう一言ペトロが付け加えた。

「ここはペトロの内なる世界。匠、僕のやりたい放題だ!」

 

「ヤベー」匠が思い切り首をすくめた。

 いつもの二人のやりとりに、全員が思わず吹き出した。

 

 笑い声に釣られて、どこか近くから小さな笑い声が聞こえてきた。

 ペトロの座っている玉座の脇机に不思議な形の楽器ケースが立てかけられていた。

 

 ケースの中で、笑い声が聞こえる。

 気がついたマリエが楽器ケースに近づいて耳を傾けた。

 

「あら、この中にいるあなたは何者?」

 マリエが尋ねた。

 

「僕の友達だよ」

 ペトロが答えて、立てかけられた楽器ケースの蓋をゆっくりと開けた。

 

 そして、ケースの中からヴァイオリンを大きくしたような弦楽器を取り出した。

 それは丸く膨らんだボディーが二つあって、その上にネックと頭が一つだけ付いている不思議な形をした弦楽器だった。

「これはガンバという昔の楽器だよ。ママが得意の弦楽器なんだけど、一人で合奏できるように、ボディーを二つにして双子のガンバを作ったんだ。双胴で音量が倍増して、低音を重ねて力強く響かせるんだ」

 二つのボディーは鮮やかな赤と緑に色分けされていた。

 ネックには六本の弦が張られていて、赤い弦は赤いボディーに緑の弦は緑のボディーに三本ずつに分かれて繋がっている。

 

「御挨拶だよ。二人とも出ておいで」

 ペトロが声をかけると、赤いボディーからは赤い服を着た小さなピエロが、緑のボディーからは緑の服を着た小さなピエロが飛び出してきた。

「こんにちはマリエ、俺たち双子のアーテイスト」

 ピエロはみんなの前にやってきて、二人一緒にぺこんとお辞儀をした。

 

 それから、両手をつないで、時計回りに回転を始めた。

 スピードが上がり、二人の身体が白くぼやけていった。

 

 最後に、白い生地に赤と緑のストライプ入りのピエロが一人現れた。

 一回り大きくなったピエロは、ケースから折りたたみの椅子を取り出して組み立て、そのうえに座り込んだ。

 

 ピエロはガンバを両足でがっちり挟み込んだ。

「準備OKだ」ピエロがペトロに伝える。

 

 ペトロは脇机から指揮棒を取り出し、玉座の前に立つた。

 そして、神殿に響き渡る声で開演を宣言した。

 

「ご来場の皆様、ウエルカム・ページェント《ペトロの一夜》の始まりです」

 五人の小さなゲストから拍手が飛んだ。

 匠がピュッと口笛を吹いた。

 

 ペトロは台座の脇を指揮棒でトントンとたたいて、ゲストに静寂を促す。
 そして、ゆっくりと指揮棒を宙に持ち上げた。

 

 ピエロが指揮者の一振りを待ち構える。 

 

 ペトロが一気に指揮棒を振り下ろした!

 ピエロの右手がしなり、双胴のガンバを激しく打ちたたいた。

 

 ガンバの二つの胴体から、低く怪しげな旋律が鳴り響いた。 

 ペトロの大好きな曲、ムソログスキーの「はげ山の一夜」だ。 

 

 誰もいない筈の神殿の奥からオーケストラの伴奏が流れ、薄闇の天蓋から甲高いコーラスの声が降ってきた。

 

 ガンバが通奏低音を響かせると、生き残った緑の森の精霊たちが集まって、神殿の暗闇でひそひそ話をしている。

 

 ペトロの指揮棒が風を切り裂いた。

 

 ガンバの赤のボデイからは赤い色の光線が、緑のボデイーからは緑の光線が神殿の天蓋に向

けて放たれた。

 

 空中で二つの光線が交わると黄金色の文字が鮮やかに描かれ、宙に流れていく。

 

  《ペトロのホラーの世界にようこそ!》

 

    《WELCOME 咲良!》

    《WEKCOME 裕大!》

 

    《WELCOME エーヴァ》

    《WELCOME 匠》

 

    《WELCOME マリエ》

 

 ゲストの名前をペトロが朗々と読み上げ、生徒が歓声で応えていく。

 突然、ペトロの形相が変わった。 

 暗くゆがんだ顔が暗闇に浮き、指揮棒が苦しげに、宙に舞った。
 

 ピエロの腕がしなり、弓を弦に激しく叩きつける。

 “ギギッ! ギギッ! ギギッ!”
 

 耳障りで、不快な音が神殿に響き渡った。 

 ペトロの魂が叫び声を上げ、魔界を目覚めさせ、異形の者達を呼び集める。

 

 漆黒の闇を、怪しく光る魔物の影と甲高い魔女たちの叫び声が飛び交った。 

 マリエとエーヴァが耳を塞いで、その場に座り込んだ。

 

 絶滅したいのちが群れ、暗い地の底から蘇り、神殿の床を突き破ってにじみ出してきた。

「命を返せ!どうせ食われる命ならこちらから先に食い尽くしてやる」

 

 器を亡くした命の群れが神殿に蘇り、闇を飛び、病原体となって人間の四肢を襲い、内側から食い尽くしていく。

 死んでも死に切れない人間の抜け殻、アンデッドがゲストにささやきかける。

 

 みんな死んだ! おまえの兄貴も弟も、可愛い妹も、ほら、あの仲の良かった遊び仲間も。

  みんな死霊となって、うじゃうじゃここにいるぞ。

 

 どうしてお前だけ、生き残った?

  生き残ったおまえの魂をよこせ! フレッシュでうまそうなおまえの魂だ!

 

 異形の者達が、生き残った子供たちを闇の世界に誘い込もうと上空から襲いかかって来る。 

 五人のゲストは魂を両手で抱え込み、悲鳴を上げて逃げ惑った。

 

 ペトロのアバターが宙に現れ、怪鳥に姿を変えた。

 禿げた怪鳥が匠の頭上を舞い、鋭いくちばしを振るわせた。

 

 匠は頭を抱えて、しゃがみ込んだ。 

 

「ペトロ!そこまでにしなさい」

 咲良が大声を上げた。

 

 咲良はファンタジーアの王女、幻想を操るサラ一族の娘だ。

「ペトロ、ファンタジーアの力で人を傷つけてはだめ」

 

 咲良の一声がペトロの理性を呼び戻した。

「宴は終わりだ。闇のものたちよ、闇に戻れ!」

 

 ペトロが叫び、異形の姿が消えると、神殿の奥でシンバルと大太鼓、小太鼓が騒ぎ始めた。

 双子のガンバから二色の光が放たれ、宙空に再び黄金の文字を浮かび上がらせた。

 

 《内なる異形の者の逆襲で、人類は希望を使い果たした》
 

  黄金の文字が飛び散り、天蓋にぶつかり、消えていった。

  ペトロは玉座に立ち上がり、両手を高々と上げ、身をよじって絶望を表現した。

 

  広場に向かう神殿の扉が重々しい音を立てて開き、朝の明るい光が神殿に差し込んでくる。

 

「夜明けとともに魔物達は魔界へと帰って行った。そして世界は平穏を取り戻した」
 

 終演の宣言を済ませると、ペトロは燕尾服を脱ぎ捨て、指揮棒とともに天井に放り投げた。

 アバターが現れて衣装を受け止め、暗闇を求めて姿を消した。

 

 ピエロはゲストに手を振りながら双子に戻り、ガンバの双胴に飛び込んでいった。

 ジーパンとTシャツとスニーカーに戻ったいつものペトロが玉座から降りてきて、宿敵、匠に聞いた。

 

「匠、どうだった? 少しは涼しくなった?」

 

「すごかった! でもあの魔物たち、まるで本物みたいで怖すぎるから、絶対アンコールはしないよ」
 

ペトロがにやりと笑って匠を追い詰める。

「でもね、あのホラーとアンデッドは僕の創ったものじゃないんだ。ここんとこどこかから勝手に現れるんだよ。多分ドームの隙間から潜り込んで来たんだ」

 

・・・「あれってもしかして・・本物だよ!」

 

「冗談止めろよ!」

匠がぶるっと震えた。

 

ファンタジーアのどこかに、最近ホラーやアンデッドが住みついたと言う噂が大人たちの間で流れていた。

 

・・・廃墟と化した世界の果てから、異形のものたちが、生身の人間の匂いをかぎつけて、ここドームの中へ潜り込んできたらしい・・・と。

 そんな噂があることを知っていたのは、六人のうちでファンタジーアの女王の娘、咲良だけだった。

 ペトロに案内されて、五人は神殿から小さな階段を下りて、細かい砂が敷き詰められた広場に出た。

 白い砂が朝の日差しを浴びてきらきら輝いていた。

 

「全隊、集合、整列!」
 

 ペトロの一声で、広場に散らばって寝転がっていた兵隊が起き上がり、横一列に整列して、生徒たちを出迎えてくれた。

 ペトロの創り上げたおもちゃの兵隊たちだ。

 

 ペトロが号令をかけた。

「右向け右、小隊前へ! 一、二、一、二」

 兵隊が前進を始めると、ペトロは古い日本の童謡を歌い出した。

「♯ヤットコヤットコ繰り出した、おもちゃのマーチがラッタッタ♭」

 ペトロはガンバ演奏家のママに似て音楽が大好きなのに、歌を唄うと調子外れだ。

 兵隊たちの行進が乱れて、方々でガチャガチャとぶつかり合った。

 ペトロのそばで匠が小声で「おもちゃのマーチ」を歌っていた。

 匠はペトロがびっくりするほど歌がうまかった。

 

「匠、一緒に歌わないか」

 ペトロが思い切って声をかけた。

 

「よっしゃ、任しとけペトロ!」

  匠が喜んで、大きな声で歌い始めると、兵隊たちは二列に並んで整然と行進を始めた。

 

 交互に足を規則正しく前方に繰り出し、片腕は鉄砲を上手に上げ下げしている。

 匠が歌うのを止めると、行進を止めて、その場でピタリと整列した。
 

 続きをペトロが歌うと兵隊はあちこちに散らばってしまう。

 匠が歌うと集合して、また整然と行進をする。

 

「うぐぐっ!」

 笑いをこらえていた裕大がたまらず噴き出した。

 

「フギャー!」

 咲良とマリエとエーヴァは地面に転がって笑った。

 

《おもちゃのマーチ》はペトロが故郷のサンフランシスコを離れて、一家三人でドームに避難してきたとき、カレル先生から日本語の勉強のために聞かされた日本の童謡だった。

 

 出だしのフレーズが面白くて、思わずパパと一緒に歌った曲だ。

 パパも歌は下手だった。

 

「僕は科学技師のパパの血を引いたんだ。科学は得意だから歌は下手でいいんだ」

ぺトロはそう言ってパパを喜ばせたが、そのパパがここんところ家の中で姿が見えない。

 

 多分ドームの地下の研究室にでもいるんだと思う。

 すこし寂しいので、ペトロはここへ来てはおもちゃの兵隊を唄って、パパを忘れないことにしている。

 ペトロが指揮して・・全員でおもちゃの兵隊を唄った。

 

 ・・・午後の日差しが強くなってきた。

 広場の向こうには、大きく深い森が拡がっていた。

 

「あの森は肝試しの森だよ。森のなかに秘密の仕掛けがいっぱい隠されているんだ。一人ずつ順番に探検に出かけてみない? 退屈はさせないよ」 

 ペトロがしつこくみんなを森に誘ったけれども、全員顔を見合わせて動かない。

 

・・・ペトロのことだ、とんでもないことを仕掛けているのに違いない・・

 

 最初に匠が逃げだした。

・・・もう騙されないぞ。

 あの森はブラックな世界に決まってる。

 ペトロの神殿でさえ、あの凄さだ。

 あの森に踏み込んだら、二度と学校には戻れない。

 ペトロと顔を合わせたらやばい。

 魔界に連れて行かれっちまう。

 逃げるが勝ち!・・

 

 匠はペトロに気づかれないように、みんなからそっと離れ、一人でペトロの世界の探索を始めた。

 森の入り口のすぐそばに、一本の巨大な菩提樹が空に向かって伸びていた。

 

・・・緑の木なんて、とうの昔に消えちまって地球のどこにもないのに、ペトロの奴、すげーもん創りやがった・・・

 匠は空に届きそうな巨木を眺め上げてから、幹に沿って視線を下ろした。

 

 地面に近い太い幹の処に、祠のような大きな穴が空いていた。

 祠は誰も入れないように、白く塗った木製の可愛い柵で囲まれていた。

「なに? これ」

 匠は思わず祠の中を覗き込んだ。

 祠の穴の向こう側に不思議な世界が広がっていた。

 青と緑と赤の光のモザイク模様でできあがった小さな庭園。

 

・・・凄い、この中、ペトロの幻想空間・・・

「祠の向こうに別世界が見えるよ!」

 匠は、大きな声でみんなを呼んだ。

 ペトロが大慌てで、駆け寄ってきて、

「ここはだめだよ!」と、顔色を変えて叫んだ。

 

「ここは森の中の森だよ。僕のプライベート・ゾーンだ。ここだけは絶対、誰も入れない!」

 ペトロが祠の前で両脚を踏ん張って、集まったみんなの前に両手を拡げた。

 

「なーんだ。つまんねーの!」

 匠がぼやいて、大げさに片足で土を蹴飛ばした。

 

「小さな柵に守られた可愛い祠!ペトロはここで一体何をお守りしてるの?」

背の高い咲良がペトロの頭越しに祠を見つめた。

 

「マリエ、ここ怪しいわよ! サラ一族の娘として、見過ごすことなどとてもできませんわ」

  咲良が一歩祠に近づいた。

 

 マリエも我慢できなくなって、ペトロの隙を見て、祠に三歩、近づいた。

「あらっ! 中からだれかの溜息が聞こえるわよ! ちょっと、静かにして」
 

 みんなが黙り込むと、祠の中からうっとりと囁く声が聞こえた。

 

「なんて素敵なとこなの。陽だまりに緑が一杯。花の甘い香りに包まれて、エーヴァはここで眠りましょう」

 匠が見つける前に、エーヴァが祠の穴に気が付いて、柵を乗り越えて勝手に中に入り込んでいた。

 

 みんなの視線がペトロに向けられた。

 

「頼むよ、このなかペトロの天国だろ? OKしてみんなを入れてくれよ」 

 生徒会長の裕大にそこまで言われても、ペトロは首を横に振った。

  マリエと咲良が目配せをした。

 二人はペトロにそっと近づいて・・両側から同時にウインクした。

 

 ペトロのおつむがパチンとはじけた。

 もう一度パチンとはじける音がして、祠の柵が勝手に開いた。

 

「また、やられた!」

 ペトロが悲鳴を上げた。

 

「やったぜい!」

 マリエと咲良が嬉しそうに祠をくぐり抜けていった。
 

 匠が「御免よ」と謝って二人に続いた。

「おっす!」最後に裕大が身体をかがめて祠を通り抜けていった。
 

 祠の向こうは、森に囲まれた小さな花畑だった。

 芝生の青、斑入りの葉っぱの緑と白、花びらのピンクと赤、まだ熟していない小さな果実の黄色、いろんな色が幾何学的な文様を描いて、モザイクのように花壇を作り上げていた。
 

 芝生の上で、両手を伸ばしたエーヴァが、気持ちよさそうに寝っ転がっていた。 

 ペトロの案内で、みんなは花畑を散歩した。
 

 花畑の奥には緑の森に囲まれた小さな空間が拡がっていた。

 そこには森の木漏れ日が差し込んで来て、中央では石組みの噴水がきれいな水を空に噴き上げている。

 

 みんなは水を口に含んで、渇いたのどを潤した。

「おかしいわね。こんな素敵なところ、ペトロはどうしてあんなに必死で隠したのかしら」

 

 咲良がそっとマリエに尋ねた。

「ペトロ、きっとまだ何か隠してるわよ」マリエが答えた。 

 

 どこかから甘い花の香りが漂ってきた。

 小さな黄色い花びらがいっぱい風に乗って飛んできて、噴水の石垣に舞い落ちた。

 

 石垣の上で花びらが重なって、可愛い妖精に姿を変えた。 

 妖精は石垣にちょんと腰掛けて、足をぶらぶらさせた。

 

「こんにちは・・」妖精がみんなに呼びかけてきた。

  妖精は誰かに似ていた。

 

「あっ、あの子、マリエにそっくりだ」

 めざとい匠が、ずばりと指摘した。
 

 妖精は小さなマリエだった。

「黙れ、この野郎!」
 

 ペトロが慌てて、匠に拳を振り上げた。 

 途中で止めて、「ばれちゃったか!」と叫んでしまった。

 

・・・あれっ、これって告白になってしまった・・・

  ペトロはもうやけっぱちだ。

 

・・・マリエにだけ分かってくれればよかったのに・・・

 小さな妖精が噴水でコロコロ笑っていた。

 

 突っ立っているペトロに、本物のマリエが駆け寄った。

「こんなに可愛い妖精にしてくれてありがとう」

 

 マリエがペトロのほっぺたに大きな音を立てて、キスをした。

 ペトロが驚いて目をまん丸にしたので、みんなが大笑いした。
 

 マリエは妖精に近づいて謝った。

「こんにちは、あなたは私のマリエでなくてペトロの心のマリエなのね。こんなところまで勝手に入り込んでごめんなさい」
 

 妖精はにっこりと微笑んだ。

「妖精としての私の役目は終わりました。あとは本当のマリエにお任せしますね」
 

 そう言って妖精は空に舞い上がると、菩提樹の精霊に戻って、古い巨木の黄色い花々の中に姿を消した。
 

 妖精が去ると、みんなは森の中の森で、一休みをした。

 暖かい木漏れ日を浴びながら花畑に寝っ転がって、山ほどお喋りをした。
 

 隠し事がなくなったペトロの心はすっきりと晴れ上がった。

 今日のところは大嫌いなあいつを許してやろうと心に決めた。

 

 眠気に誘われて、うとうとし始めたペトロの耳に、花に群がる蜂たちの騒がしい羽音と、みんなの楽しそうなお喋りが混じり合って《ぶんぶん、ぶんぶん》と合唱しているように聞こえた。

 

 心の闇がいつの間にか消え失せて、ペトロはいま、懐かしい故郷・ナパバレーの春の日だまりの中にいた。 

 

 陽が陰って、少し肌寒くなってきた。

「そろそろ学校に戻ろうか。きっと、ハル先生が心配してるよ」

 

 ペトロが立ち上がって、みんなに声を掛けた。

「ペトロの世界・ご退場口」と書かれた看板を担いだ双子のピエロが現れ、祠の穴の前に立てかけた。

 

「本日はお越しいただきましてまことにありがとうございました。またのご来場を心からお待ちしております」 

 双子のピエロがペトロに代わって、深々とお辞儀をした。

 

 みんなで祠をくぐり抜けると、そこは教室だった。

 

 ハル先生は教壇のデスクで膨大な計算を続けていた。

 正面の電子ボードには一行の簡単な数式が書かれていた。

 

 それはペトロが初めて見る数式だった。

 先生はついに宇宙の第一方程式を完成させて、宇宙の第二方程式に取りかかっていた。

 

 周りが騒々しくなっても、ハル先生は「お帰り、どうだった、ペトロの世界は面白かった?」と顔も上げずに聞くだけだ。

 

「先生、ただいま!」ペトロがハル先生の顔をのぞき込んだ。

 

 宇宙の方程式の計算が佳境に入ってしまうと、先生は周りのことがまるで目に入らない。

 そのうちファンタジーヤの郵便配達が、ペトロのマイワールドの鍵を預かるために教室にやってきた。

 

「明日から、マイ・ワールドの森の中の森の改装に取りかかりますので、しばらく鍵は自分で持っていてもいいでしょうか?」

 ペトロは妖精がいなくなった森の庭園を、どんな風に改修するか計画を練り始めていた。
 

・・・森の中には数十カ所にホラーを仕掛けてある。

あれは長い時間を掛けて、練りに練った必殺の仕掛けだ。

次はどうしてもみんなを森の中まで引きずり込みたい。

そうだ、森の中の庭園は、恐怖の森へのエントランス・ゾーンに改装しよう。

はじまりは、優しくみんなをお花畑に誘い込む。

 

一歩踏み入れたら最後、そこは帰らずの庭園となる。

日が落ちると、花に群がる蝶や蜂たちは地下の薄闇に帰り、昔の幼生の姿に戻って、ぶくぶくの地虫に変身する。

白や、黒や、黄色まだらのでっかい地虫たちが地面からうじゃうじゃと出てきて、みんなをホラーの森へと追い立てる。

匠は逃げ足が早いくせに、どうしてか尺取り虫が苦手で、立ちすくむ。

あいつスマホで電子図書館の昆虫図鑑を見ていて、緑色した尺取り虫が小さな昆虫捕まえて食べる動画にギャッと悲鳴上げてたぞ。

そうだ、でっかい緑色した尺取り虫が大口開けて、うねうねと匠を森に追い詰めることにしよう・・・

 

 匠の慌てる姿を想像して、ペトロはニヤリと笑った。

「鍵は大切にお持ち下さい。改装の結果も忘れずにご報告下さい」
 

 郵便配達の声でペトロはハッと我に返った。

 郵便配達のおじさんは咲良を見つけると、いまからファンタジーアに戻りますが家までお送りしましょうかと声をかけた。

 

 咲良の家はファンタジーアの中にある。
「お願い、パパ」

 

 咲良が答えて、慌てて口を塞いだ。

 みんなはしらん振りをしていたが、郵便配達のおじさんが咲良のパパであることぐらい、ペトロもみんなもとうの昔に知っていた。
 

・・・だって、ファンタジーアの王様なんていう偉そうな人は一度も学校に現れたことがないんだから、いつでも気楽に顔を覗かせる郵便配達のおじさんが咲良のパパに決まっている・・・
 

 咲良はペトロにマイ・ワールドのお礼を言ってから、郵便配達の自転車の後ろに乗せてもらって空に舞い上がり、みんなに手を振って家に帰っていった。 

 

「ペトロの世界、めっちゃ面白かったぜ。また誘ってくれよ!」

 ペトロより少しだけ背の高い匠がペトロの頭を上から軽く叩く。

 

「つぎは、匠向けのスペシャル・ヴァージョン考えとくよ」

 ペトロは、ちょっと背伸びをして、匠の頭を軽く叩き返した。

 

「ペトロ、今日はありがとう。あさっての日曜日にも、みんなでペトロの誕生会に行くからな、よろしくな!」

 生徒会長の裕大がみんなを代表してペトロにお礼の挨拶をしてくれた。

 

・・・僕の誕生会をみんなが楽しみにしてくれてるんだ・・・

 ペトロはなんだか友達が十倍に増えてしまったような、ハッピーな気持ちになった。

 

・・・ハル先生が僕の狭い心を十倍に拡げてくれたんだ・・・

 

「ハル先生ありがとう」

 ペトロが小さな声でお礼を言うと、ハル先生はナノコンの手を止めて振り向き、ゆーっくりと唇でことばを描いた。
 

     「LOVE YOU!」 

 

 ペトロはマリエを家まで送っていった。

 マリエの家は丘の上にある教会だ。

 途中二人でいっぱいお喋りをした。

 

 教会の入り口で別れ際に、マリエがペトロのほっぺたにまたキスをした。

 迎えに出てきたマリエのママが二人を見て、笑っていた。

 

  ペトロは今日の出来事を一刻も早くママに報告したくて、家までの距離を一気に駈け抜けた。
 

            《続く》

 

 

続きを読んでくださいね。

この世の果ての中学校 2章「リアルの世界は一度逝ったら戻れない(前編)」

 

 

【すべての作品は無断転載を禁じております】

ばて気味ペットが元気回復!「トルコキキョウ」で猫メロメロ ! ワンコが「くさや」に発情?

ばて気味のニャンコとワンコがたちまち元気になったとんでもない事件を二つご紹介します。

ばて気味のニャンコ「タラ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふん、なんのこっちゃ」

最近、私のニャンコが、猫じゃらしにまるで無関心になりました。

ネズミのしっぽの気持ちになって、ニャンコを誘うのですが、まるで無視されます。

 

そのくせ、勝手なときだけ、「背中をかいて・・」とすり寄って来ます。

子猫のときは元気に遊んでくれたのに、ニャンコも年を取るとなんだか寝てばっかりです。

 

食事どきになると、きちんといつもの時間に起きてきて、背中をテーブルの足にこすりつけたりして、「腹減った!」と台所の嫁にアピールしています。

でも食べ終わると、テレビの前ですぐ「ごろん」です。

 

毛繕いしてそのまま寝てしまいます。

運動不足のおかげでばて気味、中年太りも良いとこです。

 

病気ではないので心配はしませんが、こちらも張り合いがなくて面白くありません。

おっさんニャンコを元気にさせるいい方法はないものでしょうか?

 

そんなことを調べ始めたある日、私たち猫メロ夫婦に大事件が起こりました。

母の日!テーブルの上の花束にニャンコ狂乱!トルコキキョウが宙に舞った!

トルコキキョウの花束

 

母の日に、私の嫁宛てに花束が届きました。

送り主は、私が勤めた会社の女性です。

 

彼女とは家族ぐるみで付き合っていたので、私が会社を卒業したあとも、私の嫁に母の日になると毎年立派な生花をプレゼントしてくれるのです。

花束は、赤いバラにピンクのカーネーション、それに三色のトルコキキョウでアレンジされていました。

 

喜んだ嫁は、リビングのテーブルの真ん中にお気に入りの花瓶を置いて、花束をきれいに飾り付けました。

それから私たちは二人で買い物に出かけたのです。

 

昼前に自宅に帰ってきて、リビングに入り、驚きました。

テーブルの上の花束は無残に飛び散り、花瓶の横に我が家のニャンコ「タラ」がお腹を上にしてひっくり返っていました。

 

その目は恍惚として、口の先にはトルコキキョウの花弁がくっついています。

テーブルの上には、むしり取られた花びらが散乱しています。

 

すべてはタラの仕業のようです。

タラの狙いは、バラでも、カーネーションでもなくて、トルコキキョウの花びらだったのです。

 

とりあえず、いやがるタラをテーブルから下ろして、花を集めて飾り直しました。

トルコキキョウの花を食べたタラは、大丈夫なのでしょうか?

 

心配になった私は、タラを寝室に押し込めてから、猫の習性とトルコキキョウとの関係を調査することにしました。

 

ネットで調べて驚きました。

トルコキキョウで猫メロの記事が出ていました。

 

トルコキキョウに含まれる匂い物質は、マタタビに含まれるアクチニンとかラクトンとか、ニャンコを刺激する物質と同じ成分だったのです。

マタタビは猫に有害ではないので、トルコキキョウを食べたタラも大丈夫・・と一安心しました。

 

その日からタラがなんだか活発になった気がします。

猫じゃらしにも反応してくれます。

 

花屋の前を通ると、トルコキキョウを一輪買って、タラにあげようかなと思いますが、中毒になると良くないので止めました。

タラは1年後の母の日を心待ちにしているのかもしれません。

 

トルコキキョウは彩りも豊かで、アレンジには欠かせない花です。

花束が贈られてきたら、猫メロのお宅では、トルコキキョウが入ってないかどうか、まず調べてください。

 

もしもトルコキキョウが花束に含まれていたら、必ずニャンコの手の届かないところに飾ってくださいね。

危ないシーン!ワンコが焼いた「くさや」に発情?

 

ある日、会社の親友が東京出張から帰ってきて、私にお土産をくれました。

それは「くさや」でした。

 

「くさやなんてものは食べたことがない。新鮮な魚を何でわざわざ腐らして食べるのか訳がわからん」

そう私がいったので、「くさや」が大好物の親友は、わざわざ日本橋の老舗で土産に買って来てくれたのです。

 

東京の人は、よく「くさや」を食べると言いますが、関西では「くさや」を普通の家庭で食べる習慣が少ないのです。

私も家族も「くさや」を食べた経験がありませんでした。

 

「くさやの味も知らんとは情けない家族だ、買ってきたから食ってみろ」

親友はくさやを私に手渡して、これは老舗の高級品だから、必ず七輪を使って炭で焼き上げるように、と念を押しました。

くさやの干物

 

その晩、嫁はどこかから古い七輪と炭を探し出してきて、さっそく台所で「くさや」を焼き始めました。

 

「ぎゃっ!」

後ろに立って「くさや」が焼き上がる様子を見ていた私は、その匂いに跳び上がりました。

 

それはとても口に入れるものの匂いではなかったのです。

それは、間違いなく身体から出ていくものの匂いでした。

 

しかし、わざわざ東京から持ち帰ってくれた親友を思い出した私は、鼻をつまんでくさやのひとかけらを口に入れました。

「ウグッ」

 

口から吐き出した、あの味を言葉で言い表すことは止めます。

嫁は悲鳴を上げながら、残りのくさやを流し台に放り投げて、台所の窓を開け、煙を外に出しました。

 

ついでに台所のドアを開けて、外の空気を取り込もうとしました。

外気と共にさっと入ってきたのは愛犬のブー太郎です。

 

ブーは、昔、飼っていたメスの犬が近所の家に遊びに行ったときに、そこのでかいラプラドールとの間にできてしまったワンコです。

今では立派なオスの成犬です。

 

ブーは台所に入り込んできて、上がり間口にどんと正座して、こちらを見ながらよだれを垂らしています。

 

「くさや」の匂いに誘われて来たのでした。

 

「その臭いのをよこせ!

その気持ちを理解した私は、一口かじった「くさや」の残りを箸でつまんでブーの口に近づけました。

 

一口で飲み込んだブーは、正座を崩さず、しっぽを激しく振っています。

「もっとよこせ!」と言っているのです。

 

台所の流しに嫁が放り投げた、もう一匹の「くさや」を箸につまんで、ブー太郎に近づいたとき、あられもない光景が目に入りました。

正座したブー太郎の後ろ足の間から、屹立した逸物が赤く燃え上がっていました。

 

「くさや」はワンコのオスとしての感性を根こそぎ燃え上がらせてしまったのです。

私一人ならどうってこと無い光景です。

 

しかし横には嫁と、後ろには、騒ぎを耳にして自分の部屋から駆けつけてきた娘までいるのです。

ブーの同性としてこの光景はとても恥ずかしいじゃありませんか。

 

慌てた私は二人の視線からワンコの下半身を隠しました。

2匹目の「くさや」を食べさせたあと、ブー太郎を台所から外に押し出して、ドアを静かに閉めました。

 

 次に換気扇をいっぱいに開いて、何事もなかった振りをしたのです。 

 

翌日会社に出ると、親友がやって来る前にこちらから彼の席にお礼にいきました。 

老舗の高級品が我が家の「ブー太郎」に食われてしまった出来事を正直に話すと、彼は吹き出していました。

 

それ以降、親友はますます「くさや」を好きになったと言っていました。

「くさや」の新たな効用に気がついたからでしょうか。

 

お宅のワンコがばて気味のときには、一度「くさや」を食べさせて上げてください。

日本橋まで行かなくても、ネットで手に入ります。

 

炭火手焼き「くさやせんべい」五枚で648円というのまであります。

これならあのものすごい匂いの出る炭火焼きをしないでもすみそうです。

 

ただし、オスのワンコには、女性のいるところで食べさせるのは、止めた方が良いですよ。

 

 

【追記】

この記事の写真、スコテイッシュ・フォールド「タラ」はますます元気です。

「ブー太郎」は、既に亡くなっていますので、写真はラプラドールのモデル犬からよく似た写真を拝借しました。

 

マラソン優勝賞品はロバ一頭/水泳は海の中/第一回 近代オリンピックは貧乏だった!

今朝、一枚の古い写真がデスクの奥から出てきました。

数年前にハリウッドの映画会社からいただいた秘蔵写真の中の一枚です。

 

三人の男性が人気の無い、でこぼこの山道を走っています。

裏には英語でアテネ・オリンピック・マラソンと書いてあります。

 

怪しげな白黒のピンぼけ写真の正体をどうしても知りたくなって、一日かけて調べてみました。

マラソン賞品はロバ一頭・貧乏オリンピックの始まり

上の写真を見てください。

三人の男性が人気のない、でこぼこの山道を走って来ます。

 

後方から追いかけてくる数人の姿が小さく見えます。

震災でもあって逃げているのでしょうか。

 

それにしてもみすぼらしいファッションです。

身につけているのは普段の仕事着のようです。

 

よく見ると、足元は履き古して、つぶれたシューズです。

沿道に人影はなく、後方には小高い丘が続いています。

 

ここはどこで、彼らは一体何者なのでしょうか?

ネットで調べて、ついに発見しました。

 

JOCの公式サイトやウイキペデイアに同じ写真が小さく載っているのを見つけました。

この写真は1896年第一回近代オリンピックでマラソンを走る選手を撮影したものでした。

 

場所はギリシャのアテネの近くです。

JOC日本オリンピック委員会の公式サイトによれば、このときのマラソン競技は、出発点の「マラトン」からパンアテナイ競技場までの約40キロのコースを、25人の選手が走ったとされています。

 

フランスの教育家クーベルタンが提唱して、古代オリンピック(オリュンピア競技会)の故郷ギリシャで復活した、記念すべきオリンピック大会なのに、マラソンに出場したのはわずか25人でした。

(さらに少ない15人だったという異説もあります)

 

古代ギリシャの有名な逸話に基づいて創設されたマラソン競技がわずか25人で争われたとは、なんだかのんびりした話です。

マラソンには地元アテネの市民から、ギリシャの選手に大きな期待が寄せられていました。

 

というのも資金集めに苦労して、ようやくできあがった新しい競技場で、地元の観客を集めて行われた陸上競技では、アメリカの選手が11種目の中9種目で優勝して、肝心の地元ギリシャの選手は優勝することができなかったからです。

 

陸上競技の最後を飾るマラソンは、出場選手25人のうち半数以上が地元ギリシャの選手でした。

当然ギリシャ選手に大きな期待がかけられましたが、残念なことに、レースが始まるとコースの途中まで先頭はギリシャ以外の国の選手でした。

 

しかしレースの途中から外国選手は次々と脱落していきます。

そして残り7キロの地点でギリシャのスピリドン・ルイスという選手がトップにおどり出たのです。

 

ルイスは地元の大声援の中、パンアナテイ競技場に走り込み、優勝を果たします。

ギリシャ人として、マラソン競技初の金メダリストとして歴史にその名を刻んだのです。

 

・・実は財政難のため金メダルはなくて、優勝は銀メダル、二位が銅メダル、三位は表彰状だけだったといわれています。

 

JOCの公式サイトの写真を見ますと、ルイスはひげを生やしています。

ところが先ほどの写真をみても、三人の選手の中にひげを生やした男はいません。

 

三人の集団には二位に入ったギリシャのハリラオス・バシラコスという選手の名前が挙がっていますが、優勝したルイスの名前はありません。

この写真がトップ集団を撮したものだとしますと、ルイスは相当後ろに見える集団から追い上げて、大逆転で優勝を果たしたことになります。

 

ところで、ルイスはレース途中で沿道の旅籠?で、一休みをしたそうですよ。

ルイスは旅籠から差し出されたチーズを食べ、ワインまで飲んでいます。

 

ギリシャではワインは水代わりですから、すこしくらい飲んでも、どうってことなかったのでしょうね。

もしかすると、先頭の海外の選手はギリシャの市民から上手にワインを飲まされて、酔っ払ったあげくにレースから脱落したのかもしれません。

 

レースの記録は一位のルイスが2時間58分50秒、二位のバシラコスが3時間6分3秒と、あたりまえですがオリンピック新記録でした。

ワインまで飲んで、超難所と言われたでこぼこの山道を3時間前後で走ったのですから、立派な記録です。

 

ルイスが競技場に入ってくるとギリシャの王ゲオルギオス一世は大喜びして、ルイスの功績を称えました。

ゲオルギオスはルイスに褒美として何が欲しいかと聞いたところ・・・羊飼いの仕事をしていたルイスは「ロバを一頭・・水を運ぶ助けにいたします」と答えたとされています。

 

褒美に「荷馬車をもらった」という説もあります。

ロバと荷馬車の両方を褒美としてもらったとしたら、ルイスの水運びの仕事はとても楽になったでしょうね。

 

どちらにしても記念すべきオリンピック大会としては、驚くほどささやかな賞です。

でもなんとも平和で、ほほえましくて、良いお話じゃありませんか?

 

英雄になったルイスは、他にもギリシャ中からいろいろなプレゼントを贈られたと言われています。

ウィキペデイアによれば貴金属といった高価なものから、一生無料で髭をそってもらえる床屋からの特別優待券まであったそうです。

 

ほっこりする話です。

今なら、日本選手が地元で開催されるオリンピック・マラソンに優勝したら、一億円を超える報奨金が出るかもしれません。

 

近代オリンピックのスタートは、古代ギリシャの有名なエピソードから作られたマラソン競技でさえ、選手はこんな貧乏な服装で走って、王様からの優勝の報償はロバ一頭とか荷車一台だったということです。

 

第一回近代マラソンは貧乏マラソンだったのです。

フランスのクーベルタン男爵の提唱で実現した近代オリンピック、その開催地ギリシャは、当時、政府の財政が火の車でした。

 

ギリシャの王、ゲオルギオス一世の後援と世界の有力者から寄付を集めて、なんとか新しい競技場が新設され、大会はスタートしますが、目標のお金が集まらずに関係者は大変な苦労をしたのです。

 

陸上競技の華、マラソンがでこぼこ道の山道を走ったのなら、もう一つの花形競技、水泳の方はどうだったのでしょうか?

そもそも、第一回近代オリンピックで水泳競技は行われていたのでしょうか?

 

なんだか心配になってきて、詳しく調べてみました。

アテネ・オリンピックにプールはなかった!水泳競技は海の中だった。

調べてみて驚きました。

水泳競技は海の中で行われていたのです。

 

トライアスロンは海の中の水泳から始まりますが、競泳競技はプールに決まってます。

実はその頃、プールなんていう贅沢な施設はどこにもなかったのです。

 

古代ギリシャのオリンピックでは水泳競技はなかったのですが、水泳そのものは盛んで、川の中で水泳の訓練なども行われていました。

近代オリンピックではじめて水泳が競技として設けられたのです。

 

競泳コースはアテネの港町ピレウスのゼーアという湾の中に作られたものでした。

公式の記録として、小さな古い白黒のピンぼけ写真が一枚残っていますが、海の中に桟橋のようなものが写っています。

 

レースのためのコースの枠組みか、ゴール地点として作られたのではないかと推測されます。

レースの記録も残っていますので、桟橋の上に審判員や記録係がいたのでしょう。

 

レースは、自由形100m、500m、 1200m、水兵による100mの4競技でした。

多分仕切られた海の上を何回か往復して、スピードを競ったのでしょう。

 

競泳が行われた1896年4月11日の海水の温度は摂氏12度、波の高さは4mだったという記録が残されています。

マラソンには最適の季節だったでしょうが、水泳には厳しい季節で、海水は冷水でした。

 

一度12度のお風呂に浸かってみてください。

おちんちんも縮み上がりますよ。

(オリンピックは古代も近代アテネも選手はまだ男性に限られていました)

 

そのうえ4mという荒波を乗り越えて、戦ったのです。

マラソンではワインを飲んで、つまみにチーズまで食べながら、優雅に走ったのですから、天国と地獄、雲泥の差です。

 

一体どんな選手が泳いだのでしょうか。

競泳は4レースとも自由形とされています。

 

自由形とはなんでしょう。

平泳ぎでしょうか、背泳ぎでしょうか、バタフライでしょうか、クロールでしょうか?

 

実は、あの頃、人間の泳法は動物の犬かきに似た平泳ぎだけだったのです。

 

人間の泳ぎは動物が犬かきで泳ぐのを見習って始めたとされています。

犬かきは両手を交互に前後して、水面下で推進力を得ます。

 

平泳ぎは両手を同時に身体の側面で前後して推進力を得ます。

足はカエルのように水を挟みます。

 

昔はカエル泳ぎと言っていました。

平泳ぎは犬かきより効率的なのです。

 

平泳ぎは人間にしかできない技なのですよ。

わんちゃんやニャンコも、牛も象も皆犬かきです。

 

平泳ぎではありません。

どうしてでしょう?

 

試しに、お宅のわんちゃんの前足(人間の手にあたります)を側面に曲げてみてください。

飼い主といえども、そんなことをしたらワンコに噛みつかれますよ。

 

動物は、4本とも足であるので、前足も関節の都合上、横には動きません。

前足(手)を横に動かせるのは人間とお猿さんぐらいです。

 

だから動物は川や池や海で泳ぐとき、平泳ぎではなくて、犬かきをします。

筆者の父は、元・大阪の天王寺動物園長でしたから、その血を引いている私の見解は正しいのです。

 

ということで当時の自由形は全員が平泳ぎでした。

海がこれだけの波の高さと低温では、顔を水につけるクロールがまだなくて、顔を水につけないで泳げる平泳ぎだけだったので、選手に取っては都合がよかったのかもしれません。

 

厳しい自然の中で生活する動物が顔を水につけない犬かき専門なのにも、それだけの理由があるのです。

ところで、そんな厳しいレースを勝ち抜いたのはどこの国の選手だったのでしょうか?

 

競技には4カ国から19人の精鋭が参加して争われました。

厳しい条件の中で、100m と1200m、自由形の両方で優勝した選手が現れました。

 

地元ギリシャではなくて、ハンガリー・ブタペスト生まれ、18才のハヨーシュ・アルフレッドという選手です。

ウイキペデイアに彼のエピソードが詳しく紹介されていました。

 

アテネ水泳100m1200m優勝    ハヨーシュ・アルフレッド

 

彼が13才のときに父親がドナウ川で水に溺れて亡くなりました。

失意の彼は、水泳を覚えて一流の競技者になろうと決心します。

 

その時名前を元のアルノルトからハヨーシュに改名しますが、ハヨーシュとはハンガリー語で「船乗り」を意味します。

そしてハヨーシュは夢を実現したのです。

 

アテネで二つの金メダル(事実は銀メダル)を手に入れたハヨーシュは勝利の晩餐会で、ギリシャの王太子コンスタンティノスから・・

「君はその素晴らしい泳ぎをどこで学んだのか?」と聞かれ・・

 

「水の中でございます」と答えます。

このときから、ハヨーシュのあだ名は「ハンガリーのイルカ」となったのだそうですよ。

 

ハヨーシュはブタペストの大学で建築を学んでいましたが、大学に戻ったとき学部長は「私はあなたのメダルになんの興味も無いが、次の試験についての返答を聞きたい」と言ったそうです。

 

その言葉を弾みにしたのか、彼はパリで行われた第二回近代オリンピックの芸術競技にコンペ参加をして、スタジアムの建築プランで事実上の優勝を果たします。

 

そのあとハヨーシュがデザインした水泳競技場がブタペストに1930年に建てられ、ハヨーシュ記念競技場として、現在も大きな大会で使われています。

 

ハヨーシュは水泳と建築という二つの人生のフィールドを、見事にまとめ上げた天才なのでした。

 

マラソンの初代オリンピックチャンピオン、スピリドン・ルイスは1940年3月26日に67才でその生涯を閉じ・・

また、水泳競技の初代チャンピオン、ハヨーシュ・アルフレッドは1955年11月12日に77才で亡くなっています。

 

二人の名前とそのエピソードは、オリンピックの歴史と共に永遠に語り継がれていくことでしょう。